飯舘村におけるホールボディカウンタ結果解析
(平成 24、25 年度施行分)
福島県立医科大学放射線健康管理学講座 助手
宮崎 真
<飯舘村におけるホールボディカウンタ検査結果解析> 飯舘村では、村独自にホールボディカウンタ(WBC)を購入し、設置された社会医療法人秀公会あづ ま脳神経外科病院にて、村民向けに内部被ばく検査を継続的に行っています。平成 24 年度、25 年度に 同病院にて施行された検査結果について、解析をいたしましたのでご報告いたします。 <WBC 検査を受けた方と解析の対象> 本解析は、同病院で WBC を受けた飯舘村民のうち、結果解析に関する御同意をいただいた方を対象と しています。その総人数は平成 24 年度が 1447 人、平成 25 年度が 1162 人でした(平成 25 年度は平 成 25 年 12 月 31 日まで)。対象者の年齢および性別の分布の概要につきましては、図 1 をご覧下さい。 図 1:あづま脳神経外科病院にて WBC 検査を受検した方の年齢、性別の状況(同意あり分) 平成 24 年度は 60 才台をピークに成人の検査が多い傾向にありますが、平成 25 年度は同年代に同様 のピークはあるものの、15 才以下の小児の検査が増えたことがわかります。これは、平成 25 年度にバ ス送迎にて小中学校児童生徒の悉皆検査を村が行ったためです。全体としては、受検者数の減少傾向が 認められます。
<検出者の状況> 対象者のうち、セシウム 134、137 のいずれも有意な値として認められなかった方(いわゆる検出限 界未満の方)は、平成 24 年度が 1283 名(88.7%)、平成 25 年度が 1094 名(94.1%)でした。検出 された方の割合が平成 24 年度に比べ平成 25 年度で減じています。ただし、平成 25 年度は未成年者の 受検者の割合が多いため、その影響による検出者減少も考慮されます。 全検出者において、測定された全身のベクレル量についての分布を図 2 に示します。検出者の中で 20 才未満の方は、平成 24 年度の 1 名のみでした。なお、平成 25 年度の有意検出者の方で、お一人の方が 散布図のスケールから大きく逸脱してしまうため(セシウム 134:4100 ベクレル、セシウム 137:10000 ベクレル)、グラフからは除いています。 図 2 受検者中で有意な放射性セシウムが検出された方の検出値のプロット 平成 24 年度より平成 25 年度の検出値の分布がセシウム 137 側に傾いていますが、これは全体として セシウム 134 の半減期が早いことと符号します。なお、この傾きが見えることは、あづま脳神経外科病 院における WBC 計測が健全であることを示しています。 全検出者中、セシウム 134、137 のいずれかが単独で検出された方が平成 24 年度は 87 名(両方検出 者は 77 名)、平成 25 年度は 27 名(同 40 名)おられました。ただし図 2 でも見られますように、平成 25 年度にはセシウム 134 が単独で検出された方はいらっしゃいません。これも、セシウム 134 の経時 的な減弱による効果(時間とともに微量な値が検出されにくくなってきている)と考えます。
<検出値から推定される内部被ばく線量> WBC 検査の結果報告書には、体内の放射性セシウムのベクレル量(検出限界未満もしくは測定された 有限値)が直接記載されますが、それに基づいて計算された内部被ばく線量は、報告書の上では「1 ミリ シーベルト未満」と書かれます。本解析では、後述の条件に基づき、検査時に検出されたベクレル量か ら、直近 1 年間の内部被ばく量について再計算を行っています。その結果を図 3 に示します。 図 3 WBC 受検者における年間内部被ばく線量の分布 対象者のうち大部分の方は、年間の内部被ばく線量として 0.1 ミリシーベルト以下でした。0.1 ミリ シーベルト以下の方の割合は、平成 24、25 年度ともにそれぞれ 99.5 パーセントです。 なお、検出限界未満の方は年間被ばく線量を直接計算できませんが、あづま脳神経外科病院の WBC に おける「検出限界ぎりぎりの放射能を有している」と仮定した場合、セシウム 134(150 ベクレル)で 0.008 ミリシーベルト、セシウム 137(170 ベクレル)で 0.006 ミリシーベルト、この 2 者を合算した 「0.014 ミリシーベルト」が本推定における最大値となります。つまり、ND(検出限界未満)の方は、 最大でもその線量を超えない、ということになります。なお、検出限界ぎりぎりで放射性セシウムが体 内に存在している成人の場合、直近 1 年間における平均 1 日摂取量は、およそ 2 ベクレルです。 平成 25 年度の有意検出者数が減じているのは、受検者の減少をそのまま反映しています。ただし年間 被ばく線量が 0.1 ミリシーベルトを超えた方の実数はほぼ変わりません。なお、両年度を通じた最大検 出の方の年間被ばく線量はおよそ 0.57 ミリシーベルトで、この方の日常的な放射性セシウム摂取量は、 1 日平均としてセシウム 134 がおよそ 29 ベクレル、セシウム 137 がおよそ 71 ベクレルと推定されま す。 ちなみに、現時点でセシウム 137 が WBC で 1430 ベクレル検出された方の年間摂取量は 3650 ベク レル(1 日平均 10)と推測され、年間被ばく線量はおよそ 0.05 ミリシーベルトと計算されます。
