<論説>刑訴法上の「強制の処分」概念について(2)
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(2) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. 捜 査 に際 し,被 疑 者 や その 他 の 者 の 容 貌 が 写 真 又 は ビデオ に撮 影 され る 場 合 が あ る。 この よ うな 視 覚 に直 接 的 に訴 え る証 拠 資 料 は,犯 罪 捜 査 に お いて 有 用 で あ り,か つ,公 判 に お い て も重 要 な証 拠 とな り うる。 も っ と も, 個 人 の 容 貌 は,自 己の 個 人 情 報 と い う意 味 で の プ ラ イバ シ ー権 に と って 重 要 な カ テ ゴ リーを 形 成 し,国 家 機 関 か らみ だ りに撮 影 され な い 自 由 と して 憲 法 上 の 保 護 を 受 け る もの で あ る(最 大 判 昭 和44年12月24日 刑 集23巻12号 1625頁)。 そ れ ゆ え,被 写 体 と され る対 象 者 が 自 己 の容 貌 等 を 撮 影 され る こ と につ いて 真 摯 な 承 諾 を 与 え て い る場 合 は格 別,そ の よ うな 承 諾 を 得 る こ とな く撮 影 が 行 わ れ る場 合,如 何 な る法 的 規 律 が な され るべ きか,強 制 処 分 該 当性 が 問 わ れ る こ と とな る。 こ の 問 題 に つ い て,裁 判 実 務 で リー デ ィ ン グ ・ケ ー ス と な って い るの が,著 名 な 「京 都 府 学 連 デ モ 事 件 」(前 掲 最 大 判 昭 和44年)で. あ る。 本 件. は,デ モ行 進 の 最 中 に条 例 違 反(許 可 条 件 違 反)が 実 行 され た と い う現 行 犯 状 況 に お いて,デ. モ に 同行 して い た警 察 官 が 右 違 反 行 為 の 状 況 を 保 全 す. るべ く,持 参 して い た写 真 機 で 現 行 犯 人(及. び周 囲 に い る第 三 者)の 容 貌. 等 を撮 影 した と こ ろ,こ れ に激 高 した被 告 人 が 警 察 官 に暴 行 を 加 え た た め 公 務 執 行 妨 害 罪 等 で 逮 捕 ・起 訴 され た と い う事 案 で あ る。 右 写 真 撮 影 が 強 制 処 分 に あ た る とす る と,無 令 状 で 行 わ れ た た め令 状 主 義 の 観 点,及. び,. 明 示 の 許 容 規 定 が欠 け る た め 強 制 処 分 法 定 主 義 の 観 点 か ら,そ の 適 法 性 (公務 執 行 妨 害 罪 に お け る公 務 の要 保 護 性)が 問 題 とな っ た。 一一 審 及 び二 審 は,い ず れ も右 写 真 撮 影 を 強 制 処 分 に は該 当 しな い と し,具 体 的 事 例 に お いて 許 容 さ れ る と結 論 づ け た(1)。これ に 対 し,最 高 裁 大 法 廷 は,も. っぱ ら. 憲 法13条 の 観 点 で 本 件 写 真 撮 影 行 為 の 適 法 性 を 論 じる に と ど ま り,刑 訴 法. (1)こ れ に対 し,大 阪 地 判 昭和36年12月23日. 下 刑 集3巻11・12号1269頁. が,や は. りデ モ 行 進 に お け る許 可 条 件 違 反 を理 由 とす る現 行 犯状 況 を 写真 撮 影 す る措 置 を 強 制 処 分 で あ る と判 示 す るな ど,下 級 審 で は見 解 が 対 立 して い た 。. 2.
(3) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(2). 上 の観 点 か ら これ が 強 制 処 分 に あ た るか 否 か と い う問 題 を検 討 しな か っ た。 本 件 最 高 裁 調 査 官 解 説(海 老 原 震 一う は,「 屋 外 に お け る写 真 撮 影 は, 被 撮 影 者 に身 体 的 拘 束 を 加 え な い限 り,本 人 の 同意 が な くて も任 意 捜 査 で あ[る と す る]原 審 の よ うな 考 え方 が 判 例 に多 い[が,こ. れ は,]写 真 撮. 影 や 盗 聴 装 置 の よ う に,相 手 方 に直 接 物 理 的 な 力 を 加 え な くて も,個 人 の 私 生 活 上 の 自 由を 侵 害 して しま う捜 査 手 段 が 現 れ て 来 た た め,現 行 法 の 明 文 の 規 定 だ けで まか な う こ とが で きな い事 態 が 生 じて い る こ とを 忘 れ た 議 論 で あ ろ う」 と述 べ た上 で,「 捜 査 の 手 段 と して の写 真 撮 影 は,刑 訴 法 の 予 想 しな か っ た と こ ろで あ るか ら,こ れ を 強 制 処 分 で あ る とか 任 意 捜 査 で あ る とか 云 い切 って しま う こ とな く,憲 法 の 精 神 を 勘 案 して,適 当 な 基 準 を 定 め るの が 相 当で あ ろ う」 と して,本 件 写 真 撮 影 行 為 は強 制 処 分 で も任 意 処 分 で もな い いわ ば 中間 的 処 分 と して 位 置 づ け られ るべ き もの との 考 え 方 を 示 して い る(2)。 その 後,最 高 裁 は,高 速 道 路 上 に設 置 され た 自動 車 監 視 装 置 に よ り速 度 違 反 車 両 の 運 転 者 及 び 同乗 者 の 容 貌 が 写 真 撮 影 され た と い う事 例(最 判 昭 和61年2月14日. 刑 集40巻1号48頁),強. 盗 殺 人 事 件 の 被 疑 者 との 同一 性 を. 確 認 す る た め に,対 象 者 を 尾 行 中 に公 道 上 及 びパ チ ン コ店 内で 実 施 され た 容 貌 等 の ビデオ 撮 影 の 適 法 性 が 問 題 とな っ た事 例(最 決 平 成20年4月15日 刑 集62巻5号1398頁)に. お いて,昭 和44年 判 決 を 引 用 した 上 で,や. は り,. 強 制 処 分 に あ た るか 否 か を 判 断 す る こ とな く,も っぱ ら憲 法 的 観 点 の み か ら適 法 で あ る と結 論 づ け る に と ど ま って い る。 (li)学 説 の 状 況(3) 私 人 の 容 貌 を 写 真 ・ビデ オ で 撮 影 す る措 置 の 法 的 性 質 に つ い て,学 説. (2)海 老 原 震 一 ・最 判 解 刑 事 篇 昭 和44年 度479,486頁. 。. (3)学 説 の 分 類 は,松 代 剛枝 「写 真 撮 影 」 松 尾 ・井 上 編 『 刑 事 訴 訟 法 の 争 点(第 3版)』(2002年. ・有 斐 閣)76頁. 参照。. 3.
(4) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. 上,従 来 か ら以 下 の よ うな 見 解 の 対 立 が 見 られ る。 まず,こ れ を 強 制 処 分 と捉 え る見 解 が あ る。 この 見 解 の 論 者 は,概 ね, 強 制 処 分 該 当性 の 判 断 に際 し対 象 者 の 権 利 ・利 益 侵 害 の 側 面 に着 目 し(実 質 的 基 準),対 象 者 が写 真 撮 影 に 同意 す る の で は な い 限 り,強 制 処 分 で あ る と主 張 す る。 例 え ば,三 井 誠 に よ る と,相 手 方 の 明 示 の 意 思 に反 す る又 は 推 定 的 拒 絶 が あ る とい え る場 合 に な お も容 貌 等 を写 真 撮 影 す る行 為 は, 「広 義 の プ ラ イ バ シー権 の侵 害 」に あ た る,屋 外 で の 撮 影 は室 内 に居 る者 の 撮 影 との 比 較 に お い て 同列 に扱 う こ とは で きな い と して も,「 街 頭 で 行 動 す る者 の 容 貌 等 が み だ りに撮 影 され な い 自 由が 奪 わ れ た場 合 」 に はな お も 「実 質 的 な 権 利 ・利 益 の 侵 害 と ま で は い え な い か とな る と異 論 は あ る」 と い うわ けで あ るω。 も っ と も,強 制 処 分 説 は,そ の 適 法 性 如 何 と い う点 につ いて,さ. らに見. 解 が 対 立 す る。 まず,写 真 撮 影 が 適 法 で あ る(適 法 とな りう る)と す る見 解 は,前 述 の強 制 処 分 法 定 主 義 の意 義 に関 す る理 解(5>の反 映 に よ り,基 礎 付 けが 異 な る。 まず,憲 法 的 観 点 を 重 視 し,強 制 処 分 法 定 主 義 に固 有 の 重 要 性 を認 めな い(軽 視 す る)見 解 か らは,写 真 撮 影 の よ うな 「新 しい強 制 処 分 」(立法 当時 捜 査 手 段 と して 想 定 され て いな か っ た処 分)は,刑 訴 法197 条1項 但 書 で い う強 制 処 分 に は あ た らず,た だ 権 利 の 要 保 護 性 の 観 点 か ら 憲 法 上 の 適 正 手 続(主. と して 令 状 主 義)に. よ る規 律 を 受 け る に と ど ま る,. それ ゆえ,こ の よ うな 処 分 に対 して は,も っぱ ら令 状 主 義 の 観 点 か ら規 律 され る に と どま る と主 張 さ れ る(6)。これ に 対 し,強 制 処 分 法 定 主 義 か らの 規 律 を求 め る見 解 は,写 真 撮 影 の 許 容 性 を 逮 捕 が 可 能 な 場 面 に限 定 し,刑. (4)三. 井誠. (5)二1参 (6)田. 『刑 事 手 続 法 入 門(1)(新. 版)」114頁(1997年. ・有 斐 閣)。. 照。 宮裕. 『捜 査 の 構 造 」258頁(1971年. ・有 斐 閣 。 初 出. ジ ュ リ323号(1965年))。. 4. 「犯 罪 捜 査 と 写 真 撮 影 」.
