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天文学をサポートする情報新技術:2.観測を支える新技術:1.補償光学

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Academic year: 2021

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(1)                                  2. 観測を支える新技術 1. 補償光学 2. 観測を支える新技術. 1. 補償光学 早野 裕 国立天文台 ハワイ観測所 [email protected]. 補償光学装置(AO,Adaptive Optics)は,観測天体と地上望遠鏡の間にある大気ゆらぎの影響をリアルタイム. で補正して,望遠鏡の理論的な角度分解能,すなわち回折限界角度分解能を達成する装置である.ここでは,約半世 紀前にはじめてアイディアが発表された天体観測用補償光学装置の原理と現在に至るまでの歴史,そして補償光学に. 使われる主要なコンポーネントや要素技術について簡単に解説する.それから,すばる望遠鏡に搭載されている現存 の補償光学装置と現在開発中のレーザガイド星補償光学装置の概要を述べる.また,今後補償光学技術がどのような 方向に発展していくかという点について,最近のトレンドを紹介する.. ■大気ゆらぎの影響によるぼやけた星像■. た波面が平面波とみなせる長さである.シーイングΘと.  地上望遠鏡は地球大気を通して天体を見る.地球大気. 波長依存性は r0 ∝λ. は暖められた地表によって対流運動をしたり,地球の自. なる.マウナケア山頂の Fried 長は波長 500nm の可視光. 転運動や緯度ごとの日射量の違いによって地球規模的な. で17cm程度,波長2.2μmの近赤外線では約90cmとなる.. 循 環 運 動をしたりする.それらの 運動によって大 気の. 次に isoplanatic 角θ 0 について説明する.ある星とその. 温度ゆらぎ(大気ゆらぎ)が生じる.この大気ゆらぎは. すぐ 近くにある 星から 来る 2 つの 波 面は, 通 過する 大. 光には屈折率ゆらぎとして影響する.大気ゆらぎは地表. 気ゆらぎがほとんど 同 一とみなすことができるためほ. から高度 15km あたりまで存在する.地上望遠鏡で星か. ぼ 一致する.この条件を満たす範囲を isoplanatic 角と. らの光を集めたとき,屈折率の異なる場所を通過するた. 呼ぶ.isoplanatic 角の波長依存性はθ 0 ∝λ. め,平面波から乱れた同位相面(波面)になる.その結果,. 長い波長ほど角度が大きい.マウナケアでの典型的な. 地上望遠鏡で得られる星像はぼやけてしまう.. Isoplanatic 角は波長 2.2 μ m で 20 秒角程度である.した.  望遠鏡の持つ理論的な角度分解能すなわち回折限界角. がって 1 つの星を使って補償光学を働かせると,半径約. 度分解能は,観測する光の波長λと望遠鏡の鏡の直径 D. 20 秒角の視野範囲で星像が同程度に鮮明になる.. との比λ /D で表される.望遠鏡の直径,すなわち口径 を大きくすると回折限界角度分解能は向上する.しか し,実際は大気ゆらぎの影響のため角度分解能はあると. r0 とは, Θ ∼ λ /r0 という 関 係がある. また Fried 長の 1.2. と表され,長い波長ほど大きく. 1.2. と表され,. ■ 補償光学の原理と歴史 ■. ころでリミットされ,これをシーイングと呼ぶ.日本に.  大気ゆらぎの影響を除去し,地上望遠鏡の回折限界角. おける典型的なシーイングは波長 500nm(可視光,緑). 度分解能を達成しようというのが補償光学である.1953. で 1 ∼ 3 秒角程度である.1 秒角は 4.8 μ rad である.口. 年にこの概念が発表された .補償光学は,大気ゆらぎ. 径 8m のすばる望遠鏡のあるハワイ島マウナケア山頂で. によって乱された星からの光波面を波面センサで測定. は平均的なシーイングは波長 500nm で約 0.6 秒角である.. し,大気ゆらぎの変動が十分無視できる間に,望遠鏡と. 高度 4,200m の孤立峰という好条件ではあるが,回折限. 観測装置の間に置かれた波面補正鏡(可変形鏡)を変形. 界角度分解能である 0.013 秒角よりも 10 倍以上悪い.. させて,乱れた光波面を平面波に戻すという働きをする..   大 気ゆらぎの 特徴を示すための 重要な物理量として. 図 -1 に示したように通常フィードバック制御方式がと. Fried 長 r0 と isoplanatic 角θ 0 を説明する.. られている.波面を測定するための星をガイド星と呼ぶ..  まず,Fried 長 r0 とは,その範囲内では地上に到達し. 補償光学装置がアメリカ軍の人工衛星監視システムと. 1). IPSJ Magazine Vol.45 No.12 Dec. 2004 ※タイトル写真は国立天文台提供. 1239.

