患者自身による呼吸停止下での治療計画及び照射時の
肺腫瘍の位置再現性の検討
山梨医科大学 放射線科 植木潤子 大西洋 栗山健吾 荒木力 要旨 目的:胸部腫瘍、特に肺腫瘍の照射においては呼吸性移動による照射容積の 増大が問題となっている。我々はどの施設でも実行可能な患者自身による自己 ’呼吸停止下での照射法を考案し、腫瘍及び血管構造の位置の再現性を検討した。 検討項目:(分析1)治療計画時に、1.12症例で,自然に呼吸している状態で 撮影したcrと呼吸を停止して撮影したCT上で、腫瘍及び血管構造の位置の 最大のずれを検討した。2,6症例で、呼吸を停止した状態で3回σ「を撮影し、 呼吸停止下での腫瘍及び血管構造の位置の最大のずれを検討した。(分析2)4 症例で毎回の自己呼吸停止下での照射時に腫瘍位置のずれを検討した。結果: (分析1)自然呼吸状態と自己呼吸停止状態のcr上での位置の最大のずれの 平均値は8.8mmであった。3回の呼吸停止下のcr上での位置の最大のずれの 平均値は3.2mmであった。(分析2)自己呼吸停止下での照射時の照射野確認 写真上での腫瘍位置のずれは頭尾方向、左右方向で平均値は2.3mm、1.8mmで あった。結論:自己呼吸停止下では自然呼吸状態と比べて腫瘍位置のずれは約 1/3に縮小できた。自己呼吸停止下での肺照射は簡便で有用な方法であり、今 後多数の症例に試みる意義があると考えた。 Key words:放射線治療,肺癌,呼吸停止,自己呼吸停止 背景 胸部腫瘍、特に肺腫瘍の照射においては呼吸性移動による照射容積の増大が 問題となっている。それを改善するために,呼吸モニタを用いた呼吸同期照射 や呼吸停止下照射が試みられている。しかし、呼吸モニタは高額であり、精度 に関しては明らかでない部分が有り、完全とはいえない。 目的 照射容積をより縮小するために、我々はどの施設でも実行可能な患者自身に 》 一31一よる自己呼吸停止下での照射法を考案し、腫瘍及び血管構造の位置の再現性を 検討した。 検討項目 (分析1)治療計画時に、1.自然に呼吸している状態で撮影したcrと呼吸を 停止して撮影したcr上で、腫瘍及び血管構造の位置の最大のずれを検討した。 2.次に、呼吸を停止した状態で3回crを撮影し、呼吸停止下での腫瘍及び血 管構造の位置の最大のずれを検討した。(分析2)毎回の自己呼吸停止下での照 射時に腫瘍位置のずれを検討した。 自己呼吸停止下照射の方法 1.まず、患者に呼吸停止照射の目的を説明し、患者自身のタイミングで通 常の呼吸を行い、吸気終末時に横隔膜も動かさないように20秒呼吸停止する 練習をしておく。2.透視下にて横隔膜の呼吸性移動と自己呼吸停止のタイミ ングを理解させておく。3.治療計画時に酸素マスクを着用し、自然呼吸状態 でのcrとともに,吸って・吐いて・吸って・止めて下さいという声かけによ る自己呼吸停止下に腫瘍部のerをスライス厚5mm以下で3回撮影する。4. 実際の照射時も酸素マスクを着用し、声かけによる呼吸停止下に1回20秒以 内で照射する。
分析1治療計画時
1.肺腫瘍患者12例で自然呼吸状態、呼吸停止状態でcrを1回ずつ撮影し 比較した。2.そのうちの6例で、呼吸停止下でのcrを3回撮影し、3回のず れを比較した。1,2のcr上で同一の腫瘍形状がどの位置で見えるかを各回毎 に記録し、腫瘍位置及び血管構造の最大のずれを計算、比較した。全く同一の 腫瘍形状がスライスとスライスの間に位置すると考えられる時はその上下の形 状を示すスライスのちょうど中間に位置するとして,ずれを計算した。 <症例1>(図1)は左の自然呼吸状態、右の自己呼吸停止状態ともスライ ス厚3mmで撮影し、呼吸停止の有無で比較した。 左の自然呼吸状態と右の 自己呼吸停止状態で腫瘍形状及び腫瘍周囲の気管支血管構造はほぼ一致しているが、位置は221mmと209mmで12mmずれていた。よってこの症例の最大の
