黒毛和種の飼料利用性に関する遺伝育種学的研究
著者
竹田 将悠規
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
11301甲第19313号
2019年度博士論文
緒 論 ... 1 1. 飼料利用性の育種改良の必要性 ... 1 2. 黒毛和種の育種改良について ... 1 3. 余剰飼料摂取量 ... 2 4. ゲノム情報を用いた遺伝的能力評価 ... 3 5. 本研究の目的と構成 ... 4 第1章 黒毛和種肥育牛における飼料利用性形質の遺伝的評価 ... 6 1.1 要 約 ... 6 1.2 緒 言 ... 6 1.3 材料および方法 ... 7 1.3.1 供試動物 ... 7 1.3.2 飼料利用性形質 ... 7 1.3.3 発育形質 ... 8 1.3.4 枝肉形質 ... 8 1.3.5 統計解析 ... 8 1.4 結 果 ... 9 1.4.1 飼料利用性形質間の遺伝的関係 ... 9 1.4.2 飼料利用性形質と発育形質間の遺伝的関係 ... 9 1.4.3 飼料利用性形質と枝肉形質間の遺伝的関係 ... 10 1.5 考 察 ... 10
1.5.1 飼料利用整形質間の遺伝的関係 ... 10 1.5.2 飼料利用性形質と発育形質との遺伝的関係 ... 11 1.5.3 飼料利用性形質と枝肉形質との遺伝的関係 ... 12 1.6 結 論 ... 13 第2章 黒毛和種肥育牛における飼料利用性形質に関するゲノムワイド関連解析 ... 21 2.1 要 約 ... 21 2.2 緒 言 ... 21 2.3 材料および方法 ... 22 2.3.1 供試牛と表現型 ... 22 2.3.2 SNP 遺伝子型 ... 22 2.3.3 連鎖不平衡 ... 22 2.3.4 シングルステップゲノミック BLUP(ssGBLUP) ... 23 2.3.5 重み付けシングルステップゲノムワイド関連解析(WssGWAS) ... 23 2.3.6 エンリッチメント解析 ... 25 2.4 結 果 ... 26 2.5 考 察 ... 27
3.3 材料および方法 ... 49 3.3.1 対象集団 ... 49 3.3.2 GEBV および EBV の予測精度 ... 49 3.4 結 果 ... 51 3.4.1 集団の構造 ... 51 3.4.2 遺伝評価値の実現信頼度 ... 51 3.5 考 察 ... 51 3.6 結 論 ... 53 第4章 シミュレーション集団の飼料利用形質における QTL 検出力とゲノミック評価精度 の推定 ... 58 4.1 要 約 ... 58 4.2 緒 言 ... 58 4.3 材料および方法 ... 59 4.3.1 シミュレーション集団 ... 59 4.3.2 統計モデルと ssGBLUP ... 60 4.3.3 シナリオ設定と検証 ... 61 4.4 結 果 ... 61 4.4.1 連鎖不平衡の程度 ... 61 4.4.2 QTL 検出力 ... 62 4.4.3 ゲノム育種価および推定育種価の正確度 ... 62
4.5 考 察 ... 62 4.6 結 論 ... 63 総合考察 ... 72 1. 飼料利用性形質の新たな指標について ... 72 2. 飼料利用性形質におけるゲノム育種の可能性 ... 72 謝 辞 ... 74 引用文献 ... 75
緒 論 1. 飼料利用性の育種改良の必要性 黒毛和種の起源は、明治時代以降に海外から導入した品種と日本在来種とを交配して作 られた役肉両用種である。これが品種として登録され始められたのは 1944 年のことであり、 褐毛和種および無角和種と並んで日本固有の和牛と称されるようになった。黒毛和種は他 品種と比較し、特に脂肪交雑などの肉質が優れている。1968 年には、肉専用種として生産 性を向上させる取り組みである産肉能力検定が開始され、従来の役用としての機能は喪失 し始めた。1991 年に牛肉の輸入が自由化されると、輸入牛肉との差別化を図るため、黒毛 和種特有の脂肪交雑等の肉質の向上や斉一化を目指す改良の機運が一層高まった。 わが国は高品質な牛肉と高い経済効果という恩恵を受ける一方で、国内の生産者には困 難が立ちはだかっている。黒毛和種の肥育は農家やブランドによって多少異なるものの、 一般的に 9 ヶ月齢前後から開始される。濃厚飼料給与量は肥育開始時から漸増し、肥育中 期からと畜(29〜30 ヶ月齢程度)までほぼ維持される。飼料費に目を向けると、2017 年に おける去勢若齢肥育牛1頭あたりの生産費(約 124 万円)に占める飼料費の割合は、素畜 費の 62.9%(約 78 万円)に次ぐ 24.7%(約 31 万円)(農林水産省 2017)となっている。 濃厚飼料にはトウモロコシや大豆粕などが多く含まれるが、これらの9割を海外(主にア メリカ)からの輸入に依存している。トウモロコシの国際相場は、アメリカ・中国・ロシ アなど大国の天候や収穫状況、貿易措置などに大きく左右される可能性が高く、2012 年に は8ドル/ブッシェルとここ 20 年で最高値に高騰した。また、2008 年の濃厚飼料価格は 2006 年の 1.4 倍となったが、これは主要生産国における天候不順等の影響によるトウモロ コシと大豆粕の価格の上昇(農林水産省 2019)と、原油価格高騰による海上輸送費の上昇 が原因であった。したがって、濃厚飼料費は外的要因に左右されやすいため、国内の肥育 経営は不安定な飼料基盤の上に成り立っていると言える。 以上のことから、持続可能な黒毛和種肥育経営に必要なことは、低コスト化である(平 山ら 2013)。低コスト化を実現するために、短期的戦略として「技術革新による飼料管理 改善」、長期的戦略として「育種改良による飼料利用性の向上」が考えられる。前者に関し ては、主に肥育期間短縮技術、飼料用米やホールクロップサイレージなどの国内自給飼料 を活用した飼料化技術などについて精力的に研究されている。一方、後者の育種改良に関 する研究は進んでいない。 2. 黒毛和種の育種改良について 従来、黒毛和種の育種改良は、全国和牛登録協会の産肉能力検定法(昭和 43 年4月1日 施行)により候補種雄牛の能力検定が実施され、選抜された優秀な種雄牛の精液が全国に 供用されることにより進んできた。その検定法は直接法(直接検定)と間接法(間接検定) がある。直接検定では、候補種雄牛を7〜11 ヶ月齢の 112 日間飽食飼育し、その期間の増 体量と飼料要求率を調査することで高能力牛を選抜しようとする検定である。間接検定で は、検定しようとする候補牛について後代が生産され(去勢牛8頭以上)、52 週間の肥育 を経て、肥育期間の増体量(DG、daily gain)、飼料要求率(FCR、feed conversion ratio)、 およびと畜後の枝肉成績から候補牛の遺伝的能力を推定しようとするものである。しかし、
間接検定では肥育期間に1年の縛りがあるため、と畜月齢がおよそ 21 ヶ月齢となり、一般 の肥育農家における肥育方式(29〜32 ヶ月齢と畜)の枝肉成績と比較ができないこと、都 道府県における公的施設や家畜改良事業団が有する一定の条件を備えた施設で実施するた め、実際の農家を反映させた飼養環境ではないこと、枝肉単価が安価になってしまうため 検定費用がかさむなどの問題が生じた(家畜改良事業団 2007)。そこで、新たに現場後代 検定法が施行された(平成5年)。現場後代検定は、公的な肥育施設または大規模肥育農家 で実施することができ、間接検定のように限定的ではない。また、現場後代検定における 肥育終了時月齢は一般の肥育農家における肥育期間に基づき、去勢が 29 ヶ月齢未満、雌が 32 ヶ月齢未満と定められており、これが間接検定との大きな違いである。肥育管理は個々 の施設の下で実施される。肥育終了後は一般の枝肉市場において、日本食肉格付協会の枝 肉取引規格に基づき、枝肉成績が評価される。その後、枝肉成績と血統情報から候補種雄 牛の遺伝的能力値(育種価)が予測される仕組みとなっている。 3. 余剰飼料摂取量 平成 14 年度において、直接検定法に2つの改善が加えられた。濃厚飼料給与量の制限と 給与飼料組成の変更である。その理由は、候補種雄牛に対して脂肪過多による栄養障害や 脂肪壊死が引き起こされる恐れが生じたためである。濃厚飼料給与量が制限された状況下 では増体量と体重も制限されてしまうため、FCR の飼料利用性の評価指標としての妥当性 には疑問が生じる(Okanishi ら 2008)。 FCR は増体量あたりの飼料摂取量を表す形質であり、飼料利用性を最も簡単に示すこと ができる形質として扱われてきた。しかし、比の形質である FCR で選抜したとき、いくつ かの問題が生じることが先行研究で明らかとなっている。Arthur ら(2001a)は、FCR を用 いた選抜により、その成分形質である飼料摂取量(FI、feed intake)と DG に対して不均衡 な選抜圧がかかるため、それら2形質の改良量予測に変化が生じるという問題を提起して いる。また、Santana ら(2012)は、FCR は DG と高い相関があるが FI とは相関がないこ とから、FCR を用いた選抜により成熟した体のサイズが大きくなり、それにより維持要求 量が増すことから、飼料摂取量を下げる改良は不可能であると報告している。さらに、FCR は比形質であるが、比形質よりも、その成分形質で構成される線形形質のほうが選抜効率 は高いことが示されている(Gunsett 1984)。以上のことから、肉用牛の飼料利用性の改良 を目指す場合、FCR は改良形質には適さないという考え方が一般的である。 そこで現在のところ、真の飼料利用性を表した適切な形質として知られているのは、余 剰飼料摂取量(RFI、residual feed intake)である(Koch ら 1963)。RFI は、ある一定期間
