平成二十四年度
特定の課題についての学修の成果
物語文で叙述を根拠に自分の考えを述べる 小学校国語科授業の構想と実践・評価
一PISA型読解力のプロセスを手がかりとして一
兵庫教育大学大学院
学校教育研究科
教育実践高度化専攻
授業実践リーダーコース
PllO30C
並河 智之
目 次
1 研究の背景及び目的
1.1叙述を根拠に自分の考えを述べる指導が求められる背景 1.1.1 叙述を根拠に読む指導の必要性
1,1.2 自分の考えを持つ指導の必要性 1.1.3 自分の考えを述べる指導の必要性
1.1.4 PISA2009年調査結果で明らかになった課題
1.1.5 全国学力・学習状況調査の4年間の調査結果で明らかになった課、題 1.2 叙述を根拠に自分の考えを述べる指導の手がかり一PISA型読解力に着目して一 1.3 研究の目的
1.4 研究の計画 ……・………・………・……・……・……・………
1
13456789
2 研究の内容
2.1PISA型読解力の基礎知識 ・10
2.1.1PISA型読解力の定義 ・10
2.1.2 PISA型読解力の側面 .12
2.1.3 各側面における読みの行為一PISA調査問題分析に基づく分類から一 ・13 2.1.4 従来型の「読解力」とPISA型「読解力」のちがい ・16
2.1.5PISA型読解力に対する識者の反応 ・……・…………・・…・………・…・・… ・16
2.2 PISA型読解力を基盤に指導をすることの5つのメリット ・・18
2.2.1 明確な指導内容 .18
2.2.2明確なプロセス .1g 2,2.3 実生活につながるリテラシー ・………・…・……・………・・………・・… ・19
2.2,4 測定可能な読解力 ・20
2.2.5 平成20年版学習指導要領との方向性の一致 ・21
2.3 PISA型読解力と平成20年版学習指導要領との関係性 ・21
2.3.1PISA型読解力と一致する指導事項の整理 ・・21
2.3.2 PISA型読解力と一致しない指導事項の整理 ・24
2.4 指導の手がかりとなるPISA型読解力のプロセスの整理 ・26
2.4.1PISA型読解力のプロセスの整理から導かれた本研究の指導内容 ・26 2.4.2PISA型読解力のプロセスを身につけさせるための2つの指導のポイント ・29
3 授業の構想
3.1手立てi:叙述を根拠に自分の考えを述べる有用性を理解させること 3.1.1先行研究から得られた知見 ……一………・…・………・……・………
3.1。2 自分の考えを述べる「ワザ」の明確化
3,1.3 叙述を根拠に自分の考えを述べる有用性を理解させるための指導過程 3.1.4 叙述を根拠に自分の考えを述べる有用性を理解させるための授業構想 3.2手立てli:読むための目的意識を持たせること
3.2.1 単元を貫く言語活動の位置づけ 3.2.2 単元を貫く言語活動とは 3.2.3 単元を貫く言語活動の意義
3.2.4 読むための目的意識を持たせるための言語活動例の分析 3.3手立てiii:「ワザ」の提示と振り返りの場を設定すること
3.3.1先行研究から得られた知見 …・……・…
234567三︑12牛12345孝12ズ 33333︒3 44 55︒555 aa a33・3・33 43・3・﹄33・333謁337 3 3 3
a
「ワザ」指導の先行研究
「物語を読むためのワザ」の項目の作成(内容面)
「物語を読むためのワザ」の項目の作成(形式面)
「物語を読むワザ」の振り返り 「自分の考えを述べるワザ」の項目 「物語を読むワザ」の提示の方法について 手立てiv 「伝え合い」の場を繰り返し設けること 3つの対話的実践
「伝え合い」を組み込んだ学習過程
物語の構造やテーマを捉えさせる指導について ・・………・…
物語スキーマと物語文法
物語文法を基盤とした指導(1)一ストーリ・・一一一マップ①・基礎知識編一
物語文法を基盤とした指導(1)一ストーリーマップ②・実践編一 物語文法を基盤とした指導(n:)一テーマ指導①・背景編一
物語文法を基盤とした指導(ll)一テーマ指導②・実践編一 ………
教材分析 ・………・…………・…・…………・…・・…・………・…・・
先行研究の整理 ………・…・……・・…・………・・……・…
教材分析表の作成
本研究における指導の構想の整理及び実践の大まかな構想
22456990135578234555789145800233333333444444455555555566667777
4.プロジェクト実習実践の実際及び考察
4.1児童の実態 ・75
4.2 単元の構想 ・・78
4.3 授業の展開及び学習評価と指導評価 ・84
4.3.1 プレ単元「あいさつ」の学習の展開及び学習評価と指導評価 ・84
4.3.2 プレ単元「あいさつ」の学習の指導評価 一87 4.3.3 「ばらの谷」の学習の展開(第二次第1時)と学習評価 ・91
4.3.4 「ばらの谷」の学習の展開(第二次第2時)と学習評価 一95 4.・3.5 「ばらの谷」の学習の展開(第二次第3時)と学習評価 ・・98
4.3.6 「ばらの谷」の学習の展開(第二次第4時)と学習評価 ・・101
4.3.7学習者に見られた個々の読みの変容 ・103
4,3.8 「ばらの谷」の指導評価 一第二次第4時に代表される指導上の課題一 ・105 4.3.9 指導上の改善策 一「読みの焦点化」を取り入れた授業の構想一 ・109
4.4 「叙述を根拠に自分の考えを述べること」についての考察 ・115
4.4.1 「述べ方のワザ」定着の要因の分析 ●115
4.4.2 児童の最終成果物(ブックレポート) ・126
4.4.3 「述べ方のワザ」が定着する可能性 ・128
4.4.4 児童の「自分の意見に対する自信」の変容の有意差分析 ・129
4.4.5 読解力測定テスト(事後調査)の結果分析と考察 ・130
4.4.6児童の単元後の振り返りの記述分析 ・136
4.5 プロジェクト実習まとめ ・・………・…・…………・ ・137
5.改善実習実践の実際及び考察
5.1 単元の構想 ・1405.2 第一次の授業の展開及び学習評価と指導評価 ・148
5.2.1 第1時の授業の展開と授業評価 ・148
5.2.2 第1時(後半)の授業の展開と授業評価 ・150
5.2.3 第2時の学習評価 一初発の感想段階の児童の読み一 ・154
