ミツバ チ科学23(2):49-57 HoneybeeScience(2002)
ミツバ チ コロニーの性比調節機構
佐 々木
謙
ハチ目の性決定 と子の性比調節 -チ目の多 くの種では,卵の性が受精の有無 で決定 し (単数倍数性),母親 は受精をコントロ ールす ることにより子の性を操作することがで きる.単独性ハチ目の種では,母親 は産卵時の 環境に応 じて適応的な性の卵を残す ことが知 ら れている(
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1).子の適応度 は子が成育する環境 (特 に成育栄養条件や集団 の構造) に依存することが多 く,その適応度 は 同 じ環境下で も雌雄問で異なることがある.そ のため母親には自分の子の繁殖成功度が最大 に なるような性比を実現す るように淘汰がはた ら き,その仕組みが進化の過程で残 ってきたと考 え られる. 一方, ミツパ テなどの社会性ハ チ目の種 で は,産卵個体 (女王)が自分の子の世話を他個 体 (ワーカー) に託す. この時,各性への投資 女王蜂 (母親)⑪
n か ら得 られる利益が,女王 とワーカーで一致 し ない場合がある.その場合,女王の産卵性比が 成虫の性比にはな らない. このように社会性ハ チ目の性比に関す る研究 は,女王 とワーカーの それぞれの意志決定に着 目す ることか ら始 まる 血縁度非対称性 と個体群平衡性比 個体間の遺伝子共有確率を示す単位 に血縁度 がある.例えば, ヒトの親子の場合,子 は母親 と父親か ら遺伝子をそれぞれ半分 (0.5)の確率 で受 け継 いでいる.親 と子の間の血縁度 は 0.5 となり,同 じ親か ら生 まれた兄弟姉妹の血縁度 は 0.5(母親由来の遺伝子共有確率)+0.5(父親 由来の遺伝子共有確率)/2-0.5となる. -チ目の性決定様式 は単数倍数性であること か ら, ワーカー (娘)か ら見た同父母の妹の血 縁度 (0.75)と同母の弟の血縁度 (0.25)に違 い が生 じる (図 1).ワーカーが性投資を完全にコ 雄蜂 (父親)①
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父親が異なる場合 (母親は同じ) 娘十
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+
0.25)/2-0.5になり,ワーカーか ら見 た妹の遺伝的価値が相対的に低 くなる (図1,2 ら).このようなコロニーでは,女王の交尾回数 が多 いほどワーカー間の血縁度が0.25へ近づ いていき, ワーカーか ら見た妹 ・弟への血縁度 の非対称性が小 さくなり,女王 ・ワーカー間の 利害対立 も相対的 に小 さ くなると考 え られ る (図 2B). 女王 ・ワーカー間の性投資比をめ ぐる利害対 立 を初 め て議 論 した の はTrivers&Hare (1976) である.彼 らは頻度依存的淘汰による 性比 の進化 (Fisher,1958) と血縁淘汰理論 (Hamilton,1964)を統合 して,個体群性投資 比 につ いて定量的な予 測を打 ち出 したのであ る.さらにTrivers& Hare(1976)はこの理 A 女王蜂が一回交尾 の場合 ♂(0.25) 論だけでな く,多数の証拠 も示 した.それ らは, ワーカーが性投資比をコン トロール しやすいと 考え られる単女王制のア リでは性投資比 は雌 : 雄-3:1で, ワーカーによるコン トロールを 受 けに くい単独性 カ リバチや-ナバチ,奴隷狩 りをす るア リ (他種 の ワーカーが子育 てをす る) では,女王の意志が反映 したと思われる 1 :1になっているというものである.現在では その後 の さまざまな実証研究 によ りTrivers&Hareの説 は支持 されている.
