小中学校における音楽の授業改善についての一考察
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(2) . 小中学校における音楽の授業改善についての一考察. 浦. 弘・水. 野. 紘. 工 音楽教育の現状 戦後, 我が国の教育は幾多の変遷を経ながらも, 教育を重視する国民性に支えられて大きく進展 し, 今日の科学技術や文化の発展の原動力となって大きな社会的使命を果たしてきた.. 昭和62年1月に発表された第2回 「国際数学教育調査」 の中間報告では, .日本の中学生の数学の 成績は世界一であるとしており, 日本の教育水準の高さを立証している. しかし, 同報告において. は, 計算にくらべ, 応用, 理解など, 高次の思考過程を必要とする領域についてはそれ程成績は良 くないなどの課題も合わせて指摘しており, このことは, 現在の児童生徒の状況を考える時, 単に 数学だけの問題に留まるものではなく, 学校教育全体にかかわる問題としてとらえていくことが必 要である, 一方, 3か年にわたり, 2 1世紀に向けて社会の変化や文化の発展に対応する教育を実現するため. の教育改革について論議を行ってきた臨時教育審議会は, その答申の中で, 世界の奇跡といわれた 戦後の日本の復興には, 学校教育が大きな役割を果たしてきたことを評価しながらも, 敗戦による . 伝統的価値規範の否定, 欧米からの個人主義や平等主義の機械的移植等の複合的な結果により, 学 校教育においても画一的, 硬直的, 閉鎖的な体質が強まり, その結果, 子供の自主的精神や個性, 自律性を伸ばすことが極めて不足し, そのことがいじめや校内暴力に象徴される児童生徒の心の蒸. 発を招いていると指摘している. そして, これからの教育は特に, 人間の心と健康の大切さを認識 し, 子供の心身両面の均衡のとれた発達に最大限の努力を払うことを教育の中心に据えていなけれ ばな らないとし, 3項目から成る2 1世紀のための教育目標を掲げている,. その中では, 学校教育においては, 特に, 豊かな人間性を培うことを基本に, 個性, 適性の伸長 を重視しており, 徳育及び健康の充実を中心に, 自然体験活動, ボランティア活動, あるいは, 集 団宿泊学習等の必要性を具体的に示している. ・ しかし, 古今, 洋の東西を問わず, 人間性の陶冶に 重要な役割を果たすものとして尊重されてきた音楽や美術など, 芸術の持つ美的情操については, 残念ながら全く触れられていないのである,. また, 昭和6 2年の1 2月には, この臨時教育審議会の答申を踏まえ, 2 1世紀の我が国の教育を展望 する教育課程の基準の改善について, 教育課程審議会の答申が行われたところである, これを見る. と, 現在の社会状況の変化への対応, とりわけ人生80年型に向けて充実した社会を築いていくため, 生涯学習の視点から自己教育力の育成を図ること, 急速に相互の距離が縮まりつつある世界の中に. あって, 国際理解についての認識を深めることを重視しているのが注目されるが, 基本的な部分に 1年12月) と比較して, さほど大きく変わってはいないといえる, ついては, 前回の答申 (昭和5 しかし, 具体的に見ると, 例えば, 中学校においては, 個性を生かす教育を充実するという視点 から, 必修教科の授業時数の弾力化, 選択教科の拡大が示されている, このことを音楽科について 127.
(3) . 三. 浦. 弘・水. 野. 紘 一. 5~7 0時間にするとしてお 当てはめてみると, 第2学年の必修音楽の授業時数を現行の70時間から3 0時間の必修音楽を設定することは可能であるにして り, 数の上からは現行どおり週2時間, 年間7. も, 他の教科や特別活動とのかかわりを考えると, ほとんどの学校では週1時間, 年間35時間にせ ざるを得ない状況にあり, 選択教科を含めても中学校第2学年の音楽は大きく後退することは明ら か で あ る.. こうした状況は, 先に指摘した臨時教育審議会の答申におけ ・る問題点と合わせて, これまで音楽 科が学校教育の中で果たしてきた役割や成果を厳しく評価するものとして真塾に受け止める必要が ある,. 音楽科教育の課題. 亘. 現在, 各小中学校においては, 特別活動や課外活動の中で充実した音楽活動が行われており, そ れを見るとそれだけで十分であり, 必修の教科としての音楽はなく とも良いのではないかという声 さ え聞 か れ る.. こうした状況の中で音楽教育は, 今後, どうあらねばならないのだろうか. 5年の 確かに音楽科の教育は, 戦後, 他の教科以上に大きく進展している. とりわけ, ここ14~1 進展には目 ざま しいもの があり, 道内の小中学校においても規模の大き●い本格的な合唱曲に取り組 み, 大人も及ばないような美しいハーモニーを奏でている学校もある. また, 多くの小中学校では, 本格的な吹奏楽を擁し, 充実した活動を行っている,. しか し, こ の よう な 音楽 の進 展 に は, 楽 器メ ーカ ー やオ ー ディ オメ ーカ ー が行 っ て いる 音 楽 教 室,. ノ教室な ど, 学校の外における音楽教育の成果が大きな影響を及ぼしており, あるいは, 個人の ビア・ 今日の発展は, 残念ながら学校教育の成果によるものと言えない面が多く,.このことが先に述べた ’う. ●い評価となって現れていると言えよ 学校における音楽教育に対する厳し こうした状況について, 西山充風氏は, 「近年, 日本における西洋音楽の繁栄ぶりを伺うことの できる現象は家庭での音楽環境の変貌にもある. (中略) 戦後の新しい教育を受けた新しい世代の 父兄が, かれら自身が十分受けられなかった 西洋音楽の教育 を子供達にはぜひとも受けさせて. やりたいという願望があったこと, そしてまさにそのような背景の中でいくつかの楽器製造会社が 急成長し, ピアノや電子オル ガンなどの販売促進策として 音楽教室 のシステムを全国的な規模 」と指摘している. で作うたことなどが主な要因であることは否定できない,注1 l.7によると, ビア ノ 2年12月 発行 Vo また, 福式書店発行の 「モノ グラフ・小学生ナウ」 昭和6. 5 などの楽器を現在習っていると答えた児童の割合は, 2 ,5%となっており, 以前に習っていたと答 えた児童と合わせると, 42 .5%にも及び, 小学生の約半数は ピアノなどの楽器を習った経験をもっ ている. また, 家にある音楽用具の調査では, ステレオやラジカセがあると答えた児童の割合は,. 89‘4%, ウ オ ー ク マ ン58 ,4%, プ レイ ヤ ー .5%, シ ンセ サイ ザー や 電 子オ ル ガン23 .8%, ピ ア ノ39 22 .4% と な っ て い る.. 一方, ある町の小学生を持つ母親に対するアンケート調査によると, 小学校で習った授業の内容. が役 に 立 っ て い る か と の 間 に対 し, 音楽 の 教 科 につ いて, と て も役 に立 っ て い ると 答 えた割 合 は,. 12 .1%で, 道徳を含めた教科等の中で最低の割合となっている. しかし, その反面, 全く役に立っ て い な い, ほと ん ど 役 に 立 っ て いな いと 答 え た母 親 の割 合 は36 .3% に も及 ん で い るの であ る.. このことは, 現在, 音楽が受験と直接かかわりを持っていないことなどにも起因しており, 全て. 128.
