インターフェロン誘発性抑うつモデルラットにおける海馬神経細胞新生に対するミルナシプランの効果
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(2) 356. Brain Science and Mental Disorders Vol.20, No.4, 2009. 有用であり,これらの試験において自発運動量の 変化なしに無動時間が延長した動物はうつ状態の モデル動物と考えられている。この無動時間の延 長が,マウスに hIFNαを 1 週間連続投与するこ とによって,またラットに hIFNαを慢性投与す ることによって認められる。 hIFNαによる精神障害の発症機序は,β-エン ドルフィン系を刺激することによって精神障害を 発症させるという説の他に,ドパミン系を介する 説,サイトカインを介する説が提唱され,低濃度 ではあるが,血液脳関門の働きが不十分と思われ る第 3 脳室前壁近傍などから中枢神経系に hIFN の移行が確認されている。また末梢において IFN は構造が類似した ACTH として作用し,コルチ ゾール分泌促進を介して精神症状を発症させると いう説も挙げられている。MRI で海馬の容積の減 少がうつ病の罹病期間と相関すること,抗うつ薬 が海馬における神経細胞新生を促進することか ら,うつ病は海馬の神経可塑性,特に神経細胞新 生の障害と関係し,うつ病の抑うつ感情や仮性痴 呆のような認知的障害などは一部,海馬の機能障 害によるものと考えられ,この内因性うつ病と同 様に,hIFNαの中枢神経系への有害作用の一部 も海馬の変化によって生じる可能性がある。しか し,この可能性を,特に海馬の神経細胞新生に焦 点を絞り,実験動物を使って調べた研究はまだ報 告されていない。 hIFN 療法による精神症状の治療には,hIFN の 減量,中止および種類の変更,薬物療法,心理社 会的アプローチが挙げられる。一般的には抑うつ 状態の出現とともに hIFN 療法を中止または減量 することが望ましいとされているが,hIFN の対 象疾患は他に有効な治療法がないことが多く,ま た C 型肝炎の hIFN 療法では減量や中断によって それまで蓄積された効果すべてが無効になってし まうため,抗うつ薬による薬物療法の併用により コントロールしながら治療を続けていくことが一 般的である。Musselman らは,hIFN 投与開始 2 週間前からパロキセチンを予防投与した群と対照 群で,大うつ病性障害(以下うつ病)の診断基準 を満たした割合を比較しており,パロキセチンの 予防投与によってうつ状態の発生率が低下したこ. とを報告している 5)。このような抗うつ薬の効果 はヒトだけではなく,動物においても見られてい る。Makino らは,マウスに hIFNαとイミプラミ ン,ミアンセリンをそれぞれ強制水泳実験 15 及 び,30 分前に同時投与し,無動時間に関して対照 群との間に差を認めず,hIFNαの影響を抑制す る結果を得ている 6)。しかし,これは急性投与実 験であり,慢性投与実験において hIFNα誘発性 うつ状態に対する抗うつ薬の有効性を調べた実験 は報告されていない。 また,hIFN 療法の必要な肝機能障害を持つ患 者において肝臓で代謝する抗うつ薬の使用は困難 な場合がある。この点に関して,肝臓のミクロゾ ーム代謝経路を経由しないことから薬物相互作用 も少なく,腎臓から排泄される薬剤である抗うつ 薬の,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み 阻害薬(SNRI)のミルナシプランは,hIFN の治 療を受けている C 型肝炎の患者にも使用しやすい と考えられる。しかし,ミルナシプランは治療に 用いられるようになってから間もないこともあ り,IFN 療法に対し効果を示す症例があるものの 作用機序の研究報告はない。我々の予備実験では, ミルナシプランの単独投与により強制水泳の無働 時間を短縮させる結果を得ている。そこで本研究 は,ラットへ hIFNαを慢性投与してうつ状態の モデル動物を作成し,ミルナシプランの行動面に 対する効果を調べ,さらに,hIFNαの慢性投与 によるうつ状態の発症と,ミルナシプランによる 回復に海馬の神経細胞新生が関係しているか否か を調べた。. 2.対象と方法 1.実験動物及び飼育条件 実験には,8 週齢の Wistar/ST ラットの雄を用 いた(SLC Japan,体重 260−290g)。ラットは, 室内の温度 22 ± 2 ℃,照明条件は点灯 6 時,消 灯 18 時の 12 時間の明暗サイクル,餌と水は自由 に摂取できる環境で飼育した。自発運動量,強制 水泳試験,テールサスペンション試験の行動実験 に用いたラットは,1 群 7 匹づつで,対照群, IFN 単独投与群,IFN ・ミルナシプラン同時投与.