(2) 天文学. 特集 . をサポートする情報新技術                           全体で150倍と圧倒的に2.2μmのほうが光量が多くなる.. ガイド星 レーザガイド星. 天体. したがって,現在稼働中の補償光学装置のほとんどが近 赤外線観測のために使われている.可視光よりも分割数. ナトリウム層 (90km). (素子数)が少なく,駆動速度を遅くできるからである.. レーザ レーザ送信望遠鏡. 大気 揺らぎ.  実際には,稼働中の 8 ∼ 10m 級望遠鏡の近赤外線用 補償光学装置は,12 ∼ 14 等星までガイド星として使う. レーザビーム   伝送路 望遠鏡. ことができ,それ以上暗い星は光量不足で補償光学装置 が動作しない.明るいガイド星が近くにある場合にのみ,. レーザ. 歪んだ波面 可変形鏡. 制御系. 補償光学装置を使って暗い天体を観測することができる.. 補正された 波面. 使用できるガイド星の周囲の isoplanatic 角範囲内,す なわち補償光学の視野が,補償光学の使用できる天域で,. 観測装置. 波面 センサ. 可視 赤外. 全天に対するこの天域の割合をスカイカバレッジと呼ぶ. 観測波長 2.2 μ m で数 % 程度である.残りの 90%以上は 補償光学が使用できない天域である.  スカイカバレッジを向上させる方法が 1985 年に提案 2). された . 明るい ガ イ ド 星が 見つからない 方 向に レ ー 図 -1 補償光学装置の概念図. ザを使って人工的に明るい星を作成し,それを補償光 学のガイド星に使うのである.高度 15 ∼ 20km の大気 のレイリー散乱を利用する方式と高度 90km 幅 10km の. して実用化されはじめたのは 1970 年代後半に入ってか. ナトリウム中性原子層を励起する方式(図 -1 参照)の. らであった.その後,1980 年代後半から天体望遠鏡用. 2 種類がある.ナトリウム層を使ったレーザガイド星は. に別途独立に開発が進められ,欧米の 4m 級望遠鏡で試. 1980 年代後半に人工星作成実験が実施され,1990 年代. 験観測が開始された.すばる望遠鏡をはじめ地上の 8 ∼. に入ると,補償光学に利用できるレーザの開発が進めら. 10m 級望遠鏡が相次いで建設された 1990 年代後半,補. れ,Lick 天文台 3m 望遠鏡,Calar Alto 天文台 3 m望遠. 償光学は必須装置として開発・装備されるようになって. 鏡で試験が行われてきた.Lick 天文台では現在も天文観. きた.マウナケアでは,すばる望遠鏡(口径 8m),Keck. 測に 用いられている. また,Lick 天 文 台の 技 術をもと. 望遠鏡(有効口径 10m 分割鏡) ,Gemini 望遠鏡(口径. に Keck 天文台 10m 望遠鏡のレーザガイド星が開発され,. 8m) ,チリでは VLT(Very Large Telescope) (口径 8m). 2001 年 12 月にレーザ照射の試験に成功し,2004 年 6 月. で補償光学装置を使って天文学的成果がでてきている.. から天文観測用に使われ始めた.ヨーロッパではチリに.  望遠鏡の鏡の直径を D,望遠鏡の設置場所の平均的. ある VLT でも 2005 年観測開始を目標に開発を進めてい. な Fried 長を r0 とすると, 望 遠 鏡に 入 射した 光 波 面を. る.すばる望遠鏡では,レーザガイド星を 2006 年まで. ∼ (D/r0) 個の小開口に分割して波面を測定し, ∼ (D/r0). に開発する計画を進めている.. 2. 2. 個の駆動点数を持った可変形鏡で補正をすると,理想 的に平面波を復元できる.この波面の分割数を補償光学 の素子数と呼ぶ.観測波長が 500nm(r0 = 17cm)の場合,. ■ 可変形鏡:表面形状を変形できる鏡 ■. 観測波長 2.2 μ m(r0 = 90cm)に比べて必要な素子数が.  可変形鏡は補償光学装置の重要な部品の1つである.. 約 30 倍多い.. 光波面の進み遅れ(位相)を補正する機能を持ち,透過,.  大気ゆらぎの変動スピードは,大気ゆらぎの移動速度. 反射の両タイプがある.透過タイプには液晶位相変調パ. v(風速)が Fried 長 r0 を通過する時間 τ= r0/v で代表さ. ネルがあるが応答速度,透過率が不十分なこと,1 偏光. れる.