(4) . 小中学校における音楽の授業改善についての一考察. 音楽の授業を評価するものであるとは言えない面もあるが, 音楽教育に携わる者としては, これら の状況や評価を真塾に受け止め, これまでの実践を厳しく評価し, 音楽教育がより音楽的価値あ・ る ものとなり, 人間性豊かな児童生徒を育成する上 で欠くことのできない教科であるという評価を得 る よう 努力 して い か な けれ ばな らな い,. そのためには, 次の視点などから学校教育全体の中における音楽教育の位置づけや機能を明らか. に し て いく こ と が必 要 で あ る.. 1 音楽科の指導が学校教育全体の中で果たす役割を明確にする. 学習指導要領には, 小学校, 中学校, 高等学校を通じて, 一貫した教育活動が行われるよう関連 を図った音楽科の目標が示されており, この目標には, 音楽科の特性や進むべき方向, 学校教育の 中で果たすべき役割が簡潔に, しかも, 明確に示されている, したがって, この音楽科の目標と各 学校の教育目標を対照し,.音楽科が学校教育目標のどの部分を受け持つのか, 学校教育全体の中に おける位置づけや果たすべき役割はどうあるべきかを明らかにし, それらのことについて全教職員. の共通理解を得ることが必要である, 言いかえれば÷ 音楽の持つ教育力とは何か, そして, それが 人間性豊かな児童生徒を育成する上でどのように機能させるべきなのかを明らかにしていくことで. あり, なぜ学校で音楽を教えなければならないかを明らかにしていくことでもある.. こ の こ と に か か わ っ て● , ベ ネ ッ ト・ リ ー マ ー は, 「な ぜ す べ て の 人 に音 楽 と いう 芸 術 の 本 質 を 理. 解するための機会が与えられなければならないのか. それは, 音楽芸術が現実を ミ知る た めの基 礎的な方法だからである.注2 」と現実認識について指摘しており, マーセルは, 「音楽は, 精神の中 枢に生命を与え, -- 至高なものが, 時間, 空間, 及 び一切のこの世の蹟事を越えた宇宙の中に 私たちを引き上げる. (中略) 音楽は, 世界と人類の関係を正しくし, 人間の視野を拡大する,注3 」 と 述 べ て いる.. 言うまでもなく音楽がその本質に持っているものは人間の表出であり, また, 感性への働きかけ. であ る,. 発現と同時に衰退し, またたくまに消滅していく音を確かなものとして認識し, その組み合わせ の連続が, 時間の経過の中で聴く者の心の中に心象として美を形成していく. 時間芸術としての音 楽の価値と自らのものとして把握し得たとき, 自己を含め, 世に存在する全ての者を ・価値あるもの として認識し, その働きや微妙な変化を含め, 自己とのかかわりの中で大切にしていこうとする心 に結びつくものであり, 現在の児童生徒に最も強く求められている真の人間としての他者理解の基. 礎を成すものであるといえる.. 2 音楽科の指導について, 考え方の転換を図る. 現在の学校における音楽の授業のほとんどは, 学級を対象として行われており, 教師が模範ある いはあるべき姿を示してやり, 児童生徒は教師の指示に従って一斉にそれに近づくよう練習を積み 上 げる と いう もの で ある,. そ こ で は, 一 人一 人 の 児 童生 徒 が何 を 考 え, ど の よう に活動 した かと いう こと につ い て はほ と ん. ど問題にされず, 全体としてどれだけうまく できたか, 美しく表現できたかという結果のみが重視 さ れる,. 柳生 力氏は, こうした状況について, 「たとえば, 表現活動において, 常に学級全員で一斉に 129.
(5) . 三. 浦. 弘・水 野. 紘. 一. 音を出すことに終始する授業などである. ここでは学級の中に自分とは異なった個, 優れた個の存 在 することの認知はもちろん, 他を聴き取ることによって自己の学習目標なりの 基準を主体として 」と述べている, 設定しようという営みの芽生えることは困難であろう.注4 自主的, 創造的な活動の必要性について は, 長い年月にわたり叫 ばれ続けてきたのにもかかわら ず, 現在においても依然としてこう した状況から抜け出し得ないでいる原因はどこにあるのであろ う か,. 我が国の音楽教育の歴史を見ると, 大和時代, 味摩之の伎楽の指導にその端を発するといわれて いるが, 特に, 江戸時代における三味線や事の指導が現在の音楽の授業に大きく影響しているとい え よう.. 江戸時代においては, 三味線音楽や事曲が大きく発展し, 教養, 娯楽などのため音楽を学ぶ者が. 多 か っ た と い わ れ て い る,. 「師匠から伝授されるものは, 師匠が伝えている楽曲の正確なる暗譜のみであった. 一般に理論 的な体系 づけを拒否するこの時代の風潮は,音楽の領域においても同様であり,作曲法・音楽理論・ 演奏論などが生まれるはずがなく, 革新的く創作を行うため教育は皆無であったことはいうまでも ない. 言いかえれ ば, この時代の音楽の主流であった事曲・三味線音楽における教育は, 個性を無 」 視 し, 一 つ の 流 派 の型 に は め こ む 教育 で あ っ た,注5. このような事曲, 三味線音楽の指導は, ごく最近ま で行われてきたものであり, 人々の意識の中 に指導のモデルとして強く印象づけられており, 学校における音楽の指導もその影響を強く受けて いる と 考 え ら れる の で あ る.. また, 明治2 5年3月 に出版された伊沢修二編の小学唱歌につけられた教授法及び解釈の内容は, 「前半においては, ①問答形式によってこの曲がへ調であることを教え, 変記号bの位置を確認さ せたうえで, ②この曲の音域即ち1点へから2点二までの音階を一二-……で歌う練習をし, ③本 曲の一般二般を教え, 「槍々熟シテ」 後, ④三段の本位記号について教え, 三段を練習し 「殆 ド熟 スルラ待チ」{中略) 即 ち, 教授=学習の内容は, 次の三つに整理できる, 1. 階名の練習とその 習熟. 2, 音 階・ 調 ・ 転 調 に つ い て の 理 解. 」と な っ て お り, こ れ が書 3. 歌 詞 につ い て の 理 解注6. かれてから約10 0年という年月 を経た今日も, 階名の読み方を除いて, ほとんど変らない姿で指導 が行われているのに気付き, 驚きを禁じ得ないのである.. 確かに, 基礎的な技能の習得なしに美しい表現を求めることは無理であるし, 辛く厳しい練習を 乗り越えて自分の音楽を作り上げた時の感動は大きい. しかし, 現在の音楽の授業においてはそれ を大義名分に, 児童生徒の興味・関心や心情の啓発を無視し, 教師が過去に受けてきた指導をその. まま押しつけ, 児童生徒は, 音楽や活動についての興味・関心や, 学習することの意義すらも見い 出すことができぬまま, 無味乾燥な反復練習を強いられ, 音楽は辛いもの, 苦しいものと条件づけ ら れ て い る の で ある,. 言うまでもなく小中学校の音楽教育 は, 全ての児童生徒を対象に, 音楽を通して心の豊かさを培 うものであり, その活動は常に音楽の味わいを追求し, 美しさに感動するものでなけれ ばならない, 音楽の楽しさを味わい, 美しさに感動する活動の中で基礎的な技能の習熟を図り, より美しいもの を目指す意欲, 物事に向う意欲を育てる指導を工夫していくことが緊要な課題であることを改めて. 考える必要がある, いわば,「音楽を教える教育」から「音楽を通して教える教育」へ指導観の転換を図ることである.. このことは, 特に新しい考え方というわけではなく, これまでも多方面から幾度も提唱されており, むしろ言い古された感が強い, しかしながら, 依然として 「音楽を教える教育」 が主流をなしてお 130.