(5) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(2). 訴 法218条2項. や220条 の 適 用(類 推 適 用)に 根 拠 を求 め る(7)。 他 方,写 真. 撮 影 を 現 行 法 上 違 法 で あ る とす る見 解 は,「新 しい強 制 処 分 」と い った 類 型 化 に対 す る批 判 か ら出発 し,刑 訴 法218条2項. や220条 に根 拠 を 求 め る見 解. に対 して も,身 柄 拘 束 と証 拠 保 全 との 大 小 関 係 に よ る衡 量 の 合 理 性 自体 に は 「納 得 が い く面 が な くは な い が」,そ の よ う な 「論 理 は 不 当 に拡 が るお それ もあ る」(一 種 の 「緊 急 検 証 」 を解 釈 に よ り案 出 す る に他 な らな い) と して,む. しろ 「捜 査 の 現 実 的 要 請 に応 え る に は,現 段 階 で は,捜 査 方 法. と して の 写 真 撮 影 につ き立 法 的 手 立 て を 講 じる しか な い」 とす る(8)。 以 上 の 強 制 処 分 説 に 対 し,任 意 処 分 説 が,現 在 の と こ ろ通 説 的 見 解 と な って い る。 任 意 処 分 説 か らは,写 真 撮 影 につ いて 令 状 主 義 及 び強 制 処 分 法 定 主 義 の 規 律 は及 ばず,必 要 性,相. 当性 の 観 点 か ら合 理 的 な 措 置 と いえ. る限 りで 適 法 と い う こ と にな る。 す な わ ち,一 一 連 の 裁 判 例 に よ る結 論 も, これ に よ って 説 明 が 可 能 と い う こ と にな る。 も っ と も,写 真 撮 影 が 任 意 処 分 で あ る とす る その 基 礎 付 け に関 して は, 前 述 した 強 制 処 分 該 当 性 の 具 体 的 基 準 の 理 解(9)をめ ぐ り,相 違 が 見 られ る。 まず,捜 査 機 関 側 の行 為 態 様 に着 目 し(形 式 的 基 準),写. 真 撮 影 は 一・. 定 の 直 接 的 ・物 理 的 強 制 力 の 行 使 を 伴 わ な い と して,任 意 処 分 で あ る とす る見 解 が主 張 され る⑩。 これ に対 し,対 象者 の 権 利 ・利 益 侵 害 に着 目す る. (7)時 武 英 男 「 犯 罪 捜 査 と 肖 像 権 」 佐 伯 千 偲 博 士 還 暦 祝 賀 『犯 罪 と刑 罰(下)」 240,255頁(1968年 (1988年),光 (8)三 井(前. ・有 斐 閣),村. 井 敏 邦 「判 例 批 評 」 判 評360号223,224頁. 藤 景 咬 『刑 事 訴 訟 法1』168頁(2007年 掲 注(4))『刑 事 手 続 法 入 門(1)』114頁,渡. ・成 文 堂)。 辺 修 「捜 査 と 防 御 」33頁. (1995年 ・三 省 堂 。 初 出 「ビデ オ 撮 影 を 伴 う尾 行 行 為 の 法 的 限 界 」 神 院24巻2号 (1994年))。 (9)二2参 ⑩. 照。. 坪 内 利 彦 「写 真 撮 影 」 三 井 誠 他 編 「 刑 事 手続(上)』151頁(1988年 房),河. ・筑 摩 書. 上 和 雄 「写 真 撮 影 」 同 編 『刑 事 裁 判 実 務 大 系Gl)犯罪 捜 査 」152頁(1991. 年 ・青 林 書 院)。. 5.
(6) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. 立 場(実 質 的 基 準)か. らは,写 真 撮 影 は,個 人 の プ ラ イバ シ ー等 の 権 利 ・. 利 益 を侵 害 しう る もの で あ るが,か か る権 利 は具 体 的 状 況 に お いて 保 護 さ れ る べ き程 度 を 異 に す る もの で あ るか ら,公 然 の 場 所 に居 る者 に お い て は,室 内 に居 る者 と は異 な り,要 保 護 性 に お いて 劣 後 す る と され る。 す な わ ち,住 居 内 に居 る者 を 高 性 能 の 望 遠 レン ズや 赤 外 線 フ ィル ムを 用 いて 密 か に撮 影 す る場 合 は格 別,「街 頭 で公 然 と行 動 して い る人 を写 真 に撮 る」場 合 は,そ の よ うな者 は 「自 ら 自分 の行 動 を他 人 の 目に 曝 して い る の で あ り, 住 居 の 中 に い る場 合 な ど と 同様 に プ ラ イ ヴ ァ シ ーを 正 当 に期 待 な い し主 張 で き る立 場 に い る と は いえ ま い。」とい うわ けで あ る⑪。 な お,「京 都 府 学 連 デ モ事 件 」 に関 す る最 高 裁 調 査 官 解 説 は,前 述 の と お り,人 の 容 貌 等 に対 す る写 真 撮 影 を 「中間 的 処 分 」 で あ る と位 置 づ けて い るが,こ れ は,具 体 的 状 況 に お いて 強 制 処 分 と して の 法 的 規 律 を 要 す るか,或. い は任 意 処 分 と. して の 規 律 で 足 りるか を 区 別 す る もの で あ り,右 任 意 処 分 説 の 一一 つ と考 え て よ いで あ ろ う。 ㈹. 若干の検討. 前 述 ⑫ の とお り,強 制処 分 とは,「 処 分 」 が 「強 制 」 さ れ る こ と で あ る。 そ して,写 真 撮 影 の 適 法 性 が 問 題 と され るの は,対 象 者 が 捜 査 機 関 の 右 措 置 に抵 抗 す る場 合,す な わ ち処 分 受 忍 に向 け た意 思 決 定 が な され て いな い 場 合 で あ り,ま さ に 「個 人 の 意 思 を 制 圧 」 して 行 わ れ る場 面 で あ るか ら, 強 制 的 要 素 は否 定 で きな い。 ま た,被 疑 者 を 尾 行 中 に密 か に撮 影 す る場 合 や,街 頭 の 人 目 につ か な い箇 所 に設 置 した カ メ ラで 隠 し撮 りす る と い っ た 場 合 も,当 該 措 置 の 受 忍 に 向 け た 意 思 決 定 の機 会 が 保 障 さ れ て い な い た. (ll)井 上 正 仁 『強 制 捜 査 と任 意 捜 査 』12頁(2006年. ・有 斐 閣。 初 出 「任意 捜 査 と. 強 制 捜 査 の 区別 」 松 尾 ・井 上 編 『刑 事 訴 訟 法 の 争 点(第3版)」(2002年 閣))。 q2)二2(5)参. 照。. 6. ・有 斐.
(7) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(2). め,や は り強 制 的 要 素 は肯 定 され る。 従 って,強 制 処 分 該 当 性 の 判 断 に あ た り,検 討 の 中心 は,処 分 性 要 素 如 何 と い う こ と にな る。 私 見 に よ る と,こ こ で い う処 分 と は,「 法 的 に保 護 され る権 利 ・利 益 に 対 す る実 質 的 な 制 約 」 で あ る。 で は,捜 査 機 関 が 私 人 の 容 貌 等 を 写 真 ・ビ デオ に撮 影 す る行 為 は,右 の 意 味 で 処 分 性 が 肯 定 され るか 。 こ こで は,対 象 と され る権 利 ・利 益 の 性 質 が 問 題 とな る た め,撮 影 時 に対 象 者 が 如 何 な る場 所 に居 るか で 区 別 す る こ とが 有 益 で あ る。 まず,対 象 者 が 特 定 の 建 物 内,特 に私 人 の 住 居 内な ど外 部 か ら遮 断 され た場 所 に居 る場 合,捜 査 機 関 が そ こ に物 理 的 に立 入 って 撮 影 す る と い った 措 置 は,住 居 不 可 侵 と い う意 味 で の プ ラ イバ シ ー権 が 害 され る。 憲 法35条 は,ま さ に この よ うな 場 面 を 想 定 した もの で あ り,そ の 適 用 範 囲 は捜 索 ・ 押 収 に限 らず 広 く捜 査 目的 で の 「侵 入 」 に及 ん で い る。 また,同. じ く住 居. 内 に居 る対 象 者 を,屋 外 か ら望 遠 レン ズや 赤 外 線 カ メ ラを 使 用 して 撮 影 す る場 合 も,同 様 に解 して よ い。 そ うで な けれ ば,侵 入 禁 止 の 意 義 は,捜 査 手 段 の 現 代 に お け る 技 術 的 発 展 を考 え る と,実 質 的 に 意 味 の な い もの と な って しま うで あ ろ う。 ま た,住 居 内 に居 る私 人 に関 して は,自 身 の 容 貌 等 を 他 の 人 の 視 覚 にみ だ りに曝 され な い と い う意 味 で,よ. り直 接 的 な 形 で. の プ ラ イバ シ ー権 と して 保 護 され る。 いわ ば,外 部 か ら隔 絶 され た 城 の 中 で,個 人 は様 々な 人 格 的 活 動 を 自 由 に行 い う る こ とを 保 障 され な けれ ばな らな い。 この こ と は,浴 室 内や 寝 室 内で の 行 動 を 考 え る と,高 度 な 保 護 を 必 要 とす る こ とを 導 く。 それ ゆえ,住 居 内 に居 る人 の 容 貌 等 を 撮 影 す る行 為 の 処 分 性 は,容 易 に肯 定 され う る。 で は,対 象 者 が 公 道 上 等,他 者 と交 錯 す る場 所 に居 る場 合 は ど うか 。 こ の 場 面 に お いて は,住 居 内 に居 る場 合 と異 な り,住 居 不 可 侵 性 に基 づ くプ ラ イバ シ ー権 は存 在 しな い。 ま た,他 者 と交 錯 す る場 所 で は,常 に人 の 視 覚 に曝 され る と い う意 味 に お いて も,プ ラ イバ シー 権 は,法 的 保 護 と い う 7.