5.3 第二次の授業の展開及び学習評価と指導評価 ……・・…………・…・・…… ・・156
5.3.1 概要 一「単元を貫く言語活動」「伝え合い」を含んだ学習活動サイクルー ・156
5.3.2 第3時・第4時の学習の展開と授業評価くミニブックレポート1> ・159
5.3.3 第5時・第6時の学習の展開と授業評価くミニブックレポート2> ……168
5.3,4 第7時・第8時の学習の展開と授業評価くミニブックレポート3> ・180
5.3.5第10時・第11時の学習の展開と授業評価〈ミニブックレポート4>
5.3.6 叙述を根拠にして物語の中心的なテーマを捉えさせる(第12時)
5.4 「自分の考えを述べること」についての考察 5.4.1 ワザ表の有効性の検証
5.4.2 目的意識を持たせたことの有効性の検証 5。4.3伝え合いの有効性の検証
5.5児童の最終成果物(ブックレポート)
5.6 改善実習まとめ
・186
・189
・195
・195
・198
・199
・200
・・Q04
6.結論 …・
・207参考・引用文献
・・Q09謝辞
巻末資料
Ll叙述を根拠に自分の考えを述べる指導が求められる背景
1 研究の背景及び目的
1.1 叙述を根拠に自分の考えを述べる指導が求められる背景 1.1.1 叙述を根拠に読む指導の必要性
本研究の背景として,まず,「叙述を根拠に読む」指導がなぜ必要かについて考察を行
う。
文章を読むこととは,知識を使って文字が示す「語」と「文」の間の内容をつなぎなが ら理解する「ボトムアップ処理」と,文字で書かれていないことを推論しながら文章が表 そうとしている意味の世界を作り上げていく「トップダウン処理」がかみ合うことによっ てなされるD。文学的文章においてもそれは同じで,「読み手が積極的な推論によってテ キストの情報と自らの既有知識を統合させ,能動的に解釈を作り上げる」2)という過程を 踏む。ただし,文学的文章を読む際は,説明的文章と違い,「あらすじを読み取ることを 超えたより深い読みや登場人物への共感,読むおもしろさといった読解にまつわる情動」3)
も重要な要因とされている。それでは,国語科教育において,文学作品を読むことについ てどのような指導がなされてきたのであろうか。
戦後,日本の国語教育界では,文学的文章の読解とは「己をむなしくして自己を対象に 合致させ,そこに宿る精神を己のものとする」 1)と考えられてきた。ここでは,作品は絶 対的な存在であり,読むことは作品の自分を融合させていくことであった。しかし,こう
した指導方針は,必ずしも学習者を重視したものとは言えなかった。
教師自身の解釈を唯一の正解の読みとするような授業が広く行われていることを批判 し,読者の主体性を重視する「読者論」が,最初は教材研究理論として,その後は指導理 論として日本に広まるようになった5)。読者論は,「教師の読みを絶対的なものとし,児 童生徒の読みを教師の捉えた主題の枠にはめこんでいく解釈学的な指導からの脱却」6)を ねらい,「教材本文から逸脱しない限り,どのような〈読み〉も許容される。」7)と主張した。
一方で,「このナンデモアリは,(中略,並河)〈エセ読みのアナーキー〉を野放しにした」8)
という批判も浴びることとなり,1990年代になって,叙述の仕掛けの範囲内で読みを読者 に委ねるイーザーの「受容理論」が日本に広がり始めた。
1)秋田喜代美『読む心・書く心』,北大路書房,2002年,p.23
2)大村彰道監修,秋田喜代美・久野雅樹編集『文章理解の心理学 認知,発達,教育の広がりの中で』,北大 路書房,2001年,p.190
3)同上書2),p。190
4)田近洵一「国語教育における読書行為論の課題」全国大学国語教育学会発表要旨集99,2000年,p.209 5)竹長吉正『読者論による国語教材研究』,明治図書,1995年,p.22
6)同上書4)
7)同上書4)
8)同上書4)
Ll叙述を根拠に自分の考えを述べる指導が求められる背景
イーザーの受容理論では,テキストには仕掛けがあるとし,その範囲内で読者に読みを 任せている。イーザーは,読書はテキストに導かれる行為であり,この行為を通して,読 者によるテキストへのかかわりが,かかわりを行う読者にフィードバック効果を及ぼすと した。つまり,読書とは「作品構造とその受容者との相互作用」9 )なのである。この中で はテキストと作品とは区別され,作者によって作られるテキストを芸術的な極,読者が読 むことによって成し遂げる具体化を美的な極として,この二つの極を持ったものを「文学 作品」と位置づけた。
イーザーは,旧来の解釈は「読者にテクストの意味と目されるものを教授する立場をと っていた」10)ために「読者の経験を無視する傾向」:1)があり,「テクスト外に準拠枠をと る意味は,もはや美的性質を持つとは言えない」L2)と指摘した。イーザーにとっての解釈 とは,「テクストの意味の解明[限定]にあるのではなく,テクストが内包する意味の可能 性を明らかにする」13>のでなければならない。つまり,読書によって読者のものの見方に 結び付いた意味が付与され,意味の分岐が即ち解釈の別れとなるのである。旧来の解釈は,
読者の意味の分岐の自由を制限するのに対し,イーザーの理想とする読者は「テクストの ありとあらゆる具体化の可能性を当てはめて考えられる」M)読者である。
イーザーの指すテキストの仕掛けとは,「空所」と「否定」で説明される。「空所」と は,特定の省略の形をとってテキスト内に意図的につくられた飛び地のことである。読書 によって読者は「空所」を埋めていき,文脈が形成されるが,その一貫性は強化されたり,
阻止されたりする。一貫性の形成が強化された場合,読者は既成の自己の認識をより確か なものにしていくが,阻止された場合,読者はそれらを見つめ直し,これまでにない一貫 性の形成をめざして新たな文脈を形成する。これを「否定」と呼ぶ。この繰り返しにより,
筋や主題が再構築されていくのである。
読者論が我が国で広がりを見せると,「ことばを手がかりに,虚像としての作品世界が 個の内に形成された時,初めて〈読み〉は成立する」15)(田近,1993),「読者は作者の表現 を手がかりにイメ・一一一一ジをかたちづくっていく。そして,そこに何らかの意味を見出して感 動する」16)(浜本,1996),「『事象を叙述に即して正確に捉える読み』を土台としつつ,『関 係づけ・イメージ化・意味発見の読み』を教師自ら行う必要がある」(竹長,1995)t7)な
