八
資 料V
163一一『奈良法学会雑誌」第8巻 2号 (1995年9月〉オランダの臓器提供法案
ーl
世界の臓器移植法(六
)
1
1
臓器移植法研究会
Iま tJ~ き し 最近、オランダ下院は、臓器提供法の最終案(第二次法案﹀を可決し、これを上院に送付した。この法案は、実務の法的確認と 洗練(この観点は最も重要であるが)という性質のものであって、国論を二分するようなものでもなく、また上院には法案修正の 権限はないので、来年(九六年)早々にも通過する見通しのようである。 オランダの臓器提供法の立法化は、国際的な流れに沿うものである。ヨーロッパ評議会は、すでに一九七八年に第二九決議によ って、人の臓器と組織の摘出、加工及び移植に関する参加国間の立法の調和を誼った。一九八七年、同評議会の保健問題に関する 閣僚会議の最終コミュニケは、臓器移植のための適切なル 1 ルの作成、とりわけ、ドナ!の権利と自由、商業化の阻止、臓器の交 換、及び公衆に対する啓発問題を提起した。また、一九九一年には参加国の臓器パンクについての組織的・質的な必要条件につい て 決 議 し た 。 立法化を促す要因として、上記の諸提案に関連することであるが、臓器提供数の逓減という深刻な問題がある。オランダの関係 病院・研究所等も参加している移植ネットワーク﹁ユ l ロトランスプラント﹂(オランダのほか、ベルギー、ルグセンブルグ、ド イツ、オーストリアの五カ国が加盟)の臓器提供数は、報道によれば、一九九四年前半期と前年前半期を比べると、心臓で一五%、第8巻2号一一164 腎臓で一四%、肝臓で九%の減少がみられ、全臓器の合計で約四百件減ったとされる。臓器移植をめぐる不祥事が報道されたオー ストリアでは前年比で心臓が二O%、腎臓が一二OVAというように全体で二、コ一割減ったという(朝日新開九四年八月三一日号、同 九 月 九 日 号 ) 。 オランダ国民の臓器提供問題に対する態度は、移植による生命救済の可能性の拡大の見通し(将来、全ての外科手術の四分の一 で、人の細胞、組織または臓器が利用され得ると展望されている)のもとで一般的に積極的であるといわれているが、この可能性 の増大と共に臓器不足の傾向も現れてきている。一九九O年現在の移植例をみると、約千五百万人口の国で、腎臓移植は四O一例、 心臓移植は三九例、肝臓移植は四O例、角膜移植は六二ハ例、捧臓移植は九例が実施されている。(ちなみに、同年のわが国にお ける腎臓移植は七四一例、角膜移植は二ハニO例。中山研一一編著﹃資料に見る脳死・臓器移植問題﹄日本評論社、一九九二年、二 四 三
l
二四四ページ J 他方、一九九一年における移植のための待機リストの患者は、腎臓移植が一三四五人、心臓移植が二O人、 肝臓移植が四人、勝臓移植が八人、また角膜移植は二九八人であったという。提供の絶対数は減少していないかもしれないが、ド ナ l ・コディシル(死後の臓器提供に同意を示す書面)所持者の数でいえば、ここ数年、ほとんど変動がない。それは、ある時期、 急速に増大した。すなわち、例えば、一九八六年には百六O万人を突破し、一九八八年には二百万人に達した。しかし、その後は 横這い状態を続けているようである。コディシルに関わる問題は、本法案でも最も重視されているものの一つであり、後に改めて 説 明 す る 。 臓器提供数が相対的に制限されている原因の一つは、臓器摘出に対する国民の信頼感が減少したためではないかとみられている。 同意なしに摘出されていることはないか、死の確認、とりわけ脳死の厳正な確認の前に摘出されていることはないか、臓器の配分 は公正か、医学的根拠に基づかずに解剖がなされてはいないか等々といった疑いが広がり、新聞や雑誌の報道もそのような不安の ム l ドを増幅させることになっているというのである。そのほかにもいくつかの障害ないし問題点が指摘されている。例えば、臓 器摘出に関与するコーディネータ 1 の資格に関する唆味さ、死後における臓器の確保のための事前措置、摘出、あっせん及び保存 の全プロセスで役割を演じる障害、病院職員の不慣れと知識不足、生体からの移植におけるドナーに残存する影響、摘出と移植を めぐる手続きについての公衆の無知から起こる諸問題、臓器を必要とする家族または潜在的ドナーに及ぼす道徳的プレッシャー等165一一オランダの臓器提供法案 々 の 問 題 が あ る と い わ れ る 。 法案は、これら全ての問題を扱っているわけではない。それは、単に臓器の摘出、保存及び配分の問題を扱うにすぎない。法案 の重要な目的として、第一に、ドナ l の利益の保護が挙げられる。第二の目的は、同意が与えられる目標それ自体を規制すること である。必要条件は、明示的な同意があること、そして金銭的利得の目論見のないことである。第三は、臓器の公正な配分を規制 することである。そのため、移送、選別、保存についても規定され、臓器の使用は臓器センターのみが決定する、などである。 しかし、臓器提供の拡大を意図した実践的な手だても講じられている。この点で、現状と法案との相違点を挙げれば、前述した ように、ドナ l ・ コ デ ィ シ ル に 関 わ る 問 題 が あ る 。 n o 虫色目は、英語の場合も﹁遺言補足書﹂と和訳されているが、オランダでは、 臓器摘出に対する同意を一示す自筆の宣言としても使用され、日付と署名を付して次のように書かれている。﹁私は、この書面をも って、死後、移植のために臓器(または特定の臓器﹀が私の身体から摘出されてもよいと宣言します。これは医師によって確認さ れたものです。﹂この書面をもっ人は、これをポケットや財布に携帯していることが期待されているが、常時携帯者は、前述した 二百万人中、約半数だという。そこで、書面が存在するとしても、死者がこれを携帯していなければ、医師は改めて遺族にその存 否を確かめなければならない。また、この書面は請求して入手しなければならないという面倒がある。さらに、このコディシルは 法的に有効かという問題もあった。新しい遺体処理法の第七二条はこれに法的根拠を与えたが、暫定的な措置をされている。本法 案は、コディシルに記録された同意は百%有効であることを裏付けると共に、これは必ずコディシル登録簿に登録されるとととし、 その者の死後、直ちに登録簿に従って調査され得ることにしているので、不携帯に伴う問題(遺族に対する確認・相談・説得に要 する時間、従って臓器の鮮度の問題も含めて)は解消されることになる。また、法案は、成人(十八歳﹀に達した全住民に対して 自治体当局がコディシル申込用紙を無料で送付することにしており、摘出に同意の意思をもとうと、反対の意思をもとうと、全て の住民がその意思を表示する機会を提供することにより、意思確認の促進と臓器提供の増大を図っている。 このように、オランダの臓器提供法は、ドナ l の権利と自由、臓器の公正な配分、商業化の禁止、関係者の法的安定といった形 式面の整備にとどまらず、実質面の達成も意図したものとなっている。個々の詳細については以下の紹介に委ねる。