(3) 脳と精神の医学 第 20 巻 第 4 号 2009 年. 357. 群の 3 群で行った。すべてのラットは個別飼育し, を観察した。行動はビデオに記録し,後日解析を 行った。水の外に顔を出すために必要な動き以外 飲水量,食餌量,体重を毎日測定した。また,海 は見られない,浮いている状態を無動と定義した。 馬内の神経新生やセロトニン,ノルアドレナリン 代謝率の実験に用いたラットは,1 ケージ 3 匹の (3)テールサスペンション試験 ラットの尻尾に粘着力の強いテープを巻き,高 集団飼育を行った。すべてのラットは搬入後山梨 さ 150cm からつり下げた。テストは 6 分間行い, 大学動物実験センターで飼育され,順応期間 1 週 その間の無動時間を測定した。行動はビデオに記 間の後,実験に用いた。本実験は山梨大学動物実 録し,後日解析を行った。ここでの無動は,尻尾 験委員会の承認を得て行った。 からつり下げられた状態でまったく動かないこと を指し,前肢で尻尾につかまり動かない状態は無 2.薬物投与 動には含めなかった。 hIFNα(住友製薬)は,投与直前に 0.9 %食塩 水に溶解し腹腔内投与した。投与量は,強制水泳 試験,テールサスペンション試験での無動時間が 有意に延長し,自発運動量には影響が見られない 500,000IU/kg とした。ミルナシプラン(旭化成) は,蒸留水に溶解し経口投与をした。投与量は, Mochizuki ら 7)の報告を参考に,強制水泳試験の 無動時間が有意に短縮される 60mg/kg とした。 投与方法は,ミルナシプランを 1 週間連続で先行 投与した後,hIFNαとミルナシプランを 1 週間 同時投与した。それぞれの対照群には,0.9 %食 塩水,蒸留水を上記と同様の方法で投与した。こ れら薬物の最終投与は,慢性投与における影響を みるため,すべての実験において実験開始 24 時 間前に行った。. 4.BrdU 免疫染色 ミルナシプランと hIFNαの最終投与日に, bromodeoxyuridine(BrdU,200mg/kg)をラッ トの腹腔内に 6 時間おきに 4 回投与した。ミルナ シプランと hIFNαの最終投与 24 時間後に心臓還 流固定を行い,固定後ラットの脳をすばやく取り 出し,−80 ℃で凍結させた。凍結した脳から, Paxinos と Watson の脳地図 9)を参考にして 40μm. の厚さの前額断面切片を作成した。染色には 200 μm間隔の 10 枚の切片を使用した。脳の切片は, DNA の変性を行うために 2 × saline sodium citrate(SSC)で処理し,50 %ホルムアミドに 30 分間,65 ℃でインキュベーションした。次に, 2N 塩酸に 37 ℃で 30 分インキュベーションし, 内因性ペルオキシダーゼをブロックするために 3.行動実験 3 %過酸化水素水に 10 分間インキュベーションし (1)自発運動量 た。その後 10 %ウサギ血清に 30 分間インキュベ 自発運動量の測定は,強制水泳試験の前日に行 ーションし,抗 BrdU 抗体(1000 倍希釈, った。ラットをケージごと実験室に運び,ケージ Exalpha AP205P)にて 4 ℃で 24 時間インキュベ の上部 30cm に実験動物用自発運動量センサー ーションした。翌日,ビオチン化抗羊 IgG の 2 次 (NS-AS01,ニューロサイエンス)を設置し,放 抗体に 1 時間インキュベーションした後,アビジ 射状に照射される赤外線によって自発運動量を測 ン・ビオチン・ペルオキシダーゼ複合体によって 定した。5 分ごとの自発運動量を求め,計 1 時間 増幅させ,3, 3’-diaminobenzidine で発色させた。 記録した。 染色切片は 400 倍あるいは 1000 倍に拡大して, (2)強制水泳試験 8) BrdU 陽性細胞を同定し,核内に BrdU 陽性像を 強制水泳試験は,Porsolt ら の方法を一部変 示し,焦点平面の合う細胞のみを数えた。1 匹当 更して行った。直径 18cm,高さ 60cm の透明の プラスチック容器に,深さ 25cm まで水を入れ, たり 10 ∼ 12 枚の切片における海馬傍歯状回と海 ラットの尻尾のみが底についている状態にした。 馬門に観察される BrdU 陽性細胞を計測対象と し,BrdU 陽性細胞数を歯状回面積で除した値 水温は 25 ℃,1 匹ごとに水は交換した。テストは 6 分間水の中にラットを入れ,その間の無動時間 (細胞数/mm2)を BrdU 陽性細胞数とした。.