和種の直接検定において、FCR に替わる飼料利用性指標として RFI を挙げ、濃厚飼料 RFI の遺伝率を 0.29 と推定した。また、Hoque ら(2009)および Inoue ら(2011)も黒毛和種 における RFI の遺伝率をそれぞれ 0.49 および 0.22 と推定している。以上のことから、肉 用牛において RFI の遺伝的改良は十分可能と考えられる。
4. ゲノム情報を用いた遺伝的能力評価
育種価は、血統情報と表現型情報を用いて、最良線形不偏予測(BLUP、best linear unbiased prediction)法(Henderson 1984)で予測される。黒毛和種における現場後代検定において も、枝肉形質に関する候補種雄牛の育種価評価が行なわれている。BLUP 法を用いた育種 価評価は、家畜のみならず作物、魚類において広く利用されており、育種改良の基礎的ツ ールとなっている。BLUP 法では、表現型に関与している個々の遺伝子の働きを総合的に とらえ、ポリジーン効果を仮定することで育種価を予測する。そのため、ゲノム上のどこ に、どれくらいの数の遺伝子が、どのくらいの効果をもって形質を制御しているかどうか は不明であった。 2000 年以降、DNA マイクロアレイが開発、市販されている現在では、一塩基多型(SNP、 single nucleotide polymorphism)情報を手軽に得ることができ、量的形質に関与する遺伝子 座(QTL、quantitative trait loci)の解明が徐々に進んできている。DNA マイクロアレイに 搭載された各 SNP と形質値との関連性を統計学的に調べる手法をゲノムワイド関連解析 (GWAS、genome-wide association study)という。高密度 SNP チップを用いた GWAS は
QTL 探索のための強力なツールである(Andersson 2009)。形質値との関連性が高く、SNP マーカーと連鎖不平衡(LD、linkage disequilibrium)の状態にあるゲノム領域を LD ブロッ クといい、QTL はこの中に配置される。形質値と最も関連性の高い SNP(DNA マイクロ アレイに搭載されているものとは限らない)を LD ブロックの中から探索し、それを QTL として同定する。QTL アリルの置換によって翻訳されるアミノ酸や発現する遺伝子機能が 異なるとき、その形質に関する責任遺伝子が特定される。QTL など特定の DNA マーカー を指標にした個体の選抜や淘汰を、マーカーアシスト選抜(Wakchaure ら 2015)という。 ある形質に対して効果の大きな QTL が存在する場合、マーカーアシスト選抜により、ある 程度正確に遺伝的能力を予測できる。例えば、乳脂率に影響を与える DGAT1(Diacylglycerol
O-acyltransferase 1)遺伝子は全遺伝分散の約 40%(Gristart ら 2002)、枝肉重量(CW、carcass weight)に影響を与える CW-1、CW-2 および CW-3 の QTL は全遺伝分散の約 33%を説明す る(Nishimura ら 2012)。
しかし、経済的に重要な量的形質の多くは、効果の小さな多数のポリジーンによって制 御されている(Meuwissen ら 2016)。特定の DNA マーカーを利用するマーカーアシスト選 抜とは異なり、効果の大小に関わらず全ての SNP マーカーを同時に利用するのがゲノミッ ク選抜である(Hayes ら 2009、VanRaden ら 2009、Meuwissenra ら 2016)。ゲノミック選 抜の手順は大きく3ステップに分かれる。まず初めに、表現型と SNP 遺伝子型を有する十 分な規模の集団(資源集団)を用意し、各 SNP の効果の大きさを求め、選抜形質のゲノム 育種価(GEBV、genomic estimated breeding value)の予測式を作成する。次に、遺伝的能 力が判明していない個体の集団(選抜集団)の SNP 遺伝子型を分析し、GEBV 予測式に当 てはめ、選抜集団の GEBV を予測する。最後に、望ましい GEBV をもつ個体を選抜する。
GEBV を推定する方法をゲノミック評価という。ゲノミック選抜は特に欧米の乳用牛にお いて進んでおり、評価正確度は生産形質において 0.8 以上で、他に繁殖性、長命性、体細 胞数などの形質においては 0.7 と報告されている(Wiggans ら 2011、Lund ら 2011)。国内 ホルスタイン種においては、平成 28 年度からゲノミック評価が実用化されている(家畜改 良センター 2019)。一方、黒毛和種においても、家畜改良事業団は従来からの種雄牛にお ける遺伝的能力評価にゲノミック評価を取り入れ、平成 30 年度に枝肉形質、令和元年度に 牛肉中一価不飽和脂肪酸割合およびオレイン酸割合について、ゲノム育種価評価を開始し た(家畜改良事業団 2019)。 ゲノミック選抜の利点は2つある。まず、従来の期待育種価(両親育種価の平均)より も 正 確 に な る こ と で あ る 。 つ ま り 、 交 配 計 画 な ど で 優 秀 な 個 体 を 選 び 出 す と き 、 従 来の BLUP 法では全兄弟の個体はすべて同じ育種価と評価されるが、ゲノミック評価では染色 体の組換えおよびメンデリアンサンプリングを考慮できるため、ゲノムレベルでの違いを 評価できる。次に、改良速度のスピードアップである。従来は、子牛が誕生してから候補 種雄牛の直接検定、後代生産、後代検定と全ての工程を終えて精液が供用できる頃には、 候補種雄牛は6~7歳になっている。一方、子牛の誕生後すぐにゲノミック選抜ができれ ば、精液を生産するようになる1歳前後になれば供用が可能となる。したがって、ゲノミ ック選抜によって正確な能力評価と世代間隔の大幅な短縮により、遺伝的改良の加速化が 期待できる(祝前ら 2017)。 後代検定に供する候補牛選抜および種雄牛選抜の主要な選抜基準は、それぞれ直接検定 および後代検定の成績によるところが大きい。一方で、直接検定に供する候補牛の選抜(予 備選抜)基準は種雄牛造成を実施している機関の判断に委ねられており、例えば枝肉形質 など主要な経済形質の育種価、育成期の発育性、血統などがある。そこで、予備選抜にお いてこれらの基準に加え、QTL マーカーもしくは GEBV を活用できれば、飼料利用性が高 い個体を選抜することが出来ると期待される。 5. 本研究の目的と構成 黒毛和種の飼料利用性に関しては、これまで直接検定集団(Okanishi ら 2008、Hoque ら 2014)や間接検定集団(Inoue ら 2011)における遺伝的パラメーター推定や、直接検定集 団を用いた GWAS(Okada ら 2018)に関する成果が報告されているが、ゲノミック評価に 関する報告例はない。国内の黒毛和種の飼料利用性において、ゲノム情報を用いた育種改 良が可能になれば、正確かつ速度の速い改良が期待でき、ひいては、高能力種雄牛が全国 で供用されるようになることで、長期的視野で見れば肥育生産の低コスト化が実現できる
らゲノミック選抜の実用化の可能性を検討した。第4章では、第1章から第3章で用いた 集団を基準に集団規模のパターンをいくつか仮定したシミュレーション集団を用いて、飼 料利用性形質を想定した仮想形質に対して GWAS およびゲノミック評価を行い、飼料利用 性において育種改良を効率的に進めるための資源集団の条件について検討した。
第1章 黒毛和種肥育牛における飼料利用性形質の遺伝的評価
1.1 要 約
黒毛和種肥育牛における飼料利用性形質間、飼料利用性と発育形質間、および飼料利用 性形質と枝肉形質間の遺伝的関係を評価した。
家畜改良事業団が過去に実施していた間接検定における 4,578 頭の肥育牛の表現型値を 用い、RFI、余剰増体量(RG、residual body weight gain)、および余剰摂取増体量(RIG、residual
intake and body weight gain)を求めた。このとき、肥育前期(9ヶ月齢~15 ヶ月齢)、肥育
後期(15 ヶ月齢~21 ヶ月齢)、および肥育全期間(9ヶ月齢~21 ヶ月齢)に分けてそれぞ れの形質値を算出した。単形質アニマルモデルで各形質の遺伝率を推定し、2形質アニマ ルモデルで形質間の遺伝相関および環境相関を求めた。 各形質の遺伝率は、RFI で 0.36~0.46、RG で 0.19~0.28、RIG で 0.28~0.34 であり、い ずれにおいても全期間でのほうが前期および後期の遺伝率よりも高かった。RIG は、飼料 利 用 形 質 の 中 で 飼 料 要 求 率 と 最 も 高 い 遺 伝 相 関 が あ っ た 。 前 期 お よ び 後 期 の RG は 、 Gompertz 成長曲線の成長開始点パラメーターとはそれぞれ 0.82 および-0.06、また成長速 度パラメーターとは 0.49 および-0.51 と異なる遺伝相関を示した。飼料利用性形質と枝肉 形質間においては、RFI で-0.05~0.19、RG で 0.02~0.31、RIG で-0.11~0.20 と、遺伝相関 は低かった。 以上のことから、黒毛和種肥育牛において RIG を改良形質とした選抜により、飼料摂取 量を抑えながら増体を向上させ、なおかつ枝肉成績に負の影響を与えない改良が可能であ ることが示唆された。 1.2 緒 言 近年、肉用牛の飼料利用性に対する関心が世界的に高まっている中、飼料利用性を表す 形質として RFI(Koch ら 1963)は一般的になりつつある(Berry と Crowley 2013)しかし、 Berry と Crowley(2012)は増体量が小さい個体の RFI が低くなる(飼料利用性が高くなる)
