大学生のもつ「死」のイメージ : テキストマイニ
ングによる分析
著者
藤井 美和
雑誌名
関西学院大学社会学部紀要
号
95
ページ
145-155
発行年
2003-10-28
URL
http://hdl.handle.net/10236/14128
大学生のもつ「死」のイメージ:テキストマイニングによる分析
*藤
井
美
和
**1.はじめに
現代は「命」を意識しにくい時代であるといえ る。つまり、生きること死ぬことを実感を伴うも のとして意識することが難しい時代だといえる。 これにはいくつか理由が考えられるだろうが、大 きな流れとして2つのことをあげたい。一つは現 実の『リアルな死』が日常から切り離されたこ と、そしてもう一つは、それに替わって、実感を 伴わない『バーチャルな死』が大量に日常生活に 入り込んできたことである。 そもそも「死」は、本人のものであることはも ちろん、家族のものであり、また地域のもので あった。戦前までは、人が生まれるのも死ぬのも 家の中でおこる出来事だった。ところが科学技術 の進歩により、人の命は機械につながれた状態で 「生かされる」ようになった。たとえ治らない病 気であっても医療機関では延命処置が施される。 その結果迎える死は、医療者と機械に囲まれた 「病院での死」となり、本人も、家族も、地域も その場面に登場することが出来なくなってしまっ た。死を迎える場所は、1960年は自宅が70.7%、 病院が18.2%であったのに対し、2001年には自宅 が13.5%、病院が78.4%へと変化している(平成 13年人口動態統計、厚生労働省大臣官房統計情報 部、2001)。 病院という科学技術の発達した施設では、患者 の命を保つことができなかった結果としての「敗 北の死」は歓迎されず、隠された出来事として扱 われる。当然の結果として、看取りの経験のない 青年や成人の数は増加し、日常生活の中で死が語 ら れ る こ と が な く な っ て き た(藤 井、藤 井、 2000)。そして、『リアルな死』は特殊な場所でし か起こらない、日常生活においても、また私たち ひとり一人にとっても、特別なものになってし まった。 しかし一方で、TV、映画、ゲーム、漫画等に 見られるように、残酷な死、機械的な死、また美 化された死といった『バーチャルな死』が我々の 日常生活に入り込んでいる。その状況の中では、 幼い子どもまでもが、簡単に人の首が飛んだり血 が噴き出したりする場面を何の不快感もなく受け 入れる環境が出来ている。現代人は『ホンモノの (リアルな)死』を経験することなく、実体験の な い、現 実 感 の な い 非 現 実 的 な『ニ セ モ ノ の (バーチャルな)死』に取り囲まれるという環境 に置かれてしまった。 この様な逆説的な状況が、実感を伴う生と死、 つまり生きていること死ぬことについての感覚を 鈍らせているのではないだろうか。その結果、本 来、「生」の連続性の中で捉えられるべき「死」 は、生を意識させないものとなり、生と死は別物 として扱われるようになったといえる。現代社会 における我々の『死』の出会い方、受け止め方が このように変化していることを考えると、我々の 持つ死に対するイメージ自体も変化していると考 えられるのではないだろうか。 リアルな死が遠ざかり、バーチャルな死が蔓延 する中で、死については未知のものに対する恐れ が増加する一方、未知であるが故に関心を向けに くい(取るに足りないもの、考えても仕方がな い)という両極端のベクトルが社会現象の中で表 れているように思える。死はどの人にとっても、 また人類にとって普遍的なものであるが、人の死 に対する態度やイメージは決して普遍的なもので * キーワード:死観、大学生、テキストマイニング ** 関西学院大学社会学部専任講師 October 2003 ―145―はなく、時代や社会の状況に伴って変化している ということがいえる。
2.大学生(青年後期)と死
大学生は死をどのようにとらえているのだろう か。Blos は17歳から21歳(または22歳)を青年後 期と分類している。これによると大学生は、発達 段階における青年後期に当たる。Elikson(1968) によると、思春期から青年期(21歳または22歳) は、自己像を発見する中で自分はこうなりたい、 自分はこうであるというアイデンティティを獲得 する時期である。また、成人前期(21−22から45 歳)は同性異性を問わず特定の人と親密な関係を 持つようになるが、それぞれがアイデンティティ を獲得していない場合、孤独につながることもあ る。Blos(1979)は、この時期に彼らが向き合わ なければならない課題として次の4つをあげてい る。