(4) 358. Brain Science and Mental Disorders Vol.20, No.4, 2009. 図1 薬物慢性投与後の強制水泳試験での無動時間 強制水泳試験は薬物最終投与の 24 時間後に行い,無動時間を測定した。各値は 平均値±標準誤差で示す。分析は one way ANOVA を用い,post hoc test には Bonferroni/Dunn の検定を用いた。* P < 0.05. 5.カテコールアミン分析 3.結 果 ミルナシプランと hIFNαの最終投与 24 時間後 に無麻酔下で断頭を行い,すばやくラットの脳か 1.自発運動量 ら海馬を取り出し,ドライアイスで凍結させた。 hIFNα単独投与群においても,hIFNα・ミル 株式会社 SRL に測定を依頼し high-pressure liqナシプラン同時投与群においても 1 時間の自発運 uid chromatography 法でセロトニン,5-hydrox動量に対照群と差を認めなかった。 yindoleacetic acid(5HIAA) ,ノルアドレナリン, 3-methoxy-4-hydroxy-phenylethyleneglycol 2.強制水泳試験 (MHPG)の定量を行った。セロトニンの代謝回 hIFNα単独投与群は対照群より無動時間が約 2 転率は 5HIAA/セロトニンの比として,ノルアド 倍程度有意に延長した(F2,14 = 7.803,P<0.05) レナリンの代謝回転率は MHPG/ノルアドレナリ (図1)。hIFNα・ミルナシプラン同時投与によ ンの比として求めた。 って,hIFNα単独投与後の無動時間の延長が有 意に抑制され(P<0.05),hIFNα・ミルナシプラ 6.分析方法 ン同時投与群と対照群の間では無動時間に有意差 統計処理ソフト Stat View を用いて,統計処理 は認められなかった。 を行った。自発運動量実験の 3 群の比較には Repeated measures ANOVA を用いた。強制水泳 3.テールサスペンション試験 試験,テールサスペンション試験,BrdU 陽性神 hIFNα単独投与群では対照群より無動時間が 経細胞数,セロトニン,5HIAA,ノルアドレナリ 約 2 倍程度有意に延長した(F2,18 = 6.089, ン,MHPG 含有量,セロトニン及びノルアドレナ P<0.05)(図2)。hIFNα・ミルナシプラン同時 リン代謝回転率に関するラット 3 群の比較には 投与群では無動時間が hIFN α単独投与群の約 one way ANOVA を用い,post hoc test には 70 %のレベルにまで低下したが,強制水泳試験の Bonferroni/Dunn の検定を用いた。危険率 P < 結果とは異なり,hIFNα・ミルナシプラン同時 0.05 を有意とした。図は平均値±標準誤差で示し 投与群と hIFNα単独投与群の間では無動時間に た。 有意差は認められなかった(P>0.05)。.
(5) 脳と精神の医学 第 20 巻 第 4 号 2009 年. 359. 図2 薬物慢性投与後のテールサスペンション試験での無動時間 テールサスペンション試験は薬物最終投与の 24 時間後に行い,無動時間を測定した。 各値は平均値±標準誤差で示す。分析は one way ANOVA を用い,post hoc test には Bonferroni/Dunn の検定を用いた。* P < 0.05. 図3 薬物慢性投与後のラット海馬歯状回における BrdU 陽性細胞数 BrdU 免疫染色を行った後,海馬傍歯状回および海馬門の増殖層に存在する BrdU 陽性 細胞数(細胞数/mm2)を測定した。各値は平均値±標準誤差で示す。分析は one way ANOVA を用い,post hoc test には Bonferroni/Dunn の検定を用いた。* P < 0.05. 4.海馬傍歯状回の BrdU 陽性細胞数 BrdU 投与後,海馬傍歯状回および海馬門の増 殖層に BrdU 陽性細胞が散在するのが観察され た。顕微鏡観察下においても,hIFNα単独投与 によって BrdU 陽性細胞数が減少し,この減少が hIFNα・ミルナシプラン同時投与によって増加 する傾向がわかった。BrdU 陽性細胞を数えて定 量解析した結果,hIFNα単独投与群では対照群 より BrdU 陽性細胞数が約 30%程度有意に減少し. ていた(F2,15 = 8.765,P<0.05)(図3)。この hIFNα投与による BrdU 陽性細胞数の減少はミル ナシプラン投与によって回復し(P<0.05),hIFN α・ミルナシプラン同時投与群では対照群と BrdU 陽性細胞数に有意差はみられなかった (P>0.05) 。 5.海馬組織内のセロトニン,ノルアドレナリン の含有量および代謝回転率 hIFNα単独投与群においても,hIFNα・ミル.
