小学校におけるアイヌ民族教育に関する調査
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(2) No.52. 1998.3. 小学校におけるアイヌ民族教育に関する調査. 清 水 敏 行. SurveyontheEducationoftheAinuPeopleinElementarySchooIs. に関して,どのように記述されているのかという問題を はじめに. 中心に論じた。. 道内の小学校では実際にアイヌ民族の歴史や文化がど. 「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知. 識の普及及び啓発に関する法律」(略称,アイヌ文化振. のように取り扱われているのか。この間題は前稿では,. 興法)が1997年7月1日に施行された。この法律では,ア. 残されたままにされていた。そこで,この点を明らかに. イヌ民族の伝統・文化振興をはかるとともに,アイヌ民. するために,函館市教育委員会の協力のもと,1996年8. 族の伝統・文化に対する国民の「知識の普及及び啓発」. 月に函館市の小学校教員を対象にアンケート調査を実施. をはかることを目的としている。この法律によって,ア. した。本稿はその調査結果をまとめたものである。. イヌ文化を国民にどのように伝え理解させていくのかが. 課題になってくる。. 1.調査の対象者. アイヌ文化振興法制定の1年前の96年4月1日に,「ナ. 調査は函館市教育委員会の協力を得て,函館市の小学. タリ対策のあり方に関する有識者懇談会」が内閣官房長. 官に答申を提出している。答申の「新しい施策の展開」. 校教員のうち,3年生以上を担任している教員を対象と してなされた。3年生以上の担任に限ったのは,社会科. の箇所には,次のような記述がある。. 「アイヌの人々係わる諸施策の新たな展開に当っても,. が3年生以上で習う科目であるということを考慮しての. 人権擁護に資する活動の一層の推進への配慮が望まれ. ことである。教員数は388名になる。教育委員会・学校. る。そのような観点から,アイヌ文化を含めアイヌに関. を経由して,先生方に依頼したために,312名の回答が 得られた。回収率は80.4%である。. する知識や教育の普及・充実を通じて,アイヌの人々ヤ. 年齢構成は,表−1のようになっている。性別では,. アイヌ文化についての理解の促進を図ることが極めて重 ●●■●●●■■●●●●●. 要であると考えられる。そのためには,教員の養成・研. 男性が184名(59.0%),女性が128名(41.0%)となっ. 修から学校教育の現場に至る流れの中で活用しうる教材. ている。. 等の作成,配布が望まれる。」(傍点は筆者). 表−1 年齢構成. 「理解の促進」を実践する場として学校教育が注目さ 年 齢. れている。具体的には,教員自身がアイヌ民族とアイヌ. 人 数 比 率. 文化に対する正しい知識と理解をもつようにすること,. 20. 代. 69. 22.1. そして教員が授業において児童・生徒に教える上で役立. 30. 代. 65. 20.8. つ教材を作成し配布することである。北海道内の小中学. 40. 代. 87. 27.9. 校でも,アイヌ民族にいて取り扱われてはいるが,アイ. 50. 代. 84. 26.9. ヌ文化振興法の制定を機会に,これまでの実績を踏まえ. 60. 代. 6. 1.9. ながらも,今後の方向を再検討する必要がある。. 無 回 答 合 計. 本稿は,『僻地研究』(1996年3月,17∼51頁)に掲載. 0.3 312名. 99.9%. された「北海道の小学校社会科副読本におけるアイヌ民. 族」の続編にあたる。前稿では,小学校の社会科副読本. 312名の出身地は表−2,表−3に示されている。292. の記述でも,特にアイヌ民族に関する記述が教育行政の. 名(93.6%)が道内の小学校・中学校・高校で学んでお. どのような枠組みの中でなされているのか,道南の市町. り,その292名の内,道南地域の出身者が248名(84.9%). 村の教育委貞会が作成する社会科副読本ではアイヌ民族. を占めている。ここでは市町村名が示されていないが,. − 43 −.
(3) 清 水 敏 行. 表−2 道内・道外出身. 表−5 アイヌ民族の学習経験と教育経験. 地 域. 人 数 比 率. 北 海 道 内. 281. 90.1. 北 海 道 外. 16. 5.1. 北海道内・外 無 回 答. 4. 合 計. 312名. 教 育 経 験. 学習経験. 合 計. あ る な し 無回答. あ. る 43(53.1) 37(45.7) 1(1.2) 81(100%). 3.5. な. し 58(33.0) 1ユ5(65.3) 3(1.7) 176(100%). 1.3. わからない 30(54.5) 25(45.5). 0 55(100%). 100% は,著しい影響はないものと推測できる。. *「第3閃あなたは小学校・中学校・高校をどの地域ですご. アンケートでは,大学の講義での学習経験も質問して. されましたか。」. いるが,講義でアイヌ民族について学んだ者は312名中24 表−3 道南内・道南外の出身. 名(7.7%)に過ぎない。これについても教育経験とク. 地 域. ロスさせても,学習経験があるということが教育経験に. 人 数 比 率 南. 道. 248. 84.9. 強く結びついているという結果は出てこない。表−5に. 32. 11.0. も示されているように,両者の間には強い結びつきはな. 12. 4.1. いが,さりとて結びつきはないと断定できるものでもな. 100%. い。このことは,学習経験がない者と教育経験の有無を. 道 南 外 無 回 答. 計. 292名. 見ることで,補強できるのではないか。65.3%の教員が. *「第3間で1.または3.を選択した方に何います。北海. 道のどの市町村ですか。複数の市町村にわたる方はもっと. 学習経験なし・教育経験なしと回答している。学習経験. も長くすごされた市町村名を記入して下さい。」