9)W・イーザー著・轡田旧訳『行為としての読書』,岩波現代選書,1982年,p.33 10)同上書9),p.37
11)同上書9),p. 37 12>同上書9),p.37 13)同上書9),p.37 14)同上書9),p. 46
15)田近洵一『読み手を育てる 一読者論から読書行為論へ一』,明治図書1993年,p.33 16)浜本純逸『文学を学ぶ 文学で学ぶ』,東洋館出版社,1996年,p.14
17)前掲書5),P.44
1,1叙述を根拠に自分の考えを述べる指導が求められる背景
ど,物語文で叙述を手がかりにして読むことを重視する指導の必要性について,多くの研 究者が指摘するようになった。
こうした物語文指導の歴史や文学理論,文学指導理論は,テキストから離れた教師の読 みを押しつけるのではなく,何でもありの読みを許容するのではなく,テキストの仕掛け に沿うことによる「相互作用」を起こしながら読ませる指導,即ち,叙述に根拠を求めな がら物語文を読ませる指導の必要性を示唆していると言える。
1.1.2回分の考えを持つ指導の必要性
続いて,読むこと領域における「自分の考えを持つ」指導の必要性について考察する。
平成10年版学習指導要領国語「C読むこと」指導事項では,文章を読んで自分の考えを 持たせる指導に関する記述に以下のようなものが認められる。
[平成10年版学習指導要領国語より「自分の考えを持つ」指導に関する記述一覧]
・読み取った内容について自分の考えをまとめ,一人一人の感じ方について違いのあることに 気付くこと。(C読むこと[第3学年・第4学年]指導事項工)
・書かれている内容について事象と感想,意見の関係を押さえ,自分の考えを明確にしながら 読むこと。(C読むこと[第5学年・第6学年]指導:事項工)
・文章を読んで人間、社会、自然などについて考え、自分の意見をもつこと。(C読むこと[第2 学年及び第3学年]指導事項工) (下線は引用者による)
これが,PISA型読解力(Reading Literacy)18)を重視する方向性が打ち出された平成20 年版学習指導要領になると,以下のように頻繁に登場するようになった。
[平成20年版学習指導要領 国語より「自分の考えを持つ」指導に関する記述一覧]
・文章の内容と自分の経験とを結び付けて,自分の思いや考えをまとめ,発表し合うこと。(C 読むこと[第1学年・第2学年]指導事項オ)
・目的に応じて,文章の内容を的確に押さえて要旨をとらえたり,事実と感想,意見などとの 関係を押さえ,自分の考えを明確にしながら読んだりすること。(C読むこと[第5学年・第6学 年]指導事項ウ)
・登場人物の相互関係や心情,場面についての描写を捉え,優れた叙述について自分の考えを まとめること。(C読むこと[第5学年・第6学年]指導事項ウ)
18) 「PISA型読解力」とは3年に1回行われるOECD(Organization for Economic Co。peration and Development 経済協力開発機構)による国際的な学力調査であるPISA調査(Programme for International Student Assessment 生徒の学習到達度調査)において定義された読解力リテラシーの目本における呼称である。
1.1叙述を根拠に自分の考えを述べる指導が求められる背景
・文章の構成や展開,表現の特徴について,自分の考えをもっこと。(C読むこと[第1学年]指導 事項工)
・文章の構成や展開,表現の仕方について,根拠を明確にして自分の考えをまとめること。(C
読むこと[第2学年]指導:事項ウ)
・多様な方法で選んだ本や文章などから適切な情報を得て,自分の考えをまとめること。(C読 むこと[第2学年]指導事項オ)
・文章を読んで人間,社会,自然などについて考え,自分の意見をもっこと。(C読むこと[第3 学年]指導事項工)
・目的に応じて本や文章などを読み,知識を広げたり,自分の考えを深めたりすること。(C読 むこと[第3学年]指導事項オ) (下線は引用者による)
これらの記述を詳しく読むと,「文章の内容と自分の経験とを結び付けて」と,考え方 の方法を示しているものや,「登場人物の相互関係や心情,場面についての描写を捉え,
優れた叙述について」と,考える内容を示しているもの,「文章の構成や展開,表現の仕 方について,根拠を明確にして」と,その両方を示しているものなど,文脈の中で若干の 違いが見られる。しかし,叙述に即しながら文章に対する自分の考えを持つ,という視点 は全ての指導事項に共通している。文章に対して自分の考えを持つことは学年にかかわら ず示されていることから,叙述に即しながら自分の考えを持たせる指導は,平成20年版学 習指導要領の中で重要な位置を占めていると言える。
1.1.3 自分の考えを述べる指導の必要性
次に,読むこと領域における「自分の考えを述べる」指導の必要性について考察する。
平成10年版学習指導要領国語「C読むこと」指導事項の中には,自分の考え述べる指導 に関する記述は,小学校,中学校ともに一つも認められなかった。ところが,平成20年版 学習指導要領になると,以下のように小学校で登場するようになる。
・文章の内容と自分の経験とを結び付けて,自分の思いや考えをまとめ,発表し合うこと。(C 読むこと[第1学年・第2学年]指導事項オ)
・文章を読んで考えたことを発表し合い,一人一人の感じ方について違いのあることに気付く こと。(C読むこと[第3学年・第4学年]指導事項オ)
・本や文章を読んで考えたことを発表し合い,自分の考えを広げたり深めたりすること。(C読 むこと[第5学年・第6学年]指導事項オ)
これは,前項と同様,平成20年版学習指導要領が,PISA型読解力を重視する方向性を持 っていることが影響していると思われる。つまり,読む能力の中に,文章を読んで解釈し
L1叙述を根拠に自分の考えを述べる指導が求められる背景
たり評価したりしたことを,表現することまでを含めるという方向性があることが確認で
きる。
また,中教審答申(文部科学省,2008)の国語科の改善の具体的事項において,「日常 生活に必要とされる対話,記録,報告,要約,説明,感想などの言語活動を行う能力を確 実に身につけることができるよう,継続的に指導する」19)ことが示された。このことも,
話すことや書くことを通して,自分の考えを目的に応じて表現する指導の必要性を示して
