研究資料
質的研究法を用いたテニス国際審判員におけるストレッサーの検討
村上貴聡(東京理科大学),阪田俊輔(九州産業大学),平田大輔(専修大学),松浦真澄(東京理科大学)
Ⅰ.はじめに 審判員の役割は試合において実際に生起する様々な事 象をルールに基づいてコントロールすることであり,上 手くやって当然,少しのミスも許されないため(小川, 2001),常にストレスフルな状況に置かれている.その ため国際審判員においてもストレスマネジメントの必要 性が指摘されている(日本サッカー協会,2002).例えば, Fry & Soften(1992)の研究では,サッカーおよびバレー ボールの審判員の20%が,自分自身あるいは家族への過 度な批判を経験したことから,審判活動を辞めたことを 明らかにしている.また,バスケットボール国際審判員 の45%が,ストレスのために頭痛や筋痙攣,血圧上昇な ど の 兆 候 が み ら れ た と す る 報 告(Anshel & Weinberg, 1995)もある.このようなストレス反応の多くは正しい 判定を行う上でマイナスに作用すると考えられるが,審 判員のストレス対策に着目した研究は我が国ではほとん ど行われてこなかった.テニス競技も例外ではない.と りわけ,国際審判員ともなればグランドスラムをはじめ, ATP(男子プロテニス協会)や WTA(女子テニス協会)の ツアー大会など,世界中から注目される大会で審判をし なければならない. これまでに様々な競技種目の審判員を対象として,審 判活動におけるストレッサーが検討されている.スト レッサーとは,個人の心身を脅かす環境や刺激(小杉, 2006),もしくは日常経験しなければならない煩わしさ (林,1990)と定義される.バスケットボール国際審判員 を対象に調査を行ったAnshel & Weinberg(1995)は,選 手やコーチ,観客からのクレーム,ミスジャッジへの不 安,位置取りのミス,パフォーマンス評価などを審判員 のストレッサーとして報告している.また,ハンドボーA qualitative examination of sources of stress in international tennis umpires
Kiso Murakami (Tokyo University of Science)
Shunsuke Sakata (Kyushu Sangyo University)
Daisuke Hirata (Senshu University)
Masumi Matsuura (Tokyo University of Science)
Abstract
Tennis judgement is a very exciting occupation and a stressful one in any stage.The purpose of this study, therefore, is to investigate the sources of stress for international tennis umpires. Five umpires with International Tennis Association budges of gold, silver, or bronze were interviewed about the stress they experienced as international umpires and asked to identify specific sources of stress. At the time of the interview, the average age of the participating umpires was 46.1 yr. with a range of 37 to 52 yr. Qualitative methodology was utilized in this investigation. An interview guide, comprising a series of open-ended and guided questions was developed for this investigation. These raw data responses were content analyzed; the three re-searchers discussed and came to a consensus on the grouping of the raw data responses, transforming them into meaningful subcategories and larger groupings. These raw data responses were content analyzed. Dimensions of stressors were identi-fied, including arguing with players, pressure, time demands, financial problem, fear of failure, interpersonal and peer conflicts, prolonged travel for expedition and object loss. This study examined the sources of stress experienced by tennis umpires. Overall, the present investigation revealed that the umpires in the present sample experienced similar sources of stress as other sport officials from previous research.
