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二重比較の通時的発達について

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(1)Title. 二重比較の通時的発達について. Author(s). 本多, 尚子. Citation. 北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編, 70(2): 23-29. Issue Date. 2020-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/11259. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)第70巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Humanities and Social Sciences)Vol. 70, No.2. 令 和 2 年 2 月 February, 2020. 二重比較の通時的発達について 本 多 尚 子 北海道教育大学札幌校英語学研究室. On the Development of Double Comparatives HONDA Shoko Department of English Linguistics, Sapporo Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 本研究は,二重比較の用例に関する史的コーパス調査及び分析を行い,その結果を踏まえ, 二重比較の出現及び消失の動機とメカニズムを解明することを目的としている。特に,二重比 較の出現については,屈折比較の一部が,総合的言語から分析的言語への偏流に従った一方向 性の変化に沿って迂言比較の用法を発達させていく過渡期において,そうした変化との類推で 周辺的に生じたと主張する。また,二重比較の衰退・消失については,屈折比較と迂言比較と の間の機能的分業化の流れと,屈折比較から迂言比較への一方向性の変化との相互作用の結果 であると主張し,E2期以降は,屈折比較と迂言比較との間の機能的分業が進み,それぞれが 主に含む形容詞の種類が1音節形容詞 対 3音節以上の形容詞と相補分布をなす形で変化した ことで,屈折比較から迂言比較への一方向性の変化が生じにくくなり,それとの類推で生じて いた周辺的構文である二重比較も衰退したと指摘する。. 1.導 入 比較の通時的発達について,従来の先行研究の多くはSapir(1921)により提案された,総合的言語から 分析的言語への偏流に従い,⑴で示されるような一方向性の言語変化が生じ,現在に至ると仮定してきた。 ⑴ 屈折比較 → 迂言比較 特に,迂言比較は現代英語では3音節以上の形容詞あるいは副詞を中心に用いられているが,これは,3 音節以上の形容詞あるいは副詞は屈折比較接辞が添加される以前より形態的な複雑性を含んでいるため,そ うした複雑性をさらに増すことを回避する方略として迂言比較が特に好まれ,⑴の流れに従った変化が1音 節や2音節のそれらよりもより促進されたとみなされている。そして,この屈折比較から迂言比較への一方 向性の言語変化の過渡的表現として13世紀半ばに出現し17世紀初頭まで存在したとされているものが,本稿 で取り扱う⑵のような二重比較である1。. . 23.

(3) 本 多 尚 子. ⑵ more clearer,more betterなど ⑴のような一方向性の言語変化は二重比較の出現を正しく予測できており,一見するとよいように思われ るが,二重比較が17世紀初頭に消失した動機とメカニズムの解明には至っていない。現代英語においても2 音節形容詞あるいは副詞の一部及び1音節形容詞あるいは副詞については⑴の一方向性の言語変化は未だに 完了しておらず,もし二重比較が屈折比較から迂言比較への一方向性の言語変化の過渡的表現であるという ことが正しいならば,17世紀初頭にそれが消失しなければならない動機及びメカニズムは存在しないように 思われる。 本稿の目的は,英語史における二重比較の出現及び消失の動機とメカニズムを解明することである。 本稿の構成は以下の通りである。2節で,二重比較の出現及び消失に関する先行研究を概観する。3節で, 史的コーパスを利用し,二重比較を含む英語の比較構文に関する調査結果をまとめる。4節では,二重比較 の通時的発達について説明可能な分析を提案する。5節はまとめと今後の課題である。. 2.先行研究 Mustanoja(1960)では,二重比較は,14世紀以降の迂言比較の生起頻度増加の影響で生まれた周辺的な 異形の1つであり,15世紀から16世紀までの間,主に1音節あるいは2音節の形容詞を伴って一般的であっ たと述べている。