縦隔原発非セミノーマ性悪性胚細胞性腫瘍の1例
社会保険山梨病院内科 中川和也 金澤正樹 石原司 山田明雄 飯田龍一
放射線科 野方容子
病理科 小俣好作 要旨 今回我々はシスプラチンを中心とした多剤併用化学療法が著効した、縦隔原発で 悪性の非セミノーマ性胚細胞性腫瘍(Non Seminomatous Germ Cell Tumor,以 下NSGCTとする)の1例を経験したのでここに報告する。症例は32歳の男性で、初 診時の胸部単純X線写真、胸部CTで前縦隔に巨大な腫瘍性病変と両側肺野に転 移と考えられる多発性結節影を認めた。CTガイド下経皮的腫瘍生検にて絨毛癌と診 断した。また、染色体検査においてKline・fe・lter症候群(47XXY)と診断した。PVB療法 を1コース、PEB療法を3コース行ったところ、原発巣、転移巣ともに著明に縮小し、 腫瘍マーカー(hCG, hCG一β)も著減した。縦隔原発NSGCTは比較的稀な疾患で一般 に予後不良であるが、絨毛癌はその中でも特に予後が悪く、早期の診断および治療 が必要である。また、絨毛癌はKlinefelter症候群に合併しやすいことも知られている。 縦隔原発NSGCTの治療として、シスプラチンを中心とした多剤併用による化学療法 が有効な治療法の1つと考えられた。 Key Word:縦隔腫瘍、非セミノーマ性胚細胞性腫瘍、絨毛癌、hCG、 hCG.β、Klinefelter症候群 はじめに縦隔原発NSGCTは比較的稀な疾患
で、若年成人に好発する。近年のシスプ ラチンを中心とした多剤併用化学療法 による治療成績の進歩にも関わらず、そ の予後は十分に改善されているとは言 い難い。今回我々は、シスプラチンを中 心とした多剤併用化学療法が著効し、 Klinefelter症候群に合併した縦隔原発 NSGCTの1例を経験したのでここに報 告する。症例:32歳男性建築業
主訴:咳漱、嘆声 既往歴:動脈管開存症(3歳時に手術) 家族歴:母;乳癌平成14年4月1日 現病歴1 2001年6月7日より哩声を自覚する ようになり、6月12日当院耳鼻科を受診。 反回神経麻痺ならびに胸部単純X線写 真における前縦隔異常影が認められた ため、当科紹介受診。胸部CTにて前縦 隔に巨大腫瘍性病変が認められ、6月 15日精査加療目的で当科入院。 入院時現症: 身長165cm、体重77 kg、体温37.1°C、 脈拍90bpm、血圧134/82 mmHg、貧血、 黄疽なし。表在リンパ節は触知せず。呼 吸音は左側でやや減弱しているが、肺 ラ音聴取せず。心雑音聴取せず。腹部、 神経学的所見に異常なく、四肢に浮腫 なし。睾丸に腫瘍性病変なし。著明な女 性化乳房を認めた。 検査所見: (血算)pmWBC I 1500/1, R旦⊆』 旦h⊥LΩ」迎,Ht 31.8%, Plt 26.3万/μ1 (生化学)TP 7.6 g/d1, Alb 4・09/dl,皿辿 1≡,AST l 71UII, ALT 12 1U/1, LDH 3291U/1, ALP 2161U/1, γ一GTP 261U/1, BUN 10.4 mgldl, CRE O,53 mgfdl, UA 6.4 mg/dl, Na 138mEq/1, K 3.6 mEq/1, Cl 104 mEq/1, Glu 85 mgXdl (血清学)CRP O.35 mg/dl (腫瘍マーカー)hCG 77万mIU/ml(正常 値:3.O mIU/ml以下), hCG− 2192 ngLm1(正常値:o.1 ng/ml以下), AFP 1.1 ng/ml, (内分泌)FSH O 32下lnlU/ml, LH 1.8 mlU/ml,エストーシ’一ル7684 i2gLg!1,テストスーロン2352n dl (染色体)47XXY 画像: 胸部単純X線(図1)では前上縦隔に 巨大な腫瘍性病変、両側の肺野に多発 性結節影を認めた。胸部造影CT(図2)
では前縦隔に径13x5cmの巨大な腫
瘍、肺野に転移巣と考えられる多発性 結節影がみられた。大動脈、肺動脈、上 大静脈は腫瘍と広く接しており、圧排さ れていたが、血流は保たれていた。 腹部CT、頭部MRI、骨シンチでは明ら かな転移巣は認められず、精巣は萎縮 傾向であったが、腫瘍性病変はみられ なかった。 Chestx−P(初診時) 正面 図1 側面胸部CT(初診時)
図2r
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(CTガイド下経皮的腫瘍生検) 充実性配列を示す上皮様集団とその 周囲に合胞体性の異型な多核巨細胞 がみられ、絨毛癌に一致する所見が得 られた(図3.4)。採取された標本内には セミノーマ、胎児性癌、卵黄嚢癌を示唆 するような所見は見られなかった。hCG を用いた免疫染色で陽性を示した。以
上の結果より、縦隔原発絨毛癌
(Dixon&Moore TypeV)1}と診断した。 図3腫癌生検像(弱拡大像)讐 ・難
・療烈 図4腫瘍生検像(強拡大像) 治療1 本症例では腫瘍が巨大であり、肺内 に転移と考えられる多発性結節影がみ られたため、下記のプロトコールで化学 療法を開始した。Ls9]iWtYIUtiiEL
