• 検索結果がありません。

P2P P2P Peer to Peer; (peer) Napster P2P Gnutella Napster WinMX KaZaA P2P Freenet Winny ,2 ACCS JASRAC 3 4 RIAA Napster/mp3.com P2P RIAA v. Ver

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "P2P P2P Peer to Peer; (peer) Napster P2P Gnutella Napster WinMX KaZaA P2P Freenet Winny ,2 ACCS JASRAC 3 4 RIAA Napster/mp3.com P2P RIAA v. Ver"

Copied!
17
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

Ⅳ.音楽とネットの(幸せな)関係は成立するか

澁川 修一 (独立行政法人経済産業研究所、 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター、 東京大学情報学環・学際情報学府) 1.はじめに コンピュータとネットワークの技術的な進歩は止まることを知らない。それにより、ユ ーザは自ら様々な著作物を簡単に作成・複製できるようになった。(従来数百万円の設備が 必要だった音楽制作のためのコンピュータ環境も、いまは数十万円台で構築可能である) 他方、ネットワークの進化という観点に話を写すと、コンピュータはネットワーク接続 されることで、その価値が倍加されると言われるように、DSL等の常時接続環境の普及に伴 い、多数のコンピュータが接続されたネットワーク上の情報量は各種の情報収集・結節ツ ール(掲示板、検索サイト等)の威力もあり、指数関数的に増大していくことになった。 そのような中、出現してきたのがファイル交換ソフトウェア1であるのだが、これらが人 気を集めた背景には常時接続環境の普及があることは疑いない。 このファイル交換アプリケーションの与えた衝撃はいろいろな意味でメガトン級であっ た。私事で恐縮だが、筆者も初めてNapsterを触ったとき、「これは凄い」と驚いた。そして、 「これは音楽産業に新たな可能性をもたらすものだ」と直感的に感じた。簡便な使い勝手、 そしてインターネットとの親和性、そして音楽を「共有する」事の可能性と、それがもた らす産業パラダイムの変換、すなわちビジネス的な広がりを感じ取ったのである。 しかしご存じの通り、もう一つの側面、つまり「不法コピーのツール」として音楽産業 サイドに受け取られてしまったNapsterは音楽産業の圧力を受けて壊滅し、このような手法 での音楽ビジネスは立ち往生することとなった。そして、ネット音楽配信を行う試みが音 楽産業主導で次々と立ち上げられるが、なかなか軌道に乗っていないのが現状である。そ うこうしているうちに、不法コピーを防ぐにはパソコンでCDをRipping(MP3エンコード) されなければいいのだとばかりに、CCCD(コピーコントロールCD)、すなわち「CDでは ないCD」という摩訶不思議なモノが出現するに至り、ネットと音楽の関係は混乱の極みを 迎えたように見える。 さて、このような状態を鑑みるに、筆者はどうもこのネットと音楽の関係という問題に 関しては、問題設定の段階から根本的に誤っていたのでないかという感を強く持つのであ る。つまり、ネットを「不法コピーの温床」であるかのごとく敵視し、自らの権利コント ロールの及ぶ範囲以外で商売をしない、音楽業界側のスタンスである。本来は、ネットは 音楽産業全体を活性化させ、アーティストの創造性を拡大し、文化としての音楽という価 値を高めるものであるはずだ。 本稿では、上記のような問題意識の下、日進月歩で進むネットと技術革新について、実 際にネットの上での自主音楽の創作活動等を例にとりあげ、ネットと音楽産業との共存共 栄に向けての方策について考えていくことにしたい。 1 本稿では、P2P ソフトウェア全体と、その一例であるファイル交換・共有ソフトウェアは区別して扱う。 P2P という場合は P2P ソフトウェア全般を指し、「ファイル交換・共有ソフト」と呼ぶ場合は Napster や KaZaA、WinMX や Winny 等を指す。

(2)

2.悪役に仕立て上げられるP2P 前節で述べたように、昨今、P2P技術(Peer to Peer;各ユーザの端末(peer)同士が自律的に 通信をする技術)が、常時接続環境の爆発的な普及により注目を集めている。 その端緒となったのが各種のファイル交換ソフトウェアで、今は亡きNapster(これは厳 密な意味でのP2Pではない)が普及の道を切り開き、それに続く各種のGnutellaクローン、 そしてNapsterの技術を元にしたWinMX、あるいはKaZaA、そして匿名/暗号化P2Pファイル 交換ソフトであるFreenetや、その技術を参考にした「2ちゃんねる」発のソフトウェア、 Winny等が現在普及しており、ユーザは国内だけでも185万人2、海外を合わせると数千万人 に達するともいわれている。 しかし、これらのファイル交換ソフトに対しての、音楽・映画産業などのコンテンツホ ルダー側の攻勢は、特にここ1,2年の間にすさまじい勢いで強まっている。一例を挙げれば、 わが国においてはソフトウェアの不正コピー防止の観点からACCS(社団法人コンピュータ ソフトウェア著作権協会)が、音楽業界の著作権侵害にはJASRAC(社団法人日本音楽著作 権協会)がそれぞれ、ユーザへの警告や大学への警告3 を行ったりしている。日本では逮捕 例はまだそれほど多くないが4、海外では裁判に訴える例が続出している。中でも全米レコ ード産業協会(RIAA)は豊富な資金力に物を言わせて多数の訴訟を起こしており、その矛 先はファイル交換ソフトの開発者に始まり(Napster/mp3.com訴訟)、次にP2P通信を「黙認 している」通信会社に矛先を向け(RIAA v. Verizon訴訟)、さらには通信会社に開示させた 利用者リストに基づき、P2Pソフトを用いている個人ユーザにまで訴訟を起こす勢いである。 56 実際に、「1万2千ドル事件」という事例も起きている。これは、P2Pファイル交換ソフト のヘビーユーザの大学生に対して、RIAAが著作権侵害の事実を認めて和解するか、それと も数千万ドルにも及ぶ賠償金の可能性がある裁判で戦うかという選択を迫り、結果、学生 がRIAAに和解金(1万2千∼7千ドル)を払ったというものである。7その和解金額はその学 生たちそれぞれの預金額であるとされ、彼らは文字通り全財産を叩いてしまったことにな る。つまりある種の「見せしめ」である。その影響もあり、全米、特に大学でのP2P通信帯 域量は減少を始めたという。8 我が国におけるこの種の裁判事例としては「ファイルローグ(日本MMO)事件」がある。 これは中央サーバ経由で利用するP2Pファイル交換ソフトを配布していたファイルローグ 社に対して、社団法人日本レコード協会とJASRACが損害賠償とサービス停止を求めて訴訟 を提起したもので、東京地裁は今年1月29日、ファイル交換による著作権侵害を認め、ファ イルローグ社は損害賠償義務を負うとする中間判決を出した。9 この他にも、DVDの複製防止暗号を解読したDeCSSツールの開発者であるノルウェー人 の青年が訴えられる等(ノルウェーでの判決は無罪であったが、米国でのDeCSSツールの配 布はデジタルミレニアム著作権法(DMCA)により差し止められた)、コンテンツホルダーに 2 日本レコード協会 2003 年調べ:http://www.accsjp.or.jp/release/030618.html 3 http://compress.sfc.keio.ac.jp/clip/news03050903.html 4