. がなければ,教育経験がないことになる可能性は高いと いうことである。繰り返しになるが,学習経験があれば. 表−4 勤 務 地 勤. 務. 地. 教育経験があるという可能性はこれほどまでに高くはな. 道南内での勤務地の移動. 202 64.7. 道南外の勤務地に移動経験あり. 103 33.0. 無. 答. 回 合. 計. い。それでも可能性はあるから,中間的なレベルである. 人数 比率. 7. と押さえておくのが無難であろう。 表−6 勤務地と教育経験. 2.2. 312名 99.9%. 教 育 経 験. 勤 務 地. 函館市出身が211名であり,道南出身者のほとんどが函. 道南内での勤務. 館出身となっている。. 地の移動. 合 計. あ る な し 無回答. 72(35.6) 128(63.4) 2(1.0) 202(100%). 道南外の勤務地 に移動経験あり 54(52.4) 48(46.6) 1(1.0) 103(100%). 表−4の勤務地を見ると,202名の64.7%の教員が道 南の市町村でしか異動していないことがわかる。函館を はじめとした道南出身者が多いだけではなく,勤務地も また道南に限られているという教員が多いことがわか. 同じことが,勤務地と教育経験をクロスさせた表−6. る。教員の地元志向を尊重した道教委の人事異動という. について言える。道南だけで学校を動いてきた教員は202. ことになるか。函館市の小学校におけるアイヌ民族教育. 名であり,その内の128名(63.4%)が教育経験はない. への取り組みに,このような人事政策が影響を及ぼして. と答えている。道南の中で動いている敦貞は教育経験が. いるのか関心がもたれるところである。. ないという傾向があることを指摘できよう。これに対し. て,道南の外に出たことのある教員は103名であり,そ の内の54名(52.4%)が教育経験ありと答えている。こ. 2.教育経験にかかわる要因. の数値は教育経験なしと回答した48名(46.6%)を少し. 表−5は,「あなたは小学校・中学校・高校の授業の. 上回る程度であるが,道南内にとどまっているよりも外. いずれかでアイヌ民族について学んだことがあります. に出るほうが教育する機会があると見ることができる。. か。」という設問,「あなたは授業でアイヌ民族について. もちろん,この資料だけでは,道南外の勤務経験あり・. 取り扱った経験がありますか。」という設問をクロスさ. 教育経験ありとした回答者が,どこで教育経験があるの. せたものである。学習経験のある教員は81名で312名の. かまではわからないが。. 26%にしか過ぎない。クロスした表を見る限りでは,学. 道南外に勤務経験があるということが教育経験に結び. 習経験があることが教育経験に結びつくのかという点で. つく可能性を考えてみるなら,一つに社会科副読本の記. − 44 −.
(4) No.52. 小学校におけるアイヌ民族教育に関する調査. 1998.3. 表−7 副読本の記述暮と勤横地. 勤. 社会科副読本におけるアイヌ民族の記述の量. 務. 地. 道南内のみ 道南外あり. どこでも、詳しく善かれていた。 だいたいに詳しく善かれていたが、少ししか触れられていない副読本も若干あった。. 2(1.0) 4(1.9). 5(4.9). 詳しい副読本と記述の少ない副読本は半々程度であった。. 4(1.9). 4(3.9). 1(1.0). 少ししか善かれていないというのがほとんでであった。. 77(36.8). 45(43.7). まったく触れられていないという印象のほうが強い。. 84(40.2). 39(37.9). 38(18.2). 無 回 答 合. 計. 9(8.7). 209(100%) 103(100%). 述があるのではないか。そこで,「これまであなたが赴. 表−8 学校在籍と教育経験. 任した道内の市町村の社会科副読本(3年,4年向け). 教 育 経 験. にはアイヌ民族の記述がありましたか。」という設問と 勤務地の設問をクロスさせてみたのが表−7である。こ. 学校在籍. 合 計. あ る な し 無回答. 在籍していた。 31(64.6) 16(33.3) 1(6.3) 48(100%). の結果を見るならば,社会科副読本の記述量はわずかし か善かれていないか,まったく書かれていないという回. 在籍していない。 80(38.5) 128(61.5) 0(0.0) 208(100%) わからない。 17(33.3) 32(62.8) 2(3.9) 51(100%). 答が勤務地に関係なく70%から80%にもなる。これが実 態である。それでも,「少ししか善かれていない」と「ま. だが,学校在籍あり・教育経験ありとする回答者は31 名であり,教育経験ありとする131名の23.7%に過ぎな. ったく触れられていない」の回答の比率には,勤務地の 遠いによる差が現れている。総じて,道南外に勤務経験 のある教員のほうが記述量については「ある」とするほ. い。この程度の数値であるから,学校在籍の有無が教育 経験を左右する要因であるとは,とてもではないが言え. うが多い。道南内だけの教員の回答に「無回答」が18.2%. ない。教育経験に影響している要因の中の一つに過ぎず,. になるのは,おそらく思い出せないほどに記述量が少な. 限られた範囲内であっても,強く影響していると見るこ. いか,なかったためではないか。. とができる。. 次に,個人的にアイヌ民族に関心があるということが. このことから,先ほど指摘した,道南外に出れば教育. 教育経験に影響しているのかを見ることにする。これも. する機会があるという推測が,より強まったのではない か。たとえわずかな記述であっても社会科副読本が教員. 表−9 自習経験と教育経験. にアイヌ民族につい取り扱わせる要因になっているので. あろう。ただし,回答結果に明らかなように,記述が詳. 教 育 経 験 自習経験. しいという回答はごくわずかであり,記述のみをもって. あ る. 合 計. な し 無回答. 