可能性があることを示し、RFI と余剰増体量(RG、residual body weight gain)(Koch ら 1963)
の特性を組み合わせた余剰摂取増体量(RIG、residual intake and body weight gain)という 新たな形質を提案した。RIG の遺伝率は 0.36 と改良可能レベルであること、また FI、DG および FCR と望ましい遺伝相関がある(Berry と Crowley 2012)ことから、飼料利用性を
枝肉成績によって決まる生産費の差であるので、肥育生産の総合利益を向上させるために は、飼料利用性と枝肉形質との遺伝的関係を評価しておく必要がある。 そこで本章では、黒毛和種肥育牛の肥育時期、成長特性、および枝肉成績から飼料利用 性に与える遺伝的影響を調べることを目的とし、1)肥育期間を分けた飼料利用性形質間、 2)飼料利用性形質と発育形質間、3)飼料利用性形質と枝肉形質間の遺伝的関係を評価 した。 1.3 材料および方法 1.3.1 供試動物 供試した全ての動物は日本の飼養管理基準に従って飼育管理され、と畜された。本研究 では、家畜改良事業団が北海道および広島県で 2000~2008 年に実施した間接検定における 肥育牛 4,578 頭を用いた。なお、このうち 863 頭については、Inoue ら(2011)が用いた個 体と同一である。全ての肥育牛は、全国和牛登録協会が定める和牛種雄牛産肉能力検定法 に従って管理された。肥育開始月齢は平均で 9.1 ヶ月齢(7.9~9.5 ヶ月齢)、肥育終了月齢 は平均で 21 ヶ月齢(19.9~21.5 ヶ月齢)であり、全体の肥育期間は 52 週間であった。体 重は最初の 48 週間においては8週毎に測定し、最後に 52 週目で実施した。RFID(radio frequency identification)を全ての肥育牛に装着し、自動給餌器で給餌される濃厚飼料(TDN 73.3%、粗 たんぱ く質 10.3%)への アク セスを 個体毎 に制限 すること により 、全肥 育期 間 において個体毎の濃厚飼料摂取量を記録した。 1.3.2 飼料利用性形質
本研究では、RFI、RG および RIG を飼料利用性形質と定義した。RFI および RG の算出 は Koch ら(1963)の方法に従った。すなわち、
RFI = FI − (β
1× MBW + β
2× DG), (1.1)
RG = DG − (β
3× MBW + β
4× FI)
であり、ここで FI は測定期間内における一日平均濃厚飼料摂取量、MBW は中間代謝体重 で対象期間の中間体重を 0.75 乗した値、DG は1日平均増体量である。また、β1およびβ2 はそれぞれ MBW および DG に対する偏回帰係数であり、同様に β3および β4はそれぞれ MBW および FI に対する偏回帰係数である。RFI は負の小さい値、また RG は正の大きい 値ほど望ましい。RIG の算出は Berry と Crowley(2012)の方法に従った。すなわち、RIG = (−1) ×
σ
RFI
RFI
+
RG
σ
RGで、σRFIおよび σRGはそれぞれ RFI および RG の標準偏差である。RIG は正の大きい値ほ
ど望ましい。
肥育全期間(9ヶ月齢~21 ヶ月齢)に分けて算出した。以下、前期、後期および全期間に
おける RFI をそれぞれ RFIF、RFILおよび RFITとし、RG および RIG についても同様の表
記とする。
と畜時の脂肪交雑(BMS、beef marbling standard)が良好であるほど牛肉の経済的価値と しては望ましい。RFI は負の小さい値であるほど飼料利用性が高いと言えるが、RFI と BMS が正の表型相関をもつ場合、RFI が BMS を高めている可能性が考えられる。このような場 合、RFI が低いということが必ずしも望ましいとは言えない。そこで、(1.1)式に BMS を 独立変量として追加した RFI を算出し、(1.1)式で求めた RFI との遺伝相関を求めた。統 計解析法は後述の 2.2.5 で示す。その結果、両者の遺伝相関は限りなく1に近い値となっ た(表1.1)。すなわち、RFI は BMS の影響を受けていないことが分かった。したがっ て、以降の遺伝的パラメーター推定では、いずれの飼料利用性形質においても RFI の算出 に BMS を独立変量に加えずに算出した。 1.3.3 発育形質
本研究では、FI、DG、FCR および Gompertz 成長曲線(Winsor 1932)の成長曲線パラメ ーターを成長形質と定義した。FI および DG は肥育全期間を一つの測定期間として算出し、 FCR は FI を DG で除した。Gompertz 成長曲線は、8週毎に測定された体重を元に推定さ れ、3つのパラメーターから構成される。すなわち、
BW = a × 𝑒𝑒𝑒𝑒𝑒𝑒 {−b × 𝑒𝑒𝑒𝑒𝑒𝑒(−ct)}
であり、BW(body weight)は体重、パラメーターa、b および c それぞれ成長限界時の体 重、成長開始点および成熟速度であり、t は個体の週齢である。 1.3.4 枝肉形質 肥育牛は、52 週間の肥育の後、平均で 21 ヶ月齢(19.9〜21.5 か月齢)でと畜された。 CW は冷却された左右の枝肉の合計値とした。ロース芯面積(REA、rib eye area)は第6 〜 第 7 肋 骨 間 切 開 面 に お け る 胸 最 長 筋 の 面 積 と し 、REA、 そ の 皮 下 脂 肪 の 厚 さ (SFT、 subcutaneous fat)および第7肋骨の中間点におけるバラの厚さ(RT、rib thickness)を測定 した。日本牛肉格付協会の基準に基づき、第6〜第7肋骨間切開面における胸最長筋の脂 肪交雑の程度を BMS で分類し、1(最低値)〜12(最高値)のスコアをつけた。ここで、Yikは i 番目の形質における k 番目の個体の表現型値、CKGPijは i 番目の形質にお ける j 番目の母数効果(検定年-検定月-検定場所-群の効果)、αiは i 番目の形質における肥 育開始月齢(t)を共変量とした回帰係数、uikおよび eikはそれぞれ i 番目の形質における k 番目の個体の相加的遺伝効果および誤差である。単形質アニマルモデルで遺伝率を推定 し、2形質アニマルモデルで遺伝相関および環境相関を推定した。相関係数の有意性は、 スチューデントの t 検定で検定した。血統情報には5世代にわたる 30,012 頭を用いた。遺 伝的パラメーターおよびその標準誤差を ASReml v3.0 プログラム (Gilmour ら 2009)で推定 した。 1.4 結 果 1.4.1 飼料利用性形質間の遺伝的関係 飼料利用性形質の基本統計量を表1.2に、遺伝率の推定値を表1.3に示した。RFI、 RG および RIG における遺伝率の推定値はそれぞれ 0.36~0.46、0.19~0.28 および 0.28~0.34 であった。RGFの推定遺伝率は RGLより高く、肥育前期における形質のほうが後期よりも 高く、RFI および RIG では前期の推定遺伝率のほうが低かった。肥育全期間における遺伝 率の推定値は、いずれの形質においても前期および後期よりも高かった。 期間毎の各形質間における遺伝相関および環境相関の推定値を表1.3に示した。いず れの形質の推定値も、肥育全期間での形質と前期または後期の形質間の相関は 0.73~0.94 と高く推定されたが、前期と後期との間での相関は 0.43~0.72 と中程度の値が推定された。 この傾向は遺伝相関よりも表型相関のほうがより顕著であった。例えば、RGFと RGLにお ける遺伝相関の推定値は 0.43 であったが、表型相関は 0.14 であった。飼料利用性形質間 でみると、RIG と RFI および RG との遺伝相関および表型相関の推定値は高かったが、RFI
と RG との遺伝相関および表型相関の推定値は低かった。例えば、RIGTと RFITおよび RGT の遺伝相関の推定値はそれぞれ-0.83 および 0.75 であったが、RFITと RGTの遺伝相関は -0.27 と推定された。前期と後期の間で比較したとき、RIG と RFI 間 および RG 間との関係 は互いにわずかに異なっていた。 1.4.2 飼料利用性形質と発育形質間の遺伝的関係 発育形質の基本統計量を表1.2に、遺伝率の推定値を表1.4に示した。FI、DG お よび FCR における遺伝率の推定値は 0.34〜0.58 の範囲にあり、いずれも中程度であった。 成長曲線パラメーター(a)における遺伝率の推定値は 0.61 と中程度であったが、b および c の推定値はそれぞれ 0.08 および 0.17 と低かった。 飼料利用性形質と発育形質間における遺伝相関の推定値を表1.4に示した。RFI は、 FI と中程度の遺伝相関(0.53〜0.63)を、DG と低い遺伝相関(0.00〜0.08)が推定された。 また RG は、DG と中程度の遺伝相関(0.33〜0.61)を、FI と低い遺伝相関(-0.14〜0.27) が推定された。いずれの飼料利用性形質における遺伝相関の推定値も FCR との推定値が高 く(絶対値で 0.63 から 0.96)、これらの中で最も高かった形質は RIG(-0.84〜-0.96)であ った。成長曲線パラメーター(a)と RGFとの遺伝相関(0.22)は、RGLとの遺伝相関(0.42) よりも低い値が推定された。成長曲線パラメーター(b)は RGFと高い遺伝相関(0.82)が