第8巻2号 166 本紹介に当たり利用できた資料は次の通りである。 一下院の一九九一・一九九二年会期における第一次臓器提供法案(全コ一三条) ( H N 巾
E
g
D
B
件門市口同町内片片巾円σ
2
岳山耳目白岡田件。-8 4
田口。門岡田口g
H
君 主 。 司 号 O 門 間S
E
c
S
Z
)
向上法案に対する説明覚え書き(全三五ページ) ( 冨25
同 日 開 4 白 ロ 吉 刊 日F
n
Z
5
問 ) 同上法案に対する条文解説(全十四ページ) 上院の一九九四・一九九五年会期における第二次臓器提供法案(全一二六条) (岡山品巴2
0
5
H
円巾ロ昨宮即時丹市円宮田円E
r
r
Z
岡 田E
-g
J
﹃白口。円m
g
g
H
d
弓2
0
也 号 。 ﹃ 岡 田 白E
C
ロ 目 立 巾 ・ 吋唱 m m s o ロ田島市片岡市 4 1 ] N 仲 間 己 4 0 0 門 田 g -4 白 口 当2
・ 四 三 印]-﹄-HH坦坦印・) 一から三の文献は、川口浩一助教授から送付していただいた。これらを読了後、オランダ法務省の刑法問題の特別顧問で あるネイメヘン大学のペ l タ l ・タック百22
﹄・戸吋岳)教授に最新の動向について照会し、四の資料を得た。新旧法案等の 相違点を点検した後、紹介者の把握したところに基づいて、改めてタック教授に現時点における諸問題と疑問点について問い合わ せ、ご多用にもかかわらず色々と御教示を得ることができた。 上 記 以下においては、まず、本年七月五日づけの最終法案を訳出し、次いで、一、二、三の資料と共にタック教授から得た知見をも とに、条文関連の補足説明を少しく加えておきたいと考える。補足説明の内容は、上記資料等から紹介者が参照に値すると判断し た事柄を、適宜、選択し、加工を施したものである。従って、臓器提供問題に関する国民への啓発やドナ1・コディシルの作成に 関わる予算措置など財政上の諸課題、その他の詳細な記述も不要と考える限りで割愛している。照準が大きくはずれていなければ 幸 い で あ る 。臓器提供法(案) オランダ上院 一 九 九 四 ・ 一 九 九 五 年 会 期 第二次法案 一 九 九 五 年 七 月 五 日 神の恩寵によりオランダの女王にしてオラニエ・ナッソlの王女等々たる我らがベアトリックス! 本法を見聞きし、読むであろう国民のみなさん! 謹 ん で 申 し 上 げ る 。 我々は、とりわけ他人の治療のための臓器の使用に関して、臓器の提供とその公正な配分を促進し、かっ臓器売買を防止する ために、憲法第十一条を遵守し、関係者の法的安定に配慮しながら、これに関する立法を制定することが望ましいと考えてきた。 このようにして、我々は、この件について枢密院に諮り、国会の同意を得たので、以下のように、本法を制定する次第である。
第
一
章
一 般 的 定 義 167一一オランダの臓器提供法案 第一条 本法の各規定における用語の意味は、次の各号の通りとする oa
、大臣とは、保健・福祉・スポーツ大臣を意味する。 b 、臓器とは、血液及び生殖細胞を除いた人の身体の構成要素または胎児の構成要素を意味する。c
、ドナーとは、本法に基づいて臓器の摘出のために同意を与えた者に関係する生体または死体を意味する。 d 、摘出とは、ドナl自身のためにするものを徐いた臓器の取り出しを意味する。 e 、移植とは、他人の治療のためにその身体にドナーの臓器を取りつけることを意味する。第8巻2号 168 f 、病院とは、国民健康保険法もしくは特別医療費法が適用される病院またはナ l シ ン グ ・ ホ l ムとして認可され、もしくは指 定された施設、もしくはその一部を意味する。
g
、臓器センターとは、第二四条に掲げられた施設を意味する。 h 、臓器パンクとは、第二八条に掲げられた施設を意味する。 第二条 臓器の摘出のために失われた収入を含めて必要な経費以上のものを報酬として受け取る意図をもって臓器の摘出のために与えら れ た 同 意 は 、 無 効 と す る 。第二章
生体からの臓器の処分 第三条 理性的にその利害を判断できる成人は、特定の者に対する移植のために生体からの任意の臓器または自己が指定した臓器の 摘 出 に 同 意 で き る 。 臓器を摘出しようとする者は、ドナーに対して、摘出の性質と目的及び予期される結果、その健康及びその他の生活状態に 対する危険について、口頭と書面で、またその要求があるときにはオーディオ・ビジュアルな手段を用いて、正確な情報を 与えなければならない。また、その者は、ドナーが自由意思でもって、また結果についての認識をもって同意したこと、及 び経費の補償に関する本法の条項について知らされていることを確認しなければならない。 生体からの臓器の摘出がドナ 1 の健康に持続的な影響を及ぼすことが合理的に推認されるときには、レシピエントに他の方 法では適切に回避することのできない生命の危険が現在する場合に限りこれを行うことができる。 第四条 理性的にその利害を判断できない成人の生体からの臓器の摘出は、次の各条件に適合する場合に限り行うことができる。 再生可能な臓器であること。169 オランダの臓器提供法案 摘出がドナ!の健康に持続的な影響を及ぼさないこと。 レシピエントの二親等以内の血族に対する移植のための摘出であること。 