博 士 ( 薬 学 ) 河 合 成 道
学位論文題名
Regulatory Mechanisms and Functions of Ascidian NF‑kB/Rel Family Proteins
(ホヤNF ・ kB/Rel フんミリーの調節機構と機能に関する研究)
学位論文内容の要旨
1.はじめに
NF‑KB /Relファ ミリー に属す る遺伝 子は 、当初 、免疫 グ口ブ ルンK軽鎖 遺伝子のェンハンサー領域に結 合 する転 写因子 として 同定さ れ、 現在ま でに多 数の同 属遺 伝子が 単離さ れている。これら転写因子のN末 端 に 約300ア ミ ノ 酸残 基 の 相 同 性領 域 が存 在し、RelHomology Domain (RHD)と 呼ばれ ている 。RHDは、
DNAと の 結 合 や 、 制 御 因 子 で あ るIKBと の 相互 作 用 、 二 量体 の 形 成 に 重要 な 役 割 を は たし て い る 。 NF ‑KBの活性 化機構 はフ ァミ1Jー 間で高 度に 保存さ れてい る。既 知のNF‑KB分子種は全て核局在化シグ ナ ル(NLS)を 有 して い る が 、IKBと 結 合す る こ と でNLSが 隠 され 細胞質 に局 在する 。サイ トカイ ン等の 刺 激 に よ りIKl3はり ン 酸 化 さ れ、 直 ちに26Sプ口テ アソー ムによ り分解 され る。そ の結果 、NLSが露出 し 、NF‑KBは核内 へ移行 して 標的遺 伝子の 転写を 促す 。さら に、フ ァミリ ータンパク質のりン酸化等を介 する調節機構等も明らかにされている。
当 研究室 の嶋田 によ って、 原索動 物マポ ヤ( llalocynthia roretzDからNF ‑K爪elファミリーに属する 2つ のcDNAク 口 一ン (As.re11とAs.re12) が 単 離 され た 。As.re11は 、RHDとNLSを有 し、典 型的な NF.K凧elフ ァ ミリー に属す るが、As.re12は 、舳 .rellと 完全に 同一なRHDを 有する が、C末端 側の 配 列 を欠失 してお り、NLSを持 たな いユニ ークな 構造を してい る。 これま での研 究から 、As.renが初期発 生 過程の 脊索形成に関与することが示唆されている。しかし、As.re11とAs.re12の相互作用の機構や脊索 形成における役割に関していまだ不明な点が多く残されている。
本研究では、発生におけるNF.KB/Re1ファミリーの役割を解明するために、マボヤのA8.re11とAs.re12 と の相互 作用の 機構、IKBに よる 調節機 構、さ らに、 ホヤ発生過程におけるNF.1く凪e1ファミリーの機能 を解析し、新知見を得た。
2.マボヤNF‑KB/RelファミルーAs ‑rellとAs‑re12の調節機構の解析
As ‑rellとAs‑re12のRHDはmRNA上で 同一で ある ことか ら、両 者がalternative splicingにより 生成 す ると考 えられる。そこで、マポヤのゲノム配列を解析し、 As ‑rellとAs‑re12がsplice variantであると 結論した。
次 に、 培養細 胞にそ れぞれ 単独あるいは両者を過剰発現して免疫沈降実験を行い、As‑rellがホモダイマ ーを、 As ‑ rellとAs ‑ re12がへテロダイマーを形成することを明らかにした。また、細胞内局在性を解析し た結果、 As ‑rell単独では核に、As‑re12単独では細胞質に局在し、両者を共発現させると、As‑rellとAs ‑re12 が 共に核 に存在することが明らかになった。次に、転写活性化能について解析した。As ‑rellの場合は、濃 度 依存的 な転写 活性 化が観 察されたが、As‑re12の場合には、転写活性化が観察されなかった。一方、両者 を共発現した場合、As ‑rellの転写活性化がAs ‑re12によって抑制された。このことは、As‑re12がAs ‑rell ―884―
の転写活性に対して抑制作用を有することを示している。
次 に、NF‑KB/Relフ ァミリ ーの 制御因 子であ るIKBについ て解 析を行 った。 最近構 築さ れたカ タユウレ イ ボヤ(Ciona intestinalis) ESTデータベースを検索し、IKBホモ口グ(Ci.IKB)が検出されたので、そ の塩基配列を決定した。Ci.I}dBを用いて、A8.re11とAs.re12との相互作用を解析した。過剰発現後の免疫 沈 降実験 から、Ci.I心BがA8.renおよびAs.re12のそれぞれと複合体を形成することが明らかになった。
