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子どもの「学び」に着目した幼少連携

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Academic year: 2021

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(1)Title. 子どもの「学び」に着目した幼少連携. Author(s). 内山, 隆. Citation. 釧路論集 : 北海道教育大学釧路校研究紀要, 第48号: 61-67. Issue Date. 2016-12. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/8226. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第48号(平成28年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.48(2016):61-68. 子どもの「学び」に着目した幼小連携 内 山 隆 北海道教育大学釧路校社会科教育学研究室. Cooperation of a kindergarten and the elementary school which paid its attention to "the learning" of the child UCHIYAMA Takashi Department of Social-studies Education,Kushiro Campus,Hokkaido University of Education. 要旨 幼小連携において、 「子どもの発達や学びの連続性」をどのように捉え、「幼児と児童の実態や指導の在り方について相 互理解」を深めるにはどうすれば良いか。本稿の目的は、小学校低学年児童と幼稚園園児の内から生まれる「学び」に着 目することで、子どもの学びの姿に即した幼小連携の在り方を示すことである。 小学校低学年児童の作文と幼稚園園児についてのエピソード記録の分析から明らかになったことは以下の点である。小 学校低学年児童では自らの「学び」の「目標」 「内容」「方法」をメタ認知しながら取り組んでいる。一方、幼稚園園児は それをモノや人との関わりから生み出していく。教師は子どもの遊びからどんな「学び」が芽生えつつあるかを見とり、 子ども自身が 「目標」 「内容」 「方法」 をイメージ化できるようにすることが重要な役割である。このように、 「学びの芽生え」 から「自覚的な学び」へのつなぎを、子どもの「学び」についてのメタ認知の発達に即した教師の援助として捉えること で、教員同士が相互理解を深めることが可能になる。. 2.研究の方法. 1.はじめに 幼小連携においては、子どもの発達や学びの連続性を踏. (1)小学校低学年児童の作文分析から学びを捉える. まえることが重視されている。中央教育審議会答申(平成. 筆者は、小学校で低学年を担任していた際に、 「作文帳」. 20年)でも、 「幼稚園教育と小学校教育との円滑な接続」. を活用した評価に取り組んでいた。1年生の2学期から、. の観点から、 「教師が意見交換などを通じて幼児と児童の. 子どもたちが毎日の学校生活の中で一番心に残ったこと、. 実態や指導の在り方について相互理解を深め」る連携を求. 伝えたいことを作文に表現するものである。作文は教師が. めている。. 読んで翌朝までに返却した。作文を学級だよりに載せるこ. では、 「子どもの発達や学びの連続性」をどのように捉. ともあった。子どもが書いたことを朝の会でみんなに伝え. えれば良いか。また、 「幼児と児童の実態や指導の在り方. たいこととして発表することもあった。. について相互理解」を深めるにはどうすれば良いか。. 当時、勤務校では子どもの願いや求めを中心に据えた低. 幼小連携の場に関わる中で、筆者は子どもの「学び」を. 学年総合学習に取り組み始めていた。子どもの興味・関心. 共通の視点にすることで、教師が同じ土俵に立って検討. から生まれた願いや求めを総合的な学びへと展開していく. し、相互理解を深めることができるのではないかと考え. 中で、一人ひとりの子どもに何が育っているのか、それを. た。ここでの「学び」は、佐藤学の言う「子ども一人ひと. 捉える手がかりの一つとして取り組んだのが「作文帳」で. りが内側で構成する個性的で個別的な『意味の経験』」1). ある。. として捉えられるものである。本研究では小学校低学年児. 小川博久は、この取り組みについて「具体的経験は学習. 童と幼稚園園児の内から生まれる「学び」の「目標」 「内容」. 者の興味によって触発されればされるほど、具体的経験を. 「方法」に着目することで、子どもの学びの姿に即した幼. 通して学習者はその経験そのものを刺激に対する反応とし. 小連携の在り方を示す。. て表出したくなる衝動にかられる。その表出はしばしば情 緒的な色彩を伴うことが多い。さらにその表出は表現へと 高められることで表出に伴う情動や直観が認知的に再構成. - 61 -.