二重比較が伴う形容詞の種類に関する制限については,原口(1992)も同様の指摘をして おり,二重比較の主な特徴の一つとして広く認識されている。Mustanoja(1960)が,二重比較について, 迂言比較の生起頻度増加の影響で生まれたものであることを認めつつ,それらが比較的多く用いられた15世 紀から16世紀までの間,1音節あるいは2音節の形容詞を伴っていたという点で現代英語の迂言比較とは明 確に異なる性質を示していたと指摘している点は注目に値する。もし,迂言比較が,3音節以上の形容詞あ るいは副詞が屈折比較接辞添加によりさらに形態的な複雑性を増すのを避けるための方略として好まれ,⑴ の一方向性の言語変化が特に促進されたとする従来の仮説が正しいならば,迂言比較の生起頻度増加の影響 で生まれる二重比較は3音節以上の形容詞あるいは副詞と共起しやすかったと予測される。しかしながら, Mustanoja(1960)や3節で結果を示す本稿のコーパス調査においても,二重比較は1音節や2音節,特に 1音節の形容詞と非常に共起しやすい傾向があり,当該予測に明らかに反する。 他方,3音節以上の形容詞あるいは副詞に対しては迂言比較が含まれるという現代英語において見られる 傾向は,英語史的見地からみると比較的新しいものであるとする指摘もある。事実,本多(2019)では,形 容詞を含む迂言比較について史的コーパス調査を行っているが,散発的な例を除いた初期の迂言比較構文は, 現代英語期におけるそれと異なり,M3期には1音節の形容詞と,M4期からE2期にかけては2音節の形 容詞と主に共起し,3音節の形容詞と最も共起するようになるのはE3期以降であると示されている。 二重比較の1音節や2音節の形容詞と共起しやすい傾向と,本多(2019)の調査結果を踏まえると,⑴の ような一方向性の言語変化は,従来の先行研究でなされてきた仮定とは異なり,少なくともE2期まで1音 節あるいは2音節の形容詞を中心に生じていた可能性が考えられる。そのことを踏まえ,⑴のような一方向 性の言語変化が,現代英語とは異なり,M3期やM4期といった後期中英語期には1音節・2音節の形容詞 を中心に生じる傾向にあったと考えれば,二重比較の出現については正しく予測される。 しかしながら,Mustanoja(1960)には問題点もある。⑵のような二重比較が15世紀から16世紀までの間, 主に1音節あるいは2音節の形容詞を伴って一般的であったと述べている一方,⑵のような二重比較が現代 英語に至るまでの間のいつの時点で消失したのかについては言及しておらず,その消失の動機とメカニズム については一切言及していない。本稿では,3節で二重比較の消失時期及びその動機を屈折比較や迂言比較. 24.

(4) 二重比較の通時的発達について. に関する言語事実との比較を通じて特定し,4節でその通時的発達について説明可能な分析を提案する。. に関する言語事実との比較を通じて特定し,4 節でその通時的発達を説明可能な分析を提案する。. 3.コーパス調査結果 3.コーパス調査結果. 3 節では,史的コーパスである The Penn-Helsinki Parsed Corpus of Middle English, Second edition (PPCME2), 3節では,史的コーパスであるThe Penn-Helsinki Parsed Corpus of Middle English, Second edition Penn-Helsinki Parsed Corpus of Early Modern English (PPCEME),The Penn Parsed Corpus of Modern British E (PPCME2) ,The Penn-Helsinki Parsed Corpus of Early Modern English(PPCEME) ,The Penn Parsed (PPCMBE)を用いた二重比較を含む比較構文に関する調査結果を示す 2。なお,今回の調査では形容詞のみに Corpus of Modern British English(PPCMBE)を用いた二重比較を含む比較構文に関する調査結果を示す2。 た調査結果を示している。 なお,今回の調査では形容詞のみに限った調査結果を示している。 表 1 及び図 1 は形容詞の音節数別の二重比較のトークン数及び割合を示している。 表1及び図1は形容詞の音節数別の二重比較のトークン数及び割合を示している。 表 1 形容詞の音節数別の二重比較トークン数及び割合 表1 形容詞の音節数別の二重比較トークン数及び割合 1 音節. 1音節. 2 音節. 3 音節. 2音節. M2. 8 (88.89 %). 1 (11.11 %). 0 (0%). M3. 4 (100 %). 0 (0 %). 0 (0%). M4. 8 (61.54 %). 5 (38.46 %). 0 (0%). M2 M3 M4.  