それらは、親から自立し自分の可能性を試し ていくという青年中期を終結すること、人生にお ける様々な出来事にうまく対処する個人の能力と しての強さを身に付けること、過去を受け止めま た将来の成長と成熟のために自分自身を解放し自 分自身の歴史を構築していくこと、そして、性的 アイデンティティを形成することである。 Piaget(1958)は12歳以上を形式的操作期と位 置付けている。この時期には物事の前提や過程に ついて帰納的な考え方ができ、概念の一般化や現 実 を 客 観 的 に 見 る こ と が 出 来 る よ う に な る (Keating、1990)。従って青年期は、死を普遍的 で不可避なものであると認知できる能力があると 理解される。しかし、青年期は成人と同等に考え る こ と は 出 来 な い。Noppe & Noppe(1991、 1996)は、青年期と死について次のように述べて いる。大学生の分類される青年後期の死の捉え方 は、身体的、認知的、社会的、情緒的な側面にお ける緊張、曖昧さや不安定さに影響される。この 時期は、自分自身のアイデンティティを確立し、 親の価値観を再評価する過程で、避けられない死 をどう受け止めるかについて考える時期でもあ る。また、家族、友人、社会との関係が変化する 時期でもあり、豊かな人間関係を結ぶ可能性を もっていると同時に、孤独に陥る可能性ももって いる。従ってこの時期に結んだ友人関係や所属し た集団がどのような性質を持っているかは、青年 期の課題を遂行するのに大きな影響を与える。彼 らの「人間の成長」と「避けられない死」は絡み 合っており、親から離れ自律し自分自身を形成し ていく過程には、自己を評価し、人生の意味を見 出すという作業や、理想の自分と現実の自分の違 いに苦しむこともある。その意味で成長の過程に は、喪失や悲嘆と、強烈な生への思いが共存して いるのである。 日本でもアメリカでも、自殺は青年期の死亡原 因の上位を占めている。2002年の人口動態統計 (厚生労働省大臣官房統計情報部、2002)による と、自殺による死亡者は全死亡者数の3%であ り、全体では死亡原因の6位に位置している。と ころが青年期に注目すると、15−19歳の死亡原因 において、自殺は不慮の事故に続く2位であり、 20−24、25−29、30−34歳の死亡原因の1位であ る。自殺の原因は様々な要因が関係しているた め、単純に断定することは危険であるが、自分自 身のアイデンティティの形成過程において、自分 自 身 か ら の、仲 間 か ら の、社 会 か ら の プ レ ッ シャー(実際のプレッシャーもあれば、プレッ シャーに感じるということも含めて)は、青年期 の 自 殺 や 死 に 影 響 を 与 え る も の と 考 え ら れ る (Gibson、1994)。自分 が 何 者 で あ り、ど ん な 人 間になりたいかを悩む青年は、低い自己評価、鬱 的傾向、自殺企図の危険を抱えている(Stillion 他、1989)。 このように、大学生は親から独立し、自律を獲 得する中で、自己のアイデンティティを形成し、 自己を評価し、将来の方向を決めていく時期であ る。また、親しい人や集団との人間関係や社会関 係における関係形成の能力や問題解決能力を身に 付けていく課題を持っているため、人によって豊 かなものにも孤独なものにもなりうる時期である といえる。 筆者の勤める大学では、1999年より、「死生学」 が開講された。講義名から考えて、生と死につい ての学問ということは学生にも容易に推察でき る。一般教育科目で開講された死生学は、当初 300名弱の学生が、2年目以降は500名を超える学 生が受講している。このことは、現代の若者が生 ―146― 社 会 学 部 紀 要 第 95 号と死(喪失や悲嘆を含める「死」)に関わる学問 に、何らかの形で関心を持っていることを表わし ている。では実際に大学生はどのような死のイ メージを持っているのだろうか。さまざまな価値 観が広まるこの現代社会の中で、学生の持つ死に 対する態度を今一度模索する必要があるように思 う。
3.「死」に対する態度についての先行研究