ル審判員のストレッサーとして,スコアキーパーのミス, 選手やコーチからのクレーム,審判間でのコミュニケーショ ン不足,コールミスなどが挙げられている(Tsorbatzoudis & Kaissidis, 2005).サッカー審判員では,失敗への恐れ や対人間葛藤,重要な試合,時間的負担,選手や観客か ら の 抗 議 な ど が ス ト レ ッ サ ー と し て 経 験 さ れ て い る (Voght,2009).以上の知見に鑑みたとき,審判活動にお けるストレッサーは競技種目で異なることが予想される が,テニス審判については明らかにされていない. JTA(日本テニス協会)が編集した新版テニス指導教本 (2015)によると,テニス競技における審判の役割は, チェアアンパイアが「プレーヤーがプレーに集中できる ような環境をつくり,試合進行に必要なアナウンスをし, スコアカードを記入し,時間を測る.また,プレーが規 則に則って行われていることを確認し,必要ならばプ レーヤーとコミュニケーションをとり,試合をスムーズ に進行させること」である.テニス審判員は,試合の円 滑な進行に注意を傾ける必要性と,選手,観客,メディ アなどから評価の対象となる態度に気を配る必要性があ り,多様なストレッサーが存在すると思われる.さらに, 近年は,審判の誤審を防ぐための補助システムとして国 際大会の主要なトーナメントでホークアイが導入されて きているが,このシステムはジャッジミスが映像によっ て露になるため,審判員にとっては新たなストレッサー ともなりかねないと考えられる. このようにテニス審判員は活動に際して,過度な精神 的圧力にさらされていると考えられるため,審判活動で 直面する様々なストレスへの対応を迫られながら試合で の判断を行っているといえる.そのため,テニス国際審 判員のストレスの実態を把握し,ストレスへの効果的対 処の検討を通して,テニス審判員のストレスマネジメン トに向けた支援策を講じることは重要である.ストレス 対策に取り組む最初の段階として,まずはテニス国際審 判員が審判活動を行う上で体験する悩みや負担の実態を 把握し,どのようなストレッサーがあるか検討すること が必要であろう.このことによって,テニス国際審判員 が遭遇するストレッサーの内容が理解され,ストレスマ ネジメントにおけるストレスの原因を特定することが可 能となる.このようなことから,本研究では,テニス国 際審判員が審判活動を行う中で経験するストレッサーを 明らかにすることを目的とする. Ⅱ.方 法 1.対象者 本研究の対象者は,研究への説明を受けた上で参加を 認めた国内外で活躍するテニス国際審判員5名(男性3名, 女性2 名;平均年齢 50.6 ± 3.4 歳)であった.審判の平均 経験年数は19.4 年± 5.7 歳であり,対象者は ITF(国際テ ニス連盟),ATP,WTA の基準に従い認定された審判資格 を有していた. 2.調査方法 1)インフォームド・コンセント 研究目的を伝えた上で,インタビューでの発言によっ て個人が特定されないように配慮すること,ならびに研 究データとしてインタビュー内容をIC レコーダーに録音 することを説明し,同意を得た.また,これまでの辛い 体験について話をしてもらうことから,対象者の心理的 負担も考えられる.そのため,インタビューの途中で あっても,自身の意思で研究への参加を止めることを選 択する権利を保障するなど,人権の尊重と安全の確保を 最優先し,十分な倫理的配慮を行った. 2)インタビュー方法 インタビューガイドラインを事前に作成するという半 構造化面接法を用いて,テニス国際審判員のストレッ サーに関してインタビューを行った.対象者には承諾を 得た上で約40 分のインタビューを 1 対 1 で行った.本研 究では,あらかじめ調査項目を準備することにより,対 象者間で調査内容に差異が生じないように構造を保つこ とと,対象者の状況や回答に応じて質問の表現や順序を 変更する自由度を確保すること,という2 つの目的を満 たすために半構造化面接法を採用した.インタビューに 際して作成したガイドにおいて,「審判活動を行う上で 体験している悩みごとや負担であると感じる出来事(ス トレッサー)をいくつでもお答えください.また,その 出 来 事 に よ っ て 心 や 身 体 に ど ん な こ と が 起 こ り ま す か?」という質問を軸に,ストレッサーについて回答を 求めた.インタビューの内容は録音した後に逐語化し, ストレッサーに関する発言を抜き出した. 3)分析 インタビューによる回答内容の整理・集約は,スポー ツ心理学の専門家2 名およびストレス研究の専門家 1 名 の分析者によって行った.まず,インタビューにおける 全ての会話内容を書き起こし,逐語録を作成した.次に, インタビューで報告された審判員のストレッサーについ て,2 名の分析者により内容分析を行った.分析の手順と して,ストレスに関連すると思われる文章や成句を逐語 録の中から抽出した.そして抽出した内容を,適切かつ