コ ロニー性 投 資比 の変異 個体群平衡性投資比の理論をめ ぐる議論で以 前か ら指摘 されていたことの一つに, コロニー の性投資比の大 きな変異があった.一般に個体 群の大 きさが増すにつれて,個 々のコロニー性 投資比 は個体群性投資比 に影響を与えにくくな ることか ら,各 コロニーの性投資比 にかかる頻 度依存的淘汰 は弱まる。 したが って, コロニー 性投資比の変異があったとして もその存在 自体 は上述 の個体群性投資比の理論 と矛盾 は しな い. コロニー性投 資比 の変異 を説明す る仮説 は,(1)血縁度非対称性の変異, (2)栄養条件 に左 右 される変異, (3)女王 とワーカーの力関係の変 異, (4)環境 によって左右 される雌雄の適応度の 変異,が提唱 されている. これ らの仮説 は相反 するものではないが, コロニー性投資比の変異 を生み出す要因はその種の生息環境や生活史に よって異なると考え られ る. コロニー性投資比 B 女王蜂が多回交尾で精子 を混ぜて使用 した場合 図2 血縁度非対称性と女王 ・ワーカー間の利害対立
A:
女王蜂が一回交尾の場合, B:女王蜂が多回交尾で精子を混ぜて使用した場合の理論 と検証 に関する研究の詳細 は紙面の関係 上割愛するが,近 (1993),長谷川 (1996), 佐々木 (1999)で詳 しく紹介 されているので, 一読することを薦める. ミツパ テの性投資 を研 究する上での問題点 社会性ハチ目の コロニー性投資比が遺伝構成 や環境要因によって変わ り得 ることはすでに述 べたが, ミツパテのコロニーではどのような基 準 に基づいてコロニーの性投資比が決定 してい るのであろうか ? また,女王蜂 とワーカーの 利害対立を実験的に検出す ることは可能であろ うか ? ミツパテを用いて コロニーの性投資比 を調べる場合には,考慮 しなければな らない点 がいくつかある. まず第一の点 は,女王蜂の多回交尾 とその精 子利用様式である. ミソバチの女王蜂が多回交 尾 し,複数の父親由来の精子を混ぜて使用 して いるという事実 は,結婚飛行時の観察 (Taber, 1955),表 現 型 マ ー カ ー を 用 い た 実 験
(Laidlaw&Page,1984),分子 マーカーを用 い た 実 験 (ア ロ ザ イ ム (Page& Metcalf,
1982), ミニサテライ トDNA (Sasakieta1.,
1995),マイクロサテライ トDNA (Estoupet a1.,1994)によって,よ り精密に確かめ られて いる. どの女王蜂 も多回交尾を行なうので, ワ ーカー問の平均血縁度 はコロニー毎でそれほど 大 きな違いは見 られないようである. このよう な平均血縁度の低いコロニーでは女王 ・ワーカ ー間の性投資比をめ ぐる利害対立が理論上小 さ くなり,その利害対立を実験的に検出すること が難 しいか もしれない. 第二の点 は,生殖虫生産の評価である.今 ま で議論 して きた性投資比 は生殖虫 (女王蜂 と雄 蜂) に対する投資比のことである.一般 にワー カーは繁殖 に関与 しないために, ワーカー生産 のための投資量 は雌生殖虫の投資 とは別 に考え る必要がある. しか し, ミツパテの場合,分蜂 し,新女王 は数百 の ワーカーと供 に巣 に居残 り,旧女王 は残 りの ワーカーを率 いて新たにコ ロニーを創設する. この場合, ワーカー生産や 巣への投資 も雌生殖虫の投資へ加えるべ きか も 51 しれ ない. このよ うに ミツバ チの コロニーで は, ワーカーの生産が コロニー維持のための投 資か,あるいは分蜂群生産への投資であるかを 区別する必要がある. 第三の点は,女王蜂による性投資比の評価で ある.女王蜂 は受精をコントロールすることに よって卵の性を決定することができ,産卵性比 を調節で きる. しか し,女王蜂の産卵 した受精 卵 は, ワーカーの世話 によって潜在的に新女王 にもワーカーにもなり得 るので,卵の時点では 女王蜂がどのように雌生殖虫へ投資 したのかを 知 ることは難 しい. 第四の点 は,繁殖可能 なコロニーとそうでな いコロニーとの区別である.