死に対する不安を測定するものとして最もよく 用いられる尺度の一つが、Templer(1970)の開 発 し た「死 の 不 安 尺 度」(Death Anxiety Scale: DAS)である。DAS は、15項目に諾否法で回答す るものであり、不安項目に当てはまる回答の合計 点で死の不安度を測定するものである。死の不安 を測定するものとして Death Education や臨床場 面 で も 用 い ら れ て い る(Lenetto & Templer、 1986)が、15項目の中には、死の不安より む し ろ、一般的な適応項目が含まれている(Levins、 1989−1990)という指摘もなされている。また、 DASの欠陥として「死に対する不安は死を取り 巻く信念体系の一部にすぎず、それだけでは全体 的 な 死 の 態 度 構 造 が 把 握 で き な い」(金 児、 1994、p.539)ことも指摘されている。 死は人間にとって普遍的ではあるが、その捉え 方は画一的ではなく、個人の経験、環境、信念や 信仰によって大きく違っている(Morin & Welsh、 1996)。ところが死に関する研究は、その関心が 死の不安や恐怖に集中しており、死に対する多面 的な態度や死に対する態度の構造を解明するもの は極めて少ない。このことは、DAS が使われて いる研究が、死の不安と関係を持つ変数に注目し てきたことにも表れている。実際 DAS の妥当性 は、死に対する不安の程度と人間の行動傾向との 関係からは検証されていない(金児、1994)。 死に対する個人の価値観や意味付けを「死観」 として、その構成概念による尺度を開発したのは Spilkaたち(1977)である。死に対する不安とい う一面のみを捉えるのでなく、死に対する多面的 態度や価値観を表すものとしての「死観」という 概念を構成し、その概念を8つの下位概念によっ て説明している。この8つの下位概念は、「苦し みと孤独」、「浄福な来世」、「無関心」、「未知」、 「家族との別離」、「勇気」、「挫折」、「自然な終焉」 である。また、Gesser(1987)は、死に対する態 度を受容という側面から分類している。Gesser の死に対する態度尺度は、21の質問項目に対し4 件法で回答するもので、その構成概念は、「死の 恐怖」、「積極的受容」、「中立的受容」、「回避的受 容」の4つである。 Hooperと Spilka(1970)は195名(男子107、 女子88)の大学生を対象に行った死観の調査で、 「終わり」としての死は、苦痛、孤独、未知との 遭遇、罰、敗北、愛する者を見捨てる(見捨てら れる)というものと結びつく一方、勇気や価値を 表す肯定的な死観が見られたことを報告してい る。 日本における大学生の死観についての研究は、 数えるほどしか行われていない。その中で、金児 (1994)の研究は注目されるものである。金児は 大学生312名(男子228、平均年齢19.3、SD1.35; 女子82、平均年齢18.6、SD0.76;性別不明2)と そ の 両 親395名(父 親193、平 均 年 齢51.2、SD 4.25;母親202、平均年齢47.9、SD3.76)を対象 として、DAS と宗教行動との関連を調査した。こ の研究では、DAS の構造についても分析され、 DASが「死の不安」という概念に収束する一元 性を持った尺度であることが検証された。そして 死の不安は、親世代より子世代の方が、男性より 女性の方が高いことを明らかにした。また、死の 不安と宗教行動については、内発的宗教行動(自 己修養的行動)は死の不安の軽減に、また、外発 的宗教行動(現世利益的行動)はその増大に関連 していることが明らかになった。さらに Spilka の死観尺度についても、同様のサンプルを用いて 死観を構成する因子を抽出したところ、6つの概 念が導きだされた。それらは、「浄福な来世」、 「挫折と別離」、「苦しみと孤独」、「人生の試練」、 「未知」、そして「虚無」であり、Spilka たちの死 観の8つの下位概念と類似していた。また、DAS と死観尺度の主成分分析を行いバリマックス回転 した結果、「苦しみと孤独」、「挫折と別離」、「未 知」、「虚 無」そ し て「DAS」が 主 成 分1を 構 成 し、「浄福な来世」と「人生の試練」が主成分2 を、そして「虚無」が主成分3を構成した。 October 2003 ―147―隅谷(2003)は、兵庫県のある大学の大 学 生 (社会学部、経済学部、神学部、文学部に所属す る学生)163名(男性58名、女性105名、平均年齢 21.93、SD3.90)を対象に、死の不安要因を明ら かにする目的で、死観とライフイベントとの関係 を調査した。死観の測定は Spilka の尺度を改良 した死観尺度を用いた。その結果、死を「苦しみ と孤独」と捉えている学生ほど、また人生におい て孤独感を感じたことがある学生ほど、死に対す る不安が高いことが明らかになった。学生が孤独 感を感じるときは「一人でいる時」が最も多く、 「みんなでいる時」が続き、「つらいことを話せる 人がいない時」「人とのつながりが感じられない 時」という対人関係に関するもの、次いで「自分 に自信を失ったとき」「自分は不必要だと思った とき」と自分自身の価値や存在に関わるものがあ げられた。また、死の不安と死別体験との間には 有意な関係は見出せなかった。