いる。
ところが,後述するPISA調査結果(1.1.4)からも分かるように,我が国の生徒は文章 に対して自分の考えを述べる自由記述形式の問題を苦手としていることが明らかになって いる。この原因として,鶴田(2010)は,「考えたことを記述できないということである。
自分の考えは持っているにもかかわらず,それをうまく表現することができないという問 題である」20)と指摘し,考えたことを表現する指導の必要性を示した。また,小森(2007)
は,「読む能力は重層的で,潜在的な一次の読む能力を中核として,その読みを顕在化す る二次の書く能力,話す・聞く能力とに支えられている」2Dと述べ,読む能力は書く能力 などに支えられて機能するという見解を示した。これらの知見は,国語科の読むこと領域 の指導において,読み取るだけでなく,読み取ったことをいかに表現するかということま で指導する必要性を示唆している。つまり,
以上のことは,国語科において,自分の考えを持つだけでなく,それを述べる指導,言 わば,読むことと書くことを一体化した指導が求められていることを示している。
19)文部科学省「中央教育審議会『幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の 改善について(答申)』」,2008年,p.75
20)鶴田清司『対話・批評・活用の力を育てる国語の授業 一PISA型読解力を超えて一』,明治図書,2010年,
p.153
21)小森茂「PISA型読解力に応じる国語科の課題 国語科「読解力」の構造について」,教育科学国語教育686 号,2007年,p.17
1.1 叙述を根拠に自分の考えを述べる指導が求められる背景
1.1.4PISA2009年調査結果で明らかになった課題
PISA調査や結果全国学力・学習状況調査か ら,日本の生徒は,文章に対する自分の考えを 叙述を根拠にしながら述べることに課題がある
ことが分かっている。
PISA2009年調査結果22)(図1−1・図1−2・図1−3)
からは,日本の生徒が「熟考・評価」側面や「自 由記述形式」,「物語」タイプの設問ではOECD平 均に比べて無答率が極めて高く,苦手としてい ることがうかがえた。(巻末資料1参照)
この中で特に苦手とされていたことは,「文 章に対する自分の考えを述べること(「熟考・評 価」側面の設問)」や「文章について考えたこと を,根拠となる叙述を示したり,なぜそう思っ たかの理由を明確にしながら述べること(「自由 記述形式」の設問)」,さらに,「文章の形式的特 徴と叙述を関連づけること(「物語」タイプの設 問)」であった。
平成20年版学習指導要領がPISA型読解力の影 響を受け,特に熟考・評価を重視していること からも,こうした課題を克服する指導が必要で
あると言える。
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図1−1PISA2009年調査における側面別平均無答 率の経年変化。「熟考・評価」がOECD平均 に比べて7.9%高い。
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図1−2 同出題形式別平均無答率の経年変化。「自 由記述」がOECD平均に比べて8.4%高い。
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図1−3 同テキストタイプ別平均無答率の経年変 化。「物語」がOECD平均に比べて5.9%高 い。
22)国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査PISA2009年調査分析資料集」,2010年, p.35, p.37, p.
41
1.2 叙述を根拠に自分の考えを述べる指導の手がかり一PISA型読解力に着目して一
1.1.5 全国学力・学習状況調査の4年間の調査結果で明らかになった課題
また,全国学力・学習状況調査の4年間の調査結果から課題23)として考えられる内容と して,読むこと領域では「物語の登場する人物についての描写や心情,人物相互の関係を とらえること」と「目的に応じて必要となる情報を取り出し,それらを関係づけて読むこ と」が挙げられた2「t)。このうち後者については,学習指導のポイントとして「自ら本や文 章を選び,表現に着目しながら必要な部分を繰り返し読んだり,優れた叙述について考え たりしたことを伝え合うなどの言語活動を単元を貫いて指導することが重要である」25)こ
とが指摘された。
物語文を読むことにおいて,目的に応じて必要となる叙述を取り出すことや,物語の内 容と叙述との関係づけて読もうとすることに課題があることが明らかとなった。イーザー の言葉を借りれば,物語文の「仕掛け」に沿って読むことに課題があると言えよう。
1.2 叙述を根拠に自分の考えを述べる指導の手がかり一PISA型読解力に着目して一
ここまで述べてきたことから,次のような課題が浮き彫りとなった。
物語文の指導において,叙述に根拠を求めながら読み,形成した自分の考えを根拠を 明らかにしながら述べる指導が必要とされている。しかし,学力調査等の結果より,
我が国の児童や生徒はt文章に対する自分の考えを根拠を明らかにしながら述べるこ とや,目的に応じて必要となる情報を取り出し,それらを関係づけて読むことに課題 があることが明らかとなった。
学習指導要領改訂の方向性からも,これらの課題を克服するための指導の充実が,我が 国の国語科教育における喫緊の課題であると言える。そこで注目したのが,PISA型読解力 である。経済協力開発機構(OECD)は,「知識基盤社会」26)の時代を担う子どもたちに
23)2009年から2012年の4年間の調査において,同じような趣旨の下に複数年度にわたって出題し,正答率が 概ね70%を下回るものが課題とされた。
24)国立政策研究所教育課程研究センター『全国学力・学習状況調査の4年間の調査結果から今後の取組が期 待される内容のまとめ〜児童生徒への学習指導の改善・充実に向けて〜』,教育出版,2012年,p.3
25)同上書24),p.11
26) 「知識基盤社:会」とは,「新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での 活動の基盤として飛躍的に重要性を増す時代」を指す(文部科学省「中教審答申」,2008年,p.8より)