8( 88.89%)  4(100.00%)  8( 61.54%). 3音節.  1(11.11%). 0(0.00%).  0( 0.00%). 0(0.00%).  5(38.46%). 0(0.00%). E1E1 12 (57.1412( 57.14%) %) 8 (38.10 %). 1 8(38.10%) (4.76 %). E2E2 2 (66.67 2( 66.67%) %) 1 (33.33 %). 0 1(33.33%) (0%). 1(4.76%) 0(0.00%). 25 20 15 10 5 0. M2. M3 1音節. M4 2音節. E1. E2. 3音節. 図1 形容詞の音節数別の二重比較トークン数及び割合 図 1 形容詞の音節数別の二重比較トークン数及び割合. 表1より,二重比較の初例はM2期,その後E2期まで存続したが,E3期以降は1例も見つからなかっ 表 1 より,二重比較の初例は M2 期,その後 E2 期まで存続したが,E3 期以降は 1 例も見つからなかった た。また,Mustanoja(1960)で指摘されているように,当該用例が含む1・2音節の形容詞を含むものが た,Mustanoja (1960)で指摘されているように,当該用例が含む 1・2 音節の形容詞を含むものが中心であるこ 中心であることが分かった。特に,M2期からM3期の初期の例では1音節形容詞を含む用例が9割以上と 分かった。特に,M2 期から M3 期の初期の例では 1 音節形容詞を含む用例が 9 割以上と大半を占め,M4 期 大半を占め,M4期からE2期の後半期の例になると,1音節形容詞を含む用例が約6割,2音節形容詞を E2 期の後半期の例になると,1 音節形容詞を含む用例が約 6 割,2 音節形容詞を含む用例が約 3,4 割という 含む用例が約3,4割という一定の割合で推移していることも示された。なお,形容詞の二重比較の総用例 の割合で推移していることも示された。なお,形容詞の二重比較の総用例数は 50 例と,表 2 及び表 3 で詳し 数は50例と,表2及び表3で詳しく述べるが,屈折比較や迂言比較の総用例数と比較すると,はるかに少な べるが,屈折比較や迂言比較の総用例数と比較すると,はるかに少なく,かなり周辺的な構文であるというこ 3 。当該コーパス調査結果を踏まえれば,⑵の く,かなり周辺的な構文であるということも明らかとなった 明らかとなった 3。当該コーパス調査結果を踏まえれば,(2)のような二重比較の消失時期は E3 期であると推 ような二重比較の消失時期はE3期であると推定される。 れる。 表2は形容詞の音節数別の屈折比較トークン数及び割合を,表3は迂言比較トークン数及び割合をそれぞ 表 2 は形容詞の音節数別の屈折比較トークン数及び割合を,表 3 は迂言比較トークン数及び割合をそれぞ れ示している。. . 25.

(5) 本 多 尚 子. 表2 形容詞の音節数別の屈折比較トークン数及び割合 1音節 M1. 2音節. 3音節. 1音節. 2音節. 3音節. 9(2.88%). M1. 3(60.00%). 2(40.00%). 0( 0.00%). 16(29.63%). 1(1.85%). M2. 6(66.67%). 3(33.33%). 0( 0.00%). M3. 248(59.33%) 169(40.43%). 1(0.24%). M3. 69(46.62%). M4. 142(61.74%). 87(37.83%). 1(0.43%). M4. 7(22.58%). E1. 389(51.39%) 367(48.48%). 1(0.13%). E1. 49(28.49%). 66(38.37%) 57(33.14%). E2. 412(44.69%) 505(54.77%). 5(0.54%). E2. 38(21.71%). 67(38.29%) 70(40.00%). E3. 544(51.03%) 522(48.97%). 0(0.00%). E3. 53(14.10%) 160(42.55%) 163(43.35%). L1. 403(55.74%) 320(44.26%). 0(0.00%). L1. 10( 4.67%). 80(37.38%) 124(57.94%). L2. 344(61.87%) 212(38.12%). 0(0.00%). L2. 25(11.06%). 72(31.86%) 129(57.08%). L3. 323(62.84%) 191(37.16%). 0(0.00%). L3. 9( 4.95%). 70(38.46%) 103(56.59%). M2. 200(64.10%) 103(33.01%). 表3 形容詞の音節数別の迂言比較トークン数及び割合. 37(68.52%). 49(33.11%) 30(20.27%) 19(61.29%). 5(16.13%). 