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自己過程としての巡礼行動の社会心理学的研究 (4)

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自己過程としての巡礼行動の社会心理学的研究 (4)

―四国八十八ヶ所遍路の調査的研究―

藤 原 武 弘

**

問 題

本研究の目的は、聖地を巡礼する空間の場の関 数としての個人の巡礼行動を自己過程の視座から 明らかにしようとするものである。巡礼とは、一 般的には、宗教上の所定の聖地を参拝して回る信 仰行事である。梶 原(1994)に よ れ ば、聖 地 と は、生者と死者を繋ぎ、人間と神霊との交流を促 す場、巡礼とは個々人の苦悩を宇宙のなかに顕在 化させ解き放つ行為である。つまり、自己の内面 性を聖地という外的世界に向けて、身体化、投影 化、具体化する行為とでも言えようか。

巡礼の形態に注目すると、わが国では、四国八 十八ヶ所遍路や西国三十三ヶ所巡礼のように、霊 場を巡礼歴訪する円運動型と伊勢参りや熊野詣の ように、特定の聖地をひたすら目指す往復運動型 の巡礼に分類ができる。世界に目を転じれば、イ スラム教、キリスト教の聖地巡礼は、往復運動型 であり、インドでは円運動型である。こうした形 態に基づく分類ではなく、心理学的な意味に注目 し、藤原(1999a)は、巡礼行動の次元として、

個人的―集団的、父性的―母性的、自己完結的―

手段的の三つの次元を提唱し、特にイベリア半島 における巡礼行動の分類を理論的に試みている。

わが国における巡礼行動の古典的な研究として は、前田(1971)が西国三十三ヶ所および四国遍 路の巡礼者を対象に質問紙調査を試み、性、年 齢、職業、宗派といったデモグラフィックな要因 の実態を明らかにしている。しかし巡礼行動の心 理学的なメカニズムについは解明されていない。

また青木(1994)は自らが御岳巡礼を体験し、巡 礼行動を個人が改めて自分というものの存在を確

認する場、つまり自己覚醒の場として把握してい る。更に彼は、自己覚醒の面だけでなく、自己に ついて話す、悩みを他者に打ち明けるという、自 己提示の側面が存在することを経験から指摘して いる。しかし青木は自己覚醒や自己提示といった 自己過程に関する概念を厳密に定義せずに、ルー ズに使っている点に問題がある。たとえば、彼が 使っている自己提示という概念は、社会心理学で は自己開示に相当するものと思われる。

本研究の目的は、四国八十八ヶ所の巡礼者に質 問紙調査を行うことで、巡礼者の自己過程の実態 的、心理的側面について明らかにする。四国八十 八ヶ所遍路は、弘法大師縁の地を巡歴する聖地巡 礼である。徳島県鳴門市にある第一番札所、霊山 寺から始まり、高知、愛媛を経て、結願所である 香川県大窪寺までの行程を巡るのである。古くか ら徳島県(阿波)は「発心の道場」、高知県(土 佐)は「修行の道場」、愛媛県(伊予)は「菩提 の道場」、香川県(讃岐)は「涅槃の道場」とい うメタファーで語られているが、これは巡礼中に 生じる自己変容の過程あるいは自我の成長過程を 象徴したものと解釈できる。巡礼とは一種の通過 儀礼であり、分離、過渡、統合といった典型的な 系列をとるというGennep(1909)の指摘とも一 致する面があるように思われる。

ところで自己過程とは社会心理学的にはどのよ うに定義されのであろうか。中村(1990)は、自己 過程を次の4位相に分類している(図1参照)。 1)自己の姿への注目の段階 自分が自分に気を

向ける段階。人が自分自身の方へ注意を向 け、自分が自分を注目の的としている状態の こ と を 自 覚 事 態(self-awareness)と い う。

たとえば、鏡を前にする状況のもとでは、自

キーワード:巡礼行動、自己過程、四国八十八ヶ所遍路

**関西学院大学社会学部教授

October

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分自身に注意が向くと同時に、行動の適切さ の基準が意識されるようになる。多くの場合 には、現実の行動はこの基準を満たし得ない ため、客体的自覚の状態にある人はその不一 致を不快に感じる。その際には、自覚状態を 引き起こす外部刺激(鏡やカメラ)を避けよ うとしたり、外部の刺激(テレビや音楽)に 注意を集中しようとしたり、注意が必然的に 外部に向けられる(身体運動など)。 2)自己の姿の把握の段階 自己の状態の特徴を