たとえばマウナケア山頂では,観測波長 500nm. 面のみ位相補正が可能なため天文用途以外で利用される. の可視光で r0 = 17cm,上空大気の風速を 20m/s と仮定. ことが多い.反射タイプには圧電素子や静電力を用いて. すると,典型的な時間はτ= 8.5ms となる.大気ゆらぎ. 鏡を変形させる方式がある.現在主に利用されている可. の変動をフリーズするためにはミリ秒以下の測定が要求. 変形鏡は以下の 2 種類である.. される.観測波長 2.2 μ m では r0 = 90cm なので,約 5 倍 変動が遅くなる.. ★フェースプレート鏡.   小 開 口あたりの 光量を 観測波長 2.2 μ m と 500nm と.  連続した薄い鏡に複数の積層圧電素子を取り付けて,. で比較すると,面積比 30 倍,駆動速度で 1/5 倍となり,. それぞれの素子に異なる電圧をかけて押し引きして鏡を. 1240. 45 巻 12 号 情報処理 2004 年 12 月.

(3)                                   2. 観測を支える新技術 1. 補償光学 で光波面をレンズアレイによって小開口に分割し,それ ぞれのレンズによって結像された星像の位置を測定する. 平面波を入射したときの各基準星像位置とのずれ量がそ れぞれの小開口における波面の傾きに比例する.この波 面の傾き分布から波面形状を求めることができる.星像 の検出には 1kHz 程度の高速読み出しで低読み出し雑音 の CCD が使われる.星像の位置を測定するには,小開 口ごとに最低 4 画素必要となる.現状の画素数は 100 × 100 素子程度,読み出し雑音が 2 ∼ 5 電子数である.画 素数の向上が波面センサの多素子化を可能にする.どこ まで暗いガイド星を使用できるかは,読み出し雑音に よって制限されている.. ★波面曲率センサ  望遠鏡焦点から離れた場所の星像は円形開口状に広 がってみえる.そのなかに明暗のパターンが見られる. 図 -2 波面センサ方式. 大気ゆらぎや望遠鏡の光学収差によって開口内に波面の 曲率が生じ,それぞれの小開口部分で無収差のときの望 遠鏡焦点より焦点位置が長くなったり短くなったりする.. 変形させる.数十素子から数百素子が製品として購入可. この場所ごとの焦点位置のばらつきによって明暗が現れ. 能である.. てくる.この原理を応用して,図 -2 の下図に示したよ. ★バイモルフ鏡. うに,入射瞳位置の前後等距離の位置で小開口ごとの明 暗の差を測定し波面の曲率を導くことができる.曲率を.  垂直方向の電圧に対して,横方向に伸縮特性が正反対. 発生できるバイモルフ鏡と曲率センサは小開口のパター. の薄い圧電素子板を 2 枚貼り合わせて作成する.一方が. ンを一致させるととても制御性がよい.したがって,曲. 縮み,もう一方が伸びるので,鏡面に曲率をつくること. 率センサはシャックハルトマンセンサと比較して少ない. ができる.圧電素子板の電極を分割して,それぞれ異な. 素子数で同程度の性能が出せる.また素子数が少ないた. る電圧をかけて,鏡の形状を制御する.後述する曲率波. めより暗いガイド星でも波面測定ができるという利点が. 面センサと組み合わせて使用すると性能がよい.. ある..  最近では,Micro-electro-mechanical system(MEMS) の技術を用いた超多素子小型可変形鏡が開発されてきて いる.. ■ 波面センサ:望遠鏡に入射した 波面を測定する装置 ■. ■ 制御計算機:波面情報から 可変形鏡を制御する ■  波面センサで測定された波面情報をもとに平面波にも どすよう可変形鏡を制御するのが制御計算機である.制 御ループは毎秒 100 回から 1,000 回程度の演算を高速に 行う.フィードバック制御が動作しているときは,波.  波面センサは望遠鏡に入射した星からの光波面を小開. 面誤差が微少量になるため,可変形鏡への制御信号は波. 口に分割して,各場所の波面の傾き,曲率などを測定す. 面センサ情報と線形関係の範囲内という仮定が成り立つ.. る.測定頻度は毎秒 100 回から 1,000 回である.そのため,. 典型的な例として,300 個の波面情報が得られる波面セ. 