(8) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. 意 味 に お いて,(ゼ ロ で は な い と して も)著 し く低 位 に おか れ る。 この よ う な 点 か ら,前 述 任 意 処 分 説 及 び これ と 同 旨 と解 され る一一 連 の 裁 判 例 は,少 な くと も公 道 上 等 他 者 と交 錯 す る場 所 で の 写 真 撮 影 を 任 意 処 分(非 強 制 処 分)と. し,令 状 主 義 及 び強 制 処 分 法 定 主 義 か らの 規 律 を 不 要 と考 え て い る. の で あ る。 も っ と も,こ の よ うな理 解 は,次 の二 つ の観 点 か ら疑 問 が あ る。 第一一 に, 撮 影 機 器 の 技 術 的 進 歩 に よ り,個 人 の プ ラ イバ シ ー権 に対 す る侵 害 の 程 度 が 著 し く飛 躍 して い る。 確 か に,公 道 上 と い っ た人 目 に曝 され て い る場 で は,遠 隔 操 作 等 に よ る撮 影 機 器 に よ り対 象 者 に知 覚 され な い状 態 で 撮 影 さ れ た か ら とい っ て,プ ラ イ バ シー 侵 害 の 程 度 が 異 な る も の とは い え な い (こ の 点 は,強 制 性 の観 点 で 問題 とな り うる と して も)。 しか し,ビ デオ 撮 影 に よ る行 為 の 連 続 的 撮 影 は,客 観 的 に は単 に容 貌 が 連 続 的 に写 され て い る に過 ぎな い と い い う る と して も,容 貌 等 の 情 報 に と ど ま らず,人 の 行 為 の 把 握 と い う点 に お い て,社 会 的 意 味 合 い が 大 き く変 質 す る。 こ の こ と は,例 え ば,対 象 者 が 他 者 と コ ミュニ ケ ー トして い る場 面 や,特 定 の 場 所 に 出入 り して い る場 面 を 想 定 す る と,容 易 に理 解 しう る。 第 二 に,撮 影 に よ り,写 真 や ビデオ と して 記 録 され る と い う こ と は,容 貌 等 の 外 形 的 要 素 が 人 目 に曝 され て い る と い う こ とか ら正 当化 され る もの で はな い。 す な わ ち,一 一 定 の 情 報 が 単 に取 得 され る に と ど ま らず,後 の 時 点 まで 捜 査 機 関(国 家 機 関)に 保 管 され,一 一 定 の 場 合 に それ が 使 用 され る 可 能 性 が 永 続 的 に残 され る と い う意 味 に お いて,新 を認 め る こ とが で き る。 現 在 の 憲 法 学 説 上,プ. たな プ ラ イバ シ ー侵 害. ラ イバ シ ー権 は,他 者 か ら. 介 入 を受 け な い と い う消極 的 側 面 に と ど ま らず,「 自己 に関 す る情 報 を コ ン トロ ール す る権 利 」と い う積 極 的側 面 も有 す る と理 解 さ れ て い る が⑱,ま. q3>佐. 藤幸治. 『憲 法(第3版)」453頁(1995年. ・青 林 書 院)。. 8.
(9) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(2). さ に,こ こで い う処 分 は,こ の 自 己情 報 コ ン トロー ル 権 に対 す る もの と位 置 づ け られ る。 例 え ば,後 述 の と お り,通 信 傍 受 の 場 面 にお いて,単. に会. 話 情 報 を 聞 き取 る と い う意 味 に お いて は,こ れ を 「検 証 」 の 一 種 で あ る と い い う るが(最 決 平 成11年12月16日 刑 集53巻9号1327頁),こ. れが記録 さ. れ,保 管 され る と き,上 述 の 意 味 で の 情 報 コ ン トロー ル 権 に対 す る配 慮 が 必 要 とな る。 通 信 傍 受 法 は,そ の19条 以 下 に お いて 傍 受 され た 記 録 の 取 扱 につ いて 詳 細 な 規 定 を お いて い るが,こ の 規 定 は,右 の 意 味 で 情 報 コ ン ト ロ ール 権 に配 慮 した もの と理 解 され るべ きで あ る(そ れ ゆ え,通 信 傍 受 を, 通 信 傍 受 法 を 離 れ て 検 証 と して 実 施 す る こ と は,も はや 許 され な い と解 さ れ る)。 す な わ ち,視 覚 的 ・聴 覚 的 に捕 捉 され る こ と と,当 該 情 報 が 永 続 的 に他 者 に よ って 管 理 され る こ と は,も はや 質 的 に異 な る もの で あ る⑭。 この よ う に して,写 真 ・ビデオ 撮 影 は,対 象 者 が 住 居 内 に居 る場 合 だ け で な く,公 道 上 等 他 者 と交 錯 す る場 所 に居 る場 合 で も処 分 性 が 肯 定 され る (そ れ ゆ え,真 摯 な 同意 ・承 諾 を 得 な い 限 り,強 制 処 分 に該 当す る⑮)。 こ の 結 論 は,例 え ば,対 象 者 が その 時 点 で 犯 罪 を 現 行 して い る場 合 や,そ の 者 に重 大 事 件 の 犯 人 で あ る との 一一 定 程 度 の 嫌 疑 が 存 在 す る場 合 で あ って も 異 な らな い。 な ぜ な ら,こ れ らの 要 素 は,当 該 措 置 に よ って 権 利 侵 害 が 正. ω. 例 え ば,各 自治 体 の迷 惑 行 為 防止 条 例 に よ る と,海 水 浴場 な どで 水 着 姿 の 女 性 の 姿 態 を 眺 めて い る だ け で は罪 に 問 わ れ な い が,こ れ を写 真 等 で 撮 影 す る行 為 は処 罰 され る こ と に な って い る。 こ れ は,他 者 の 目に 曝 され る こ と と,そ の 情 報 が 他 者 に よ って み だ りに保 管 さ れ る こ と とは,権 利 侵害 性 が 異 な る とい う こ とを 示 す もの で あ る。. ⑮. 松代剛枝 「 捜 査 に お け る人 の写 真 撮 影 咬 先 生 古 稀 祝 賀 論 文 集 ・上 巻 』111頁(2001年. ア メ リカ法 を 中心 と して」「光 藤 景 ・成 文 堂)。 ま た,最 決 平 成20年. の 評 釈 の 中 で,緑 大 輔 ・速 報 判 例 解 説vol.3213頁(2008年),豊 セ ミ643号124頁(2008年)も,強. 崎 七 絵 ・法. 制 処分 説 を 支持 して い る。 な お,ド イ ツで は,. 私 人 の 容 貌 等 の 写 真 撮 影 は 強 制 処 分 で あ る と す る見 解 が 有 力 で あ り(Claus Roxin,Strafverfahrenstecht25Auf.,S.236,1998),StPO81b条 規 定 も制 定 され て い る。. 9. に具 体 的.
(10) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. 当化 され るべ きか 否 か と い う実 質 的 許 容 性(必 要 性,相. 当性)に 関 わ る も. の で あ り,処 分 性 該 当如 何 と い う問 題 に影 響 を 与 え る もの で はな いか らで あ る。 この 意 味 に お いて,処 分性 は,絶 対 的 に決 定 され る べ き もの で あ り, 対 象 者 の 属 性 に よ って 相 対 化 す る もの で はな い⑯。. (2)そ の 他 の 器 具 を 使 用 した措 置 (i)盗. 聴. 【通 信 傍 受 】 例 え ば,NTT通. 信 局 内 に あ る 回線 設 備 に器 具 を設 置 し,特 定 の 回 線 を 通. じて 行 わ れ る私 人 間 の 会 話 を 傍 受 ・記 録 す る こ と は,如 何 な る法 的 規 律 を 受 け るべ きか 。 この いわ ゆ る ワ イ ヤ ー タ ッ ピン グの 方 法 に よ る盗 聴 手 段 に つ いて,そ の 法 的 性 質 が 問 題 とな る。 まず,器 具 設 置 に あ た り,私 人 が 管 理 す る特 定 施 設 へ の 立 入 及 び器 具 設 置 の 受 忍 ・協 力 を 求 め る場 合,こ の 点 に処 分 性 が 肯 定 され る こ と は 当然 で あ る。 それ ゆえ,こ れ を 強 制 的 に実 施 す る場 合,強 制 処 分 で あ る。 で は,器 具 を 設 置 した後,そ の 目的 た る通 信 傍 受 ・記 録 は ど うか 。 この 点 につ いて,土 本 武 司 は,強 制 処 分 該 当性 の 基 準 を 「処 分 を 受 け る者 の 意 思 の 自 由を 制 圧 して 実 施 され るか 否 か 」 と い う点 に求 め,盗 聴(秘 聴)は 「そ の処 分 を受 け る者 の 自由意 思 の制 圧 とい う こ とは あ りえ な い」 と して, これ を任 意 処 分 で あ る と主 張 す る(1の 。 この 見 解 は,最 決 昭和51年3月16日 刑 集30巻2号187頁. で示 さ れ た 個 人 の意 思 の 制 圧 性 とい う部 分 に着 目 し,. (16)例 え ば,現 行 犯 人 を逮 捕 す る場 合 に令 状 が不 要 と され る の は,そ の 強 制 処 分 性 が 否 定 され るか らで は な く,令 状 要 件 が(憲 法 上)緩. 和 され て い るた め で あ. る こ と と同 義 で あ る。 ⑰. 土 本 武 司 「犯 罪 捜 査 』129頁(1978年 140頁(1991年. ・弘 文 堂)。 但 し,同. 『刑 事 訴 訟 法 要 義 」. ・有 斐 閣)で は,同 様 の 検討 を行 い つ つ 明言 を避 け て お り,氏 が. 現 在 如 何 な る見 解 に立 た れ るか は定 か で はな い 。. 10.
(11) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(2). 通 信 傍 受 ・記 録 の よ う に対 象 者 に秘 匿 的 に実 施 され る措 置 は意 思 制 圧 に よ る処 分 受 忍 強 制 と い う要 素 が 欠 け る た め,こ れ を 任 意 処 分 と理 解 す るq8)。 これ に対 して,学 説 上,通 信 傍 受 ・記 録 を 強 制 処 分 と解 す る見 解 が 支 配 的 とな って い る。 最 高 裁(最 決 平 成11年12月16日 刑 集53巻9号1327頁)も, 「電 話 傍 受 は,通 信 の 秘 密 を 侵 害 し,ひ い て は,個 人 の プ ラ イバ シー を 侵 害 す る強 制 処 分 で あ る」 と して,強 制 処 分 性 を 肯 定 して い る。 す な わ ち,強 制 処 分 該 当性 につ いて,現 在 の 通 説 的 見 解 は,そ の 基 準 を 個 人 の 権 利 侵 害 性 に求 め(実 質 的 基 準),通 21条2項. 信 傍 受 ・記 録 は プ ラ イ バ シー 権,中. で も憲 法. に よ る明 示 で 保 障 され た通 信 の 秘 密 を害 す る もの で あ り,そ の 程. 度 ・質 に お いて も はや 任 意 処 分 と して 許 容 され る範 囲 を 超 え る と い うわ け で あ る⑲。 も っ と も,こ の よ う な理 解 に よ って も,処 分 性 が論 証 され るの み で あ り,強 制 性 如 何 と い う問 題 は,任 意 処 分 説 が この 点 に依 拠 す る よ う に,依 然 と して残 さ れ て い る。 この点 に つ い て,井 上 正 仁 は,「当 事 者 が 処 分 の 行 わ れ る こ とを 知 り得 な い結 果,実 際 に反 対 の 意 思 を 表 明 す る と い う こ とが な くて も,知 れ ば 当然 反 対 す る と考 え られ る場 合 で あ る以 上,そ の よ うな 合 理 的 に推 認 され る 当事 者 の 意 思 に反 して そ の 者 の 重 要 な 権 利 を 奪 う」もの で あ る か ら,強 制 処 分 と解 す る こ と に妨 げ はな い と主 張 す る⑫ ①。 し か し,前 述 ⑳ の とお り,こ の よ うな現 実 の 強 制 との 同 価 値 性 に基 づ く仮 定 的 ・推 論 的 考 察 は不 要 で あ る。 強 制 性 要 素 に と って 重 要 で あ るの は,当 該 処 分 に対 す る対 象 者 の 拒 否 如 何 で はな く,そ の 受 忍 に向 けた 意 思 決 定 の 機. q8)小 野 清 一・ 郎 他 『ポ ケ ッ ト註 釈 全 書 刑 事 訴 訟 法 上(新 版)」431頁(1986年. ・有. 斐 閣)も 同 旨。 ⑲. 井 上 正 仁 「捜 査 手 段 と して の 通 信 ・会 話 の傍 受 」85頁(1997年. ・有 斐 閣),白. 取 祐 司 「科 学 捜 査 と 人 権 」 松 尾 ・井 上 編 『刑 事 訴 訟 法 の 争 点(新 (1991年 ・有 斐 閣)。 ⑳. 井 上(前 掲 注 ⑲)『 捜 査 手 段 と して の 通 信 ・会 話 の 傍 受 』86頁 。. ⑳. 二2(5)参 照 。. 11. 版)」78頁.
