• 検索結果がありません。

機能和声進化の一形態としてのM. ラヴェルの和声語法 : そのピアノ曲の分析を通して

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "機能和声進化の一形態としてのM. ラヴェルの和声語法 : そのピアノ曲の分析を通して"

Copied!
74
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)平成10年度 学位論文. 機能和声進化の一形態としてのM.ラヴェルの和声語法 一そのピアノ曲の分析を通して. 兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 教科・領域教育専攻 芸術系コース. M96651H. 飯塚邦彦.

(2) 凡 例. 1.注釈はすべて各節の終わりに一括した。またその番号も、各節ごとの 番号とした。. 2.譜例番号は各節ごと、すなわち第1章については各曲ごとの、第2章 については(1)、( ll)te…で分類した各手法ごとの番号を設定した。. なお、本文中の譜例番号は別冊譜例集の譜例番号に対応している。. 3.調名はドイツ語で、単音名は日本音名で表記した。 4.曲名に関しては、初出の場合のみ()内に原語名と出版年を併記した。. 5.作曲家名に関しては、初出の場合のみ()内に原語名と生年、没年を 併記した。. 6.非和声音の種別など、和声学上の用語については、現在わが国で最も 一般的に使用されていると考えられるものを用いた。ただし、やや特 殊と考えられる用語については、本文中にその意味を記した。 7.本文中のゴシック体によるアルファベット(a、b一一・・・)は、譜例中. に同様に記した和音を指すものとする。また、複数の和音がなんらか の強い関連を持っている場合には、アルファベットにアラビア数字を 付与し、a1、a2…・・のように記した。 8.一般に言う1山続音jという用語は、低音に用いられる時のみに用い、 上声部に用いられる際には「持続音」という用語を用いた。. 9.属和音における根音の6度上の音に関しては、原則として導音を伴っ ている場合には付加6度音として、導音を伴わない場合には第13音と して表記した。.

(3) はじめに. 19世紀後半以降、それまでの150年余りの間ヨーロッパ音楽を支配し続 けてきた機能和声の体系は徐々にゆらぎはじめ、少なくとも狭義のそれは、 20世紀初頭をもって終焉を迎えたとされている。その体系の圧政から解放 された今世紀の作曲家たちは、以後、個人的な感覚と経験を拠り所として 各人固有の技法を造り上げ、創作活動を行うこととなった。 だからといって、機能和声体系の歴史がそこでまったく幕をおろしてし まったというわけではない。楽音を調の支配から完全に解き放ち、新しい 体系を探ろうとする、あるいは音楽における体系というものの存在自体を 否定しようとする作曲家たちが果敢な試みを続ける一方で、機能和声体系 の最も根本的な部分 すなわち主音を中心とした音階各誌の相互関係 を信じ、あるいはその呪縛からついに逃れ得ないまま創作活動を続 け、機能和声の地平をさらに拡げていった作曲家たちもまた多数存在し、 決して前世紀の遺物としてではない豊かな実りを今世紀にもたらしたこと は疑いようのない事実である。19世紀末から20世紀初頭というヨーロッパ 音楽の激動期は、すなわち作曲家たちがそうした二つの大きな潮流に分か れ始めた時代であったとも言えよう。 筆者が長い間強い関心を抱き続けてきたラヴェル(Maurice Ravel l875− 1937}が生きたのは、まさにそのような時代である。そして彼は、前述し た二つの潮流のうち、後者に属するグループを代表し、機能和声体−系の内. 包する根源的意味を見据えつつ、その新たな可能性を求めた作曲家である と言えるのではないかと筆者は考えている。 ラヴェルを、その作品における明晰な形式感や、鮮明な輪郭を持った旋 律線、あるいは理知や客観性を重んじる創作の基本姿勢といったような観 点から「古典主義者」という言葉で形容することは、ごく一般的である。和 声の面からみた場合に、ラヴ土ルを同じ言葉で形容することがふさわしい かどうかは疑問の余地があろうが、少なくともその面できわめてアカデミ ックな姿勢を保ち続けた作曲家であるということも、やはり語られてきて おり、時には、「調機能の法則から外れた音は、ラヴェルの中には、一つ もない」[矢代:1957:16]といった、いささか極論に近いのではないかと思え. るような見方さえなされているのである。 ラヴェルが「調機能の法則から外れた音1を一音も書かなかったとまで言い 切れるかどうはともかく、ラヴェルの作品の少なからぬ個所に存在する一 見大胆な和音、あるいは和声進行の多くが、実は19世紀的な和声の法則と なんらかの形でつながっていることは確かなことであろう。もちろんその こと自体はラヴェルに限ったことではなく、例えば同時代のレーガー(Max.

(4) Reger 1873−1916)やシュトラウス(Richard Strauss l864−1949)らの作品. についても言えることではある。しかし、ラヴェルの場合、その作品にお いて和声という要素の占める比重が、レーガーやシュトラウスと比べては るかに大きいと言う点、また、レーガーやシュトラウスの作品が、「過去 の終結点」として見ることこそがよりふさわしいのに対し、ラヴェルの和 声語法は今世紀に向かって開かれていると言う点は、この時代におけるラ ヴェルの独自性として見逃すことができないと考えられる。. もう一つ忘れてならないのは、機能和声体系は、その安定期であった18 世紀から19世紀前半ですら、徐々にではあるが進化を続けてきたという事 実である。その過程についてはシャイエ(Jacques Chailley 1910一)らによっ. てすでに明らかにされていると言ってよい。その点から考えれば、ラヴェ ルがその作品において具現化した彼独自の和声語法も、それが外見的には どれほど革新的なものに見えようとも、そうした進化の一過程、一断面、 一形態としてとらえなおしてみる必要があると、筆者には思われる。 以上のような観点からラヴェルのピアノ曲を分析していくことにより、 ラヴェルの和声語法が具体的に前世紀とどのような連続性を持っているの か、あるいは前世紀の和声語法をどのような手法で変貌させ、自己の和声 語法を確立していったのかという問題にアプローチしていきたいというの が、本研究のテーマである。 分析の対象として、声部進行の読み取りやすさという点を考え、また和 声上の問題に焦点をしぼるため、ピアノ曲のみを取り上げることとした。 ラヴェルは周知のごとく史上屈指のオーケストレイションの達人であった が、だからといってピアノ曲とオーケストラ曲とで、使用する和声語法に 違いがあるはずがなく、ピアノ曲における和声語法を分析することで、ラ ヴェルの基本的な和声語法はかなりの程度まで解明することが可能だと考 える。. 具体的には、まずラヴェルのピアノ曲の中で機能和声との接点が最も明 確であると考えられる〈高雅で感傷的なワルツ〉(Valses nobles et sen− timentales l911)全8曲の逐次的な分析を行い(第1章)、そこで使用され. ている和声上の手法を分類した上で、同様の手法の使用例をラヴェルの他 のピアノ曲に求め、それら個々の手法について考察を加える(第2章)。さ らに、第1・2章での分析と考察を総括し、ラヴェルの和声語法の全体像 を探っていく(第3章)。. なお、論文題目中のr進化」という言葉については、一般に「より優れた ものへと変化していくこと」といったような誤った解釈がなされているよ うであるが、ここでは本来の環境の変化や時間の経過に伴う分化・変異」 という意味で用いていることを申し添えておきたい。.

