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就学期を迎えた障害児の母親に対する心理的支援について : 継続的な面接調査を通して 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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(1)山 梨 障害 児教 育学 研 究紀 要 第 5号 (平 成 23年 2月 1日). 就学期を迎えた障害児の母親に対する心理的支援について -継続的な面接調査を通して- 長田 由布紀*. ・. 山 口 勝 弘**. Ⅰ.問題と目的. 一般的に,親にとってわが子の就学はライフイベントであり,お祝い事である。しかし, その子どもが何かしら配慮が必要である場合,母親には複数の選択肢の中から,子どもの 就学先を決定することが求められるようになった。背景に,2007年から特別支援教育が推 進され,決定の主体が就学指導委員会から本人や親へと変更されたことがある。これによ り,特に母親に大きな責任が加わることとなった。 ライフサイクルの視点から障害のある子どもの就学期というのは母親自身の発達過程に おけるひとつの危機的状況である(佐鹿,2007)とされており,吉岡(2003)は就学まで は葛藤状態にあった母親が就学後は障害児の母親としてのアイデンティティを獲得する時 であると述べている。そして,それは母親の障害受容の一過程である。親の障害受容の研 究についてはレビュー論文(桑田ら,2004;阿南ら,2007)を概観すると大きく3つの流 れがあり,段階説,慢性的悲嘆説,その二つを統合した螺旋系モデルである。 就学を目前にした母親にとって子どもの障害をどのように認識し,対応していくのかの 研究は,アンケートと1回の面接による横断的な研究(石岡ら,2001,2002,2003)があ る。また,田宮ら(2005)が保育者へのコンサルテーションを含めた1事例を縦断的に検 討している。さらに,障害児の保護者の就学に関する意志決定過程のモデル化が試みられ ており,就学先決定の要因の調査結果として6つの尺度が報告されている(平沼ら,2004) が,当事者である複数の母親のリアルタイムでの心理を縦断的に捉えようとする研究はあ まり見られない。 そこで本研究では,障害児の母親がその子の就学にあたって体験するさまざまな出来事 の中で,母親自身に生ずる心的プロセスを明らかにし,その上で障害児の母親に対するそ の子の就学期前後の心理的支援について考察することを目的とした。. * こころの相談. ここりとり. ** 山梨英和大学 - 35 -.

(2) Ⅱ.方法. 1.対象 障害児の保護者(母親)7名(知的障害児通園施設への通園4名,公立保育所通園1名, 私立保育所通園2名 )。なお,各対象者の子どもの障害種別・程度については本研究では 限定していない。対象者のほとんどは通園施設長から紹介を受けたものであり,面接開始 まで面接者である筆者との関わりは無かった。. 2.手続き 200X 年10月から200X+1年6月の間,月1回,継続的に4回から9回の半構造化面接を行なっ た。対象者には面接開始時に本研究の趣旨・内容について文書を用いて口頭で説明し,同 意書を得られた上で開始した。1回の面接時間は60分であり,内容はすべて対象者の承諾 を得て録音し,後日,逐語記録を作成した。. 3.面接内容 ・初回. 主に就学に関する進捗状況. ・2回目. 主に子どもの生育歴. ・3回目~. 就学・母親の主観・家族にまつわる内容について. ・最終回. 継続面接の振り返りなど. 4.分析方法 面接中に語られたことのすべてを分析対象とした。①逐語記録を語りの内容別に要約し た。②要約の内容が類似したものをコード化するオープンコーディングを筆者らで行い, 94のコードが生成された。③コードが調査期間のどの時期に語られたものかを3期に分類 した。就学先の決定通知がある1月までをⅠ期,その後入学までの2月から3月をⅡ期,4月 から3ヶ月が経過する6月までをⅢ期とした。④3期それぞれに属するコードを臨床心理学 を専攻する大学院生5人でマッピングを行ない,3期のマップを作成した。具体的にはコー ドの意味内容の類似するものをグルーピングし,グループごとにネーミングしてカテゴ リー化した。得られたカテゴリーを下位カテゴリーとし,さらに意味が近いと考えられる 下位カテゴリーに対してグルーピングを行なうと同時に,カテゴリー間の関係性をマッピ ングした。このとき得られた3つのマップを各期の母親の心的構造とした。. Ⅲ.結果と考察. 以下に示す図中の矢印は,各カテゴリー間の関係性(相互・一方向)を表す。また,各 カテゴリーを構成するコードについて,コード番号・コード名を併記した。. - 36 -.