自分なりに描き、概念化する段階。自己概念

(self concept)とは、人々が自分自身につい てもっている構造化された知識のことであ る。

3)自己の姿への評価の段階 自己像に対して評 価を行う段階。自尊感情(self esteem)と は、自己概念に含まれる評価的側面で、自尊 心とも呼ばれる。

4)自己の姿の表出の段階 自己の姿を他者に示 す行動に関る段階。

自己開示(self disclosure)とは、自分自身に ついての情報を他者に伝達する行為のことであ る。自己開示の機能としては、感情の表出機能

(告白することでイライラした気分やストレスが 解消される)、自己明確化の機能(自分の意見や 感情がよりはっきりとなる)、社会的妥当化の機 能(自己開示により他者からのフィードバックが 得られ、自分の能力や意見の正しさが評価でき、

自己概念を安定することができる)、対人関係の 促進(他者から自己開示を受けた場合には、相手 に自己開示を返す傾向がある。これは返報性と呼 ばれ、二者関係が緊密なものになってゆく)、親 密感の調整(二者間の相互作用においては、対人 距離、アイ・コンタクト、話題の内面性の程度 で、親密度に関るそれぞれの次元で、接近―回避 傾向のバランスが保たれているが、開示者が開示 量や内面性を変化することで、相手との親密感を 調整する)がある(安藤,1994)。

一方、自己呈示・提示(self presentation)と は、自分にとって望ましい印象を他者に与えるた めに意図的に振る舞う行為のことである。別名で 印象操作(impression management)とも呼ばれ る。自己呈示の機能としては、1)報酬の獲得と 損失の回避(自己呈示を行うことで、地位の獲 得、他者からの援助といった報酬を得ることがで きる)、2)自尊心の高揚・維持(他者から好意 的に評価され自尊心を高揚させることができる)、 3)アイデンティティの確立(自己概念と他者か らの評価が一致しない時など、自己概念と一致し た行動をとることで、アイデンティティの確立す ることができる)の3つがある(安藤,1994)。

巡礼行動をこの自己過程のモデルに沿って考え てみよう。まず巡礼のきっかけ要因として、「自 分を見つめ直したい」、「自分とは一体何者なの か」という自覚事態がスタートである。第一番札 所の霊山寺に遍路道を歩く人たちが記帳する「徒 歩巡拝者名簿」がある。その中から無作為に選ん だ郵送式のアンケートの回答結果によると、歩き 遍路を思い立った理由として「自分や自分の生活 を見直したい」が第一位であったことも(朝日新 聞,2001年6月4日)傍証的な証拠にはなるであ ろう。次は遍路を行うという自己決断や遍路を実 際に行っていることから新たな自己概念が生じ る。つまり新たな自己概念は、「自分はお遍路さ んになった」という内面的な自己定義、そして白 装束、管笠、金剛杖、輪袈裟、数珠、鈴、頭陀袋 といった服装や所持品で外面的に定義される自己 の二つの側面がある。第三番目の過程は、「遍路 なって良かった」、「どうしてこんなに苦しい思い をしながら歩かなければならないのか」という後 悔、また特に歩き遍路の場合には、道に迷う、犬 図1 自己過程の段階的位相(中村(1990)を基に藤原が

作図)

第 90 号

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に襲われる、野宿を強いられる、雨の中での歩行 といった困難な事態を克服することによる自信や 自尊心の獲得、自己効能感の増大である。第四番 目は同じ巡礼者や地元住民とのコミュニケーショ ンや相互作用から生じる、自己開示と自己呈示で ある。とりわけ四国においては接待という慣習が 残っており、遍路は地元住民から、金銭、食べ 物、飲み物、タオルといった物質的な資源や宿泊 場所での洗濯といったサービス資源が提供され る。こうした接待を媒介とした地域住民との相互 作用が、四国における徒歩遍路に与える影響は計 り知れないように思われる。

今までに藤原(2000a,200b)は、サンチャゴ

・デ・コンポステラへの巡礼者を対象とした質問 紙調査や四国遍路体験者を対象としたケース・ス タディで、巡礼者の心理構造を明らかにしてき た。今回は質問紙調査では、実態的な変数のみな らず、自意識、宗教的態度といった心理的な変数 も測定し、それらがどのような影響を巡礼者の自 己過程に影響を及ぼすのかを解明することを目指 す。