(5) 目 次 凡例. はじめに. 第1章 〈高雅で感傷的なワルツ〉の和声分析 (1)第一曲・・■・・■一・一一・・…… ■■・■一… 一■・・■■・i■・一e… 1 (H)第二曲一・一■・一一・・・… ■■・・・… 一一t一・・■一t・・■一・一一・… 11. (皿)第三曲・■e・一一…一・一一・一・・{一・・一一・… 一一■一・一一一・… 16 (N)第四曲et・・■一・・一t■t一一…}一・・一一・t一・}e・}t一一・一一・・i■21. (V)第五曲・…・・…・…・・…■■・………… ……・・26 (VI)第六曲・・■■・・…………・・・… …・・・・・・・・・・・… 29. (盟)第七曲…一■・……・・一■…… 一一・・……………・32 (V皿)第八曲・・■・・}一・一一・・… 一t・一■・・一■・一t・・一一・・一■一一・・■一・36. 第2章 ラヴェルのピアノ曲に見られる和声語法 (1)七の和音から十三の和音までの、3度の堆積に による和音、及び付加6度音を伴う添加和音の、 「自律した和音」としての使用………,…………層42 〔皿)種々の非和声音が生み出す「非和声音和音」、 あるいは「変位和音1一}・■■一e・一一■一・・・・… ■■・一一一■・… 45. (皿)和音の平行進行・…… …・・… …… ■■・・一一…t一・・53. (N)平行調関係にある長短調を同一次元のものと 捉えた上での垂直的、あるいは水平的な和声処理・… 57 (V)旋法の使用・一・・一……一・…・・一一一一一…一・・59. 第3章 総合的考察e・・■・一t・■■t・…・・一一・・…… ■{一t・・一■{e… 62. おわりに■■■一・… tti一■一■e・・一■・・・… ■・・■t一■・一t・・■}・… 一■・… 66. 引用参考文献及び資料一■……・……・・…・・………}一…・・67.

(6) 第1章く高雅で感傷的なワルツ〉の和声分析. (1)第一曲. 第一曲はA−B−A’という単純な三部形式によるものであり、次のよ うに分けられる。. A 冒頭より第20小節まで。 B 第21小節から第60小節まで。 A 第61小節から曲尾まで。 では、この曲に見られる和声上の問題を逐次的にとりあげ、考察してみよう。. 冒頭で提示され、反復される2小節のモチーフ(譜例1a)は、当時としては きわめて刺激的な不協和音の連続のように聞こえるが、その原形は譜例1bの ような、Tonlc保続音上での属七和音と主和音の交替に過ぎない。譜例中に和 音記号によって記した通り、属七和音には6度音が、主和音には6導音及び2 度音が、それぞれ付加されている。しかし、こうした付加音を伴う和音は、ラ ヴェルにとってはすでに「拡張された協和音」として自明のものであったはず であり、ここであらためて問題とするにはあたらないと考える(以下、こうし た付加音は基本的に和声音として取り扱い、またそのように記すこととする}。. では、ラヴェルは事例1bのような単純な和音進行を、どのような思考過程 を経てデフォルメしていったのだろうか。筆者の推測するラヴェルの思考過程 を図式化したものが譜例1cであるが、以下、この譜例に即して、やや詳細に 述べてみたい。. (1}まず、属和音中の嬰へ音がその下部筒音である嬰ホ音にとってかわられる ことにより、 冒頭一、二拍めの和音a1が成立する。. (2)和音a1を成立させた嬰ホ音は、三拍めに嬰へ音に解決する。同時にa1 の内声部のイ音、潮音、二音は、次小節のロ音、二音、ホ音へ向かってそれ ぞれ半音上行し、嬰イ音、嬰ハ音、嬰二音という経過音群を作る。それら経 過音群と、和声音である二音、及び嬰へ音とのぶつかりによって和音a2が 成立する。. (3)前述した三つの経過音が解決した結果、第2小節一、二拍めでは本来の姿 の主和音b1が現われる。三拍めにおいて、その内声部のロ音、二音、及び ホ音がいずれも下行して嬰イ音、嬰ハ音、二音という経過音群(二音は結果. 1.

(7) 的には和声音であるが)を作り、和音b2を成立させる。その後、嬰イ音、 嬰ハ音は続けて半音下行し、二音は保留されて、第3小節で再現される和音 a1へとつながる。. 第5∼第14小節(譜例2a)では、主和音。、続いて借用属九和音d(fiへの 属九)が現われるが、譜例2bに示したとおり、和音。は和音構成音として付 加2度音、付加6度音、第7音を伴い、和音dは第11∼14小節三拍めにおいて、 構成音のうちの三音が短2度上方に揺れた偶成和音eを生み出している。. さらに和音dは、続く第15∼20小節(譜例3a)でD−durへ転調するきっ かけとなる。すなわち、この和音d(Hへの謡曲)の解決和音である第15小節の. G−durのll(譜例3bの和音f、第3音が省略され、第7、9、 ll、13音 を伴う)は、同時に後続するD−durのVでもあり、第20小節のD−dur の主和音を導くのである。前述のとおり和音fは第3音嬰爪音(すなわちD− durの導音)を欠く六十三の和音であるが、嬰ハ音を欠いていることにより、 先行するG−durのllと共通和音たり得ている。(なお同じ和音は第75∼78 小節においても使用されるが、この場合はG−durのSub Dominanteである 皿となるため、第3音は省略されることなくハ音として登場する。). 中間部であるB部分では、冒頭のテーマの音形が、リズムの上でも、音程の 面でも巧みに活用され、A部分との持続と統一が図られている。その面での周 到さは、この中間部にソナタ形式における展開部のごとき印象を与えているが、 そうした技法はラヴェル独自の、あるいはこの時代特有のものではなく、和声 上の問題に焦点をしぼるためにも、それらの点については必要不可欠な場合以 外は触れずに考察を進めていきたい。 第21∼第30小節(一例4a)の旋律と和声の骨格を八白4bに示した。 A部分 との継続感を保持するためのこ音保属音が低音で執拗に連打され、その上で和 声は半音階的な進行を聴かせるが、それら一つ一つの和音の属する調性を規定 したり、和音記号を記したりすることは、こうした部分に関しては意味を持た ないだろう。. この部分から読み取るべきなのは、いわゆる後期ロマン派との関連について はほとんど語られることのないラヴェルですら、ヴァーグナー(Richard Wagn− er1813−1883)の諸作品に代表される半音階主義の影響から無縁ではあり得な かったという事実ではないかと考える。 第21∼第22小節と第23∼24小節がゼクエンツであることは明瞭だが、そのゼ クエンツ構造は、和声の上では第25小節∼30小節まで及んでいる。. 2.

(8) この部分を支配する和音g1、g2、 g3(譜例4b)は元来減七和音である が、第21小節のホ音、第23小節のト音、及び第25・27・29・30小節の嬰イ音は 解決を遅らされた椅音であり、それらが長2度下行して原位音へ解決した瞬間. に、和音g1、g2、g3の各第5音(ロ音、二二、重嬰直音)がそれぞれ短2 度上行する(→八音、→変ホ音、→嬰口音)ことによって減七の響きを失う。こ のように応和声音が解決すると同時に他声部の和声音が変位する、あるいは後. 続和音の和声音へと進行するといった手法は、本質的には譜例1cの場合と同 一のものであり、ラヴェルの和声語法の特徴の一つと言えるだろう。 それに対して、第26・28小節の強拍、及び第29・30小節の二拍めに現われる 和音hの場合、原位音頭へ音の長2度上への全長転位音と考えられる嬰ト音は 「解決されない椅音」、あるいは付加6度音として把握されるべきであり、g 諸和音とはやや異なるケースに属すると言える。. なお、和音hを軸として、今一度第25∼30小節における和音g3と和音hの 執拗な反復を観察してみれば(譜例5}、和音g3が実は和音hの椅和音に他な らないことがわかる。. 第31∼32小節(恒例6a)における上声部の嬰イ音→嬰ホ音→嬰ト丸和→五二. 音の反復と、下声部の属三和音の平行移動(譜例6bの和音i1→i2→i3 →i4)は、和声的な縦の関係を持たないまま同時進行する。その到達点であ. る和音i4は、第33小節からの新しいテーマの所属調であるE−durに対し てDoppel Do皿inante(Vへの佃戸)に相当し、続いてE−durのV(里謡6の. 和音j)、さらに第33小節のE−durの主和音(同じく訣別6の和音k)へと 導かれ、E−durの調性が確立する。 順序が前後するが、E−durのVとなる和音jは第26・28・29・30小節で 登場した和音hに等しく(譜例7)、第31小節から32小節二拍めは、そこまで続 いてきた二音保続音の支配から逃れ、和音jの低音としてロ音を導きだすため に挿入されたものと見てよいだろう。. そうして導かれた新しいテーマ(第33∼38小節、自力8a)は、E−durの 主和音と曲玉和音の交替から成り立つが、その旋律、及び四声の動きは、旧例 8bのような複数の半音階的な声部進行に基づいたものである。第34・36小節 の嬰イ音が属七和音の第7音を半音上行変位させたものであること、同じ小節 の重嬰ハ音が、原位音嬰二音への、解決を放棄した刺繍音であることを補足し ておこう。. それに続く第39∼44小節(譜例9a)で、第33∼38小節で提示されたテーマの モチーフの徹底が行われるが、ここでは嬰ハ音一ト音という増4度(減5度)関 連をなす低音の反復の上部で、先行部分以上に半音階的な声部進行が展開され. 3.