教育経験ありとする131名を動かしたものと見ることは. あ る 29(65.9) 14(31.8) 1(2.3) 44(100%). 難しい。. な し 102(38.1) 163(60.8) 3(1.1) 268(100%). 教員がアイヌ民族について取り扱うことになるきっか. けは何か。この点について,角度を変えて見ることにす. 見込み通りの結果となっている。. る。「あなたがこれまで赴任した学校(現在の学校も含 めます)では,アイヌの児童があなたの赴任当時に在籍. 自習経験とは,「あなたはこれまでアイヌ民族につい て自分自身で学んだことがありますか。複数であれば複. していましたか。」という設問と教育経験をクロスさせ. 数回答して下さい。」という設問に対して,「関心があり,. たのが表−7である。. 本などを通じて個人的に学んだことがある。」という選. この表−8では,学校在籍の有無が教育経験のある・ なしにかなり密接に関連していることがわかる。この結. 択肢を選んだ回答を指している。このように関心があっ. 果は極めて常識的というか予想通りのものである。ここ. 然とアイヌ民族について話すということになるのであろ. に表は示していないが,学校にアイヌの児童が在籍して いたと回答した48名であるが,この内の34名が道南外. う。. に勤務経験があり,さらにこの34名の内の24名が教育経. しか過ぎない。このためこの教育経験に対する自習経験. 験ありと答えている。これらの要因が重なり合っている. の要因の影響は,さきほどのアイヌ児童の学校在籍要因. ことがわかる。. と似たようなものと言える。. て自分から学ぶような教員であれば,授業においても自. だがこれもまた29名であり,教育経験ありの22.1ヲ‘に. − 45 −.
(5) 清 水 敏 行. *胆振の教職貞が綴り方を書かせていたため,それで考. 表−10 アイヌ民族についてみずから学んだ経験 みずから学んだ経験. *アイヌ民族について知識ある方から話しを聞いたこと. 関心があり、本などを通じて個人 44. 14.1. 的に学んだことがある。. がある。. *卒論で友人が扱った。. 教育委員会の研修プログラムなど で学んだことがある。. 2.2. 7. *資料館を見に行った。 *国際先住民族年で道の学習講座に参加した。. 授業で取り扱うために個人的に調. 33. 10.6. 205. 65.7. *研修先の大学院で講義を受けた。. 34. 10.9. *資料館で。. ベたりしたことがある。 特に学んだことはない。. えた。. 人数 比率(312名). そ の他. *地名に興味を持った。. *アイヌ民族の一人と同級で,差別なくすごしていた。. *「あなたはこれまでアイヌ民族について自分自身で学んだ. *教職貞組合の研修講座. ことがありますか。複数であれば複数回答してFさい。」. *アイヌ民族資料館に行った。. *本や新聞を読む程度。. 参考までに,この自習経験にかかわる回答を示してお くことにする。この表−10によると,複数選択ではある. アンケートに回答していただいた市内の教員が,アイ. が,100名ほどの教員がアイヌ民族ついて読んだり,調. ヌ民族について小学校で取り扱うことに,どのような考. べたり,学んだりしたことがあるということになる。か なりの数の教員が関心を示していることになる。しかし. えをもっているのか。これまでみてきたように実際に教. 205名が「特に学んだことはない。」としており,教育経. 育経験があるのは131名(42.0%)に過ぎないが,教育. 験のない177名を超える数値になっている。関心がある. の必要性については,総じて積極的に認めていることが. 教員は結構熱心に取り組んでいるが,関心のない教員は. わかる。表−11では,アイヌの人たちが道内の他地域に. 取り組んでも,特に自分から調べたりせずに,おそらく. 比べあまり住んでいない道南地域で,アイヌ民族に関す. 表面的に触れる程度にとどめているのではないか。この. る教育を実践する必要性があるのかをたずねたものであ. こと自体は当然のことであろうが,この表−10では3分. る。道南で教えることの必要性については,アイヌの人. の1の教員がアイヌ民族に関心をもっているということ. たちがあまり暮らしていないことを理由に必要性があま. のほうに注目しておきたい。. りないのではという意見も教育行政の中にはある。しか. ここで,表−10に書き込めなかった「その他」の回答. しこの表−11は,80.5%の教貞が北海道である以上取. を列挙しておくことにする。. 表−11道南で取り扱うことの必要性. *新聞(4名). 道南で扱 う べ き か. *北教組の本. 人数 比率. *先祖が迫害に関連したことから文献を読んだ。. 函館や道南ではアイヌの人たちがほ. *博物館等で興味深く見学。 *アイヌ民族舞踊を学んだ。. はないと思う。. *小学枚時. 函館や道南ではアイヌの人たちがほ. とんどいないのだから取り扱う必要. 2 0.6. *親が地域の方と話してくれた。. 251 80.5 とんどいなくとも北海道なのだから. *組合の学習会. 取り扱う必要があると思う。. *大学. わからない。. *研修旅行での見学。大学の講義。. 無回答. 52 16.7 7. 計. *小学生時にアイヌの人が話しをしに来た。. *民族資料館で文化に触れたこと。. 312名 100%. *「函館や道南の小学校でアイヌ民族について取り扱うこと. *講演会などに参加。. について、どのようにお考えですか。」. *観光で少し触れた。. *小学生当時地元のアイヌの行事を見た。根強い差別を. り扱う必要があると答えている。. 経験した。. 小学校では地域社会の学習が3,4年においてなされ. *学生時に考古学で学んだ。. ており,その枠組みの中で社会科副読本が作成されてい. *見たり読んだりで理解に努めている。. る。アイヌ民族に関する情報は教科書にもなくはないが,. *小中学校時に見学・授業で学んだ。. 教科書の中の記述はわずかであり,やはり副読本が詳し. − 46 −. 2.2.