2001 年秋に大学生と専門学校生の 2 人の WinMX ユーザが余りにも大量のソフトウェア(Adobe Photoshop 等)を共有状態に置いていたことから告発・逮捕された事例がある: http://www.zdnet.co.jp/news/0112/05/accs.html 5 実際に RIAA は開示されたリストに基づき 261 人のユーザに対して訴訟を提起した。 http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000047715,20060831,00.htm 6 http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000047715,20057781,00.htm 7 http://www.zdnet.co.jp/news/0305/02/nebt_18.html 8 http://japan.internet.com/ecnews/20030716/12.html 9 http://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2003/0129/fr.htm

(3)

よる圧力は強まる一方なのだが、この煽りを受けて、世間一般的にはP2Pやその他の先進的 な技術は、すべて「悪」というイメージが定着してしまった感がある。 しかし、P2Pファイル交換ソフトの本来の役割は、知的資産の自由な共有と利用なのであ り、決して不法コピーをするために使われるものではない。もちろん違法な利用も可能だ が、自らの著作物を自由に共有、頒布するために利用することも出来るわけで、要するに 使う人のモラルに依拠する問題である。 同様の判断が、米国では判決として下され、話題を呼んでいる。今年4月25日にカリフォ ルニア州の連邦地裁で下されたP2Pファイル交換ソフトGroksterとMorpheusをRIAAが訴え た事件に関しての判決で、両者のサービスそれ自体についての違法性は認められないとの 判断が示された。10 もちろん、違法なファイル交換をすることは違法なのだが、P2Pファイ ル交換サービスそれ自体には著作権侵害が認められない、という立場を明確にしたことが、 従来繰り返されてきた判決と異なっていることから注目されている。 ちなみに、前述のファイルローグ事件に際して裁判所に意見書を提出した認知学者の苫 米地英人氏は、昨今の技術を押さえ込もうとするコンテンツホルダー側の動きは「疑わし きは、罰する」というものであり、「良心的なP2P運営の全てを停止させる効果があり、日 本におけるブロードバンド社会でのP2Pの将来性と経済波及効果を考えて、深く憂慮してい る」と述べている。11 苫米地氏が指摘するように、この一連の流れはP2P技術全体への脅威という文脈でも捉え るべきだろう。このような圧力が続けば、おそらくファイル交換ソフトはもちろん、P2P技 術そのものが、何も知らない人には何かしら「後ろめたいもの」として受け取られる事に なるだろう。P2P技術はファイル交換だけに使われるものではなく、様々な可能性が構想さ れており、P2P技術を用いたグループウェアである"Groove"等、実際に興味深いソフトウェ アが開発されている。それらの技術革新を産み出す開発者のインセンティブを、現状のよ うなP2P技術に対してのネガティブ・キャンペーン、あるいは過度の法的締め付けがスポイ ルする恐れは十分ある。つまり、一生懸命開発しても、すぐに訴訟で使用が差し止められ るならば、誰がリソースを割いて開発に取り組むというのだろうか。 3.迷走する国内のネット音楽配信 一方、国内の音楽産業も、ネットを無視しているわけではなく、新しい音楽流通のチャ ネルと位置づけて、オンラインによる楽曲販売・流通に向けての取り組みを始めている。 例えばソニーミュージックの「bitmusic」や、エイベックスの「@Music」、両者が参加する 「レーベルゲート」、「music.co.jp」等である。しかし、この種の試みがうまくいっている、 すなわちユーザ数を多数獲得している、あるいはCDと比べた売上高が注目すべき水準にま で上昇しているという話はまだ聞いたことがない。 当初、1曲あたり350円という価格が(エイベックスの場合)設定されたが、これはアル バムの値段から逆算して設定されたとされ、消費者には見向きもされなかった。アルバム には、ベストアルバムならまだしも、シングルカット以外の曲も混じっている。それを併 せて全部同じ価格とするのは消費者の心理を全く考えていない設定であり、見向きもされ ないのは当然である。(その後、2002年からソニーミュージックとエイベックスは1曲200円 に値下げしたが、これでもまだ高い価格水準である) 10 http://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2003/0428/p2p.html 11 http://www.crl.co.jp/company/ikensho.pdf