(6) . 小中学校における音楽の授業改善についての-考察. り, 音楽科の指導を真に生きて働く力を育成するものにしていくためには, これま で行われてきた 教材中心の 「楽曲による題材構成」 の指導から 「主題による題材構成」 の指導へ転換を図っていく. 必要がある, 「主題による題材構成」 の考え方は, 昭和3 4年9月文部省発行の中学音楽指導書, 第3章第2節 の5, 指導計画作成上の留意点において, 学習指導過程の構成法の一つとして, 音楽の題材 (学習. のまとまり) を中心とし, 教材を適合配列していくものとして, つ ぎのように示されている, 「た とえば, 教材配列の重点を季節, 行事や学校生活におき, 選曲に技術や能力の積み重ねを考慮した もの, あるいは, 音楽題材 (たとえば 「世界の民謡」 「音楽の形式」 など) を, 生徒の心身の発達. にあわせて教材配列を考慮し, あわせて基礎的な技能の系統的な学習と並列し, 相互に関連あるよ うにしたものはその例である,」 としているが, この場合は, 生徒の日常生活との関連を重視し, 興味・関心を高め, 音楽の生活化を図るための一方法として示したものであり, 指導の中心は, 楽 曲をこなす, 深く味わうという楽曲構成のものであった, その後, 昭和4 4年の学習指導要領の改訂においては, 「基礎」 と 「日本の音楽」 の指導が新たに 加わり, 大きな話題となったが, この段階においては, 主題による題材の指導については全く触れ られていず, 楽曲による題材構成の指導が続けられていた.. 改めて, なぜ楽曲による題材構成の指導, 言いかえれば, 楽曲の持つ音楽的価値に依存した楽曲 を教える指導が長年にわたって続けられているのかについて考えてみると, 先に述べた日本の伝統. 音楽の指導方法や明治時代の音楽教育法が形式や伝統を重視する国民性と相まって学校教育におけ る音楽の指導に大きな影響を及ぼし, その結果教材には教育内容を構成するあらゆるものが顕在的 あるいは潜在的に備わっており,教材は即教育内容そのものであると考えられてきたのである.従っ て, 様々な曲を歌ったり聴いたりすることにより, 教材の持つ教育力が児童生徒をして望ましい方. 向に導くと考えられてきた, このことは, 現在においても, 各種研究会, 研修会における授業案(指 導案) の中における 「題材について」 を見ると, 本来記述されるべき題材を設定する必然性やねら い, 指導観や児童生徒のレディ ネスなどを総合的にとらえ考察した指導者の教育哲学ともいうべき. 内容は皆無であると言ってよいほどであり, 楽曲の良さや特徴, 要素等についての解説やそれらが 児童生徒に与えるであろう影響を述べているだけである.. しかし, 近年, 我が国においては科学技術が急激に発展し, それに伴って情報の量も増大し, 価 値観も多様化している, 「現在の6歳の子供の知識量は, 戦前に6 0歳の老人が持っていた知識量に 注 7 匹敵する, 」と言われているように, 情報量の増大, 価値観の多様化は児童生徒の上にも大きな 影響を及ぼしており, 児童生徒の多様化した興味・関心や欲求に対応していくためには, もはや一. つの楽曲の持つ価値や教育力 だけでは不十分になっているのである, 従って, 児童生徒の欲求や発 達段階, 学習の適時性などに配慮して, 身に付けさせるべき事項を明らかにし, それを達成するた め, 最も効果的な教材をいくつか用意し, 多様な学習活動を通して総合的に音楽的諸能力を高めて いく 「主題による題材構成」 の指導に転換を図ることが必要である. 昭和53年5月に発行された現行の学習指導要領の中学校指導書, 第4章, 第1節の2, 指導計画 の作成の手順の中では, 楽曲による題材 ミ音楽的まとまりによる題材 の二 通 りを 示 し, そ の い ずれにも利点があり, 十分研究しなければならない重要な課題であるとしている,. 確かに「楽曲による題材構成」「楽曲による題材構成」のいずれも利点と欠点を併せ持っているが, 」 から 「音楽を通しての指導 (楽曲を通しての指導) 「音楽の指導 (楽曲の指導) 」 に転換するため. には, 「主題による題材構成」 について十分研究を深め, その上で 「楽曲による題材構成」 の利点 を取り入れていく必要がある. 131.
(7) . 三. 浦. 弘・水 野. 紘 一. 「主題による題材構成」 の利点 ア 指導目標が明確になり, 内容が精選・構造化される.. 学習のねらいが明確になり, 児童生徒の意欲を高めることができる. 指導内容の系統性や発展性 が明確になり, 基礎的な技能や能力を無理なく, 確実に身に付けさ. イ. ウ. せ る こと がで き る. エ 多様な学習活動により児童生徒の興味・関心を高め, 主体的・創造的な活動を促すことができ る,. .. ・. 複数の指導過程などが容易に設定でき, 学習の個別化を図ることができる. 学校の教育目標とかかわりを明らかにすることができ, 学校教育の中における音楽科の位置づ. オ 力. けや役割を明確にすることができる,. m. 音楽科の授業改善の視点. 昭和52年に改訂された現行の学習指導要領においてはそれ ま で, 基礎, 歌唱, 器楽, 創作そして 鑑賞と,五つの領域であったものを整理,統合して表現と鑑賞の2領域とした.このことにかかわっ. 3年5月, 文部省発行の指導書では, 「表現と鑑賞とに分けることすら問題であるという て, 昭和5 考え方もあり, 表現と鑑賞は表裏÷体の関係にあり, 離すことはできない」 とし, 表現と鑑賞の関 連を図った指導の必要性を強調している, 確かに表現においては良い演奏を聴いてそれを参考にして表現を工夫したり, 互いの表現を聴き 楽器で演奏するなど, 合ってより良い表現に高めたり, また鑑賞においては主な旋律を歌ったり,. 互いに切り離されない形で活動が行われている.. しかし, 表現は, 自己の感情を音を媒介として表出するものであり, 鑑賞は, 表現されたものの の中に受け入れ, 価値を見出しそれを自己, .音楽観の拡大を図るところにその本質がある. 特に, 小 歴史の長く 中学校における鑑賞の内容は, , 厳しいフィ ルターをくぐりぬけ, 選びぬかれた楽曲の 持つ高い価値に触れることをねらいとするものであるところから, 表現及び鑑賞それぞれの特質を 明らかにし, それが指導に十分生かされるよう手だてを講じた上で, より効果のあがるよう関連を 図 る の で な け れ ば, 何 を ね らい と す る の か 不 明 確 な 指 導 に陥 る こ と にな る の で ある.. 従って, 改めて表現と鑑賞の特質を再認識し, それぞれの特質を生かした効果的な指導について, 次の点などから改善を図る必要がある, 1. 表現の指導における授業改善の視点. 学習指導要領に示されている小中学校の音楽科の目標には, 音楽を愛好する′ 晴の育成が掲げら れているが, 児童生徒はもとより, 全て人間は本来的に音楽が好きであり, 音楽的な生物であるは. ずである. このことは, 音楽の起原を考えても, 人間以外に音楽を持つ生物がないことを考えてみ ても明らかである. しかし, 音楽科の目標には, 音楽を愛好する」い清の育成が強調されており, 現 行の学習指導要領 が実施されてからは, そのことが流行語のごとく取り上げられてきたのである. つ ま る と ころ, この こ と は, 裏 を 返 せ ば, こ れま で の 音 楽 教 育 は, 児童 生 徒 の 心 に訴 える もの にな っ て い な か っ た と い う 厳 しい 指摘 で ある と と ら えな けれ ばな らな い の で あ る.. 小中学校における音楽の授業は, 歌唱, 器楽, 創作, 即興表現などを内容とする表現の活動が中 132.