推定された一方、RGLとは低い遺伝相関(-0.06)が推定された。成長曲線パラメーター(c)
は RGFとは正の遺伝相関(0.49)が推定され、RGLとは(-0.51)と負の遺伝相関が推定さ
れた。RFI および RIG と成長曲線パラメーターとの遺伝相関の推定値は、RIGFと成長曲線
パラメーター(b)との間で中程度の値(0.44)であったことを除き、RFI との間では-0.04 〜0.33、RIG との間で-0.29〜0.28 と低く推定された。 1.4.3 飼料利用性形質と枝肉形質間の遺伝的関係 枝肉形質の基本統計量を表1.2に、遺伝率および枝肉形質と飼料利用性形質と遺伝相 関の推定値を表1.5に示した。遺伝率の推定値は、BMS が 0.77 と最も高く、他の CW、 REA、RT、および SFT も高く推定された(それぞれ 0.66、0.59、0.51 および 0.57)。 飼料利用性形質と枝肉形質間の遺伝相関は、RFI で-0.05〜0.19、RG で 0.02〜0.31、RIG で-0.11〜-0.20 と、いずれも低い値が推定された。飼料利用性形質中の RG および RIG と、 枝肉形質中の CW および REA との遺伝相関は、前期形質でのみ有意な正の相関がみられ た。 1.5 考 察 1.5.1 飼料利用整形質間の遺伝的関係 牛の飼料利用性に対する遺伝的影響については、いくつか報告がある。Ceacero ら(2016) は、測定開始時日齢が 287±38 日齢のネロール種における RFI、RG および RIG の推定遺伝 率がそれぞれ 0.24、0.19 および 0.15 であると報告している。黒毛和種では、RFI の遺伝的 パラメーターに関して、Hoque ら(2009)と Inoue ら(2011)の報告がある。Hoque ら(2009) は測定開始時6〜7ヶ月齢の直接検定牛を用い、112 日間の検定期間で得られた RFI の推 定遺伝率が 0.49 であると報告した。一方、Inoue ら(2011)は、間接検定期間である 12 ヶ 月間の肥育成績で得られた RFI の遺伝率が 0.22 であると報告している。本研究で得られた RFI の遺伝率は Hoque ら(2009)の結果と類似しているが、Inoue ら(2011)とは大きく異 なっている。この違いは、サンプル数もしくは RFI の算出方法にあると考えられる。例え ば、Inoue ら(2011)の RFI は、可消化養分総量(TDN、total digestible nutrition)もしくは 粗たんぱく質(CP、crude protein)の摂取量をもとに算出されている。
肥育期間における飼料摂取量や体重の測定は多くの労力を必要とするため、飼料利用性 形質の測定にはできるだけ短い期間で評価するほうが望ましい。しかし、飼料利用性形質 を肥育期間で分け、それらの間の遺伝的関係を調べた報告はない。また、肥育牛における
る RIG と RG との遺伝相関は、ほぼ同じであった(それぞれ 0.79 および 0.78)。しかし、 RIG と RFI の後期形質間の遺伝相関(-0.92)は、前期形質間(-0.78)よりも大きかった。 これは、肥育後期において RIG が RG よりも RFI との遺伝的関係が強いことを表している。 各肥育期間における飼料利用性形質と MBW、FI および DG との遺伝相関を表1.6に示 した。RFI および RG と、それらの算出式における独立変量である MBW、FI および DG と の遺伝相関は低かった。RFI と FI との遺伝相関は、0.41〜0.66 と相違は小さかった一方で、 RG と DG との間には 0.13〜0.65 という大きな相違がみられた。このことが DGFと RIGF および RIGLとの遺伝相関(それぞれ 0.40 および 0.00)に大きな相違を与えたと考えられ る。したがって、飼料利用性形質における前期−後期間の遺伝的関係性には、MBW や FI よりも DG がより大きな影響を与えていることが考えられる。以上の結果より、改良形質 を RIG とするならば、前半と後半に分けるよりも全期間形質を用いたほうが高い遺伝率が 得られることが明らかとなった。しかし、全期間で表現型値を収集するのが困難な場合は、 後期の表現型値を利用することで、全期間の飼料利用性を間接的に評価することも可能で ある。 1.5.2 飼料利用性形質と発育形質との遺伝的関係 本研究において、肥育全期間における FI、DG および FCR はそれぞれ 0.58、0.54 および 0.34 と中~高程度の遺伝率が推定された。Arthur ら(2001b)は、アンガス種における FI、 DG および FCR の遺伝率がそれぞれ 0.39、0.28 および 0.29 であると報告した。また、Hoque ら(2009)が用いた黒毛和種集団では、FI および FCR の遺伝率がそれぞれ 0.36 および 0.38 であった。FCR は増体量あたりの飼料摂取量であり、飼料利用性の指標となる重要な形質 である。しかし、FCR を改良形質として選抜すると、結果的に体サイズが大きくなること でより多くの維持エネルギー要求量が必要になる(Smith ら 2010)ことや、育種価予測に おいて偏りが生じる(Gunsett 1984)ことが確認されている。このような理由から、RFI の ような線形形質が肉用牛集団において真の飼料利用性を表す(Exton ら 2000)形質として 広く研究されるようになり、また FCR を間接的に反映する新たな形質として RIG が提案 された(Berry と Crowley 2012)。Berry と Crowley(2012)、Retallick ら(2013)および Nascimento ら(2016)によれば、高 RIG の個体は FI が多く、DG が大きい。本研究におい て FI、DG および FCR は中程度の推定遺伝率があり、RFI および RG は、それぞれ FI およ び DG と中程度の遺伝相関があった。また、飼料利用性形質の中でも特に RIG は、FCR と の遺伝相関が高く推定された。これは FCR が RG および RIG とそれぞれ-0.97 および-0.95 の遺伝相関が推定されたという結果(Retallick ら、2015)と一致している。したがって、 高 RIG の個体を選抜することにより、飼料摂取量が少なく増体量が大きくなる可能性が示 唆された。 体 重 デ ー タ を も と に し た 成 長 曲 線 は 、 個 体 が も つ 連 続 デ ー タ の 一 つ と し て 捉 え ら れる (Fitzhugh 1976)が、本研究では 12 ヶ月間にわたる肥育期間の成長曲線を描いた。成長曲 線のパラメーターは曲線の形状を表していると言える。Gompertz 成長曲線は、a、b および c からなる3つのパラメーターで構成されており(Winsor 1932)、S 字を横に伸ばしたよう な曲線を描く。成長曲線パラメーター(a)は月齢が無限に続くと仮定したときの限界体重 である。成長曲線パラメーター(b)は、直接的には限界体重に対する生時体重の割合を表
すが、この値が大きくなれば体重が加速度的に増加する月齢(カーブが屈折するところ) が遅くなるので、成長開始点とも言える。成長曲線パラメーター(c)は成熟速度であり、 この値が大きければ増体が速い。これらの成長曲線パラメーターは、発育への影響を表し た指標と言える。本研究では、成長曲線パラメーターを求めてからそれらの遺伝的パラメ ーターを推定するという2段階アプローチを採用したが、これは既報と比較検討すること と、成長曲線パラメーターと飼料利用性形質との関連を探るためである。 2段階アプローチを用いた牛での研究例はいくつかある。ヘレフォード種における限界 体重および成熟速度のパラメーターの遺伝率は、それぞれ 0.47 および 0.32 と推定された (Meyer 1995)。また、ブラーマン種におけるそれらは、それぞれ 0.23 および 0.32 と推定 された(Crispim ら 2015)。さらに、アンガス種の限界体重パラメーターの推定遺伝率は、 0.44 であったと報告している(Kaps ら 1999)。本研究における各パラメーターの推定遺伝 率(0.08〜0.61)も同様に低〜中程度で、既報と一致している。一方、Forni ら(2009)は、 肉用牛の成長曲線パラメーターの遺伝的パラメーターを1段階アプローチで求めている。 また、Coyne ら(2017)の豚を用いた結果では、1段階と2段階アプローチでは遺伝的パ ラメーターが異なることが明らかとなっている。