(6) No.52. 小学校におけるアイヌ民族教育に関する調査. 表−12 小学校で取り扱うことの必要性. 3.アイヌ民族について教えること. 人数 比率. 教 育 の 必 要 性. アイヌ民族について取り扱った経験のある教員は131. 3年、4年であっても発達段階に即 201 64.4 ていべ. 名であるが,この教員がどのような科目で取り扱ったの. し敢えてくき。. かをたずねてみた。表−13は複数選択であるので人数の. 3年では難しくとも、4年からでも. 18 5.8. 教えるのが望ましい。. 3年、4年ではなく、5年あるいは. 表−13 アイヌ民族について救えた科目 教育科目. 小学校ではなく、中学校・高校で教. 17 5.5. えるのが望ましい。. 無回答. 人 数 比 率. 国. 2 0.6. 社. 12 3.8. 道. 学校で教える必要はない。. 計. 合計は131名にはならない。. 62 19.9. 6年で教えるのが望ましい。. 合. 1998.3. 徳. そ の 他. 312名 100%. 5.2. 8. 合 計. 121. 78.1. 13. 8.4. 13 155名. 8.4 100.1%. く取り扱える可能性をもっている。この副読本を取り扱 うのが,地域社会の学習をおこなう3,4年ということ なのである。副読本におけるアイヌ民族の記述は,各市. 社会科が121名(78.1%)でもっとも多く,他の教科 を引き離している。これは当然のことである。既述した. 町村で様々であるが,中には3,4年の児童には難しい. ように,アイヌ民族については,地域社会について取り. のではと思えるものもなくはない。表−12では,小学校. 扱った社会科副読本が教員にとっては手身近な教材であ. で取り扱うのが望ましいとするのが90.1%にもなる。. るからである。「その他」については,以下に列挙して. しかし学年については,5,6年で教えるのが望まし. おく。. いとする教貞が20%近くいるということは,アイヌ民族. *学級指導. について児童に適切に教えることの難しさのためではな. *特別活動(3名). いか。問題は3,4年に副読本で,あれもこれも敢えて. *学級活動(3名). しまうのが無理なのかもしれない。要するに,当たり前. *学級会. であるが,3年から6年に向け,さらに中学校に至るま. *朝のショートの時間等. で体系的に段階を踏んで教えるのが望ましい。この自明. *学芸会の劇. なことがいまだなされていないために,教育現場では総. この点に関連して,教員の研究分野と教育経験をクロ. 論賛成でありながらも,各論反対まではいかずとも難し. スさせると,やはり社会科を研究分野にしている教貞40 名の内,22名(55.0%)が教育経験ありと回答している。. いという消極論が出てくるのではないか。. 社会科の55.0%がもっとも多い。これに対して,例えば. ここでは,教員がアイヌ民族について取り扱うことに. 影響を及ぼす要因がなんであるのかを整理してみた。結. 理科は11名(33.3%),体育11名(35.5%),音楽3名. 論的には,これといった要掬はないということになる。. (33.3%)というように教育経験ありとする回答率が低. 教育経験のある教員は131名(42.0%)でしかない。こ. くなっている。教えるのであれば社会科ということで社. の数値からして,道南,今回は函館市であるが,教貞が. 会科を研究教科にしている教員が比較的積極的になって. アイヌ民族について取り扱うということは,偶然的な要. いると言える。. 因に左右されているもの考えられる。市内であれば,教. そうはいっても,どの程度まで取り扱ったのかと言え ば,表−14に示されているように,表面的・部分的とい. 員個人の関心によるところが大きいのではないか。市外,. さらに道南外にまで勤務地を広げるのであれば,教員個. う回答が多い。この回答者は,教育経験ありとした131. 人の関心に加え,アイヌ児童が在籍しているのかどうか,. 名を対象にした着である。. 社会科副読本にアイヌ民族の記述があるのかどうかなど. このように部分的・表面的な取り扱いにとどまるに. に影響されるところがある。ここで,すべての要因をあ. は,理由がある。端的に言えば,このレベルを超える取. げられたというのではないので,断定的には言えないが,. り扱いを促すような制度的な支えがないからである。全. 現状のままでは,市内の小学校でアイヌ民族が取り上げ. 般的であれ部分的であれ,詳しく取り扱った教員は11名. られる機会が増えると見込むことはできそうにもない。. にしか過ぎず,彼らの熱意は個人的関心やアイヌ児童の 在籍などの偶然的な要因と絡まっている。ここでは表を 掲載していないが,「全般的に熱心に取り扱った」教員 − 47 −.