第二の点 とも関連 するが,小 さいコロニーや栄養状態の悪いコロ ニーでは,雄生殖虫を生産せず, ワーカーのみ を生産することがある. このようなコロニーは 繁殖 に参加 していないので, ワーカー生産への 投資 は分蜂群生産のための投資ではな く, コロ ニー維持への投資 と考え るべ きである. 第二 ・三 ・四の点か らもわかるように,性比 調節には,(1)繁薙虫-の性投資の配分,(2)繁殖 とコロニー維持への投資の配分,との2つの意 味がある.女王 ・ワーカー間の利害対立 はどち らの投資配分 に関 して も理論上起 こり得 るもの であり,両者の利害対立の程度 はワーカー間の 平均血縁度や コロニーサイズ, コロニーの栄養 状態などによって変わ り得 ると考え られる. 繁殖 と コ ロニー維 持 へ の投 資配 分 ミツバチのコロニーでは, ワーカーの生産を 分蜂群生産への投資 とす るべ きかコロニー維持 への投資 とするべ きかの解釈が難 しい.また, 卵の時点ではどの雌卵 も潜在的には雌生殖虫に なり得 るので,女王蜂の性投資比を考える場合 にはさらに解釈 は難 しくなる.一方,雄 は確実 に繁殖虫 となり,卵の時点で も雄生殖虫-の投 資 として解釈で きる. このように雄生産 に注目 することによって,繁殖 とコロニー維持への投 資配分を実験的に決定す ることは可能である. 例えば, ミツバチの小 さいコロニーでは,雌生 殖虫が生産 されず (王台が形成 されず),雄生殖
虫のみを生産す ることが多 い. この場合, ワー カー生産 はコロニー維持への投資 として,また 雄生産 は繁殖への投資 と して解釈で きる. 繁殖 とコロニー維持への投資配分 は女王蜂 と ワーカーでそれぞれ独立 して行なわれる.女王 蜂は卵の性比を操作 し得 るので,未受精卵を産 卵す ることで生殖虫に投資す ることがで きる. 一方, ワーカーは女王蜂が産卵するための巣房 の準備や卵の世話を操作す ることで投資を配分 できるのである. このよ うに繁殖 とコロニー維 持への投資に注 目す ることで,女王蜂 とワーカ ーのそれぞれの投資配分 を定量化す ることがで き, コロニー内の女王 ・ワーカー問の利害対立 を検出することも可能である. 女 王蜂 によ る性 比調 節 女王蜂 は産卵性比を決定することがで き, ワ ーカーはその卵数の範囲内で性比を操作する. また, ワーカーは通常,女王蜂不在の条件下で 雄卵を産卵す ることはで きるが,雌卵を産卵で きるのは女王蜂だけである. このように女王蜂 の産卵性比が ワーカーの性比調節に制約を与え ている可能性 は否定できず,女王蜂がどのよう に産卵性比を調節す るのかを調べることは, ミ ツバチのコロニーの性比調節機構を知 る上で, 重要なことである. (1) 受精のコン トロール 卵の性を決定す る受精のコントロールは受精 嚢で行われる (図3). ミツバチの受精嚢に関す る組織学的研究 は多いが (Dallai,1972),受精 嚢の活動がどのような外的刺激によって調節 さ れているかにつ いて はほ とん どわか っていな い.精子 は交尾後,精子の運動 と受精嚢 ポンプ の活動 によ って受精嚢-移動 し(Ruttner& Koeniger,1971),受精時に精子が放出される までそこで貯蔵 される.受精嚢内では受精嚢内 壁か らの分泌液によって精子の活性 は低 く保た れ(Poole,1970;Gessner& Gessner,1976), 長 い ものでは10年近 くその中で生 きることが で きる.受精時に精子 は受精嚢か ら艦内へ放出 され,精子 は卵門か ら卵膜へ到達 し,卵細胞内 へ侵入す る.卵 は機械的変形刺激 により潜在的 に発生を開始す る能力を持 ってお り,その変形 刺激を中央輸卵管で受容することが確かめ られ ている (Sasakieta1.,1997).このことか ら, 受精卵 ・未受精卵 ともに中央輸卵管で発生開始 刺激を受容 し,受精卵の場合はその直後 に精子 を受 け入 れ て い る可 能 性 が高 い (佐 々木, 1999), 受精嚢か らの精子の放出は受精嚢バル ブの開閉や受精嚢バルブの圧力を高める付属腺 の分泌 (付属腺分泌物 は精子の活性を高める機 能がある)によって コン トロールされていると 考え られている (Flanders,1950). ミツバチの巣には,直径の大 きな雄用の巣房 と直径の小 さい雌用の巣房 (女王蜂用の巣房の 直径 も小 さい)が存在す る.女王蜂の産卵行動 を観察すると,女王蜂 はまず巣房に頭部 と前肢