これは、死の不安 は死別体験の有無でなく、死別体験したときにど のように思索したか、その深さや頻度が影響する (丹下、1995)ことを表していると述べている。 川戸(2003)は隅谷と同じサンプルを対象に、 金児の死観尺度と Gesser の死に対する態度尺度 を用いてその関係を分析した。死観尺度における 6つの構成概念全てにおいて、性別による有意差 は認められなかったが、「浄福な来世」、「挫折と 別離」、「苦しみと孤独」、「人生の試練」において は学部による有意差が認められた。また、死観と 死に対する態度については、「死の恐怖」と3つ の死観の下位概念「挫折と別離」、「苦しみと孤 独」、「未知」に有意な正の相関がみられた。さら に「積極的受容」と「浄福 な 来 世」、「回 避 的 受 容」と「虚無」の関係にも有意な正の相関がみら れた。つまり、死を受容できず恐怖と捉えている 学生にとって、死は捉えどころのない未知なも の、孤独で苦しく、人生における挫折や悲しい別 れと捉えている。そして、死を積極的に受容する 学生は、死を死後の天国や来世、永遠性と結びつ けて捉えており、逆に死を回避的に受容する学生 は、人生においてその重要性を認めず、死を取る に足らないものとして捉えている。 丹下(1999)は大学生313名を対象に、文章完 成法と自由記述による調査をもとに死に対する態 度尺度を開発した。そして、高校生、大学生、看 護学生、専門学校生572名の第1サンプル(平均 年齢17.3、SD1.95)と高校生、大学生499名の第 2サンプル(平均年齢18.2、 SD1.95)に実施し、 その信頼性・妥当性を検証した。その結果、死に 対する態度を構成する下位概念として、「死に対 する恐怖」、「生を全うさせる意志」、「人生に対し て死が持つ意味」、「死の軽視」、「死後の生活の存 続への信念」、「身体と精神の死」の6つを報告し ている。さらに丹下(2002)は、中学生・高校生 501名(男子189、女子305、不明7)とその家族 382名(男性133、女性232、不明17)を対象 に、 「死」から連想される語を尋ね、KJ 法を用いて死 生観の構造を7つに分類している。それらは、 「具体的な死の種類」、「死の文化的側面」、「死に 対する態度」、「関係の中で起こりうる死」、「死の イメージ」、「客観的な性質」、「その他」である。 青年中期群(高校生)においても、青年後期−成 人前期群(19歳から40歳)においても、信仰や神 仏に代表される「死の文化的側面」と、死に対し ての比喩的表現や形容詞で表される「死のイメー ジ」が、「死」から連想される語の中で出現率が 約半数と、最も高かった。丹下の分類では、大学 生は青年後期−成人前期群に含まれるが、この年 齢幅は20以上あり、アイデンティティの再形成 や、社会に出る前の不安定な大学生の特徴をこの まま断定することは出来ない。しかし、この傾向 が高校生と同様の結果であることから、大学生の 「死」についての連想も、大半が「死の文化的側 面」と「死のイメージ」であると推定することが できる。「死の文化的側面」とは、神・仏、死後 の世界、宗教儀式、迷信、霊魂など、死者の鎮魂 のための宗教儀式や信仰から派生した事柄などに 言及した反応、芸術作品・フィクションなどさま ざまな分野の作品にやその登場人物・作者などに 言及した反応、そして、死に関する名言、格言に 言 及 し た 反 応 で あ る。ま た、「死 の イ メ ー ジ」 は、死の性質の主観的な評価や死の軽視など死に 対する評価や信念に言及した反応、ポジティブ・ ネガティブな感情反応、覚悟や決断に言及した反 応、迷いに言及した反応が含まれている。 この研究方法で用いられた KJ 法は、あるテー マに関する思いや事実を単位化し、グループ化と ―148― 社 会 学 部 紀 要 第 95 号
抽象化を繰り返して統合し、最終的に構造化する ことによって状況を明らかにし、解決策を見出す 方法(問題解決の技法)である。この作業で重要 なのは直感である。配置もグループ化も、あらか じめ仮定した理論に従って行うのではなく、元に なる情報であるカードから直接感じられることに 基 づ い て 作 業 し な け れ ば な ら な い(川 喜 多、 1967、1970)。 丹下と大学院生で4名で実施された KJ 法によ る分類では、連想語の中で判定者間で一致しな かった反応や、複数の意味に解釈される反応は排 除されている。また、無作為に被調査者を選び、 連想語がカテゴリーに分類されるかどうか分類評 定を行った結果89.5%が当該カテゴリーに分類さ れたと報告されている。またさらに、当該カテゴ リーの概要説明を修正して再度分類評定をした結 果、最終的には93.1%が当該カテゴリーに分類さ れたと報告している。