方 法

調査対象者 香川県善通寺宿坊に宿泊した巡礼者 184名(男性57名、女性126名、不明1名)。

調査時期 1997年10月29日〜11月2日。

調査内容 巡礼の実態的側面(性、年齢、職業、

居住地、巡礼方法、信仰宗教、巡礼の日数と経 費、健 康 状 態、接 待 経 験)。巡 礼 の 心 理 的 側 面

(巡礼の動機、巡礼による身体的・心理的状態変 化尺度、宗教的態度尺度(金児,1991,1997)、 自意識尺度(菅原,1984))。

結果と考察

1 巡礼行動の実態的側面

調査対象者の平均年齢は、表1に示したように 男性64.3歳、女性62.8歳であった。

性別の内訳は図2に示されている。これによる と女性の比率が高い。

年 齢 別 で は、図3に 示 し た よ う に、60歳 代 46.4%が最も多く、70歳代24.6%、50歳代15.8%、

40歳 代6.6%、30歳 代2.7%、80歳 以 上2.7%と 続 く。

職業別の内訳は、図4に示したように、無職 44.6%、主婦12.5%、会社員10.3%、漁業9.8%、

農業9.2%、自営業7.1%、寺務員・僧 侶3.3%、

事務職・技術職3.3%である。

巡 礼 者 の 出 身 地 域 別 は、近 畿29.5%、四 国 24.6%、九 州・沖 縄14.8%、関 東11.0%、中 国 8.2%、北海道6.0%、中部5.5%であっ た(図5

参照)。

巡礼の日程は表2に示したように平均9.4日、

費用は平均206,515円であった。

巡礼回数は、一回目44.6%、二回目17.9%、三 図3 巡礼者の年齢の構成比

図2 巡礼者の性別の構成比 表1 調査対象者の平均年齢・標準偏差 性別 人数 平均年齢 標準偏差 男性 57名 64.26才 10.46才 女性 126名 62.83才 10.58才 合計 183名 63.27才 10.53才

Min=25才 Max=88才 年齢・性別不祥1名

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回目20.1%、四回以上17.4%。

図7に示したように、巡礼形態は八十八ヶ所詣 89.1%、数ヶ寺詣9.3%、一国詣1.6%で、大部分

の人が八十八ヶ所詣である。

巡 礼 の 方 法 は、団 体 バ ス73.7%、自 家 用 車 9.8%、タクシー7.7%、バスと電車5.5%、全て

徒歩の者は3.3%であった(図8参照)。

巡礼者の宿泊先は、図9に示したように、寺院 と 旅 館47.8%、寺 院 と 遍 路 宿28.8%、全 て 寺 院

7.6%、遍路宿6.0%、旅館1.6%であった。

個人的な信仰の有無については、信仰有りが 39.1%、信仰無し60.9%で、信仰の無い者の比率

が高い。

家 の 宗 教 の 内 訳 は、真 言 宗44.0%、浄 土 宗 21.7%、真宗17.4%、禅宗8.7%、日蓮宗2.7%、

天台宗2.2%であった(図11参照)。接待経験につ いては、あり62.0%、なし38.0%であった。

図7 巡礼の形態の構成比

図8 巡礼の方法の構成比 図4 巡礼者の職業の構成比

図5 巡礼者の出身地域の構成比 表2 巡礼の日程と費用の平均・標準偏差

平均 標準偏差 Min Max 日数 9.9日 6.5日 1日 0日 費用 6,5.5円 0,1.8円 12,0円 80,0円

図6 巡礼回数の構成比

第 90 号

(5)

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

0 10 20 30 40 50 60 70

2 巡礼行動の心理的側面

巡礼の動機は、図12に示したように、家内安全 60.9%、先 祖 供 養55.4%、信 仰43.5%、観 光 16.8%、鍛練15.2%、病気療養14.7%、商売繁盛 7.6%の順である。

巡礼中に感じたことの自由記述結果を頻度の多 いものからまとめると、以下のようになった。

「健康になった(12)」、「全ての事、些細な事に感 謝(8)」、「地元の人びとの温かさ(8)」、「心の 安らぎ、充実感、満足感(7)」、「大師様の偉大 さ、存 在 感(7)」、「人 々 と の 出 会 い、助 け 合 い、心 の ふ れ あ い(5)」、「あ り が た さ(4)」 等々。