レシピエントに他の方法では適切に回避できない生命の危険が現在すること。 ドナーがレシピエントの生命の危険の回避に重大な利害関係をもっていること。 前項にいう摘出は、ドナ l の法定代理人の同意、それの欠けるときは夫または妻の同意、それの欠けるときは親または成人 の子供の同意、及び地方裁判所判事の同意が欠ける場合には行われてはならない。 臓器を摘出しようとする者は、前項にいうドナlの法定代理人、次いで夫または妻、次いで親または子供、及びドナーに対 して、摘出の性質と目的及びその予期される結果について、口頭で、その要求のあるときは書面で、またはその要求のある ときはオーディオ・ビジュアルな手段を用いて、できるだけ正確な情報を与えなければならない。また、その者は、第一項 と第二項が遵守されていることを確認しなければならない。 第五条 十二歳以上の未成年者の生体からの臓器の摘出は、次の各条件に適合する場合に限り行うことができる。 再生可能な臓器であること。 摘出がドナ 1 の健康に持続的な影響を及ぼさないこと。 レシピエントの二親等以内の血族に対する移植のための摘出であること。 レシピエントに他の方法では適切に回避できない生命の危険が現在すること。 ただし、未成年者が同意を与えた後、親権を行使する両親または後見人及び少年裁判所判事の同意が得られない場合には摘 出 す る こ と が で き な い 。 十二歳に満たない未成年者またはその利害を理性的に判断できない十二歳以上の未成年者の生体からの臓器の摘出は、次の 各条件に適合する場合に限り行うことができる。 再生可能な臓器であること。
第8巻 2号 170 摘出がドナ1の健康に持続的な影響を及ぼさないこと。 レシピエントの二親等以内の血族に対する移植のための摘出であること。 レツピエントに他の方法では適切に回避できない生命の危険が現在すること。 ドナーがその者の生命の危険の回避に重大な利害関係をもっていること。 摘出は、親権を行使する両親または後見人及び少年裁判所判事の同意が得られない場合には行われてはならない。 臓器を摘出しようとする者は、両親または後見人に対して、摘出の性質と目的及びドナーに予期される影響について、口頭 で、その要求があるときは書面で、またはその要求があるときはオーディオ・ビジュアルな手段を用いて、できるだけ正確 な情報を与えなければならない。また、その者は、第一項と第二項が遵守されていることを確認しなければならない。 第六条 本章でいう同意は、少なくとも、日付と署名入りの自筆による宣言によって予め与えられたものでなければならない。同意は、 臓器の摘出前にいつでも取り消すことができる。 第七条 第二条でいう経費は、ドナ 1 及び本章に掲げられた要件に従って臓器の摘出に同意を与えた者に対して支払われる。 第八条 生体からの臓器の摘出は、第三条、第四条、または第五条に適合する同意が与えられた場合に限り認められる。
第三章
死後における臓器の処分 第一節 第九条 同意と反対意思 理性的にその利害を判断できる成人及び十二歳以上の未成年者は、任意の臓器またはその者がとくに指定した臓器の死後に おける摘出に同意を与えることができる。また、そのことに関して反対意思を表示することもできる。四 同意及び反対意思は、第十条に規定されたドナ l 申込用紙への記入と登録によって与えることができる。前項にいう者が臓 器の摘出に関する決定を第十一条にいう遺族またはその者が指定した者に委ねる場合には、その旨をドナl申込用紙に明示 的に表示しなければならない。 臓器の摘出に関する意思宣言は、新たなドナi申込用紙への記入と登録によっていつでも取り消すことができる。 本条にいう意思の表示は、日付と署名入りの自筆による宣言によって行うこともできる。 第十条 171一一オランダの臓器提供法案 自治体当局は、住民が十八歳に達したときには住民基本台帳法にいう全ての住民に対してドナl申込用紙を送付するよう努 めなければならない。また自治体当局は、請求のあるときにはいつでも無料で利用できるようにドナl申込用紙を準備して おかなければならない。 ド + l 申込用紙に記入された死後における臓器の摘出に関する同意または反対意思は、ドナ l 登録簿に登録されなければな らない。また第十一条にいう遺族またはドナーが指定した者に摘出の決定を委ねるという申込用紙に記入された希望も、ド ナ l 登録簿に登録されなければならない。登録簿は、ドナ1用紙を登録する目的で設置された大医の指定する施設に備えら れ な け れ ば な ら な い 。 登録簿は、臓器の摘出が考慮されるときには、医師自身によって、または医師のために、昼夜にかかわらず調べることがで き る 。 第一項、第二項及び第三項にいう業務を実施するための経費は、国民保険資金調達法第三八条にいう疾病に関する特別経費 のための一般基金から支払われる。 ド ナ 1 申込用紙の様式、内容、送付の仕方、管理、維持、ドナl登録簿への容易なアクセス、及び第二項にいう施設と第四 項にいう費用負担に関しては、政令によってさらに詳しい規則を定めることができる。 六第五項にいう規則は、草案が両院に送付され、四週間を経過する以前に定められてはならない。 第十一条 四 五
第8巻2号一一172 第九条に該当する者が臓器の摘出に関する意思宣言をもっていないときには、その死の開始後、次の者によって同意を与え る こ と が で き る 。 その者の死まで一緒に生活していた夫または妻。 夫または妻が存在せず、もしくは連絡がとれない場合には、直接に連絡のとれる二親等以内の成人の血族。 二親等以内の成人の血族が存在せず、または連絡がとれない場合には、直接に連絡のとれる二親等以内の成人の姻族。 意思宣言の存在が知られていない十二歳以上の未成年者に関しては、親権を行使する両親または後見人によって同意を与え る こ と が で き る 。 十二歳以下の未成年者に関しては、前項にいう同意は、親権を行使する両親または後見人によって与えられる。 血族、姻族、または両親の聞で意見の相違がある場合には、第一項にいう同意があるものとはいえない。 