1.2叙述を根拠に自分の考えを述べる指導の手がかり一PISA型読解力に着目して一
必要な能力を「キーコンビチンシー」27)として定義づけ,PISA調査(生徒の学習到達度 調査)などの国際学力調査によって国際比較を行っている。PISA型読解力とは, PISA調 査の読解力分野において定義された「自らの目標を達成し,自らの知識と可能性を発達さ せ,効果的に社会に参加するために,書かれたテキストを理解し,利用し,熟考し,これ に取り組む能力」28)を指す。この「書かれたテキストを理解し,利用し,熟考」するプロ セスは「情報の取り出し」「統合・解釈」「熟考・評価」の3つの側面(Aspect)から 成るが,とりわけ,情報を受容的に理解するだけでなくテキストについての自分の意 見や評価を述べる「統合・解釈」や「熟考・評価」は,我が国の生徒における課題と して平成20年版学習指導要領改訂にも大きく影響を与えており,近年の我が国の教育現 場において強く注目されている。
PISA型読解力で注目すべきは,必ずテキスト内の 叙述を根拠にするという,PISA型読解力のプロセス の特性である。PISA型読解力の3つの側面は互いに関 連し合っており(図1−4),「情報の取り出し」が必 ず「統合・解釈」や「熟考・評価」の起点となって いる。つまり,PISA型読解力のプロセスではまずテ キストの中に情報を求めるようになっているので,P ISA型読解力のプロセスに沿って読むことは必ずテキ
鍔讐《絶 取胤 @轡
熱考呪・詳媛
統舎・解釈
頚
図1−4 PISA型読解力の3側面の関係
スト内の叙述を根拠にして読むことにつながる29)。このことは,叙述を手がかりにして物 語を読み解き,叙述を根拠にして自分の考えを述べる指導と大いに関係があるため,本研 究の手がかりになると考えた。
なお,PISA調査の詳しい内容については巻末資料皿に掲載した。
27) 「キ■・一一一コンビチンシー(主要能力)」とは,「①社会・文化的,技術的ツールを相互作用的に活用する九 ②多様な社会グループにおける人間関係形成能力,③自立的に行動する能力」の3つのカテゴリーで構成 された能力を指す。(ドミニク・S・ライチェン ローラ・H・サルガニク編著 立田慶裕監訳『キー・コ ンピテンシー 国際標準の学力を目指して』,明石書店,2006年)詳細は巻末資料∬に掲載した。
28)国立教育政策研究所編『生きるための知識と技能OECD生徒の学習到達度調査2009年調査国際結果報告 書』,明石書店,2010年,pp。16−17
29)経済協力開発機構編著・国立教育政策研究所監訳『PISA2009年調査 評価の枠組み OECD生徒の学習到達 度調査』,明石書店,2010年,p.58
L3 研究の目的
1.3 研究の目的
こうした背景より,本研究は,PISA型読解力のプnセスを手がかりに「物語文で叙述を 根拠に自分の考えを述べる」ことを目指した授業を構想し,授業実践を通してその有効性 を確かめることを目的とする。
なお,「物語文の形式的特徴と叙述を関連づけて述べることを苦手としている」という 読解力における我が国の課題や,筆者自身が物語文を教材とする授業における指導内容を 明らかにしたいという思いを持っていることから,教材として物語文を取り上げることと
する。
1.4 研究の計画
この目的の達成のために,次のような計画で研究を進める。
IH
皿
W
v
PISA型読解力への理解を深める。
PISA型読解力のプロセスを分析し,叙述を根拠に自分の考えを述べるための指導 内容を明らかにする。
先行研究や先行実践の分析,平成20年版学習指導要領を元に,指導の手立てを導 き出し,授業を構想する。
構想した計画に従って授業実践を2回行い,それぞれ手立ての有効性の検証及び 授業評価を行う。
研究の成果と課題をまとめる。
2,1PISA型読解力の基礎知識
2 研究の内容
本章では,「叙述を根拠にして自分の考えを述べる」小学校国語科の授業を構想するた めに,大きく分けて次の三つの内容について整理した。
(1) PISA型読解力についての基礎的知識や,指導上のメリットについての整理。
(2. 1 v2. 2)
(2) 平成20年版学習指導要領との関係性等についての整理。(2.3)
(3)PISA型読解力のプロセスを手がかりにした「叙述を根拠にして自分の考えを述べ る」ための指導内容の明確化。(2,4)
2.1 PISA型読解力の基礎知識
本項では,PISA型読解力のプロセスを手がかりにした指導を行うに当たり,PISA型読解 力の基礎的な知識について整理を行った。
2.1.1 PISA型読解力の定義
PISA調査における読解カリテラシーは,従来の日本の教育で示されてきた「読解力」と は内容が異なるため,文部科学省は「PISA型『読解力』」と呼んで区別しているD。
PISA型読解力の定義は,「自らの目標を達成し,自らの知識と可能性を発達させ,効果 的に社会に参加するために,書かれたテキストを理解し,利用し,熟考し,これに取り組 む能力」2)である。この中の,「これに取り組む能力」には,「ただ単に読む知識や技能が あるというだけでなく,様々な目的のために読みを価値づけたり,用いたりする能力によ っても構成されるという考え方」3)を含んでいる。つまり,PISAでは,書かれている情報 を正確に理解することのみを目的としているのではなく,社会生活の中の課題等の解決の ために,テキストから,何を,どう解釈し,どう評価するのかという主体性を持った読み までねらいとしている。言わば,PISAが求める読解力は,社会参加のための能力と言え,
単なる知識や技能にとどめず,それを活用する能力まで含めているところに特徴がある。
PISA型読解力の定義,及び,それが包含する意味について,表2−1に整理した。
1)文部科学省『読解力向上に関する指導資料』,東洋館出版社,2006年,p.1
2)国立教育政策研究所編『生きるための知識と技能OECD生徒の学習到達三二査2009年調査国際結果報告 書』,明石書店,2010年,p.16
3)同前書2),p.17
2,l PISA型読解力の基礎知識
表2−1PISA型読解力の定義4)
定義 包含される意味