1段階アプローチによる成長曲線パラメ ーターと経済形質との関係については不明な点が多いが、詳細を知るためにはさらなる研 究が必要である。成長曲線パラメーターと飼料利用性形質との遺伝的関係についての報告 例はなく、本研究においてそれを初めて明らかにした。すなわち、成長曲線パラメーター は、RG と高い相関を示す一方で、RFI と低い相関を示した。また、DG との関係について も検討した(表1.7)。肥育期間によらず、DG は成長曲線パラメーター(a)と強い遺 伝相関が推定された(0.70〜0.95)。成長曲線パラメーター(b)は、DGFと中程度の遺伝 相関(0.47)が推定されたが、DGLとの遺伝相関は低く推定された(0.14)。一方、成長曲 線パラメーター(c)は、DGFと中程度(0.39)の、DGLとは低い遺伝相関(-0.19)が推定 された。興味深いことに、RG は DG よりも成長曲線パラメーター(b および c)との遺伝 相関が高く、また成長曲線パラメーター(a)との遺伝相関が低く推定された。すべての遺 伝的および環境的な要因が合わさって表される DG は限界体重との相関が高い一方で、 MBW および FI の DG に対する回帰で表される RG は、それ以外の成長開始点および成熟 速度との相関が高かった。つまり、RG は DG と比較して個体の発育能力をより反映した 形質である。したがって、RG は DG に替わる肉用牛の生産性を測る新たな指標とも言え る。 1.5.3 飼料利用性形質と枝肉形質との遺伝的関係
に負の影響を及ぼさずに飼料利用性を向上する改良が可能であることが示唆された。 黒毛和種における RFI と枝肉形質との遺伝的関係は、BMS を除いて既報と一致した。 RFI と BMS の相関について、Hoque ら(2009)は-0.59 と示したが、Inoue ら(2011)は 0.51 と報告している。この違いは集団サイズまたは RFI の定義によるものだと考えられる。前 者の集団は、種雄牛 514 頭およびその後代 22,029 頭だったのに対し、後者は 863 頭(本研 究で用いた 4,578 頭の一部)であった。Hoque ら(2009)の研究は、RFI は直接検定から算 出されており、肥育成績も後代から得られているので、肥育牛の濃厚飼料に注目し、本牛 の肥育成績を用いている本研究とは異なっている。また、Inoue ら(2011)は RFI を TDN および CP から求めているが、本研究では濃厚飼料の摂取量そのものに焦点を当てた。こ のように、RFI の定義の仕方にしたがって BMS との相関は変わってくることが明らかにな ったが、詳細を知るにはさらなる研究が必要であろう。 1.6 結 論 本研究により、黒毛和種肥育牛における肥育期間の異なる飼料利用性形質について、発 育形質および枝肉形質との遺伝的関係を評価した。肥育全期間における表現型の収集が困 難である場合には、肥育後半の RIG から全期間の飼料利用性を評価することが可能である。 RFI は、枝肉形質とは遺伝相関がなく、DG との遺伝相関も0に近い値が推定された。一方、 RIG は、FI、DG および FCR と望ましい遺伝相関があり、枝肉形質とは相関がなかった。 したがって、RFI を用いた選抜により飼料利用性のみを改良できるが、RIG が高い個体を 選抜することにより、枝肉成績を下げることなく飼料利用性と増体重を同時に改良できる 可能性が示唆された。また、発育形質の一つである RG に関する研究が進めば、飼料利用 性だけでなく、発育性と飼料利用性との関連性を理解することが可能になるだろう。
表1.1 BMS を重回帰モデルに入れた場合と入れない場合の RFI 間の遺伝 相関
Traitsa Genetic correlation
RFIF 0.999 (0.000)**
RFIL 0.996 (0.001)**
RFIT 0.999 (0.000)**
a下付文 字 F、L および T は、それぞれ肥育前期、肥育後期および肥育全期間を表す。
表1.2 飼料利用性形質、発育形質および枝肉形質に関する基本統計量
Traits Abbreviation N Mean SD Min Max
Feed efficiency traitsa
Residual feed intake, kg/d RFIF 4,555 -0.01 0.62 -1.90 1.91
RFIL 4,560 0.00 0.58 -1.70 1.75
RFIT 4,556 0.00 0.53 -1.60 1.62
Residual BW gain, kg/d RGF 4,559 0.00 0.10 -0.30 0.31
RGL 4,555 0.00 0.09 -0.26 0.26
RGT 4,559 0.00 0.07 -0.21 0.21
Residual intake and BW gain RIGF 4,540 0.01 1.64 -5.40 5.33
RIGL 4,537 0.01 1.70 -5.30 5.42
RIGT 4,539 0.00 1.66 -5.28 5.37
Growth trait
Average daily concentrated feed intake, kg/d FI 4,568 6.93 0.73 4.80 9.10
Average daily gain, kg/d DG 4,564 0.91 0.10 0.59 1.22
Feed conversion ratio FCR 4,550 7.67 0.70 5.51 9.85
Parameters of Gompertz growth curve
a,kg 4,459 768 116 471 1224
b 4,459 3.40 0.61 2.00 5.48
c 4,459 0.03 0.01 0.01 0.05
Carcass trait
Carcass weight, kg CW 4,566 349 36 244 457
Rib eye area, cm2 REA 4,562 47.8 5.7 31 65
Rib thickness, cm RT 4,559 6.36 0.72 4.20 8.50
Subcutaneous fat, cm SFT 4,546 2.00 0.52 0.50 3.60
Beef marbling standard BMS 4,578 8.3 2.0 3 12
表1.3 飼料利用性形質の遺伝率(対角)および形質間の環境相関(対角上)と遺伝相関(対角下)
Traitsa RFIF RFIL RFIT RGF RGL RGT RIGF RIGL RIGT
RFIF 0.36 (0.05)** 0.50 (0.04)** 0.84 (0.01)** -0.43 (0.04)** -0.18 (0.04)** -0.37 (0.04)** -0.81 (0.02)** -0.38 (0.04)** -0.69 (0.02)** RFIL 0.72 (0.05)** 0.46 (0.05)** 0.87 (0.01)** -0.10 (0.05)* -0.39 (0.04)** -0.26 (0.05)** -0.33 (0.04)** -0.80 (0.02)** -0.63 (0.03)** RFIT 0.91 (0.02)** 0.94 (0.01)** 0.46 (0.05** -0.32 (0.04)** -0.38 (0.04)** -0.42 (0.04)** -0.65 (0.03)** -0.72 (0.02)** -0.80 (0.02)** RGF -0.24 (0.11)* -0.02 (0.11) -0.12 (0.11) 0.26 (0.04)** 0.05 (0.04) 0.80 (0.01)** 0.88 (0.01)** 0.09 (0.04)* 0.69 (0.02)** RGL -0.53 (0.10)** -0.47 (0.09)** -0.56 (0.09)** 0.43 (0.12)** 0.19 (0.04)** 0.60 (0.02)** 0.13 (0.03)** 0.87 (0.01)** 0.59 (0.02)** RGT -0.36 (0.10)** -0.17 (0.10) -0.27 (0.10)** 0.93 (0.02)** 0.73 (0.07)** 0.28 (0.04)** 0.72 (0.02)** 0.54 (0.03)** 0.88 (0.01)** RIGF -0.78 (0.04)** -0.46 (0.08)** -0.65 (0.06)** 0.79 (0.04)** 0.59 (0.11)** 0.82 (0.04)** 0.28 (0.04)** 0.26 (0.04)** 0.82 (0.01)** RIGL -0.74 (0.06)** -0.92 (0.02)** -0.92 (0.02)** 0.21 (0.11) 0.78 (0.05)** 0.45 (0.09)** 0.58 (0.08)** 0.33 (0.05)** 0.73 (0.02)** RIGT -0.82 (0.04)** -0.73 (0.05)** -0.83 (0.03)** 0.62 (0.07)** 0.81 (0.05)** 0.75 (0.05)** 0.90 (0.03)** 0.87 (0.03)** 0.34 (0.05)** a下付文字 F、L および T は、それぞれ肥育前期、肥育後期および肥育全期間を表す。形質名の略号は表1.2に示す。 *P < 0.05; **P < 0.01.