更にKJ法により調査対象者の自由記述を構造 化したのが図13である。この図によると、自己省 察(7.0%)、精神性(21.8%)、身体性(19.5%)

といった自己に関わる側面がほぼ半数を占め、巡 礼行動は自己過程と密接に関わっていることが明 ら か に な っ た。ま た 接 待(10.3%)や 感 謝

(30.0%)といった、他者に関わる側面が40%を 占めているのも興味深い結果である。つまり、他 図10 個人的な信仰の有無

図9 巡礼者の宿泊先の構成比

図11 巡礼者の家の宗教

図12 巡礼の動機・目的

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接待 1 0. 3%

・地元の人々のあたたか さ、親切(8)

・友人ができた

感謝 3 0. 0%

・全ての事些細な事に感 謝(8)

・大師様の偉大さ存在感

(7)

・大師様のお導きに感謝

・ありがたさ(4)

・無事がなにより

・大自然の御声と御慈悲

・同行二人(どうぎょう ににん)

・大宇宙の生命力真理

・俗世を離れる喜び (2)

自己省察 7. 0%

・自分自身を見つめ直す

・人生観が変わった

・自分にもまだまだ体力がある

・自己の罪深さ

・自分に自信が持てた

・自分の未熟さ

精神性 2 1. 8%

・心の安らぎ、充実感、満足感(8)

・楽しい(2)

・落着く(2)

・無心、 雑念を払うことができる(2)

・気持ちがひきしまる

・心が洗われる

・おだやかさ

・気持ちが新たになる

・さわやかな気持

身体性 1 9. 5%

・健康になった(1 2)

・元気で巡礼できることに喜び

・元気になる、体が軽くなる(2)

・体と心が軽くなる

図13 「巡礼中に感じたこと」のKJ法による分類結果

・疲れた 信仰 1 1. 5%

・信仰心の芽生え(2)

・古人の信仰の深さ(2)

・宗教の良さ

・信仰の大切さ

・四国は信仰の国

・信仰により人間ができる

・悪い心がかわいそう

・夢が正夢 他 者 性

自己過程

第 90 号

(7)

者のおかげの再確認、あるいは他者性を意識する ことで自己変容が起こりうることを示唆していい るのかもしれない。

巡礼による自己変容を測定するために、巡礼を 行う前の普段の身体的・心理的状態と巡礼を行っ

ている現在の身体的・心理的状態の比較評定を巡 礼者に求めた。具体的には、表3、4に示したよ うな15の項目について、1 いつもより減少し た、2 いつもと変わらない、3 いつもより増 加した、の三つの選択肢のうちから選択を求め

因 子 ! " #

第一因子:「イラオド感」

何となくいらいらする .81 −.19 −.06

些細なことが気になる .76 −.23 −.03

頭が痛い .74 −.19 −.15

疲れて考えられない .65 −.31 .15

自分は独りぼっちだと思う .62 −.09 .31

自信が持てない .54 .23 .30

第二因子:「イキイキ感」

はつらつとした気分である −.07 .73 .11

開放感を感じる −.05 .66 −.06

生活感に張り合いがある −.21 .61 −.06 第三因子:「ナイナイ感」

食欲がない −.09 −.08 .82

よく眠れない .30 −.11 .54

気力がない .27 .23 .52

その他

胃腸の調子が悪い .30 −.43 .26

心配事がある .19 −.38 .27

毎日の疲れが取れない .08 .09 −.28

表3 身体的・心理的変化状態尺度の因子分析結果(バリマックス回転後)

因 子 減少 変化なし 増加

「イラオド感」因子

何となくイライラする 26.1 70.7 3.3

些細なことが気になる 16.8 79.3 3.8

頭が痛い 17.4 80.4 2.2

疲れて考えられない 15.2 82.1 2.7

自分は独りぼっちだと思う 20.1 75.5 4.3

自信が持てない 13.0 79.9 7.1

「イキイキ感」因子

はつらつとした気分である 3.8 55.4 40.8

開放感を感じる 3.8 63.0 33.2

生活に張り合いがある 2.2 55.4 42.4

「ナイナイ感」因子

食欲がない 10.9 75.5 13.6

よく眠れない 14.7 78.3 7.1

気力がない 12.0 67.9 20.1

「その他」

胃腸の調子が悪い 14.7 81.0 4.3

心配ごとがある 19.0 76.1 4.9

毎日の疲れが取れない 13.6 83.2 3.3

表4 巡礼者の身体的・心理的状態の変化(%)