(12) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. 会 が 保 障 され て い るか 否 か で あ るか ら,こ の よ うな 秘 匿 的 手 段 に よ る処 分 も強 制 性 要 素 を 肯 定 す る こ と に問 題 はな い。 平 成11年 法138号 に よ り,刑 訴 法222条 の2が 新 設 され,「通 信 の 当事 者 の いず れ の 同意 も得 な いで 電 気 通 信 の 傍 受 を 行 う強 制 の 処 分 」 につ いて 法 規 定 が定 め られ,同137号. に よ り手 続 の細 目 につ い て犯 罪 捜 査 の た め の 通 信. 傍 受 に関 す る法 律(通 信 傍 受 法)が 制 定 され た 。 これ に よ り,通 信 傍 受 は, 法 律 上 も強 制 処 分 と して 承 認 され,同 時 に,強 制 処 分 法 定 主 義 を 充 たす と 共 に,具 体 的 手 続 に関 して 令 状 要 件 が 定 め られ る こ と とな っ た(通 信 傍 受 法3条 以 下)。 従 って,通 信 傍 受 は,そ の合 憲 性 問題 は お く と して,同 条 規 定 の 要 件 を 満 たす 限 りで 手 続 法 上 の 規 律 につ いて 問 題 はな い。 も っ と も, 通 信 傍 受 法 は,対 象 犯 罪 を 指 定 し,或 い は厳 格 な 補 充 性 要 件 を 課 して い る こ と か ら(通 信 傍 受 法3条1項,別. 表),こ. れ に該 当 しな い場 合,同. 法に. よ って 処 分 を 行 う こ と はで きな い。 で は,そ の よ うな場 合,な お も 「検 証 」 処 分 と して 実 施 す る こ と はで き るか 。 通 信 傍 受 法 が 制 定 され る前 は,捜 査 実 務 は検 証 で あ る との 理 解 の 下,検 証 許 可 状 に よ り実 施 され るの が 通 例 で あ り,最 高 裁(前 掲 最 決平 成11年)も,通. 信 傍 受 法 制 定 前 の事 件 に つ い て,. 検 証 と して 行 い う る と判 断 して い る。 それ ゆえ,通 信 傍 受 法 の 対 象 か ら外 れ る処 分 も,な お検 証 と して 実 施 しう るの で はな いか が 問 題 と して 残 され て い る。 通 信 傍 受 法 制 定 以 前,学 説 上,通 信 傍 受 は検 証 と して 許 容 され る とす る 見 解 が主 張 され て いた ⑳。 こ の見 解 か らす る と,論 理 的 に は,通 信 傍 受 法 制 定 後 も,こ れ に該 当 しな い場 面 にお い て は,(憲 法 上 の 要 請 か ら要 件 が 限 ⑳. 島 田仁 郎 「電 話 の盗 聴 をす る に は ど の よ うな令 状 が必 要 か 」 新 関 他 編 『令 状 基 本 問 題(新 版)」7頁(1986年. ・一 粒 社),石. 罰 法 体 系5・ 刑 事 手 続1」213頁(1983年. 川弘 「 盗 聴 」 石 原 他 編 『現 代 刑. ・日本 評 論 社),稗[H雅. 洋 「通 信 内 容. の 傍 受 の可 否 」 平 野 ・松 尾 編 『新 実 例 刑 事 訴 訟 法1」17,28頁(1998年 書 院)。. 12. ・青 林.
(13) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(2). 定 さ れ る と して も)な お も検 証 に よ って許 容 され う る こ とに な る㈱。 これ に対 し,学 説 上,少 な くと も通 信 傍 受 法 制 定 に よ り,同 法 に よ る以 外 に検 証 と して 許 容 され る こ と はな い とす る見 解 が 有 力 で あ る。 例 え ば,通 信 傍 受 は,検 証 と は別 個 ・固 有 の,通 信 傍 受 法 に よ って 立 法 上 創 設 され た 強 制 処 分 で あ る と主 張 し,通 信 傍 受 法 は 同法 規 定 以 外 の 処 分 を 認 めな い との 立 法 政 策 を採 用 した もの で あ る と説 明 され る⑳。 ま た,前 掲 最 決 平 成11年 に お け る元 原 裁 判 官 反 対 意 見 は,① 犯 罪 に無 関 係 な 会 話 が 混 入 す る可 能 性 は 否 定 で きず,こ れ を 選 別 す る た めの 聴 取 を 検 証 に付 随 す る 「必 要 な 処 分 」 と解 す る こ と はで きな い(も は や そ の 範 囲 を 逸 脱 す る),② 対 象 者 へ の 手 続 保 障 と して の 令 状 提 示,不 服 申 立 手 段 が 検 証 に は予 定 され て い な い と し て,通 信 傍 受 を検 証 と して 行 う こ とは で き な い と判 示 して い る。 い ず れ も,対 象 者 に秘 匿 的 に行 わ れ るべ き通 信 傍 受 と,公 然 と行 わ れ る検 証 との 本 質 的 な 違 いを 示 す もの と い い う る。 それ ゆえ,通 信 傍 受 は,検 証 と は異 質 の 処 分 で あ り,こ れ を 強 制 的 に行 うた め には,刑 訴 法222条 の2及. び通 信. 傍 受 法 に基 づ い て実 施 しな けれ ば な らず,同 法 所 定 外 の 態 様 で 行 う こ と は,強 制 処 分 法 定 主 義 及 び令 状 主 義 に反 す る。 【室 内会 話 盗 聴 】 で は,室 内 に盗 聴 器 を 仕 掛 けて,そ. こで 行 わ れ る 内密 的 な 会 話 を 傍 受 ・. 記 録 す る処 分 は ど うか 。 いわ ゆ るバ ギ ン グ と いわ れ る この 措 置 につ いて, 現 行 法 上,明 示 で 根 拠 付 け る規 定 は存 在 しな い。 この 問 題 につ いて,最 高 裁 で 明 示 に判 断 され た事 例 はな く,わ ず か に東 京 高 決 昭 和28年7月17日 ⑳. 判 時9号3頁(「. 十 日町事 件 」)で,下. 宿 に居 住 す. 稗 田(前 掲 注 ⑳)「 通 信 内容 の傍 受 の可 否 」36頁 は,通 信 傍 受 法 制 定 後 は 検 証 と して 行 う こ と は お よ そ認 め られ な い と述 べ る が,論 理 的 に 一・ 貫 しな い よ う に 思 わ れ る。. ⑳. 酒巻匡 「 組 織 的犯 罪 対 策 に 関 す る刑 事 手 続 立 法 に つ い て(上)証 及 び通 信 傍 受. 」 現 代 刑 事 法7号55,59頁(1999年)。. 13. 人の保護.
(14) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. る対 象 者 の 会 話 を 壁 一一 枚 隔 て た隣 室 か ら器 具 を 用 いて 盗 聴 した行 為 につ い て,こ れ を 職 権 濫 用 罪 に あ た る とす る付 審 判 請 求 を 棄 却 す る理 由の 中で, 「特 に 強制 的処 分 に 渉 らず,ま た法 の規 制 す る と こ ろ に従 う限 り,そ の 捜 査 目的 の 達 成 に必 要 な 処 分 を な す を 妨 げな い」 と判 示 され て い る に と ど ま る (具体 的事 例 で は,結 論 に お い て違 法 性 を否 定 して お り,任 意 処 分 と判 断 さ れ た)。 バ ギ ン グ につ いて も,ま ず,室. 内 に無 断 で 立 ち入 って 器 具 を 設 置 す る行. 為 は,そ れ の み で 住 居 不 可 侵 と い う意 味 で の プ ラ イバ シ ー侵 害 に あ た り, 憲 法35条 に よ って 直 接 的 に,強 制 処 分 性 を 導 くこ とが で き る。 ま た,十 日 町 事 件 の よ う に,対 象 者 の 居 住 す る室 の 外 か ら器 具 を 用 いて その 室 内の 会 話 を傍 受 ・録 音 す る行 為 も,プ ラ イバ シ ー権 保 護 の 要 請 は変 わ らず,や. は. り強 制 処 分 性 を 否 定 す る こ と はで きな いだ ろ う。 そ して,住 居 内会 話 の 盗 聴 は電 気 通 信 傍 受 よ りも は るか に法 益 侵 害 の 質 と程 度 に お いて 高 い と い い う る こ とか ら㈱,通 信 傍 受 に お け る議 論 と同 じ く,こ れ を検 証 と して 実 施 す る こ と は許 され な い と い うべ きで あ る。 この よ うな 住 居 内会 話 の 盗 聴 に関 して,例 え ば ドイ ツで は,憲 法 改 正 を 含 む 大 幅 な 法 改 正 を 行 い,緻 密 な 手 続 規 定 を お いて い る。 憲 法 論 を 含 め, 今 後 の 議 論 を 待 たね ばな らな い⑳。 (ii)追 跡 監 視 装 置 いわ ゆ る麻 薬 特 例 法3条,4条. に よ り,規 制 薬 物 を 所 持 す る外 国 人 の 上 陸. ⑳. 酒 巻(前 掲 注 ⑳)「 組 織 犯 罪 対 策 に 関す る刑 事 手 続 立 法 につ い て(上)」60頁. ⑳. ドイ ツ に お け る住 居 内会 話 盗 聴 の 問題 に つ い て,井 上 正 仁 『強 制 捜 査 と任 意 捜 査 』134頁(2006年 (1994年)),辻. ・有 斐 閣 。 初 出 「ドイ ツ の 新 盗 聴 法 案 」 ジ ュ リ1047号. 本 典 央 「刑 事 手 続 にお け る私 的 秘 密 領 域 の 保 護. る住 居 内会 話 盗 聴 問題 の理 論 的考 察. ドイ ツ にお け. 」 近 法54巻2号187頁(2006年)。. 問 題 全 般 につ い て,奥 平 ・小 田 中監 修 『盗 聴 法 の 総 合 的 研 究 と市 民 的 自 由. 。. 」(2001年 ・日本 評 論 社)。. 14. 盗聴. 「通 信 傍 受 法 」.