死後における臓器の摘出に関する決定を遺族または特定の者に委ねた場合には、同意は、これらの者によって与えることが できる。これらの者が存在せず、または連絡がとれない場合には、同意は第一項と第三項に応じて与えられる。 四 コ ー 第十二条 十六歳になる前に死亡した者が第九条に基づいて臓器の摘出に同意を与えていたとしても、親権を行使する両親または後見人が それに対して反対意思を表明した場合には、摘出することはできない。ただし、両親または後見人が存在しない場合もしくは連絡 できない場合には、摘出することができる。 第十三条 本節でいう同意は、同意を与えた者が明示的に別の決定をしている場合を除いて、移植のために与えられたものとみなされる。 移植のための摘出後に臓器が不適当であるときは、その臓器を移植のための科学的研究に使用することができる。治療行為の観点 から重要でない目的のためにする臓器の摘出には同意が与えられない旨を政令によって定めることができる。 第二節 死の開始
第十四条 一死の確認は、臓器が摘出される前に、臓器の摘出または移植に関わらない医師によって行われなければならない。人工呼吸 を施している身体から臓器を摘出する意図がある場合には、死の確認は、脳死の確認のための科学の最新の水準に従った妥 当な方法と基準に基づいてその資格のある医師によって行われなければならない。脳死を確認する方法のモデルは、第十五 条第一項にいうプロトコールに規定される。 二脳死とは、脳幹と延髄を含む脳の機能の完全かつ回復不能の喪失を意味する。脳死の確認は‘その原因が知られており、及 びそれが治癒不可能な致命的な脳障害であると認められる場合であって、その意識喪失と反応の消失について他の原因が存 在しないことが確実であるときに限り行うことができる。 第十五条 173一一オランダの臓器提供法案 保健審議会は、第十四条第二項に配慮して、脳死の確認のための信頼できる方法と基準であるべき科学の最新の水準に従っ た適切な方法と基準を確定しなければならない。保健審議会は、このような方法と基準に基づいて、病院における脳死の確 認の際に従われるべき手続き及び臓器を摘出する意図のある場合に行われるべき調査に関するプロトコ l ルを作成しなけれ ばならない。プロトコールの内容は、政令によって定められる。 前項にいうプロトコ I ルは、脳死プロトコールと呼ばれる。 第一項にいう政令は、官報に公表の後、八週間以前に施行されてはならない。施行に当たっては、両院は、その公布につい て直ちに知らされなければならない。 第十六条 遺体処理法第三条にいう検死は、死体から臓器の摘出を行う場合には、臓器の摘出または移植の実施に関与する医師によって行 わ れ て は な ら な い 。 第十七条 臓器の摘出は、自然死でない場合、または自然死でないことが確認される場合には、遺体処理法第七六条第二項にいう検察官が
第8巻 2号一一174 埋葬もしくは火葬を許可する前になされてはならない。 第三節利用される臓器に関する報告と配分 第十八条 一ある者の死を確認した医師は、その臓器が移植のために使用できる状態にあることを臓器センターに直ちに報告するよう配 慮しなければならない。 臓器センターは、報告された臓器の性質にかんがみて、移植に適切な者に配分する。センターは、レシピエントに直ちに配 分することができない場合であっても、医学的根拠に基づいて必要と認められるときには、移植のために使用できる適切な 臓器の保存を決定できる。 配分に当たっては、ドナーとレシピエγトの血液と組織の適合性、レシピエントにとっての医療的緊急性及び臓器の状態以 外の他のファクターを考慮してはならない。これらのファクターが明確な結論を与えない場合には、レシピエントの待機期 間か考慮される。このことに関するより詳細な規則は、政令によって定めることができる。 第十九条 臓器を摘出した者は、第十八条第二項にいう配分ができなかった場合には、その性質にふさわしい臓器が臓器パンクまたは大臣 が指定する同等の条件を備えた外国の一定の施設に送られるよう配慮しなければならない。センターは、発生した事情次第では、 第十八条第二項の第二文を適用して、臓器の摘出に関する同意が与えられたその他の目的を考慮することができる。 第四節臓器の摘出 第 二
O
条 死を確認する者は、第九条または第十条にいう意思宣言の存否が調査されるよう配慮しなければならない。登録簿に表示さ れた意思宣言が第九条にいう他の宣言と一致しない場合には、最後に行われた宣言が適用される。前項にいう医師は、第九条または第十条にいう意思宣言がない場合、もしくはドナーが決定を遺族に委ねた場合には、プロ ト コ I ルに従って、第十一条にいう者または人々と相談するよう配慮しなければならない。 第二一条 死後における臓器の摘出は、次の各号に適合する場合に限り行うことができる。 a 、第二
O
条を適用するに当たっては、本法に適合する死者による同意が与えられていること。 b 、第十四条、第十六条及び第十七条が遵守されていること。 c 、移植のために使用される臓器が第十八条に基づいて臓器センターに報告されていること。 第二二条 ある者が死後における臓器の摘出に同意していることが確認される場合には、摘出の準備のための調査と処置の遅延が死後 における移植を不可能ならしめないように、その者の治療と矛盾しない限りにおいて、その調査と処置を行うことができる。 第九条または第十条にいう者の意思宣言がなく、もしくはドナーがその決定を遺族の判断に委ねている場合において、本法 に基づく必要な同意を得るための手続きがまだ終了していないときには、その者の死の開始後、移植のための臓器の適切な 保存に必要な処置をとることができる。 175一一オランダの臓器提供法案 第五節 第二三条 一病院当局は、移植のための臓器の使用に関するプロトコ l ルが整序されるよう配慮しなければならない。またそれが遵守さ れるよう監督しなければならない。 ニ プ ロ ト コ l ルにおいては、次の各号に関する規則が作成されなければならない。 a 、死者がドナーとして考慮されるかどうかを調査する方法。 b 、ドナ l 登録簿、遺族、または第九条第二項の第二文にいう一定の者が第二O
