博 士 ( 医 学 ) 石 田 淳 一
学 位 論 文 題 名
胃癌組織 における LUCA15 発現量の臨床病理学的検討 学位論文内容の要旨
【緒言】
LUCA15は815個 のア ミ ノ 酸よ り 構 成さ れ る分子 量約lOOkDaの 核内蛋白 質であ り,そ のmRNAの発 現はほ ば全ての 組織に検 出され ているが,組織間の蛋白発現レベルを検討し た報告はない.その生理的な機能は十分に解明されていなぃが,細胞増殖抑制,アポトーシ スに関与することが示唆されている,
LU(溝15の 悪性腫 瘍におけ る検討 では,肺 癌組織や神経系腫瘍組織におけるmRNAの発 現低下の報告はあるが,蛋白発現量の検討は肺癌において一報あるのみで,胃癌組織におけ る検討は報告されていなぃ,そこで本研究ではI朋C愴15の胃癌における病理学的な意義を 調べるために,LUC強15のモノクロナール抗体を独自に作成し,胃癌手術標本を用いて癌部,
非 癌部 を 免 疫組 織学的に 比較検 討し,臨 床病理 学的事項 との関連 性の検 討を行っ た.
【方法と結果】
1.抗LUCA15抗体の反応性,特異性の確認
作 成 し た抗LUCA15モノ ク ロナ ール抗 体は,LUCA15のC末 側を特異 的に認 識し,ヒ ト 胃癌細胞株MKN45を用いた螢光染色により,核内に限局して存在していることを確認した.
2.免疫組織学的検討
北海道 大学病 院におい て1990年か ら2000年までの10年間に胃癌と診断され,胃切除術 を施行 された106症例 の胃癌手術標本を用いて,LUCA15の発現量の検討を行った.LUCA15 は胃組織でも核に特異的に染色された.非癌部の胃腺管上皮の核の染色強度をscore2とし,
それよ りも染色 が弱い ものをscore1,強いも のをscore3,全く染まらなぃものをscoreO として4段階 評価を 行った. score1群 は29例,score2群は33例,score3群は44例であ ったが,今回の検討症例内では,score0群は認めなかった.
3.臨床病理学的検討
低発現 群(score1) と正常 もしくは 高発現 群(score2あ るいはscore3)の2群に大別し て臨床病理学的因子を統計学的に検討した.胃癌組織型を分化型と未分化型の2群に分類し た場 合 , 分化 型59症 例 中5例の み がscorelを 示 したが, 未分化 型では47症 例中24例 が scorelを示し有意差を認めた.
胃 壁 深 達 度 で はT2以 深の58症例 中25例(42.4% ) がscore1を 示し た が ,Tl症 例で は47症 例中4例(8.5%)の みがscore1を 示し,深 達度の 進行して いる腫瘍 がI」UC塊15 の発現低下している傾向を示した.さらにりンパ節転移,リンパ管侵襲,静脈侵襲の検討で は,8corel群の陽性率はいずれも有意に高かった.これらの病理学的因子を総合評価した進 行度 で は ,StageI,IIに占める8co弛1群の 割合(17.8% )よりもStagem,Wに占める 割合(48.5%)は有意に高かった.また腫瘍量とLUCA15の発現量の検討において,8core
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1群に おける 腫瘍最大 径は有 意に大き い傾向が あった .
他 病 死 を除 い た100症 例に お い て ,LUCA15の 発現 量 が 累積 生 存 率に 与 え る影 響 を Kaplan‑Meier曲線に検討したところ,score1群はscore2,3群に比較して有意に予後不良 であった .
【考察】
胃癌手 術症例106例中 ,LUCA15の染 色強度が 非癌部よ りも低 下してい る症例 が29例存 在 し た(score l).そ の う ち 未 分化 型 は24例(82.8% )あ り , 腫瘍 の 分 化度 とLUCA15 の発現量が関連していることが示唆された,しかし,未分化型のうち,8core1を呈した症例 は ,47症例 中24例( 51.1%) でほば半数であった.このことは,同じ未分化型であって も ,LUCA15の発現量が低下している群と低下していなぃ群が存在することを示している.
今回の結果では,LUCA15の発現量の低下している群はより悪性度の高い形質を示しており,
癌 の悪性 度としては,同じ未分化型であっても,LUCA15の発現量の低下は,より後期に生 じる形質変化であることが推察された.