細 胞内局 在性を 解析し た結果 、3者を共発現させた場合には、As re11は核に、As.re12は細胞質に存在す ることが明らかになった。これは、As・re12がCi.IKBを細胞質で卜ラップすることによって、As.re11が核 内 に移行 できた ためと 考えら れる 。転写活性化能の解析でも、Ci.IKBによるAs.re11の転写活性化能の阻 害 がAs.re12により回復することが明らかになった。以上の結果から、As.re11の核内移行および転写活性 化 能 が8plice.variantで あ るAs,re12に よ り 調 節 さ れ る と い う 新 し い 機 構 を 提 案 し た 。
3.発生過程におけるカタユウレイポヤNF ‑KB/Relファミリーの機能解析
ホヤ は系統 進化 的に脊 索動物 と無脊 椎動 物の中 間に位置し、その幼生体は脊索を有する。ごく最近、力 夕ユ ウレイ ボヤの 全ゲ ノムが 解析され、そのデータベースにおいて、マボヤと同様に NF ‑KB/Relファミリ ー(Ci‑rellとCi‑re12)が存在 し、そ れらもalternative splicingにより生成することが明らかにされた。
また 、カタ ユウレ イポ ヤでは 、遺伝 子導入 が容易 であ ること、上記のように制御因子Ci‑IKBが存在するこ とな どの利 点を考 慮し て、力 夕ユウ レイポ ヤを用 いて 、発生過程におけるNF ‑KB/Relファミルーの機能に ついて解析した。
初め に、カ タユ ウレイ ポヤの 各発生 ステ ージに おけるCi‑rell、Ci‑re12およびCi‑IKB遺伝子の発現をin situハ イブリ ダイゼ ーショ ン法に より解析した。次に、Ci.IKBに対するモルフエリノオリゴヌクレオチド
(M.ohgo.Ci.Ilm)をホヤ胚に注入し、Ci.IKBをノックダウンした時の発生に対する影響を解析した。そ の結 果、M.01ig0.Ci.IKを注入した胚では、正常な尾芽胚で起こる脊索細胞の挿入に異常が起きているこ とが明らかになった。即ち、Ci.11毋をノックダウンさせたことにより、Ci.re11が過剰に働き、脊索形成に 異常が起きたと考えられる。また、Ci.Bra(Ciona丑旧c轟灯 r.y:脊索特異的に発現する遺伝子)のプ・ロモ ー タ ーの 下 流 にGFPと 各 遺 伝 子を 連 結 させ た発現 プラス ミド をホヤ 胚に導 入し、 各GFP融合 夕ンパ ク質 の胚 での発 現を解 析し た。そ の結果、GFP.Ci.re11が神経胚期に特異的に核内に移行することが明らかに なった。GFP.Ci.ren発現胚では初期尾芽胚期においてCi.I、毋の発現が誘導されることも明らかになった。
この 後者の 結果と、ゲノム上でCi.I心の上流にCi.rel結合配列が存在することから、初期尾芽胚期におい てCi・re11の活性化がおきていると考えられる。以上の結果から、Ci.re1が尾芽胚期において脊索細胞の挿 入を調節していると考えられる。
4.ま とめ
(1)NF ‑KB/Relフ ァミ リーに 属する マボヤAs:rellの核内 局在 性と転 写活性 能がsplice variantで あ るAs ‑re12に よって 調節 されて いると いう新 しい 機構を 提案し た。
(2)NF ‑KB/Relフ ァミリ ーに属 するカ タユ ウレイ ボヤCi‑ relが 初期発 生過程 において脊索細胞の挿入 に関与 してい ること を明 らかに した。
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学 位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
横沢 鈴木 松岡 川原
英良 利治 一郎 裕之
学位論文題名
Regulatory MechanlSmSandFunCtionSOf AscidianNF ‐kB/RelFamilyProteins
(ホヤNF ・kB/Rel ファミリーの調節機構と機能に関する研究)
NF‑ KB/Rel ファミリ ーは、N 末端に約300 アミノ酸残基からなる相同性領域(RHD) を有する転写因子で、免疫や発生などの制御に関与しており、その活性化機構はファ ミリー間で高度に保存されている。系統発生学的に脊椎動物と無脊椎動物の中間に位 置している原索動物ホヤは、進化的に最も初期に脊椎を獲得した動物であることから、