条に基づいて、参照され、 プ ロ ト コ 1 ル または相談される第8巻2号一一176 方 法 。 c 、臓器について臓器センターに報告する際に病院が従うべき手続き。 d 、上述 a 、 b 、 C の運用についての報告書の作成。 e 、プロトコ1ルに規定された事項についての病院の指導。 第一項にいうプロトコールの内容に関するより詳細な規則は、政令によって定めることができる。 プ ロ ト コ l ルは、病院において脳死を確認する場合に備えて、第十五条第一項に基づいて、そのための適切な方法、基準、 その際に従われるべき手続き、及び必要な調査に関する事項を備えなければならない。 四 三 第四章 臓器センターと臓器パンク 第一節 第二四条 臓器の入手、類別と移送のあっせん、及び適切なレシピエントに対する臓器の配分は、大臣の許可を得た臓器センターのみが行 う こ と が で き る 。 第二五条 臓器センター この許可は、活動が営利を目的とせず、第二八条に該当する活動を行っているものではない法人に対して与えられる。 この許可は、本法の規定が遵守されていないと合理的に判断される場合、または臓器の使用のための十分な設備がないと判 断される場合には、与えられない。また、この許可は、他の臓器センター及び臓器バンクとの適切な協力が保証されない場 合 に も 与 え ら れ な い 。 第二六条 この許可は、ある制約条件のもとで与えることができる。許可に当たっては、次の各条件が付加されることがある。 a 、 職 員 の 専 門 的 知 識 。
b 、 セ ン タ ー 役 員 会 の 構 成 。
c
、受け入れの可能なレ γ ピ エ ン ト に つ い て の 記 述 。 d 、受け入れの可能なレシピエ γ トについての記述及びそれらの者に対する臓器の配分のための基準の公表。 e 、ドナーとレシピエントのプライバシーの確保。 f 、センターの装備とアクセスの可能性。 g 、 活 動 に つ い て の 報 告 。 二諸制約または諸条件は、指示されることも、撤回されることもある。 諸制約または諸条件は、許可後に告げられることもある。 第二七条 この許可は、本法の規定が遵守されない場合、または許可の条件に抵触する行為がなされた場合には、取り消すことができる。 177一一オランダの臓器提供法案 第二節臓器パンク 第二八条 移植のために加工すべき臓器の保存と第十九条にいう臓器の使用のための保存は、大臣の許可した臓器バンクによってのみ行わ れ る 。 第二九条 一この許可は、活動が営利を目的とせず、第二四条に該当する活動を行っているものではない法人に対して与えられる。 二この許可は、本法の規定が遵守されていないと合理的に判断される場合、または臓器の使用のための十分な設備がないと判 断される場合には、与えられない。また、この許可は、他の臓器センター及び臓器パンクとの適切な協力が保証されない場 合 に も 与 え ら れ な い 。 この許可は、臓器の質の要件とその保存と加工の方法に関する規則が遵守されていないと合理的に判断される場合にも与え第8巻2号一一178 ら れ な い 。 第 三
O
条 一この許可は、ある制約条件のもとで与えることができる。許可に当たっては、次の各条件を付加することができる。a
、 職 員 の 専 門 的 知 識 。 b 、パング役員会の構成。c
、臓器を保存する部屋と部屋の装備。 d 、ドナ!とレシピエントのプライバシーの確保。 e 、活動についての報告。 諸制約または諸条件は、指示されることも、撤回されることもある。 諸制約または諸条件は、許可後に告げられることもある。 第二七条が適用される。 第三一条 臓器バンクは、第十八条第二項の第二文を適用する場合には、第十八条第三項にいう臓器の移植に適切な者に配分するまで、臓 器センターのために臓器の適切な保存に努めなければならない。第五章
最終部分 第三二条 第八条と第二一条の規定に故意に違反した者は、最上限一年の拘禁または第四類の罰金に処する。 次の者も同じ刑に処する。 a 、第三条にいう経費を超える報酬を求めて、ある者の生存中にその臓器の摘出に同意するよう故意をもって働きかけ、また は助長した者、もしくは他の者をして第七条に違反させた者。179→ーオランダの臓器提供法案 b 、臓器の受容のために第二条にいう経費を超える報酬の支払を公然と提供した者またはドナーとして同様の報酬を公然と提 供した者もしくは
a
において可罰的とされる行為に加功した者。 c 、人工授精のためにではなく、治療のために胎児の一部をある者に移植するよう故意をもって働きかけ、または助長した者。 d 、脳が全欠した、もしくはほとんど欠けた生体の一部、またはその死体の一部をある者の治療のためにその身体に移植する ょう故意をもって働きかけ、またはそれを助長した者。 一一一第二二条、第二四条及び第二八条の規定に抵触する行為をした者は、最上限六ヶ月の拘禁または第五類の罰金に処する。 四第十九条に抵触する行為をした者は、最上限六ヶ月の拘留または第四類の罰金に処する。 五第一項から第三項で可罰的とされる事実は犯罪である。第四項で可罰的とされる事実は軽罪である。 第三三条 一遺体処理法では次の改正が行われている。 A 、第七一条第一項の第一文は、次のように記述されている。 死体は、臓器提供法に基づいて死体を使用する場合を除いて、保存的加工のために防腐処理等を施されることはない O B 、第七二条第一項では、﹁または移横のために摘出される﹂という文言が削除されている。c