(3) 内 山 隆 されたことになる」と捉え、 「具体的体験から生まれる<. そこでは当初、平成22年11月の文部科学省「幼児期と小. 表出-表現>に含まれる『知』である」2)としている。. 学校教育の円滑な接続の在り方について(報告)」に示さ. 若狭蔵之助は、フレネ教育に基づく子どもの生活作文に. れた「学びの芽生えの時期から自覚的な学びの時期への円. ついて、 「子どもたちは作文を書くことで、自分の像を紙. 滑な移行」という考え方をベースに進められていた。 「学. の上に発見した。そして、紙に固着され、対象化された生. びの芽生え」とは、「学ぶということを意識しているわけ. 活を見ると、彼らはそのありったけを表現しようとする。. ではないが、楽しいことや好きなことに集中することを通. 自分のしたことを時間をおって書いたり、自分が見たこと. じて、様々なことを学んでいくことであり、幼児期におけ. のすべてを書いて、いったい自分がしたことは何であり、. る遊びの中での学びがこれに当たる」と説明されている。. 自分がしたかったことは何であるかを考える」3)と述べて. 一方、「自覚的な学び」については、「学ぶということにつ. いる。つまり、子どもは作文に表現することで、生活を対. いての意識があり、集中する時間とそうでない時間(休憩. 象化し、自らの経験を意味づけるのである。. の時間等)の区別が付き、小学校における各教科等の授業. 加藤幸次は自己評価について、 「メタ認知をめぐってこ. を通した学習がこれに当たる」としている。両者の説明は、. そつくられるべき」で、 「課題と自分、自分の生活とか経. 教育システムの違いと対応していると考えられる。. 験とか、経験と新しい課題の関わり、さらに新しい授業シ. また、「学ぶということを意識しているわけではない」. ステムの中での時間、メディア、追究する方向、最終的な. と「学ぶということについての意識があり」という違いは、. 結論という要素をめぐってなされるべき」4)であるとして. 前述の加藤の言う「自己評価」における「メタ認知」と関. いる。. 連すると考えられる。1年生のれいこの作文には、 「学ぶ. ここで、 1年生の子どもが10月に書いた作文を見てみる。. ということについての意識」が見とれる。では、幼児は遊. 今日、ひとみさんといっしょに お花ときのみとえ だをひろいました。たくさんつくって かんざしをつくるよていです。ボンドでえだにつける と とってもきれいになるとおもいます。(れいこ 1年 10/18). びの中で「学ぶということを意識しているわけではない」. ここには、加藤の言う自己評価にかかわるメタ認知の要. 能的に、力の入れぐあい、離し方、位置関係など、一所懸. 素である「課題と自分」 「経験と新しい課題の関わり」「追. 命に、その加減を自己評価している。二つは、考えながら、. 究する方向」 「最終的な結論」といった点が表現されてい. つまり何をいちばん下にし、次に何を選んで積むかなど、. ると考える。. 失敗をまじえながら、しっかりと理屈を考えながら積んで. とりわけ、この作文から明確に印象づけられたのは、こ. いく。ここでもその思考の正しさを自己評価している。三. こに学びの「目標」 (二重下線部分) 「内容」 (波線部分) 「方. つは、色の組み合わせで、(中略)。四つは、何度やっても. 法」(破線部分)が表現されているということである。. うまくいかないとき、じっと情緒的な、発作的な怒りを抑. これは、小川の言う「しかもその『知』は教師が要求す. えて、我慢して自分を統制し、息をひそめ、心をしずめて. る問いに答える形で出てくる『知』ではなく自ら関心をも. 試みを繰り返している。五つは、こうすることの全体の意. ち、興味に触発された事柄を明らかにするための『知』で. 味を考えたり、目的を達成することが価値あることである. あるとすれば、それは必然的に<表出-表現>に含まれる. か、また、部分的な面でも、やけくそになって壊すことは. 『知』であり、具体的体験から生まれる<表出-表現>に. 道徳的にもみてもよいことかどうか、などについて自己吟. 含まれる『知』 」5)の内実であると考えられる。. 味している。これらの五つのすべてにおいて、子どもは自. これまで、どちらかと言えば幼稚園や小学校の教育のね. 分のその行動について、それをすることを通して『自己統. らいや内容、指導方法といった教育のシステムの違いを前. 制』しているのである。その『自己統制』の中核となって. 提に幼小連携を考えてきた面があり、小学校の教育に子ど. 働いている活動、それが『自己評価活動』である」6). もを適応させる指導という考え方もあった。. このように子どもの遊びの中にも自己評価が働いている. だが、この作文のように、子どもの内から生まれる「学. と捉えれば、エピソード記録を検討することで、小学校の. び」の「目標」 「内容」 「方法」に着目することで、子ども. 子どもの作文と同様、幼稚園の子どもの学びの「目標」 「内. の「発達や学びの連続性」から幼小連携を考えていけるの. 容」「方法」を見ていくことができるのではないか。次節. ではないか。. でそれぞれの事例について検討していく。. のだろうか。 安彦忠彦は、自己評価活動における子どもの「自己統制 能力」について、遊びの事例を挙げて説明している。 「た とえば、子どもが積み木を積んで遊んでいる。一つは、技. (2)幼稚園園児の遊びのエピソード記録から学びを捉. 3.事例分析 (1)小学校低学年児童の作文から捉えた学び. える. ① 1年生の作文から. 筆者は、平成20年から札幌市の幼稚園を拠点に幼保小連 携事業に関わっている。. 先に挙げたれいこの作文には、「目標」「内容」「方法」. - 62 -.