(4)

ただしこれは、音楽配信そのものが「儲からない」ということを意味しているわけでは ない。2000年にウォールストリート・ジャーナル誌に掲載されたRIAAのローゼン会長(当 時)とRealNetworksのグレーザー会長との対談では、ネット音楽配信の方が既存の流通経路 と比して断然便利であり、今後の市場性が高いという点で一致している。また後述するよ うに、米国を中心に定額制のネット音楽配信サービスが最近急激に会員数を伸ばしており、 決して音楽配信がお先真っ暗というわけではない。そればかりか、曲単位で検索・購入出 来ることなどを考えると、既存レコード店との相互補完により新たな客層を掘り起こすこ とも可能だろう。 しかし、これまで見てきたような殿様商売的な価格設定や、MP3形式の強みであるクロス プラットフォーム性(MacやLinuxを初めとする多様な機器で聴けるという特徴)が独自企 画で喪失されてしまう問題等は、新たな客層を掘り起こすどころか、ネット音楽配信の不 人気と、MP3ファイル交換の隆盛を呼んでいるだけだと思われる。 それに追い打ちを掛けるような事態が昨年から起きている。エイベックスが導入の端緒 となったCCCD(コピーコントロールCD)である。これは「MP3にエンコードされること (Ripping)を防止してしまえばいい」という発想で、データ部分の前にコピーを防止する ための特殊なコードが書き込まれている光ディスクで、イスラエルのMidbar Technology社の CDS(Cactus Data Shield)技術が使われている。これはフィリップス社が指摘するようにCD の規格からは明らかに外れており、一部の機器(カーオーディオやMacintosh等)では再生 不可能という弊害が生じている(しかも、再生できない事による返品を(エイベックスの 場合)受け付けていない!)等、議論を呼んでいる。12 米国ではCCCDが欠陥商品であるという訴訟が続出することを恐れて、実際にはCCCDの リリースはほとんどない。(最近本格的なリリースが開始された)13 しかし、日本国内では CCCDのリリースが段階的に増えているようで、実際レコード店の店頭でCCCDを見かける 機会はかなり多くなっている。また、日本レコード協会によると、CCCDを受け入れる層が 過半数に達したという調査が発表されている。14 一方で、CCCDについて否定的なユーザが 肯定的なユーザを上回ったという調査結果も出ており、賛否両論という状況である。15 私見だが、これはMP3ファイルのエンコードそのものを防止する効果よりは、(CCCDを あまり気にしない層は別として)ヘビーユーザ層のCD離れを逆に加速させているように見 える。このヘビーユーザ層は、音楽を様々な機器(iPod等の携帯用MP3プレーヤなど)上で 再生できる技術的互換性や、再生音質を非常に重視している。それ故、Rippingが出来る普 通のCDではなく、音質も劣るCCCDに対して「エセCD」とか「CDモドキ」とか「円盤」等 と呼称し、嫌悪感を露わにするのだろう。技術系の話題を扱う匿名掲示板であるスラッシ ュドットでCCCD関連のストーリーが数多く取り上げられているのも、その種のヘビーユー ザ層が寄せる不満を代弁している。16 12 http://homepage1.nifty.com/mcn/glossary/sp/cccd.htm 13 http://www.zdnet.co.jp/news/0309/13/nebt_14.html 14 http://www.riaj.or.jp/cgi-bin/press_release.cgi?id=61 15 http://www.zdnet.co.jp/news/0302/18/njbt_03.html 16 ※以下はCCCDに関連した、Slashdotのストーリーリストである。 「CCCDは支持率60%?! RIAJ調査結果発表」(http://slashdot.jp/articles/03/04/02/2315258.shtml) 「コピーガードを冷ややかに見つめる消費者」(http://slashdot.jp/article.pl?sid=03/02/04/0734248) 「MicrosoftのCDコピーガードシステム」(http://slashdot.jp/article.pl?sid=03/01/20/2156259) 「SME、新しいCDコピー防止技術」(http://slashdot.jp/article.pl?sid=02/11/20/0535252) 「コピーコントロールCDだったら買わない人が3割」(http://slashdot.jp/article.pl?sid=02/11/01/0931211)

(5)