読解力とは, その社会役割を果たすのに必要な最低レベルの技能という意味 で用いられることの多い「識字」(Literacy)ではなく,むし ろ将来それぞれのコミュニティに積極的に参加することを期待 されている生徒たちの手段あるいは道具として捉えている 自らの目標を達成 読解力により個々の希望が実現できるという考え方を表してい し,自らの知識と る。ここで「希望」とは,学校の卒業や就職などの明確な希望
可能性を発達さ
とともに,豊かで継続的な個人生活や生涯学習という不確実でせ, すぐには実現しない希望も含まれる。
効果的に社会に参 「参加する」(Participate)という言葉が使用されている。こ 加するために, れは,読解力により,人々が自分のニーズを満たすとともに,
社会に貢献できることを示唆するためである 〉。
書かれたテキスト 言語が用いられた印刷物,手書き文章,電子表示された文章な
を
どで,図,画像,地図,表,グラフなどの視覚的表現は含まれ るが,映画,TV,アニメーション,言葉のない映像は含まれな
い
理解し,利用し, 読解には相互作用的な性質があり,読み手は,テキストに連動
熟考し, して自分の考えや経験を呼び起こすという概念を強調する。ま た,評価するために,読者はテキストの内容について考え,そ れまでの知識や理解を活用したり,テキストの構造や形式を考 える必要がある。
これに取り組む能 PISA2009年調査において新たに加えられた要素である。これは
カ 読解力がただ単に読む知識や技能があるというだけでなく,様
々な目的のために読みを価値づけたり,用いたりする能力によ っても構成されるという考え方から,「読みへの取り組み」
(engaging with written texts)という要素が加えられるこ とになったものである。つまり,読むことに対してモチベーシ ヨン(動機づけ)があり,読書に対する興味・関心があり,読 書を楽しみと感じており,読む内容を精査したり,読書の社会 的な側面に関わったり,読書を多面的にまた頻繁に行っている などの情緒的,行動的特性を指すものである。
4)前掲書2),pp.16−17
5)筆者が指導を受けた兵庫教育大学大学院の堀江祐爾は,「OECDによる調査であることを考えると,『参加す る(Participate)』は,『経済行為に参加する』ことであり,この調査は『次世代の経済力を担う人材が育 っているかどうかを調べる調査である。』」と指摘している。
2.1PISA型読解力の基礎知識
2.1.2 PISA型読解力の側面
PISA調査では,読む行為の側面(Aspects)を,「情報の取り出し」,「統合・解釈」,「熟 考・評価」の3っに分類し,測定している。ただし,PISA調査問題の課題開発のために,
その下位尺度として5つの側面が分類されており(図2−1),各側面にそれぞれ明確な定義
がある(表2−2)。
読解力
主にテキスト内部の惜報を和用
情報へのア クセス 取 り出し
統合・解釈
主に外部の知識を活用
情報の取り 出し
幅広い理解 の形成
解釈の展開
熟考・評価
テキストの 内容の熟 考・評価
テキストの 形式の熟 考・評価 fi)
図2−1 PISA型読解力の枠組みと側面の下位尺度との関係
7)
表2−2 PISA型読解力の各側面の定義(要約,並河)
PISA型読解力の側面 定義
○情報へのアクセス・取り出し
O統合・解釈
・幅広い理解の形成
・解釈の展開
○熟考・評価
・内容の熟考・評価
・形式の熟考・評価
情報を見つけ出し,選び出し,集めること
テキストの中の異なる部分の関係を理解し,推論によりテキスト の意味を理解すること
テキスト全体を幅広い視野から考察し,理解を形成すること テキストの内容に対してより深く具体的に理解すること
テキストと自らの知識や経験を関連付けたり,テキストの情報と 外部からの知識を関連付けたりしながら,テキストについて判断 すること
テキストの内容についてテキストの情報と外部からの知識を関連 付けたりしながら,テキストについて判断すること
テキストの構造や形式的特徴を客観的に検討して,ある目的のた めにどの程度役立っているか判断すること
なお,PISA型読解力の各側面の詳細な定義については,巻末資料Wにまとめた。
6)経済協力開発機構(OECD)編著 国立教育政策研究所監訳『PISA2009年調査 評価の枠組み OECD生徒の学 習到達度調査』,2010年,明石書店,p.51
7)同上書6),pp.51−58
2.1PISA型読解力の基礎知識
2.1.3 各側面における読みの行為一P 1 SA調査問題分析に基づく分類から一
PISA型読解力の各側面は,前二三2−2に示した定義を持つが,定義だけでは各側面にお ける具体的な読みの行為が見えてこない。そこで,各側面における具体的な読みの行為に ついて,今までに公開されているPISA調査問題を分析し,類型化することによって見出す ことを試みた。
■目的
本作業の目的は,PISA調査で一般に公開されている30の読解ユニット(表2−3)を対象 として,その問い方や答えさせ方(出題意図の分析)から,PISA調査問題群にどのような 特徴があるのかを明らかにすることである。
表2−3予備調査も含めた公開済みPISA調査問題の内訳
ユニット(大問) 設問(小問)
PISA2000年調査問題8) 11 45
PISA2000年予備調査問題9) 6 19
PISA2009年予備調査問題10) 10 38
PISA2009年調査問題11) 3 11
計 30 113
■分類の仕方
疑問の分類は,文献に明記され ているものについてはその通りに,
そうでないものについては,「問い 方」「答えさせ方(出題意図の分析)」
の特徴を見極めることで行った。
見極めの際は,PISA調査で定義さ れている読解力の5つの下位尺度を 基盤とした。分類基準の手続きを
図に表したものが図2−2である。
テキストの内容の理解 について答えさせてい
る
テキストに晦示され ていない内容につい て答えさせている
テキストに明示さ 1れている内春につ いて答えさせている
テキスト全体に薦 わることについて 答えさせている
〈惰報の寒り出し〉
テキストの内 の理解をもとに,6分の短識や軽験と結 びつけて,.唖させたり自分の慧見を述べさせたりして いる
〈幅広い理解の形成〉
テキストの部分的 な事掃について答 えさせている
テキストの内容に ついて答えさせて いる
〈解駅の展翻〉
〈内容の熟考・脚価〉
テキストの表現や 彩式について答え.