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′l //_ ・宰 団 - 房区画 [コ ヮーカー娘房区画 図 4 女王峰による卵の産み分けと実験巣板上での 産卵 A ,雄巣房に産下された未受精卵の核型 (n-16), B :ワーカー巣房に産下された受精卵の核型 (2n-32),C:
女王蜂による実験巣板上での産卵.巣板上の黒 点は女王蜂の産卵 した位置を示 している.(Sasaki eta1.,1996より) を入れ,巣房 をチ ェ ックす る. その後,腹部 を 巣房 に挿入 し産卵す る.女王蜂 は巣房 のチ ェ ッ ク行動時 に,雌雄巣房 の違 いを識別 し,精子 の 放 出を調節 している (Koeniger,1970).女王 蜂 は,未受精卵 を産卵す る際 に雄巣房か らの外 的刺激 を用 いて精子 の放 出を抑制 している可能 性があ り,巣房か らの刺激が無 い時 には精子が 放 出 され, 受精が起 こる (Sasaki& Obara, 1999). このよ うに- チ目の雌 は通常 の昆虫 と 同様 の受精 の仕組 みを所有 し,未受精卵 (雄卵) を産卵 す る時 に受精 を抑制す る仕組 みを進化 の 過程で獲得 した可能性が ある. (2)雌雄巣房 の選択 ワーカーが用意 した雌雄巣房 に対 して,女王 蜂 は雌雄巣房 を選択 して産卵性比 を調節す るこ とがで きる.実験的 に同 じ面積 の ワーカー巣房 区画 と雄巣房区画 を交互 に組 み合わせた巣板 を 作成 し, その実験巣坂上 で女王蜂 に産卵 させ る と,女王蜂 はワーカー巣房 を好 んで産卵す る傾 向がある (図4).この巣房選択性比 は季節で変 わ り,繁殖 シーズ ン(4-5月)では雄巣房 を 20-30%の割合 で選択 し産卵 す るのに対 し,繁殖 シ 1 8 6 .一 日り 2 0 0 0 0 A a T 他 端 :n 毒 轡 や 桝 琳 1 8 6 4 2 0 0 0 0 0 い .. . ''. : 1. ︰︰ ' J. I ;I ・ . I.
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H I I H I J H I J H I ∫ H I ∫ H I ∫ 炎板中央上部 その他の区域 炎板全域 図5女王蜂によるワーカー ・雄巣房選択比 A:女王(E,F,G)の季節による巣房選択比の違い. 棒上の数字は産卵数を示 している.B:コロニー(H, Ⅰ,∫)におけるワーカーの実験巣坂上での分布.C:
ワ-カーの雄 ・ワーカー巣房 ク リーニ ング比 (Sasakieta1.,1996より) -ズ ンの終 わ り (7-8月) で は雄巣房 にほとん ど 産 卵 し な く な る (図5A;Sasakie
t
a1., 1996).一方, 実験巣板上 の ワーカーの行動 を 観察す ると,各巣房区画 に分布 している個体数 や巣房 を ク リーニ ング している個体 の割合 はワ ーカー巣房区画 と雄巣房 区画で有意 な差 は見 ら れない (図5B,C).したが って,この卵性比 は ワーカーの巣坂上 の分布 や偏 った巣房の ク リー ニ ングの影響 を受 けた結果で はな く,女王蜂 に よる巣房選択 の結果であ ると考え られ る. 巣の栄養状態 は季節 を通 して変化 し,生殖虫 生産 に最 も影響 を与 え る要因である. そ こで, 巣箱 をケー ジの中で飼育 し,人工飼料 を用 いて 巣 の栄養状態 を コ ン トロール し,女王蜂 の産卵 性比 を調べてみ ると,女王蜂 は巣 の栄養状態が 良 い条件下で雄 を高 い比 で産卵す ることが分か った (図6;Sasaki& Obara,2001).ただ し,08 06 3j ; 04 苛 02 0 L 附 一分条件 因飢不十分粂件 女王蛭 ワー カー 女王蜂 兼殖 シーズン 非 難姑 シーズン 図6 異なる栄養条件下での女王蜂の産卵性比とワ ーカーによる巣房への投資比 縦軸は繁殖シーズン(6コロニー)と非繁殖シーズン (5コロニー)の平均値と標準誤差が示 してある. 各 棒の右上のアルファベットが異なるペアでは有意差 が見られる(p