、第七三条第一項の冒頭では、﹁検死に関して﹂という文言が削除されている。 D 、第七五条は、次のように記述されている。 第七五条 医師は、前もって死の開始が他の医師によって検案されていること、及び第七二条と第七四条の必要条件が満たされている ことを確認した後に、検死を実施することができる。 E 、第七六条第二項は、次のように記述されている。 二このような場合には、第七一条第一項に規定された解部、保存、または臓器提供法に規定された臓器提供のための死体から の臓器の検死もしくは摘出は行われない。またはすでに開始された場合であっても、検察官の同意をもって継続されること第8巻2号一一180 は な い 。 第三四条 自治体当局は、本法の施行以前にすでに十八歳に達している住民基本台帳法にいう全ての住民に対して、本法の施行後二年以内 に、ドナ I 申込用紙が送付さるよう努めなければならない。その経費は、国民保険資金調達法第三八条にいう疾病に関する特別経 費のための一般基金から支払われる。本条の実施に関する詳細な規則は、政令によって定めることができる。 第三五条 一本法は、王国の布告によって決定された時に発効する。施行の日程は、沢山の、様々な条項のゆえに変わることがある。 二大臣は、本法の施行後三年以内に、次いで五年後に、さらに七年後に国会に対して、本法の実施の効果について報告書を送 付 す る こ と と す る 。 第三六条 本法は、臓器提供法と呼ばれる。 我々は、ここに、本法の原文を官報に公表することを命じるものである。我々はまた、本法に関係を有する全ての大臣、全ての 当局及び全ての公務員が本法を遵守し、本法に従って行為するよう命じるものである。 保健・福祉・スポーツ大医 法務大臣 若干の補足説明 (一)憲法第十一条 法案の前文は、憲法第十一条を引照している。第十一条は﹁何人も、法律の定める場合を除いて、または法律の定めるところに
従って、その身体の不可侵性に対する権利を有する﹂と述べている。身体の不可侵性の権利は、この関連で、人の死の瞬間に終わ るものではなく、その後にも原刻として存続する、という趣旨で解釈されている。これに従うということは、法案が、自己決定の 原則、つまり、同意の重要性を中心に構成されたものであることを意味させるものと思われる。 18トーオランダの臓器提供法案 つ 一 ) 必 要 な 経 費 第二条及び第七条は摘出に関わる必要経費について規定している。直接に必要な経費としては、ドナ l 自身の回復に要する病院 滞在費、手術費、治療薬代金、旅費、その聞に得たであろう収入相当額、そして、ドナーが未成年者である場合には、同上のほか に、両親または後見人の旅費、滞在費、その聞に得たであろう収入相当額が考えられる。生体のドナ i の 回 復 に 要 す る 費 用 も あ る 。 これらの経費はレシピエントの保険から支払われることになるだろう。これら以外の利得が見込まれてはならない。 会一﹀生体からの摘出││成人の場合 心臓、肝臓、障臓など一対ではない臓器の提供は致命的であるので原則として認められない。しかし、理性的に利害を判断でき る成人(十八歳以上﹀については、醇臓、肝臓などの一部の摘出は可能である。これは、最も近い家族成員間への提供に限定され る。しかし、ドナーへの影響が問題なので、そのことについてドナ!と全ての関係者に十分に情報が提供されなければならない。 法案は、情報提供の方法として﹁オーディオ・ビジュアルな手段﹂を加えている(第三条第二項のほか、第四条第三項、第五条第 三項も同様﹀が、第一次法案にはなかったものである。第三条第三項にいう残存する影響は、再生不能な臓器に関係する。この場 合、法はレシピエントに生命の危険があり、それが他の方法では適切に回避できない状況にあることを要件とし、ドナ l の 保 護 に 格別配慮している。例えば、透析によって辛うじて生きているような場合、生命の危険は一時的に回避できるにすぎない。それは 長期的には患者の健康状態に有害な影響を及ぼす。このような例外的な場合には、腎臓の摘出が可能である。 理性的にその利害を判断できない成人の場合は、二親等以内の血族に対する再生可能な臓器(例えば、骨髄)の提供のみが可能 である。しかも、その者に生命の危険があり、他の方法ではその危険を回避できず、さらにこの危険の回避がドナ 1 自身に重要な 利害関係がある場合であって、その措置の相関性、補充性及び比例性の要件が満たされなければならない。これら無能力な成人に ついては、法定代理人による同意のほか、地方裁判所判事による同意も必要である。なお、公衆衛生全国審議会は、再生可能な臓
第8巻2号一一一182 器(第四条、第五条)を骨髄の提供に限定するよう勧告したが、法律に具体的な医療行為を挙げることは不必要、かつ賢明でもな いとして採用されなかった。 (四﹀生体からの摘出
li
未成年者の場合 未成年者は、精神的に無能力な成人と同様に依存的地位にあり、自分の状況を判断できないので、特別な制限が設けられる。腎 臓のような再生不能な臓器の摘出は健康に対する残存する影響があるために生体の子供からの提供は許容されない。第五条の一連 の要件が満たされるとき、例えば、骨髄の提供は妨げない。第五条は、未成年者の保護のために、十二歳以上の未成年者の場合に は、両親または後見人、及び未成年者自身の同意を要求している。十二歳以下では形式的には未成年者の同意は要求されない。し かし、未成年者の場合、利害関係の客観的判断が両親に期待できないときがあるので、上記の者の向意と共に少年裁判所判事によ る 同 意 も 要 求 さ れ る 。 (五)死後における臓器提供││同意の重要性 死後における臓器の提供に当たっては、故人の利益とレシピエソトの利益が問題であるが、とりわけ、故人の希望が重視されな ければならない。これら関係者の利害を適切に考量するシステムとして、国際的に﹁同意システム﹂と﹁異議なしシステム﹂(反 対意思表示方式﹀が知られている。﹁純粋な同意システム﹂の枠組みでは、死後における臓器の摘出は、生前における明示的な同 意がある場合に限り認められる(遺言状またはコディシル﹀。﹁純粋な異議なしシステム﹂の枠組みでは、生前の明示的な異議の記 載がない限り摘出は許される。どちらのシステムが白己決定の原則に忠実かということが議論されている。 ヨーロッパ評議会などの国際組織は、一般的に﹁異議なしシステム﹂を優先している。世界保健機構のデータによれば、ヨーロ ッパの十九カ国のうち、三カ国が同意システム、十四カ国が異議なしシステム、そして、二カ国が混合システムを採用している。 予想に反して、異議なしシステムを採用している国々の方が臓器の提供が顕著に多いという事実はない。システム以外の他のファ クターがこれに関係している。