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た。この自己の心理的・身体的状態変化尺度を因 子分析した結果、表3に示したように、「イラオ ド感」、「イキイキ感」、「ナイナイ感」の三つの因 子から構成されていることが明らかになった。更 に巡礼者の心理的状態の自己認知変化、つまり巡 礼前と巡礼中の主観的な変化割合を示したのが表 4である。この結果によると、巡礼行動は「はつ らつとした気分」、「開放感」、「生活感の張り合 い」といったイキイキ感の増大に強く寄与してい るものと考えられる。また「イライラする」、「独 りぼっちだと思う」、「頭が重い」といったイラオ ド感が減少するという影響も見られている。

表5は巡礼による身体的・心理的変化とデモグ ラフィック要因との関係を示したものである。こ の結果によると、年齢の高い巡礼者が特にイラオ ド感を増大させていたことがわかる。また、健康 状態の良い人々はイキイキ感を増大させたか、あ るいはイキイキ感を増大させた巡礼者の健康状態 が良くなる方向に働いたものと考えられる。また 接待経験のある巡礼者はナイナイ感を減少させた ことが明らかになった。

表6は身体的・心理的変化と巡礼動機との関係 を示したものである。精神療養で巡礼を行った

人々は、イキイキ感を増大させ、身体を鍛えるた めに巡礼を行った人々はイラオド感を減少させ、

また、しきたりにしたがって巡礼を行った人々は ナイナイ感を減少させたことが明らかになった。

本研究で用いた宗教的態度尺度は、「向宗教性」

と「霊 魂 観 念」(金 児,1991,1997)、自 意 識 は

「私的自意識」と「公的自意識」(菅原,1984)の 二因子から構成されていることが従来の研究で明 らかにされている。確認のために因子分析を行っ てみると、表7、8に示したように、両尺度は基 本的には二因子構造であることが明らかになっ た。一部の項目で違いが見られたが、本研究では この因子分析結果に基づき、簡便平均因子得点を 算出した。

巡礼による自己状態変化尺度と宗教的態度、自 意識との間の相関係数を示したのが表9である。

宗教的態度では霊魂観念の因子と有意な正の相関 が得られている。死後の世界の存在や輪廻思想を 信仰している人々がイキイキ感を増大させている ものと推測される。自意識では、公的自意識とイ キイキ感の間に有意な正の相関が得られている。

公的な自意識の強い人々は、巡礼行動でイキイキ 感を強く抱く方向に作用するようである。一方、

表5 巡礼による身体的・心理的変化とデモグラフィック要因との相関関係

イラオド感 イキイキ感 ナイナイ感

年齢 .232** −.094 .060

性 −.123 −.117 .032

巡礼回数 −.007 .054 .055

個人的信仰の有無 −.127 −.039 .002 接待の有無 .092 −.125 −.170*

健康状態 .096 .186* −.019

*p<.05 **p<.01

イラオド感 イキイキ感 ナイナイ感

信仰 −.016 .144 .139

観光 −.050 −.073 .027

精神療養 −.114 .185* −.027

病気 −.022 −.048 .048

商売繁盛 −.033 .087 −.028

家内安全 −.108 .006 .109

先祖の供養 −.075 −.042 .069

体をきたえる −.176* .140 .116

しきたり .008 .023 −.181*

表6 巡礼による身体的・心理的変化と巡礼動機との相関関係

*p<.05

第 90 号

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私的自意識はイラオド感と有意な負の相関、ナイ ナイ感と正の有意な相関が得られている。私的自 意識の得点の高い人々は、イラオド感を減少させ る一方で、ナイナイ感を増大させている。

表7 宗教的態度尺度の因子分析結果(バリマックス回転後)

表8 自意識尺度の因子分析結果(バリマックス回転後)

因 子 ! "