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0.05).(Sasaki&
Obara,2001より) このような産卵性比の変化 は繁殖 シーズ ンのみ で起 こり,非繁殖 シーズ ンに同様の実験を行 う と,女王蜂は巣の栄養状態 に関係 な くワーカー 巣房のみを選択 し,雌卵を産卵す る.一方, ワ ーカーによる巣房への投資比を明 らかにするた めに,同 じ面積のワーカー巣礎区画 と雄巣礎区 画を交互 に組み合わせ,各巣礎区画にどれだけ ロウを盛 り,各巣房に投資 したのかを調べた. 繁殖 シーズ ンでは, ワーカーはある一定の割合 で雄巣礎にロウを盛 っていたが,その割合 は巣 の栄養状態が良 い条件下で も変わ らなか った. そのため,好栄養条件下 の巣では,女王蜂の産 卵性比 (オス比)が ワーカーによる巣房への投 資比 (オス比)を有意 に上回 る現象が見 られた (図 6). このように,女王蜂 はワーカーとは独 立に性比調節機構を備えてお り,季節や巣の状 況に応 じて, コロニー維持 のためのワーカー生 産か ら,生殖虫 (雄)生産へと切 り替えること がで きると考え られる. 女王 ・ワーカー問の利害対立は繁殖 (雄蜂) とコロニーの維持 (ワーカー)-の投資をめ ぐ って起 こり得 る (Crozier& Pamilo,1996).数理モデルか らの予測では,両者の利害対立 は 母 コロニーの状態が良 く,娘 コロニーの生存率 が高 くなるような状況下で大 きくなる. この場 合,数理 モデルは女王蜂 による雄への投資が ワ ーカーよりも大 きくなると予測 している.上記 の実験では,栄養状態の良 いコロニーで女王蜂 の雄比が高 くなり, ワーカーの巣房造 りの雄投 資比 は変わ らなか った. この結果 は,母 コロニ ーの状態が良い場合に,女王蜂による雄-の投 資比が ワーカーによる投 資比 よ りも大 き くな り,女王 ・ワーカー間の繁殖をめ ぐる利害対立 が生 じるという数理モデルの予測を支持 してい る. (3) コロニー内血縁度の操作 女王の多回交尾によって ワーカーか ら見た雌 雄の血縁度非対称性が小 さくなると,女王 ・ワ ーカー問の繁殖虫の性投資をめ ぐる利害対立や 繁殖 とコロニ-維持への投資をめ ぐる利害対立 が小 さくなる (Crozier& Pamilo,1996).交 尾回数や精子利用様式 は女王蜂が潜在的に操作 で きるものであることか ら,女王蜂の多回交尾 や精子利用様式が ワーカーとの利害対立の緩和 を生み,その緩和が ミツバチ独 自の繁殖様式の 進化 に寄与 した可能性 も考え られる.
働き蜂による性比調節
ワーカーは一般 にコロニーの性投資比を操作 しやすい立場 にある. ミツバチの場合, ワーカ ーは利用可能な雌雄巣房の準備 と性差別的な幼 虫の世話を行なうことによって,性投資比 また は繁殖 への投資 を調節す ることがで きる.ま た, ワーカーは雌幼虫を女王蜂にす るか, ワー カーにするかの決定権を握 っている. したが っ て, コロニーの繁殖虫の性投資比 は女王蜂がど ちらか一方の性のみを生産 しない限 り, ワーカ ーが操作 していると考えるべ きであろう. (1)雌雄巣房比の調節 ワーカーはコロニー内の雄巣房, ワーカー巣 戻,女王巣房 (王台)の数を主 に3通 りの方法 で操作 し,巣房比を調節 している. まず第一の方法は巣房造 りである. ワーカー は季節や コロニーの規模 に応 じて巣房の比を調 節することが知 られている(Free&Williams, 1975).例えば,繁殖期 には雄巣房や王台を多 い割合で造 り,繁殖虫生産に投資する. またコロニーの規模が小 さい場合 は,王台を造 らず, さ らに小 さい場合 は雄巣房 さえ も造 らな くな り,繁殖を諦めコロニーの維持へ投資するよう になる. 