(8) . 小中学校における音楽の授業改善についての一考寮. 核となっている, 従って, 次の点などから児童生徒の心を動かす表現の指導へ改善を図っていなけ れ ばな らな い.. ( 1 ) 表現しようとする意欲を高める. 改めて述べるま でもなく学習意欲を高めることは, 学習指導の基本をなすものであり 全ての教 , 科において課題となるものである, しかし, 心に感じたことを音を媒介として表すという表現の活. 動においては, ある面では自分の赤裸々な姿を人前にさらけ出すことになり, 日常の学校生活の全 ての場面で, 教師や級友か ら絶えず何らかの形で評価され, 順序づけられている児童生徒にとって は, 非常に大きなエネルギーを必要とするのである. 外からの刺激に対して心に感じたものを表現 しよう, 何らかの形で他に伝えようとする意志に転化させるエネルギーが意欲であり 多様化した , 児童生徒の興味・関心に応え, 表現しようとする意欲を高めるため, 広い視野から工夫していかな けれ ばな らな い.. ( ) 教材の選択及び教材の提示を工夫する. ァ 教材とは, 一般的には, 学習に使う材料であり, 学習者が文化的価値を獲得するときの媒介とな るものである, 音楽科においては, そのほとんどが楽曲である. 前述の中学校指導書音楽には, 教材選択の留意点とし次の事項が掲げられている. 0音楽的に質の高いものを選択すること.. 0生徒の心身の発達段階に応じたものを選択すること. 0音楽的, 教育的に広い視野に立って選択すること.. 0小学校との関連を考慮して選択すること, この他, 児童生徒の興味・関心や欲求に応えるもの, 児童生徒が主体的に働きかけることができ ,. 児童生徒自身の手で何かをつかみ取ることができるもの, などについても留意する必要がある, 現在, 学校における教材選択の状況を見ると, ほとんどが教科書に掲載されている教材だけで指 導計画を作成している. 教科書以外から教材を取り入れている学校においても ほとんどは学芸会 , や学校祭等行事における発表用の特別な曲で, 広い視野か ら教材を選択し, 多様な学習活動を構築 する と いう 本来 の ね ら い に基 づ く もの と はい え な い.. 教科書については, 学校教育法第2 1条の第1項及び第4 0条にその使用が義務づけられているが, 同法第21条の第2項においては 「教科書以外の図書その他の教材で, 有益適切なものは, これを使. 用することができる.」 と示されている, このことは, そのような教材があれば使用しても良いと いう程度のものではなく, 改めてここに取り上げられている意味を考えるとき, むしろ, 教科書以 外からも積極的に教材を取り入れ, 多様な教育活動を行う必要性について示していると解すべきで あ る,. 供田武嘉津氏は, 「音楽教育課程の編成における教材の選択や配列に際しては, つ とめて児童生 徒の生活経験を重視する立場から, 教科書を一つの手引き書とみなし, 地域社会の実情と児童生徒 の興味・関心を考慮しつつ, あくまでも自主的な配列を工夫する必要があろう,注8 」と, 児童生徒 の実体に即した, 主体的な教材選択の必要性について強調している. いうまでもなく教科書は, 学習指導要領の目的や内容, 留意点等に即し, 効果的な指導が行われ るよう多くの研究を重ねて作成されたものであり, 最も有効な教材集として多くの比重がかけられ るのは当然である. 従って, 供田氏の, 一つの手引き書と見なすということは, 学校教育法の規定 からも ・行き過ぎの感があるが, 教科書は, 全国的に一定水準の教育を実現するという視野から作成. されたものであり, 特に, 本州と季節や自然環境あるいは, 生活環境などが大きく異なる北海道に おいては, 学校や児童生徒の実体にそぐわない面が多い. 児童生徒の意欲を高め, 効果的な指導を 133.