(4) 子どもの「学び」に着目した幼小連携 が表現されている。. んがやめてしまいました。なぜかというと、本だなが しっぱいしたので やめてしまいました。しょうがな いから 二人だけでやっているとちゅうです。みえさ んと私でいいことを思いつきました。さっきのしっぱ いさくを、また本だなにかえるには、本だなのうえに また本をおくだいをつなげていけば、またもとどおり になります。そういうふうにかんがえてやっていま す。これでうまくいくといいなとおもっています。 いっぱいみんながやめてしまってざんねんです。け れど、さいごまでぜったいにやってみたいです。 (よ しえ 2年 6/11). 一緒に活動する友だちについての意識と、完成した作品 のイメージももっている。 次のちよこの作文も、秋の木の実や葉などを使った活動 に取り組んでいる時のものである。 今日のデパートのしょうひんは、しっぱいのものも あったけど たくさんおきゃくさんがきてくれてよ かったです。ふたりでうっていると わたしは、ひろ こさんにいいました。もっといいものをたくさんつ くってきてとね。またもくようびも うることができ るなんて すてきだなとおもいます。わたしは、ひろ こさんに いろんなもののつくりかたを おしえたいと おもいました。ひろこさんは、なんでも もののつく りかたを おしえてくれるからです。わたしも、もの のつくりかたを たくさんおぼえたいとおもいました。 (ちよこ 1年 11/6). 2年生も後半になると、「目標」をある程度の期間持ち 続け、実現に向けてねばり強く取り組むことができるよう になることを、下のなつみの作文は示している。 仲間と協同して実現した喜びを、もてる語彙を十分に駆 使して表現しようとしている。子どもはこのように心を揺. この子どもは、 友だちとの関係性の中から自らの 「目標」. さぶられる体験を通して、それを表現する言葉も獲得する. を見出している。. のである。このように、小学校低学年児童は作文に表現す. これは、岩田純一の言う「子どもの発達と表現」におけ. ることで生活を対象化し、メタ認知を働かせて経験を意味. る「自我発達に支えられえて内なる表現が出現し、一方で. づけている。. その内なる表現が、今度は次第に自我発達を支えていくよ. 「家づくり」 今日、三~四時間目に家づくりをしました。ねぎの ようなものを すりつぶして、ボンドを いれてエメラルドグリーンをつくったのです。これ は、すごいことなので、それを色水につかって きれ いな石のかざりをつくろうとしているのです。私たち は、家ができるまえからじつ力をつくし、がんばった ちからが今、げんじつになったことが うれしくてた まりません。 (なつみ 2年 10/22). うになる」7)ということと合致すると考える。 次の作文は、題名が付いていることからも分かるよう に、テーマ性を意識したものになっている。自然への興味・ 関心をもとに、 自ら働きかけようとする中で 「目標」 「内容」 「方法」が表現されている。前述の小川の指摘の通り、一 つ一つの体験に「たのしかった」 「うれしかった」 「いやだっ た」「たのしみ」といった感情が伴いながら展開している のが特徴である。. 子どもの「内なる自我発達」と「<表出-表現>」が支. 「しもばしら 1」 (じゅんいち1年1/6) 今日、ちゅうおうこうえんに いきました。そのこ うえんは、 うちのそばにあります。 そのこうえんにいっ たら、しもばしらがいっぱいありました。ぼくはその とき とってもたのしかったです。ぼくは、しもばし らをあつめたけど、てのなかだから すぐとけました。 ぼくは、そのときいやだったです。ぼくは、あしたも きて しもばしらをとることにきめました。あしたも しもばしらがあったら ぜったいにとりにいきます。 かえりに こおりができるように、あなをほって みず をいれました。