(6) 360. Brain Science and Mental Disorders Vol.20, No.4, 2009. ナシプラン同時投与群においても海馬組織内のセ ロトニン含有量に対照群との有意差を認めず,セ ロトニンの代謝産物である 5HIAA 含有量におい ても対照群との有意差を認めなかった(P>0.05)。 また,セロトニン代謝回転率を示す 5HIAA/セロ トニン比も,統計学的に有意差はなかった (P>0.05)。ノルアドレナリンにおいても同様で, 3 群間に有意差を認めなかった(P>0.05)。. 4.考 察 hIFN は,1992 年に C 型慢性活動性肝炎への使 用が保険適用となって以来,その使用頻度が急増 し,その結果 hIFN の有害作用としての精神症状 が特に注目されるようになったが,その発生機序 はいまだ解明されていない。そこで今回我々は, hIFNα投与による抑うつモデルラットを使用し て,hIFNαによる抑うつ状態の発症機序及び, これに対する抗うつ薬の作用機序を明らかにする ことをめざした。行動実験において,強制水泳試 験,テールサスペンション試験ともに hIFNαの 投与によって無動時間が増加し,この増加はミル ナシプランで抑制された。海馬歯状回における神 経細胞新生に関しても同様に hIFNαの投与によ って BrdU 陽性細胞数が減少し,この減少はミル ナシプランで抑制された。セロトニン,ノルアド レナリンの含有量および代謝回転率は hIFNα単 独投与及びミルナシプラン同時投与によって変化 しなかった。 近年,うつ病の治療の第一選択薬として SSRI が使用されることが多い。しかし,腎臓で排泄さ れ,重度の抑うつ症状に対して効果があり,抗コ リン性の有害作用が少なく,安全性,有効性の面 からも優れた抗うつ薬 SNRI であるミルナシプラ ンは,C 型肝炎患者にみられる hIFNαの有害作 用に対処する薬剤として処方しやすい薬と考えら れる。そこで,hIFNαによる強制水泳試験,テ ールサスペンション試験の無動時間の延長に対す る効果を調べるために,今回,ミルナシプランを 使用した。今日用いられている多くの抗うつ薬は, 臨床効果の発現までに投薬してから数週間を要す る。このため本研究においても,ミルナシプラン. を 1 週間連続で先行投与した後,hIFNαとミル ナシプランを 1 週間同時投与することによって慢 性的効果を調べた。 hIFNαによる抑うつ症状は実験動物でモデル 化されている。ラット及びマウスでは hIFNαを 1 週間投与することによって,強制水泳試験の無 動時間が延長する。Makino らは,このような動 物モデルを使ってイミプラミン及びミアンセリン の急性投与の効果を調べ,これらの抗うつ薬が hIFNαによる無動時間の延長を消失させるのに 有効であることを報告している 6)。本研究におい てもミルナシプランを使うことによって同様の結 果が得られ,hIFNαの行動変化の改善にこのミ ルナシプランが有効であることが示された。 Makino らの研究は,急性投与の実験である上, イミプラミンは抗コリン作用も強くまた肝臓で代 謝される薬物であることから,hIFNα療法を受 ける患者には使用の難しい薬剤である。ヒトにお ける hIFNαの有害作用である抑うつ状態には 2 週間以上の抗うつ薬の慢性投与が有効であり,特 に C 型肝炎などで IFN 治療を行っている患者は 従来の肝臓代謝型抗うつ薬では治療が困難である ことを考慮すると,肝臓で代謝されず腎臓で排泄 されるミルナシプランは臨床の場において有用性 が高いと考えられる。 BrdU は DNA 合成時に取り込まれるチミジン の誘導体で,抗 BrdU 抗体で染色することによっ て増殖している細胞を検出することができる。金 子らの報告 10)で,海馬傍顆粒層での BrdU 陽性細 胞の約 80 %が神経細胞マーカーである NeuN で 染色されること,また BrdU 陽性細胞数の変化が 神経細胞新生の変化と一致することを確認してお り,今回認められた,hIFNαを 1 週間慢性投与 したラットの海馬の BrdU 陽性細胞数の変化は神 経細胞新生の変化と相関するものと考えられる。 hIFNα単独投与群では,対照群より BrdU 陽性細 胞数の有意な減少が見られたという本研究結果 は,海馬の神経細胞新生が hIFNαによって抑制 されることを示している。さらに,hIFNαの投 与による行動面での変化を抑制するのに有効であ ったミルナシプラン投与が,hIFNαによる海馬 の新生神経細胞の減少も抑制することが明らかと.