(15) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(2). 及 び規 制 薬 物 の 通 関 等 に関 す る特 例 が 定 め られ,こ れ に よ る と,捜 査 機 関 か らの 通 報 ・要 請 が あ り,当 該 外 国 人 の 逃 走 及 び規 制 薬 物 散 逸 を 防 止 す る た めの 十 分 な 監 視 体 制 が 確 保 され て い る と き,法 務 大 臣か らそ の 連 絡 を 受 け た入 国 管 理 官 は,右 外 国 人 の 入 国 を 許 可 し,税 関 長 は,規 制 薬 物 を 含 む 貨 物 の 輸 入 又 は輸 出を 許 可 す る こ とが で き る。 この 規 定 は,国 連 麻 薬 新 条 約(1988年. 採 択,日 本 は1992年 に批 准)を 受 け た国 内法 整 備 の 一 環 と して. 設 け られ た もの で あ るが,こ れ に よ って,入 管 法 や 関税 法 との調 整 を 図 り, 国 際 的 な ラ イ ブ ・コ ン トロー ル ド ・デ リバ リー(LCD)に. 途 を 開 いた もの. で あ る とい わ れ て い る⑳。 ま た,税 関検 査 で 発 見 され た規 制 薬 物 等 を そ の 時 点 で 抜 き取 って,そ の 他 の 貨 物 を 流 通 させ て 追 跡 す る と い う ク リー ン ・ コ ン トロ ール ド・デ リバ リー(CCD)も. 行 わ れ て い る。 も っ と も,麻 薬 特. 例 法 の 右 規 定 は,実 体 法 上 の 調 整 規 定 で あ り,手 続 法 上 これ が 如 何 な る態 様 で 規 律 され るべ きか は,さ. らに問 題 と され な けれ ばな らな い。. この 点 につ いて,明 示 で 判 断 した裁 判 例 は,い まだ 見 当 た らな い よ うで あ る。 学 説 上,CDは,右. いず れ の態 様 に お い て もこれ を任 意 処 分 で あ る. とす る見 解 が 支 配 的 で あ り,そ れ ゆえ,訴 訟 法 上 も ほ とん ど問 題 視 され て い な い よ うで あ る㈱。 確 か に,行 動 追 跡 は,尾 行 ・追 跡 活 動 に 等 し く,非 常 に長 期 にわ た る よ うな 場 合 は格 別,追 跡 の み に と ど ま る限 りは,ま だ 強 制 処 分 と は いえ な い(私 見 に よ る と,す で に処 分 性 の 段 階 で 否 定 され る)。 しか し,人 間 の 視 覚 に と ど ま らず,器 具 を 用 いて 追 跡 活 動 が 持 続 的 ・網 羅 的 に行 わ れ る よ うな 場 合 に は,処 分 性 が 肯 定 され る場 合 も あ りう るの で は な いか 。 例 え ば,CDに. 際 し,追 跡 を完 全 な ら しめ る た め,荷 物 に発 信 機 を. 取 り付 けて お き,荷 物 の 運 搬 過 程 だ けで な く,対 象 者 が 荷 物 を 受 け取 った. ⑳. 古 田 ・齊 藤 編[古. 田佑 紀]「 大 コ ンメ ンタ ー ル1薬 物五 法(麻 薬 特 例 法)』16. 頁 。 銃 刀 法31条 の17も 同 様 の 目的 を 持 った 規 定 で あ る と され る。 ⑳. 寺 崎 嘉 博 「刑 事 訴 訟 法(第2版)」68頁(2008年. 15. ・成 文 堂)。.
(16) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. 後 もな お,荷 物 の 携 帯 に 伴 っ て そ の行 動 が 機 械 的 に把 握 さ れ る と い う場 合,人 の 行 動 の 自 由 に と ど ま らず,内 密 的 な 交 際 関 係 や 住 居 へ の 不 可 侵 と い った 意 味 で の プ ラ イ バ シー に対 す る新 た な か つ 強 度 の 侵 害 が 認 め られ る。 ま た,発 信 機 に音 声 や 映 像 を 撮 影 ・記 録(又 が 付 いて い る場 合,盗 聴(盗 撮)と. は送 信)す. る よ うな 機 能. して の 性 質 も認 め られ よ う。 この こ と. は,現 在 の 急 進 的 な 技 術 進 歩 に お いて,衛 星 シ ス テ ムを 用 い た高 度 の 情 報 収 集 力 の 向 上 を 考 え る と,な おの こ と,そ の 保 護 に向 け た方 策 が 考 え られ な けれ ばな らな い。 ㈹. エ ック ス線 検 査. 近 時,捜 査 機 関 が 規 制 薬 物 取 締 に際 し対 象 者 を 密 偵 中 に,そ の 者 に配 送 され る予 定 の 荷 物 を,外 包 を 開 封 す る こ とな く,エ ック ス線 検 査 機 を 用 い て 内部 の 状 態 を 確 認 す る とい う捜 査 行 為 に つ い て,そ の 適 法 性 が 問題 と な った。 大 阪 地 判 平 成18年9月13日. 判 タ1250号339頁 は,こ の よ うな捜 査. 活 動 につ いて,次 の よ う に判 示 し,強 制 処 分 性 を 否 定 した。. 「荷 送 人 及 び荷 受 人 が 当該 荷 物 に関 し本 件 の よ う なエ ッ クス 線 検 査 が実 施 され よ う と して い る こ と を 知 っ た場 合,こ. れ を 承 諾 しな い こ と も予 想 され る と こ. ろ,そ の よ うな 機 会 を与 えず に荷 物 を エ ック ス線 検 査 に か け る こ とは,そ の 程 度 は と もか くと して,荷 送 人 ・荷 受 人 の プ ラ イ バ シー等 を侵 害 す る もの で あ る こ と は否 定 で きな い 。[原 文 改 行]し か し,本 件 に よ るエ ック ス線 検 査 に よ る方 法 は,そ の 射 影 に よ り内容 物 の形 状 や材 質 を窺 い知 る こ とが で き るだ けで,内 容 物 が 具 体 的 に どの よ う な もの で あ る か を特 定 す る こ とは 到 底 不 可 能 で あ る。 した が って,こ. の方 法 が 荷 送 人 ・荷 受 人 の プ ラ イ バ シー 等 を 侵 害 す る もの で あ. る と して も,そ の程 度 は極 め て軽 度 の もの に と どま る。 荷物 を 開 披 した 上 で 内 容 物 を 見 分 した 場 合 に荷 送 人 ・荷 受 人 の プ ラ イ バ シー等 が侵 害 され るの に比 べ れ ば,格 段 の 差 が あ る とい わ な けれ ば な らな い 。」. 16.
(17) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(2). 本 判 決 は,右 の と お り,荷 送 人 ・荷 受 人 の プ ラ イバ シー 侵 害 を 肯 定 しつ つ,エ. ック ス線 に よ る射 影 に よ り内容 物 が 具 体 的 に どの よ うな もの で あ る. か を 特 定 す る こ とが で き るわ けで はな く,荷 物 を 開 披 し内容 を 見 分 す る場 合 に比 べ て 「極 め て軽 度 」 で あ り,「 格 段 の 差 」 が あ る もの と して,強 制 処 分 性 を否 定 した ㈲。 この 見 解 は,対 象 者 の 権 利 ・利 益 侵 害 に着 目す る点 で,近 時 の 学 説 ・判 例 の 傾 向 に沿 う もの で あ るが,具 体 的 結 論 を 導 く衡 量 に お いて 問 題 を 残 す もの で あ る。 す な わ ち,私 人 は,荷 物 を 物 流 に置 くに 際 し,外 部 か ら見 え な い よ う に梱 包 し,第 三 者 の 視 点 か ら 内容 物 の 形 状 ・ 性 質 等 の み な らず,そ の 存 否 につ いて も知 られ な い こ と につ いて,高 度 の 利 益 を 有 す る もの と い うべ きで あ る⑳。 確 か に,外 包 の荷 送 人 ・荷 受 人 欄 等 に記 載 され た情 報 も,そ れ 自体 一一 定 の プ ラ イバ シー 権 に よ って 保 護 され る べ き もの で あ るが,そ れ は,ま さ に本 判 決 が 表 現 す る とお り,捜 査 機 関 を 含 む 第 三 者 か ら聞 知 され た と して も,そ の 侵 害 の 「程 度 は極 めて 軽 度 の も の に と ど ま る」 と いえ よ う。 しか し,エ ック ス線 等 の 技 術 を 用 いて 外 部 か ら内容 物 の 形 状 等 が 見 分 され る と い う場 合,右 侵 害 に比 べ て お よそ 「格 段 の 差 が あ る」⑳。 そ れ ゆ え,外 部 か らみ だ りに 内部 を 窺 い知 られ る こ とが な い と い う意 味 で,対 象 者 に お いて 法 的 に保 護 され るべ き利 益 に対 す る侵 害 と して 処 分 性 が 肯 定 され,そ の 処 分 受 忍 に対 す る意 思 決 定 の 機 会 が 与 え ら れ て いな い以 上,本 件 措 置 は,強 制 処 分 で あ る と いわ ざ るを 得 な い。 な お,本 件 に お いて,宅 配 業 者 が 捜 査 機 関 の 求 め に応 じて 対 象 物 の 検 査 に協 力 して い るが,宅 配 業 者 は,中 身 に関 して 荷 送 人 ・荷 受 人 との 関 係 で 第 三 者 に処 分 権 限 を 認 め る こ と はで きな い。 それ ゆえ,宅 配 業 者 の 同意 ・. ⑳. 判 例 タイ ムズ1250号 の 匿 名 コ メ ン ト。. G① 豊 崎 七 絵 「最 新 判 例 演 習 室 」 法 セ ミ637号118頁(2008年)。 ⑳. 外 包 を開 封 す る こ と な く,内 視 鏡 等 を用 い て 内部 を詳 細 に確 認 す る行 為 は, な お の こ と処 分 性 が 容 易 に肯 定 され る。. 17.