表1.4 発育形質の遺伝率および発育形質と飼料利用性形質 aとの遺伝相関 Item FIT DGT FCRT a b c Heritability 0.58 (0.05) 0.54 (0.05) 0.34 (0.05) 0.61 (0.14) 0.08 (0.10) 0.17 (0.11) Genetic correlations RFIF 0.53 (0.06)** 0.00 (0.09) 0.76 (0.05)** -0.04 (0.11) 0.18 (0.12) 0.08 (0.14) RFIL 0.57 (0.06)** 0.08 (0.09) 0.70 (0.05)** 0.04 (0.10) 0.33 (0.11)** 0.08 (0.13) RFIT 0.63 (0.05)** 0.08 (0.09) 0.77 (0.04)** 0.03 (0.10) 0.28 (0.11)* 0.11 (0.13) RGF 0.27 (0.10)** 0.61 (0.07)** -0.63 (0.07)** 0.22 (0.12) 0.82 (0.05)** 0.49 (0.11)** RGL -0.14 (0.11) 0.33 (0.10)** -0.80 (0.06)** 0.42 (0.10)** -0.06 (0.15) -0.51 (0.12)** RGT 0.16 (0.10) 0.59 (0.06)** -0.76 (0.04)** 0.36 (0.11)** 0.64 (0.09)** 0.17 (0.15) RIGF -0.16 (0.09) 0.39 (0.08)** -0.88 (0.03)** 0.14 (0.11) 0.44 (0.10)** 0.28 (0.14)* RIGL -0.47 (0.07)** 0.10 (0.09) -0.84 (0.03)** 0.17 (0.10) -0.26 (0.12)* -0.29 (0.13)* RIGT -0.34 (0.08)** 0.28 (0.08)** -0.96 (0.01)** 0.17 (0.11) 0.20 (0.12) 0.02 (0.14) 下付文 字 F、L および T は、それぞれ肥育前期、肥育後期および肥育全期間を表す。形質名の略号は表 1.2に示す。 *P < 0.05; **P < 0.01.
表1.5 枝肉形質の遺伝率および枝肉形質と飼料利用性形質 aとの遺伝相関 Item CW REA RT SFT BMS Heritability 0.66 (0.05) 0.59 (0.05) 0.51 (0.05) 0.57 (0.05) 0.77 (0.06) Genetic correlations RFIF 0.00 (0.09) -0.05 (0.09) 0.03 (0.09) 0.12 (0.09) 0.19 (0.08)* RFIL 0.03 (0.08) 0.03 (0.08) 0.14 (0.09) 0.07 (0.08) 0.14 (0.08) RFIT 0.06 (0.08) 0.02 (0.08) 0.12 (0.09) 0.09 (0.08) 0.17 (0.08)* RGF 0.31 (0.09)** 0.29 (0.10)** 0.16 (0.10) 0.01 (0.10) 0.14 (0.09) RGL 0.14 (0.10) 0.04 (0.11) 0.02 (0.11) 0.07 (0.11) 0.10 (0.11) RGT 0.27 (0.09)** 0.24 (0.09)* 0.10 (0.10) 0.05 (0.10) 0.15 (0.09) RIGF 0.19 (0.09)* 0.20 (0.09)* 0.06 (0.10) -0.06 (0.10) -0.03 (0.09) RIGL 0.03 (0.09) 0.00 (0.09) -0.11 (0.10) -0.01 (0.09) -0.07 (0.09) RIGT 0.10 (0.09) 0.11 (0.09) -0.05 (0.10) -0.03 (0.09) -0.04 (0.09) a下付文 字 F、L および T は、それぞれ肥育前期、肥育後期および肥育全期間を表す。形質名の略号は 表1.2に示す。 *P < 0.05; **P < 0.01.
表1.6 代謝体重(MBW)、飼料摂取量(FI)および増体量(DG)と飼料利用性形質 a との遺伝相関 Item MBWF MBWL FIF FIL DGF DGL Heritability 0.64 (0.05) 0.66 (0.05) 0.52 (0.05) 0.53 (0.05) 0.48 (0.05) 0.37 (0.05) Genetic correlations RFIF -0.06 (0.09) -0.04 (0.09) 0.66 (0.05)** 0.41 (0.08)** 0.04 (0.09) -0.05 (0.10) RFIL -0.12 (0.08) -0.06 (0.08) 0.47 (0.07)** 0.62 (0.05)** 0.07 (0.09) 0.10 (0.09) RGF 0.08 (0.10) 0.26 (0.09)** 0.21 (0.10)* 0.28 (0.10)** 0.65 (0.06)** 0.52 (0.09)** RGL -0.03 (0.11) 0.08 (0.11) -0.25 (0.11)* -0.05 (0.11) 0.13 (0.11) 0.50 (0.08)** RIGF 0.08 (0.10) 0.19 (0.09)* -0.27 (0.09)** -0.08 (0.10) 0.40 (0.08)** 0.35 (0.10)** RIG L 0.05 (0.09) 0.06 (0.09) -0.44 (0.08)** -0.45 (0.08)** 0.00 (0.10) 0.17 (0.10) a下付文 字 F、L および T は、それぞれ肥育前期、肥育後期および肥育全期間を表す。形質名の略号は表 1.2に示す。 *P < 0.05; **P < 0.01.
表1.7 増体量(DG)と Gompertz 成長曲線パラ-メーター(a、b および c)との遺伝相関 Traitsa a b c DGF 0.70 (0.08)** 0.47 (0.08)** 0.39 (0.10)** DGL 0.95 (0.02)** 0.14 (0.12) -0.19 (0.12) DGT 0.86 (0.04)** 0.35 (0.10)** 0.13 (0.12) a下付文 字 F、L および T は、それぞれ肥育前期、肥育後期および肥育全期間を表す。 *P < 0.05; **P < 0.01.
第2章 黒毛和種肥育牛における飼料利用性形質に関するゲノムワイド関連解析
2.1 要 約
本章では、黒毛和種における異なる肥育期間の飼料利用性形質を対象に、シングルステ ップゲノミック BLUP(ssGBLUP、single-step genomic BLUP)をベースにした WssGWAS (weighted single-step GWAS)により、SNP 効果と遺伝子機能の推定を試みた。
間接検定牛 362 頭(種雄牛)の後代である 4,578 頭の表現型値から、肥育前半・後半・ 全期間について、飼料利用性形質である RFI、RG および RIG を算出した。種雄牛につい て高密度 SNP アレイを用いた遺伝子型判定を行った。種雄牛の SNP 遺伝子型と後代の表 現型値を用い、WssGWAS とエンリッチメント解析を行った。 その結果、形質ごとに、また期間ごとに SNP 効果の大きさと候補遺伝子数が異なった。 RFI、RG および RIG において、それぞれ 16、8 および 12 個の遺伝子オントロジーが見つ かった。RFI および RG に関する候補遺伝子は、それぞれ嗅覚伝達およびフォスファチジ ルイノシトールシグナル伝達に関与していた。ATP(Adenosine triphosphate)産生と肥満に 関係する遺伝子が、RG に対して重要な働きをもっている可能性が示唆された。第 14 番染 色体上に遺伝分散の高い染色体断片(それぞれ 51%および 62%)があったことから、これ らを QTL 領域としたマーカーアシスト選抜の可能性が示唆された。 SNP 遺伝子型、表現型値および血統情報を同時に考慮する WssGWAS により、黒毛和種 肥育牛の飼料利用性形質に関するゲノムレベルでの遺伝的組成が明らかになった。また、 肥育後半の RFI および RIG について、マーカーアシスト選抜の可能性が示唆された。 2.2 緒 言 第1章において、黒毛和種肥育牛における飼料利用性形質の遺伝率は中程度でることが 推察された。また、肥育の前期、後期、全期間によって形質の遺伝的バックグラウンドが 異なる可能性も示唆された。そのため、時期によって効果の異なる QTL が存在し、遺伝子 機能による生物学的プロセスも変わってくるという仮説が立てられる。
飼料利用性形質に関する GWAS が海外品種で実施されている(Lu ら 2013、Serão ら 2013、