第二の方法は巣房の変形利用である. ワーカ ーは非繁殖期 になると,繁殖期に造 った雄巣房 の入 り口にロウをっけて,雌巣房の直径 と同 じ 巣房に変えて しまう.女王蜂が このような変形 巣房へ産卵することはあまりないが, もし産卵 すれば受精卵を産下すると考え られる. また, コロニーか ら女王蜂を除去 した場合, ワーカー はワーカー巣房の入 り口を下方向へ伸ば してい き,変成王台を造 る. これは女王蜂の産卵を操 作するための巣房変形ではないが, ワーカーは 変成王台の幼虫に対 しては女王幼虫 と同様の餌 を与え,その幼虫は女王成虫になるので,潜在 的な繁殖虫生産の調節機構 と考えることがで き る. このように, ワーカーは状況に応 じて巣房 のタイプを変え,女王蜂 による産卵や幼虫のカ ース トを操作す ることがで きる. 第三 は巣房 を別 の用途 に利用す る方法 であ る. ワーカーは非繁殖期 になると,雄巣房に蜜 や花粉を充填 し,女王蜂の産卵 に利用できない ように して しまうのである. 以上のようにワーカーは女王蜂の産卵の前に 利用可能な巣房数を調整することができる.そ の一方で,女王蜂 は限 られた巣房の中か ら自分 の産卵するべ き性の巣房 を選択 し,産卵するこ とができる. したが って, コロニー内に利用可 能な雌雄巣房が豊富にある状況下では女王蜂の 産卵性比が実現 し,片方 の性の巣房のみが利用 可能 な状況下ではワーカーによる雌雄巣房比が コロニーの一次性比になる可能性がある. (2)性差別的な育児行動 ワーカーは女王蜂の産下 した雌雄卵をコロニ ーの状況に応 じて性差別的に育てることができ る.例えば, ワーカーは繁殖期にコロニーの栄 養状態が悪 くなると雄幼虫を殺 し,食べること がある(Velthuiseta1.,1990).この行動 は繁 殖を一時的に諦め, コロニー維持 に投資を切 り 替えるための ものであると考えることができる. 55 ワーカーがブルー ドの性を成長 ステージのど の段階で,何に基づいて識別するのかを明 らか にすることは, ワーカーがどのような制約の も とで吐投資比を調節するのかを理解する上で重 要 なテーマである. ワーカーにとってブルー ド の性の識別が早 い成長 ステージで行えるほど, コス トの少ない操作で効率良 く投資が行える. 逆 に,性の識別が遅 くなれば, ワーカーの性投 資を操作す る時期が遅 くなり,結果 として性投 資を操作す ることが難 しくな る. ミツパ テで は, ワーカーは幼虫期 に性の識別が可能になる ことが報告 されている(Haydak,1958).ワー カーは幼虫の性識別の際に,巣房か らの情報を 用いてお らず,幼虫 自体か らの情報を用いてい るようである. ミツバチのワーカーは幼虫の体表物質 に基づ いで性差を識別 している可能性がある.そこで 幼虫の体表物質に対するワーカーの識別能力を 調べる行動実験を行なった (図 7).まず,コロ ニーの雄 ・ワーカー巣房か ら幼虫を取 り出 し, 幼虫の体表物質を抽出 し,炭化水素 と脂肪酸を 分画 した. ワーカーは匂 い物質 と砂糖水を連続 的に提示 されると,その関係をす ぐに関連付 け て学習 し (嘆覚連合学習),学習が成立す ると匂 い物質を提示 されただけで砂糖水を もらお うと 口吻を伸展する. この性質を利用 して, ワーカ ーに雄幼虫の体表物質 と砂糖水 を連合学習 さ せ,雌幼虫の体表物質を提示 した時には砂糖水 を与えないようにす る. もしワーカーが抽出物 質の性差を潜在的に識別で きるのであれば,雌 幼虫の体表物質を提示 されて も口吻を伸展 させ ず,また雄幼虫の体表物質を提示 されれば口吻 を伸展 させると予想できる.実験の結果, ワー カーは体表脂肪酸の性差を潜在的に識別できる ようである (図 7A).一方,体表炭化水素の性 差を十分に識別できるという結果 は得 られてい ない (図 7B).また, ワーカ ーは 3日齢幼虫 (LV2)か ら体表脂肪酸の性差 を識別で きるよ うになり, この時期 は幼虫の成長率 (体重の増 加)が最 も高 い時期で もある.幼虫の体表物質 は幼虫の代謝 に依存するので,体表物質の変化 は幼虫の成長 と リンクしていると考え られる.