脊椎動物の発生を単純 化したモデル動物と考えられおり、マボヤでは、NF‑KB/Rel フ ァ ミ リ ー が 初 期 発 生 過 程 の 脊 索 形 成 に 関 与 す る こ と が 示 唆 さ れ て い る 。 本論文提出者は、マボヤ NF‑ KB/Rel ファミリータンバク質であるAs‑rell とAs‑re12 の相互作用の機構、IKB による調節機構、さらに、ホヤ発生過程におけるNF‑KB/Rel フ ァ ミ リ ー の 機 能 に 関 す る 一 連 の 研 究 を 展 開 し 、 以 下 の 成 果 を お さ め た 。
(1 )マボヤの As‑rell は典型的なNF‑KB /Rel ファミリーに属し、一方、As‑re12 は、
As‑rell と 完全 に 同一 なRHD を 有す るが 、C 末 端側の配列を欠失したユニークな構 造をしている。そこで、マボヤのゲノム配列を解析し、As‑rell とAs‑re12 がalternative splice variant であることを明らかにした。次に、両者の相互作用、細胞内局在性お よび転写活性化機構を解析し、As‑rell とAs‑re12 がへテ口ダイマーを形成すること、
単独では、As‑rell は核に、As‑re12 は細胞質に局在し、両者が共存すると、共に核に 局在すること、As‑rell の転写活性化がAs‑re12 によって抑制されることを明らかに した。
( 2 ) NF‑KB/Rel ファ ミリ ーの 制御 因子 であ る IKB について、力夕ユウレイボヤの IKB ホ モ口 グ(Ci‑IKB) の塩 基配 列を 決定 し、 それを用いて、As‑rell とAs‑re12 と の相互作用、および、 As‑rell と As‑re12 の細胞内局在性や転写活性化に対する影響
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を解析した。そして、 Ci‑IKB が As‑rell およびAs‑re12 のそれぞれと複合体を形成す ること、 3 者が共存すると、As‑rell は核に、As‑re12 は細胞質に存在すること、Ci‑IKB による As‑rell の転 写活性 化の阻害 が As‑re12 により回 復することを明らかにし、
As‑rell の核内移行および転写活性化がsplice variant であるAs‑re12 により調節され るという新しい調節機構を提案した。
(3 )全ゲノム解析がなされているカタユウレイボヤを用いて、in situ ハイブリダイ ゼー シ ョ ン法 に よ り 、各 発 生ス テージに おける NF‑KB/Rel フ ァミリ( Ci‑rell と Ci‑ re12) とCi‑IKB の遺伝子発現を明らかにした。さらに、Ci‑IKB に対するモルフオ リノオリゴヌクレオチド(M‑oligo‑Ci‑IKB) をホヤ胚に注入して、Ci‑IKB をノックダ ウンした時の発生に対する影響を解析し、M‑oligo‑Ci‑IKB を注入した胚では、正常な 尾芽胚で起こる脊索細胞の挿入に異常が起きていることを明らかにした。 Ci‑IKB を ノックダウンさせると、Ci‑rell が過剰に働き、脊索形成に異常が生じると考えられ る。ま た、Ci‑Bra (脊 索特異 的に発現する遺伝子)のプ口モーターの下流にGFP と 各遺伝 子を連結 させた発 現プラスミドをホヤ胚に導入し、各GFP 融合夕ンパク質の 胚で の発現 を解析し 、 GFP‑Ci‑rell が神経 胚期に特 異的に核 内に移 行するこ と、
GFP‑Ci‑rell 発現胚では、初期尾芽胚期において、Ci‑IKB の発現が誘導されること、
ゲノム上で Ci‑IKB の上流にCi‑rel 結合配列が存在することを明らかにした。以上の 結果を もとに、 Ci‑rel が尾芽 胚期で脊 索細胞 の挿入に 関与していると提案した。
以上の 新知見お よびそ れらを得るために用いた新研究方法は、ホヤNF‑KB/Rel フ ァミリーの調節機構やホヤ発生における機能の理解にとどまらず、広く他の生物にお けるNF‑KB/Rel ファミ リーの 調節機構や機能を理解する上で重要な寄与をなすもの である。
審査委員一同このことを高く評価し、本論文提出者が博士(薬学)の称号を受ける にふさわしいものと一致して判断した。
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