(18) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. 承 諾 は,右 結 論 に影 響 を 与 え な い。. (3)領. 置. 領 置(刑 訴 法221条)は,遺. 留 物 又 は任 意 提 出物 につ いて 捜 査 機 関 が い っ. たん 占有 を 取 得 した後,差 押 と 同様 の 効 果(占 有 の 強 制 的 継 続)が 生 じる こ とか ら,押 収 の一一 種 と して,強 制 処 分 で あ る とさ れ て い る㈱。 正 確 に は, 捜 査 機 関 が 占有 を 取 得 す る段 階 に お いて は,占 有 を 離 れ た遺 留 物 につ いて は法 的 に保 護 され るべ き権 利 ・利 益 が 存 在 しな い こ とか ら処 分 性 が 否 定 さ れ る た め,又 は,所 持 者 等 が 任 意 に提 出す る場 合 に は 占有 喪 失 に対 す る強 制 性 が 否 定 され る た め,非 強 制 処 分 で あ り,そ の 後 に 占有 返 還 が 否 定 され る と い う意 味 で 強 制 処 分 に転 じる と い う,複 合 的 性 質 を 持 つ もの と解 す べ きで あ る。 憲 法 上 の 令 状 主 義 が 及 ばな い こ と は,占 有 取 得 の 段 階 で 強 制 処 分 性 が 否 定 され る こ と に よ る。 この よ う に解 す る と,領 置 に際 し,特 に,捜 査 機 関 が 占有 を 取 得 す る段 階 が,法 的 規 律 如 何 と い う観 点 か ら重 要 とな る。 まず,任 意 提 出物 につ い て は,対 象 者 に お いて,処 分 受 忍 の 意 思 決 定 自 由が 保 障 され,占 有 放 棄 に 対 す る真 摯 な 同 意 承 諾 が あ る限 り,強 制 処 分 性 が 否 定 され る こ と に つ い て,特 段 の 問 題 は生 じな い。 ま た,提 出の 主 体 は,所 有 者 だ けで な く,所 持 者 及 び保 管 者 も含 まれ て い る た め,提 出者 の 占有 が 適 法 で あ る以 上,そ の 処 分 権 限 の 有 無 も問 わ れ な い。 例 え ば,東 京 地 判 平 成4年7月9日. 判時. 1464号160頁 に よ る と,市 民 か ら届 け 出 られ た 遺 失 物 を 保 管 す る警 察 署 の 署 長 は,保 管 者 と して,当 該 物 品 を 捜 査 機 関 に提 出す る権 限 を 有 す る。 他 方,遺 留 物 に関 して は,そ の 権 利 者 の 占有 喪 失 につ いて の 意 思 は問 わ れ ず,捜 査 機 関 は,直 ち に 占有 を 取 得 す る こ とが で き る。 つ ま り,任 意 提. 働. 鈴 木 茂 嗣 『刑 事 訴 訟 法(改 訂 版)」90頁(1990年. 18. ・青 林 書 院)。.
(19) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(2). 出物 と異 な り,遺 留 物 につ いて は,捜 査 機 関 が 占有 を 取 得 す る場 面 で,捜 査 機 関 に支 配 権 が 設 定 され る こ と につ いて,所 有 権 者 等 にお いて 法 的 に保 護 され るべ き利 益(処 分 性)が 否 定 され る こ とが 条 件 とな る。 この 遺 留 物 類 型 につ いて,近 時,対 象 者 が 家 庭 ゴ ミと して 公 道 上 に排 出 した 物 品 を 捜 査 機 関 が(無 承 諾 で)持. ち帰 り領 置 す る と い う事 例 が 問 題 とな って い る。. この 問 題 につ いて,管 見 す る限 り,我 が 国 の 裁 判 例 で 最 初 に明 示 で 判 断 したの は,東 京 高 判 平 成8年5月9日 判 決 」 で あ る。 この 裁 判 例 で は,主. 高 刑 集49巻2号181頁 と して,DNA型. 「足 利 事 件 高 裁. 鑑 定 の証 拠 能 力 が 問. 題 とな っ たが,そ の 前 提 と して,鑑 定 資 料 を 採 取 す るべ く,被 疑 者 が 公 道 上 に排 出 した家 庭 ゴ ミを 捜 査 機 関 が 持 ち帰 って 領 置 した 行 為 の 適 法 性 が 問 わ れ た。 東 京 高 裁 は,「 警 察 官 が 特 定 の 重 要 犯 罪 の捜 査 と い う 明確 な 目的 を も って,被 告 人 が 任 意 に ごみ 集 積 所 に投 棄 した ごみ 袋 を,裁 判 官 の 発 す る令 状 な しで 押 収 し,捜 査 の 資 料 に 供 した行 為 に は,何. ら違 法 の 廉 は な. い」 との み 判 示 す る に と ど ま るが,結 論 か ら推 し量 る に,当 該 物 品 につ い て 捜 査 機 関 の 占有 取 得 に対 し被 疑 者 に法 的 に保 護 され るべ き利 益 はな く, 遺 留 物 該 当 性 が肯 定 さ れ た もの と思 わ れ る。 ま た,前 掲 最 決 平 成20年 で も,同. じ く,被 疑 者 が 公 道 上 に排 出 した家 庭 ゴ ミが や は り遺 留 物 と して 領. 置 され た事 件 につ いて,「被 告 人 及 び そ の妻 は,こ れ らを 入 れ た ごみ 袋 を 不 要 物 と して 公 道 上 の ごみ 集 積 所 に排 出 し,そ の 占有 を 放 棄 して いた もの で あ って,排. 出 され た ごみ につ いて は,通 常,そ の ま ま収 集 され て 他 人 にそ. の 内容 が 見 られ る こ と はな い と い う期 待 が あ る と して も,捜 査 の 必 要 が あ る場 合 に は,刑 訴 法221条 に よ り,こ れ を 遺 留 物 と して 領 置 す る こ とが で き る」 と判 示 し,や は り遺 留 物 該 当性 を 肯 定 して い る。 本 最 高 裁 決 定 は,東 京 高 判 平 成8年. よ り一歩 踏 み 込 ん で,対 象 者 の プ ラ イバ シー に配 慮 を 見 せ. て い るが,必 ず しも それ を 法 的 に保 護 され るべ き権 利 で あ る と した わ けで はな く,家 庭 ゴ ミと して 任 意 に排 出 され た もの に は も はや 法 的 保 護 は及 ば 19.
(20) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. な い とす るの か,或. い は,捜 査 の 必 要 性 との 関 係 で 保 護 が 劣 位 に おか れ る. と理 解 す るの か は,依 然 と して 問 題 が 残 され て い る欝。 学 説 上,そ. も そ も領 置 の 問 題 が 議 論 され る こ と は ほ とん どな か っ たが,. 近 時,緑 大 輔 が,ア. メ リカ合 衆 国 の 議 論 を 分 析 し,ま た最 決 平 成20年 決 定. の 評 釈 に お い て最 高 裁 の 論 理 に対 し一一 定 の 批 判 を加 え て い る剛。 緑 の 分 析 に よ る と,ア メ リカ合 衆 国 に お け る公 道 上 に廃 棄 され た ゴ ミに対 す る プ ラ イバ シ ーの 保 護(合 衆 国 憲 法 修 正 第4条 期 待 」 の 存 在)は,1988年 wood,486U.S.35(1988))に. に お け る 「プ ラ イバ シ ーの 合 理 的. の グ リー ン ・ウ ッ ド判 決(Californiav.Greenお いて 合 衆 国 最 高 裁 に よ る見 解 が示 され て. お り,そ の 法 廷 意 見 は,公 道 上 に排 出 され た ゴ ミは第 三 者 の ア クセ ス可 能 性 ゆえ に プ ラ イバ シ ーの 合 理 的 期 待 は認 め られ な い と した。 これ に対 し, 少 数 意 見 は,ゴ. ミが 排 出 され る態 様(封 絨 され か つ 不 透 明 な 袋 に入 れ た,. つ ま り中身 が 見 え な い状 態)に 着 目 し,法 廷 意 見 に反 対 の 結 論 を 示 して い る。 この 見 解 の 対 立 は,我 が 国 に お け る議 論 に も影 響 を 与 え るべ き もの で あ るが,右 少 数 意 見 に準 じて,「私 秘 性 が 高 いか らこ そ秘 密 の ま ま に廃 棄 し た い個 人 情 報(保 護 す る必 要 性 が 高 い プ ライ バ シー)」 の 要 保 護 性 か ら, 封 絨 され た ま ま指 定 の 集 積 所 に排 出 され た家 庭 ゴ ミにつ いて,「遺 留 物 」と な る範 囲 を 制 限 し,押 収 の た め に令 状 を 求 め るべ き必 要 性 を 説 く見 解 が 主 張 され て い る絢。 この 問 題 の 検 討 に あ た り,近 時 の 自治 体 に よ る ゴ ミに対 す る取 組 み が 参 考 に な る。 ゴ ミの 財 産 権 的 側 面 に お い て,資 源 ゴ ミは な お の こ と鮒,一 般. ⑬ ㈲. 判 例 時 報2006号 の 匿 名 コ メ ン ト。 緑 大 輔 「刑 事 手 続 に お け る遺 留 物 の領 置 物」. 」 修 道27巻2号317頁(2005年),同(前. 合 衆 国 に お け る 『放 棄 され た 財 掲 注 ⑮)「 判 例 解 説 」213頁 。. ㈲. 山 口直 也 「最 新 重 要 判 例 解 説 」 受 新2008年8月. ㈹. 例 え ば,世 田谷 区 清 掃 ・リサ イ ク ル条 例 違 反 事 件(最 刊 物 未 搭 載)。. 20. 号33頁(2008年)も. 同 旨。. 決平 成20年7月23日. 公.