一方、音楽産業側の立場からすれば、CCCDが推進される理由として、 (1)MP3ファイルの作成、という違法コピー流通の根本原因を絶てる。 (2)違法コピーが出来なくなるので、CDの売れ行きが上がる。 (3)PCでも使えるファイル形式で欲しい人は音楽配信サイトで買ってもらえばいい。(MP3 形式では売らない)また、独自のファイル形式で囲い込めば関連ソフトウェアの売れ行 きも上がるかも知れない。 という狙いがあると考えられるのだが、その目論見は、余りにコアユーザをないがしろに してはいまいか。確かに、現代のコンテンツ産業の宿命として、購入層の過半数を占める 「流行で購入する層」に対してマーケティング重視で「売り抜ける」戦略を取ることがレ コード会社の利益に直結することは確かなのだが、そこを重視するあまり、コアユーザの 好みを無視するようなCCCDリリースを続けていくことは、長期的に見れば決して音楽産業 のプラスになるとは思えないのだ。その音楽を本当に好きで購入し続けてくれる層を着実 に育てていかなければ、真に音楽文化が発展していくことはない。一過性のブームを自転 車操業のように再生産し続けていても、いつか飽きられる。 確かに「流行で購入する層」は、今は音楽を買ってくれるかもしれない。しかし、マー ケティングで獲得するような層は、他社・他業界、例えばカメラ付携帯電話やメールの利 用料等に容易に支出対象を変更するかもしれない。消費者の財布には限度があるのだ。17 また、前述のSlashdotのストーリーにあるように、宇多田ヒカルや矢井田瞳のように、音 質や再生機器の制限を理由にCCCDでの新譜リリースを拒むアーティストも存在する。また、 音楽評論家の萩原健太氏は、CCCDでリリースされるシリーズのライナー・ノーツの執筆を 拒否したことで話題となった。 考えてみれば、そもそもMP3が消費者の間に浸透した理由はその汎用性、オープン性にあ った。それ故、機器の垣根を越えて様々な場所・機器で同じファイルが利用できるという 利点があったのだ。音質的には圧縮が厳しいためにCDの音質には至らないMP3であるが、 汎用性という利点が少々の音質劣化を遙かに上回っていたのだ。逆に言えば、現行の音楽 「CDコピープロテクトにマジックペン対策」(http://slashdot.jp/article.pl?sid=02/08/29/1139236) 「「CCCDは欠陥商品」カリフォルニアで消費者代表訴訟」 (http://slashdot.jp/article.pl?sid=02/06/18/160225) 「CASIOが似非CDの動作の非保証を宣言」(http://slashdot.jp/article.pl?sid=02/06/01/1630220) 「マジックペン一本で似非CDをPCで聞く」(http://slashdot.jp/article.pl?sid=02/05/15/2110238) 「CDもどきでドライブ破壊」(http://slashdot.jp/article.pl?sid=02/05/02/0641208) 「東芝EMIもCDS採用へ」(http://slashdot.jp/article.pl?sid=02/04/16/2034202) 「宇多田ヒカルはCDSを拒否」(http://slashdot.jp/article.pl?sid=02/04/24/1036205) 「コピーコントロールCDにロゴマーク」(http://slashdot.jp/article.pl?sid=02/04/20/0428213) 「似非CD続々登場へ 」(http://slashdot.jp/article.pl?sid=02/04/03/0830223) 「日本でもPCで聞けない欠陥音楽CDがもうすぐ登場」(http://slashdot.jp/article.pl?sid=01/12/31/0938208) 「CD屋も知らなかったコピーコントロール『CD』」(http://slashdot.jp/article.pl?sid=02/03/14/0855227) 「AVEXがコピー防止機能搭載CDを発売 (http://slashdot.jp/article.pl?sid=02/03/02/0641203) 「お墨付き:AVEXのはCDじゃない 」(http://slashdot.jp/article.pl?sid=02/03/09/0321201) 「東芝EMIもCDS採用へ 」(http://slashdot.jp/article.pl?sid=02/04/16/2034202) 17 事実、CD 売り上げ減の大きな要因として、携帯電話への支出が増大している点が指摘されている。

(6)

配信サービスが採用するATRAC3等の、専用プレイヤーやPCとの互換性をシビアに要求す る規格がそれほど普及しないのも、MP3の持つ圧倒的な汎用性に太刀打ちできず、その点で ユーザに見切られているからであろう。 刀狩のようにMP3を使わない仕掛けを用意したところで、汎用性が無いのであれば、引き 続きユーザはMP3を使い続けるだろうし、それこそ、MP3ファイルを求めて、完全匿名での ファイル交換を可能にするWinnyのようなものにユーザは逃げていってしまう。それは、音 楽産業、ユーザの双方にとって、決して幸せな結論とは言い難い。何らかの関係で両者の 妥協を図り、「ネットと音楽の幸せな関係」を築いていかなければならないのだ。 つまり、ここで問題になっているのはNapsterやKaZaAのような個々の技術でもなければ、 法律的な規制の要件のあり方でもない。コンピュータ、及びインターネット時代に対応し ていない音楽産業全体の「構造」が問題になっているのである。技術革新は日進月歩であ り、インターネットはそれ自体「共有」を文化とする思想的背景により生まれ、維持され ているネットワークである。その「共有」という文化を理解し、ビジネスに上手につなげ るように構造転換を図れば、音楽産業全体の拡大にも寄与する可能性もあるのだが、現状 の施策はその正反対を向いている。実にもったいない話である。 おそらく、音楽産業の基本的なビジネスモデル、すなわちアーティストを囲い込んで、 出来上がった作品を独占的に莫大な広告費やマーケティング手法と共に流通させ、その権 利で利潤を売り抜けるというやり方が、計り知れない成功を収めてしまったため、その成 功物語から転換することが容易でないのだろう。 しかし、時代に応じた業態の転換を図らないまま、旧来のビジネスモデルを護るために、 権利を盾にP2P技術を次から次へと潰したとしても、それは単にモグラ叩きに過ぎず、決し て根本的な問題解決になるはずもなく、むしろ続々と複雑な技術が登場することで、ます ますファイル交換はアングラ化し、その勢力が拡大していくという悪循環に陥ることが容 易に予想できる。 それでは、どうやって「幸せな関係」を気づいていけばよいのだろうか。ヒントは、音 楽産業が忌み嫌っている「共有」にある。この「共有」をベースにしたビジネスモデルを 如何に構築するかが、今後の音楽産業発展の一つのキーポイントになるのだ。18 4.「共有」をベースにしたビジネスモデルは成り立つか さて、それでは「共有」をベースにした音楽のビジネスモデルとはいったいどういうも のであろうか。簡単に言えば、著作物による直接的な対価をすべての種類の著作物に対し て求めず、一部(ないしはすべて)を共有状態に敢えて置くことで、作品の価値を高め、 そこから間接的・直接的な対価を得るモデルである。例えば、共有バージョンと市販バー ジョンの質的な差別化を図ることや、コンサートやストリーミングビデオの配信等と組み 合わせた多面的なマーケティング戦略を、「著作物の共有」によるファン層の掘り起こしと セットで行うことで、従来の雑誌・テレビ等メディアを用いた宣伝手法に頼る打ち上げ花 火的なやり方よりも長期的・安定的な収益を目指すというものである。 18 音楽配信と P2P 問題、音楽産業の産業構造転換の必要性については、千葉大学の本間忠良氏の論文「ネ ット音楽とアナルコ・キャピタリズム」:http://tadhomma.infoseek.livedoor.com/AnarchoMusic.htm が参考にな る