1 測定,1 小開口あたりの光子数は大変少なく,高感度. ンサと 150 分割の可変形鏡を持った補償光学装置では,. センサが必須となる.代表的な波面センサは以下の 2 つ. 300 行 1 列 の波面センサ信号ベクトルに 150 行 300 列の. である.. 制御行列を左から掛け算して,150 行 1 列の可変形鏡へ. ★シャックハルトマンセンサ. の制御信号ベクトルを算出している.1kHz の制御ルー プの計算量は毎秒 4500 万回の積算和で,現在の CPU の.  この方式は最も一般的に使用されている波面測定方式. 性能では問題ない量である.制御行列は補償光学を使用. の 1 つである.図 -2 の上図に示したように,入射瞳位置. する前に,人工光源で平面波を補償光学装置に入射し, IPSJ Magazine Vol.45 No.12 Dec. 2004. 1241.

(4) 天文学. 特集 . をサポートする情報新技術                          . 図 -3 すばる望遠鏡レーザガイド星補償光学装置の概要. 図 -4 通信総合研究所(現在 情報通信研究機構)の 1.5m 望遠鏡. 可変形鏡の各素子を順番に変形させる.それぞれ変形さ. ガイド星はナトリウム D 線(589nm)に波長を合わせた. せたときの波面センサ測定信号を記録する.これが可変. 5 ∼ 20W 級のレーザを照射する.ナトリウム層に作成. 形鏡と波面センサの応答行列である.この逆行列が制御. されたレーザガイド星はレーザビーム照射地点から見る. 行列となる.応答行列の精度と制御行列の推定精度が安. とほぼ点光源となる.またレイリー散乱は高度 30km 以. 定した制御をもたらす.. 上で十分暗くなるためレーザガイド星と分離することは.  計算された可変形鏡への制御信号をもとに適当な制御. 容易である(図 -4 参照).. 調節器を用いて可変形鏡を駆動する.すばる望遠鏡の補.  ナトリウムレーザガイド星の生成実験当初は色素レー. 償光学装置ではすべての素子に対して単純なゲイン共通. ザが用いられてきたが,近年の固体レーザ技術の発展. の積分調節器を用いている.ただ,多入力多出力なシス. により,高出力全固体和周波レーザが実用になりつつあ. テムであるため,時間方向あるいは波面の空間方向に最. る.和周波レーザとは,波長 1,064nm と 1,319nm の 2 つ. 適なフィルタを用いるなど,さまざまな最適制御を行う. の YAG レーザを非線形結晶で合わせて,周波数(波長. ことが可能である.. の逆数)の和である 589nm を発生させるものである.ア. ■ レーザガイド星: 波面測定用参照星を人工的に作る ■  レーザガイド星は,任意の方向にガイド星を作ること ができるため,スカイカバレッジを大幅に拡大できる. レーザガイド星を生成する装置は, 主にレーザ本体, レー.    にて実施されたレーザガイド星の生成予備実験. メリカ合衆国の空軍研究所やレーザメーカが開発を精力 的に進めている.一方,私たちも理化学研究所と共同で 開発を進めており,出力 4W を 2004 年中に達成し,出力 10W の技術的な目処が立っている.. ■ すばる望遠鏡の補償光学装置 ■. ザビーム伝送系,レーザ送信望遠鏡から構成される.す.  現在稼働中のすばる望遠鏡用補償光学装置は,波長. ばる望遠鏡のレーザガイド星補償光学装置の概要を図 -3. 2.2 μ m で望遠鏡の回折限界角度分解能(約 0.06 秒角)を. に示した.レーザは安定した場所に設置されたレーザ室. 得ることを目的として製作された.可変形鏡は 36 分割. に格納され,光ファイバを用いてレーザビームを伝送し,. のバイモルフ鏡を使用し,同じパターンに分割された. 望遠鏡副鏡の裏側に設置したレーザ送信望遠鏡でナトリ. 36 素子曲率波面センサで毎秒約 2,000 回波面測定および. ウム層を照射する構成になっている.. 補正をしている .2000 年 11 月末に初めて星の光を使っ.  高度 90km 幅 10km のナトリウム層を利用したレーザ. た補正に成功し(ファーストライト),2.2 μ m で 0.06 秒. 1242. 45 巻 12 号 情報処理 2004 年 12 月. 3).