A 1 8 tq 4 2 0 0 0 0 0 3 T 等 LVI LV2 LV3 図 7 ワーカーによる幼虫の体表物質の性識別 A:体表脂肪酸に対する性識別,ち:体表炭化水素に 対する性識別 縦軸は各条件刺激 (♂)に対 して吻伸展反応をした頻 度を示 している.幼虫の成長ステージはLVl(1-2日 鶴),LV2(3日齢),LV3(4-5日齢)に分けている. 棒内の数字は実験に用いた個体数を示 している, ワーカーは幼虫の成長 と リンク した情報 に基づ いて,幼虫の性 と識別 している可能性がある. (3)働 き蜂 による産卵 ワーカーは女王蜂や幼虫の不在下では,卵巣 を発達 させ, 自ら産卵 を行 な うようになる.産 卵 ワーカーは通常,交尾 を していないので,未 受精卵 のみを産卵 し,雄 を生産す る.この場合, 産卵 ワーカーは雄巣房を選択 して産卵す る傾向 がある (Page&Erickson,1988).ワーカー か ら産卵 ワーカーへのカース ト転換 は繁殖戟術 の転換であ り,多大 なエネルギーコス トが伴 う
と予想 され る. カース ト転換期 には, い くつか の脳 ホル モ ンが脳 内 で分 泌 され (Sasaki&
Nagao,2001),そ の生 理 作 用 で ワー カ ーの 様 々な行動が同時平行的 に変わ り, その結果, 脳の構造 にまで影響 を与 える (Morgan etal.,
1998).このよ うな多大 なコス トに対 して,高 齢の ワーカーは卵巣を発達 させる前 に寿命が尽 きて しまうことや生理的制約 によ り若 い ワーカ ーよりも多 くコス トがかか るなどの理由か ら, カース ト転換か らの利益 が十分 に得 られない. このよ うな高齢の ワーカーは卵巣を発達 させに くい こ とが 報 告 さ れ て い る (Delaplane&
Harbo,1987). 性 比 調 節 機 構 の研 究 の意 義 と今 後 の展 望 ハチ目の性比調節 に関す る研究 はその進化的 要Pilを明 らかにす るための数理 モデルとその実 証研究 によって大 きな発展を遂 げた. これ らの 数理 モデルか らの予測を検証す るためには,早 に自然個体群 の調査だけでな く, ワーカー問の 平均血縁度や コロニーサイズ, コロニーの栄養 状態を実験的に操作す るような研究 も必要であ ると思 う. また,女王や ワーカーによるそれぞ れの性投資比 を検 出す るために,両者がどのよ うに性投資比 をコン トロール しているのか とい う生理機構 について も研究す るべ きであろう. 生理機構を明 らかにす ることは,単 に ミクロな レベルで現象 を理解 して い くとい うだ けで な く,対象 となる種が祖先形質 を潜在的な性質 と して受 け継 いでいるのか, またその行動形質を 種の生活史 にどのよ うに適応 させているのか, とい った行動進化 の理解 に貢献 す るはずで あ る.今後,性識別や性比調節の仕組みが さらに 詳 しく解明 されれば,近縁種問の比較研究 はよ り充実 した もの となっていき,性比調節の進化 に働 く要因 と進化の辿 った道の りを照 らし合わ せて理解で きる日が来 るか もしれない. (〒305-8634 茨城 県大 わ し1-2 独立行政法人農業生物資源研究所・動物生命科学研 究所・生体機能グループ・昆虫神経生理研究チーム) 引用文献
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ln socialHymenoptera,thesex ratio ofoff -Sprlngandtheproportionofreproductiveindi -vlduals in a colony can be manipulated by workers.Workerscan regulatethesexualpr o-ductionlnthecolonybyadjusting thenumber ofdrone,queen and worker cells that they buildandbymanipulating theamountofcare invested in drone broods depending on the season,the colony size and the nutritional status ofthe colony.Queenscan controlthe numberofhaplold and diploid eggslaid and the workers are obliged to work within this constraint.Thequeens,therefore,havetheabil -ity todeterminewhen to producemalerepr o-ductivesornon-reproductivesforcolonymai n-tenance.To clarify how a queen and workers contributetosexualproduction in ahoneybee colony,Ifocusonthefollowingtopics:(1)c on-trolofegg fertilization by queensin response toexternalcues,(2)initialsexratioadjustment by queens,(3)comb construction by workers,
(4)sex discrlmlnation ofbrood by workers.I show theresultsofbehaviouralandphysiologi -calexperlmentSanddiscussonthemechanisms underlylllgthesexI-atlOmanlpulationi nahon-eybeecolonyandonthesignificanceofprefer -entialinvestmentineithersex by queensand workers.