(7)

このモデルは後で詳述するが、アーティストのタイプによっても様々な使い方が出来る。 例えば、デビュー前の新進アーティストなら、敢えて自らの曲をネットワーク上で配布す ることで静かに人気を広めていくやり方(インディーズ系アーティストの売り方としては よくある手法だ)としても使えるし、既にかなりの人気を得ているアーティストであるな らば、過去の資産についてはある程度共有状態に置き、ライブや関連グッズの収入と新譜 の収入や、過去の資産を用いた派生的な作品からの副次的な収入を利益とするやり方もあ るだろう。 確かに、独占的に著作権を囲い込んで収益を得る現行のビジネスモデルよりも、短期的 な収益自体は減少するかも知れない。しかし、長期的に見て、派生作品による市場の広が り等、音楽産業及び文化への寄与は大きいであろう。即ち、音楽文化全体のすそ野を広げ ることで、音楽愛好者の購買インセンティブを高いままに保ち、市場を活性化させる効果 が見込めるのではないだろうか。 もちろん、机上の空論という批判はあるだろう。また、実際に共有したとして、それは 「無料で音楽を聴く」行為を助長させるだけで、収益に繋がらないのではないか、あるい は音楽文化がより豊かなものになるとは限らないのではないか、という疑問も提起できる だろう。その疑問に応えるために、ここで、実際に「共有」により多様な音楽が生まれて いる、あるいは新しいビジネスモデルが確立された例を紹介することにしたい。中には趣 味の世界がベースになっている実験的なものも含まれるが、その点を割り引いたとしても なお、有望な可能性を示している事例である。 4.1 muzie.co.jp muzie19は、有限会社ミュージーが運営する、インディーズ・アマチュア音楽の試聴・レ ビュー・ユーザ格付け・掲示板コミュニティ等のサービスを行う総合サイトである。2001 年からスタートしたmuzieでは、基本的に著作権は各アーティストに帰属しているものの、 彼らの楽曲はRealaudio(ストリーミング)もしくはMP3形式のダウンロードで試聴・入手 が可能となっている。アーティスト側のメリットは、自らの宣伝のためにこのサイトを利 用して試聴・宣伝・告知などを行えることで、参加しているアーティスト数は6,909組、登 録楽曲数は46,810曲にのぼる(9月17日現在)。また、サイト自体も月刊15万アクセスを記録 し、これまでにダウンロードされたMP3ファイルは645,352件(2003年7月)という実績を残す など、高い人気を誇っている。20 アーティスト側は、muzieに登録することで、無料で曲をアップロードして配布できるほ か、楽曲ダウンロード数などの統計情報の提供、MD等で録音したマスター音源をMP3形式 への変換や、アーティストそれぞれの掲示板の設置、ライブ情報の告知などが行えるなど のメリットがある。その他、将来的にはオーディション情報の提供やインターネットラジ オ番組(ラジオ番組形式の音声ファイルをストリーミング配信するオンデマンドラジオ) の提供、レコードデビュー支援やライブ支援もmuzieが行っていくという。 これにより、単に駅前でギターを弾き語りする、あるいは時折ライブを行うという程度 のアマチュアバンドであっても、このようなプロモーションの機会を簡単に得ることが出 来るようになったのだ。6,909組という登録数を誇り、現在も着実に登録が増えていること は、このサービスのメリットが確実に存在していることを意味する。 19 http://www.muzie.co.jp 20 http://www.muzie.co.jp/profile/access_data.html

(8)