あしたが たのしみです。. え合いながら、自らの興味・関心に基づく学びの「目標」 「内容」「方法」を生み出し、具体的な活動や体験を自覚 的に充実・発展させていることが見とれる。 では、幼稚園園児の遊びではどうか。 (2)幼稚園園児の遊びのエピソード記録から捉えた学 び ① 年少ゆうたのエピソード記録から 幼稚園のエピソード記録で取り上げられている対象児 は、年少、年中、年長それぞれの担任教師が気になってい. ② 2年生の作文から. る子どもであり、特に学びを見とりやすいという観点から. 2年生は、下のよしえの作文のように試行錯誤のプロセ. 選んだのではない。. スをイメージ化して文章に表現することができるようにな. 次ページの「プリンです」のエピソード記録から、年少. る。このような失敗を乗り越える問題解決の経験こそ、生. 児の遊びも「目標」「内容」「方法」を伴ったものになって. きる力の育成に向けた子どもの学びや発達の連続性の柱と. いると考えられる。この子どもなりに作りたいプリンのイ. して位置づけるべきではないか。. メージをもち、その実現に向けて繰り返し試行錯誤を行う. また、○○さんと□□くんと□□くんと□□くんが はいりました。けれど、□□くんと□□くんと□□く. 中で、うまくいくための方法(技術)を獲得している。そ れを支えているのが教師の適切な援助である。. - 63 -.

(5) 内 山 隆 年少ゆうたの記録 今日もまたゆうた他数名が砂場でごちそうを作る。ゆうたがやってきて「はいプリン」 。そのプリンに驚く。なんと、 コップで型抜きをして作った真っ当なプリンが地面の上に作られたのだ。もちろん教師は、形を崩すようにして食べ るまねをする。 すると、 「はいプリン」 また繰り返される。 ところが、型抜きをするとそのプリンの上の方が欠けてしまっ た。 「あ~上が壊れてる」すると、ゆうたはそのプリンを「つぶしま~す」とぺっちゃんこに…。そしてまた、「プリ ンです」「あ…まただめだ」またつぶす。でもそれは、楽しそう…。 「はいプリンです。やった!うまくできた」食べ るのが惜しく感じた教師が壊さないように食べると、「ちゃんと食べて下さい」 。それらのやりとりを見ていたさえこ が「さえこも作る~」 。ゆうた「いいよ。ここにこう入れて…」とやって見せる。3回繰り返した後、 さえこは去っていく。ゆうたといえば「はいプリンです」が繰り返される。たまらず教師は「次はチョコレートプリ ンお願いします」 と声を掛ける。すると 「次は?」 リクエストをとるようになる。 「次は醤油プリンお願いします」と言っ てみる。「ゴマもかけました」アレンジを加えるゆうた。「蜂蜜プリン食べる?」ゆうたからもイメージが出されるよ うになる。 5月9日 年中たけしの記録(抜粋) 「先生見て~!」たけしが目をキラキラ輝かせながら担任にアピールしてきた。担任「ミミズだ!凄い!良く見つ けたね!」たけし「血!血!」担任「血?」たけし「(損傷部を指さす)」担任「本当だぁ!かわいそうだね…。その ミミズどうするの?」たけし「???」どうするって言われても血のついた(傷ついた)珍しいミミズの発見を、共 感してほしかっただけだし、持っているだけで満足。担任「ミミズのお家作る?」たけし「うん」と目を輝かせる。 担任「 (ミミズの)お家どれにする?」たけし「これ」となんの躊躇もなく、すぐ側に落ちていたフルイを持ってくる。 担任「それもいいけど、これはどうかな?」と近くにあった飼育ケースを提示。何か手がかりがあった方が意欲は高 まるはず。担任は、以前から用意しておいた『ミミズの飼い方カード』を手渡す。たけしはそれを受け取ると、まる で勉強するかのように眺める。情報収集が終わるとスクッと立ち上がり、 「石…石…」と言いながら周囲を真剣な眼 差しで探し始めるたけし。 “やる気スイッチ”が完全に入ったようだ。 「入れて」 と次々に仲間入りする友達数名。 