Santana ら 2014b、Seabury ら 2017)。ここでは、有意水準を超えるゲノムワイドマーカー がいくつか探索され、候補遺伝子機能と形質との間にある生物学的プロセスについて議論 されている。しかし、選抜に利用できるほどの効果の高い QTL は見つかっていない。 第1章では、用いた間接検定牛の後代 4,578 頭が表現型値を有していたが、後代牛の DNA は欠損していたのでゲノム情報を用いた解析が不可能であった。一方で、後代検定牛、す なわち、種雄牛 362 頭の DNA が後に利用可能であることが明らかとなった。このように、 SNP 遺伝子型はもつが表現型値はもたない個体(種雄牛)、また、SNP 遺伝子型はもたな いが表現型値はもつ個体(後代の肥育牛)で構成されているデータセットの場合、通常の QTL の探索法では解析できない。したがって、このような集団を対象とした QTL 探索法 として、SNP 遺伝子型および表現型値のいずれかまたは共にもつ個体とそれらの血統情報 を同時に数学モデルに入れた GWAS 法である WssGWAS 法が提案されている(Wang ら
2012)。 本章では、第1章で用いた間接検定集団を用い、黒毛和種肥育牛の飼料利用性形質に関 する WssGWAS を行い、SNP 効果の推定による QTL 探索を行い、得られた結果を用いてエ ンリッチメント解析により生物学的プロセスを明らかにすることを目的とした。 2.3 材料および方法 2.3.1 供試牛と表現型 供試牛(間接検定牛およびその後代)は国の基準に則って飼育管理され、と畜された。 本研究に用いた表現型値は、1998〜2008 年の間に実施された家畜改良事業団による間接検 定における肥育牛 4,578 頭の表現型記録であり、血統情報は5世代遡った 30,012 頭である。 詳細は第1章に記載したとおりである。 黒毛和種の CW に関する GWAS が Nishimura ら(2012)によって報告されており、CW-1、 CW-2、および CW-3 という3つの QTL の存在が確認されている。本研究においては CW を用いてこれら QTL が探索できるかどうかを検証した。 2.3.2 SNP 遺伝子型 検定牛 362 頭(肥育牛 4,578 の種雄牛)の DNA サンプルを用いた。種雄牛1頭あたりの 後代数は7〜22 頭であった(図2.1)。DNA サンプルは、54,609 SNPs からなる Illumina
BovineSNP50v2(50K)アレイ(
Illumina, San Diego, CA, USA)
および GenomeStudio ソフトウェア(
Illumina, San Diego, CA, USA
)を用いて、50K の SNP 遺伝子型(50K 型)を得た。得られた 50K 型を、Beagle 4.0 ソフトウェア
(Browning と Browning2016)
および SNPchiMpv3 アセンブリ(Nicolazzi ら 2015)を用いて、777,962 SNPs からなる Illumina
BovineHD(HD)アレイ(
Illumina, San Diego, CA, USA
)へとインピュテーション(補完)した。インピュテーションに用いた資源集団は、黒毛和種牛 1,368 頭が有する HD の SNP 遺伝子型(HD 型)である。Uemoto ら(2015)は、同集団を用いた 50K 型から HD 型 へインピュテーションを行った結果、正確度は 0.988 と高い値を報告している。得られた HD 型について、PLINK ソフトウェア(Purcell ら 2007)を用いてクオリティコントロール を行い、マイナーアリル頻度が 0.01 未満、コールレートが 0.95 未満、ハーディーワイン ベルグ平衡検定の P 値が 0.001 未満の SNP を削除した。その結果、50K 型および HD 型に ついて、常染色体上におけるそれぞれ 33,806 および 547,043 SNPs の SNP 遺伝子型を得た。
2.3.4 シングルステップゲノミック BLUP(ssGBLUP)
ssGBLUP 法を用い、GEBV を次のモデル式で求めた(Aguilar ら 2010)。数学モデルは、
𝐲𝐲 = 𝐗𝐗𝐗𝐗 + 𝐙𝐙𝐙𝐙 + 𝐞𝐞, 𝐙𝐙~𝑁𝑁(0, 𝐇𝐇σu2), 𝐞𝐞~𝑁𝑁(0, 𝐈𝐈σe2), 𝑐𝑐𝑐𝑐𝑐𝑐(𝐙𝐙, 𝐞𝐞′) = 𝟎𝟎 (2.1) で表される。ここで、y は表現型値のベクトル、X および Z はそれぞれ表現型値と母数効 果および変量効果を関連付ける計画行列である。b は母数効果(検定年-検定月-検定場所-群の効果および検定開始月齢の一次回帰)のベクトルである。𝐙𝐙および𝐞𝐞は、それぞれ育種 価および誤差のベクトルである。ここで、σu2およびσe2は、それぞれ相加的遺伝分散および 誤差分散である。また I は単位行列で、H は血統情報とゲノム情報を混合した行列である (Aguilar ら 2010)。(2.1)式より、u を得るための混合モデル方程式は、 �𝐗𝐗 ′𝐗𝐗 𝐗𝐗′𝐙𝐙 𝐙𝐙′𝐗𝐗 𝐙𝐙′𝐙𝐙 + 𝐇𝐇−1σe2 σu2 � �𝐗𝐗̂𝐙𝐙�� = �𝐗𝐗𝐙𝐙′′𝐲𝐲𝐲𝐲� で表される。ここで、𝐇𝐇−1は、 𝐇𝐇−1= 𝐀𝐀−1+ �𝟎𝟎 𝟎𝟎 𝟎𝟎 𝐆𝐆−1− 𝐀𝐀 22 −1� (2.2) で表され、A は相加的血縁行列、𝐀𝐀22は SNP 遺伝子型をもつ個体の相加的血縁行列である。 G は SNP 遺伝子型をもとに作成される、個体間のゲノムレベルでの似通いを表したゲノム 関係行列(VanRaden 2008)であり、 𝐆𝐆 =∑ 2p𝐖𝐖𝐖𝐖𝐖𝐖′ j(1 − pj) m j=1 (2.3) で表される。ここで、D は SNP 効果への重み付け値を含む対角行列である。m は SNP マ ーカー数、pjは j 番目の SNP におけるアリル頻度である。また、SNP 遺伝子型を有する個 体数を n、i 番目の個体の j 番目の SNP 遺伝子型をxijとすると、 𝐖𝐖 = � x11− 2p1 x12− 2p2 ⋯ x1m− 2pm x21− 2p1 x22− 2p2 ⋯ x2m− 2pm ⋮ ⋮ ⋱ ⋮ xn1− 2p1 xn2− 2p2 ⋯ xnm− 2pm � で表される。 2.3.5 重み付けシングルステップゲノムワイド関連解析(WssGWAS) WssGWAS 法(Wang ら、2012)について示す。(2.1)式の u のうち、SNP 遺伝子型を有
する個体の GEBV(𝐙𝐙g)と SNP 効果(𝛃𝛃)との間には、 𝐙𝐙g = 𝐖𝐖𝛃𝛃 の関係が成り立つ。このとき、𝐙𝐙gおよび𝛃𝛃の分散は、𝑐𝑐𝑣𝑣𝑣𝑣�𝐙𝐙g� = 𝐆𝐆σu2および 𝑐𝑐𝑣𝑣𝑣𝑣(𝛃𝛃) = 𝐖𝐖σβ2と すると、 𝑐𝑐𝑣𝑣𝑣𝑣(𝐖𝐖𝛃𝛃) = 𝐖𝐖𝑐𝑐𝑣𝑣𝑣𝑣(𝛃𝛃)𝐖𝐖′= 𝐖𝐖𝐖𝐖𝐖𝐖′σ β 2 より、 𝐆𝐆 =𝑐𝑐𝑣𝑣𝑣𝑣�𝐙𝐙σ g� u 2 = 𝑐𝑐𝑣𝑣𝑣𝑣(𝐖𝐖𝛃𝛃) σu2 = σβ2 σu2𝐖𝐖𝐖𝐖𝐖𝐖 ′= λ𝐖𝐖𝐖𝐖𝐖𝐖′ (2.4) と表される。ここで、λ = σβ2⁄ である。また、(2.3)式および(2.4)式より、 σu2 λ =σσβ2 u 2 = 1 ∑ 2pmj=1 j(1 − pj) とも表される。このλを用いて、G の逆行列は、 𝐆𝐆−1=1 λ(𝐖𝐖𝐖𝐖𝐖𝐖′)−1 (2.5) で表される。Stranden と Garrick(2009)は、GEBV が得られた場合の SNP 効果の推定量(𝛃𝛃�) を、 𝛃𝛃� = λ𝐖𝐖𝐖𝐖′𝐆𝐆−1𝐙𝐙� g で表していることから、(2.5)式を用いると、 𝛃𝛃� = λ𝐖𝐖𝐖𝐖′𝐆𝐆−1𝐙𝐙� g = 𝐖𝐖𝐖𝐖′(𝐖𝐖𝐖𝐖𝐖𝐖′)−1𝐙𝐙�g (2.6)
① t 回目の行列(D および G)を𝐖𝐖(t)および𝐆𝐆(t)とすると、初期値(t = 0)から、以下の式 を求める。 𝐖𝐖(t)= 𝐈𝐈、𝐆𝐆(t)= λ𝐖𝐖𝐖𝐖(t)𝐖𝐖′. ② 𝐆𝐆(t)を用いて、ssGBLUP 法により GEBV(𝐙𝐙�g)を求める。 ③ ②で得られた𝐙𝐙�gを用いて、t 回目の SNP 効果(𝛃𝛃�(t))を以下の式から計算する。 𝛃𝛃�(t)= λ𝐖𝐖(t)𝐖𝐖′𝐆𝐆(t)−1𝐙𝐙�g. ④ 得られた𝛃𝛃�(t)から SNP 分散を計算し、D の対角要素とする。j 番目の SNP について、t + 1 回目の𝐖𝐖(t+1)の対角要素(dj(t+1))は、以下の式から計算する。 dj(t+1) = 2pj�1 − pj�β�j2. ⑤ ④で得られた𝐖𝐖(t+1)を、以下の式で標準化(𝐖𝐖(t+1)∗ )する。 𝐖𝐖(t+1)∗ =𝑡𝑡𝑣𝑣�𝐖𝐖𝑡𝑡𝑣𝑣�𝐖𝐖(0)� (t+1)� 𝐖𝐖(t+1) ⑥ ⑤で得られた𝐖𝐖(t+1)∗ を用いて、t + 1回目の𝐆𝐆(t+1)を更新する。 𝐆𝐆(t+1)= λ𝐖𝐖𝐖𝐖(t+1)∗ 𝐖𝐖′ ⑦ t = t + 1 として、②または③から反復計算する。 Wang ら(2012)は、⑦において③から反復計算を2回行なうことで、SNP 効果の推定精 度が最も高くなったと報告している。そこで本研究においても、②において計算した GEBV を固定したまま、SNP 効果を2回の反復計算により推定した。染色体上で連続した複数の SNP を一単位とした染色体断片をウィンドウとし、i 番目のウィンドウが説明する遺伝分 散の大きさを、 𝑐𝑐𝑣𝑣𝑣𝑣(ui) σu2 × 100(%) = 𝑐𝑐𝑣𝑣𝑣𝑣 �∑ 𝐖𝐖mj=1𝑖𝑖 jβ�j� σu2 × 100(%) から求める(Wang ら 2012)。