検診で発見され開胸肺生検で診断したIntravascular bronchioloalveolar tumor(IVBAT) の1例 山梨医科大学第2内科 西川圭一 広瀬由佳 成宮賢行 池田フミ 内川謙治郎 石原裕 小沢克良 田村康二 はじめに Intravascular bronchioloalveolar tumor(IVBAT)は1973年にFarinacciら1〕によりはじめ て報告された肺悪性腫瘍で、典型的には胸部X線像で両側肺野に多発性結節状陰影を呈し、当初は 無症状であるが徐々に進行し、呼吸不全で死亡する、という疾患である。腫瘍は血管内皮細胞由来 と考えられる。本疾患は現在までに世界で60例程度の報告を見るにすぎない極めて稀な疾患であり、 わが国では、1980年に田口ら2〕が剖検例ではじめて報告し、我々の検索し得た限りではこれまでの わが国での報告は13例にすぎない。 今回我々は検診の胸部X線異常で発見され、開胸肺生検で診断したIVBATの1例を経験した ので若干の考察を加えて報告する。 症 例 症例:31歳、女性、事務員 主訴:乾性咳漱 家族歴、既往歴:特記することなし。喫煙歴なし。 現病歴:特に自覚症状はなかったが、1992年1月の会社の検診で行った胸部X線検査にて異常を指 摘され、同年2月、精査のため某医を受診し胸部X線像で両側肺野に多発性結節状陰影を指摘された。 また、この頃より乾性咳轍が出現し、同年3月当科を受診。胸部X線像で同様の所見を認め(図1)、 転移性肺腫瘍の疑いで入院となった。なお、前年度の検診の胸部X線像に異常所見を認めなかった。 入院時所見:体格、栄養ともに中等度。血圧122/70mmhg、脈拍82/分、整、体温36.2℃。黄疸、 貧血なく、胸腹部に異常所見なし。血液、尿検査では赤沈が30mm/hと軽度の促進を示した以外に異 常を認めなかった。ツベルクリン反応は12× 14/30×40(mm)と中等度陽性。心電図正常。呼吸機能検 査で%VCが72.3%、%DLCO 72.3%と軽度の拘束性障害、拡散能の低下を示した。喀疾検査では 細胞診class I、結核菌は塗抹・培養ともに陰性。胸部X線像及び胸部CT像(図2)では両側肺 野に径約5mmから12mm程度の多発性結節状陰影を認めた。気管支鏡検査所見は正常で、経気管支的肺 生検では特異的所見は得られなかった。 胸部X線所見から転移性肺腫瘍を疑い、甲状腺、消化器、生殖器などの全身的な原発病巣の検索 を行い、右卵巣に嚢状の腫瘍を認め、開腹生検の結果異所性子宮内膜症であったが、それ以外の異
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図2 胸部CT像 径約10㎜前後の結節状陰影が全肺野にほぼ均等に分 布しており、気管支・血管との関係は明らかでない. 図1 胸部X線像 両側肺野に多発性結節状陰影を認める 図3 病理組織像 腫瘍は肺胞腔を埋め尽くすように増殖し中心部では 硝子化が著明である。HE染色×200 図4 病理組織像 一部の腫瘍細胞では第V皿因子関連抗原が茶褐色に染 まる。(矢印) ×400一17一
常は認めなかった。このため確診を得るため1992年4月13日左開胸肺生検を施行した。 開胸所見:全肺野の表面に10mm弱の多数の結節を認めた。結節は灰白色で硬く、表面は整で周囲 との境界は明瞭で、縦隔リンパ節の腫大は認めなかった。左S4の一部を模状切除した。 病理組織所見:腫瘍は皮膜を有せず、周囲とは明瞭に境界され、肺胞腔内に乳頭状に、または肺 胞腔を埋め尽くすように増殖し、腫瘍の中心部は硝子化が著明で辺縁部にのみvaiableな腫瘍細胞が 見られた。腫瘍細胞は大型の核と豊富な細胞質を有し、一部の腫瘍細胞の胞体内に空胞が認められ た(図3)。免疫酵素抗体法(LSAB法)による第W因子染色で、一部の腫瘍細胞の胞体内に茶褐色 に染まる第W因子関連抗原を認め(図4)、本腫瘍が血管内皮細胞由来であることが示された。以 上の病理組織所見からIVBATと診断した。 考 察 IVBATは1973年にFarinacciら1〕がはじめて報告し、1975年にDai1ら3〕によりIVBATと名 付けられた。当初は本腫瘍が肺胞上皮細胞由来で、血管内への進展が著しい肺胞上皮癌の特殊型と 考えられたためにIVBATと名付けられたが、その後Corrinら4)により電子顕微鏡下に Weibel −Palade bodyが見いだされ、またWeldon−Linnら5〕が腫瘍細胞内に血管内皮細胞で合成される第皿因 子関連抗原を証明し、現在では本腫瘍は血管内皮細胞由来と理解されている。したがって本腫瘍の 名称としては、“malignant epithelioid hemangioendothelioma of lung”がより適切と思われる。 本腫瘍は肺病変の報告が多いものの、深山ら6〕の報告をはじめとして肝病巣の存在が散見され、 肺が原発で肝転移を来すのか、あるいはその逆の関係なのか、あるいは多臓器から発生するものな のかは、現在のところ議論の分かれるところである。 典型的な臨床像は、検診などで無症状のまま偶然に発見されることが多く、胸部X線像は両側肺 野の多発性結節状陰影を呈し、転移性肺腫瘍と診断されるものの確診がつかず、開胸肺生検ではじ めて診断される、というもので、比較的若年の女性に多いとされている。本疾患の経過は一般には 非常に緩徐で、数年の経過で呼吸不全にいたるが、最長24年の生存例7〕の報告もある。有効な治療 法はなく、本症例でも対症療法のみを行っている。しかしながら、本症例においては前年度の胸部 X線像に異常なく、発病間もないことが明らかであるものの、すでに自覚症状があり、確診後の胸 部X線像でも病変の進行が顕著であることから、予後は通常に比べ不良と思われる。