させている
〈形式の熟考・鐸励〉
図2−2 PISA調査問題の分類のための基準(並河作成)
8)経済協力開発機構編著・国立教育政策研究所監訳『PISAの問題できるかな』,明石書店,2010年, pp.19−54,
72−99
9)同上書8),pp,55−71,99−108
10)前掲書6),pp.224−290 なお,10のユニットの内3っは,2000年目PISA調査で実施された問題でもある。
11)前掲書2),pp.77−96
2.1PISA型読解力の基礎知識
■分類作業
この分類基準に基づいて,まずは,113の小問群を,PISA型読解力の5つの下位尺度に分 類した。その後,設問の「答えさせ方」から出題意図を分析し,中分類カテゴリを作成し,
113の小才群を帰納的に16の中分類に分けた。この16の中分類が,それぞれの側面におい て求められる読みの行為の類型と言える。また,これらの項目は,授業における発問の類 型にもなり得る。
分類された16のカテゴリは,以下の通りである。なお,本研究は物語文を用いての実践 となるので,小問数における物語テキストタイプの数も併記し,どのような設問が物語文 における問いとして多く出題されているかも明らかにした。数字の見方は,(物語テキス トタイプの小問数/総小問数)である。例えば「暗示的内容からの推論」は16間中13問が 物語テキストタイプにおける出題であり,物語文の解釈のためによく出題されるものであ
ることが分かる。
〈情報の取り出し〉
(1)明示的な単一の情報をもとにした同様・同義情報の取り出し(4/17)
(2)明示的な複数の情報を関連づけた同様・同義情報の取り出し(0/13)
〈幅広い理解の形成〉
(1)筆者の意図や主要なテーマの把握(2/15)
(2)情報を統合しての(心情や行動の)推論・(情報の)一般化(2/4)
〈解釈の展開〉
(1)暗示的内容からの推論(13/16)
(2)内容相互の関係性の解釈(1/15)
(3)筆者の意図の解釈・理解(1/3)
〈内容の熟考・評価〉
(1)テキストの内容・主張を,自分の知識や価値観に照らし合わせての評価(3/9)
(2)主張を補強する別の情報の提供・特定(1/1)
(3)テキスト外の知識のテキストへの関連づけ(2/7)
(4)テキストの内容に基づいての(対象や条件(人物,時,等)が変化したときに)
仮説立て(1/4)
〈形式の熟考・評価〉
(1)ある目的のためにテキストがどの程度役に立つかの判断(0/4)
(2)物語の修辞的な目的の認識/図等における記号等の目的の判別(2/3)
(3)事実と意見の区別(0/1)
(4)テキスト同士の関係性の把握(0/1)
2.1PISA型読解力の基礎知識
さらに,中分類ごとに,「問い方」にもとづいて類別化を行い,36の小分類に分類した
(表2−4参票差。この小分類は,例えば,授業における発問の問い方の参考となり得る。
■結果
以上の作業の結果,完成したのが表2−4である。この作業から,PISA型読解力の各側面 では中分類で示されたような行為が求められていることが明らかとなった。また,こうし た読みの行為は,小分類で示されたような問い方で引き出すことが出来ることも明らかと
なった。
なお,従来の読解指導にあまり見られなかった熟考・評価問題については,詳しい分析 を行った。詳細は巻末資料Vを参照のこと。
表2−4 PISA調査問題の分類結果
1 小分類 1嬰i晶1 中分類(出題意図) 数 大分類 ll謬i閾i
1いつ,どこで,誰が(何が),どんなことをした(あった)か 1i1
2OOは,どうして…したのか 1i1
3OOは,どのよう(様子・状態)か
1i1 ⁝
4…は,何か 1iO (1)明示的な単一の情報をもとにした
ッ様・同義情報の取り出し(物語文では TWIHの把握)
17 5 …は,どう(どこに〉書いてあるか/(グラフ等から)…は,いくら(数・量)か giO
6 …は,どのような(様子・状態)か 2iO 情報の取り出し 30
7…を,対応する欄に記入せよ …2i1
8なぜ,OOは,…になったか/…が可能なのは,いつ(何,どれ)か 5iO ⁝ 9…と書いてあるのは何か/…なのは,どれか } . − ■ 「 . 『 一 . 一 「 四 . i 馳
(2)明示的な複数の情報を関連づけた ッ様・同義情報の取り出し 10…は,どうであったか/…のとき,どうなっているか
5:0…一一・.一.i一一一一.
@ 2 iO
13
11 (内容の数値をグラフ化した図に対し)適切なものを選べ 1iO
12このテキストが(このテキストで筆者が)伝えようとしていることは,何か/…は,な
コ書かれているのか 一 一 一 L . . 「 一 . 「 [ . . . 一 一 一 .
⁝
13この物語は主として何について書いてあるか . . . . ■P0i1
D.
D.i.、
P11一訴6開
(1)筆者の意図や主要なテーマの把握 15 14(複数のテキストに対して)共通するテーマは何か
15(複数のテキストに対して)これらの文章はどのような関係か 1io 幅広い理解の形成 19
1600が最後に…と決意したのはなぜか/(複数の資料から情報をまとめ)…なの
ヘ,なぜか/OOに何が起きているのか 『
…Ri2 (2)情報を統合しての(心情や行動の)
?̲・(警報の)一般化 4
17 (図から)どのようなことが分かるか(グラフで示された情報のタイプを一般化する) 1iO
18OOは,なぜ,…か/…が,〜したのはなぜか 一 一 一 . 一 . 一 一 一
⁝
19…とは,どういうことか/…は,何を指すか/このの…は何を前提に作られたか
§一」一4
@「.一Ti4
@:
(1)暗示的内容からの推論 奪6
20…のとき,OOは何を思っていたか 5i5
21
…は,どういうこと(何)か/…は,ほかにどういうものがあるか/…の意図は何か
^その理由は何か/(物語テキストにおいて)その隠喩表現は何を表すか/(樹形 }で)…は,どれにあたるか
…P1il@i
(2)内容相互の関係性の解釈 15
解釈の展開 34
22 …を要約すると,どうか 1iO
23 …と〜のちがいは何か/…の反対となるのはだれ(何)か/…は,〜と比べてどう
ゥ …3iO@…
24 筆者は,なぜこのような書き方をしたのか 3i1 (3)筆者の意図の解釈・理解 3
25 (テキストの内容・主張)に賛成するか 210
26 (テキストの内容・主張)について,あなたの社会の仕組みとの相違点を説明せよ 一 . 」 冒 r T . h 一 一 一 ・ 「 而 一 ゴ 『 「 ■ . r − r − . 」 . 一 ㎞ 皿 − i 一 「 一 . . 1i1一・.一i.・
@110
27 一 .アのテキストで,筆者は読み手にどんな反応を求めるのか。自分の意見を述べよ 28 (課題文で書かれていること)は,テキストの相反する2つの主張のどちらかと,どの
謔、な関係があるか
…
P;o 旨
(つテキストの内容・主張を,自分の知 ッや価値観に照らし合わせて評価する 9 29OOの判断をどう思うか。自分の考えと比較して説明せよ/OOの行ったことは正
オい(公平だった)と思うか/…なのは,なぜ(どこ)か 4i2
30 (テキストの内容についての相反する;者の主張について)根拠を物語から探して