簡潔な言葉で類型化した.類型化した内容については, 意見が一致するまで分析者間で議論を行い,内容を整理・ 集約した.その後,2 名の分析者によって得られた結果を 残りの1 名の分析者が再度吟味した.なお,内容が曖昧 な回答および意味が不明瞭な回答は,分析の過程で除外 した.Lincoln & Guba(1985)によると,この手順を繰り 返すことでトライアンギュレーションが確立され,デー タの信頼性を高めることが可能とされている. Ⅲ.結 果 25 ページ(40 字× 36 行)にわたるテクストデータから 得られた70 の意味単位を,本研究における分析対象とし た.表1 にはテニス国際審判員のストレッサーとして抽 出された内容についての分析結果を示した.まず,内容 の類似性により細かく分類し,サブカテゴリーをつくっ た.さらにサブカテゴリーで類似するものを組み合わせ, 最終的に9 つのカテゴリーに類型化した.類型化された 内容としては,(1)選手への対応,(2)プレッシャー, (3)時間的負担,(4)金銭的負担,(5)ジャッジパフォー マンス,(6)審判間・競技団体(以下,NF)との関係性, (7)遠征・移動,(8)試合環境,そして(9)目標の喪失 であった.抽出された内容は表2 のとおりであり,以下 に類型化された結果の代表的な叙述を示した. 1.選手への対応 まず,「選手への対応」のカテゴリーは,「選手からの 抗議」「選手からの圧力」「選手からのリスペクト不足」 「選手からの不信感」および「責任感」のサブカテゴリー から構成された.例えば,「選手からの抗議」のカテゴ リーでは,クレームをつけられることも多かった.審判 はそれが当たり前.特にテニスはその頻度が高いような 気がする (A 氏)など,審判への抗議に関する回答が多 くみられた.「選手からの圧力」のカテゴリーでは,心 理戦なんですよ.ある程度プレッシャーかけて,自分に カテゴリー サブカテゴリー 実際の発言例 選手への対応 選手からの抗議 クレームをつけられることもあった.審判はそれが当たり前 選手からの圧力 ある程度プレッシャーかけて,自分に有利なジャッジをしてくれたらという人もいる 選手からのリスペクト不足 男子のトップの試合で女性が入ることで,もうそこで既にマイナス 選手からの不信感 ジャッジが選手に信頼を得られているのか,それからくるストレスはある 責任感 選手が良い集中力の中で試合ができるか,それを思う責任感がある プレッシャー 評価に対するプレッシャー 上級審判や海外からきている審判から評価をもらうのでプレッシャー メディアに対するプレッシャー ライブストリーミング用にマイクが設置されており,言うことがだだ漏れ 大会の重要度 大きいスタジアムでやる試合と小コートの試合では心理面での違いがある 観客からのプレッシャー Davis cupではボールの跡を見に行くとブーイングが起きた 時間的負担 活動時間 2ヶ月連続出ずっぱりでアメリカのツアーを周ったりしている 家族との時間の喪失 家にいない時間が多い 家族の協力不足 審判の話を家でするのも禁句だったくらい.審判の話を一切家ではしなかった と る み ら か 人 本 日 , が る あ で 額 金 い 良 は で 国 い 低 の 準 水 価 物 当 手 担 負 的 銭 金 いいわけではない 自己負担 フレンチ,ウィンブルドンの間は海外にいる.その分持ち出しで経費がかかる ジャッジパフォーマンス 集中力の持続 集中力を抜かないということを心掛けていないとミスが起こる い な ら な ば れ け な さ 下 を 定 判 に ル ー ボ い し 厳 ど ほ る い て れ か 置 に 境 環 い 高 の ル ベ レ 定 判 ミスへの恐れ ジャッジをし損ねた時に,引きずってしまってストレス 審判間・NFとの関係 審判間の関係性 厳しい方とか,アイコンタクトのない主審もいる NFとの関係性 以前はよくない関係の時があり,気持ち的にはしんどかった 遠征・移動 交通手段 必ずしも楽な交通手段ばかりではない 遠征の準備 それぞれの場所で居心地を良くするため,荷物の準備がものすごくストレス い し 厳 が き と た っ 帰 に 本 日 は て い つ に 差 時 差 時 い い 番 一 が 食 本 日 り は や . る あ が ス レ ト ス の 食 事 食 試合環境 試合時間 3時間を超える試合を2回することもあるし,3回ということもある 暑さ(天候) コートに日影がない場合もある.