(9) . 三. 浦. 弘・水. 野. 紘. 一. 行うためには, 先に述べた観点などから教科書教材についても見直し, 効果的な教材選択を工夫し ていかなければならない. また, 選択した教材をどう活用するのか, どの部分を活用するのか, 言 いかえれば, 学習のねらいを達成するため, 楽曲の持つ教育力をどのように活用するのかというこ. とを明らかにし, それぞれの楽曲の持つ教育力の関連を図って構造化するとともに, 効果的な提示 の仕方を工夫することである,. 教材提示とは, 新しい学習内容を教師が児童生徒に示すことであるが, 児童生徒の心に働きかけ, 心を動かすことを最も基本に考えなければならない音楽科においては, 教材と最初に出合う教材提. 示の仕方によって, その後の学習が左右されると言っても過言ではない, どのような曲なのか, ど のように学習するのかということはもとよりメ 何故この曲を学習するのか, その学習が自分にとっ てどのような意味を持つのかなどを含めて効果的な教材提示の仕方を工夫しなければな らない. イ ) 教師の言葉によ る働きかけを工夫する. (. 授業においては, 教師は児童生徒に対し, 課題の提示や発問など, 非常に多くの言葉による働き かけを行っている. ある授業では, 教師の発言が3 7 8回, 生徒の反応が13 0回という記録に残されて い る. 50分 間 の 授 業 の 中 で378回 の 発言 は1 分 間 に す る と 7 ~8 回と な り, 7 ~ 8 秒 に1 回 の 割 合 で言 葉 に よる 働 き か け を 行 っ て いる の で ある.. このように, 授業における教師の言語活動は, 時間の大半を占め, 児童生徒の活動や考えを左右 する非常に重要な役割を果たすものであるが, とりわけ, 学習意欲の高揚を図る上から, 教師の診. 察と診断の働きかけを重視していかなければならない, 坂元. 昂氏は, このことにかかわって教育工学の視点から, 教授学習過程の一ステッ プ, 教師の. K R 情 報 と して 重 視 して いる. 「K R と は, 結 果 の 知 識 と いう 英 語 (瓜nowl fResu l t) の 略で, edgeo. フィー ドバックに当たる学習心理学上の用語である, つまり, 子供はKRによって自らの反応の結 果について知ることができるのである. 教師は, 子供の反応を評価して (中略) 結果をそのまま子 供 に提 示 した り, 感想 を の べ た り, 目標 の ズ レの 程 度 を 知 らせ たり す る, コ トバ だけ でなく, に っ. こりほほえんだり, うなずいたりする, そのおかげで子供は自分の行動の結果, 言いかえれば学習 の程度を知ったり, 教師が自分のすることを受け止めてくれることを知り, 学習を積み上げていく こ と が でき る の で あ る,注9 」. 自己の発言や行動の結果が正しかっ たのか, どのような評価を受けているのかということについ. ては, 児童生徒に限らず大人でも気になるものである, 従って, 教師の発問に対する児童生徒の応 答の正誤や適否などを明らかにしてやるKRはもとより,発言にあいずちを打って,やったり,ちょっ とした心の動きや感動のしぐさにうなずいてやったり, 机間巡視で学習の進み具合を示してやるK Rなど, 個々の学習状況に目を向け, 認め, 励してやる活動こそ意欲を高める基本であり, 感性の 教 育 で ある 音 楽 科 に お い て は, 最 も大 切 に して い か ね ばな らな い こ と が ら である.. 昨今, 一人一人を生かす指導, あるいは, 個に応じた指導などが強く求められており, 道内の小 中学校の研究主題を見ると, 昭和6 1年度においては, 小中学校合わせて443校で一人一人に視点を. 当てた研究主題を設定している程である. とかく, 学校における個に応じた指導, あるいは学習の個別化などについての研究では, 習熟度 別に課題を設けたり, 分枝型の指導過程による学習など, 大上段に振りかぶった研究が多く, 労力 の割に成果がともなわないなどの状況も見受けられる, しかし, そうした手だて以前の基本的な問. 題として, 教師の意図的, 計画的, そして, 人間的な暖かさに満ちた KRにより, 個別化の最も重 要な部分が達成されるのである. ( 2 ) 豊かな表現を支える基礎技能の習熟を図る,. 134.
(10) . 小中学校における音楽の授業改善についての一考察. 言うまでもなく表現には技能が必要であり, 豊かな音楽活動を行うためには, その支えとなる技 能に習熟する必要がある, こうした表現の支えとなる技能, 言いかえれば, 音楽活動の基礎・基本 についてはこれまでも重視されてきており, 昭和48年に改訂された学習指導要領においては, 領域 として 「基礎」 が設定された, また, 現行の学習指導要領では, 改訂の基本方針の一つとして各教. 科の基礎的・基本的事項を確実に身につけさせることが示されており, もう一つの柱であるゆとり と充実とともに, 流行語のごとき様相を呈したところである, 更に, 今回の教育課程審議会の答申 においても, 改善の方針の一つとして基礎的・基本的内容の重視を掲げているところである.. 基 礎 ・基 本 と は何 か, と いう こ と につ い て は, こ れま で, 各方面 か ら論 議 さ れ て き た と こ ろ であ. るが, ここで児童生徒の豊かな表現のため, 今一度考えてみたい,. こ の こ と につ い て, 大 和 淳二 氏 は, 「基 礎 ・ 基 本 と は何 かと いう こと につ いて は, 多 く の 考 え 方. があるけれども, 音楽科に関しては, 教科の目標にその全てが述べられている. 表現・鑑賞の実践 的な活動, 音楽性, 愛好の」心情, 情操というものは, 音楽学習の基礎, 基本として言いつくされて いる も の と考 え られて い る, た だ, 一つ だ け重 要 な こと を 更に 付 け 加 え てお き た い.. 子供の感覚・感性を基本に, 音楽の基礎, 基本と, 音楽学習の基礎, 基本を混同しな いようにし. 0 た い もの であ る,注1 」と 述 べ て い る と こ ろ で ある,. このように, 長年にわたり, 多方面から基礎, 基本の重視が叫ばれてきたにもかかわらず, 依然 として身についていない原因を考えてみると, その一つとして, 前述したように, 楽曲中心の指導 により, この曲で何が指導できるのかという楽曲の価値が先行し, 系統的な指導に不足していたこ とがあげられ, 更には, 大和氏が指摘しているように, 音楽の基礎, 基本と, 音楽学習の基礎, 基 本が混同されていたことなどがあげられる,. 一方, 昭和4 8年に改訂された学習指導要領においては, 領域の一つとして 「基礎」 が設定され, リ ズム, 旋律, 和声に関する指導事項が具体的に示されていた, しかし, 「基礎」 をはじめ, 五つ の領域がそれぞれ一人歩きし, 内容が過密なものとなり, 音楽科としてのねらいが薄れてしまうな どの弊害が現れたため, 現行の学習指導要領においては, より広範な, 包括的な指導体系が得 られ るよう表現と鑑賞の2領域に統合し, 内容についても大幅に削減したのである. しかし, この領域の統合及び内容の削減は, 弾力的かつ創意に満ちた指導が行われるよう細部に. わたる記述を避けたのであって,昭和48年の学習指導要領に示された内容を基本とするものである. 例えば, 中学校の学習指導要領, 指導計画の作成と内容の取り扱いには, 「3年間を通じて2#, 2 b程度までの楽譜の視唱に慣れさせるようにすること 」と示されている この慣れさせる意味は , . , これまでともすれば陥りがちであっ た目的意識のない単なる反復練習は避けるべきであるという方 法上の留意事項として示したものであるととらえるべきなのである. 視唱の本質的な意味を考える 時, 触れさせる, 慣れさせる段階に留まるものではなく, 自分の力で楽譜に示された音を表現でき る力 ま で 含め て い る こ と は 明 ら か で あ る.. しかし, 現行の学習指導要領においては, 内容の削減に加え 目標の中に新たに 音楽を愛好す , , る′か湾の育成が盛り込まれたところから, これまで ともすれば無味乾燥な反復練習になりがちで , あった基礎技能の習熟については, 音楽を愛好する′辞清の育成に遂行するものであるかのごとき取 り扱いを受け, その結果, 興味本位で, その場限りの深まりや発展性に欠ける活動になっているな どの状況が見受けられるのである, 特に, 先に述べた読譜力及びその発展としての記譜力について は, 小学校, 中学校とも, 全国的に著しく低下している状況にある, 細谷俊夫氏は, 反復練習について次のように述べている. 「生徒はその習得した知識のうち重要 なものはこれを反復によって定着させねばならない. 反復といってもただ機械的な反復が必要なの 135.