その時担任の口から出たのは、 「たけしミミズ隊長、準備はどうですか?」 だった。 “たけしが一番リーダーであることを確立させたい”と考えたのだ。その言葉を聴いたたけしはニンマリ。 仲間入りしてきた子たちは、実によく働く。土を持ってこようと掘る子、石を持ってくる子、草を持ってくる子。ま さに、 “あうんの呼吸”だ。一方、 ミミズ隊長は、 「もっと(持ってきて)」 「もういい(足りてる)」と指示を出す。また、 必死に『ミミズの飼い方カード』と同じ数だけミミズを増やそうと探す。意欲に溢れ、実に生き生きとしている。そ して、いつものように違う遊びに行ってしまわない。担任がたけしに近寄り、『ミミズの飼い方カード』を指さしな がら、 「最後まで頑張るなんてさすがミミズ隊長だね」と言葉をかけた。ちょっぴり照れくさそうなニンマリした表 情を浮かべるたけし。 “熱中して遊びこんだ時ならではの心地よい心情”を学んだからこその表情であると確信した 瞬間だった。 5月7日 -翌日も、その翌日も、ミミズが生きているかを新聞紙に広げて確認するたけしの姿があった。 年長なみの記録 気温の高い日、数名の幼児が担任と一緒に泥湯で泥団子作りを始める。泥湯にやって来たなみは、自分で持ってき た椅子に座る。泥団子作りに誘われるのを待っているのかなと思いつつ、自分から動くのを待つ。すると、なみが一 人でぶつぶつ言いだす。しかし、 他児との会話中の教師にはよく聞こえない。何かを思い立ったように立ち上がって、 小さなシャベルと持ってきた。椅子に座って泥をほじくり出す。 しばらくすると、また一人でぶつぶつ言っているので、耳を澄まして聞いてみると、 「なみ、水を入れたらいいと 思うんだ…」 、 「水入れてみたらさ~」などと言っている。私に聞こえるように言ってる?誰も水使ってないから遠慮 してる?教師が他の幼児とかかわっている間、 まだぶつぶつ言ってる。これは話しかけてもらうのを待っているはず。 「水入れたいの?」とさりげなく聞くと、 「うん」と小さく返事する。水を入れようと思ったなんて驚き!ここは、 さすがに背中を押さなきゃ!あまり反応すると嫌だろうからさりげなく支えよう。 「汲んできて入れてみたら?」 とさらっと促す。 「うん…」といつものように小さな返事をするが、表情はいい。ささっと水を汲んできて泥湯に入 れるとすぐシャベルで泥と水を混ぜ出す。. - 64 -.

(6) 子どもの「学び」に着目した幼小連携 今度は、 「なみ、靴と靴下汚れたら困るから…」などと言い出す。え?裸足になる?あのなみが?誰も裸足になっ ていないのに?なるほど、年中時にしていた“泥温泉”のように、トロトロの泥の中に入りたいんだ!すごい!「裸 足になってもいいよ」となるべくさらっと言ってみる。すると、さっと裸足になる。何やら文句を言いながらも表情 はうれしそう。また、椅子に座って混ぜ始める。あれ?せっかく裸足になったのに、泥水には入らないんだ。入れば いいのに。でも、 ここで焦って援助すると逃げられちゃうかな。うーん。どうしよう、と考えながら様子を見ていた。 泥湯に来てから25分間経過。一生懸命泥を混ぜ続けるなみ。 そんな時、 トロトロの泥がなみの足にかかった!どうするんだろう、なみ。「先生!泥ついた…」とちょっと嫌そう。 嫌なんだ。入りたいんじゃないの?よくわかんない。最初の一歩に躊躇しているのかな。まあ、でもチャンス!「足 いれちゃえば?」と言ってみる。恐る恐る入ってみるなみ。入った途端いい表情!そんななみを見て、「いれて」と ゆきといずみ。「いいけど、靴と靴下ちゃんと脱いできて!」とはっきり言えるなみ。いずみにこんなに強気で話し ているのを聞いたのは初めて!その後、他の友達にも「入りたかったら、ちゃんと入れてって言って!」「狭い!み んな無理やり入ってこないいでよ。なみがやったんだから!」 「ちょっとこっち来ないでよ!」なんてよくしゃべる。 こんななみ見たことない。 「気持ちよさそうだね!」と話しかけると嬉しそうに笑顔になるなみ。