(9) ており、機能感、調性感はやや不安定なものとなっている。基盤となる第39∼ 40小節の和音は譜例9bに示したものと考えられ、第39小節の和音は先行部分. のE−durに対して皿への属九(ただし第3音である嬰ホ音は省略される。 また、譜例9bでは嬰二音を和声音としているが、この嬰二音を椅音と捉え、 最上声部二拍めのこ音を第9音と考えても本質的な解釈には影響しない)とし て知覚される。問題は続く第40小節の和音の位置付けであるが、筆者としては この和音を、第39小節の和音を異名同音的な発想で変質させたものと考えたい。 以下、譜例9cに即して説明しよう。 (1)譜例9cの(ア)は、第39小節の和音の配置を整理したものであるが、(ア)の. 第9音を削除し、さらに第5音を下方変位すれば譜例9cの(イ)が生じる。 (2)(イ)を転回し、ト音を低音とすることで譜例9cの(ウ)が生じるが、この㈲ は異名同音変換することでト音を根音とする属七和音(第5音下方変位)であ る(工)と読み替えられる。. (3)(エ)に第9音イ音を加えることで第5音下方変位の属九和音(オ}が生じ、(オ}. をさらに異名同音変換すれば第40小節の和音である(b)となる。. なお、ラヴェルはこの第39∼40小節とまったく同一の和音進行をラ・ヴァル ス(La Valse 1920)でも用いていること、また、ある属七和音あるいは属九和. 音が、異名同音的な発想によって根音が増4度隔たった三七あるいは属九和音 に変質するという考え方は、結果的にバルトーク(B61aBart6k1881−1945)の 「中心軸システム」の理論に一致すること、さらにそれは今日のJazz Musicにお ける「裏コード」の手法につながるものであることを付け加えておきたい。. 第41∼42小節は第39∼40小節の反復であり、結局この4小節間は半音階的な 装飾も加えて譜例9dのように図式化されるが、第40、42小節三拍めの嬰へ音 ・イ音に対する注意を喚起しておきたい。この二音は外見上は前述した和音を 装飾する非和声音であるかのように見えながら、聴覚的にはかなり明確な解決. 感を持って、すなわちfis−moIlの主和音として知覚される。つまりこ の部分では、根音が増4度隔たった出直和音の反復という大局的な流れの中で、 しかし上声部に微妙な機能的解決を感じさせる操作が施されており、そのこと によって、機能和声の原理がかろうじて保持されているのである。 第43∼44小節では上声部の半音階進行がさらに発展し、第45小節以降の新た な部分へ導かれていく。第44小節から第45小節の属九和音11への進行も、譜 例9dに示したように嬰加音=変ホ音という共通音、嬰ト音一ト音、ならびに. 和音11で省略されている第5音ハ音をも考慮すればロ音一ハ音という半音階 関係が見られ、一種の半音階的転調とみなすことができる。. 4.

(10) 第45∼48小節(譜例10a)のエピソードは冒頭のテーマのモチーフを活用し たものである。第45、47小節一・二拍めの和音11はへ音を根音とする属九、 第46、48小節一・二拍めの和音12は変ホ音を根音とする属九の和音であり、. 両和音ともに第5音が省略されている。その間にある和音m1、m2は、畠山 10bに記した通り、和音11、12の上部部分音をつなぐ経過音、及び先行和 音からの保留音の集合体に過ぎない。では、和音11と12の関係はどう捉え ればよいだろうか。この点については、第45小節一拍めの和音11と第49小節 一拍めの和音n1が同一の和音であることに注目したい。つまり、和声的なつ ながりという面だけで考えれば、第45∼48小節を省略し、第44小節から第49小 節へ直結させても、なんら不都合は生じないのである。従って第45∼48小節は、. 本質的には一個の和音11に帰すると考えられ、和音12自体が和音11を装 飾するための、平行移動による「揺れ1(譜例10c)と解釈してよいのではないだ ろうか。. しかし、この部分の各小節で結果的に生じる低音の動き(和音11−m1日 前音一ロ音、和音12−m2の変ホ音一イ音}もまた無視することはできない。 それらのなす増4度音程は第39∼44小節の低音線ですでに提示されていたもの であり、しかもそのような低音線の増4度進行は、後続する第49∼54小節にお いても重要な要素として活用されているのである。つまり、ラヴェルの中では 第39∼54小節を、前後の部分と比して機能感、調性感がやや不安定なものとし て処理したいという意図が働いており、低音線の増4度進行は、そうした意図 を一定の秩序感の持続の上で実現するために選択された素材であると考えられ る。. 第49小節以降は激しいダイナミックスの振幅を伴いつつ、この曲のクライマ ックスとなるテーマの再現、すなわち第61小節へと向かって行く部分である。 そして、この第49∼60小節にこそ、この話中、最も興味深い和声技法が使用さ れていると言える。. 第49∼51小節一拍め(譜例11a)について、筆者の推測するラヴェルの思考過 程を述べてみよう。. (1)まず、二九和音の平行進行(譜例11b、和音n1∼n4〕を設定する。和音 n3とn4の間のみが短3度関係になっているのは、第50小節以前と新たな 部分の始まりである第51小節めとの段落感を鮮明にするためと考えられる。 (2)n1∼n4の上声部をつなぐ半音階的経過音、ならびに共通音の集合体と. して、和音01、02、03を設定し、さらにそれらが最も安定する低音と して直音、言訳音、変ホ音を与える。(譜例11c}. 以上、第49∼50小節が、ラヴェルの特徴的な和声語法の一つである属九和音. 5.

(11) の平行進行を発展させたものではないかという仮説に基づいた推論であるが、 上記(2)で述べた。諸和音の低音に関しては、さらに次のような推論が成り立 ち得ることを補足しておきたい。. (ア)便宜上、譜面11cの和音n1−01を例にとって述べてみよう。和音n1 の低音であるへ音は、平行進行する属九和音の根音として自明の音であるが、. 後続する和音01の低音としてロ音を与えることにより、二つの低音は増4 度という音程関係を作ることとなる。この増4度=減5度の低音進行は、先 に述べた通り第39∼48小節ですでに準備されていたものであり、ラヴェルは 上記(2)のような局部的な意図と、第39∼54小節全体の調性感、機能感の希 薄化という大局的な意図を見事に両立させている。 (イ)第49∼50小節の低音線を別の角度から眺めると、へ音一ロ音一ト音、ト音. 一山ハ音一イ音という、連鎖状のゼクエンツ構造が見えてくる儲例11cの α、β)。αを例にとって筆者の推論を述べてみよう。へ音及びト音は平行. 進行する属九の根音として自明の音であり、その間にある経過和音01にい かなる低音を与えるべきかが、ラヴェルとって問題だったわけであるが、で は、01の構成音嬰ト音、口音、唐国音、嬰へ音のうち、構造的になんらか の意味を持ち得る音はなにか。ここでト音上の和音n2とαの低音線との関 連に注目したい。和音01の低音としてロ音を選ぶことにより、aの低音線 は和音n2の骨格を形成するへ音(第7音)、ロ音(第3音)、及びト音(根音) に一致するのである。そのような、ややあざといとさえ言われかねない操作 をも行うことによって、ラヴェルはこの部分の大胆な和音進行に可能な限り の必然性を与えようとしたとも考えられる。. 上記(イ)の考察については、筆者自身、うがちすぎではないかという不安を. 感じることは否定できない。和音n−oのような、根音が四度上行するゼクエ ンツ構造を作れば、(イ)で述べた現象がそれに付随して起こるのは半ば必然の こととも言い得るのである。しかし、α、βの描く属七回分散和音線の印象は 聴覚的にもかなり鮮明なものであり、(イ)で述べた事実をラヴェルがまったく 意識していなかったとするのは、むしろ不自然ではないだろうか。. 続く第51∼53小節第一拍め〔譜例12a)は、前述した第45∼第49小節一拍めと 音楽的意味合いも、また和声構造もまったく同一のものと考えてよい。譜例12. bでその構造を示すにとどめるが、第51小節一拍めの和音n4と第53小節一拍 めの和音p1が同一であることに留意されたい。 第53∼56小節は後続する第57小節以降の圧倒的なクレッシェンドに備え、エ ネルギーを蓄積するための弱音の部分であり、その和声構造は、結論的には前. 6.