それはきつい 変化の少なさ 変化が少ないので,長くなると目に見えないようなプレッシャーからくる負担 目標の喪失 目標喪失による意欲の低下 目標を叶えた後に,次をなかなか探せないという変なストレスがある 表1 テニス国際審判員のストレッサーの内容
有利なジャッジをしてくれたらというような人もいる (B 氏),やはりプレッシャーかけてくる選手,プレッ シャーをかけるのが上手い選手,特に海外,欧米の選手 は多い (C 氏)など,選手から圧力を受けるといった回 答が示された. また,「選手からのリスペクト不足」では,男子のトッ プの試合で,女性が入ることで,もうそこで既にマイナ ス.アジアの女性で誰だか分からないという印象を持た れる.そこで軽くみられないようにしないといけない (D 氏)という回答があった.「選手からの不信感」では やっぱりジャッジが選手に信頼を得られているのかな, (主審の)経験がラインパーソンに比べて少ない分,スト レスはある (C 氏),そして「責任感」では 選手が良い 集中力の中でできる試合になっているのだろうか.それ を思うときに責任感とそれからくるストレスを感じる (C 氏)などの回答が含まれた. 2.プレッシャー 「プレッシャー」のカテゴリーは,「評価に対するプ レッシャー」「メディアに対するプレッシャー」「大会の 重要度」そして「観客からのプレッシャー」といった4 つ のサブカテゴリーから構成された.具体的には,「評価 に対するプレッシャー」というカテゴリーには,始めた 頃は常に上級審判や海外からきている審判から評価をも らうのでプレッシャーではあった (A 氏),誰も見られ ていないときと比べると,見られているからキチっとし ないとなという気持ちがある(D 氏)など,自身のジャッ ジに対して評価を受けることへのプレッシャーに関する 回答がみられた. 「メディアに対するプレッシャー」には ライブスト リーミング用にマイクが設置されており,言うことが全 世界にだだ漏れなんですよね (B 氏),〇〇のスポーツ 紙にインタビューも受けたんですよね.非難する人もい て,自分はコントロールしきれないし.当時はテレビも 流れていたし,新聞にも載ったし (C 氏)といった,メ ディアに関する回答が含まれた. また,「大会の重要度」については,大きいスタジア ムでやる試合と端の方にある小コートの試合では心理面 での違いがある (E 氏),大きな大会だと緊張感が変 わってくる (B 氏)など,大会によってプレッシャーが 異なるという回答がみられた. 続いて,観客の抗議に関するサブカテゴリーもテニス 審判員のストレッサーとして報告された.例えば,観客 か ら の プ レ ッ シ ャ ー や ス ト レ ス は 常 に あ る. や は り Davis Cupなどの国別対抗戦になれば,当然ある.先日 も〇〇に行ってきたが,クレーコートだったため,ボー ルの跡を見に行くとブーイングが起きた (B 氏)との内 容から,「観客のプレッシャー」とした. 3.時間的負担 「時間的負担」のカテゴリーは,「活動時間」「家族との 時間の喪失」そして「家族の協力不足」の3 つのサブカテ ゴリーから構成された. 例えば,「活動時間」には 大会 が続くと8週間連続で出たり,2か月連続出ずっぱりでア メリカのツアーを周ったりしている (A 氏),試合の移 動によるストレスは大きい.家にいない時間が多い.年 間の大会25週のうち21週が海外である.4週だけしか日 本にいないので家にいないことへのストレス (B 氏)と いった遠征期間が長期にわたる内容が述べられた.続い て,「家族との時間の喪失」については 一番は自分がた くさん海外に行ってたりして,日本に家族を置いて周っ ているので,それはいいのかなって思うストレスはある カテゴリー サブカテゴリー 選手への対応 選手からの抗議や圧力に関すること プレッシャー 評価,メディア,観客からのプレッシャーに関すること 時間的負担 審判活動に費やす時間的負担に関すること 金銭的負担 審判活動に費やす金銭的負担に関すること ジャッジパフォーマンス 試合中の集中力,判定,判定ミスに関すること 審判間・NFとの関係性 他の審判員やNFとの人間関係に関すること 遠征・移動 交通手段や時差,食事,荷物の準備などの遠征に関すること 試合環境 試合時間,天候など試合環境に関すること 目標の喪失 目標喪失による意欲の低下に関すること 表2 抽出されたカテゴリーの説明