ずれは12mmと計算した。<症例2>(図2)は自己呼吸停止下に3回erを撮影し、それぞれ比較し
たものである。3回とも同じ位置に同一の腫瘍形状を認め、ずれはなかった。分析1の結果 1.自然呼吸状態と自己呼吸停止状態のcr上での位置の最大のずれは表1の ようになり、平均値は8.8mmであった。 2.3回の呼吸停止下のcr上での位置の最大のずれは表2のようになり、平均 値は3.2mmであった。自然呼吸状態の平均値8.8㎜と比べてロ乎吸停止下同士 のずれは約1/3に縮小した。 分析2 照射時 治療計画時の自己呼吸停止状態でのerを参考に照射野を作成し、自己呼吸 停止下での照射を施行した。このうち、4例において毎回の照射時に照射野確 認写真を撮影し、腫瘍位置の最大のずれを計算した。 <症例3>(図3)は4枚とも違う照射日に撮影したものであるが、毎回ほ ぼ同じ位置に腫瘍と照射野を認めた。 分析2の結果 自己呼吸停止下での照射時の照射野確認写真上での腫瘍位置のずれは頭尾方 向、左右方向で最大値、平均値とも表3のようになり、頭尾方向のずれの全体 の平均は2.3mm、左右方向のずれの全体の平均は1.8mmであった。照射時の頭 尾方向のずれは呼吸停止下で3回crを施行した時のずれより小さくなってい た。これは治療計画時よりも練習や日々の慣れにより再現性が向上したと考え られた。 考察 我々の呼吸停止下照射のポイントとして以下の3つが挙げられる。1.照射野 を縮小出来る。2.吸気時に照射することで、肺容積に対する照射容積の割合を 縮小できる。3.患者への説明と患者の理解力、練習により精度向上が期待でき る。 正常肺への照射容積を縮小すれば、80−90Gyの照射が可能1)との報告もあり、 肺腫瘍の治療法を大きく変える可能性がある。呼吸モニタを用いた呼吸同期照 射や呼吸停止下照射でも照射容積は縮小できる1)2)が、装置や費用が膨大、精度 が不明、時間がかかる等の欠点がある。これに対し、患者の理解力があれば、 患者自身による呼吸停止下での照射は簡便でかつ有用と考える。 課題 今回の検討で以下の5つの課題が挙がった。1.cr上での検討項目;頭尾方 向に加え,左右,前後方向へのずれの検討の必要性。2.ポータルイメージの 一33一
画質向上。3.症例数の増加。4,患者への説明,教育の徹底。5.外からの息 を吸って、吐いて、吸って、止めて下さい、という強制的な呼吸停止の声かけ による位置ずれが生じる可能性。5については、声かけによらない、患者自身 の自発的呼吸停止による腫瘍の位置ずれの縮小を目指し、我々は患者自身が行 うビームオン、オフスイッチを作成しJ臨床応用する予定である。 結語 自己呼吸停止下では自然呼吸状態と比べて腫瘍位置のずれは約1!3に縮小で きた。自己呼吸停止下での肺照射は簡便で有用な方法であり、今後多数の症例 に試みる意義があると考えた。 文献 1)Henning G. T.;Preliminary result of 92.4Gy or more for non−small ceU 1皿g cancer; proceeding of 42nd Aunual Meeting of AST RO ,abst 242,2000 2)Kenneth E Rosenzweig, et al;The deep inspiration breath−hold t㏄hnique in the treatment of inoperable non−small−cell 1ttng cancer;IntJ.Radiation Oncology BioL Phys.,Vol.48, No.1,Sl897,2000