ヲせ
…蓼i1
@…
(2)主張を補強する別の情報を提供・
チ定する 1 内容の熟考・評価
21
31
(テキストの内容)について,(実社会で)どのようなものが考えられるか/一致する ニ思うか/…,と書かれている理由として,考えられることを説明せよ/OOは,な コ…か
・i・ ⁝
(3)テキスト外の知識をテキストに関連
テける 7
32あなたが,OOだったらどうするか/○○は,(テキストにおける言動)を,現在で
?チたとしても同じようにするであろうか/…が,〜なのは,なぜか/…は,どうなる
ゥ
⁝4il i
(4)テキストの内容に基づいて,(対象 竢 件(人物,時,等)が変化したとき ノおける)仮説を立てる
4
33 この書き方・表現は,いいと思うか/効果的か/どのようなときに便利と言えるか =SiO = (1)ある目的のためにテキストがどの
度役立つか判断する 4
34 作者は,なぜ,このような書き出しにしたのか/最後の文が,このような文で終わる フは適切か/(図から)…で記されているのは,どのような(特徴・状態)ものか
}3i2
@i (2)物語の修辞的な目的を認識する/
}における記号の目的を判別する 3 形式の熟考・評価 9 35 …と書かれていることは,「意見表明」か,「事実描写」か 1:0 (3)事実と意見を区別する 1
36(テキスト)と(テキスト)は.どのような関係か 1io (4)テキスト同士の関係性を判断する 1
2.1PISA型読解力の基礎知識
2.1.4 従来型の「読解力」とPISA型「読解力」のちがい
文部科学省は,「PISA調査の『読解力』とは,『Reading Literacy』の訳であるが,わ が国の国語教育等で従来用いられてきた『読解』ないしは『読解力』という語の意味する
ところとは大きく異なるので,本プログラムでは単に『読解力』とはせずに,あえてPISA 型『読解力』と表記することとした」L2)と述べ,従来我が国で用いてきた「読解力」の概 念とPISA型読解力の概念の違いを,次のように整理している。
①テキストに書かれた「情報の取り出し」だけはなく,「理解・評価」(解釈・熟考)も 含んでいること。
②テキストを単に「読む」だけではなく,テキストを利用したり,テキストに基づいて自 分の意見を論じたりするなどの「活用」も含んでいること。
③テキストの「内容」だけではなく,構造・形式や表現法も,評価すべき対象となること。
④テキストには,文学的文章や説明的文章などの「連続型テキスト」だけでなく,図,グ ラフ,表などの「非連続型テキスト」を含んでいること。
2.1.5 PISA型読解力に対する識者の反応
PISA型読解力については,その注目度の大きさから,多くの研究者・実践者がそれぞれ の立場から知見を述べている。
鶴田(2010)は,我が国の生徒における課題克服のために,「いかにして自分の考えを持 ち,それを論理的に表現することができるか」が大切であり,「本文中の表現や内容を根 拠に,それを解釈・推論したことを理由として自分の最終的な考えを述べる」指導が必要 だが,日本の生徒は「考え方そのものを知らない」と,思考のプロセスの指導の必要性を 主張している13>。山本(2007)は,「熟考・評価」の象徴的な設問「贈り物」を正答するた めに必要な読解過程を分析し,物語の主要となるテーマとそれを支える部分との明らかに するなどの,テキストの形式的特徴の指導の必要性を明らかにした14)。この必要性につい て,伊崎(2011)は,従来我が国の物語教材の主要な指導内容であった「主題」を捉える活
12)前掲書1)
13)鶴田清司『対話・批評・活用の力を育てる国語の授業 一PISA型読解力を超えて一』,明治図書,2010年,
p.153
14)山本茂喜「物語文におけるPISA型『読解力』とは何か」,全国大学国語教育学会発表要旨集113,2007年, p p, 201−204
2.1PISA型読解力の基礎知識
動において,従来のように内容のみを捉えるだけでなく,中心となる主題と部分である叙 述とのつながりを捉えさせる授業実践を行い,テキストの全体と全体を支える部分をつな げる指導の有効性を明らかにした15)。また,秋田(2009)は,PISA型読解力への注目の高ま
りが「無答の多さが抱える問題をクローズアップした」り,「熟考・評価という読解過程 の重要性が焦点化され」たり,「表現という子どもの言葉や思想の表出と読解が結びイ寸け られて捉えられるようになった」16)ことにつながったと,その効用を指摘した。その上で,
PISA型読解力への認識の広がりに比例して,表現することまでを含めた言語力の育成を重 視する風潮が広がったことを歓迎している。
一方で,日本では,こうしたPISA型読解力の意義についての認識不足や誤解によって,
PISA型がスキル学習に弱化しているとの指摘もある。田中(2008)は,「PISA調査問題イコ ールPISA型読解力とする理解(ある意味での誤解)が一般化するとともに,教育現場では PISA対策問題集の採用やそれを使用したPISA型読解力対策授業が横行し始めていることに 危惧をもつ」17)と述べている。また,秋田(2009)も,「PISAというテスト名が付された学 力名,テスト成果を目的とした指導や学習という議論に,学習の成果としての学力ではな
く,学力テストのための学:習へという逆転現象が見られる。(中略,並河)PISA型は新た な課題を自分の意見を構築したり探求,熟考するものとしてでなく,PISA型テスト対応問 題解決能力の育成へと転換している」18)と述べている。言語力の育成に当たっては,当然,
技術的側面の指導は欠かせないが,この田中や秋田の指摘は,言語技術の習得に終始する のではなく,その技術を生きた場で活用する視点を持つことが必要であることを示してい る。さらに佐藤(2009)は,「新学習指導要領が21世紀の社会を『知識基盤社会』と規定し,
OECDのPISA調査の学力概念を参照して『知識の活用能力』を教育目標として掲げたことは 評価されてよい」としながらも,PISA型で使用されている「リテラシー」の概念が,北欧 諸国において「生涯学習社会におけるコンビテンス」の調査研究により提起されたもので あることに,注意を促している19)。なぜなら,ポスト産業主義社会への移行を生涯学習社 会の実現として追求している北欧型の国々(フィンランド,カナダなど)ではPISA調査結 果において高位の学力水準を示したのに対し,積極的に新自由主義政策を取り入れて旧来 の「福祉国家」型の教育システムを変貌させた国々(スウェーデン,デンマークなど)で
15)伊崎一夫「読解リテラシーの向上をめざす学習指導の工夫に関する研究」,環太平洋大学研究紀要(4),2 011年,PP.65−71
16)東京大学学校教育高度化センター編『基礎学力を問う〜21世紀日本の教育への展望〜』,東京大学出版会,
2009年,pp.207−209
17)田中耕治「PISA型読解力はどのように位置づけられるべきか」,日本教育方法学会編『現代カリキュラム 研究と教育方法学 新学習指導要領・PISA学力を問う』所収,図書文化,2008年, pp.63−64
18)同上書16),pp.207−208 19)同上書16),pp,1−31