(12) 述した第49∼50小節と同じく属九和音の平行進行を基盤としつつ、前回以上に 複雑な手法によってその発展が行われたものである。まず、幽 謔T3∼55小節一拍 め(譜例13a)について、譜例13b∼eに即して述べてみよう。. (1)三つの属九和音による平行進行を設定する。(譜例13bの和音p1∼p3、 便宜上、各和音の第5音は省略した。) (2)和音p1、p2の間に、半音階的経過音と共通音の集合体である和音q1 を設定し(譜例13c)、さらにその和音q1が最も安定する低音として変ト音. を与える。その結果、和音p1−q1−p2の低音線と和音p2の間には、 譜例11cで述べたことと同じ関連が成立する。 (3)和音p2、 p3の間にも、まずは(2)と同様の考え方で経過和音q2を仮 定する(同じく面出13c)が、実際にはその第7音を半音下方変位させた上で 異名同音変換を施し、さらにイ音を加えて直属九和音である和音r1に置き 換える。. (4)さらに和音r1とp3の間にr1と五度関連をなす属九和音を仮定し(譜 例13e}、その第9音を上行変位させた和音r2を挿入する。 (5)和音p3の最上声は、旋律的欲求により、先行する和音n2のそれから半 音下行させたものとする必要があり、この問題を解決するため和音p3の配 置を変更した上で第9音を半音上行変位させ、重嬰へ音とした和音s1に置 き換える。その結果、和音s1はr2と同じく、属九和音を基盤としつつ長 7度(減8度)を内包した和音となる(同じく譜面13e)。. 続いて第55∼56小節(一例14a)について、譜例14b∼eに即して述べよう。 (1}三つの属九和音の平行進行(譜例14b、和音s1∼s3、便宜上、 s 1も 本来の属三和音として記す。)を設定する。. (2)和音s1は実際には前述の通り第9音を半音上行変位した形で使用されて おり、和音s2・s3にも同じ処理を施す(譜例14c)。. (3)和音s1とs2の間にs1と五度関連をなす和音t1を挿入する(譜面14 d)。その際、旋律線を半音階進行とするため、t1には嬰ト音を加え、長 七和音とする。. (4)和音s2とs3の間に、まず(2)と同様の考え方で和音t2を仮定し(同 じく譜例14d)、その和音t2の第7音を下方変位させるとともに第9音で ある擬音を加え、短属九和音とした上で、さらに第3音、第5音をも下行変 位させた和音u1に置き換える。(譜例14e) この処理の結果、第56小節の 旋律線は、第54小節に対応したものとなる。. 以上の考察で解るように、極めて大胆に見える第49∼56小節の和声進行は、. 7.

(13) 実はすべて属九和音の平行進行を基盤とし、そこに半音階的経過和音を中心と した種々の和音を挿入したものと言える。さらにふりかえってみれば、第45∼ 48小節もまた属九和音の平行進行を基盤としたものであり、ラヴェルは実に12 小節間にわたって属三和音の平行進行に固執したことになる。また、第54小節 以降に見られる低音線の完全4度進行は、ここまでやや不安定であった機能感、 調性感をあらためて安定させ、音楽を機能和声の世界に引き戻そうという意図 の現われであると考えられるが、このことについては後に詳細に述べたい。 続く第57∼61小節一拍め(譜例15a)では、属七和音がきわめて機能的に駆使 され、テーマの再現へと導かれる。なお、第56小節三拍めの和音s3から第57 小節一拍めの和音v1への進行については、1)共通音嬰へ音、及び嬰ロ音= ハ音の異名同音、2)低音の増4度(減5度)進行(第39∼54小節における重要な 要素として活用されていた)以外には、これといった機能的、論理的なつなが. りはみとめられない。和音v1は、第61小節で主調G−durの属和音に戻る ために、そこからの逆算によって設定されたものであり、上記1)、2)の関係 は偶発的なもの、あるいは偶発的に生じた和音s3−v1のそのような関係を、 ラヴェルが意図的に利用したと考えるのが妥当ではなかろうか。以下、第57小 節以降について、譜例15b∼eに即し、筆者の推測を述べることとする。. (1)第57小節一拍めの和音v1から第61小節一拍めの和音v13まで、属七和音 の根音5度進行による「五度の滝」を設定する(語例15b)。 (2)和音v1を属九和音とした上で、第49小節以下の旋律線の中心をなしてき た半音進行を続けるべく、和音v2∼v11に非和声音を加える(譜例15c}。 (3)和音v4、 v7、 v10については、このままでは非和声音を伴わない属七 和音となってしまう。その明確さを避けるため、いずれも短七の和音に置き 換える。また、和音v11については音楽的緊張度を与えるため、下方変位し た第5音を加える。〔譜例15d) 〔4)和音v12については、後続する第61小節以降のテーマの再現に向け、旋律 音のつながりを考慮する必要が生じる。そこで、v11まで続けてきた旋律線 の半音進行を中断し、v11から全声部を平行移動させた配置に置き換える( 譜例15e)。. さらに、先行部分との関係をも考慮しつつこの部分をより細かく観察すれば、 次のような事実も浮かび上がる。. (1)和音v2∼v12の非和声音は、旋律線に半音階進行をつくることのみを配 溢して選ばれているわけではなく、それぞれの和音の第3音との間に減8度 をなす(和音v2、 v5、 v5)、あるいは第7音との問に増8度をなす(和. 8.

(14) 音v3、v6、 v9)よう設計されている。前者の和音は、すでに第54∼56. 小節〔譜例13e、和音r2、和音s1、s2、及び{譜例14c、和音s3)で 予告されている。. (2)和音v2−v3−v4、 v5−v6−v7、 v8−v9−vlOがゼクエン ッを形成している(譜例15c、α、β、γ)。. (3)第57小節一拍めの和音v1は、テーマが再現される第61小節一拍めの和音. v13、すなわちこの曲の主調であるG−durの属和音と一致する。このこ とは、第45小節一拍めの和音11と第49小節一拍めの和音n1が一致するこ と(譜例10b》、また第51小節一拍めの和音n4と第53小節一拍めの和音p1 が一致すること〔譜例12b)と同じ意味を持っている。つまり第57∼60小節も また、和声のつながりの面からは不必要な部分であり、純粋な音楽的欲求に よって挿入された楽句であると言える。しかしそこで用いられているのは 「五度の滝」というきわめて機能的な和声進行であり、第45∼48小節、第51 ∼52小節における属九和音の平行進行を基盤とした非機能的な和声進行と対 極をなす。. (4)低音5度進行は第57小節以降唐突に用いられているわけではない。先行す る第39∼54小節が機能感、調性感の希薄化を意図して作曲されており、その ための中心素材として低音の増4度(減5度)進行が多用されていることはす でに何度か述べてきたが、ラヴェルはその低音増4度(減5度)進行を、完全 5度(完全4度)進行の類似音形としても捉えていたのではないだろうか。っ まり第54小節以前の機能面、調性感の不安定な世界から、音楽を完全な機能 和声の世界へと徐々に引き戻そうという前述の意図が、1)低音増4度(減5 度}進行の多用(第54小節以前}⇒2)その変質としての低音完全4度進行の多 用(第54小節二拍め以降}⇒3)「五度の滝1の形成(第57小節以降)という段階 的な設計によって、無理なく実現されているのである。. テーマが復帰する第61小節から曲尾までのA’部分(嘉例16a)に関しては、 A部分との顕著な相違点として次の二点があげられる。 (1)最初の4小節間でTonic保続音ト音が取り除かれていること。. (2)A部分が主調の訟訴であるD−durで終止するのに対し、A’部分は主 調G−durのまま曲を終えること。 特に上記(2)については、形式に対するラヴェルの意識のありよう、及びそ れと不可分のものとしての和声処理という面から考察する必要があろう。すな わち、(2)の事実に加え、中間部の展開部的な性格、あるいは中間部からテー マへの復帰の方法などから、この第一曲はソナタ形式を強く意識して書かれて. 9.