ここで、uiは長さが 0.1 Mb からなる i 番目のウィンドウ内の 全 SNP 効果、𝐖𝐖jは j 番目の SNP の SNP 遺伝子型のベクトル、β�jは i 番目のウィンドウ内の j 番目の SNP 効果、miは i 番目のウィンドウ内の SNP 数である。ウィンドウの設定の仕方 は、ウィンドウ同士を隣り合わせる方法(SNP がオーバーラップしない)と、SNP を一つ ずつずらして設定する方法(SNP がオーバーラップする)があるが、本研究では SNP 間に 関連領域があった場合に漏れなく拾えるようにするため、後者を採用した。以上の分析は、 HD 型を用いて行なった。分散成分の推定には、AIREMLF90 プログラムを用いた。得られ た分散成分を用いて、BLUPF90 プログラムにより、GEBV を求めた。また SNP 効果の推 定には、postGSF90 プログラムを用いた。これらのプログラムは BLUPF90 ファミリープロ グラム(Misztal ら 2002)に含まれている。 2.3.6 エンリッチメント解析 全遺伝分散の 1.0%以上を説明するゲノム領域を特定し、NCBI2R(Melville 2015)によ り 候 補 遺 伝 子 を 探 索 し た 。 DAVID( Database for Annotation, Visualization and Integrated Discovery) v. 6.8(Huang ら 2009)を用い、候補遺伝子リストから生物学的機能のアノテ
ーシ ョン を行 ない 、各 形質 に関 連す る遺 伝子 オン トロ ジー およ び Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes pathway(KEGG パスウェイ)を特定した。 Fisher の正確検定で P 値が 0.1 未満のものを有意とした。
2.4 結 果
各形質における推定した分散成分を表2.1に示した。CW に関するマンハッタンプロ ットおよび関連する遺伝子リストを、それぞれ図2.3および表2.2に示した。35.1% と い う 高 い 遺 伝 分 散 を 示 す 領 域 が 第 14 番染 色体に検出 された 。こ の領域には 、PLAG1 (Pleomorphic adenoma gene 1)遺伝子が位置していた。
RFI、RG および RIG に関するマンハッタンプロットを図2.4~図2.6に示した。全 遺伝分散のうち、1.0%を超える遺伝分散をもつ染色体領域数は、RFI では9~21 箇所、RG では 11~18 箇所、RIG では 11~15 箇所であった(表2.3)。これらの数は、形質および 肥育期間によって異なった。一方、候補遺伝子数は RFI では、9~46 個、RG では 22~26 個、RIG では 23~39 個が検出された(表2.2)。前期形質と後期形質との間で重複する 候補遺伝子は、存在しなかった。しかし、全期間形質と前期および後期形質との間には、 重複する ものが あった (表2. 2)。例 えば、 1番染色 体に位 置する KCNH8(Potassium
Voltage-Gated Channel Subfamily H Member 8)、KPNA6(Karyopherin Subunit Alpha 6)およ
び TXLNA(taxilin alpha)遺伝子 は、RFILと RFITに共通し、また、3番染色体にある GBP4
(Guanylate-binding protein 4)遺伝子は、RFIFと RFITに共通して関連していた。RFI と RG
間で共通する候補遺伝子はなかったが、RIG と RFI および RG との間には共通するものが あった。共通領域は、RIG と RFI 間では第 12 および 19 番染色体(前期形質)、第2およ び 14 番染色体(後期形質)、第2、14 および 15 番染色体(全期間形質)に存在した(図 2.4、図2.6および表2.3)。また RIG と RG 間では、第9、14、16 および 18 番染 色体(前期形質)、第 11、25 および 26 番染色体(後期形質)、第2、14 および 24 番染色 体(全期間形質)に存在した(図2.5、図2.6および表2.3)。 飼料利用性形質に関する遺伝子オントロジー解析および KEGG パスウェイ解析の結果を 表2.4に示した。RFI、RG および RIG は、それぞれ 16、8、12 個の遺伝子オントロジ ーが関連していることが明らかとなった。Cell surface、GTPase activator activity、chloride transmembrane transport、および chloride channel activity といったタームは形質間で重複し
て特定された。有意な KEGG パスウェイは2つ検出された。まず RFIFについて、第 11 番
2.5 考 察
一般に、肉用牛の飼料摂取量の測定にはコストがかかる(Nielsen ら 2013)。そのため、 黒毛和種の飼料摂取量に関する測定値はかなり限定的にしか存在しない。限りあるサンプ ルから QTL を見つけ出すためには、得られる情報は全て利用し、表現型値、SNP 遺伝子型 および血統情報を同時に統計モデルに入れられる WssGWAS が有効であると考えた。黒毛 和種の CW については、すでに PLAG1(Pleomorphic adenoma gene 1)、NCAPG(non-SMC
condensin I complex subunit G)および FGD3(FYVE, RhoGEF and PH domain containing 3)
という3つの QTL(Setoguchi ら 2009、Karim ら 2011、Nishimura ら 2012、Takasuga ら 2015) が見つかっており、本研究で検証した結果、候補遺伝子として PLAG1 遺伝子が検出された。 したがって、肥育牛に SNP 遺伝子型がなく、種雄牛に SNP 遺伝子型があるというデータ 構造においても、対象形質の QTL を探索するには WssGWAS が有効であると考えられた。 飼料利用性形質の WssGWAS により、全遺伝分散の 1.0%以上を説明する染色体領域がい くつか特定された。前期および後期形質間や、RFI および RG 間で共通する関連遺伝子は 得られなかった。しかし、全期間形質と前期または後期形質間、また RIG と RFI または RG 間では、いくつか共通した関連遺伝子が存在した。エンリッチメント解析により、RFI および RG の生物学的機能を説明する候補遺伝子およびパスウェイを特定できた。一方、 RIG に関しては候補遺伝子や遺伝子オントロジーは特定できたが、機能的なパスウェイを 特定することはできなかった。 RFI について、前期形質である RFIFの全遺伝分散のうち最大 18.7%を説明する領域に、
マイクロ RNA をコードする mir-1256 遺伝子が検出された。マイクロ RNA とは、遺伝子の 転写後発現に重要な働きをもつものである。mir-1256 遺伝子は、ホルスタインフリージア ン種において分娩難易度と関連があることが報告されている(Purfield ら 2014)。また、 Crowley ら(2011)は、RFI は分娩難易との間に 0.2 の遺伝相関があると報告している。し たがって、品種や月齢の差こそあれ、飼料利用性と分娩難易度との間には遺伝的な関係が
あるかもしれない。RFIFは olfactory transduction と有意(P < 0.1)に関連した。過去の研究
でもウシ(Abo-Ismail ら 2013、Olivieri ら 2016、Zhou ら 2018)やブタ(Do ら 2014a) における GWAS により、飼料利用性形質が olfactory transduction と関連していることが報 告されている。ウシの嗅覚機能に関わる遺伝子数は、より優れた嗅覚をもつとされるイヌ よりも多い(Niimura と Nei 2007)。ウシの嗅覚は、より質の良い草を求めたり毒性のある 草を避けたりするうちに長い年月をかけて鋭敏に進化してきたものと推測されるが、その 結果、嗅覚レセプターがおそらく飼料の摂取欲や利用性に関わるようになってきたと考え
られる。RFITについて、関連した遺伝子オントロジーの1つである ion transport に関与す
る遺伝子は第5番染色体にあり、最大 3.5%の高い遺伝分散を示した。RFITと ion transport
との関連性は過去の研究においても示されている(Abo-Ismail ら 2013、Serão ら 2013、 Okada ら 2018)。
RGFの遺伝分散の最大 31.9%を説明する第3番染色体上に、adenylate kinase 4(AK4)遺
伝子があった。この遺伝子は、様々な細胞の種類および増殖においてアデノシン三リン酸 (ATP)濃度を調節する働きがある(Lanning ら 2014)。ミトコンドリアの外膜と内膜の中 間に位置する細胞内アデニンヌクレオチドは生体活動が正常に働くために必要であるが、