(3) 山 梨 障害 児教 育学 研 究紀 要 第 5号 (平 成 23年 2月 1日). 1. 母親の心的構造について (1)Ⅰ期(10月~1月). 図1. 暫定的決意期(10月~1月)の母親の心的構造. - 37 -.

(4) 図1に示すように,この時期は「意思決定までの心的作業」と「就学に際しての心構え」 が同時に存在している 。「心構え」が ,「意思決定」の次の段階ではなく同時に存在して おり,揺れながらの意思決定をしつつ心構えを作り,心構えをしながらまた改めて,意思 決定の過程に戻っている 。「意思決定」と「心構え」の間を行きつ戻りつしていると考え られる。また ,「意思決定までの心的作業」は「論理的思考」と「母親の情緒」の間の揺 れであると言える。意思決定とは,主観的期待効用モデルを提唱している繁桝(2007)に よれば,人は“自分の知識と認識の及ぶ範囲内で要因を統合して自分がよいと思う選択肢 を選んでいる。この意味で私たちは合理的である。私たちは迷ったときは大抵,意識して いなくても合理的な決定をめざしているし,めざすべきである”と言う。しかし,合理的 な決定をしようと努力をし,そのために「論理的思考」をしながらも,「母親の情緒」が その「論理的思考」を肯定的に受け止めることにもまた努力が必要なのである。 そこで ,「母親の情緒」の内容を検討してみると,ネガティブなものが多い 。「障害否 認」と「現実逃避」そして「家族への感情」もここでは「怒り」であり,また「感情的な 子ども理解」もその中身は「不安」である。ポジティブな情緒としては「視野の拡がり」 と「専門家のアセスメントに対する感情」の一部である。ポジティブな情緒は自分自身と 家族以外の人との関わりによって見出されているものであることがわかる。この「母親の 情緒」の内容は,多々ある障害受容研究の段階説のひとつ,鑪(1963)が提示した8段階の うちの『3.苦悩的体験の過程』と『4.同じ精神薄弱児を持つ親の発見』と酷似している。 なお,鑪(1963)の8段階説では ,『1.子どもが精神薄弱児であることの認知過程』『2.盲 目的に行なわれる無駄な骨折り 』『3.苦悩的体験の過程 』『4.同じ精神薄弱児をもつ親の 発見 』『5.精神薄弱児への見通しと本格的な努力 』『6.努力や苦悩を支える夫婦・家族の 協力 』『7.努力を通して親自身の人間的な成長を子どもに感謝する段階 』『8.親自身の人 間的成長,精神薄弱児に関する取り扱いなどを啓蒙する社会活動の段階』と区分している。 さらに ,「専門家のアセスメントに対する感情」は両価的に受け止められていることから も,専門家は子どものアセスメントをする際,母親自身が子どもに対してどのような評価 をしているかを十分に聴き,一緒に考えて行なう必要があると思われる。なぜなら,意思 決定には母親自身が障害を理解する専門的な視点を持つことが要求されていると考えるか らである。一方の「論理的思考」は「振り返り」から始まっている。実際に,本研究の面 接の際,全ての母親が実に多くの視点から多くの時間を使って子どもの生育の状況などを 振り返っていた 。「振り返り」を行ない,それを言語化することで,現在を論理的に考え られるのである。 「就学に際しての心構え」は母親自身の「心的準備」と外的な「現実的準備」とで成り 立っており,2つの視点での「心構え」が行なわれていることがわかる。支援者はその両 視点から「準備」を手伝う必要がある 。「心的準備」には「諦め」と「将来展望」が見ら れ,いずれも障害受容過程とされている概念である。鑪(1963)の8つの段階説でいえば, 『5.精神薄弱児への見通しと努力』にあたる。そしてここでも ,「諦め 」「将来展望」の. - 38 -.