(C 氏)などの回答が,また「家族の協力不足」には 審判 に大反対だった.審判の話を家でするのも禁句だったく らい.疲れたというなと言われていた.審判の話を一切 家ではしなかった (C 氏)といった家族に関する回答が 示された. 4.金銭的負担 「金銭的負担」のカテゴリーは「手当」および「自己負 担」のカテゴリーから構成された.例えば,「手当」につ いては ITFから指定される金額が全世界共通して一律で ある.物価水準の低い国では相対的には良い金額である が,日本人からみるとそれほど良いわけではない (A 氏),また「自己負担」に関しては 交通費もホテル代も でなかったので,青春18きっぷとか夜行バスとか使って, 家計に負担をかけるのが嫌だなと思って,できるだけ安 くしてた (C 氏),本場はヨーロッパなので,特にフレ ンチ,ウィンブルドンの間はクレーコート,芝のコート. あいにくこのコートが日本にないので,その間は向こう (海外)にいるようにしている.その分持ち出しで経費が かかる (E 氏)など,審判活動に対する費用に自己負担 をしなければならないことが報告された. 5.ジャッジパフォーマンス 「ジャッジパフォーマンス」に関するカテゴリーは, 「集中力の持続」「判定」そして「ミスへの恐れ」のサブカ テゴリーから構成された.全ての審判員がジャッジパ フォーマンスに関するストレスを抱えており,負担があ ることが示された.例えば,「集中力の持続」については 集中力を一瞬たりとも抜かないということを心掛けてい ないとミスが出てくる.一番はそこである (A 氏),ま た「判定」については レベルの高い環境に置かれていれ ばいるほど厳しいボールに判定を下さなければならな い.そういうところでは男子のトップレベルになるほど, プレッシャーやストレスが全く違う (A 氏)といった内 容が述べられた.また,ミスはしたくないというのがあ るので,1時間とか45分とか決まっている時間が長く感 じることがすごくストレスである (C 氏),自分にとっ てジャッジをし損ねたとか,何らかの原因があった場合 には引きずってしまって,しばらくストレス (D 氏)と いった「ミスへの恐れ」に関する内容も示された. 6.審判間・NF(競技団体)との関係性 「審判間・NF との関係性」に関するカテゴリーは,「審 判間の関係性」および「NF との関係性」のサブカテゴリー から構成された.興味深い叙述として,一緒に入る人に よってもストレスはある.例えば,厳しい方とか,アイ コンタクトってできるだけ気をつけて主審を見なさいっ て言われているが,アイコンタクトのない主審もいる (D 氏),やり取りの中で委員の方と今は良い関係だが, 以前は良くない関係のときがあった.気持ち的にはしん どかった (C 氏)と回答しており,対人関係にもストレ スを抱えていることが示された. 7.遠征・移動 「遠征・移動」に関するカテゴリーは,「交通手段」「遠 征の準備」「時差」そして「食事」の4 つのサブカテゴリー から構成された.具体的には,毎週毎週バスで移動だっ たり,必ずしも楽な交通手段ばかりではない (C 氏), それぞれの場所で居心地が良いように過ごすために不必 要なものをたくさん持って出かけていくので,その荷物 の準備がものすごくストレス (D 氏),時差については 日本に帰ってきたときが厳しい.特にヨーロッパから7, 8時間の時差があり,戻ってきたときは1週間ほどきつ い (B 氏)などの内容から,長期の移動に関わる負担が 示された. 8.試合環境 「試合環境」に関するカテゴリーは,「試合時間」「暑さ (天候)」そして「変化の少なさ」の3 つのカテゴリーから 構成された.例えば,ある審判は 3時間を超える試合を 2回することもあるし,3回ということもある.テニスは 時間が決まっていない (A 氏),変化が少ないので,特 にラインパーソンは長年やっているので.やはり長く なってくると,目に見えないようなプレッシャーからく るストレスがある (C 氏)など,テニス審判員特有のス トレッサ―が示された. 9.目標の喪失 最後のカテゴリーは,(ウィンブルドンで審判をする という目標が)叶ったあとに,次に目標が...目標をな くしたときに何かが欲しいって心の底から思うが,次を なかなか探せないという変なストレスがある (C 氏)と の回答から,「目標の喪失」とした. Ⅳ.考 察 本研究の目的は,テニス国際審判員の審判活動におけ る悩みごとや負担の実態といったストレッサーを半構造 化面接法によって抽出し,テニス審判員のストレスマネ ジメントにつながる有用な知見を提示することであっ た.本研究の対象者はITF,ATP,WTA の資格を有するテ