(15) いるもの(ただし第二主題は持たない》と考えられ、実際にA’部分では典型的 なソナタ形式の再現部における第一主題 第二主題間の推移部と、本質的 には同様の操作が見られるのである。 その操作は、具体的には第67∼70小節の和音w(譜例16b)という形をとって. 現われる。A部分の第7∼8小節同様に第7音と付加6度音を伴う主和音を用 いることで事足りたはずのこの部分の和音が実際には和音w〔1Vへの属七)に置. き換えられているのは、決して感覚的な処理ではない。つまり、G−durで 再現されたテーマの主和音(第62、及び第64∼66小節)と曲尾の主和音(第80小 節)に挟まれて、第67∼70小節では主和音を属七化せざるを得なかった。ただ. し和音wはWへは進行せずあくまでもTonicとして機能し、同1)Tonicに属する V[に進行し、それが皿への属九(第71∼74小節、和音x}に変質してHに解決し (第75∼78小節、すでに述べた通り第3音であるハ音は省略されない)、属十一 の和音(第79小節)を経て曲尾の主和音へと、S−D−Tの形で完全終止したと 考えられる。. なお、第71∼72小節の和音x内部の処理についても触れておきたい。ここで 現われている音は結果的にはすべて皿への属九の和声音であるとはいえ、内声 部の嬰へ音・二音が嬰ト音・ホ音へ進行すると同時に上声部のホ音・嬰ト音が 二音・嬰へ音に進行する手法は、むしろ譜例1・譜例4で示したような、1非 和声音が解決すると同時に他声部の和声音が変位する1手法と同じ範疇に属す るものと考えることが妥当ではないだろうか。. 10.

(16) (1[)第二曲. 第二曲は次のようにA−B−A’一B’と区分できる。 A 冒頭より第16小節まで。 B 第17小節から第32小節まで。 A’第33小節から第48小節まで。 B’第49小節から曲尾まで。. まず冒頭8小節間(譜面1a)の和声を、譜例1b∼1eに即して説明しよう (第3∼4小節は、和声的には第1∼2小節の反復であり、譜例1b∼1eで は便宜上省略する)。. (1)まず第1小節に、長7度音を累加された短三和音であるg−mollの主 和音a1(註n、第5∼8小節に七七和音bを設定し、さらに和音a1の最上 声嬰へ音から和音bの最上声二音の間に、経過音としてホ音を置く(譜例1 b)e. (2》嬰へ音とホ音の間に、ホ音に対する下部刺繍音(前部原位音の省略された) である嬰二心を、またホ音と曲直の間にも、同様の考え方に基づく嬰ハ音を 置く(譜例1c)。. (4)和音a1の上七声が作る増三和音を、譜例1cの旋律音(嬰ヘー嬰ニーホ 一嬰バー二)に付帯する形で平行移動させる(譜例1dの和音a2∼a5、こ の結果、第5小節の和音bは和音a5に置き換えられ、結果的に和音bは第 8小節まで遅延される)。さらに第3小節で現われるへ音を第2小節で先行 させ、和音a3を冒頭の和音a1と同様、長7度を累加された短三和音とす る(譜例1d)。. (5)和音a1の内声として潜在している二百(通例1eの0内)から和音b内 のハ音をつなぐ経過音嬰幡豆を、第5∼6小節の内声に置く。また第5∼7 小節の和音a5の変ロ音は第8小節一拍めまで引き延ばした上で同第二拍め でイ音に解決させ、主調g−mollの属七和音であるbにつなげる。. 第8小節の属七和音bによって主調9−mo11は一旦確立されるが、同じ 小節の三拍めで和音b中の嬰へ音はへ音に半音下行し(譜例1eの和音。)、導 音としての意味を失う。すなわち、属七和音bが和音。に変質することによっ て、音楽は機能調性の世界から教会旋法の世界へと傾斜していくのである。. A部分後半(第9∼16小節、譜例2a)は、そのようにして導かれた教会旋法、. ll.

(17) すなわちト音上のドーリア旋法(G−Dorian)に機能和声的な解釈を加えた音階と. 和声〔譜例2b)に基づいて作られている。従ってこの部分の和声は、譜例2c に示したようなきわめて明瞭なDominante−Tonicの反復に還元される。 旋法によってつくられた音楽を機能和声の範疇に属する言葉を用いて説明す ることに批判はあろう。しかし、少なくともこの部分に関する限り、純粋な旋 法的感覚のみによってつくられたというのはあたらない。むしろ、機能和声の 領域を拡大するために教会旋法を借用した、すなわち、教会旋法自体を長短両. 音階のメタモルフォーゼにの場合にはg−mollの第vi音を半音上行変位 させたものとしてのト音上のドーリア旋法)として捉え、それを音素材として 擬似的な機能和声の世界を構築した、と考えるのが妥当ではないだろうか。. 第17小節からはB部分に移るが、その前半である第17∼24小節(譜例3a)は、. 冒頭8小節を短3度上に移高したものであり、従って和声構造も譜面1b∼1 eに準ずる(譜例3b}。ただし、第24小節におけるイ音から変イ音への変位に ついては、第8小節の嬰へ音一へ音の場合との意味合いの違いに関して言及し. ておく必要があろう。第8小節のへ音が、嬰へ音の持つg−mollの導音と しての意味を失わせ、音楽を旋法の世界へ導くためのものであったことに対し. て、第24小節の変イ音は、b−mollの属七和音(詩論3bの和音d)を、後 続するEs−durの皿(同じく和音e)に変質させるためのものなのである。. 続くB部分後半(第25∼32小節、譜例4a}の和声構造は白白4bに要約した 通りである。第25・27小節、及び第29・30小節における内声部の和音に注目し たい。ある声部の非和声音が解決すると同時に他の声部の和声音が非議声音へ 進行し、結果的に非和声音和音が連続するこのような手法は、すでに第一曲に おいても見られたものである。またこの部分においてさらに注目すべきは、第. 25∼28小節(Es−dur)と第29小節∼32小節(d−moll)との調性的関連 であろう。第28小節の和音fは後続する第29小節の和音gに対して、いわゆる 「ナポリのll」と位置付けられるが、大局的に見ればEs−durという調自体. がd−mollの「ナポリ皿度調」と呼ぶべきものと言える。. 第33∼40小節(譜例5a}はA’部分の前半であり、聴覚的印象はA部分前半、 すなわち冒頭8小節と類似しているが、実際の和声構造は著しく異なっている。 譜例5bはその要約であるが、声部進行を明確に示すために配置の変換を施し た。椅和音の各声部は順次半音階的に解決されていき、そうした装飾を取り払っ. た結果現われるのは、主調g−mo11のN一皿一V−1という、きわめて機. 12.

(18) 能的な和音進行である。. 第38小節で確立されたg−mollの主和音(譜例5bの和音h)は第39小節 でEs−durの属九和音に変質するが、Es−durの主和音には解決せず、 第41小節以降(A’部分後半)へ根音の3度進行によってつながっていく。なお、 第40小節の低音部に見られるハ音は、和声的な低音としての意味を持つもので はなく、第41小節の旋律音二面への経過音であると考えられる。. A’部分後半(第41∼48小節、譜例6a)の旋律はA部分後半とほぼ同一のも のではあるが、付された和声は前回とは大きく異なる。A部分後半が「和声的 素材」としてト面上のドーリア旋法(G−Dorian)を用いたものであるのに対し、 このA’ 舶ェ後半においては、ドーリア旋法とは対称的な性格(短調に対する長 調の関係にも似た}を持つト音上のミクソリーディア旋法(G−Mixolidian)が採. 用されているのである。その結果、A部分後半における変ロ音はこの部分では ロ音となり、従って構成和音にも違いが生じる(譜例6b)。また、この8小節 間が一貫してト音のTonic保続音上に展開されているのも、 A部分後半との大 きな相違点である。. 譜例6cに図式化した通り、和音jの嬰ハ音、変ホ音は、和音iの構成音で ある二音が上下に半音揺れた刺繍音と考えられる。また、第42・46小節三拍め のへ音(A部分後半の第10・14小節においてはホ音)は和音jとの兼ね合いを考 慮して選択されたものであり、ラヴェルがこの部分において旋律の統一よりも 和声上の意図を優先している事実は注目に値する。. 第49小節からのB’部分前半(第49∼56小節、譜例7a)は、 B部分前半と同 一の和声構造を基盤としながらも、楽曲全体の調性プランに関する周到な計算 に基づく変更が加えられている。以下、特に重要と思われる第49∼52小節を考 察してみよう。. (1)譜例7bのように第49∼52小節の低音線を取り除き、さらに譜例7cのよ うに上声部を簡略化してみると、この部分の上声部が第17∼20小節に音域の 拡張とオクターブ重複を施したものであることがわかる。単にダイナミック スとの関係から音を厚くすることのみが目的であるなら、一例7bのままで 事足りたはずである。. (2)しかし、実際には譜例7bに新たな低音としてト音、へ音が加えられてお り、それらの持つ意味は軽視できない。ト音一へ音の反復という低音線は、 冒頭4小節間のそれと同一ものであり、その低音線が付与されたことによっ て、第49小節以下はB’部分としての役割だけでなく、和声的、調的な意味. 13.