(5) 山 梨 障害 児教 育学 研 究紀 要 第 5号 (平 成 23年 2月 1日). いずれにもポジティブとネガティブの両面が含みこまれており,螺旋系モデルを支持する ことになった。なお ,「心的準備」には「家族内葛藤」が見出されており,夫婦,子ども のきょうだい,母親の両親と舅姑との意見の調整が必要になっている。 以上のように,就学先の選択の意思決定を行なう過程で,母親は葛藤しながら螺旋系モ デルに準じた障害受容過程の中期段階を経験している。このⅠ期を『暫定的決意期』とす る。 (2)Ⅱ期(2月~3月) 図2に示すように,Ⅱ期に語られたことのすべては「就学準備」に集約された。Ⅰ期に 見出された「就学に際しての心構え」が,Ⅱ期に至って「就学準備」へと変容したと考え られる。また,就学を目前にしたこの期の「心的作業」は決定したことを認め納得してい くための作業であり,それが多くを占めている 。「心的作業」の内容を検討してみると, Ⅰ期でも確認した障害受容過程がこのⅡ期でも見られる。螺旋系モデルに立脚する「諦め」 と「将来展望」である。さらに新たに「自己認識」が加わり,意識が自分自身に向かって いることが確認された。Ⅰ期の「視野の拡がり」が移行してきたとも考えられる。ここで 注目したいのは「自己認識」は西永ら(2002)が指摘した『自己受容』の前段階ではない だろうか,ということである。西永ら(2002)は,母親の自己受容の程度と障害受容の程 度との間に高い相関を見出している。カウンセリング領域で重要視されている『自己受容』 という視点である。母親は自分自身の感情や興味について認識することで,自分自身の受 容に向かっていると考える。心的発達の始まりであり,変容の緒に就いたと言えるだろう。 出生直後からの「振り返り」という作業はこのⅡ期にもⅠ期同様に継続しており ,「論理 的思考」が続いていることは,既に行なわれたはずの意思決定に迷いがあるとも捉えられ る。一方「振り返り」は新たに「変化への気づき」を生んでおり,次への展開を予感させ る。まもなくやってくる変化に対する心構えが始まっていることがわかる 。「振り返り」 を行なうことにより迷いが生じる一方で,今後についての予測が可能となっている。 また,独立した状態で「子ども自身」を見出しているところにⅡ期の大きな特徴がある。 Ⅰ期では「現実的準備」として「子ども自身」を扱っていたが,このⅡ期で独立してカテ ゴリ-が見出されたことは,子どもの人格を母親から分離して確認しているように考えら れる。母親自身の「自己認識」を見出している影響もあり,母親は自分自身のことを認識 し,子どもとは別人格であることを感じ始めたということではなかろうか。子どもとの分 離については “良くも悪くも母子の心理的・身体的共生が許される風土では,障害児・ 者の自立に対する捉え方が欧米と異なって当然であろう” (吉岡,2003)との指摘もあり, 就学前のこの時期にむやみに分離をすすめる必要はないと考えられるが,一方で分離を意 識するのには好機であるとも言える。 さらに ,「就学環境」は就学における現実的な社会環境である。そこに多くのカテゴリ -を見出していることは,社会との多くの接点が見え始めたということであろう。このⅡ 期で母親は具体的にコミットメントすることになる社会環境を想定しながら,心構えを行. - 39 -.

(6) なっている。なお ,「就学環境」に抽出された「サポート」はⅠ期にはサポート資源とし て「人」に限られていたが,Ⅱ期では「人」と「サービスシステム」に変化している。こ の内容からも,社会的な視点が増えていることがわかる。母親は自分と子どもが新たな社 会システムの中に入っていくことを現実的な生活を想定することで感じているのだと考え る。. 図2. 決定の認識期(2月~3月)の母親の心的構造. - 40 -.