(7) 脳と精神の医学 第 20 巻 第 4 号 2009 年. なった。このような,hIFNα投与時及びミルナ シプラン投与時において,行動面での指標と海馬 の神経細胞新生が相関して変化したという結果 は,抑うつ状態発症と海馬の機能が密接に関係し ていることを示唆している。 海馬の神経細胞新生が,様々な外的要因によっ て影響を受けることはよく知られており,海馬の 神経細胞新生を促進する因子として抗うつ薬投与 などが挙げられる。実際,Malberg ら 11)はラット に 2 週間フルオキセチンを慢性投与し,また Santarelli ら 12)はラットに 4 週間イミプラミンを 慢性投与し,海馬での神経細胞が増殖しているこ とを報告している。今日用いられている多くの抗 うつ薬は,従来考えられていた,シナプス間隙の セロトニン,ノルアドレナリンを増加させる急性 的作用よりむしろ,海馬の神経細胞の増殖などに 対する慢性的作用によって効果を現すことが考え られ,海馬の神経細胞新生説が注目されている。 本研究結果もこの海馬神経細胞新生説を支持する ものと考えられる。 海馬の神経細胞新生に影響を及ぼす内的要因と しては,セロトニンやノルアドレナリンなどのモ ノアミンが挙げられる。特に今回用いた抗うつ薬 であるミルナシプランはセロトニン,ノルアドレ ナリン再取り込み阻害薬であるため,これらモノ アミンを介して海馬の神経細胞新生の変化が起き た可能性がある。この可能性を調べるために, 我々は,海馬のセロトニン,ノルアドレナリンの 含有量および代謝回転率を測定した。しかし,3 群間で有意な差は認められなかった。海馬の神経 細胞新生に変化を認めたにも関わらず,セロトニ ン,ノルアドレナリンに有意差が見られなかった 理由として,第一に,セロトニン,ノルアドレナ リンの測定のためのサンプル採取方法が挙げられ る。今回,海馬全体組織を用いてセロトニン,ノ ルアドレナリン量を測定しているが,海馬の神経 細胞新生に影響する抗うつ薬は,シナプス間隙の モノアミンの量が高まることによって作用するた め,シナプス間隙におけるセロトニン,ノルアド レナリン量を反映させる採取方法が好ましい。例 えば,細胞外液中の物質動態をモニタリングする マイクロダイアリシス法では,より正確にシナプ. 361. ス間隙のモノアミン量の測定が可能である。事実, マイクロダイアリシス法を用いたモノアミン測定 の実験では,ミルナシプランと同様の作用を持つ Venlafaxine 13)やイミプラミン,デシプラミン 14) の急性投与によって海馬のモノアミン量が変化す るといった報告や,パロキセチンの慢性投与によ り海馬のモノアミン量が変化するといった報告 15) もある。そのため,マイクロダイアリシス法によ り測定を行えば,今回の実験においてセロトニン, ノルアドレナリン量にも明確な差が見られたかも しれない。また第二の理由としては,今回調べた 海馬以外の脳部位,特に縫線核などでモノアミン の変化が生じている可能性があげられる。hIFN αをラットの脳室内に投与すると用量依存性に前 頭葉のセロトニン,ノルアドレナリン量が低下す る 16)という報告,マウスへの IFNαの 10 日間連 続投与後に中脳,海馬におけるセロトニンの著し い増加とノルアドレナリンの中脳,延髄,小脳に おける著明な減少,海馬での増加がみられたとい う報告 17)もあり,海馬以外の場所において hIFN αが作用し神経細胞新生に影響を与えている可能 性は否定できない。 今後さらに詳しく,IFNαとミルナシプランそ れぞれが,海馬の神経新生にどのような経路で変 化を起こしているか調べていく必要がある。 文 献 1) Quesada JR, Talpaz M, Rios A, et al(1986) Clinical toxicity of interferon in cancer patients;a review. J Clin Oncol, 4 : 234-243. 2) Vial T, Descotes J(1994)Clinical toxicity of the interferons. Drug Safety, 10 : 115-150. 3) Bocci V(1994)Pharmacology and side-effects of interferons. Antiviral Res, 24 : 111-119. 4) 高木州一郎(1995)インターフェロン療法中の 精神症状. 精神医学, 37 : 344-358. 5) Musselman DL, Lawson DH, Gumnick JF, et al (2001)Paroxetine for the prevention of depression induced by high-dose interferon alpha. N Engl J Med, 344 : 961-966. 6) Makino M, Kitano Y, Hirohashi M, et al(1998) Enhancement of immobility in mouse forced swimming test by treatment with human inter-.
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