(11) . 三. 浦. 弘・水. 野. 紘. 一. ではなく, 豊富な材料について比較し, 分析し, 総合し, 相互関係を系統化するという各種の思考 作用を起こす十分な機会を与えはじめて知識の定着が可能になるのである. (中略) オコンは, ミ最 も優秀な教師は, 一見ただ教材を繰り返している だけにすぎないように見えるが, それにもかかわ らず迅速なテンポで進んでいる. というウイシンスキーの言葉を引用 して,教材を反復することは, 時間を浪費することではなく, むしろ時間を節約することである,注=」と述べている. このことは, そのまま音楽化における基礎技能の習得にも当てはまるものである. 指導方法の工夫により, 児童生徒の主体的, 創造的な活動として基礎技能の反復練習を行うこと. が可能なはずであり, より深い豊かな表現のため, 基礎技能, 特に 読譜力; 記譜力の育成につい , て, 指導を充実していく必要がある, ( 3 ) 歌唱, 器楽, 身体反応, 創作などについて, 調和のとれた指導を工夫する. このことについては, 単に表現だけの問題に留ま らず, 鑑賞との関連を図った指導の工夫が必要 であり, そのためにも前述した主題による題材構成の特質を生かした指導への転換が求められて・ い るのである, しかし, 学校における指導の状況を見ると, それ以前に早急に解釈しな ければならな い次のような問題がある. その一つは, 歌唱, あるいは器楽の活動への偏 りであり, もう一つは大曲への偏りである, 両者とも音楽的に質の高い表現を求め, 児童生徒に質の高い音楽経験を得させたいというねらい. に基 づく もの で あ り, そ の こと につ いて は, 何 等 異 論 を 唱 え る も の で はな い, しか し たて ま え は ,. そうであっても, 実際には教師の好み, あるいは特異な領域に偏するなど 窓意的な指導が行われ , て い る の で あ る. そ して そ れ は, 年 間 計画 にな い 曲 で あ っ た り, あ っ た と して も そ れま での 音 楽 ,. 経験や学習内容と関連性がなかったり, また, 6年間あるいは3年間の見通しがないまま それぞ , れ曲や活動が設定される目的やねらいが明らかにされないままに指導が行われているため .良質の , 音 楽 を 与 える 前 に, 逆 に マ イ ナ ス に 作用 して い る こ と が多 い の であ る.. その÷つの例 として大曲を取り扱う場合を考えてみると, 歌唱においても器楽においてもパート 練習と称する グルー プによる活動を行うことが多いが, その場合のほとんどは, 音楽的な能力の高. い児童生徒がリー ダーとなって指導を行ったり, 全体の指揮や伴奏を行っている. ー見それは, 児童生徒が自分達だけで自主的に学習を進めているように錯覚しがち である . 確かにリーダーとなった者は教師や級友からその存在を認められ, 自己の考えや気持を表現する ことができ, 他を教えることにより自らも多くのことを学ぶなど, 一面では自己実現をしていると 言うこともできよう. しかし, 年間の学習内容の系列から考えてみると, 他を教えるということは , そ こ で 足 踏 み を さ せ ら れ, 先 に 進 むこ と を 止 め ら れて いる と いう こ とな の で ある,. また, 教えられる者について考えてみると, 音楽が不得意であり, 態度も消極的で 音楽が嫌い , だという者が多いの. である. そのように児童生徒が教師よりも教え方が下手で, 教育的な配慮もで きない同じ仲 間に指導されるのであるから, 反発を感じて一層音楽が嫌いになる者が多い.. 従って, こうした児童生徒同士による活動を行わせる場合には, その活動のねらいや必然性を明 らかにし, 児童生徒にそれをしっかり把握させることはいうまでもなく, 最近, 生徒指導の機能を 生かした授業, カウ ンセリングマイ ン ドに根 ざした授業ということが強く求められている ように , 児童生徒相互の人間関係を良好なものにし, 互いに認め, 励し合って学習する気風を土台にしてい かなければ効果は期待できない. ブルーナーは, 名著 「教育の過程」 を著した後 更に 「教育の過程と再考する」 の中で 新しい , , 時代の学力, 社会的学力として, ア 共に学び, 教え合う共同. イ 人間同士の相互扶助. ウ 人 間 と して の 出 合 い の 体 験. の 三 つ を 示 して い る.. 136.
(12) . 小中学校における音楽の授業改善についての一考察. 児童生徒が相互に教え合う, あるいは, 学 び合うという活動は, 単に授業の効率を高めたり 教 , 師の指導機能の拡大を図るなどの手段としてだけではなく, そのこと自体がねらいとなる目的的な. 取り扱いが必要である, 音楽科の目標や学習教育において果たすべき役割等に鑑み, いたずらに教師の好みや得意領域に 偏した指導からぬけ出し, 歌唱, 器楽, 創作, あるいは, 鑑賞についても有機的な関連を図り 調 , 和の取れた指導を工夫するとともに, 学校行事やクラブ活動, 部活動, 校内放送などとの関連につ いても考慮し, 学校の全教育活動の中でそれぞれが関連し, 相乗効果をもたらすよう, 音楽教育の 全体的計画を作成するなど, より効果的な指導が行われるよう工夫していかなければならない, 2 鑑賞指導における授業改善の視点 現在, 高等学校への進学率を見ると, 全国的に9 4%を越えており, それに伴い, 義務教育の非完 結性が論じられているところである,. しかし, 音楽科について考えてみると, 高校に進学して, 更に音楽を履習する者は2 0%程度で, ほとんどの生徒は義務教育を終了した段階で音楽教育とはかかわりをもたなくなり, 趣味, あるい は教養としての自主的な音楽活動となる. 更に, 時間的に問題や接する機会, 場など, 音楽とかか わる条件を考え合わせると, その活動のほとんどは鑑賞になる. 高齢化が進み, 8 0年型の人生と言われている今日, 生きがいを持って充実した人生を送るために. は, 音楽が大きな役割を果たすものであることは論を待たない, しかも, そのほとんどが鑑賞にな る状況にあっては, その基礎を担う小中学校の鑑賞指導の充実は, 児童生徒一人一人の人生を左右 する もの で あ る と 言 っ て も過 言 で はな い,. しかし, リーマーは, 「鑑賞は, 音楽教育の中で極めてひどい誤った取り扱いに悩んできた, (中 略) 鑑賞授業というと誰もがすぐ次のような光景を思い浮かべてしまう, -- 一方的に話をする. 教師, 退屈でばおっとしているか, または騒々しく て暴動でも起きたかと思わせるような教室, 聴 いてもいない音楽をかき鳴らしていつまでも回り続けるレコー ド, こんな立派な音楽が, 応答にお. いては何物をも生み出していないという教師の失望感, わけのわからない音楽にまじめにつき合わ 2 なければならない子供の側のとまどい……注1 」と鑑賞指導の問題点を指摘している. 現在, 我が国の学校で行われている指導は, これ程ではないにしても, 学習指導要領に定め′られ. ている鑑賞共通教材を, 指導が義務ざけられているということだけで目的も明確でないまま楽曲を 聴かせ, 感想を言わせたり書かせたりすることがほとんどを占めており, 児童生徒は, 何をどのよ. うに聴いたらよいか, 手掛りさえもつかめないまま, 漠然と楽曲に触れているのである, 言うまでもなく鑑賞とは, 芸術作品を鑑識して, そ の性質, 効果, 価値を深く味わい, 明らかに. することである. とはいえ, 芸術作品は, その価値が高けれぱば高いほど美的特質は多岐にわたり, 複雑にからみ合っている, 従って, それを見出し, 深く味わうためには, 楽曲の中に深く入り込み, 自分の経験を創造しなければならない. そのためには, 自ら求めて楽曲の中に入り込む意欲と, そ. の特質を見出して価値判断し, 自らの経験の中に位置づけていく技能の習得が必要である, 林 静一氏は, 「音楽は三度の食事である, 栄養価を計算した調理で, 主食と副食物の配合から,. カロリーまで計算されたものである. 三度の食事を乱しては心身の成長に支障をきたす. これが基 3 礎学習 であり, 音楽性の創造である.注1 」と述べている, しかし, とりわけ鑑賞の指導においては, 林氏の言を借りるならば, 栄養価やカロリーの計算どころか, 共通教材であるということだけで, 何故食べさせなければな らないのかを明らかにしようともせず, 子供が食べやすいように, 食欲を 137.