(7) 山 梨 障害 児教 育学 研 究紀 要 第 5号 (平 成 23年 2月 1日). 以上のように,決定した就学先への入学を目前にして,母親は新しく始まる生活を想定 しながら,心的には障害受容過程の後期段階へと向かい,「新たなアイデンティティの模 索」を行なっている。このⅡ期を『決定の認識期』とする。 (3)Ⅲ期(4月~6月) 図3に示すように,この時期に語られたことは「就学に伴なう変化」に集約された。Ⅱ 期で予測された変化を,Ⅲ期において様々な方面で実感することになったのである。そし て「地域・社会」という大きなカテゴリ-が登場することになった。子どもの就学によっ て,母親と「地域・社会」との関係が強まっている。就学する以前から母親を取り巻く「地 域・社会」自体に大きな変化はないが,Ⅲ期になって,それまで家族と通園施設や保育園 の先生といったマイクロシステムの中にだけいた子どもが,就学によって親と教師の関係 の中また親と教育委員会の関係の中といったメゾシステムや,さらには地域特性などのエ クソシステムの中にも入っていくことになる。子ども自身が直接社会システムの中で相互 に影響を与え合うことになる。 母親にとっては,就学を契機に子どもがどのように社会と関わっていくのかということ と同時に,社会から自分がどう見られるか,という母親の社会的アイデンティティの課題 にも直面することになる。また ,「学校教育」と「社会参加」は複数のコードを共有して おり,その共有するコードはいずれも,登校班に関係するものである。登校班が学校と社 会を結ぶポイントであることがわかる。障害児の登校班参加は母親が同行する場合が多く, そこで母親は登校班内でのわが子と他の児童との調整役と,登校班が通る地域の人たちへ の障害理解を啓蒙する役割を持つことになる。すなわち,ここでも鑪(1963)の8つの障 害受容過程の段階の一部が見出せる。それは『8.親自身の人間的成長,精神薄弱児に関す る取り扱いなどを啓蒙する社会活動の段階』であり,障害受容が段階的に確実にすすんで いることがわかる。 さらに ,「社会参加」と「学校教育」は「新たなアイデンティティの模索」と影響を与 え合っている 。「社会参加」をすることと「学校教育」への意識の高まりは,就学後の新 生活の現実行動から生まれるものであるが,一方でそれは障害児の親としての母親自身を 確認することでもある。それは現実行動を遂行することで始まっている。そして「新たな アイデンティティの模索」は自分自身に対する興味から成り立っており,相互に影響しな がら障害児の親としての自分自身への興味が生まれ,新たなアイデンティティの獲得への 心的作業が始まっていると考えられる。吉岡(2003)は就学から学校卒業の時期を『障害 児の母親としてのアイデンティティの確立』と述べており,本研究が就学直後に既にその 予兆が見られることを裏付けたと言える。しかし,本研究で抽出した「新たなアイデンティ ティの模索」とは ,『障害児の母親として』という範疇では括りきれないものがある。前 出の「地域・社会」の中で考察した社会的アイデンティティについては,この『障害児の 母親として』とほぼ同義であると考えられるが ,「母親自身」の中における「新たなアイ. - 41 -.

(8) 図3. 現実行動の開始期(4月~6月)の母親の心的構造 - 42 -.

(9) 山 梨 障害 児教 育学 研 究紀 要 第 5号 (平 成 23年 2月 1日). デンティティの模索」はさらに包括的なその人自身の全体像について始まったものである。 そして,その模索は「母親自身」の中だけでは完結できずに, 「社会参加」と「学校教育」 との影響によって可能となっている。一方,『障害児の母親として』だけでない,その人 自身の全体像として「母親の生活変化の現状」というカテゴリーが登場している。このこ とも ,「新たなアイデンティティの模索」に影響していると言ってよいであろう。具体的 な自分自身の状況への興味であり,現実的な生活の変化を確認することで,母親自身が変 化の時を迎えたことを実感しているということであろう。 さて,このⅢ期における過去の「振り返り」は,就学活動が始まったころから現在に至 る直近の過去であるが,その「振り返り」によって母親は「現実検討」と「現実承認」と いう形で現在を確認している。なお ,「振り返り」は就学移行期全期にわたって抽出され ており,就学先選択の意思決定と就学による変化への対応にあたって,「振り返り」とい う心的作業は重要であることが見出された。 家族に対しての認識も変化をしており,障害児自身も家族成員の一人として存在するこ とを認識している。このⅢ期に母親は,自分が家族の関係調整を行なう役割を担うことに なると感じ始めていると考えられる。夫の障害児に対する考え方や態度,障害児ときょう だいとの関係やきょうだい自身の社会生活と友達関係の様子,さらに障害児の祖父母との 関係に気を配り,母親自身の考え方との差異に葛藤することもある。家族関係の作り直し が行なわれていると考えられる。 以上のように,子どもの就学によって始まった新たな生活を実際に経験することで,母 親は,自分自身のアイデンティティを模索し,新たな役割を獲得していく。このⅢ期を『現 実行動の開始期』とする。. 2.支援のあり方 (1)暫定的決意期(10月~1月) 就学先の決定通知があるまでの時期における心理的支援の際は,就学先選択の意思決定 を終結点とせず,就学後の心構えを行ない,一旦は決意したことに対しても行きつ戻りつ するのに付き合う必要があると考える。また,母親のネガティブな情緒に寄り添いながら, ポジティブな情緒を強められるよう共感し,傾聴する必要があると思われる。それには, 中田(1995)の提唱する螺旋系モデルをイメージしておくことが有効に働くのではないか と考える。さらに,支援者は一緒に「振り返り」作業を行なうことで,子どもの誕生から 現在に至るまでの心理的な援助をする必要があるのではないかと思われる。それが,母親 の意思決定を支えることにつながるからである。 一方で,現実的には家族の調整役も母親が行なうことになることが多いため,支援者は 家族内の調整役としての母親にコンサルテーション的な関わりをすることが求められる場 合もある。また現実的準備の支援としてできることは,選択肢である就学先についての正 確な情報を提供することと,サポート資源について伝えることである。. - 43 -.