(19) での冒頭への復帰、あるいは全曲のCodaの始まりを告げる役割をも兼ねるこ とになる。. 〔3)つまり第49∼52小節は、第17∼20小節の和声的要素(譜例7c)、すなわち 上声部の和音進行と、冒頭4小節間の和声的要素(譜面7d)、すなわちト音 一へ音という低音進行を複合させたもの(譜例7e)と考えられる。この操作 によってラヴェルは、余剰な部分のないA−B−A’一B’という形式をとり ながら、またB’部分に復帰部== Codaとしての要素をも含ませるという、凝 縮された楽曲構造を実現させているのである。. なお、譜例7aの和音k1とk2、すなわち短7度音と長9度音を累加され た減三和音は、上記の思考の結果偶発的に生じたものであると考えられる。し かし、そのような和音さえ3度音程の堆積という形をとっていることに、ラヴ ェルの緻密きわまりない計算を見てとることができよう。. ト音一へ音という低音は、その大きな役割を第52小節までで果たし終えて姿 を消し、第53∼56小節は、オクターブ重複を除いて第21∼24小節と同一のもの となる。ただし、唯一の変更点である第56小節三拍めの和音mは、やはり調性 プランに関わる重要な役目を持っており、後続するB’部分後半との関係にお いて考察する必要がある。以下、第56小節から曲尾まで(一例8a)について、 譜例8bを補足するかたちで述べてみよう。 (1)第57小節以下は第25∼32小節をほぼ忠実に移高したものであり、曲尾を主. 調g−mollで閉じるために、第57∼60小節は当然g−mollのナポリ 尺度調であるAs−durとなる。 (2}第57小節の和音nはAs−durのVであり、これを導きだすために和音 nに対して五度関連をなす、すなわちAs−durのDoppel Dominante{V 度へのV)である和音mを挿入する。 (3)和音mは、先行する和音1とも五度関連をなしており、結局第56∼57小節. は、和音1−m−nという「五度の滝」によって、きわめて機能的に連結さ れることになる。. また、和音1−mは、イ音一変イ音という半音進行を伴うことで、第24小節 の和音進行と共通の聴覚的印象を保持していることも見逃せない。 第57∼60小節の和声構造は第25∼28小節とまったく同一のものであるが、第 61∼62小節の内声はどう考えればよいだろうか。譜例8cのように第29∼30小 節と同様の非和声音による装飾を施し、音域を考慮した配置の変更を行うこと で事足りたはずなのだが、ここで実際に使用されているのは椅和音。からg−. mollの純正な属和音p(譜例8b}という進行である。この変更は多分に感. 14.

(20) 覚的になされたものである可能性はあるが、筆者としては、第61小節に付され たrallentandoの指示との関連を指摘しておきたい。第29小節にはその指示は なく、淡々と進行する音楽に内声の半音進行はふさわしいものであったわけだ が、第61小節以降においてラヴェルは、曲尾に向かって速度をゆるめていくこ とを望んでいるのである。その速度変化を必然的なものとするため、椅和音。 から長2度の平行進行によって和音pへ解決するという、やや重い和音進行を 意識的に選んだということは充分に考えられるのではないだろうか。和音進行 の重さという点から見た場合、和音。が長三和音の形態をとる故に、筒和音で ありながら高い自律性を持つということもまた、見逃せない事実である。 曲尾、すなわち第64小節の三拍めにおいて最高音として選ばれているト音は、. この和音の根音であり、当然ながらこの曲の主調g−mollの主音に他なら ない。B部分後半においてこれに対応する第32小節では、同じ位置にイ音が使 われており、第64小節もそれにならうなら二音が選ばれたはずである。非常に 細かいことながら、この処理は主調の確立に対するラヴェルの執着を示してい るものと、筆者には思われる。. 註1. シャイエは、 「短調完全和音に付された長7度音で構域され」るこの和音の「形成」を、「ごく最近二十年ぐらいのもの」 (筆者註、1920年. 代)と述べ,さらにその実例としてオネゲル (Honegger Art血ur 1892−1955)の作品「ダヴィデ王i (Le Roi. David,1921)の一節を挙げている, (ChailIei Jacques :1951: ”Trit6 Historique d’ Analyse Musicale”{r音楽分劃一ギリシャ旋法から現代音楽まで1 :1968: 藤田幸雄,若桑毅共訳 音楽之友社,東 京)) また、ケックランは1923年時点において、この和音についてまったく言及していない。 (Koecklin C血arles :1925:. ”L’Evolution de L’Har皿onie Contemporaine躍(『和声の変遷』 :1962: 清水修訳 音楽之友 社諌京)). 15.

(21) (皿)第三曲. 大きくはA B−C−A’と分けられるが、便宜上、次のようにさら に細かく区分しておく。. Al A2 Bl B2 Cl C2. A’. 冒頭より第8小節まで。 第9小節から第16小節まで。 第17小節から第24小節まで。 第25小節から第32小節まで。 第33小節から第40小節まで。 第41小節から第56小節まで。 第57小節から曲尾まで。. A1及びA2部分は、一見、導音を持たないe−moll、あるいはホ面上 のエオリア旋法(E−Eolian)が採用されたものと見える。16小節間を通して低音 に持続するホ音の存在が、聴覚的にもそのような印象を与えているのだが、実 はそのような捉え方でこの部分の和声構造を適確に説明することはできない。. 以下、A1回分に先立ち、声部進行のより明確なA2部分(第9∼16小節}につ いて、筆者の考察を述べてみたい。. (1}まず最初の4小節(第9∼12小節、譜例1a)について、保続音であるホ 音を除去し、さらに声部進行が明確になるよう整理してみれば、譜例1bに. 示した和音a−b、すなわちG−durの属和音一主和音という進行が現わ れる。. (2)第13∼16小節(譜例2a)についても同様の考え方で、血続音ホ音を除いた. 上声部の声部進行を図式化する(譜例2b》。和音。を和音d1への椅和音と して、また和音eを和音d1とd2の間に挿入された面面和音として捉えれ ば、この4小節の本質的な和音進行が、やはりG−durの属和音一主和音 であることがわかる。. つまり、e−mollのTonic保続音上に、平行長調であるG−durの和 声を乗せることによってこの部分が成立しているのであり、それは複調的な発 想によるものというよりも、むしろラヴェルが平行調関係にある長短調を同一 次元のものと捉えていたことを示すものだと筆者は推測する。筆者のこの推測 は、Ar 舶ェ(第57小節以下)、すなわち復帰部において、この部分と同様の和. 声がまさにG−durのTonic保続音上で展開されているという事実によって 裏付けられる。A1部分、すなわち第1∼8小節(譜例3)は第9∼16小節を簡 略化したものであり、現譜を掲げるにとどめよう。. 16.