一方、リスナーの側も、自由に楽曲をダウンロードして聴くことが出来るし、MP3形式で あるならば、個人で楽しむためにCD-Rに焼いてマイ・アルバムを作る事もできる。また、 muzieの一大特徴でもあるが、ユーザ自身による評価(Ratingによるランキング表示)が出 来るので、本当に気に入ったアーティストを評価したり、友人と一緒に楽曲について話し たり、アーティスト別の掲示板に書き込むことが出来る。そうやって、お気に入りのアー ティストに早くから注目し、彼らが徐々に人気を得ていくのを同時進行的に応援していく ことができる。自分の注目したインディーズのアーティストが注目され、人気を得てメジ ャーに上り詰めていくのは、実にファン冥利に尽きる話である。 また、好みのアーティストがない場合でも、ジャンル別の検索や、音楽ジャーナリスト によるコラムなども用意される他、muzie最大の特徴であるリスナーによるRatingに基づい たランキングやジャンル別ランダムアクセス等のサービスを用いることで、評判の良いア ーティストや自分の好みにあったアーティストを簡単に見つけることが出来る。 さて、これだけのサービスを無料で提供していて、運営元はどのように利益を得ている のだろうか。有限会社ミュージーでは、広告掲載、あるいはアーティストによる一行宣伝 バナー等の広告収入を得ているほか、各種の有料音楽サイト(Levelgateや@music)とのアフィ リエイト(提携)サービスを行っている。また、(アーティストが著作権管理会社と契約を 結ぶことが前提となるが)配信を許可されたmuzie登録楽曲を使いたいメディアや企業等と の間に立って配信許可などの業務を代行し、配信に対する対価を企業から受け取り、アー ティストに対しては「彼らの活動を積極的に支援する」という形で配信許可に対する対価 を支払う形の、コンテンツプロバイダー業務も行っている。なお、アーティストがmuzie.co.jp へ登録・利用する際には、著作権管理会社との契約は必ずしも前提とならないので、別に 単純に登録(無料)しているだけでも構わない。 このビジネスモデルで興味深いのは、インディーズやアマチュア音楽のアーティストに 対して、単純に金銭でmuzieの利用に対する対価を支払うのではなく、「支援」をもって対価 とすると言う点である。つまり、金銭というものはアマチュアバンドにとっては必ずしも 第一目標ではない。それよりも、成功するための環境整備には人材的なコネクション、資 金面でのバックアップ等、容易に利用できないリソースが不可欠なわけで、そのような「お 金で買えない」サービスをmuzieが代行してくれるというのはアーティストにとっては実に 有難い話である。 また、その基盤がユーザによるRatingであるところが、muzieのブランドを強化する役目 を果たしている。実際、ユーザの試聴を経た格付けランキングは相当な重みを持っている。 後述するように、従来のアーティストのデビューが極めて属人的な面に依拠していたこと を考えると、ユーザによるRatingをベースにメジャーになるというのは比較的分かり易く、 ファンの支持も一過性の物ではなく、長期的にレコード以外の関連商品の購買層となる所 謂コアなファン層を形成することになる。4.3節で詳述するが、この仕組みがレコード 産業の構造変化に極めて大きな役割を果たすと期待される。

(9)

4.2 加速+1

一方、さらに草の根的な動きの例として、世界最大の匿名掲示板群である2ちゃんねる21

のDTM板(DTMはDesk Top Musicの略)から起きた「加速+1」22がある。これは、DTM板(掲

示板)の名物スレッド「*99の指定した曲を*00が作ってみるスレ」(各掲示板には、細かい トピックを扱うスレッド(糸、の意味、転じて一つの話題の継続、と言う意)が数百存在 しており、一つのスレッドで1,000の発言が収容できる。スレッドを使い切っても、人気の 高いトピックは継続して何回もスレッドが立つ(part1,2,3...)ので、「名物スレッド」と呼ばれ るようになる。)から発生したものである。 この「加速+1」という由来は、そのスレッドのルールが、*99番目の発言者が指定したお 題に沿って、そのすぐ次の投稿を行った者(*00、「∼番を『踏む』と表現される」)が曲を 自作してくる、というものであったことに由来している。つまり、*01番の投稿から*99番 までの投稿は曲の感想や、次のお題の論議等、取り止めのない匿名掲示板特有の会話が続 くが、*99に近づくにつれて、「誰が*99を、あるいは*00を踏むか」というスリリングな状 況へと突入し、スレッドの流れが加速していく。*90を過ぎると、誰もが「お題を出したい」 けれども、タイミングを誤って*00を踏むと実際に曲を作ってアップしなければならないた め、チキンレースにも似た異様な興奮がスレッドを支配する。 基本的にDTM板に書き込む人はDTMを実際にやっている人がほとんどなので、実際に踏 んだとしても、ある程度は曲作りが可能だが、全くDTMができない人が冷やかしで*00を踏 んでしまい、結局作れずにお題が放置されることも時折発生する。その場合、面白いお題 の場合は誰かが救済的に作る場合もある。名曲「ものすごい勢いであやとりをしているザ クとゲルググ」はその一例である。つまり、これはDTM板の住民にとって、曲を作り出す ネタ、あるいはある種のきっかけを生み出す装置、いわば「大喜利」のようなものであり、 誰が踏むか、誰がお題を出す「栄誉」に浴するかという、2ちゃんねる特有のスリリング さを楽しみながら、DTMを趣味とする人たちが新しい音楽を創造している場であると表現 できよう。23 このようなやり取りを経て実際に作られた曲は、先ほど紹介したmuzieの中の1コーナー 「Σ(°д°;)加速+1」24に集積されている。さらに、今年5月には、音楽系同人イベント「M3」 に於いて、これまでの名作を集めた自主制作CDを販売したところ、わずか30分で完売した という実績を残した。さらに8月には、世界最大の同人系即売会であるコミックマーケット (コミケ)にも参加した。(ただし、コミケへの参加を最後に、加速+1としての活動はいっ たん休止することとなった) このような勢いを見せてきた加速+1であるが、そもそも、加速+1の中心となって、頻繁 に曲を提供している人々の数はそれほど多くない。才能はやはり限られているのだ。しか しそれを支えるレヴュアー(潜在的制作者でもある)が多数存在しているのに加え、レヴ ュアーがフィードバック(茶々や突っ込み)を熱心に投稿することで、ある種の「批評空 間」を形成し、創作意欲やインスピレーションを制作者側に供給し、緊張感のある良質な 場を作り出している。このように創作のきっかけを与え、コミュニティを作り出す装置と しての*99と*00の関係を備えた双方向のメディア(触媒)性に、このスレッドが活況を呈 する理由がある。25 21 http://www.2ch.net 22 http://www.socion.net/speedup 23 このスレの中でも非常に面白い*99 と*00 を巡るやり取りは、「最高にワラタ!! *99-*00 傑作選」 (http://www.socion.net/speedup/master.html)にまとめられている。上記の「加速感」や「スリリングさ」など については、ここを参照のこと。 24 http://www.muzie.co.jp/cgi-bin/artist.cgi?id=a006647 http://www.muzie.co.jp/cgi-bin/artist.cgi?id=a007450 25 この構造は、匿名掲示板の制作系スレッドでは良くある事で、例えば Flash ムービーの自主制作者が集 まる板でも同様に、実はプロ級の腕前を持つ常連(コテハン:固定ハンドルネーム保持者)は少数で、そ