(5)                                   2. 観測を支える新技術 1. 補償光学. 図 -5 すばる望遠鏡補償光学装置による星像の改善. 図 -6 補償光学装置により 0.31 秒角離れた二重星の分離. 角の分解能を達成することが確認された(図 -5).性能 評価および細かい調整の後,2002 年 4 月から一般共同利. ■ これからの補償光学 ■. 用観測が開始し,天文学的な成果が次々と出始めている..  最近では,1 つのガイド星を使った補償光学装置は. 図 -6 は,0.31 秒角離れた二重星を補償光学装置を使っ. 古 典 的 補 償 光 学と呼ばれるようにな っ てきている.次. て分離することに成功した例である.補償光学装置を使. 世代の補償光学は 多様化してきており,Extreme AO,. 用しないときは,二重星は重なってしまい分離できてい. MCAO などが提案されている.. ない..  Extreme AO は超多素子補償光学装置で,素子数が.   現在,私たちは 188 素子の曲率波面センサおよび 188. 1,000 以 上, 波 面 誤 差 残 差が 波 長の 数 分の 一まで 高 精. 分割のバイモルフ鏡を持った補償光学装置へのアップグ. 度な 補 正を 目 指す. また, 多 素 子であるので, 可 視. レードを進めている.これにより,波長 1 μ m でも望遠. 光でも十分望遠鏡の回折限界角度分解能が達成できる.. 鏡の回折限界角度分解能を達成できることが期待される.. Gemini 望遠鏡,Keck 望遠鏡,VLT などが Extreme AO. また,スカイカバレッジをひろげるためにレーザガイド. の概念設計を開始している.. 星の導入を進めている.2005年末に188素子補償光学装置.  MCAO は Multi-conjugate Adaptive Optics の略であ. のファーストライト,2006 年末にはレーザガイド星によ. る.古典的補償光学では 1 つのガイド星,1 つの波面セ. 4). る補償光学装置のファーストライトを予定している .. ンサ,1 つの可変形鏡を用いているため,一方向の大気 IPSJ Magazine Vol.45 No.12 Dec. 2004. 1243.