(10) (2)決定の認識期(2月~3月) 就学先が決定してから入学までの時期における心理的支援者は,就学先が決定したこと を母親が納得できるように「振り返り」に付き合う必要がある。特に母親が,就学先が決 定してからもその事実をすんなり認められないでいる場合は,この時期の「振り返り」は 有効で,迷いの再検討であり,実際に就学後の新しい生活への意欲にもつながるものであ ると考える。また ,「新たなアイデンティティの模索」を始めた母親の心的成長のため, 母親自身の「自己認識」を援助する必要がある。母親がそのとき感じていることを一緒に 確認し,母親が自分自身の感じ方や考え方のありようを知っていくことを支える。同時に, 母親と子どもは別の人格であり,それぞれの人生を歩むことを意識しやすい時期でもある ため,子ども自身はそのとき何を感じていると思うのか,一緒に考えていく必要もある。 一方この時期は環境が変化する直前の漠然とした不安があるため,支援者は就学後に想 定できる環境について正確な情報を提供することと,母親自身が就学後の環境についてど のように考えているかを十分に聴くことが必要と思われる。 (3)現実行動の開始期(4月~6月) 入学直後からの3ヶ月間ほどの心理的支援としては,母親の新たな社会的アイデンティ ティの獲得を「地域・社会」との関わりの中で一緒に考えていく必要がある。特に,登校 班における課題についても母親と一緒に考え,周囲との関わり方についてコンサルテー ションする必要がある。また,母親が就学後に始まった新生活の現実的な行動に主体的に 関わっていけるよう励まし,それが母親自身に与えている影響についても一緒に考えてい くのが望ましいと考える。一方で,現実的な生活の変化により母親自身がその適応に困難 を抱える場合もあることを心得ておく必要がある。 また,この時期に母親は就学先選択の経緯である直近の過去を振り返りながら,現在に ついて検討し,将来の見通しを語ることにより,母親自身が心の整理を行なっている。支 援者は共感を持って聴く必要がある。さらに支援者は,家族内に変化が生じることを予測 し,母親がそのことをどのように思っているのか,関心を寄せておくことが支援のひとつ になると考えられる。. Ⅳ.まとめ. 1.就学移行期における母親の障害受容 本研究で調査対象とした就学移行期は,母親のライフサイクルにおける障害受容過程の ひとつであることが明らかになった。母親の全生涯から考えると就学移行期の9ヶ月間は 短いものであるが,障害受容の視点からは母親にとっての葛藤であり,それ故,ライフサ イクルの危機状況にあると言える。しかし,危機は発達課題であり,好機でもある。その 危機状況の課題をクリアし,新たなアイデンティティが獲得されることになれば,その人 はよりよく機能することができるだろう。一方,9ヶ月の間に障害受容はその段階を踏み. - 44 -.