(21) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(2). 家 庭 ゴ ミにつ いて も,条 例 に よ り財 産 権 の 所 在 を 明 確 に し,所 定 の 排 出場 所 か ら勝 手 に持 ち 出す 行 為 を窃 盗 罪 と して摘 発 す る と い う 自治 体Gのが 見 ら れ る。 この こ とか ら,た とえ 捜 査 機 関 と いえ ど も,所 定 の 集 積 所 か ら勝 手 に持 ち帰 る行 為 は一般 的 に違 法 と いわ ざ るを 得 ず,そ れ を 行 うた め に は, 特 別 の法 定 根 拠 及 び 令 状 に よ る違 法 性 の解 除 が 必 要 で あ る と思 わ れ る㈱。 ま た,プ ラ イバ シ ー権 の 側 面 か ら見 て も,自 己の 情 報 を コ ン トロー ル す る 権 利 と い う観 点 か ら,自 己の 手 を 離 れ た 自 己情 報 につ いて も,そ れ が 自治 体 所 定 の 集 積 所 に,外 部 か らは容 易 に覗 き見 られ る こ との な い態 様 で 排 出 され て い る限 りで,法 的 に保 護 され るべ き権 利 ・利 益 が 認 め られ る。 これ に よ って 処 分 性 が 肯 定 され,ま. た,当 該 処 分 の 受 忍 に向 けた 意 思 決 定 の 機. 会 が 保 障 され て いな い た め,強 制 性 も肯 定 され る と い うべ きで あ る。. (4)強 制 採 尿 対 象 者 に覚 せ い剤 等 禁 止 薬 物 の 自己 使 用 罪 が 疑 わ れ る と き,捜 査 実 務 上,対 象 者 の 体 液(尿)を. 採 取 し,薬 物 成 分 の 検 出を 目的 と した 鑑 定 が 行. わ れ る。 その 際,対 象 者 が 任 意 に尿 を 提 出す る限 りで,刑 訴 法 上 特 段 の 問 題 は生 じな い。 しか し,対 象 者 が 尿 の 提 出を 拒 否 す る と き,こ れ を 強 制 的 に行 う こ とが で き るか 。 この よ うな 強 制 採 尿 手 続 は,通 例,対 象 者 を 拘 束 し(直 接 強 制),医 師 等 の 手 に よ って 医 療 器 具 カ テー テル を 尿 道 に挿 入 す る と い う方 法 で 実 施 され る。 これ が 強 制 処 分 に 当 た る こ と は,お よそ 否 定 で き な い。 そ の よ うな 処 分 が,そ. ⑳. もそ も憲 法 上 許 容 さ れ るか は 問 題 で あ る. 例 え ば,横 浜 市 は,「横 浜 市 廃 棄 物 等 の 減 量 化,資 源 化 及 び適 正 処 理 等 に関 す る条 例 」25条 の4で 排 出 ゴ ミにつ い て の所 有 権 が市 に 帰 属 す る こ とを 明 示 し, 指 定 業 者 以 外 の 持 ち去 りにつ い て窃 盗 罪 を理 由 に告 訴 す る とい う取 組 を 行 って い る。. ㈱. 香 城 敏 麿 「刑 事 訴 訟 法 の構 造 」167頁(2005年. ・信 山 社。 初 出 「強 制 処 分 の 意. 義 と任 意 処 分 の 限 界 に関 す る最 高 裁 判 例 」 最 判 解 刑 事 篇 昭 和51年 度)。. 21.
(22) 近畿大学法学. が,仮. 第57巻 第1号. に許 容 され る と して も,こ の よ うな 強 制 採 尿 手 続 を 明 示 で 許 容 す る. 法 規 定 は存 在 しな い た め,刑 訴 法 上 の 法 的 規 律 如 何 とい う 問 題 が 残 され る。 か か る強 制 採 尿 につ いて,か つ て,検 証(身 体 検 査)説,鑑 地 判 昭 和54年11月22日 判 時965号135頁),検 和54年2月21日. 判 時939号132頁)の. 証 ・鑑 定 併 用 説(東. 定 説(大 阪 京高判 昭. 対 立 が 見 られ た。 これ に対 し,最 高 裁. (最 決 昭和55年10月23日 刑 集34巻5号300頁)は,強. 制 採 尿 を 捜 索 ・差 押 と. す る見 解 を 示 した。 但 し,最 高 裁 は,強 制 採 尿 が そ も そ も憲 法 上 され る た め に は,対 象 者 に お け る精 神 的 ・肉体 的 損 傷 を 抑 え るべ く,医 師 等 の 医 学 的 に習 熟 した技 能 者 に よ り適 切 に実 施 され る こ とが 必 要 で あ る との 前 提 か ら,強 制 採 尿 は 「一般 の 捜 索 ・差 押 と異 な り,検 証 の 方 法 と して の 身 体 検 査 と共 通 の 性 質 を有 して い る の で,身 体 検 査 令 状 に 関 す る刑 訴 法218条5 項 が 右 捜 索 差 押 令 状 に準 用 され るべ きで あ って,令 状 の 記 載 要 件 と して, 強 制 採 尿 は医 師 を して 医 学 的 に相 当 と認 め られ る方 法 に よ り行 わ せ な けれ ばな らな い 旨の 条 件 の 記 載 が 不 可 欠 で あ る」 と して,通 常 の 捜 索 ・差 押 と は異 な る,条 件 付 の 処 分 と して 認 め る に至 っ た。 以 後,実 務 は,強 制 採 尿 を捜 索 ・差 押 と解 しつ つ,医 師 等 の 手 を 介 して 行 う こ と と い う条 件 付 で 令 状(い わ ゆ る 「強 制 採 尿 令 状 」)を 発 付 す る とい う形 で運 用 され て い る。 強 制 採 尿 処 分 につ いて,そ の 許 容 性 は,憲 法 レベ ル に お け る人 権 制 限 の 許 容 性(必 要 性,相 当 性)の 観 点 か ら大 き な 問題 点 で あ る が紛,本 稿 の テ ー マ に関 して は,ひ と まず 合 憲 性 の 点 は お き,強 制 処 分 と して 刑 訴 法 上 如 何 に規 律 され るべ きか が 重 要 で あ る。 まず,従 来,検 証 説,鑑 定 説,両 併 用 説 につ いて は,次 の よ うな 批 判 が 向 け られ て き た。 す な わ ち,検 証 説 に対. ㈹. 多 くの 先 行 研 究 が あ る が,代 表 的 な もの と して,井 上 正 仁 『強 制 捜 査 と任 意 捜 査 』44頁 以 下(2006年. ・有 斐 閣 。 「刑 事 手 続 にお け る体 液 の 強 制 採 取 」法 学 協. 会 編 「法 学 協 会 百 周 年 記 念 論 文 集 第2巻 』(1983年 ・有 斐 閣))。. 22.
(23) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(2). して は,検 証 と して の 身 体 検 査 は,そ の 性 質 上,身 体 の 外 表 又 はせ いぜ い 肛 門 等 の 体 腔 を 外 部 か ら検 査 す る こ と に限 定 され る こ と,鑑 定 説 に対 して は,裁 判 所 の 処 分 と異 な り,捜 査 と して 行 わ れ る場 合 に は,直 接 強 制 の 規 定(刑 訴 法172条,139条)が. 準 用 され な い こ と,両 併 用 説 に対 して は,検. 証(身 体 検 査)の 効 力 で 直 接 強 制 が 可 能 で あ る と して も,そ れ は鑑 定 と し て 実 施 す る体 液 採 取 の 段 階 に は及 ばず,直 接 強 制 で き る こ と に はな らな い こ とが,そ れ ぞ れ 批 判 と して 妥 当 し,い ず れ の 見 解 も十 分 で はな い と考 え られ て い た。 最 高 裁 も,議 論 を 踏 まえ て 各 々 に弱 点 を 認 めた こ とか ら,そ れ な らば と,(条 件 付)捜 索 ・ 差 押 とす る見 解 を考 案 した わ け で あ る。 ま た, 捜 索 ・差 押 説 の よ り積 極 的 な 理 由 と して は,尿 は体 液 と い って も,い ず れ 対 外 に排 泄 され る全 く価 値 の な い存 在 で あ り,そ の 意 味 で,体. 中 に嚥 下 さ. れ た異 物 と基 本 的 に異 な らな い こ とが 挙 げ られ る㈲。 これ に よ り,従 来 の 見 解 の 弱 点 が 克 服 され ただ けで な く,医 師 等 の 手 に よ る こ と と い う条 件 が 付 され る こ とで,一 一 定 程 度,対 象 者 の 権 利 ・利 益 へ の 配 慮 もな され る こ と とな っ た。 も っ と も,こ の よ うな 条 件 付 の 捜 索 ・差 押 と い う考 え 方 に対 して,学 説 上 批 判 が 強 い。 そ もそ も,体 内 に あ る尿 が 財 産 的 に無 価 値 で あ るか らと い って,そ の 要 保 護 性 にお いて 体 外 に排 泄 さ れ る前 の 段 階 で これ を 身 体 と区 別 で き るか は問 題 で あ る。 しか し,そ れ 以 上 に決 定 的 で あ るの は,最 高 裁 の 見 解 は,新 たな 強 制 処 分 を 創 設 した もの で あ る,つ ま り強 制 処 分 法 定 主 義 に違 反 す る と い う も の で あ る。 す な わ ち,一 一 見 す る と,条 件 付 捜 索 ・差 押 説 は,条 件 付 と い う名 が 示 す とお り, 捜 索 ・差 押 の 範 囲 を 限 定 す る,つ ま りそ も そ も立 法 者 に よ り許 容 され た 範 囲 を さ らに限 定 す る もの で あ るか ら,強 制 処 分 法 定 主 義 に反 しな い よ う に も思 え る。 しか し,強 制 採 尿 が そ も そ も憲 法 上 許 容 され るた め に は,医 師. ω. 稲 田輝 明 ・最 判 解 刑 事 篇 昭 和55年 度166,177頁. 23. 。.
(24) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. 等 の 技 術 者 に よ って 実 施 され な けれ ばな らな い。 他 方,捜 索 ・差 押 の 主 体 は,法 が 示 す と お り,捜 査 機 関 自身 で あ り,あ くまで 捜 査 機 関 が 自身 の 手 で 行 い う る処 分 を 許 容 す る もの で あ る。 捜 査 機 関 自身 が な しえ な い行 為 を 外 部 の 専 門 家 の 手 に よ って 行 う処 分 は捜 索 ・差 押 の 概 念 に は含 まれ て いな いの で あ るか ら,条 件 付 捜 索 ・差 押 説 は,条 件 を 付 す る こ とで む しろ,法 が 許 容 す る範 囲 を(立 法 者 が 想 定 す る以 上 に)拡 大 して しま っ た こ と にな るの で あ る。 で は,強 制 採 尿 を 他 の 強 制 処 分 に関 す る根 拠 規 定 に解 釈 と して 読 み 込 む こ と はで きな いか 。 例 え ば,鈴 木 茂 嗣 は,強 制 採 尿 処 分 を ① 採 尿 場 所 へ の 連 行,② 強 制 採 尿,③ 採 取 され た尿 の 占有 取 得,④ 尿 の 分 析 検 査 と段 階 付 け,特 に証 拠 収 集 の 観 点 で 問 題 とな る② 及 び③ の 段 階 につ いて,③ 差 押 が 目的 で あ って,②. は その 手 段 で あ る と し,② は その 性 質 上 鑑 定 処 分 で あ る. と して も,本 来 の 目的 で あ る③ 差 押 の 効 力 と して ② の 段 階 に お いて も直 接 強 制 は可 能 で あ る と主 張 す るω。 や は り,技 術 者 等 の 専 門 家 の手 に委 ね る 処 分 は鑑 定 と いわ ざ るを 得 ず,採 尿 手 続 その もの を 鑑 定 と位 置 づ け る点 は 妥 当で あ る。 しか し,鈴 木 説 に対 して は,同 説 が 両 処 分 の 併 用 と考 え たの は,差 押 だ けで は体 内か ら尿 を 分 離 す る こ とが で きな い と考 え たか らで あ る はず で,そ の よ うな 処 分 の 効 力 を 持 って 鑑 定 の 側 面 で 直 接 強 制 で き る と す るの は矛 盾 で あ る,と の批 判 が 向 け られ る⑰。 こ れ に対 し,井 上 正 仁 は, 立 法 理 由の 分 析 か ら,専 門 家 を 実 施 者 とす る限 り,身 体 検 査 を 検 証 と して 行 う場 合 と鑑 定 と して 行 う場 合 で 実 質 的 な 差 異 はな く,法 形 式 的 に も検 証 と して の 身 体 検 査 令 状 の 下 に 鑑 定 受 託 者 を補 助 者 と して 実 施 す る こ とで (こ の場 合,鑑 定 処 分 と検 証 と して の身 体 検 査 の併 用 とな る),検 証 の 効 力. qD鈴. 木 茂 嗣 『刑 事 訴 訟 法 の 基 本 問 題 』89頁(1988年. 『刑 事 訴 訟 法 」92頁 。 幽. 井 上(前 掲 注eg)『 強 制 捜 査 と任 意 捜 査 」91頁 。. 24. ・成 文 堂),同(前. 掲 注G⑳.