比較的に提供数が多いといわれるオーストリアやスウェーデンでは、検死解剖が同意なしに利用さ れる古くからの制度が役割を演じている。実際に利用される臓器は、大部分、交通事故の被害者からのものである。 オランダの遺体処理法は、﹁純粋な同意システム﹂のパリアントを選択している。この枠組みでは、遺族の意見も必要とされて183一一オランダの臓器提供法法 いる。これは、いわば﹁準純粋な同意システム﹂である。死者の同意がない場合、より近い遺族の同意が与えられる。現状では、 たとえドナ 1 ・コディシルが存在しても、遺族は常に相談されることになっている。遺族がコディシルに反して異議を唱えるとき には、通常は摘出されない。保健審議会は、故人たちは一般的に生前の臓器提供に無関心であるという認識から出発して、病人の 利益も尊重されなければならないが、遺族の意見も尊重されなければならないという唆昧な立場に終始した。 この点で、新法の目的は、自己決定のための最上の可能な手段を導出することにあった。第九条は、理性的にその利害を判断で きる成人は誰でも死後の臓器の提供に関して、原則として自分自身で賛成または反対の意思表示をすることを要請し、提供数の増 大を期待している。故人が提供に賛成する意思を表示しているならば、家族の意見がどうであれ臓器は提供され得る。故人が反対 の意思を表示している場合には提供され得ない。故人がその意思を表示していなかったときには、その配偶者または家族が提供に ついて決定できる。その場合、事態の推移に決定的な影響力をもつのは医療専門グループの態度であろう。 なお、第一次法案は、第九条第一項において死後の臓器の提供に同意を与えることができる者を﹁理性的にその利害を判断でき る成人﹂に限定していたが、最終法案は﹁十二歳以上の未成年者﹂を加えた。この間の議論の進展を反映したものであろう(ただ し、第十二条参照 │11 この規定も最終案で新設されたものである)。また第一次法案の第九条第二項は、同意または反対意思は﹁ド ナ l ・ カ l ドへの記入によって与えられる﹂としていたが、最終案は、﹁ドナ 1 申込用紙への記入と登録﹂と改め、﹁愛録﹂によ る迅速な調査の便宜を図っている。また最終案は、同じく第三項において臓器の摘出についての決定を遺族または特定の者に委ね る場合にもドナ!申込用紙にその旨を明示的に表示しなければならないという文言を加えた。登録簿には、市民の最後の意思表示 の受け入れが可能でなければならない。市民が考えを変えることは常にあり得る。その場合、無料で提供されるドナl申込用紙で その修正を伝え得る。しかし、決意の変更が登録簿に記載されていないケ l スでは、人々が所持している最も直近の日付と署名の ある宣言が有効とされる。 第十条は、毎年一度、十八歳に達した全住民にドナ I 申込用紙を送付することによって国民への啓発と普及を図っている。ドナ ー申込用紙への記入を参照して、疑いを取り除く可能性が意図されている。発生したケ l スで臓器の鮮度が不必要に失われないよ うに、できるだけ速く意思表示が入手され得る登録が可能でなければならない。そのため一日二四時間、その資格のあるコ 1 デ ィ
第8巻2号一一184 ネ l ターによる調査の可能性がなければならない。登録簿には死後の臓器の摘出に対する同意も異議も登録される。意思宣言を登 録簿に提出した人は、その資料のコピーを入手できる。それは登録の確認になると共に、例えば、交通事故が発生したような場合 に、コーディネーターも、死者の周辺の人々も、あまり手間のかからない仕方でこれについて知ることができる。 登録簿は、大臣によって選定された機関が保持する。利害関係のもつれやその憶測を閉め出すために、この機関だけが臓器提供 のための登録簿を保管する(第十条第二項﹀。
2
0
第十三条関係 ドナーが移植以外の他の目的のために臓器を提供することを明示的に宣言しているときには、そのために臓器を使用することが 許される。自己決定権は不必要に制限されるべきではない。しかし、同時に臓器移植の利益も重視されなければならない。時々、 臓器の摘出の後、移植のために直接に利用できないケ l スが発生する。そのような場合、それらの臓器は、なお、例えば、移植技 術の改良や保存可能性の発展のための他の技術の開発などの有用な目的に役立つ。このような科学的研究の目的は、臓器が使用さ れる本来の目的ときわめて密接に関連する。他方、臓器は、移植のため以外に、例えば、医薬品の製造や化粧品の製造にも役立ち 得る。法案は、移植のための科学的研究に使用することができると規定するだけで、それ以上の限定を加えていない。そのため、 治療行為以外の目的に利用できないという趣旨を政令で定めることができるとした。 (七)検死と死の確認に当たっての注意要件 法案の本来の目標は、臓器移植を注意深く、適切に行うことによって国民の信頼を促進することにある。様々な内外の出版物を 通して、多くの人々は、臓器移植が予定されている場合には、死の確認のための手続きがあまり注意深く遵守されないのではない かという恐れを抱くようになっている。早すぎる死の宣言、医学的配慮のなさに対する恐れが払拭されなければならない。この不 安は、呼吸機能と血液循環が人工的に維持されているときには、身体があたかも生きている人の外観を呈しているために起こりが ち で あ る 。 通常、死の宣言の記載は、遺体処理法に基づいて担当医によってなされる。その者が不在の場合は、自治体の検死医によって行 われる。法案は、臓器の摘出が意図されているケ l スでは、検死及び死の宣言の記載は、臓器の摘出または移植の実施に関与する医師によって行われではならないとしている。この点では、現行遺体処理法も、例えば、交通事故の結果、潜在的ドナーが問題に なるケ1スでは、臓器の摘出のためには死者または遺族の同意と共に検察官の同意を要求している。 潜在的ドナ l の相当部分は、呼吸機能と血液循環が人工的に維持されている臨死段階の患者からなっている。この場合には、死 の確認のための通常の基準、すなわち、心臓停止と呼吸停止を利用することはできない。脳死の診断が必要である。