(10)

従来、音楽産業の構造はどちらかといえば一方的な関係であり、アーティストが作品を リリースし、ファンはそれを受けて掲示板等のコミュニティを形成するが、そのコミュニ ティはファンクラブ通信のような性格であり、両者の関係は必ずしも密接には連結してい なかった。しかし、加速+1は双方向的な特性を強く持っており、コミュニティ側からも働 きかけ(*99のお題を出す、作品を批評する)がある点が興味深い。もちろん、このスレッド に実際に書き込むのは前述のとおり、ある程度のスキルを備えた人々がほとんどという事 情もあるが、この加速+1は、音楽を作り出す環境としてのコミュニティ・モデルの可能性 を示しているとは言えないだろうか。muzieは掲示板やRatingの機能を備えているとしても、 その性格は依然としてファンクラブ的である。しかし、加速+1は、匿名(コテハンも存在 するが)であるため、より制作者と批評者の関係が近接しており、時として両者の立場が 入れ替わりながら進行していくという特徴があるのだ。 このコミュニティ・モデルが示唆するものは、ネット上での共有により創作意欲を与え、 またそれにより限られた才能を発掘し伸ばすという機能もまた、非常に高いレベルで実現 可能という点である。所詮同人レベル、という批判は可能だが、少なくとも、加速+1で形 成される批評空間は、レコード会社のA&R(Artists & Repertoire)一人の属人的な判断で左右 されるよりははるかに重層的、多面的な評価を行うことが出来る仕組みを提供している。 また、実際に加速+1のコミュニティを見てみると、共有する、さらに共有した素材の改 変によって、新たな音楽を創造する可能性を高めている点も重要なポイントである。加速 +1においては、自主制作作品のマスター音源などに関する著作権の取り扱いは極めて共有 的であり、既出の作品に敬意を表してグルーヴを引用したりすることはよく行われている。 2ちゃんねる的といえばそれまでだが、自分の作品の著作権をあまりガミガミ言う人は見 かけない。ただし、加速+1の住民は、著作権が主張されている作品からあからさまに音源 を持ってくるようなことにはかなり神経を尖らせていると言う。逆に、そういう意識もあ るので、フリーで使える2ちゃんねるのリソース群に高い関心を寄せているのであろう。26 4.3 新しいアーティスト契約モデルに向けて これまで見てきたmuzieにしても、加速+1にしても、そこで活動しているのはアマチュア バンドやリミックスDJたちであり、プロのアーティストがそこで直接(匿名で行っている 可能性はあるが)楽曲を共有しているわけではない。何故なら、彼らがレコード会社・事 務所という産業に組み込まれているために、自由に動けない現状があるからだ。 そもそも、現状の音楽産業におけるアーティストのデビューの過程を考えてみると、そ のプロセスが極めて硬直的、かつ属人的であることがわかる。基本的に現在行われている のは、前述の通りレコード会社のA&Rが毎日届く膨大な数のデモテープを試聴し(中には ちょっと聴いただけですぐ捨てられてしまう物もある)、気に入ったものをオーディション に呼んで練習生としてレッスンさせてみる、あるいはA&Rがインディーズアーティストの ライブ等に出かけて発掘するという、A&Rの才能とセンスに発掘されるアーティストの善 し悪しが左右される構造となっている。 もちろん、アーティストがオーディションに通って、見事契約を勝ち取ったとしても、 そこでデビューするか、デビューしてヒットするかどうかは、そのレコード会社の体力や マーケティングの方針、その善し悪しに掛かってきてしまうのだ。27 れを数多くの人々(同様に潜在的制作者)が取り囲んでコミュニティが形成される状況である。 26 この部分は東京都立大学大学院の鈴木謙介の示唆による。 27 これは、先程述べた「購入層の過半数を占める『流行で購入する層』に対してマーケティング重視で『売 り抜ける』戦略」としては致し方ないのかも知れない。その会社が割けるリソースには限りがあるのだ。

(11)