つまり KJ 法による分類に は、調査者の KJ 法そのものについての経験やカ テゴリーに対する理解度が影響を及ぼすことが考 えられる。またこの研究は、各カテゴリーの内容 についての分析と、年齢による差異について言及 するにとどまり、各カテゴリー間の関係や特性に ついては考察が加えられていない。この点は KJ 法自体の限界とも言える。 死についての概念や死生観を捉えるために、既 存の死観尺度を用いて、人の属性や行動傾向や信 条による分析を行うことは重要である。しかし、 現代の若者の死生観は、特に科学技術の発達や多 様な価値観の中で変化しつつある、あるいはどこ にその拠り所を求めてよいのか分からなくなって いるとも考えられる。したがって死生観について は、既存の尺度が現代日本人の死生観に妥当なも のであるかについて、時代と共に探索していくこ とが重要である。また、その際、調査者の熟練 度、経験、理解に依存しない方法を用いることが 必要ではないだろうか。
4.調 査
(1)目 的 これまでの死に対する態度やイメージの研究 は、既存の尺度に依存して行われてきたものが多 い。しかし先に述べたように、科学技術や映像・ 情報の発達した現代人の死に対する態度やイメー ジは、時代やその環境により変化している。死に 対する態度やイメージについては、これまでの尺 度に依存するのでなく、時代を反映した死観を改 めて捉えなおす必要がある。またアイデンティ ティ形成期という不安定な状況にある大学生の死 生観に焦点を当てた研究は、これまでほとんどな されていない。本研究は、青年後期の大学生に焦 点を当て、大学生が「死」に対してどのようなイ メージをもっているか、その内容から探索的に死 のイメージを構成する概念を抽出することを目的 とする。 (2)調査対象とインフォームドコンセント 2003年度春学期死生学受講者(神学部、文学 部、社会学部、法学部、経済学部、商学部、総合 政策部の学生)のうち協力者102名。死生学の授 業の初回、講義の始めに協力者を募り、現時点で 学生のもっている死生観について調査したい旨伝 えた。その目的として、受講生が生と死について どんなイメージを持っているか理解したいこと、 授業担当者がその傾向を知って授業を進めること が重要であること、また死生学受講後に生と死に 対するイメージがどのように変化したか、またし なかったかについて各自で知ってもらうために行 うことを説明した。また充分な協力者が得られた 場合、この結果は研究の一環として報告すること を伝えた。協力者についての個人的情報は守られ ること、またあくまで自由参加であり、協力の有 無は成績に全く影響しないことを説明した。 (3)調査方法 死生学の初回講義の始めに集団調査法で行っ た。「死とは(死ぬこととは)?」「生とは(生き ることとは)?」という質問に対して、自然に出 てくる概念や感情を思いつくままに記述。その 際、なるべく「死(死ぬ)とは……である。」「生 (生きる)とは……である。」という形で、箇条書 きにして記述するよう依頼した。 (4)分析方法 今回は学生の死についてのデータのみについて 分析を行った。「死とは」に対する自由記述の質 的データ解析は WordMiner を用い、テキストマ イニングの手法で分析した。自由記述から得られ October 2003 ―149―たテキスト型データを分かち書きし構成要素を抽 出するため、句読点、助詞、特殊記号を除いた。 さらに、解析対象の構成要素を整理し分析見通し を改善するため、同種の語を一つの語に置換する 手続きを行った(大隈、2002)。例えば、終わり、 おわり、終焉、最後、終着 点 な ど は「終 わ り」 に、悲しい、悲しくて、かなしいなど は「悲 し い」に置換した。得られた構成要素のうち頻度2 以上のもの(閾値=2以上)を対象に対応分析を 行った。次に対応分析で得られた成分スコアをも とにクラスター分析を行い、各クラスターの特徴 から死観を構成する概念を導き出した。 (5)結 果 回答者は102名(男子30、女子72)、平均年齢は 20.7歳、標準偏差は0.95であった。 分かち書きの後抽出された構成要素は1883、句 読点、助詞、特殊記号を除いた後の要素は533、 さらに同一語の置換を行った構成要素数は219で あった。閾値が2以上の構成要素は65であった。 最も出現頻度の高かったものは、終わり、終焉、 終えた、おわる、終止符などで表された「終わ り」であり、31人のサンプルによって38回出現し ていた。30以上出現した構成要素は、終わり、人 間、消滅であった。閾値7以上の構成要素につい ては表1に記載した。 閾値2以上を対象に行った対応分析の結果が図 1である。