このことは、 保健審議会の脳死判定基準に関する勧告(一九八三年)に規定され、その一般的移植問題に関する勧告ハ一九八七年)にも繰り返 し規定された。臓器の提供が問題にならない場合には、診断は消極的結論に導かれ、人工呼吸を終止させることになる。臓器の摘 出が意図されている場合には、脳死判定基準に基づいて死の開始が確認され、死の確認後、呼吸機能と血液循環を人工的に維持し つつ臓器の摘出がなされる。臓器が血液供給を奪われている時聞が短ければ短いほど臓器の質はより高く、成功的移植のチャンス も よ り 高 い 。 185一一オランダの臓器提供法案 通常の死については素人でも証明できるが、人工的に呼吸と血液循環が維持されている特別な状況では、平均的な医師の専門知 識でさえも十分ではない。脳死の兆候の臨床的判断は、神経科医や神経外科医としての特別な専門知識と経験を必要とする。脳死 の判定が専門家によってなされるために、診断の注意深きと信頼性を確保するための予防策が設定される。保健審議会は、脳死判 定基準が使用される場合の要件について勧告したが、それは、法案の第十四条に採用されている。死の開始が脳死判定基準に基づ いて第一の医師によって確認された場合には、その使用された方法と基準が正しいかどうかを第二の医師が確認する。第一の医師 は、科学の最新の水準に従った適切な方法と基準に基づいて死が確認されたことを書面による宣言に記録しなければならない。第 二の医師も特別な専門知識を有していることが必要である。保健審議会は、臨床神経生理学者や臨床神経生理学と神経外科を修め た神経科医を推奨している。 基準の内容は、医学的要件であるから立法者が死の確認の基準を法的に確定することは適切ではない。しかし、望ましい明確性 と法的安定性を確保するために、どのような人々が、またどのような仕方で、脳死の確認のための科学的方法と基準を確定するか については、政令によって決定すべきであろう。この任務を遂行するために、例えば、保健審議会または独立の委員会を任命する ことが考えられ得る。基準の正しさに疑念のある場合には懲戒法上の責任が問題になる。第二の医師の宣言が欠ける場合の臓器の
第8巻2号一一186 摘出は、第一一一条と第三二条に基づいて可罰的である。 第十四条第一項の﹁死の確認は:::その資格のある医師によって﹂とあるところは、第一次法案では単に﹁(摘出または移植に 関わらない)他の医師﹂とされていた。第十四条第二項と第十五条は、第一次法案には欠けている。 (入﹀準備的行為と保存的行為 移植の準備は、沢山の手続きときわめて短時間に行われるべき処置を必要とする。そこで、死の確認をめぐる手続きや遺族との 相談とは別に、ドナーとレシピエントに対して、例えば、血液と組織の適合性、感染排除などの広い医学的調査が行われなければ ならない。必要なデータが患者の関係資料から入手されなければならない。また、ドナーに対して侵襲を行う必要もある。死後の 摘出について本人の同意がある場合には、一連の準備行為をすることにほとんど異議はない。第一一一一条第一項は、一般的同意に基 づいた準備的行為の遂行を可能にしている。もちろん、本人に対する医療行為と矛盾しないという要請が本質的である。準備行為 を死後まで延期できない場合、その行為が用意周到なものであることを保障する予防策が講じられなければならない。ここでは、 臨死の最終段階にある昏睡状態の患者が問題である。この場合、臓器の摘出に類する行為が行われてはならない。そのような行為 は、臨死段階でも可能な限り疹痛コントロールと苦痛の軽減に捧げられるべき医療行為の本質と矛盾するからである。同意がある 場合には、死の確認の後、臓器の摘出に必要なことが行われる。患者の同意がない場合、遺族の同意を得るために時間を要するこ とがある。この間、全くどのような措置もできないとすると、家族が拒否していなくても臓器がむだになる。心臓、肺臓、肝臓の ように摘出の瞬間まで呼吸と血液循環を必要とする臓器がある。腎臓の場合は、人工呼吸を施さなくても冷却液を注入するなどの 簡単な侵襲で保存が可能である。これは、死の開始後、半時間以内に行われるならば成功のチャンスがある。 第二二条第二項は、もはや他の仕方では移植のために利用できない一連の臓器の使用のための保存行為の正当根拠を与えている。 死の開始後、呼吸機能と血液循環を人工的に維持する仕方は保存行為の概念のもとに理解される。脳死の確認のためには、第一回 の脳波測定と第二回の測定との聞で三時間から六時間の時間的問隠が必要であるから、死の確認後ではなく、死の開始後の保存措 置が正当化される。その場合、摘出のための同意はまだ確実ではないから、摘出の発端に当たるような行為は許されない。腎臓の 保存の場合には、鼠径部への切り込みゃ鼠径部動脈へのカテ I テルの挿入など小さな侵襲だけが許されることになる。遺族の同意
が得られないことが明らかになったり、近親者の不在等によりその同意が得られない場合には、これらの措置は中止される。保存 行為は、本人とその遺族に様々な損傷を及ぼすものであってはならない。 ( 九 ) プ ロ ト コ ー ル 臓器の摘出に対する最も大きな抵抗は、遺族の同意を得ょうとする際に現れる。遺族との対話はしばしば感情的または悲劇的な状 況でなされる。解決策はプロトコ l ルの作成にある。この医学的プロトコ l ルは臓器の摘出の全プロセスを導くべきガイダンスを 含んでいる。それは、脳死の確認のための基準と手続き、脳死を確認する第二の医師の関与についての手続き、ドナ I 申込用紙の 入手方法、登録所とのコンタクトの仕方など、手続き的要件を明確化している。 ( 十 ) 臓 器 ・ ハ ン ク と 臓 器 セ ン タ ー 臓器の適切な提供のためには、需要と供給が相互に調和させられなければならない。これは医学的に質の高い、公正な配分によ って調整される。法案は、ドナーと移植のために斡旋的役割を果たす綴器センターと臓器の保存と加工の役割を果たす臓器パンク に つ い て 第 二 四 条 か ら 第 一 二 一 条 に か け て 詳 細 に 規 定 し て い る 。 ハ 山 下 邦 也 ﹀ 187一一オラγダの臓器提供法案