ニス審判員であり,グランドスラムをはじめ国際大会で 活躍するなど豊富な審判経験があった.審判は裏方的な 仕事であり,うまくできて当たり前,1 つでもミスを犯す と選手,指導者,観客などの批判の的になる(上川, 2008)と言われている.審判員はそのようなストレスフ ルな状況の中でストレス対策を行い,心理面を調整して いくことが必要とされる. インタビュー調査で得られたデータの分析を行った結 果,テニス審判員が日常や審判活動で経験する主なスト レッサーとして,「選手への対応」「プレッシャー」「時間 的負担」「金銭的負担」「ジャッジパフォーマンス」「審判 間・NF との関係性」「遠征・移動」「試合環境」そして「目 標喪失」の9 つのカテゴリーが抽出された.このように 多種多様なストレッサーが報告されており,テニス国際 審判員はコート内における特定のストレッサーだけでは なく,日常場面も含めた様々なストレッサーを同時に経 験していることが示唆された. まず,テニス国際審判員のストレッサーとして,「選 手への対応」が報告され,選手からの抗議や圧力がスト レスになることが示された.当然,曖昧な判定があった 場合,あるいはコードバイオレーション(スポーツマン シップやマナーに関する違反)の警告をとった際には, 選手からの抗議が想定される.中には激しく圧力をかけ てくる選手もでてくるだろう. 続いて,「自分のパフォーマンスの評価」や「メディア」 「観客」など,プレッシャーに関する内容が多くの対象者 から報告された.より上級の審判資格を得るためには, ITF 専属の評価者からアセスメントを受け,自身のパ フォーマンスを評価される必要がある(ITF,2016).ま た,最近では下部大会であるATP チャレンジャーツアー の映像も,インターネット上で全世界にストリーミング 中継されており,そのプレッシャーは計りしれない.こ のようなことから,様々なプレッシャーがテニス国際審 判員にとってストレッサーとして経験されることが示さ れた.こうした状況は,シンクロナイズドスイミングの 審判員を対象とした研究(本間,2002)において「耐スト レス性の高いこと」が審判員に必要な条件とされている ことにも表れていると言えよう. 「時間的負担」にカテゴリー化された項目では,活動時 間,家族との時間の喪失が含まれた.ATP や WTA,ITF などの大会は世界各国で行われており,テニスの国際審 判員ともなれば1 年間の大半を海外で過ごすことも予想 される.そうした海外遠征の影響として,家族との生活 や本務・仕事に十分な時間を当てられなかったりするだ ろう.海外遠征に伴う国際審判員の時間的な負担は,審 判員が安心して関われるような審判活動を考える上で一 つの課題であるといえる. 金銭的な負担は大会規模によって異なるだろうが,国 内においてはいくらかの日当が確保される一方,交通費 や宿泊費が提供されない大会も見受けられる.自己研鑽 のために多くの大会で経験を積みたいという思いが強い ほど,支出が増すことが考えられる.大会予算が潤沢で あればよいが,そうでない場合には審判員自身の負担に よってそれをまかなうこともあるということである.基 本的には審判はボランティアであるが,先の時間的負担 と同様に,審判員が安心して審判活動を行う上で課題と なる. ジャッジパフォーマンスに関するストレッサーは「集 中力の持続」「判定」「ミスへの恐れ」から構成された.テ ニスの試合時間は,男子の場合,長くなれば3 時間,4 時 間とかかるため,長時間にわたって集中し続けなければ ならない.また,近年,大規模な大会では判定ミスの問 題を解決するために,テクノロジーを用いたホークアイ による判定が行われており,誤審をなくす動きが活発化 している(柏原,2015).こうした技術の導入は誤審をな くす一方策となるだろうが,その一方で審判員にとって もストレッサーになりかねないと考えられる. 審判間の人間関係がストレッサーとして抽出されたこ とにも注目したい.人間関係に関するストレッサーはテ ニス審判員に限ったことではなく,あらゆる職業に広く 共通することである(島津,2006).