(22) B1部分(第17∼24小節、譜例4a}はD−durに転調する。第17小節を除 いて低音のTonic保続音(二音》が支配するが、属音であるイ音もまた保続音的 に連打されており、主音、属音による同時保続音と捉えることがより適切であ ろう。第17小節のみ低音がイ音となっているのは、先行する第16小節の低音で. あるホ音と五度関連をつくることによって第16∼18小節にD−durのll−V −1という機能的な和音進行を成立させ、A部分とB部分の連結をより強固な ものにしようとしたものと考えられる。. 二恩、イ音の同時保磁玉上ではD−durの属和音と主和音が交替するが( 譜例4b)、属和音には第7、9、11、13音が適宜累加され、また主和音には 長7度音の累加に加え、6度音、2度音が付加されている。その結果、第19小 節の和音f1と第20小節の和音f2(いずれも譜例4a)のように、異なった立 脚点を持ちながら表面的には同じ和音の形をとるという現象も起こっている。 また属十一、あるいは属十三の和音にあっては、第3音と第ll音の半音の摩擦 を避けるため第3音(すなわち導音嬰ハ音)は省略されている。. 続くB2回分(第25∼32小節、譜例5a)は、一貫してヘミオラ(hemiola、註 1)の技法が用いられている。すなわち、B1部分と同一のフレーズがリズム とアーティキレイションの変化を施され、小節線による枠組みから解放された 2分の3拍子の音楽に変容されるのである。この技法そのものはラヴェルの作 品にあっては珍しいものではなく、この第三曲でもすでに第5・6小節、第13. ・14小節で見られたが、このB2部分の場合、和声的にはB1部分同様一小節 ごとに属和音と主和音が交替しているため(譜面5b)、和声リズムと音形的律 動の間にずれが生じ、潜在的なPolyrhythmが現出する結果を呼んでいる。. 以上考察してきた第32小節までが、第17小節を除き、いずれもその属する調 のTonic六出音上に展開されたものであった点を、今一度確認しておきたい。. A1、A2部分に関しては、その調性をe−moll、G−durのいずれと 考えるのかという問題はあるが、仮にG−durと捉えたところでホ音はその 第vi音であり、やはりTonicの機能を持つ保続音であることに変わりはない。. 第33∼40小節のC1部分(譜例6a)もまた、保続音である嬰へ音上に展開さ れるが、その嬰へ音の持つ機能は、まぎれもなくDominanteである。この部分 のはじめに位置する第33小節一拍めの和音h、すなわち嬰へ音を根音とする属. 七和音が、h−mollという調性、及び嬰へ音のDominante機能を決定する わけだが、冒頭から第32小節まで徹底してTonic保続二上に展開されてきた音 楽が、一転してDominante二二音上にシフトするというこの部分の処理に、楽. 17.

(23) 曲構成と大局的な機能感とを不可分のものと捉えるラヴェルの思考の一端を見 て取ることも許されよう。 嬰へ音の保続音上には、上述した和音h以降、基本的には属七和音の平行進 行が続く(譜例6b)が、ラヴェルは機械的な平行進行に拘泥せず、柔軟な処理. を施している。例えば譜例6bの和音i1は、嬰へ音を嬰ト音に置き換えられ て属九和音i2となり、さらに配置を変換されて、最終的には譜面6aの和音 i3へと変質する。この処理によって、1}第35∼36小節の旋律線にA部分の モチーフ(第7小節)との近親性が生じ、また、2)属七和音の連続の中に七九 和音が混入されることで、和声の色彩にアクセントが加えられる。しかも和音 i3は嬰へ音を根音とする属和音であることに変わりはなく、この和音がフレ ーズの段落点に置かれることによって、保続音である嬰へ音のDominante機能 は確実に保持されるのである。. 第41小節からのC2部分は一貫してロ音の保続音上に展開される。このロ音 もまたDo皿inanteの機能を持つが、それが冒頭A部分のTonic保続音であるホ音 に対するDominanteである点は重要である。. 第41∼48小節(譜例7a)はC1部分と同じモチーフを用い、和声的にも同様 に和音jを軸とする属七和音の平行進行を基盤としている(譜例7b}。配置変 換(第42小節の和音k1→k2)、配置変換による置き換え(第46∼47小節の和 音11→12)、また配置変換+属九和音への置き換え(第47小節の和音11→ 13}によって旋律線が柔軟に処理されている点も、C1部分に準ずる。 第48小節で和音jに帰着した上声部は、なおもロ音の雷雨音曲で属七和音の 平行進行を続ける(第48∼52小節、譜面8a・b)が、この部分の属七和音の平 行進行は、第33∼47小節のそれとは音楽的意味がやや異なる。軸となる和音j が、音価の上で、またこの部分を2分の3拍子と捉えればにごでもヘミオラ の技法が用いられている)いずれも強拍で打たれているという点で、圧倒的な. 優位を保っており、挿入されている和音m1、m2はいずれも和音jの小さな 揺れに過ぎない。その意味ではここに平行進行という言葉を用いること自体が ためらわれるほどである。. 第52小節では上声部の揺れも治まり、テーマの復帰が準備される(第52∼57 小節、譜例9a ・b}。 低音部に依然として続く保続音としてのロ音、上声 部で持続されるロ音及びイ音、その両者に挟まれ、内声部で半音つつ平行移動 する長三和音は、第55小節で上声部のイ音を吸収し、第57小節ではついに最上 声のロ音と合流してテーマの再現に至る。第56小節の和音nから第57小節の和 音。への連結は一見感覚的になされたかのように思えるが、実はここにも共通. 18.

(24) 音であるト音を軸とする他の三声部の平行進行という論理性(譜例9c)が隠さ れている。. さて、第57小節で復帰するテーマを支える低音が、冒頭のようなホ音でなく、. G−durのオーソドックスなTonic保続音であるト音に置き換えられている ことは、すでに述べた。あたかも冒頭で与えられた謎がここで説き明かされる かのようであるが、実はこの「謎解き」が新たな疑問を生む。すなわち、もし このA’. 舶ェで真性のG−durに帰着したいのであれば、なぜ先行するC2. 部分にG−durのDom in anteである二二を保続音として設定しなかったかと いう、楽曲全体の調性プランに関わる重要な問題が提起されるのである。 筆者としては、この部分の処理に、A部分全体の和声構造と同様、平行調関 係にある長短調を同一次元のものと捉えていたと思われるラヴェルの思考と、 またその実践とを見て取りたい。平行調関係にある長短調(つまりこの場合に. はG−durとe−moll)を同一次元のものとして捉えるということは、 e−mollのDominante音であるロ音を、すなわちe−mollの平行長調 であるG−durのDominanteとしても機能し得るものと認めることに他なら ない。. ラヴェルの技術をもってすれば、C2部分で自然に二六保続音を導きだすこ とになんら困難は伴わなかったはずである。にも関わらずラヴェルは、冒頭部 分のホ白保続音に対するDominanteである自白血続音をC2部分にあえて設定 し、そこから真性のG−durに直結させた。このことは、平行調関係にある 長短調の同化を、垂直的な問題、すなわち和声技法の一つとしてだけでなく、 水平的に、すなわち楽曲全体の調性プランの上でも具現しようという意志の現 れではないかと考えられる。. そのように導きだされた第57∼64小節(譜例10a・b)のうち前半4小節は、 保続音がト音となった関係上、上声部にもA部分との若干の違いが見られはす るが、属和音と主和音の交替という根本的な和声構造はA部分と同様である。 それに対し、第61小節以降では、旋律線はA部分と同一ながらト音域続音から 解放され、低音の5度進行、及び借用属七を多用した機能的な和声進行が用い られているため、大半の部分がなんらかの一続音上で展開されているこの曲の 中で、和声的に際立った印象を与える。また、第62小節の和音Pがこの曲で唯 一の純粋なSub Dominante和音であることも見逃せない。. Codaである第65小節以降(譜例11a・b)は、やはり付加音を伴う属和音と主 和音からなり、和声的に特筆すべき点は見られない。しかし第68小節以降のモ. 19.

(25) チーフが、続く第四曲のテーマへとそのままつながっていくこと、またそのモ チーフは、すでにC2回分後半(第48∼51小節)で予告されていたものであるこ とを付け加えておこう。. 註1. 2拍子の中に3拍子を組み込むこと、またはこの逆を差す,(ラルース世界音楽辞典). 20.

