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BHCの人体に及ぼす影響について

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Academic year: 2021

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187

BHCの

人 体 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て

斎 藤 達 雄 ・ 小 坂 安 知 ・ 清 野 耕 吾 ・ 高

(東北 大學 医學部 黒川内科教 室)

Tatuo SAITO, Yasutorno KOSAKA, Kogo SEINO and Susumu TAKANO:

On the effect of BHC

upon the human body.

(The Medical Clinic of Prof. T. KUROKAWA,

Tohoku University,

Sendai)

I緒

殺 虫 剤BHCが 近 年 各 方 面 で 廣範 圍 に 使 用 され るに 至 つ て お るが,そ れ が 人 体 に 及 ぼ す 影 響 乃 至 毒 性 が,如 何 な る程 度 に起 る か に つ い て は,當 然 既 に 檢 討 され な け れ ば な らな か つ た と思 わ れ るに もかゝ わ らず,未 だ 寡 聞 に して 其 の研 究 竝 び に檢 査 成績 等 に つ い て の發 表 報 告 を 見 な い 。 吾 々は 此 の 度,東 北共 同 化 學工 業 株 式 會 社 の 厚 意 と要 請 に 應 じ同工 場 從 業 員 に つ い て,各 種機 能檢 査 を行 い檢 討 す る機 會 を 得 たの で,こゝ に 其 の檢 査 成績 を述 べ た い と思 う。

II檢 査概要 及び檢 査項 目

檢 査 日時 昭 和28年11月6日 檢 査 對 稱 東 北 共 同化 學 工 業 株 式 會 社,從 業 員17名(但 し直 接BHC粉 剤製 造 過 程 に た づ さわ つ て い る者 の み) 檢 査 項 目 と して は,1).血 液 檢 査2)・肝 臓 機 能 檢 査(血 清 に よ る)3).糞 便 竝 び に尿 檢 査4).臨 床 診 斷 (打聴 觸 診 所 見),更 に,既 往 歴 を も考慮 し,そ れ等 の 綜 合 所見 よ り檢 討 した 。 III檢 査 成績 1).血 液檢 査 所 見 表Iに 示 した如 く,各 人 の赤 血 球 数,白 血球 数,血 色 素 数(ザ ー リ氏 法),血 液 塗 沫 標 本(ギ ー ムザ 染色)に よ る 血液 像 に つ き檢 査 し,更 に,各 人 の エ ル モ ノ グ ラム を作 り檢 討 した。 表Iの1血 液 檢 査 所 見

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表Iの2エ ル モ ノ グ ラ ム 所 見

E (Eoisnophil).

L (Lymphocyte).

M (Monecyte).

N (Neutrophil).

2).肝 臓 機 能 檢 査 所 見

表IIに 示 した如 く,各 人 の血 清 に つ い て9項 目 の肝 機 能 檢 査 を實 施 し檢 討 した。 表II肝 機 能 檢 査 成績

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3).糞 便竝 び に尿 檢 査 所 見 糞 便 に つ い て は,色 調 外 觀 硬 度,消 化 状 態,潜 血 反 應,虫 卵檢 出(虫 卵 檢 出 は直 接 塗 沫 法 と苦 汁 浮 遊 法 に よつ た)1)を實 施 し,表IIIの 如 き所 見 を得 た 。 表III糞 便 檢 査 成績(直 接 塗 沫法 及 び 苦 汁浮 遊 法 に よつ た) 尿 檢 査 は蛋 白 反 應 に よ り腎 機 能 を,ウ ロ ビ リ ノー ゲ ン反 應 に よ り肝 機 能 を,更 に ニ ー ラ ン デル檢 糖 試 檢 に よ り糖尿 病等 の 内 分 泌 機 能 の窺 知 を 試 み,表IVの 如 き所 見 を 得 た 。 表IV檢 尿 成 績