胃癌を病理組織学的に分化型と未分化型に大別した場合,両者問に癌発生に関与する遺伝 子異常に差があるか否かについて多くの検討がなされてきた.これまでp53,E‑cadherin, K‐ scvnなどの発現異常が胃癌に高頻度で見られると報告されている.現在までのところ,そ れ ぞれの 遺伝子の発現異常の相互関連を検討した報告は無く,LUCA15との関連も不明であ る が,核 内蛋白質 であるLUCA15が二次 的な遺伝 子異常を 惹起しないか興味の持たれる点 である,
腫瘍の分化度以外にもLUCA15のscorel群は,.リンパ節転移,リンパ管侵襲,静脈侵襲 の 陽性率 が有意に高く,胃壁深達度ではT2以深の割合が有意に高かった.さらに胃癌の進 行 度とし て総合的 に評価 した際,score1群ではStage HI,1V群が29症例中16例(55.2%)
占 め る の に対 し ,score2あ る いはscore3群で は77症例 中17例(22.1% )と有意 に低か った. LUCA15の発現低下が腫瘍細胞の増殖性,悪性度に関与している可能性が示唆される.
こ れ ら の 因 子 は 術 後 生 存 率 に 反 映 さ れ ,score1群 は 有 意 に 予 後 不 良 で あ っ た . 今回の検 討範囲内 では,LUCA15の発現 が消失し ている 例は存在しなかったが,LUCA15 の発現量が消失していなくても,低下するだけで胃癌の発生や悪性化に関与していると仮定 す ると, 発現して いるLUCA15が 変異な どにより ,蛋白質 としての機能異常が存在する可 能 性 が 示 唆さ れ た .今 後 は 胃癌組織 におい て発現し ているLUCA15のmRNAのシ ークエン ス情報を検討する必要があると思われた.また一部の癌抑制遺伝子では,発現量が低下する ことのみで発癌に寄与できるha,p10泣8u伍ciency型の癌抑制遺伝子が存在することが注目さ れ て お り ,LU( 強15に つ い て も 詳 細 な 遺 伝 子 発 現 解 析 を 行 う 必 要 が あ る . 今後,LUC檎15の病理学的意義を一層明確にするには,原発巣と転移巣との比較,あるい はPCNAや駈.67などの 他の癌細 胞増殖 関連因子 との多重 染色などにより,さらに詳細に 検討する必要があると考えられた.
【結語】
LUCA15に対 する特 異的モノ クロナー ル抗体 を作成し,胃癌細胞,胃癌組織での染色性 を検討し,臨床病理学的な検討を加えた.胃癌組織では,LUCA15の発現量により,低,中,
高発 現の3群に分類 された .LUCA15低発 現群は悪 性度が高 く,予 後不良で あり,LUCA15 は胃癌の転移,浸潤のマーカーになりうることが示唆された.
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
胃癌組 織における LUCA15 発現量の臨床病理学的検討
LUCA15は815個 の ア ミ ノ 酸 よ り 構 成 さ れ る 分 子 量 約115kDaの 核 内 蛋 白 質 で ある 。 組 織間 の 蛋白発現 レベルを 検討した 報告はな く、その 生理的な 機能は 解 明さ れ て いな い が、細胞 増殖抑制 、アポト ーシスに 関与する ことが示 唆され て いる 。LUCA15の 悪 性腫 瘍 に おけ る 検 討で は 、肺 癌 組 織や 神 経系 腫 瘍 組織 に おける 報告はあ るが、胃 癌組織に おける報告はない。そこで本研究ではLU(ニA15 の胃癌 における 病理学的 意義を調 べるため に、LUくニA15のモノクロ ナール抗体 を 独自 に 作 成し 、 胃癌手術 標本を用 いて癌部 、非癌部 を比較検 討し、臨 床病理 学 的解 析 を 行っ た 。症 例 は 北海 道 大 学病 院 にお い て1990年か ら2000年ま で の 10年 間 に 胃癌 と 診 断さ れ 、胃 切 除 術を 施 行さ れ た106症例 の胃癌手 術標本を 用 い た。LUCA15は核 に 特異 的 に 染色 さ れ た。 非 癌部 の 胃 腺管 上 皮の 核 の 染色 強 度をコ ントロー ルとして 、scoreO〜score3の4段 階評価を 行い、低 発現群(score 1) と 正 常 も し く は 高 発 現 群(score2あ るい はscore3) の2群 に大 別 し て臨 床 病 理学 的 因 子を 統 計学 的 に 検討 し た 。胃 癌 組織 型を 分化型と 未分化型 の2群に 分 類 し た 場 合 、 分 化 型58症 例 中5例の み がscore1を 示し た が、 未 分 化型 で は 48症 例 中24例 がscorelを 示 し 有 意 差 を 認 め た 。 