(11) 山 梨 障害 児教 育学 研 究紀 要 第 5号 (平 成 23年 2月 1日). つつも,両価的な感情を含みながらすすんでいくことが明らかになった。 すなわち就学移行期は,ライフサイクルの視点からは危機であり,障害受容の螺旋系モ デルを裏付けることが示唆された。この就学移行期に見出される障害受容を,筆者は『就 学時受容』と表現したい。. 2.就学移行期における母親への心理的支援者のあり方 母親から求められる就学移行期の支援として,心理的に支援する人の存在が必要である。 心理的に支援する人は母親が信頼を置き,その市町村における障害児の就学についての正 確な情報を持った専門家であり,一方で,その専門家は市町村教育委員会において就学児 とその家族についての理解が得られるよう働きかけができる信頼関係を築いている人であ る。さらに,就学後しばらく,母親自身が変化した生活環境に納得できるまで,その関係 は継続する必要があると言える。. 3.新たな社会的アイデンティティ獲得に向けて 就学時受容には子どもの障害を受容することと,障害児の母親である自分自身を受容す る自己受容がある。子どもの障害の受容については,就学先を選択する意思決定の時が, それを深められる好機である。母親は就学先を選択するとき,子どもの実態を論理的に考 え,合理的,言い換えれば専門的な視点で障害に向き合わなければならないからである。 そして自己受容については,就学先の決定が母親にとって,障害児の母親として主体的に 行動する最初の機会でもあり,自分が障害児の母親であることをその決定を通して認識し ていくことから,自己受容につながるものだと考える。また自己受容は,現実的な行動を 積極的に行なって地域社会や学校とコミュニケーションをとっていくことからもすすめら れる。行動によって,母親は自分自身の新たなアイデンティティを獲得することができ, 障害児の母親である自分としての新たな機能や役割を見出す。地域社会や学校といったコ ミュニティとのやり取りを通して,母親は新たなアイデンティティ,つまり,社会的アイ デンティティを獲得する。 すなわち,就学時受容の心理臨床的な支援のあり方は,母親の全体像を理解しながら, 就学先選択の意思決定を支え,一緒に就学という課題をうまく乗り越えて,現実の新しい 社会にコミットメントしていく足場を作ることであると考える。. Ⅴ.今後の課題. 本研究では就学移行期の7人の障害児の母親にリアルタイムでの継続的な調査面接を行 ない,その心的過程を明らかにし,支援方法への示唆を得ることができた。しかしながら 研究対象の人数は十分とは言えない。また,7人の対象者の内,4人は障害児通園施設の通 園児の母親であり,そこでは既に就学にあたっての支援を受けていた。一般の保育園・幼. - 45 -.

(12) 稚園に通園している子どもの母親を対象として調査し,研究を深めたいと考えている。さ らに,対象者の子どもの障害によって支援の時期や方法に多少のずれが生じることも推測 されるため,今後は障害別の調査研究も必要とされると考える。. 付記 本研究は2008年度山梨英和大学大学院に提出した修士論文の一部を加筆修正したものです。研究にあ たっては,研究協力者の7人の方をはじめ,本研究にお力添えくださった皆様に深くお礼申し上げます。. 文献 1)阿南あゆみ・山口雅子(2007)親が子供の障害を受容して行く過程に関する文献 検討.産業医科大学雑誌,29,73-85. 2)平沼博将・高橋実(2004)障害児の就学に関する意思決定過程(1)保護者が考慮す る要因の検討.福山市立女子短期大学紀要,30,85-92. 3)石岡由紀・堤荘祐・安藤忠(2001)障害を持つ幼児およびその保護者の就園・就学希 望に関する調査Ⅳ.神戸親和女子大学児童教育学研究,20,1-17. 4)石岡由紀・堤荘祐・安藤忠(2002)障害を持つ幼児・児童およびその保護者の就学に 関する調査Ⅴ.神戸親和女子大学児童教育学研究,21,57-76. 5)石岡由紀・堤荘祐・安藤忠(2003)障害を持つ児童およびその保護者の就学に関する 調査Ⅵ.神戸親和女子大学児童教育学研究,22,11-23. 6)桑田左絵・神尾陽子(2004)発達障害児をもつ親の障害受容過程-文献的検討から-. 児童青年精神領域とその近接領域,45(4),325-343. 7)中田洋二郎(1995)親の障害の認識と受容に関する考察-受容の段階説と慢性的悲哀 -.早稲田心理学年報,27,83-92. 8)西永堅・奥住秀之・清水直治(2002)知的障害がある子どもの母親の自己受容-弁件 研究と今後の課題についての検討-.特殊教育研究施設研究報告,1,13-20. 9)佐鹿孝子(2007)親が障害のあるわが子を受容する過程におけるライフサイクルを通 した諸要因の関連と支援.大正大学院研究論集,31,262-245. 10)繁桝算男(2007)後悔しない意思決定.岩波書店. 11)田宮緑・大塚玲(2005)軽度発達障害児の就学にむけての保護者支援-S大学教育学 部附属幼稚園の実践を通して-.保育学研究,43(2),223-232. 12)鑪幹八郎(1963)精神薄弱児の親の子供受容に関する分析研究.京都大学教育学部紀 要,9,145-187. 13)吉岡恒生(2003)学齢期以降の自閉症児の母親への長期的心理援助について-母親の ライフサイクルの視点から-.治療教育学研究,23,63-74. 14)山口勝弘(1995)障害否認から障害受容へ-障害児教育相談から見た子供と親の心理 過程-.音楽療法,4,1-9.. - 46 -.

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