(26) (W)第四曲. 第四曲は、第三曲の曲尾のモチーフ それが第三曲の中間部分であらか じめ予告されていたものであることはすでに述べた をそのまま引継いで 始まり、しかも全曲がそのモチーフのみを素材として構成された、単一主題の. 楽曲と言ってよい。また、2分の3拍子的な音形的律動を持つ旋律線と、4分 の3拍子を保持する左手伴奏部とによるPolyrhythmがほぼ全曲を支配している ことも、この曲の特徴と言えるだろう。. リピートは考慮せず、次のように、A1−A2−B1−B2−A’と区分し よう。. Al A2 Bl B2 A’. 冒頭から第8小節まで。 第9小節から第16小節まで。 第17小節から第30小節まで。 第31小節から第38小節まで。 第39小節から曲尾まで。. A1部分(第1∼8小節、譜例1a}は、結論的には譜例1bに示したような 短属九和音(和音a、b)、属九和音(和音。)、そして6度音を付加された長三 和音(和音d)からなる和声進行が、非和声音によって潤色されたものと考えら れる。. 和音aから和音bへの連結が、共通の上部音、すなわち異名同音的にはまっ たく同一の減三和音を軸としつつ、低音を増2度下行させるというやや感覚的. なものであるのに対し、和音b−c−d、さらに第9小節で再現する和音aま では、ことごとく根音の5度進行による機能的な和音進行が用いられている。. 和音dがこの曲の最初のTonicであり、主調As−durを確立するものであ るが、この和音dを中心として冒頭から第9小節までの和音進行を検討すれば、 次のようなラヴェルの思考過程を推測することが可能である。. (1)和音dの先行和音として、和音dに対して5度関連をなす和音。を設定す る。. (2)さらに和音。の先行和音として、和音。に対して5度関連をなす和音bを 設定する。. (3)和音dの後続和音として、和音dに対して異名同詩的に5度関連をなす、 第9小節の和音aを設定する。 (4)第9小節以降、すなわちA2部分がA1部分の反復たり得るよう、冒頭の. 第1∼2小節に第9小節と同一の和音aを設定する。. 21.

(27) 先に和音a−bの連結を「やや感覚的なもの」と表現したが、上記のように 主和音である和音dの存在を前提とした逆算的な思考がラヴェルの中で働いた と考えれば、第1∼2小節の和音aの存在も、必然的、論理的なものとして納 得し得るのではないだろうか。. 次にA1部分の和音進行を潤色する上声部の直和声音を考察してみよう。 譜例1cの上二段は、上声部の声部進行(便宜上、各声部をα、β、γ、δ と 分類する)を図式化したものである。下段には各部分に対応する和音a、b、 c、dを基本位置、密集の形で添えた。やや煩雑な譜例となってしまったが、 以下、特に読み取りにくい部分について補足しておこう。. (1)第1小節の旋律音ホ音は和音aの第9音二音に対する山面である。その解 決は一見省略されているようにも思えるが、実は第2小節で左手パートにあら われるオクターブ下の二品(譜例1a・1cの(ア))が代行している。 {2)第2小節の嬰凶音、嬰イ音〔一例1cの(イ))はそれぞれ長2白下のロ音、. 嬰ト音への解決を求めるものと考えられる。その解決は、第3小節での和音の 交替と同時に、異名同音である変ハ音、変イ音(譜例1cの(ウ)}によって行わ れている。前三曲中にも何度か見られた、比和声音の解決を和音交替点まで遅 延する技法である。 (3)第4小節において、α声部はオクターブ下ヘシフトする(譜面1cの(エ))。 最上声となったβ声部のト音は、(2)の場合同様非和声音のまま引き伸ばされ、 第5小節での和音の交替と同時にへ音に解決する(譜例1cの(オ))。 (4》γ声部とδ声部は、第5小節で一時的に合流する(譜例1cの(カ))。. A1部分の着地点となる第7∼8小節についても触れておこう(譜例1d}。 6度音を付加された長三和音(和音d)にさらに加えられた八音は、変ホ音の刺 繍音であり、譜例1dに示したように即座に左手パートの変ホ音に解決してい る。このような、長三和音の第5音に対する下部椅音の使用はラヴェルが偏愛 した手法の一つであり、またそれによって生ずる音色はラヴェルの作品を特徴 づける一要素ともなっている。. A2部分はすでに述べたようにA1部分の反復であり、第9∼14小節につい てはA1部分とまったく同一である。しかし結尾の部分(第14∼16小節、譜例 2a)では、第7∼8小節の和音dの代理として、偽終止的な意味合いを持つ 和音e(譜例2b)が用いられ、 B 1部分以降の意外な和声的展開へと導いてい く。. 22.

(28) B1部分では和声構造の解読を極めて困難なものとするような技法が用いら れており、その骨子となる和音進行を見定めることさえ容易ではない。しかし、. それだけにA1部分以上に興味深い問題が提起されている部分とも言える。ま ず第17∼20小節(譜例3a)に関して筆者の見出した結論について、それに至る 経過とあわせて述べてみよう。. (1)第17・18小節の、装飾的なものと思われる音符(譜例3aの()内}を削 除してみる。低いホ音は最上声のホ音の重複、低音心中のハ音は同一和音内 での装飾と考えてよい。また左手部分のオクターブ関係を整理し、さらに第 20小節は演奏者の読塗上の利便を優先した記譜法が用いられているものと考 えられるため、声部進行に即した記譜法で書きあらためる。(譜例3b) (2}その結果残された音符をさらに譜例3cのように整理し、図式化してみれ ば、γ声部の半音階的な進行を中心とした四声体構造が見えてくる。β声部 は第19小節3囲め(二一3cの(ア))で二つに分岐するものと考える。 (3)譜例3cの段階では未だ骨子となる和音が決定していないため、すべての 音符を黒音符で記した。ではこの4小節中に、ある程度明確な終止感を感じ させるような和音はないだろうか。筆者には第19小節の和音gがかなり明瞭. なTonic、すなわちcis−mollの主和音と聞こえるが、その聴覚的印 象をとりあえず信頼し、和音gに先行する和音fがcis−mollという 調においてなんらかの機能的な意義をもっていないかを検討してみた。 (4)譜面3dのように和音fのホ音 これは4小節間持続音として保留さ れている を嬰二音の上行変位音と考え、またハ音を嬰ロ音の異名同音. と捉えれば、和音fの本来の姿としてcis−mollのN(付加4・6)が 浮かび上がり、後続する和音gとの問にSub Do面nante−Tonicの関連を認め 得ることになる。. (5)和音f−gをこの4小節間の軸として、あらためて第17∼20小節を図式化 したものが語例3eである。この譜例で明らかなように、第17∼18小節は、 先行するA2部分の最後の和音eに等しい第17小節の和音から和音fまでの 間を、γ声部、δ声部の半音階進行で潤色したものではないかという決論に 達した。和音fがTonicである和音9に解決した後の第19∼20小節も、和音 gの内部で半音階的な経過音が連続する結果、あたかも一拍ごとに和音が交 替しているかのような様相を呈しているに過ぎない。. 上記のように考えれば、一見感覚的なものとも思える第17∼20小節の和声構 造が、実はぎわめて論理的な裏付けをもっていることがわかる。第17小節の和 音は、ただ先行する第16小節の和音eに等しいという理由でのみ選択されたも. 23.

参照

関連したドキュメント

或はBifidobacteriumとして3)1つのnew genus

長尾氏は『通俗三国志』の訳文について、俗語をどのように訳しているか

Classroom 上で PowerPoint をプレビューした状態だと音声は再生されません。一旦、自分の PC

が作成したものである。ICDが病気や外傷を詳しく分類するものであるのに対し、ICFはそうした病 気等 の 状 態 に あ る人 の精 神機 能や 運動 機能 、歩 行や 家事 等の

このように、このWの姿を捉えることを通して、「子どもが生き、自ら願いを形成し実現しよう

本文のように推測することの根拠の一つとして、 Eickmann, a.a.O..

Hoekstra, Hyams and Becker (1997) はこの現象を Number 素性の未指定の結果と 捉えている。彼らの分析によると (12a) のように時制辞などの T

本論文での分析は、叙述関係の Subject であれば、 Predicate に対して分配される ことが可能というものである。そして o