胃 壁 深 達 度 で はT2以 深 の58 症 例 中25例 がscorelを 示 し た が 、Tl症 例 で は47症 例 中4例 の み がscore1を 示 し、 深 達 度の 進 行し て い る腫 瘍 がLUCA15の 発現 が 低 下し て いる 傾 向 を示 し た 。さ ら に りン パ 節転移、 リンパ管 侵襲、静 脈侵襲の 検討では 、score1群の陽 性率は いずれも 有意に高 かった。 これらを総合評価した進行度では、StageI、II に占め るscoref群の割 合よりもStage III、IVに占め る割合は 有意に高かった。
他 病 死 を 除 い た100症 例 に お い て 、LUCA15発 現 量 と 累 積 生 存 率 の 関 係 を Kaplan‑Meier法 で検 討 した と こ ろ、scorel群はscore2、3群に 比較して 有意に 予 後 不 良 で あ っ た 。 胃 癌 手 術 症 例106例 中 、LUCA15が 低 発 現 の 症 例 が29例 存 在 し 、 そ の う ち 未 分 化 型 は24例 を 占 め 、 腫 瘍 の 分 化 度 とLUCA15の発 現 量 の 関 連 が 示 唆 さ れ た 。 ま た 分 化 度 以 外 に もLUCA15のscore1群 は、 リ ン パ節
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博 哲 俊 正. 弘 香藤 田 浅近 秋 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
転移、リンパ管侵襲、静脈侵襲の陽性率と、胃壁深達度でのT2 以深の割合が 有意に高かった。さらに胃癌の進行度として総合的に評価した際、score1 群で は StageIII 、IV 群が55.2% を占めるのに対し、score2 、3 群では 22.1% と有意 に低くかった。LU( ニ A15 の発現低下が腫瘍細胞の増殖性、悪性度に関与してい る可能性が示唆された。
口頭発表に際し、副査の秋田教授よりLUCA15 の機能にっいての推察、胃癌 で の LOH の 有無 、胃 癌と LUCA15 の関 連性 にっい ての 質問 があった。これに 対し申請者はLU( ニA15 の機能は発癌よりも進行癌における転移や浸潤に関わる 因子の可能性が高いこと、胃癌での3p21 領域の LOH の報告は無いこと、胃癌 と LUCA15 の関連性が強いものは胃壁深達度、リンパ節転移があることを解答 した。次いで副査の近藤教授から免疫染色の判定方法における客観性、LU( ニA15 陽性細胞率の違い、 LUCA15 高発現の機序についての質問があった。これに対 し 申請 者は 免疫染 色は 医師 2 人で判定し、かつ強拡大 3 視野における1000 個 の細胞の核の染色強度を純粋に評価したこと、癌部、非癌部における陽性細胞 率 は 90% 以 上で 差が なか ったこと、発現増加はDNA チェックポイント機構に 関わる ATM 、Chk2 等が癌化の早期段階では活性化されているが、進行に伴い 不活化するという報告があり、LUCA15 も進行の各段階において変化がある可 能性があることを解答した。
最後に主査の浅香教授よりLUCA15 のポリクロナール抗体とモノクロナール抗 体の違い、胃癌における LUCA15 の作用機序、p53 とLUCA15 との関連、LUCA15 のノックアウト株についての質問があった。これに対し申請者はポリクロナー ル抗体は特異性、力価共に不十分であり、核以外にも染色されること、LUCA15 は胃癌の転移・浸潤に関わっていると考えられること、p53 のアポトーシスを 増強する可能性があること、ノックアウト株があるとすれば癌の転移や進行が 早くなる可能性があることを解答した。
本研究はLUCA15 の胃癌組織における検討を行い、LU( ニA15 が腫瘍細胞の悪 性度、転移・浸潤に関与している可能性を初めて報告したことで高く評価され、
今後の胃癌研究への更なる応用が期待された。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得 単位なども併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有する ものと判定した。
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