(13) . 三. 浦. 弘・水. 野. 紘. 一. そそるように工夫をせずに与えているのが現状である, 本来, 煮たり焼いたり, 一人一人の好みの 味つけや食欲をささるように彩りなどが工夫されるべきものであるにもかかわらず, 生のまま, 大 きな塊のまま食前に供せられるのであるから, 食欲を無くしたり, 無理に食べさせられて消化不良 を起こし, 拒否反応を示す者 が出るのも無理からぬところである,. こ の よう に, 鑑 賞 の 授 業 が効 果 的 な もの にな らな い原 因 を ま と め て み る と, 次 の よう にな る.. げ) 教材が児童生徒の興味・関心やレディ ネスなど, 実体に即していない. ”) 楽曲の解説や聴きどころの説明など, 楽曲についての知識を得たり理解するなどの活動が中 心・に な っ て い る.. ウ ( ) 聴き方や聴く手がかりなどが示されないため, 何をどう聴いたらよいか分からぬまま, 漠然 と 楽 曲 に接 す る 活 動 に な っ て い る.. 旋律を口ずさんだり, 身体表現をしたり, あるいは曲の印象を グルー プで話し合うなど, 児 童生徒の主体的な活動が用意されていない. 防 ) 机, 椅子や楽器の配置な ど, 児童生徒が自由に楽しく曲を聴いたり, 伸び伸びと活動できる ぬ. ように教室環境が整備さ れていない. 更に, これらの原因を分類してみると, 大きく, 教材教具の面と指導方法の二つに分けることが. できる.. ( 1 ) 教材・教具の改善 9 先にも述べたように, 小学生の家庭の8 .4%にはステレオ等のオーディ オ装置を保有しており, を通して日常的に多様な音楽に親しんでいる 児童生徒はそれら . しかも, オーディオ装置は日に日. に改 良さ れ, C D ある い はL D に 代 表さ れる よう に 良質 で 高 性 能 の も の にな っ て い る. しか し, 小 中学 校の 音楽 教室 を 見 る と, 一 時代 前 の ス テ レオ がほ こ り を か ぶ っ て お り, チ ョ ーク の 粉 にま み れ, 傷 だ らけ の レコ ー ドが30~40枚 程 度 備 え られ て い る と いう の が大半 であ ろ う, いう ま で もな く 児 童. .決 生徒が日常家庭で接している音には及ぶべくもない. そして, 教師はそのことを指摘されると, まって予算がなくて買ってもらえない, と言うのである. 確かに学校に配分されている教材・教具. についての予算は十分とは言えず, 行政の立場から充実に努められることが必要であるが, こうし た学校を見ると, その大半には大編成の鼓笛隊や吹奏楽があり, 充実した活動を行っているのであ る.. 決してクラブ活動や部の活動を否定するものではなくその教育的効果を十分認めるものではある が, 一部の児童生徒による教育課程外の活動が充実し, 学校教育の要である授業のための設備が本. 来の目的のため十分機能するものとなっていないということ は, 著しく本未転倒したものであり, 音楽担当者はもとより, 学校全体の意識, 父母等の意識の転換を図ることが緊要の課題である,. 鑑賞指導の重要性を強く認識し, 充実した鑑賞指導の基礎を為すオーディ オ装置やCD等のソフ トウェアなど, 教材・教具の整備, 充実に熱意をもって取り組まね ばな らない. 2 ( ) 一般に, 鑑賞ということばに対しては, 自分より高いレベルにあるもの, 高尚なものに厳粛 に対策し, いく分戸惑いを覚えながらも真塾に受け止めるという バツシ グで消極的なイメージを抱. く人が多いように考える. いわゆるクラシックと呼ばれる音楽会や著名な画家の展覧会などでは, 特 に そ の 傾 向 が強 い. 確 か に, ある 一 面 と して は, そ の よう な 姿勢 は欠 か す こと はでき な い.. しかし, 積極的に音楽を聴こうとする意欲を育て, 美しさを感ずることのできる心を育てる鑑賞 の指導においては, 先ず, 楽曲に対する興味・関心を高め, 数多く触れさせて音楽経験を広げてや る こと が 必要 で ある,. げ) 集中して何度も繰り返 し聴かせる工夫をする.. 138.