表2と表3を比較することにより,屈折比較と迂言比較との間の共通点と相違点が明らかとなる。M1, M2期では,屈折比較と迂言比較共に,1音節の形容詞と共起する用法が最も多く,次いで2音節の形容詞 と共起する用法が多い。また,それらの割合にもそれほど大きな差はない。屈折比較と迂言比較との間の相 違点としては,3音節以上の形容詞と共起する用法は,当該時期には屈折比較のものしか見られないという ことである。迂言比較が3音節以上の形容詞と共起していないという点から考えれば,現代英語における迂 言比較の特徴とは大きく異なっている。他方,屈折比較が3音節以上の形容詞と共起する例は,2~3%程 度にすぎないという点から考えれば,屈折比較が3音節以上の形容詞を避けるという現代英語と同様の傾向 はM1,M2期において既にその傾向があったと考えられる。M3,M4期では,屈折比較については,1 音節の形容詞と共起する用法が最も多く,次いで2音節の形容詞と共起する用法が多いという点では,M1, M2期の当該構文との違いはないが,両用法間の差が縮まっている,すなわち,1音節の形容詞と共起する 用法の割合が減り,2音節の形容詞と共起する用法の割合が増えている点と,3音節以上の形容詞と共起す る用法の割合が1%を下回っている点が注目に値する。特に,後者の傾向はE3期より当該用例が史的コー パス上全く発見されなくなるまで続いている。他方,迂言比較では,M3期において,3音節以上の形容詞 と共起する用法が生じ,その用例数は同時期の屈折比較のそれよりもはるかに多い。これは,M3期に迂言 比較が3音節以上の形容詞と共起することを好むという性質を帯び始めるようになったことを示唆する。事 実,M3期以降,M4期という例外はあるものの,迂言比較が3音節以上の形容詞と共起する用法は全体と しては増加傾向にある。しかしながら,本多(2019)でも指摘するように,M3期の時点では迂言比較が最 も共起しやすい形容詞は依然として1音節の形容詞であった点は留意する必要がある。すなわち,M3期に は,屈折比較と迂言比較との間の機能的分業につながっていく兆しが見られる一方,屈折比較も迂言比較も 1音節の形容詞と最も共起しやすいという点では⑴のような一方向性の変化が促進されやすい状況も未だ 残っていた。そして,4節で詳しく述べるが,後者が二重比較の出現につながった可能性がある。しかしな がら,E2期以降になると,屈折比較と迂言比較との間の機能的分業がさらに進み,屈折比較は主に1音節 形容詞と共起し3音節以上の形容詞を避ける一方,迂言比較は3音節以上の形容詞と主に共起し1音節形容 詞を避けるという傾向がより明確化した。実際,当該時期には1音節の形容詞が迂言比較と最も共起しにく い形容詞となっており,その用法の割合もM3期のそれと比べると明らかに減っている。このことは,迂言 比較が1音節の形容詞と共起することを避ける性質が強まっていったことを示唆する。特に,E3期以降は, 迂言比較が1音節の形容詞と共起する用例の割合は常に15%を下回っている。表1で指摘したように,ちょ. 26.

(6) 二重比較の通時的発達について. うど同時期に二重比較が消失し,そして,当該構文が主に1音節の形容詞と共起する場合が多かったことは 注目に値する。L1期以降は,迂言比較が3音節以上の形容詞と共起する用例と,他の形容詞と共起する用 例との間のトークン数及び割合の差が明らかに開き,迂言比較が3音節以上の形容詞と共起することを好む という性質がさらに強まったことが分かる。. 4.分 析 4節では,主に3節の調査結果を踏まえ,二重比較の出現と消失について説明可能な通時的分析を提案す る。二重比較の出現時期は,M2期であり,当該時期においては,屈折比較と迂言比較共に共起しやすい形 容詞の種類及び割合は同じで,特に1音節形容詞と共起する用法が中心だった。本稿では,このことを,屈 折比較の一部が⑴のような一方向性の変化に従い,迂言比較の用法を生じさせたためであると考える。本稿 での主張を支持する経験的証拠として,当該時期の迂言比較については,現代英語とは異なり,3音節以上 の形容詞と共起する用法は存在しておらず,屈折比較と迂言比較との間の機能的分業が生じていない点が挙 げられる。すなわち,当時の迂言比較は,屈折比較に対しての,生起頻度の低い異形の一つにすぎなかった と考えられる。さらに,こうした変化との類推で生じたさらに周辺的な構文として,二重比較が出現したた め,初期の二重比較は特に,一方向性の変化の影響を最も受けやすかった1音節形容詞と共起する用例が多 く,二重比較が1音節形容詞と共起する用例が多いという特徴にも説明が与えられる。 他方,二重比較の衰退及び消失について,それらはE2期に衰退,E3期以降少なくとも史的コーパス上 は消失していることが3節の調査結果より判明しているが,本稿では,その動機とメカニズムに関して屈折 比較と迂言比較との間の機能的分業化の流れと,⑴のような一方向性の変化との相互作用の結果であると主 張する。