(7) 清 水 敏 行. 含む道教委の取り組みが市町村教育委員会の副読本作成. 表−14 アイヌ民族について取り扱った程度 教 育 程 度. に一定の好ましい影響を及ぼしたことは事実である。そ れは道教委の成果である。しかし教員が授業等でアイヌ 民族について取り扱うのか,またどのように取り扱うの. 人数 比率. 3 2.3. 全般的に、しかも詳しく取り扱った。 全般的だが、表面的な取り扱いにと. 21. どまった。. 16. かといったところまでの詰めが制度的にないがために, 『手引書』は現場では使われないでいるというのが現実. 限られた項目だが、詳しく取り扱っ. 8 6.1. た。. 限られた項目だが、表面的な取り扱. ではないか。. 次に,アイヌ民族を取り扱ったときに,どのような教 材を用いたのかたずねた結果を見ることにする。道教委 の『手引書』は,教員がアイヌ民族について教える際に, どのようなことをポイントにして教えるべきなのか,注 意すべき差別用語は何かを示すとともに,アイヌ民族に 関する基礎的な知識を紹介している。この『手引書』は. 56 42.8. いにとどまった。. 37 28.2. 若干触れたにとどまる。. 6 4.6. 無回答 計. 合. 131名 100%. 3名はいずれも「関心があり,本などを通じて個人的に. 教員によってほとんどまったく利用されてはいないが,. 学んだことがある。」(表−10,参照)を選択しており,. 市町村教育委員会が作成する社会科副読本に影響を及ぼ. したことを勘案するならば,結局は社会科副読本が利用 されているのか,どうかがポイントになると言えなくも. 1名が学校にアイヌ児童が在籍していたと答えている。. これに関連して,1984年に北海道教育委員会が発行し. ない。. 道内の全学校に配布した『学校教育指導資料アイヌの. 表−16は教育経験のある教員のみが教材について複数. 歴史・文化に関する指導の手引き』(『手引書』とする). 回答したものである。比率は,複数回答の回答数ではな く,教育経験ありとした131名を全体にして計算したも. を知っているのかたずねた設問の回答を見ることにす る。. 表−15に見られるように,「手引書を資料として参考. のである。. にしたことがある。」と答えたのはわずか4名(1.3%) 表−16 利用した教材. であり,見たことはないとしたのは272名(87.2%)に. 教 材. もなる。 表−15 『手引書』の認知 手引書の認知. 人数 比率. 手引書を資料として参考にしたこと 4. がある。. 見たことはあるが、参考にしたこと はない。. 1.3. 人 数 比 率. 教 科 書. 61. 46.6. 社会科副読本. 40. 30.5. 自作の教材. 3. 2.3. そ の 他. 28. 21.4. 教材としては,半数近くの教員が教科書としている。. 33 10.6. 副読本を用いたのは40名(30.5%)である。副読本が利. 見たことはないが、あることは知っ ている。. 用されていないのは,副読本が役立たないからである。. 88. 表−17を見てみよう。「これまであなたが赴任した道. 見たこともないし、あることも知ら なかった。. 内の市町村の社会科副読本(3年,4年向け)にはアイ. 184 59.0. ヌ民族の記述がありましたか。」という設問に対する回. 無回答. 3. 合. 計. 1.0. 312名 100.1%. 答である。「少ししか書かれていないというのがほとん どであった。」と「まったく触れられていないという印. 象の方が強い。」が,245名(78.5%)であることからわ. 表−14で「全般的に,しかも詳しく取り扱った」とし. かるように,いざ取り扱おうとしても副読本の記述量で. た3名の内,1名が「手引書を資料として参考にしたこ. は役立つほどのものではないということになる。しかし. とがある。」とし,2名は「見たことはあるが,参考に. 社会科副読本が一般的に利用されてないということでは. したことはない。」「見たこともないし,あることも知ら. 決してない。312名の内,248名(79.5%)が社会科の授. なかった。」としている。. 業(アイヌ民族に限らず)の際に「教科書とともに適宜. 道教委が小学校の社会副読本の見直し作業を始め,出 来上がった成果である『手引書』が全学校に配られ,ほ. 利用する。」と答えている。ただ時間の制約から,なか. ぼ10年以上過ぎた。前稿で論じたように,『手引書』を. るに,副読本は教員によって利用されているにもかかわ. なか副読本が使えないという不満がなくはないが。要す. − 48 −.
(8) No.52. 小学校におけるアイヌ民族教育に関する調査. 1998.3. 表−17 社会科副読本における記述の暮 社会科副読本るおけるアイヌ民族の記述の量. 人 数. 比 率. どこでも、詳しく書かれていた。. 3. だいたいに詳しく善かれていたが、少ししか触れられていない副読本も若干あった。. 9. 詳しい副読本と記述の少ない副読本は半々程度であった。. 2.9. 8. 2.6. 少ししか書かれていないというのがほとんどであった。. 122. 39.1. まったく触れられていないという印象のほうが強い。. 123. 39.4. 47. 無 回 答 計. 15.1 ユ00.1%. 312名. らず,アイヌ民族を取り扱う際には,あまり利用されて. 表−18 社会科副読本における記述の評価. いないということなのである。. 社会科副読本の記述評価. 補足的に,表−16で「その他」を選んだ教員が,具体. 人数 比率. 記述は十分である。. 1.0. 3. 的にどのようなものを教材として用いたか列挙しておく. まあまあだろう。. 43. 13.8. ことにする。記入数は28であり少ないが,教員がそれぞ. 少し物足りない。. 36. 11.5. れに努力している様子がうかがえるものになっている。. かなり物足りない。. 36. 11.5. *新聞(4名). わからない。. 166. 53.2. *学級の問題. 28. 無 回 答. *教科書以外の本. 計. 312名. 9.0 100%. *自分の資料. *中本むつこの講演. からない。」が166名,53.2%にもなる。 確かに「記述は十分である。」とか「まあまあだろう。」. *子供向けの歴史図書. とかいう回答には,違和感を感じなくはない。道南外に. *説.話. 赴任した教員もいるし,道南の町村でも詳しくアイヌ民. *アイヌの子のいじめ問題で,作文・授業の実施. 族について記述している副読本もあるから,15%ほどこ. *講話のみ. のような回答者がいるのはおかしくないのかもしれな. *道徳副読本(3名). い。