<まとめ> 飯舘村が主体となり、あづま脳神経外科病院で施行された平成 24 年度、平成 25 年度の WBC 検査結 果解析から、以下の 3 点をまとめとして述べます。 1.平成 24 年度に比べ、平成 25 年度の有意検出者数は減少している 2.特に未成年者においては、平成 25 年度に有意検出者はいらっしゃらない 3.年間の内部被ばく線量としては、受検者のほとんどで 0.1 ミリシーベルトを超えない 総じて、これまで公表されているような結果と同様に、飯舘村民における内部被ばくも低いレベルに 抑えられていることがわかります。放射性セシウムによる内部被ばく量を押し上げるのは、放射性セシ ウムを含む食品の継続的な経口摂取が原因であることが示されていますが、その中でも特に、出荷制限 のかかっているような食材を、未検査で継続的に摂取することが大きな要因とみられています。今回 WBC 検査を受けた方の中で、多くの方はそういった状況になく、食材を概ね市場から調達していると考 えられます。 飯舘村民の中でも、ごく一部の方で総放射性セシウムとして 1 日平均 50~100 ベクレル弱程度の日常 的な摂取をしている方がおられることも同時にわかりました。数値の大小にかかわらず、WBC により数 値として体内に放射性セシウムが検出された方については、今後、個別の聞き取りに基づく食生活の内 容、食材の調達先など(つまり、日常的に食べているものはなにか?)の確認を推奨いたします。 また、数値の検出がある方については言わずもがなですが、検出限界未満の方を含めて、引き続き経 時的なフォローアップが必要と考えます。検出値から年間被ばく線量を類推出来る、という点では、一 般的な定期検査間隔は 1 年が妥当です。 ただし、有意な数値の検出があった方については、適宜さらに短期間での複数回フォローアップが望 ましい、と考えます。これは、単に何度も測っていく、ということではなく、日常の食事内容と併せて 検討していくことに意義があります。何が原因で数値が出るのか、ほとんどの場合は各個人の食生活の 状況に応じて明らかにすることが可能ですが、そのためにはフォローアップ検査とともに、繰り返し対 話をしていくことが必須です。 なお、本解析の範囲外ですが、同一人物が複数回検査を行い、それぞれに数値が検出された場合には、 2 回の検査間の実際の摂取量をより正確に評価することが出来ます。その結果をお伝えするためには、同 じ方の複数回検査のデータを、個人が同定出来る形で解析することに同意していただいた上、再評価を する必要があります。さらに、その結果は郵送ではなく個別に丁寧にお伝えすることが大変重要と考え ております。今後ご検討をお願いいたします。
<付:本解析における年間内部被ばく線量推定の条件> ① 放射性セシウムを平成 23 年 3 月 12 日から毎日均等に経口摂取している、と仮定する福島県の取り 決めに準拠し、平成 24 年 2 月 1 日以降の WBC 検査受検者に該当。 ( http://wwwcms.pref.fukushima.jp/pcp_portal/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEX T_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=26104) ② ①の条件で放射性セシウムを慢性経口摂取したとして、検査直近 1 年間の預託実効線量が 1mSv に 相当する WBC 検出値(体内残留量)が検査機関にシートとして提供されている(表 1、2 に抜粋)。 ③ WBC 検査における検出値を、表 1、2 の数値に基づき核種ごとに除算して預託実効線量に換算。 ④ 得られる線量はあくまでも「預託実効線量」であるが、WBC 検査の直近 1 年間の放射性セシウムの 総摂取量をもとに計算される線量のため、「年間内部被ばく線量」と呼称することが妥当。 ※ 線量評価における預託実効線量は、 「預託実効線量(Sv)」=「放射性物質の総摂取量(Bq)」×「線量換算係数(Sv/Bq)」 で計算されます。 WBC は体内の「残留量」を測定する機器であり、検出量から「総摂取量」を推定するためには 適切な「仮定」が必要となります。その仮定が①に示されています。さらに、現場にてその計算 を簡便にし、線量評価を迅速に行うために、②のシートが提供されています。 表 1 ①の仮定に基づき直近 1 年間で預託実効線量 1mSv 相当の経口摂取をした際の WBC 検出推定値 年齢層別 セシウム 134(Bq) セシウム 137(Bq) 3~7 才 6100(2012 年 2 月以降) 8500(2012 年 2 月以降) 8~12 才 9700(2012 年 3 月以降) 14000(2012 年 2 月以降) 13~17 才 15000(2012 年 6 月以降) 24000(2012 年 7 月以降) 18 才以上 18000(2012 年 9 月以降) 30000(2013 年 8 月以降) ※上記年月は WBC 検査時期を指し、それ以降は数字が変化しない、の意。②のシート上に記載。 ※上記表に基づく計算例:成人でセシウム 134:300、セシウム 137:700 ベクレル検出した場合 134) 700 ÷ 30000 = 0.023 137) 300 ÷ 18000 = 0.017 (計算結果の単位はミリシーベルト/年)(WBC 検査時期は 2013 年 8 月以降として) 年間内部被ばく線量は上記の合算となり、 0.040 ミリシーベルトと推定される。 表 2 (参考)②シート上の経時的な WBC 検出推定値の変化(預託実効線量 1mSv 換算、成人の場合) セシウム 134(Bq) セシウム 137(Bq) 16000 2012 年 2 月 1 日~2012 年 3 月 1 日 26000 2012 年 2 月 1 日~2012 年 2 月 27 日 17000 2012 年 3 月 2 日~2012 年 8 月 31 日 27000 2012 年 2 月 28 日~2012 年 4 月 28 日 18000 2012 年 9 月 1 日~ 28000 2012 年 4 月 29 日~ 2012 年 8 月 5 日 29000 2012 年 8 月 6 日~2013 年 7 月 10 日 30000 2013 年 7 月 11 日~