対応分析で得られた成分スコアをもと にクラスター分析を行った結果、「死とは」から 浮かび上がる死観は8つのクラスターに分類され た(表2)。各クラスターは、「スピリチュアルな 側 面」、「生 命 の 終 わ り」、「現 実 的・客 観 的 側 面」、「死に対する感情」、「大切な人との別離」、 「孤独と未知」、「漠然」、「行為の中断」の8つで あった。 ク ラ ス タ ー1は、た ま し い、完 成、身 体、分 離、想像という構成要素によって表されるもので 構成要素 構成要素数 サンプル度数 終わり 人間 消滅 人生 自分 別離 訪れ 恐怖 悲しい 恐い 悲しみ 暗い できない 残された者 生 38 36 33 22 21 21 18 16 16 12 12 8 7 7 7 31 26 26 21 15 21 17 13 16 11 11 7 6 7 6 表1 構成要素とサンプル度数(閾値7以上) 図1 構成要素変数の成分スコアの布置図 表2 構成要素クラスター分析の結果 1 2 3 4 5 6 7 8 たましい 完成 身体 想像 分離 イメージ マイナス 暗い 苦しい 結果 終わり 瞬間 人生 生命 経験 個人 実感ない 必然 不可避 意識 遠い 開放 楽しい 喜び 恐い 現実 向き合う 幸福 再生 始まり 姿形 思い出 自然 自分 寂しい 受容 周り 消滅 辛い 人間 生 喪失 怒り 肉体 悲しい 不感 訪れ 忘却 永遠 家族 解放 完全 現世 残された者 停止 別離 無 友人 孤独 未知 自我 漠然 できない 好き 最後 ―150― 社 会 学 部 紀 要 第 95 号
あることから、死の「スピリチュアルな側面」と 名づけた。クラスター2は、イメージ、マ イ ナ ス、暗い、苦しい、結果、終わりなどから読み取 れるように、死を人生・生命の終わりと捉え、し かもそれを暗く苦しいものと捉えている。そのた めクラスター2は「生命の終わり」としたが、そ こにはネガティブな死のイメージが含まれてい る。クラスター3は、死を個人的経験であり、避 けられないものとする、死の現実的客観的側面を 捉えており「現実的・客観的側面」とした。クラ スター4は、死についての様々な感情(ポジティ ブなもの、ネガティブなもの)が表されているた め「死に対する感情」とした。クラスター5は、 家族や友人など自分に関わる人やこの世との永遠 の別れを表す要素で構成されているため、「大切 な人との別離」とした。クラスター6、7は表2 で表されるとおり「孤独と未知」、「漠然」とし、 クラスター8は、好きなことが出来なくなるとい う、行為主体である自分から死を捉えていること から「行為の中断」とした。図1は構成要素変数 の成分スコアの布置図である。これら8つのクラ スターの関係は図2に示したとおりであり、「生 命の終わり」(クラスター2)と「死の現実的・ 客観的側面」(クラスター3)が接近し、「スピリ チュアルな側面」(クラスター1)は、2、3の 近 く に 位 置 し て い る。そ し て「死 に 対 す る 感 情」、「大切な人との別離」といった主観的クラス ター4、5が接近し、クラスター6、7、8は、 それぞれ先のグループと離れる所に位置してい る。 図2の布置図で原点に最も近い、死に対する感 情を表すクラスター4は、構成要素の数も多く (表2参照)、その内容も死に対する肯定的否定的 なさまざまな感情が含まれている。そこで、「死 に対する感情」がどのような構成概念で成り立っ ているのか明らかにするために、クラスター4に ついてのみ、ウォード法、平方ユークリッド距離 を用いて再度クラスター分析を行った。その結果 をデンドログラムで表したものが図3である。 ユークリッド距離6で切断し、死に対する感情の 構成概念を見ると、5つのグループ(サブクラス ター)に分類された。 グループ1は、悲しい、辛い、寂しい、怖い、 消滅という生が停止することについてのネガティ ブな感情、また自然、生、現実、喪失に表れされ るように、死を自然なもので現実のものとしなが ら生の喪失と位置付けている。またこれらは「肉 体」と関連しており、グループ1の死観が、死を 人間の肉体的側面につながるネガティブなもので あることを示している。グループ2は、死によっ て現実から解放されると同時に現実から忘れられ るという関係性に関わるものである。グループ3 は、幸福、周り、受容、訪れ、向き合う等という 構成要素で構成されており、死を訪れるものとし 図2 構成要素クラスターの成分スコアの布置図 図3 構成要素クラスター4内のデンドログラム October 2003 ―151―