注意するのは,「わからない。」の多さである。教科. *コシャマイン記. 書における記述の評価についても同じような結果が出て. *昔から語り継がれてきた逸話. いる。表−19は「現在学校で使用している教科書(たと. *絵本・物語の本. えば社会科など)のアイヌ民族に関する記述に,あなた. *学会. *新開・カレンダー. は問題があると思いますか。」に対する回答である。教 科書の評価でも「わからない。」が214名,68.6%にもな. *森町の歴史に触れた物語だったと思う. る。. *口頭のみ. 教科書には記述がさほどあるのではない。きわめて短. *新聞・雑誌(組合発行). *読んだ本で理解できそうなものを選んだ. い記述である。また市町村の副読本では記述があるとこ. *教材は使わないが自分が読んだ本や知識. ろもあればないところもある。このような現状であるの. *地域の具体的な場所(熊祭りの跡など). にもかかわらず,「わからない。」とする回答が多いとい うことである。これは,要するに,アイヌ民族について. *クラスのアイヌの子に悪口があったとき指導した. 一体どこまで,どのように取り扱うものなのか教貞自身 社会科副読本があまり利用されていないのには記述が. がわからない中におかれたままになっているということ. 物足りないということに一因があると述べたが,そのよ. である。客観的に見れば,副読本における記述量は少な. うな記述に対して教貞がどのように評価しているのかを. いことは教員も認めるところであるが,それをもって十. 見てみる。表−18は,「社会科副読本におけるアイヌ民. 分とするか,不十分とするかの評価になれば,そもそも. 族の記述について,あなたはどのように思いますか。」. に学校数育の中での位置づけが不明であるために判断に. という設問に対する回答である。表−17では,記述の量. 苦しむことになる。教科書における記述がわずかである. についてはほとんどか,まったく善かれていないと回答. だけに,今の教育制度の中では,アイヌ民族についてど. したのが78.5ヲ占であるのに,評価ということになると「わ. こまで取り扱うのが望ましいのか,北海道の現場の教師. − 49 −.
(9) 清 水 敏 行. くない。. 表−19 教科書における記述の評価. *低学年の社会科などで,もう少し詳しく扱ってもよい。. 教科書におけるアイヌ民族の記述 人数 比率. 問題があると思う。. 44 14.1. *暮らし(文化等)について,もう少し詳しく。. 問題はないと思う。. 47 15.1. *先住民族であることを意識させていない。表面的すぎ. *生活様式と歴史。. 7 2.2. 無 回 答 合. る。. 214 68.6. わからない。. 計. *道南では触れ合いがない。歴史の話しになる。現在の. 312名 100%. アイヌは本でしか教えられない。. は悩むことになる。しかも道教委が作成している『手引. *歴史的な面をもっと詳しく。. 書』についても,6割の回答者が「見たこともないし,. *伝統や文化面。和人との抗争,特に収奪や支配の歴史 など。. あることも知らなかった。」としている状況では,小学 校の教師はアイヌ民族について教えるべきとしても,い. *全然,記述がない。. ったいどれだけのことを教えるべきのかわからないでい. *アイヌ民族の歴史の記述が物足りない。. ることになろう。. *歴史背景の記述。明治政府が行なったアイヌ民族に対. 現場の教員が,アイヌ民族教育については,わからな. する政策。. いでいるということを述べたが,一部の教員は副読本を. *殆ど触れられていない。函館周辺・松前などアイヌと の抗争が激しかったこと,なぜそうなったかの背景。. 含め教育の有り様に批判的であることも確かである。表. −18で「少し物足りない。」「かなり物足りない。」と回. *具体的な生活の記述がないこと。. 答した72名に,具体的にどのような点が物足りないのか. *和人が侵入しアイヌの居住区を狭め,文化が衰退した. たずねてみた。52名(312名中,16.6%)が具体的に記. 経緯に関する記述が不十分。 *民族としての「ほこり」について。. 述している。以下,長くなるが,回答を列挙しておく。. *先住民族であること。インディアンの場合のように,. *開拓前の生活の様子,居住地の分散の経緯。. 日本民族は進入者であること。. *歴史の記述が多いが,現在のアイヌ民族のあり方,要. *文化の記述。. 求等の記述が少ない。. *歴史について。量の物足りなさ。 *「函館市のうつりかわり」の中にまったく出てこない。. *アイヌの歴史・生活・差別問題等に至るまで記述して. *アイヌ民族と和人との関係。. いない。. *記述が少ないように思う。. *北海道の歴史でアイヌが果たした役割。江戸末期から 開拓時代の記述が多いので。. *アイヌ民族側からの記述が不足。追い出しても当たり. *日本人のアイヌの捉え方。先住民族としての位置づけ。. 前のような感じ。 *先住民族としての位置づけ。アイヌ民族を迫害した幕. 自然等,物語の無さを感じる。. 藩制の歴史。. *この点がというより,全般的に不足。. *副読本には,具体的に何も書かれていないように思う。. *いままでの副読本にはほとんどのっていなかったと思. *主要な時代的事件を例にし児童が興味を持てる内容の. う。. 話しになっていないよう。. *アイヌ民族の日常生活,問題など全く明らかになって いない。. *児童がアイヌ民族の暮らしや歴史に興味を持つように 身近なことから紹介してほしい。. *先住の歴史やルーツ,人物。. *差別がある地域あるため慎重にだが避けて通れない。. *ほとんど触れられていないに等しい。. 差別を明記すべき。. *教科書にまったく記述がないこと。. *歴史や,おかれた状況が記述されている。. *アイヌ民族がなぜ少数なのか,和人がアイヌの人たち に行ってきた歴史について。. *日本におけるアイヌ民族の位置づけ。歴史での役割。 現在の課題。. *先住民族に関する研究の進展を踏まえての内容の検. *アイヌ文化の伝承。伝承模様。宗教観。開拓史。. 討。. *教科書に詳しく触れられていない。. *地名がアイヌ語から来ていることなどの記述はある. *アイヌ民族のおこり,どこから来て定住したのかの歴. が,アイヌがいなくった理由とか暮らしについては殆. 史(民族史)。. ど触れられていない。. *住んでいたということが記述されているだけで,詳し. *全体的に詳しくなく児童にとって理解しずらい。. − 50 −.