第一因子:「向宗教性」

信仰によって人生の目標が与えられる .84 .19

信仰による生き方こそ真の生き方である .82 .18

科学が進んでも幸せになれない .79 .23

死に直面しても安らぎの気持ちを持つ .70 .30

良い生活には信仰が必要 .62 .42

宗教に自己の存在の意味を教えられる .61 .41

無宗教でも幸せな生活を送れる −.41 .21

第二因子:「霊魂観念」

死後の世界はあると思う .05 .84

人は死んでも生まれ変わる .20 .82

その他

信心により願い事がかなう .42 .49

因 子 ! "

第一因子:「私的自意識」

自分の心の動きを敏感に感じとる .77 .05

自分がどのような人間か自覚しようとする .74 .03

自分を見つめる目を大切にしている .70 .04

自分の気持ちの変化に敏感である .65 .41

決心する時は自分の気持ちをじっくり考える .54 .10 第二因子:「公的自意識」

容姿がどう映っているかよく気になる .05 .87

何かするとき人が気になる .20 .76

人からの評価を考えながら行動する .15 .72

自分のことをどう思っているか気になる .05 .65 自分の発言がどう受けとめられたか気になる .44 .30

表9 巡礼による身体的・心理的変化と宗教的態度,自意識との間の相関関係 巡礼による身体的・心理的変化

イラオド感 イキイキ感 ナイナイ感

宗教的態度

向宗教性 .023 .123 .096

霊魂観念 −.069 .168* .072

自意識

私的自意識 −.168* .046 .190**

公的自意識 −.076 .269** .106

*p<.05 **p<.01

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3 最適尺度法によるパターン分析

巡礼者の行動を多次元的に分類するために最適 尺 度 法 に よ る 分 析 が 行 わ れ た(計 算 はSPSSの Categoriesを使用)。何 故 な ら、Frey(1998)は、

巡 礼 者 を 徒 歩 巡 礼 者 と 自 転 車 巡 礼 者、坂 田

(1999)は遍路主体を徒歩遍路と自動車遍路の二 種類に分類し、両者の相違点について言及してい るからである。まず、巡礼行動の実態的側面の構 造を明らかにするためにインプットした変数は、

デモグラフィッツク変数である。図14に示したよ うに、第一次元を判別している主要な変数は、巡 礼日数、巡礼の費用、巡礼者の居住地域である。

正の方向に高いウエイト・ベクトルを示している カテゴリ−は、巡礼日数が5日以内、費用が10万 円以下、居住地域が中国や四国で、比較的近場か ら来た巡礼者を意味する軸である。負の方向に効 いているカテゴリーは、巡礼日数が14日以上、巡 礼費用が25万円以上、東北、北海道といった変数 で、遠距離からの巡礼者を意味する軸である。第 二次元は、年齢と職業、巡礼手段を判別している 軸である。プラスの方向に高いウエイト・ベクト ルを示すカテゴリーは、49歳以下、事務職・技術 職、自家用利用者、徒歩遍路で、マイナス方向に は農業、70歳以上、タクシー利用である。

デモグラフィック変数に巡礼による身体的・心 理的状態変化尺度を加えての最適尺度法による分 析結果は、図15に示されている。この結果を見る と、析出された軸の正負の方向に違いが見られる が、その意味は図15の結果と基本的には同じであ る。すなわち、第一次元が巡礼の時間的な長さ、

第二次元が巡礼者の職業と年齢を弁別している軸 である。巡礼のプラスの効果が示されている象限 は第三象限で、イキイキ感増大、ナイナイ感減 少、イラオド感減少といった変数が位置してい る。これらの結果から明らかなのは、巡礼行動の 結果プラスの効果を報告している巡礼者は以下の ような人々である。年齢は49歳までで、職業は事 務職・技術職、僧侶、自営業、自家用車、バスと 電車を利用して巡礼している、関東から来ている 巡礼者たちである。逆に第四象限に位置している 人々はイラオド感を増大させている。すなわち、