チョコレート作り をしていた友達のイメージから“チョコレート温泉”と呼ぶことになり、遊びをリードしながらたくさんの友達と一 緒に泥の感触を味わって楽しんだ。 5月2日 子どもとともに遊びながら子どもの「目標」 (思いや願. うだろうか」と仮説を立て、慎重に言葉かけをしている。. い)を見とり、働きかけている。そこから子どもの新たな. そして、なみの表情からその適否を判断し、次の仮説の設. 「内容」が創造されているのである。. 定と援助を繰り返している。ここには、なみの「自己統制」. ② 年中たけしのエピソード記録から. に寄り添う教師の「自己統制」も連動して進行している。. この子どもに担任が願っていることは、継続して遊び込. それを支えているのは、教師の共感性の高さである。. んでほしいということである。. 教師の支えによって自己の「目標」が実現したことで、. この子どもが興味をもったのは、傷ついたミミズであ. なみは自己発揮への意欲を高め、友達に対して自信をもっ. る。教師が、 「そのミミズ、どうするの?」と問いかけ、. て表現する姿を生んだのである。. 「ミミズのお家作る?」と投げかけたのが適切だったかど. これらの記録から、幼稚園児は遊びの中で「目標」 「内容」. うかは検討が必要である。子どもは、ミミズが傷を癒す方. 「方法」を対象化しメタ認知しているとは言えないが、子. 法や場所(病院)を求めていたかもしれない。たけしは教. どものつぶやきや態度、行動等から教師が見とり、個に応. 師の投げかけに乗ってくるが、どうするかというイメージ. じて適切に関わることで「目標」を明確化したり、 「内容」. はもっていないようだ。それを見とった教師は、 『ミミズ. を生み出したり、「方法」をイメージ化したりしているこ. の飼い方カード』を提示する。それを手がかりに、たけし. とが分かる。. はミミズの家作りについて、何を(内容) 、どのように(方 法)すれば良いかイメージ化していく。この遊びの成立に. 4.考察 (1)学びの「目標」「内容」「方法」について. 大きく関わっているのが、仲間の存在である。たけしのイ メージを共有し、その実現を支えている。一人で遊ぶより. 小学校低学年児では、自分が「~したい」という「目標」. も、「目標」 「内容」 「方法」を共有し、実現に向けて協同. (願いや求め)を作文に表現し、その実現に向けた「内容」. することでより遊びの充実度が増し、継続性が生まれてい. や「方法」を、使える言葉を駆使して文に表現している。. る。. このように対象化し文章化していることから、「自覚的な. こうした体験を通して、仲間の重要性を実感的に経験し. 学び」と言える。1年生から2年生にかけて、「目標」と. ていくのが年中児であろう。. それを実現するための「内容」及び「方法」についての意. ③ 年長なみのエピソード記録から. 識は、より明確になっていることが読み取れる。. 担任がなみを取り上げたのは、自己発揮ができていない. 一方、幼稚園園児は、自分の「~したい」という願いや. ので、 自分の力を発揮して、 遊びの楽しさや充実感を味わっ. 求めはもっているが、それを「目標」として意識化したり. てほしいと願ったからである。. <表出-表現>したりする際には、教師が援助している。. 記録から分かるように、 なみは強い「目標」 (思い・願い). ここで取り上げられている幼児たちは、この点で担任が日. をもっていることが分かる。それが人に分かるように、伝. 頃から気にしている子どもであることから、より教師の援. わるように<表出-表現>され、行動につながっていない. 助が明確に浮かび上がっている。. のである。. 年少児は、子どもと教師がともに遊びながら、言葉のや. 教師は、 なみのつぶやきや動きから、 「こうだろうか」「ど. りとりを通して「内容」を創造している。. - 65 -.