て受け入れ、向き合っていこうとする感情や、幸 福に表されるような、死に対する肯定的な態度が みられる。グループ4は、死を新しい生のスター トととらえる、始まりや喜びであり、これはグ ループ3の死に対する肯定的態度より、さらに積 極的な死の捉え方であるといえる。最後のグルー プ5は再生と怒りであり、死をネガティブな側面 とポジティブな側面の両方を持つものと評価して おり、これが現実的・否定的死観や受容的・積極 的死観全体に関連する概念になっていた。
5.考 察
テキストマイニングによるテキストデータの解 析によって明らかになった大学生の死観の構成概 念 は、「ス ピ リ チ ュ ア ル な 側 面」、「生 命 の 終 わ り」、「現 実 的・客 観 的 側 面」、「死 に 対 す る 感 情」、「大切な人との 別 離」、「孤 独 と 未 知」、「漠 然」、「行為の中断」の8つであった。学生は、現 実的な死、つまり死を避けられないもの、人生の 終焉と捉える一方、たましいや死後の世界といっ たものにも目を向けている。また、自分自身に とって、死は漠然とした未知な孤独なものであ り、好きなことができなくなるものであるが、他 者とのかかわりにおいては、永遠の別れであると 捉えている。死観は、その視点の置き方によって 異なる構成概念が導き出されると考えられる。つ まり、死の捉え方は、現実的側面と死後の霊的側 面とをもち、1人称の立場においては未知で孤独 であり、2人称の立場においては別れであるとい える。そして死を捉える際、最も表現された構成 要素は死に対する様々な感情であった。 先行研究と比較してみると、死の「スピリチュ アルな側面」、「生命の終わり」、「大切な人との別 離」、「孤独と未知」は、Spilka(1977)の死観の 「浄福な来世」、「自然な終焉」、「家族との別離」、 「苦しみと孤独」、「未知」といった構成概念と類 似している。また死を捉えるとき最も表出され感 情は、死に対する否定的・中立的なもの、受容的 なもの、積極的なもの、周りとの関係に対するも の、そして死を肯定的にも否定的にもとらえる複 雑な感情の5つに分かれた。先に紹介した丹下 (2002)の報告にも、死のイメージには肯定的・ 否定的感情反応や、迷いに言及した反応が含まれ ていたことが報告されている。また同じ調査で、 若い世代では安らぎや安楽というポジティブな回 答が2%しか見られなかったのに対し、成人中期 以降ではこれらが7%みられたことや、青年前期 群では恐怖反応が20%と、青年中期以降の3群に 比べて高かったことが報告されている。今回の調 査でも「怖い」や「悲しい」といった死に対する ネガティブな感情は30近いサンプルから回答され ているのに比べ、ポジティブな感情について、そ のサンプル度数は4以下であった。このことか ら、死に対しての否定的な感情は大学生の中で多 数派であることが分かる。しかし、少ないながら も死を受け入れいていこうとする態度や、死を終 わりよりむしろ新しい始まりと位置付け、積極的 向かい合おうとする態度を表す感情も見られた。 また、死に対しては、肯定的・否定的と断定でき ない複雑な感情も表れていた。 さらに、死に対する感情は、生の性質を捉え否 定的に表現されたものや、死そのものを肯定的に とらえたものだけでなく、他者との関係において 表されたものもあった。つまり、自分の存在が周 りから忘れられる悲しみや辛さである。ここに は、死を個人的なものであるのと同時に、関係性 の中で捉えていることが表れている。 「死に対する感情」は死観の8つのクラスター の1つであるが、「死に対する感情」を構成して いた5つのグループは、上位の7つのクラスター と関係していると考えられる。つまり、全ての終 わり、別離や未知なものに対しては、ネガティブ な反応として表れ、たましいや死後の世界を信じ るものにとっては受容的積極的なものとして表れ ているかもしれない。これら5つのグループと上 位クラスター間の関係は今後さらなる検討が必要 である。 今回の調査によって、大学生の持つ死のイメー ジから死観を構成するものが抽出されたが、この 調査の限界も認めなければならない。まず調査対 象が死生学の受講生であったため、生と死につい て何らかの関心を既に持っている学生がサンプル になっていることである。Spilka(1977)らの研 究では、「無関心」が死観の構成概念の一つとし て揚げられたが、サンプルの偏りからこの概念が ―152― 社 会 学 部 紀 要 第 95 号抽出されなかったことも考えられる。つまり、大 学生の死観として外的妥当性に問題があるといえ る。また、サンプル数102は決して充分な数とは 言えない。同一後の置き換え後、閾値2以上を対 象に分析を行ったため、サンプル数を増やせば分 析の対象になったであろう構成要素が除外された ことが考えられる。これは、クラスター6、7、 8の構成要素が少なかったことに何らかの影響を 与えていると考えられる。