巡礼日数14日以上、巡礼費用25万円以 上、北 海 道、東北、近畿、中部からの巡礼者で、交通手段

としてタクシーを利用している人々である。恐ら く長期の旅の疲れが反映しているのかもしれな い。

巡礼の動機、宗教的態度、公的自意識、私的自 意識、信仰の有無、健康状態、それに身体的・心 理的状態変化といった、心理的な変数をインプッ トして最適尺度法を行った結果は図16に示されて いる。巡礼のプラスの効果に関わる変数群が第二 象限に位置している。イキイキ感増大、イラオド 感減少、ナイナイ感減少、健康良好といった変数 が再び近くに位置している。公的自意識ならびに 私的自意識の高得点、精神療養という巡礼動機と いう変数も近いところに位置している。巡礼を始 めた動機が精神療養で、私的自意識ならびに公的 自意識が強い人々は、巡礼からポジティブな成果 を得ているものと推測される。また霊魂観念高得 点、向宗教性高得点も同じ象限に位置しているこ とから、こうした特性を持つ人々もプラスの自己 報告をしていることがわかる。それに対して、ナ イナイ感増加とイラオド感増加といった、マイナ ス効果変数は第三象限に位置している。興味深い ことに、信仰のある人々、信仰、商売繁盛、先祖 供養、家内安全といった動機で巡礼を始めた人々 は、健康状態が不良で、ネガティブな巡礼効果を 示している。

以上自己過程に含まれる変数のうち、自覚事態 を反映している自意識の強弱、ならびに宗教的態 度が巡礼行動の効果を媒介しているという知見は 興味深いように思われる。

引用文献

安藤 清志 1990「自己の姿の表出」の段階 中村陽 吉編「自己過程」の社会心理学 pp.143−198 東 京大学出版会

安藤 清志 1994 見せる自分!見せない自分 自己 呈示の社会心理学 サイエンス社

Frey,N. L.1998 Pilgrim Stories: On and Off the Road to Santiago. University of California Press.

藤原 武弘 1998 自己過程としての巡礼行動の社会 心理学的研究(1),中国四国心理学会論文集,第 31巻,99.

藤原 武弘 1999a 自己過程としての巡礼行動の社会 心理学的研究(1),関西学院大学社会学部紀要,

第 90 号

(11)

図14 最適尺度法による巡礼行動のパターン分析

October

(12)

図15 最適尺度法による巡礼行動のパターン分析

第 90 号

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図16 最適尺度法による巡礼行動のパターン分析

October

(14)

第82号,157−169.

藤原 武弘 1999b 自己過程としての巡礼行動の社会 心理学的研究(2),日本心理学会第63回大会論文 集,71.

藤原 武弘 2000a 自己過程としての巡礼行動の社会 心理学的研究(2),関西学院大学社会学部紀要,

第85号,109−115.

藤原 武弘 2000b 自己過程としての巡礼行動の社会 心理学的研究(3),関西学院大学社会学部紀要,

第88号,23−31.

藤原武弘 2000c 巡礼行動の比較文化心理学的研究,

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Gennep,A. V.1909 Les rites de passage. Emile Nourry.

綾部恒雄・綾部裕子訳 1995 通過儀礼 弘文社 梶原景昭 1994 解説 青木 保 御嶽巡礼 講談社

学術文庫

金児 暁嗣 1991 現代における非合理性の復権と家 族の宗教観 教学研究所紀要,1号,1−27.

金児 暁嗣 1997 現代人の宗教性 新曜社 前田 卓 1971 巡礼の社会学 ミネルヴァ書房 中村 陽吉 1990「自己過程」の社会心理学 東京大

学出版会

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46.

菅原 健介 1984 自意識尺度(self-consciousness scale)

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付記1:本研究は、平成9・10年度文部省科学研究費 補助金(萌芽的研究課題番号09871031代表者 藤原武弘)の助成によるものである。

付記2:本研究の資料は、藤原武弘指導のもとに作成 された次の卒業論文から得ている。記して感 謝の意を表する。川合健彦 「四国八十八ヶ 所巡礼者の実態と意識調査」 関西学院大学 社会学部1988年度卒業論文

第 90 号

(15)

A Social Psychological Study of Pilgrimage Behavior as Self Process (4)

ABSTRACT

This study aims to describe and analyze the pilgrim’s behavior from the point of view of self process. Interview subjects were 184 pilgrims who were visiting the 88 sacred places of Shikoku. The optimal scaling of pilgrim’s demographic variables indicated two dimensional factors involved in the process of pilgrimage behavior; temporal duration i.e. long vs. short pilgrimage and age,occupation and mode of travel variables. The positive effect of pil- grimage behavior on physical and psychological state was observed for pilgrims with high self-consciousness and high religious attitude.

Key Words:pilgrimage behavior,self process,the 88 sacred places of Shikoku

October

参照

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