二重比較の用例数が一部例外を除き全体的に増加傾向を示していたM2期からE1期の間は,迂言 比較が3音節以上の形容詞と共に共起しやすいという傾向は確立されておらず,さらに言えばM2期及びM 3期については,迂言比較は主に1音節形容詞と共に共起していたという点で1音節形容詞を避けるという 傾向も十分に確立されてはいなかった。そのため,屈折比較と迂言比較との間の機能的分業化の流れは,特 に1音節形容詞を伴う事例に関し,⑴のような一方向性の変化を食い止めるには至らず,二重比較は,用例 数は少ないながらも存続し続けた4。しかしながら,E2期以降になると,屈折比較と迂言比較との間の機 能的分業が進み,屈折比較は主に1音節形容詞と共起し3音節以上の形容詞を避ける一方,迂言比較は3音 節以上の形容詞と主に共起し1音節形容詞を避けるという傾向がより明確化した結果,⑴のような一方向性 の変化が生じにくくなり,それとの類推で生じていた周辺的構文である二重比較も当該時期に衰退したと考 えられる。さらに,E3期以降は,迂言比較が1音節の形容詞と共起する用例の割合は15%を下回っており, L1期以降は約5~10%程度である。そのため,二重比較の衰退は急速に進みE3期以降消失したと考えら れる。. 5.まとめと今後の課題 本稿では,史的コーパス調査結果を踏まえ,二重比較に関する通時的データを概観し,二重比較の史的発 達に関し理論的に説明可能な新たな分析を提案した。二重比較の出現については,屈折比較の一部が⑴のよ うな一方向性の変化に従い迂言比較の用法を発達させていく過渡期において,そうした変化との類推で周辺 的に生じたものであり,こうしたメカニズムが利用可能だった背景には屈折比較と迂言比較との間の機能的 分業がほとんどなされておらず,迂言比較があくまで屈折比較に対する異形の1つとしてしかみなされてい. . 27.

(7) 本 多 尚 子. なかったことが関係している可能性を示唆した。また,二重比較の衰退・消失については,屈折比較と迂言 比較との間の機能的分業化の流れと,⑴のような一方向性の変化との相互作用の結果であると主張し,E2 期以降は,屈折比較と迂言比較との間の機能的分業が進み,それぞれが主に含む形容詞の種類が1音節形容 詞 対 3音節以上の形容詞と相補分布をなす形で変化したことで,⑴のような一方向性の変化が生じにくく なり,それとの類推で生じていた周辺的構文である二重比較も衰退したと指摘した。また,E3期以降は, 迂言比較が1音節形容詞を避ける傾向が一段と強まったことが3節のコーパス調査の結果からも明らかとな り,⑵の二重比較が消失するに至った主な原因と考えられることも示唆された。 今後の課題としては,屈折比較と迂言比較との間における⑴のような一方向性の変化が,1音節形容詞や 3音節以上の形容詞で生じにくくなったことは,屈折比較と迂言比較との間の機能的分業化の流れから説明 されたが,2音節形容詞を伴う用例の割合は特にE3期以降は両構文ともそれほど差がない状態で推移して おり,これらについては⑴のような一方向性の変化の影響を引き続き受けていたのか否かを検証することが 必要である。特に,福田(2007)において,近代英語・現代英語における2音節形容詞の比較形式について の分析において,⑴のような一方向性の変化が,特に20世紀後半において強まったことを指摘している。今 回の本稿の分析では,共時コーパスを対象にしていないため,今後は共時コーパスを用いた調査を行い,通 時コーパスにおいて見られたように,当該一方向性の変化との類推により二重比較が生じていないか検証し ていきたい。また,福田(2007)においては,屈折比較と迂言比較との間の機能的分業が形容詞全体に一律 に適用されるのではなく,その下位分類毎に適用されている可能性も指摘している。この点についても今後 検証していきたい。. 注 1.本稿で取り扱う二重比較は,more+屈折比較形容詞(-er)型のものであり,lesserやworserといった現代英語において も見られるものは含んでいない。その理由としては,lesserやworserのような劣等比較は,そもそも迂言比較を持っておら ず,これらは,⑴のような一方向性の変化との類推により生じたものであるとは考えられないためである。また,lesserや worserの例は初期近代英語においても,本稿で取り扱っている⑵のタイプと比べれば,より高い頻度で見られる他,規範 文法家であるRobert Lowthが,lesserやworserの用法を禁ずるべきだと主張している(Lowth(1762)を参照)ことから, 後期近代英語期においても,lesserやworserの用法は実際には一定頻度用いられ続けていたと考えられる。lesserやworser のようなタイプの二重比較の出現と通時的発達の動機とメカニズムの解明については今後の課題とする。 2.