CDDP 20 mg/㎡ day1,2,3,4,5 VLB O2 mg/㎏ dayl,2 BLM 30 mg/body day2,9,16 CDDP 20 mg/㎡ dayl,2,3,4,5 VP−16 100 mgノ㎡ day1,2,3,4,5 BLM 30 mg/body day2,9,16 注)CDDP=cisplatin(ランダ⑧) VLB=vinblastine(エクザール⑨) BLM=bleomycin(ブレオ⑧) VP−16=etoposide(ベプシド⑭) 経過:治療開始直後は胸部単純X線、 胸部CTで原発巣、転移巣とも増大傾向 を示した。それに伴い、入院時にはみら れなかった前胸部痛が出現するように なった。しかし、化学療法開始から10日 目頃より症状は消失した。腫瘍は4コース終了時にはCT上で最大径5cmと著
明に縮小し、内部も造影効果は認めず、 均一化した。肺野の多発結節影も著明 に縮小したが、数個の癩痕様結節影は 残存していた(図5.6)。また、腫瘍マーカーもhCGで77万mlU/mlから2.8
mlU/ml、 hCG一βで2192 ng/m1からO.73 ng/mlと著明に改善した。化学療法のそ れぞれで骨髄抑制がみられ、G−CSF、 輸血、抗生剤を適宜使用した。1コース 目では末梢神経障害がみられたため、 PEB療法に変更した。PEB療法では白 血球と血小板においてgrade4の骨髄抑 制が出現したため、治療効果を評価しな がら薬剤を減量した(2コース目は80%、 3、4コース目は75%の量に減iした)。平成14年4月1日 Chestx−p(化学療法4コース後) 正面 側面 図5
胸部CT(化学療法4コース後)
図6 xL. 」1
考察縦隔原発NSGCTはすべての胚細胞
性腫瘍のうちの約1∼2%2)であり、そのう ちの10∼20%が悪性胚細胞腫瘍(絨毛癌、 胎児性癌、卵黄嚢癌)である。20∼30代 の男性に好発し、特に悪性胚細胞腫瘍 の場合には女性にはほとんど起こらな いとされている。診断に関してはCT、 MRIなどの画像検査とhCG、 AFP、 CEA、 LDH等の腫瘍マーカーにより推定され るが、診断を確定させるためには生検に よる組織診断が必要である。シスプラチ ンを中心とした多剤併用による化学療 法により、以前に比べれば治療成績の 向上がみられているが、長期生存を得 るためには手術が必須と考えられる。絨 毛癌については薬剤感受性が低く、放 射線療法も無効なことが多いとされてい る。化学療法のプロトコールとしては PVB療法(cisplatin, vinblastine, bleo・ mycin), PEB療法(cisplatin, etoposide, bleomycin)などがある34)。多くの報告で はPVB療法が主流のようであるが、 PEB療法のほうが副作用も少なく、治療 成績もPVB療法を上回っているという報 告5)も出ているため、プロトコールについ てはまだ議論の多いところである。本症 例に関してはPVB療法により末梢神経 障害が強くみられたため、2コース目以 降はPEB療法に変更した。手術に関し ては、病変が局所に限られている場合 か、化学療法が著効し、腫瘍マーカーが 正常または正常化しつつある場合が推 奨されている6η。 NSGCTの予後に関しては、手術と化 学療法の併用で寛解率は高くなってき た。しかしながら、寛解を長期にわたっ て維持することは、今日においても非常 に難しいのが現状であるs)。5年生存率 は50%程度とされているが、化学療法 のみの場合にはさらに予後は悪くなる。 悪性胚細胞性腫瘍については3年生存 率で40%程度であり、その中でも絨毛癌 の場合には1年生存率は10%と極めて 予後不良である。本症例では化学療法 が著効しており、原発巣、転移巣とも縮 小している。また、腫瘍マーカーも改善 しているため、今後経過が良好であれ ば、手術を併用する予定である。VUkyら は縦隔原発胚細胞性腫瘍の予後規定因子として、切除標本の病理組織像を 挙げており、壊死組織または奇形腫の みの場合は予後良好であると報告して いる9)。従って本症例においても、術後 の病理組織の評価を行うことで、予後の 指標となりうると考えられる。 Klinefelter症候群は男児の1/500∼800 人にみられる性染色体の数的異常症で、 知能障害、女性化乳房、不妊をきっかけ に診断されることが多い1°)。前立腺、肺、 乳房、血液などの悪性疾患と共に、性腺 外の胚細胞腫瘍の合併頻度が高いとさ れている。Klinefelter症候群は、NSGCT の8%(通常の40∼60倍)に合併11)してい る。そのうち13%が純粋な絨毛癌であり、 絨毛癌の成分を含んだものをあわせる と27%となる。Klinefelter症候群の核型 としては、47XXY、48XXYY、 XY/XXY のモザイクなどがあるが、このうちで
NSGCTと関係しているのは47XXYで
あるとされている12)。 まとめ: 一般にNSGCTは予後不良であるが、 絨毛癌はその中でも予後が特に悪く、早 期の診断および治療が必要である。シ スプラチンを中心とした化学療法が有効 な治療法の1つと考えられ、ここに報告 した。 参考文献1.梅本真三夫ら縦隔絨毛癌.別冊
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