(14) . 小中学校における音楽の授業改善についての一考察. 楽曲を聴いていて, 聴きおぼえのある旋律に出合うと, 知らない町で親しい人に出合ったような 懐かしさと安堵感を覚える. 全く知らない曲を長時間集中して聴き, その良さを味わうということ は, かなり音楽経験の豊富な大人にとっても難しいことであり, まして, 音楽経験の少ない児童生 徒 にと っ て は, ほと ん ど 不 可 能 な こ と で あ る.. 従って, 楽曲の持つ美しさや楽しさなどを味わわせるためには, 次のような多様な活動により楽 曲に対する興味・関心を高め, 主な旋律を口ずさめる程に集中して繰り返し楽曲に触れさせ, ること が必要である,. ( ) 演奏楽器や演奏形態の異なるものを聴き比べる, ァ ”) 主題など, 主な旋律が現れる回数を数える, け) 主題など, 主な旋律が現れる順序を考える. 回 曲の流れや味わいに即した題名 をつける, 槍) 曲の流れや味わいに即した物語を作る, ”)・関連教材の効果的な活用を工夫する. 児童生徒は, 日常意識するしないにかかわらず, 多種多様な音楽に接しており, 興味・関心や欲 求も多様である. 従って, それらに対応していくためには, 多様な活動とともに多様な教材を準備 し, ねらいや学習状況に応じて効果的に活用する必要がある.. 関連教材の活用については, 興味・関心を高める場合と, 学習を発展させる場合の二通りが考え られるが, 何のために活用するのか, ねらいを明らかにしておかなければ活動が散漫になり, 逆効 果をまねくことになるので注意しなければならない.. ( ウ ) 主体的に活動する場を工夫する. 鑑賞を単に音楽を聴くと いう場面だけから考えた時, 演奏者が表した音, 表した美を受け取ると いう意味において, 受け身の活動であるといえるが, それに至るプロセスを考えてみると, 極めて 積極的な活動であるということができるのである.. 何故ならば, 音楽を聴くということは, 演奏会に出かける, あるいは, レコー ド等を選択し, 音 を出す手だてを講ずるなど, 主体的な意志に基づく積極的な行為を必要とするからである, そして それは, 環境や時間, 金銭等について制約を受けるものであり, 日常の生活の中では, 大きなエネ. ルギーを必要とする行為なのである. 従って, 鑑賞の授業において, 児童生徒が自らの意志で音楽を選択し, 美しさを味わうなど, 主 体的に活動する場を設定してやることは, 先に述べたように, 学校教育終了後の音楽経験に大きな. 影響を及ぼすものであり, 延いては人格形成, あるいは生き方にかかわる問題となるのである, 現行の学習指導要領においては, 小学校では, 各学年の目標に, 「進んで音楽活動をしようとす. る意欲を育てること」 が示されており, 中学校においても各学年の目標に, 「音楽を進んで味わお うとする態度を育てること」 が示されている. 更に, 昨年秋の教育課程審議会の答申には, 小学校においては, 「自ら聴こうとする意欲を高め ること」 が, 中学校では, 「進んで音楽を聴こうとする意欲を高めること」 , 高等学校では, 「生涯. にわたり音楽に親しむための音楽観を育成すること」 が示されており, 一貫して主体的な鑑賞態度 を育成することの必要性を強調している. 従って, 楽曲や聴くことに対する興味・関心を高めるこ とを基盤に, 個々の感じ方や考え方, 表し方などを十分に生かす指導を積み上げ, 最終的に主体的. に活動する場を工夫し, 自ら求めて美しい音楽に親しみ, 深く味わう態度を育成するという プロセ スをたどることが必要である. こうした鑑賞能力育成のプロセスをまとめると次のようになる,. 139.
(15) . 三. 浦. 弘・水 野. 絃. 一. 小. 自ら求めて 深く味わう. 認 知・ 思 考 ・ 技能・ 情意 聞く 聞き. 大 拡 署翻 に 副 遍) $. 俸. 感じ取る. 広く, 深く味わい,. 意識する. 時間 経験. 鑑賞の授業の改善について述べてきたが, ・中学校における鑑賞の指導は, 年間の総授業時数70 0時間程度しか 0時間前後であり, 9年間を通してみても150~16 時間のうちのせいぜい3分の1, 2 なし、.. マ ーセルは, 「問題の根本は, 行為そのものではなく行為の質なのです. たった一回の経験が, 一人の人間の態度と物の考え方に一大革命を起こすきっかけとなる場合があるのを, 私たちは知っ 4 て いま す.注1 」と 述 べ て い る,. 鑑賞の指導が児童生徒の人間形成に与える影響の大きさを考えるとき, 教師は常に児童生徒の立 場に立って楽曲の価値を分析し, 良さや美しさを味わう過程を見極め, 実体に即した多様な手だて を講ずるなど, 効果的, 効率的な指導を工夫していかなければならない, ● そのため, 教師は, 自らも日常的に演奏を楽しんだり, コンサートに出向くなど, 音楽経験を豊 かにするとともに情報の収集に努め, 豊富な資料を蓄積することが求められるのである.. W. む す び. 今日, 高等学校や大学への進学率が示すように, 学校教育に対する期待 は極めて大きく, それに 伴い学校や教員に対する意見や要望も増加している, 本来, 教職は, 教育者としての使命感と深い教育的愛情を基盤として, 教育理念や教科に関する 知識及び人間の成長や発達についての深い理解と優れた教育技術など, 総合的な資質・能力が要求. される高度な専門的職業である. 従って, 教員一人一人は, 教職の専門性に鑑み, これまでの教育実践を振り返るとともに, 新た な知見を得, 自己の活性化と指導力の一層の向上を図るため, 自ら不断の研究と修養に努めること が求められている. 特に, 現在, 教科として危急存亡の危機に立たされている音楽科において は, こうした現状を厳しく受け止め, 教師一人一人がその個性や特性を十分発揮 し, 指導を充実してい くことが緊要な課題である. 140.
(16) . 小中学校における音楽の授業改善についての一考寮. しかし, 多様化, 複雑化した今日の社会にあって, 学校教育の充実は, 学校や教師の努力だけで 条件等を整備する教育行政や教員養成機関の果たす役割 達成されるものではなく, 教育環境や教育打 も重要である. 臨時教育審議会の答申においても, このことにかかわって, 「文教行政において従来の指導助言. が本来の機能以上に指揮監督的にとられている場合があり, また, 過度に形式的な法律解釈論や通 達に依拠する傾向にあったこともあり, 墳末にわたりしかも強制的影響が強い感は免れない. 教育 行政においては, 自らの責任を自覚して, 学校運営の適正を期すとともに, 学校において, こども. を中心に生き生きとした教育が展開されるような環境づく りに配慮する必要がある,」 「大学の養成 において, 幅広い人間性, 教科, 教職に必要とされる基礎的・理論的内容と採用後必要とされる実 践的指導力の基礎の習得に重点を置き, 採用後の研修においては, それらの上に立っ てさらに実践. 的指導力を向上させることに重点を置くこととする, 教員養成段階での教科・教職科目の内容につ. いては, 近年の児童生徒の状況や教育内容の変化に対応するよう精選を含め, その見直しが必要で ある.」 と指摘している, 今後, ますます多様化し, 複雑化していく社会にあっては, 学校, 教育行政, 教員養成機関それ ぞれがその機能や役割を再認識し, 十分成果を上げるよう努めるとともに, 効果的な連携の在り方 等について研究を深めていくことが必要である.. 〔注〕 1) ロナル ド・カバイエ著 西山志風訳 「日本人の音楽教育」 2)12) べネッ ト・リーマー著 丸山忠障訳 「音楽教育の哲学」 3)1 4) J. マーセル著 「音楽教育と人間形成」. 4)日本音楽教育学会変 「音楽教育学の展望」 5)星 旭著 「 日本音楽の歴史と鑑賞」 6)近藤幹雄 「音楽指導の技術」 7)中山正和著 「創造思考の技術」 8)供田武嘉津著 「音楽教育学」 9)坂元 昂著 「教育工学の原理と方法」 10) 大和淳二著 「ワンポイント7 2 」. 1 1 )細谷俊夫著 「教育方法」 1 3 )林 静ー著 「創造的音楽教育法」 その他参考文献 ・小, 中学校学習指導要領及び指導書 ・臨教審だより 第1次~第4次答申. ・北海道教育大学附属旭川中学校研究録 ・月刊初等教育資料, 中等教育資料 ・文部法令要覧 ・道教委発行 小, 中学校教育過程研究の手引. (三 浦. 本学 助 教 授. 旭川 分 校). (水野 北海道教育庁桧山教育局. 義務教育指導班主査). 141.
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