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4).臨 床 所 見 及 び既 往 歴

勤續 年 数,性 別,職 種 別,既 往 歴,臨 床 所 見 を一 括 して 表Vに 示 した。 表V

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9,No.11,No.12,No.14,No.15,No.16,に 赤 血球 減 少 及 び血 色 素 低 下 を認 め るが,以 上 の8例 中6例 迄 寄 生 虫 卵陽 性 な るこ とよ り,こ れ 等 は前 述 の寄 生 虫 に よ る症 状 と考 え て差 支 え な い 様 に 思 う。猶,肝 機 能 檢 査 に お い て は,17例 中5例(29.4%)に 肝 機 能 障 碍 陽 性 所 見 を得 て お るが,No.4は 既 往 歴 と して 風 土 病 等 に も罹 患 して お り,同 時 にNo.16を 除 く他 の3例 と共 に多 数 の 寄 生 虫 卵 が 檢 出 され て お り,且 つ,5例 中3例 迄 鈎 虫 卵 陽性 な る点 よ り見 て,こ れ等,殊 に肝 臓 膽 管 系 に病 原性 あ る寄 生 虫 に よ る影 響 と考 え る こ とが 出來 る 様 に 思 う。 從 つ て,檢 査 從 業 員 の35.3%に 貧 血 所 見 を 認 め,又,29.4%に 肝機 能 障 碍 所 見 を 得 たが,こ れ 等 は 鈎 虫等 の寄 生 虫 に よ る もの と考 え る こ とが 出 來 る。 ただ,No.2の 肝機 能 障 碍 陽 性 及 びNo.15,No.16,の 貧 血 の 原 因 が必 ず しも寄 生 虫 と關聯 して は い な い が,殺 虫 剤BHCに よ る もの とも言 えな い 様 に思 う。 猶,尿 所 見 か ら は窺 知 し得 る腎 疾 患,肝 疾 患,悪 性 貧血,糖 尿 病 等 の病 的 所 見 は得 られ なか つ た 。

V結

以 上述 べ たBHC粉 剤 製 造工 場 從 業 員 につ い て の,殺 虫 剤BHCの 人 体 に對 す る毒 性 を 見 るに,今 回 の檢 査 結 果 よ り考 え られ る範 圍 に 於 い て は,本 剤 が 其 の工 場 從 業 員 に特 に 毒 性 を與 え る も の とは 考 え られ な い 。

1)移 川:東 北 医 學 雑 誌47巻3號9月P.213(膓 管 内 寄 生 虫 檢 査 法,特 に余 の 考 察 せ る稀 釋 苦 汁 浮 遊 法)

2) 黒川

移 川

:臨 床 昭 和24年2月P.638(膓 管 寄 生 に 關 す る經 驗) あ と が き 最 近 我 が 國 でBHC剤 が 有力 な る殺 虫 剤 と して登 場 して以 來 日は未 た淺 い の で あ るが,有 機 リン剤等 の毒 性 の 激 烈 な る もの に比 して,そ の 人体 に 及 ぼす 毒 性 は 殆 ん ど見 受 け られ な い 状態 で あ るの で,一 般 に は この 問 題 に 關 して は 無 關 心 の もの の 如 くで あ る。 然 し今 後 もそ の 普 及 性 は 相 當 大 きい とみ られ るか ら,我 々 と して は こ れ を等 閑 に附 して よ ろ しい とは考 え ら れ ない 。BHCの 毒 性 に關 して は,DDTよ りも尠 い と言 う説 も現 わ れ て 來 たが,果 して 然 るか と言 う具 体 的 實 験 に 至 つ て は,ま だ 寡 聞 に して 聞 か な い 。 然 し,BHC剤 の製 浩 販 費 を す る立 場 に あ る弊 社 と しては,そ れ で 宜 しい と言 う態 度 で は,決 して 良 心 的 で あ る とは 申 され な い 。 そ こで 昨 年,弊 社 は,東 北 大 學 医 學 部 黒川 内 科 に御 依 頼 して弊 社 の從 業 員 中,比 較 的BHCの 直 接 的 影 響 の 多 い作 業 員 を選 ん で,こ れ を 實 驗 の 對 象 と して選 び,同 内科 の助 教 授,齋 藤達 雄 博 士等 多 数 の先 生 方 に 出 來 る だ け 精 密 な る御 檢 討 を御 願 い した と こ ろ,非 常 に御 繁 忙 中 に も拘 らず,数 度 に亘 つ て御 來 診 をい た だ き漸 くそ の 第 一 回 の 報 告 を得 た次 第 で あ る。 弊 社 で は更 に3・4年 の繼 續 事 業 と して續 け て行 く予 定 で あ るが,そ の結 果 が 斯 界 に幾 分 で も貢 献 す る と ころ が あ れぼ 幸 い で あ る と考 え,茲 に第1年 度 の 成績 を發 表 す る事 に致 しま し た。 最 後 に,黒 川 内 科 教 室 の御 協 力 に 對 して 篤 く感 謝 の意 を表 します 。(東 北 共 同化 學 工 業 株 式 會 社)

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