第 665 回健康教育講座
「身近に起こるこころの病:不眠、うつ、認知症について」
開催日 平成19 年 9 月 6 日(木) 講 師 名古屋大学医学部付属病院 精神科教授 尾崎 紀夫 日本人の5人に1人は、何らかの不眠で悩んでいると言われており、まさに「不眠症」 は国民病と言えます。しかし、誰もが、いつでも睡眠を8時間とらなければならないとい うことはありません。人それぞれ自分にあった睡眠時間、すなわち、朝気持ちよく目が覚 め、日中、眠気がひどくない程度の睡眠時間をとればよいのです。例えば、年齢を経るに つれて睡眠時間は短くなるのが自然で、夏は冬より短くなります。ところが、睡眠に関す る誤解から「不眠恐怖症」になっている方も多いようです。 また、夜、良い睡眠をとるためには昼間の過ごし方も重要です。午前中に光を浴び、昼 間にある程度活動することが良い睡眠につながります。また、昼寝に関しては、午後3時 までに一時間までの昼寝をとることはむしろ心身にプラスに働きます。 不眠が起こると、日本人は医者に相談せずアルコールを飲む人が多いという調査結果が あります。しかし、アルコールを飲んで睡眠をとろうとすると、徐々に必要なアルコール の量が増えたり、飲酒後の睡眠は質の悪い睡眠になってしまうことがあります。睡眠に対 する正しい知識を持ち、その上で、必要な場合は睡眠薬を適切に使うことも必要です。 さて、不眠を訴える人の5人に一人はうつ病であり、不眠を訴えていた人はうつ病にな りやすいともいわれています。うつ病の時には、夜よく眠れず、特に眠りが浅くなってし まうので、途中で目が覚めてしまい、目が覚めるともう一度寝つくことができません。し たがって、朝起きてもすっきりせず、とても嫌な気分になってしまいます。つまり、不眠 がうつ病の症状のひとつとして起こっている場合が多いということを知っておく必要があ ります。 ところで、うつ病と普段起こる「気分の落ち込み」とはどこが違うのでしょうか?普段 起こる「気分の落ち込み」は、何かのきっかけがあった時、一時的に起こる気分の変化で す。ところが、うつ病で起こる気分の落ち込みは、長い間、少なくとも2週間以上にわた って、毎日のように続きます。しかも、普段の「落ち込み」と異なり、「気晴らし」が役に 立たず、「良いこと」があっても良いことと思えず、普段楽しめることも楽しめないので、 気分転換ができません。 この様なうつ病はどれくらいの頻度で起こるのでしょうか?一生のうち、一度でもうつ病になる方が、男性の場合は10 人に1人、女性の場合は5人に一人、男女全体で 15%くら いにはうつ病が起こると考えられています。ところが、うつ病患者さんの多くは、「医者に かかってもどうしようもない」といった「否定的なものの見方」や「身体の症状があるか ら身体の病気に違いない」といった考え方が強く、「適切な医療を受けていない」傾向があ ります。しかも、うつ病から自殺をしてしまった方々の多くも、専門医を受診されていな いということがわかっています。また、ものの見方が否定的になると「自分は不必要な人 間だ」などといった考えに結びつき、辞職や離婚などにつながり、結果的にご本人を取り 巻く環境が悪化してしまいます。したがって、早めに治療を開始することが大事です。 もし、うつ病の可能性に周囲が気づいたときは、ご本人が「否定的な見方」のせいで「医 療受診は気が進まない」ことを念頭におきながら、医療受診を勧める必要があります。そ の際、ご本人が困っていて、医療受診につながりそうな話題、例えば「不眠」をきっかけ に受診を勧めることもひとつの方法です。 うつ病は、高齢の方々に起こる場合がありますが、若い方に起こるうつ病に比べて、重 症で、特に自殺に結びつく場合があり、注意が必要です。また、高齢者のうつ病は、認知 症と区別がつきにくいことも良くあります。うつ病の症状として「抑うつ気分」、「意欲の 低下」さらに「頭が働かない」といった症状が見られますが、認知症でも同様の症状が起 こり得ます。 かつて、認知症が発見されても治療手段がほとんど無い状況でしたが、現在は認知症の 進行を抑える薬物も開発されており、ためらわず早めに医師に相談することが、何よりも 大切です。「変だな」と思ったときは、普段ご本人やご家族が診てもらっている医師に相談 してみるのが良いでしょう。 以上の様な点を考え、身近によく起こる心の病の代表であり、皆さんに知っていただき たい、「不眠、うつ、認知症」に関するお話しをしたいと思います。