(10) No.52. 小学校におけるアイヌ民族教育に関する調査. 1998.3. 表−20 アイヌ民族を取り扱うさいの難しさ 人 数 比率(312名). 教 え る 上 で の 難 し さ. 取り扱いたくとも専門的知識がないために難しさがある。. 192. 61.5. 125. 40.1. 47. 15.1. 133. 42.6. 8. 2.6. 特に難しさはないと思う。. 34. 10.9. そ の 他. 14. 4.5. 無 回 答. 4. 教科書の内容を教えるだけの時間しかなく、アイヌ民族のことまで取り扱う時間的な 余裕がない。. まじめに取り扱っても差別と受け取られることもあるので不安である。 教材づくりの参考になるものが身近にほとんどない。 政治的な運動をしていると周囲の教師や父母に誤解されること。. *道内に暮らしている人間としてアイヌ民族のことを知. 1.3. に難しさがあるとすれば,それは何ですか。複数あれば,. 複数回答して下さい。」という設問に対する回答である。. っておく必要は感じる。 *表面的・部分的内容記述で歴史的一貫性が見られな. 複数選択であるので,ここでは調査の全回答着である312 名に対する比率を計算した。. い。. *副読本作成時にアイヌ民族関係者を参加させるべき。. 難しさとしてあげられている項目の中で,「取り扱い. *歴史(和人が主民族との考えが定着したように思える). たくとも専門的知識がないために難しさがある。」が. 61.5%,「教科書の内容を教えるだけの時間しかなく,. を正しく教える必要がある。 *全体的な押え方不足。和人との対立に至る記述不足。. アイヌ民族のことまで取り扱う時間的余裕がない。」が. 40.1%,「教材づくりの参考になるものが身近にほとん. 現在の差別についても必要だ。 *内容が浅い。部分的だ。記述ページが不足。. どない。」が42.6%となっている。. *アイヌ民族の歴史,地位。. これらの項目が比率としては多い。専門的知識がない. *もっと詳しく。道南では少なくても道央・道東では結. とか,教材作りの上で参考になるものがないとかいうの. 構いるので,きちんと教えたほうがよい。. は,解決がさほど難しい問題ではない。実用的な問題で. *歴史についてしっかりした内容ではなかったと思う。. あるに過ぎない。それに対して,時間的余裕がないとい. *アイヌ民族差別を含む差別のない社会を築く精神を取. うのは制度的な問題である。それだけに解決が難しい問. り扱うべき。. 題である。教科書にはアイヌ民族にかする記述がないと か,あるにはあってもごくわずかである。それに対して,. 3,4年で使う社会科副読本は市町村によっては,アイ. 4.教育の難しさと今後の対応. ヌ民族について詳しく記述されていることもある。社会. 今回の調査では,アイヌ民族について取り扱った敦貞. 科副読本に記述がかなりあっても,教科書にわずかしか. は42.0%となっている。アイヌ民族教育に道教委が取り. ない,まったくないといった場合に,現場の教師はどう. 組み始めた時期と重なる1984年に,札幌市教育委員会は. するのか。道南(今回の調査を実施した函館市の副読本. 全市立学校の全教貞を対象にして意識調査を実施してい. ではごく最近になって地名の由来のみが記されたに過ぎ. る。札幌市の市立小学校数貞の51.7%がアイヌに関する. ない)では,教科書の制約に加え,社会副読本の記述の. 内容で授業をしたことがあると回答している。それから. 乏しさによって,ますます現場の教師は取り扱うことの. 10数年経た状況において,今回調査したのであるが,函. 難しさを感じているのではないか。. ほかの項目では,「まじめに取り扱っても差別と受け. 館市では「取り扱った」(「教える」よりも広い概念)と. いう教員が42.0%でしかなかった。10%ほど低かった。. 取られることもあるので不安である。」という項目が47. しかも10年後の時点である。. 名,15.1%で目を引く。このような回答をした47名の教. このように取り扱った経験のある教貞が,予想通りと. 貞の6割がアイヌ民族に関する教育経験がないとしてい. 言うべきであるが,この程度の水準であるのはなぜか。. る。同じように「政治的な運動をしていると周囲の教師. これまでの記述によって,ほぼ明らかにされているが,. や父母に誤解されること。」を選んだ8名の内,7名も. ここであらためて設問に対する回答を見ることにした. 教育経験がない。案ずるより産むが易し,である。教育. い。. 経験がないために,アイヌ民族を取り上げることの不安. 表−20は,「学校でアイヌ民族について取り扱うさい. 感が先立っている。不安感を解消するためには,教貞の. − 51−.