(7) 内 山 隆 この事例で特に筆者が着目したのは、ゆうたが型抜きと. と「目標」「内容」「方法」を共有しながら活動し、活動を. いう方法を学んだことで、少しでも形が崩れたプリンはつ. 通して人間関係の深まりを実感している。. ぶして作り直していることである。つまり、技術の獲得に. 2年生の事例では、子どもは学級の仲間と共有する「目. よって完璧な形のプリンを作りたいということが、ゆうた. 標」の実現に向けて、自ら考えた「内容」「方法」につい. にとって「目標」として自覚されたと考えられる。. て友達と活動している。教師は、子どもたちが活動を共有. 年中児の事例からは、教師が子どもの「~したい」をど. する場を設け、必要な材料、用具を準備し活動を支えてい. う見とるかによって「内容」 「方法」の方向性が変わって. る。. くることが分かる。たけしはミミズの家を作る(目標)た. 幼稚園年少児の事例では、他児の様子を見て砂場で遊び. めに『ミミズの飼い方カード』 (方法)を手がかりにミミ. 始めたゆうたが、教師との「はい、プリンです」のやり取. ズの家を作る遊び(内容」に友達と没頭した。. りの繰り返しを楽しんでいる。ちゃんと食べてほしいとい. 年長児の事例では、子どものつぶやきから教師が「~し. うゆうたの願い(「目標」)に応える教師の関わりが、皿に. たい」を仮説的に捉え、応答することで「目標」を共感的. 砂を盛るという「内容」を生み、繰り返しの原動力になっ. に理解し、それを実現する「内容」 「方法」を生み出すこ. ている。また、ゆうたがコップを使って型抜きの技術を身. とにつなげている。. に付けたことで新たな「目標」と「内容」「方法」が生ま. (2) 「状況」について. れている。ここで、友達を遊びに入れて教えるという関わ. 小学校の授業では、教師から「目標」 「内容」 「方法」が. りも生まれる。更に繰り返しの中で教師がリクエストを出. 提示され、子どもたちはそれに従って活動していくことが. したことで、それに応えてゆうたからもリクエストを求め. 多い。1年生の事例は、教師から秋の木の実や木の葉集め. る関わりが生まれ、アレンジを加える「内容」の創造につ. を投げかけ、子どもたちが集めた材料から作りたいものを. なげている。. イメージし、友達と活動するというものであった。基本的. 年中児の事例では、たけしが興味をもったモノ(生き物). に、教室の「材料銀行」 「道具銀行」に置いてものは自由. から教師が「目標」「内容」「方法」を投げかけ、たけしの. に使って良い環境にしておいた。. 反応や動きを見ながら材料やモノ(情報カード)を提示し、. 2年生の事例は、 進級時に 「2年生になってしたいこと」. 本人の“やる気スイッチ”が入る援助をしている。この事. を話し合う中から生まれた「みんなで家を作りたい」とい. 例では、遊びの「目標」「内容」「方法」を共有する仲間の. う子どもたちの願いの共有によって、 「目標」 「内容」 「方法」. 関わりが遊びの充実に大きく影響している。. が創造された。. 年長児の事例では、 教師は直接遊びに関わるのではなく、. それを実現したのは、子どもたちが「~したい」を出し. 適度な距離を保ちながらなみのつぶやきや行動から願いや. 合って、みんなでする活動を生み出す話し合いの場を設け. 求め(「目標」)を見とり、なみが自ら「内容」や「方法」. るという教師の環境構成である。 . を実行していけるように支えている。この教師の援助の. その中で、よしえは家の中に置く家具として本棚を作. 背景には、なみの動き出しを待てる時間のゆとりと、年中. り、なつみは家の周りにきれいに着色した石を置くために. の時の遊びとつなげる長いスパンの子ども理解がある。な. 石の飾りを作ったのである。2年生の子どもたちは、「学. かなか自己発揮できないなみにとって、椅子は遊び出すた. 級のみんなでつくる」という共通の「目標」を意識して「自. めの拠点としての意味をもつモノであると考えられる。ま. 覚的な学び」に取り組んだ。. た、自らの「目標」を実現したなみにとって、遊びに「入. 幼稚園の事例では、子ども一人一人が興味をもち遊べる. れて」と言ってきた友達の存在は、遊びをリードする経験. 環境構成を重視し、その中で「この子」が興味をもったも. をもたらし、自信につながっている. のから遊びが生まれ、充実・発展していくような環境構成. 以上から、幼稚園においては、子どもの「学びの芽生. と援助をしている。. え」から学びの「目標」「内容」「方法」を仮説的に捉え、. 年少児では興味をもった素材や道具と繰り返し関わるこ. 子どもに働きかけながらその子どもにとって「自覚的な学. とを、年中児では遊びの「目標」や「内容」 、 「方法」の明. び」につながっていくような教師の援助の重要性が明らか. 確なイメージ化を図ることを、年長児では子どものもって. になった。. いる「目標」を「内容」 「方法」として実現するために、 「~ してみたら」 「~してもいいよ」のように子どもが動き出. 5.成果と課題. せるような状況をつくっている。. 幼稚園園児と小学校低学年児童の「学び」の「目標」 「内. (3) 「関わり」について. 容」「方法」に着目し、比較考察することで以下の点が明. 小学校1年生の事例では、子どもは自ら見つけ、集めた. らかになった。. モノから「目標」 「内容」 「方法」をイメージしている。教. 小学校低学年児童は、自らの「学び」の「目標」「内容」. 師は活動を投げかけ、材料や用具を準備して子どもたちが. 「方法」を対象化して捉え、自覚的に取り組んでいる。そ. 選べるようにしている。子どもたちは同じグループの友達. れは、作文表現から子どものメタ認知と関連づけられるこ. - 66 -.