各コーパスの時代区分は,PPCME2はM1(1150-1250) ,M2(1250-1350) ,M3(1350-1420) ,M4(1420-1500)で あり,PPCEMEはE1(1500-1569),E2(1570-1639) ,E3(1640-1710)であり,PPCMBEは,本来の時代区分では一部 PPCEMEの期間との重複が見られたため以下の修正した時代区分,L1(1711-1779) ,L2(1780-1849) ,L3(1850-1914) を用いる。なお,各時代区分の表示は使用したコーパスに従う。 3.二重比較の用例数が屈折比較や迂言比較のそれと比べはるかに少ないことは統計分析を行う際にも障害の一つとなりう る。実際,本研究においても二重比較・屈折比較・迂言比較に関するクロス集計表を用いた統計分析を試みたものの,二重 比較の用例数が他の2者と比べあまりにも少なかったため,危険率1%水準で統計的有意差を得ることはできなかった。 Kytö and Romaine(1997)において,彼女らはHelsinki Corpusを用いた調査を行っているが,その中で二重比較は全体の 約1%程の頻度にしか過ぎなかった旨の指摘がなされている。 4.本稿の分析では,2音節形容詞を伴う二重比較もE3期以降消失したのはなぜかという問題は残るが,これについては今 後の研究課題とする。. 附 記 本論文は,JSPS科研費・若手研究(代表:本多尚子,課題番号JP18K12408)の助成を受けた研究成果の一部である。. 28.

(8) 二重比較の通時的発達について. 参考文献 福田薫(2007) 「近現代英語における2音節形容詞の比較形式の使用推移」 『北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編) 』 第57巻2号,161-174. 原口行雄(1992)「16世紀英語における形容詞の比較変化」 『近代英語研究』第9号,1-18. 本多尚子(2019)「迂言比較構文における史的発達に関するコーパス研究」 『北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編) 』 第69巻2号,43-50. Kroch, Anthony, Beatrice Santorini and Lauren Delfs (2004) The Penn-Helsinki Parsed Corpus of Early Modern English (PPCEME), University of Pennsylvania, Philadelphia. Kroch, Anthony, Beatrice Santorini and Ariel Diertani (2010) The Penn Parsed Corpus of Modern British English (PPCMBE), University of Pennsylvania, Philadelphia. Kroch, Anthony and Ann Tayler (2000) The Penn-Helsinki Parsed Corpus of Middle English, Second edition (PPCME2), University of Pennsylvania, Philadelphia. Kytö, Merja and Suzanne Romaine (1997)“Competing Forms of Adjective Comparison in Modern English: What Could be More Quicker and Easier and More Effective?,”in Terttu Nevalainen and Tarkka Leena Kahlas eds., To Explain the Present: Studies in the Changing English Language in Honour of Matti Rissanen, Société Néophilologique, Helsinki, 329– 352. Lowth, Robert (1762) A Short Introduction to English Grammar, Dodsley, London. Mustanoja, Tauno F. (1960) A Middle English Syntax, Société Néophilologique, Helsinki. Sapir, Edward (1921) Language: An Introduction to the Study of Speech, Hartcourt, New York.. . (札幌校准教授). . 29.

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