今後は、より広い範囲 でのサンプリングとサンプル数の確保が必要であ る。また、今回は死観についての分析に留まった が、「生(きること)」について学生がどのように 捕らえているかについて引き続き分析を行うこと も課題である。 個人の持つ死生観は、自分が何者なのか、これ からどのように生きていくのかといった青年期の アイデンティティの形成にとって、重要な役割を 果たすものである。また逆に、死生観はアイデン ティティの形成過程に吟味され形作られていくも のかもしれない。その意味で、青年期(前期後期 あわせて)における Death Education は、教育現 場で必須なものであるといえる。北米やヨーロッ パでは子どものときから行われているが、日本で Death Educationのプログラムを提供している教 育機関はごくわずかである。Death Education を 提供するためには、対象となる学生が死について どんなイメージを持っているかを把握した上でプ ログラムを開発することが重要である。また、具 体的な Death Education プログラムの開発のため には、Death Education を受けた学生の死生観が どのように変化したかについても研究していく必 要があるだろう。現代社会で隠されてしまったリ アルな死に向き合い、自らの死生観を構築してい くための教育の試みとその効果についての研究 が、今後望まれるところである。 参考文献
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Perception of Death Among College Students:
Using text mining techniques.
ABSTRACT
High―tech modern society has hidden and rejected natural death. While real death is hidden, death in virtual reality has replaced it, via the mass media. As a result, adolescents and young adults, who are in the era of stable character formation, have difficulties in experiencing real feelings toward death, which bring about their firm perception of death. The purpose of this study is to find the constructs of the perception of death among college students. One hundred and two students were asked to write down their images of death. Using text mining techniques, text data were grouped into eight clusters:‘spiritual aspect,’ ‘natural end,’ ‘feelings toward death,’ ‘separation from people meaningful to oneself,’ ‘the unknown and loneliness,’ ‘ambiguity,’ and ‘giving up activities.’ The construct ‘feelings toward death’ includes positive and negative feelings toward death itself, mixed feelings toward death, and the negative feelings toward death in relation to others. More studies are needed to determine the perception of death. Considering the perception of death among adolescents and young adults, better death education programs in the educational system should be developed.
Key Words: perception of death, college students, text mining techniques