大規模な大会では, 審判は主審・副審,そして線審の複数名で構成される. よって審判は一人で行うものではないため,審判員全員 のチームワークが必要になってくる.しかしながら,線 審のミスジャッジに対して激しく非難する主審や,とき にはアイコンタクトなどのメッセージを送らない審判も いるようである.このような審判員間の人間関係もまた テニス審判員のストレッサーの1つであることが示され た. 試合環境のカテゴリーは,「試合時間」「暑さ」「変化の 少なさ」から構成された.先述したようにテニスはスポー ツの中でも最も試合時間が長い競技の一つである.主審 ともなれば,数時間もの間,ジャッジを担当しなければ ならないのが現状である.また,時期にもよるが暑熱環 境下での活動もある.さらに,線審の役割は「担当する ラインのイン・アウトを判定する」こと(日本テニス協 会,2015)から,集中力が必要な一方で単調な作業が続 き変化が少ない.このような環境的な負担もまたテニス 国際審判員が経験するストレッサーであるといえる. そのほか,遠征・移動のカテゴリーは,「食事」「時差」
「交通手段」「荷物の準備」から構成された.国際審判員 は海外での活動も多く,報告された食環境や時差などの 問題は当然であり,国によっては命がけで行く場合もあ る.さらに長期にわたる遠征になれば,その準備も負担 になると考えられる.このような遠征や移動に関わるこ とが,テニス国際審判員にとってストレッサ―となるこ とが示された.最後のカテゴリーは目標の喪失であるが, 審判員はプレーヤーとは異なり,大会ごとの目標を設定 しにくいとも考えられる.この目標喪失による意欲の低 下が審判活動を行う上で課題となることが明らかにされ た. 以上,ここまでの検討において,テニス国際審判員が 審判活動を行う中で体験するストレッサーが大枠として 示された.本研究で得られたストレッサーの大部分は, 海外における審判員を対象とした(テニスの国際審判員 を対象としていない)研究(Voight, 2009; Mirjamali et al., 2012)において得られている知見と共通していた.「選手 からの抗議」「時間的な負担」「ミスへの恐れ」「審判間の 関係性」はVoight(2009)および Mirjamali et al.(2012)に お い て,「 ジ ャ ッ ジ パ フ ォ ー マ ン ス 」 はMirjamali et al.(2012)の研究で,「プレッシャー」は Voight(2009)に おいてもストレッサーとして挙げられている.しかし, 先行研究と異なる要因も抽出された.特に,「金銭的負 担」「遠征・移動」そして「試合環境」はテニス国際審判 員特有のストレッサーであり,審判活動を行う上で大き な影響を持つことが推測された. 本研究においては,対象者全員が国際試合の活動を主 としており,その活動におけるストレッサーを特定でき たことは,テニス審判員のストレスマネジメントの一助 となると考えられる.今後は,国内大会の審判を務める 審判員を対象とした調査を行うことで,今回得た知見の 汎用性を高めるとともにストレス反応とストレスコーピ ングとの関連性について明らかにし,審判員のストレス マネジメントの方策について検討を深めたい. Ⅴ.まとめ 本研究は,テニス国際審判員を対象にして,審判活動 で生じるストレッサーについてインタビューの手法を用 いて検討を行った.テニス国際審判員が審判活動を行う 上で体験するストレッサーは9 つのカテゴリーに類型化 された.これらの内容は他種目の審判員のストレッサー に関する先行研究と同様の結果もみられた一方で,テニ ス審判特有のストレッサーも存在することが明らかにさ れた.これまで,テニス競技における審判員のストレッ サーを把握するための研究は国内外でみられなかった が,今回,ストレッサーの内容を明らかにしたことは, 現場での実践に貴重な示唆を与えると考えられる.今後 は,本研究を基礎資料として,テニス審判特有のストレ スマネジメントプログラムなどを考案し,現場に提供す ることが期待される. 付記 本研究は,JSPS 科学研究費補助金基盤研究(C)「課 題番号17K01688:審判員に対するストレスマネジメン トプログラムの開発と評価」の助成を受けて実施された. 謝辞 インタビュー調査にご協力いただいた,日本テニス協 会審判員の皆様に心よりお礼申し上げます. 文献
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