(6) 天文学. 特集 . をサポートする情報新技術                          . ゆらぎの影響しか補正できない.MCAO では複数のガ. 成,レーザ核融合でレーザを非常に小さな領域に集光さ. イド星(レーザガイド星を含む)を用いて,大気ゆらぎ. せる場合などに可変形鏡が用いられている.また,人間. の高さ方向の情報を獲得し,複数の大気ゆらぎの高さに. の目に対する応用も盛んである.以前は角膜の凹凸や水. 共役(conjugate)な位置に可変形鏡を配置し,それぞれ. 晶体の不均一性によって網膜細胞を細かく分解して見る. が対応した高さにある大気ゆらぎを補正する.したがっ. ことができなかったが,補償光学装置を使うと,網膜細. て,複数のガイド星がある広い範囲で大気ゆらぎを補正. 胞の 1 つ 1 つを分解して観察することが可能になった .. 5). できる.現在 Gemini 望遠鏡が視野 2 分角の MCAO を開. ■ おわりに ■. 発している.. ■ 宇宙望遠鏡との共存 ■.  天文用補償光学技術は,4m 級望遠鏡を用いた実験的.  地球周回軌道に打ち上げられた宇宙望遠鏡と補償光. めるようになった.現在,すでに 30 ∼ 100m 級の超巨大. 学装置が装備された地上望遠鏡との優劣について考えて. 望遠鏡計画が検討されてきている.補償光学技術はこの. みる.宇宙望遠鏡の利点は邪魔な大気がないことである.. ような超巨大望遠鏡計画の重要な要素技術の 1 つである.. それゆえ,大気ゆらぎがないばかりか大気の吸収,発光. 望遠鏡の理論的限界分解能は高くなり,補償光学装置に. もない.一方,地上望遠鏡は宇宙望遠鏡に比べて安価,. 要求される素子数,ガイド星(レーザガイド星を含む). 大型化が容易,大型で安定した高精度の天体分光観測装. の数も桁違いに大きくなる.そのため補償光学技術の成. 置が搭載できるといった利点がある.逆に宇宙望遠鏡は. 熟と発展が鍵となることは間違いない.また,宇宙望遠. 高コスト,大型望遠鏡化は困難,高精度の分光装置は搭. 鏡の大型化においても,鏡面形状を設計どおりに保つた. 載困難という不利な点がある.また地上望遠鏡では可視. めに,低速の補償光学技術が必要であるという検討もさ. 光あるいは広視野の補償光学装置は複雑で高価,大気ゆ. れつつある.望遠鏡による観測天文学はビックサイエン. らぎだけでなく変動する吸収や発光の影響がある,天候. ス化しつつあり,それに伴い補償光学も巨大システムに. に左右されるなどの不利な点がある.このように宇宙望. なりつつある.. 遠鏡と地上望遠鏡は相補的な関係であり,8 ∼ 10m 級望.  一方,天文学以外の分野に補償光学技術を応用する傾. 遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡との関係がまさにそのような. 向はさらに強まるであろう.その際,低コスト,小型化. 様相を示している.将来,超大型望遠鏡(口径 30m 級分. が追及され天文用補償光学装置とはまったく異なった方. 割鏡)と James Webb 宇宙望遠鏡(口径 6.5m 分割鏡)は. 向に向かう可能性があり,補償光学技術はますます多様. 相補的な役割を分担するであろう.. 性を持つようになるであろう.. ■ 天文学以外への応用 ■  近年,補償光学の技術は天文学以外にも応用されてき ている.ガイド星すなわち基準光源が,レーザを用いる など非常に明るいケースもある.また,制御速度も 1Hz から数 kHz と多彩である.それゆえ,多様な波面セン サ,可変形鏡,制御方式などが開発されていく期待が持 たれる.また,安価で小型,低電力な補償光学装置とい う 開 発 概 念も生まれるであろう. 一例として, 高 出 力 レーザのキャビティー内の熱レンズ補正や横モード再形. 1244. 45 巻 12 号 情報処理 2004 年 12 月. 観測を経て,8 ∼ 10m 級望遠鏡で天文学的成果を出し始. 参考文献 1)Babcock, H. W.: Publication of the Astronomical Society of Pacific, Vol.65, No.386, pp.229-236(1953). 2)Foy, R. and Labeyrie, A.: Astronomy and Astrophysics, Vol.152, No.2, pp.L29-L31 (1985). 3)Takami, H., Takato, N., Hayano, Y., Iye, M., Oya, S., Kamata, Y., Kanzawa, T., Minowa, Y., Otsbo, M., Nakashima, K., Gaessler, W. and Saint-Jacuqes, D.: Publications of the Astronomical Society of Japan, Vol.56, No.1, pp.225-234(2004). 4)Hayano, Y., Takami, H., Gaesser, W., Takato, N., Goto, M., Kamata, Y., Minowa, Y., Kobayashi, N. and Iye, M.: Proceedings of the SPIE, Vol.4839, pp.32-43(2003). 5)Roorda, A. and Williams, D. R.: Nature, Vol.397, pp.520-522(1999) . (平成 16 年 11 月 5 日受付).

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図 -6  補償光学装置により 0.31 秒角離れた二重星の分離

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