(11) 清 水 敏 行. 表−21アイヌ民族を取り扱い上で改善してはしい点 人 数 比率(312名). 改 善 し て ほ し い 点. 教育委員会(道または市町村)による授業向けの資料の作成・配布、教員の研修など. 144. 46.2. 教科書におけるアイヌ民族の記述をふやすこと。. 124. 39.7. 市町村の副読本におけるアイヌ民族の記述をふやすこと。. 135. 43.3. 38. 12.2. 46. 14.7. の実施。. 授業でアイヌ民族を取り上げるときに相談できる専門的職員を教育委員会(道または 市町村)においてほしい。 道内の大学で敦貞対象にアイヌ民族教育の講座を開設すること。. 3.5. そ の 他. 知識向上だけではなく,制度的な環境整備がまた必要に. かまだ不明瞭なところがある現状では,身近なところに. なる。. アイヌ民族に関する資料館があっても利用するといった. 発想が現場の教師に出て来るのか疑問がなくはない。. 補足的に表−20の「その他」について,具体的に列挙 *地域により難しさが違うので一様には言えない。. とにかく,表−22を見てみよう。これは北方民族資料 館に行った経験があるのかたずねたものである。複数選. *地域的な理由で必要性の有無を論じるのはおかしい。. 択の回答である。比率は調査回答者全員の312名に対す. *どんな問題がある実際には分からない。. るものである。. しておくことにする。. *何をどのように扱うべきなのか分からない。 表−22 北方民族資料館. *自分に知識がないため指導できない。. 北方民族資料館. *人権・民族を小学生に理解させることは難しい。. 人 数 比率(312名). 67. 21.5. 個人的に行った。. 124. 39.7. *勉強不足(研修の機会があれば参加したい)。. 行ったことはない。. 127. 40.7. *日本は多民族国家であり,アイヌ民族だけというのは. わからない。. 学校の行事で行った。. *とりたててアイヌを教える必要があるのか疑問であ る。. 6. 1.9. 気になる。. 「行ったことはない」を選んだのは127名,「わからな. *教材を作る上で,参考になるものが少ししか提供され. い」が6名であるから,残りの180名弱が行った経験が. ていない。. *アイヌ民族を取り扱う目的が何かわからない。. あるとしている。57%程度の教員が行ったことになる。. *白老ではアイヌの子がいて差別に配慮した。教育が必. 関心の高さがうかがわれる。しかも「学校の行事で行っ た。」という回答も67名で21.5%となっている。実際に. 要だ。. 北方民族資料館の見学を実施している学校がある。しか も,ほんのごくわずかという数値ではない。個人的に行. *資料不足。 それでは,今後改善してほしい点として,どのような. ったことがあるという教貞が学校の見学に結び付ていく ことを期待するのも無理なことではない。. ことが選択されているのか,見てみることにする。. この解答を見ると,やはり現場の教員は実用的な知識 の習得,さらに副読本・教科書などの制度的な支えの面 での改善を望んでいることがわかる。制度的な面での改. 4.結. 論. 善については,専門職貞の配置よりも,副読本の記述改 善に関心が集まっている。目に見えて,アイヌ民族教育. ので,再び述べる必要はないものと思われる。繰り返し. を小学校で取り扱うのだという教育委員会の姿勢が教材. になるが,いくつかの点をあらためて指摘しておくこと. 面において具体的に現れることを期待しているのであ. にする。. すでに考察のところで指摘すべきことは指摘してきた. 第一に,教師サイドの取組みであるが,個人的な熱意. る。. 確かに,このように改善を求めているが,教員自身が. やアイヌ児童の在籍,勤務地,さらには副読本の記述の. 身近なところで取り扱えるものがあるのではないか。函. 有無などによって左右されているというのが現状であ. 館市の場合,北方民族資料館である。結局,道教委,市. る。つまり偶然的な要因に左右されており,制度的な要. 教委サイドでアイヌ民族について取り扱う意思があるの. 因による影響をはっきりと確認できないということであ. − 52 −.
(12) No.52. 小学校におけるアイヌ民族教育に関する調査. る。函館市の場合,副読本の記述はほとんどないのが実 態であるから制度的要因の影響は微々たるものではない. か。 第二に,アイヌ民族教育の取り組みが,そもそもにネ ガティヴな形で始まったという出発点の姿勢がいまだ転. 換してはいないということである。教育現場からの差別 用語の追放であるとか,アイヌ児童の差別やいじめに対 する対処であるとかが問題であった。ウタリ協会による プレッシャーがあって道教委,札幌市教育委員会が動い たと言える面が強い。道教委の取り組みが始まり10年ほ ど経ったが,市町村の社会科副読本作成に対するアドバ イス提供の域を超えていない。政策的な裏付けが乏しい ことが,副読本の記述量の乏しさにつながっているし, 現場の教師がとまどうことにもつながっている。. 第三に,現場の教師は総論としては道南,函館におい てもアイヌ民族について取扱うことには賛成している. が,各論になると消極的になりがちであるということで ある。副読本の記述などにも批判的な意見をもっている. 教師も少数ではあるがいる。熱心な教師もいる。しかし, 総じて消極的な雰囲気になるのは,いうまでもなく制度 的な環境整備が一向に進んでいないからである。 大枠では教科書にアイヌ民族をどのように記述させて. 行くのかという大問題があるが,道・市町村レベルでも できることはあるはずである。小中高の学校教育を通じ てどのように敢えていくのか体系的な整備はなされてい. ない。/ト学校の社会科副読本は3年,4年でしか使わな い教材である。また教員の知識やノウハウへの要望に, どのようにこたえていくのかも不十分過ぎる。 アイヌ文化振興法が施行されたことが,今後,学校教 育の政策,そして教育現場にどのような影響を及ぼして いくことになるのか注視していきたい。. − 53 −. 1998.3.
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