(25) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(2). に よ って 直 接 強 制 が 可 能 で あ る と主 張 す る⑬。 しか し,井 上 説 に対 して は, や は り,法 は,裁 判 所 が 実 施 す る鑑 定 処 分 に は直 接 強 制 の 規 定 準 用 を 認 め つ つ,捜 査 段 階 で の 鑑 定 処 分 で は は っ き りと これ を 除 外 す る よ うな 形 式 で 規 定 して い る点 を 看 過 して い る と いわ ざ るを 得 な い。 す な わ ち,専 門 家 の 手 に よ って 実 施 され るべ き処 分 は,法 は これ を 鑑 定 処 分 と し,裁 判 所 が 実 施 す る処 分 は あ くまで 鑑 定 処 分 で あ って,こ れ を 裁 判 所 に よ る身 体 検 査 を 鑑 定 人 を 補 助 者 と して 実 施 す る もの と は考 え る者 は いな いだ ろ う。 この 理 は,捜 査 段 階 で も 同様 で あ り,井 上 説 は,か つ て の 併 用 説 に対 す る批 判 を 克 服 して いな い と いわ ざ るを 得 な い。 こ こで 強 制 処 分 法 定 主 義 の 原 点 に帰 る と,そ の 趣 旨 は,単 に根 拠 規 定 を 与 え る と い うだ けで な く,法 定 され た 通 りの 手 続 に よ って 実 践 され るべ き と い う点 に も あ り,そ れ に よ って 初 め て,具 体 的 場 面 に お け る処 分 の 必 要 性 と対 象 者 の 人 権 保 障 とが 適 切 に調 整 され る の で あ る幽。 鑑 定 につ い て,直 接 強 制 の 有 無 につ い て,裁 判 所 に よ る手 続 と,捜 査 機 関 に よ る手 続 とで 差 異 が 設 け られ て い るの は,こ の よ う な 観 点 か らは意 味 の あ る こ とで あ り,解 釈 と して これ を 歪 め る こ と は許 さ れ な い。 以 上 の 検 討 か ら,私 見 は,捜 査 機 関 が 実 施 す る強 制 採 尿 は,い ず れ に し て も,現 行 法 上,少 な くと も直 接 強 制 の 実 施 規 定 を 欠 き,せ いぜ い,間 接 強 制 の 下 で,一 一 定 程 度 対 象 者 の 協 力 を 得 て 行 わ れ るべ き もの と考 え る(な お,強 制 採 尿 令 状 を あ らか じめ得 て お き,尿 を 提 出 しな い と直 接 強 制 的 に 実 施 す る と威 嚇 して 尿 を提 出 させ る と い った 方 法 は,間 接 的 強 制 で あ る が,法 が 本 来 予 定 しな い 手 段 に基 づ くもの で あ るか ら,許 さ れ な い)。 そ れ ゆ え,法 形 式 的 分 類 と して は,鈴 木 説 又 は井 上 説 も妥 当 で あ る が,そ れ に よ って も検 査 を 拒 否 す る対 象 者 を 押 さえ つ け,無 理 や り衣 服 を 脱 が せ て ⑬. 井 上(前 掲 注eg)『 強 制 捜 査 と任 意 捜 査 』95頁 。. 幽. 二1④ 参 照 。. 25.
(26) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. 危 惧 を体 内 に挿 入 す る と い っ た態 様 の 処 分 はな しえ な い。 ま た,こ の よ う な 私 見 か らは,最 高 裁 に よ る 「強 制 採 尿 令 状 」 は,医 師 の 手 に よ る こ とを 条 件 と し,そ れ に よ って 他 の 場 所 か ら対 象 者 を 連 行 す る効 力 まで 内在 して い る とい う判 例 の見 解(最 決 平 成6年9月16日 して,そ. 刑 集48巻6号420頁)に. 対. も そ も直 接 強 制 の 許 され な い強 制 採 尿 の 場 面 で は,強 制 採 尿 処 分. その もの に他 の 場 所 か ら直 接 強 制 的 に連 行 す る と い う効 力 は認 め られ ず, せ いぜ い,逮 捕 令 状 を 併 用 した上 で 実 施 す べ きで あ る,と の 批 判 が 向 け ら れ る。. (5)収 集 後 の 強 制 処 分 性:DNAデ. ー タベ ー ス の運 用. 捜 査 に際 して,証 拠 の 収 集 段 階 だ けで な く,保 全 ・使 用 の 段 階 で も,捜 査 機 関 に よ る一一 定 の 措 置 が 対 象 者 の 権 利 ・利 益 に対 す る侵 害 とな る場 合 が あ りう る。 警 察 庁 は,2004年12月 ム」 を導 入 し,2005年9月. か ら 「遺 留 資 料DNA型. か ら 「被 疑 者 に係 るDNA型. 情報検索 システ デ ー タベ ー ス」 の. 運 用 を開 始 して い る。 この よ うな 形 で 個 人 識 別 と い う意 味 で は究 極 の もの と い って よ い 個 人 的 情 報 が捜 査 機 関 に よ り保 管 ・利 用 され る 措 置 に つ い て,現 在 の と ころ,国 家 公 安 委 員 会 規 則 で あ る 「DNA型. 取扱 規則」 によ. り規 律 され る に と ど ま る。 この よ うな 法 状 況 は,お そ ら く,刑 事 訴 訟 法 に お け る捜 査 活 動 は,お よ そ証 拠 収 集 の 場 面 で の み 私 人 の 権 利 ・利 益 へ の 侵 害 を 伴 う もの で あ って, い っ たん 収 集 され た証 拠 に関 して は,新 たな 侵 害 を 生 じさせ る もの で はな い,と の 理 解 に基 づ いて る よ う に思 わ れ る。 しか し,す で に写 真 ・ビデオ 撮 影 の 箇 所 で 述 べ た と お り,プ ラ イバ シ ー権 は,単 に覗 き見 られ る こ とが な い と い う消 極 的 な 側 面 だ けで な く,自 己情 報 を 自 らコ ン トロ ール す る と い う積 極 的 な 側 面 も有 す る もの で あ る こ とを 考 え る と,い っ たん 収 集 され た証 拠 の 帰 趨 に関 して も,少 な くと も一一 定 程 度 に お いて 情 報 主 体 自身 の 決 26.
(27) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(2). 定 権 が保 護 され な けれ ば な らな い㈲。 証 拠 保 全 ・利 用 の仕 方 に よ って は, 収 集 場 面 と は量 及 び質 に お いて 異 な っ た権 利 ・利 益 侵 害 が 生 じる こ と も, 認 め られ な けれ ばな らな い。 この よ うな 問 題 意 識 か ら右DNAデ. ー タベ ー スの 運 用 を み る と,や は り. 具 体 的 な法 規 定 が 刑 訴 法 に定 め られ な い 限 り,DNA型. データベースの運. 用 は,強 制 処 分 法 定 主 義 に反 す る よ う に思 わ れ る。 例 え ば,徳 永 光 に よ る と,現 行 刑 訴 法 に お け る鑑 定 処 分 に 関 す る規 定(223条,165条,168条) は個 別 事 件 に お いて の み 許 容 す る もの で あ って,当 該 事 件 と関 連 の な い事 件 の 捜 査 の た め に用 い る こ と はで きな い,同 影 等 の 情 報 取 得 規 定(218条2項)も,そ. じ く,逮 捕 に際 して の 写 真 撮. も そ も 同規 定 が 体 液 等 のDNAサ. ン プル の 収 集 を 許 す もの で あ るか 疑 問 で あ るだ けで な く,仮 にサ ン プル 採 取 が 許 され る と して も,そ の 資 料 はや は り当該 事 件 に限 定 され る。 また, これ まで も,指 紋 デ ー タベ ー スが 運 用(指 紋 等 取 扱 規 則=国 家 公 安 委 員 会 規 則)さ れ て き た こ とか ら,DNAデ. ー タベ ー ス も 同様 に解 す る こ とが で き. るか と い う問 題 につ いて も,そ も そ も指 紋 デ ー タベ ー スを 立 法 な く運 用 す る こ と の 問題1生が 解 決 され て い るわ けで は な く,ま た,DNA情. 報 は個人. 識 別 にの み 資 す る指 紋 情 報 と は異 な り,そ の 情 報 量 の 豊 富 さ(遺 伝 関係 等) を 考 え る と,お よ そ 同視 で き る もの で は な い㈹。 ま た,DNA型. 取扱規則 に. 関 して も,例 え ば,記 録 抹 消 事 由 と して は,本 人 の 死 亡 及 び保 管 の 必 要 性 が な くな っ た と きの み 定 め られ るの み で あ り,無 罪 が 確 定 した 場 合 が 除 外 され て い る こ と(い っ たん 採 取 され た記 録 は,有 罪 者 に限 らず 生 涯 保 管 ・. ㈹. 佐 藤(前 掲 注 ⑬)『 憲 法 」453頁 に よ る と,プ ラ イ バ シー権 は,静 誼 の プ ライ バ シー だ けで な く,自 己情 報 を コ ン トロ ー ル す る権 利 を 含 み,① 取 得 収 集,② 保 有,③ 利 用 ・伝 播 の各 段 階 で 問題 と な る(「 デ ー タ ・バ ン ク社 会 」 の 問 題 点)。. ㈹. 徳 永 光 「立 法 を伴 わ な い犯 罪 捜 査 の た め のDNAデ 号115,126頁(2005年)。. 27. ー タ ベ ー ス」甲 南46巻3.
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