(8) 子どもの「学び」に着目した幼小連携 1988年、p35. とが分かる。子どもは、 「~したい」ことについて、何を 通してどのように実現していくかイメージ化している。ま. 5)加藤幸次『自己教育力を育てる授業づくり』黎明書房、 1988年、p131. た、仲間との関わりから生まれる内なる学びや対象への働 きかけ方、思考錯誤のプロセスなどもメタ認知し、「自覚. 6)内山隆・小川博久 前掲 p160. 的な学び」にしていく。. 7)安彦忠彦『自己評価』図書文化、1987年、pp80-81. 教師の役割は、子どもが「~したい」をもてる活動や場. 8)岩田純一「表現としてのことば」『教育の方法4 こと. の設定であり、活動の様子や作文表現から子どもが自力解 決できる環境を構成し、必要な援助をすることである。 一方、幼稚園園児の場合は、 「学び」の「目標」 「内容」 「方法」をモノとの関わりや人との関わりの中から生み出 していく。 それは、 「~したい」 という思いと行動がつながっ ていることもあれば、つながっていないこともあるし、ま だ具体的にイメージ化していないこともある。 子どもの遊びの中から、どんな「学び」が芽生えつつあ るかを見とり、子ども自身が「目標」 「内容」 「方法」をイ メージ化できるようにすることが、教師の援助であり、 「自 覚的な学び」につなげる重要な役割である。 この教師の援助は、小学校低学年児童に対しても個に応 じて必要になることは言うまでもない。 このように、 「学びの芽生え」から「自覚的な学び」へ のつなぎを子どもの「学び」についてのメタ認知の発達に 即した教師の援助として捉えることで、幼児と児童の学び の実態とそれに応じた指導の在り方について、教員同士が 共通の土俵に立って検討し、理解を深めることが可能にな る。 本研究では、小学校低学年児童については作文をもとに 分析を進めたが、今後は生活科等の教科学習の授業記録や グループ活動の記録の分析にも取り組んでいきたい。 また、現在幼小のカリキュラムについての連携は、小学 校のスタートカリキュラム、幼稚園のアプローチカリキュ ラムといった形で具体化されつつある。こうした研究を進 めていくと同時に、本研究のように子どもの内から生まれ る学びの経験とメタ認知の発達に即した教師の見とりと援 助について、双方の教師同士が保育や授業における子ども の姿に即して検討し合う場を位置付け、そこでの互いの気 付きを交流することを通して、カリキュラムの評価と修正 をしていくことも必要であると考える。 註 1)佐藤学「学びの実践的対話へ」 、佐伯胖・藤田英典・ 佐藤学編『学びへの誘い』 、東京大学出版会、1995年、 p51 2)内山隆「作文帳を活用した低学年総合学習の評価」 『東 京学芸大学附属学校研究紀要第21集』 、1994年 3)内山隆・小川博久「生活経験学習における子どもの認 識をどうとらえるか-生活を表現 することのメタ認 知的意義-」 『東京学芸大学紀要第1部門教育科学第47 集』1996年、p160 4)若狭蔵之助『フレネ教育 子どもの仕事』青木書店、. - 67 -. ばと教育』岩波書店、1987年、p140.

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