このように、あるアーティストがデビューして、それが人気を博すまでのプロセスが、 実力は当然としても、極めて属人的な、ある種の運試しのような性格を併せ持つというこ とが分かる。しかし、果たしてそれは本当に市場ニーズを正しく反映しているのだろうか。 実は先ほど述べた、「マーケティング重視で売り抜ける戦略」というのは、売り場として のレコード店、広報メディアとしてのテレビ、ラジオ、雑誌などの媒体、流通ルートとし てのレコード製造・卸などが一括的に音楽産業に押さえられているという現状の下で可能 な戦略なのであって、それが本当に市場ニーズに最適化されているかは定かではない。(も ちろん、市場調査などは活発に行われているし、レコードの売り上げが市場ニーズを示す 一つの指標であることは確かだが) ただ、完全に音楽産業側に主導権がある状況では、ある意味市場が「作られ」、その中で 巧みなマーケティングにより消費者がレコードを「買わされる」=「売り抜ける」という 状況にあるとも表現できるのではないか。 一方、muzieのような場を使ったり(もちろん、自分で開設したサイトで楽曲を配布した り、Winny等のP2Pソフトで配布するというやり方でもよい)してプロモーションをしてい くというやり方の場合、注目度が上がると言うことは、Rating機能を持つmuzieは特に明確 だが、それだけリスナーが実際に聴いて良い評価をしたということに直結している。 「共有」を基盤にしたネットユーザ(リスナー)の評判ベースの流通モデルというのは、 ユーザの反応を直接探れることから、マーケティング的にも意味深い物だと思われる。少 なくとも、音楽の売り方が前述のような音楽産業側の完全コントロールというやり方だけ ではないことを示した点で、muzieがもたらした影響は非常に大きいと思うのだ。 さらに加速+1と比較すると、「完全コントロール」のアドバンテージがどれほどあるかは ますます疑わしくなる。コミュニティの持つアドバンテージは、前述の通り、特にアーテ ィストの発掘・育成段階においては圧倒的な優位を持っている。 もちろん、事務所や音楽産業側の力を否定するわけではなく、特にメジャーになればな るほど彼らの仕事もしっかり残っているのだが、それでも「ゆりかごから墓場まで」的な、 完全なコントロールを追求する必要は必ずしもなく、もっと積極的にコミュニティを形成 し、利用していくような手法がむしろ得策になってくると思われる。 つまり、音楽産業やアーティスト事務所は、「共有」を忌み嫌う必要もなければ、恐れる 必要もない。適正な対価が支払われればそれでよいのであり、テクノロジ自体を潰すのは 得策ではない。MP3にしても、共有させるバージョンは64Kbpsの低音質で提供し、ファン 層をユーザ登録等で囲い込んだ上で、売る際にはDVDメディアを利用したDVDオーディオ/ プロモーションビデオといった、高付加価値をベースにした商品展開という売り方もでき る。さらに、コミュニティの形成によりファン層が拡大すれば、コンサートや関連商品、 テレビや雑誌媒体への出演等の副次的な収入も見込める。音楽という商品を金科玉条のよ うに神聖な物として扱い、一切の共有は認めないよりは、よほど市場を拡大し、結果的に 収益も向上すると思うのだが、それは甘い考えだろうか。 端的に言えば、ここで主張したいのは著作物に対して、100%の費用の回収を求めても仕 方がないのではないか、ということだ。現実にレコードの流通に於いても、各店頭では一 部のアーティストを除いて、相当程度のCDが売れ残っており、一部の売れっ子アーティス トの売り上げで全体の利益が補填されている現実(例えば、宇多田ヒカルが東芝EMIの奇跡 的な経営回復に果たした役割を見よ)を考えれば、「共有」による利益の減少よりも、実は 音楽ファンが音楽自体に興味を示さなくなってきている(ゲーム、携帯電話やインターネ ット等にシフトしている)結果、レコードの売り上げが落ちていることの方が重大問題で

(12)

はなかろうか。しかも、利益を確保するためにますます前述のマーケティング手法によっ て「売れそうな曲を売り抜ける」手法が一般化した結果、音楽産業自体の競争力、つまり 真に魅力のある楽曲を生み出す創造力、つまりアーティストの才能が磨り減ってきている のが現状ではないのか。それならば、ある程度時間が経過した楽曲については、音質のク オリティを下げるなどして安価(もしくは無償)で提供する、あるいは一定の基準を設け た上で派生的な作品の制作を認めるなどして、コミュニティを形成し、ライブやノベルテ ィ付きDVD等の着実な収益をベースに収益構造を再構成していったほうが長期的に見れば、 そのアーティストの競争力を高めることにつながると考えられないだろうか。 それなのに、ネットでの利用には全て対価が発生し(しかもその料金体系がその楽曲の 価値、あるいはリリースされてからの時間の経過などを一切考慮に入れない、通常の資本 主義の市場経済下では、ある種「異常な」価格設定である。)、また共有が許されない、と いう現状のやり方では、ネット音楽配信が盛り上がるわけがない。音楽産業には抜本的な 意識の転換が求められている。 5.コンピュータ技術側からの再アプローチ 3.節で「うまくいっていない」と述べたネット音楽配信だが、電子透かしや履歴管理 情報をファイルに埋め込み、サーバと通信することで著作権を適切に管理するシステム、 いわゆるDRM(Digital Rights Management)技術が進歩してきたことで、本格的な普及に向 けての道筋が見えてきた感がある。

この技術を導入すれば、履歴管理が簡単に出来るので、音楽産業もある程度納得する形 で、ユーザがネット音楽配信を自由に楽しめる技術的基盤ができあがることになる。マイ クロソフトがWindows XP OSに標準で添付されるWindows Media Player9で再生できる Windows Media技術でDRMを本格的に実装したのをはじめ、AppleがiTunes音楽再生ソフト ウェアでDRMを採用し、Real Networks社のRealoneサービスもDRMを組み込める仕様となっ ている等、市場への普及が進んできている。では、なぜDRM技術が音楽配信市場を活発化 させ、音楽配信の本格的な普及をもたらすのだろうか。答えは、コンテンツホルダー側の 憂慮するポイントである「不法なコピー、ネットワーク上での共有」をDRM技術がある程 度防止するため、コンテンツホルダー側がDRMを利用した音楽配信サービスに本腰を入れ てきたこと、さらに、コンピュータ業界側から各種の音楽配信サービスが低廉な価格で登 場し、ユーザ数が飛躍的に増大したことで競争的な市場が形成されるからである。 5.1 DRM を利用した音楽配信サービス:「定額・聞き放題」が解か 今年上半期は音楽配信サービスが久々に活況を呈している。言うまでもなくその火付け 役はAppleが始めた有料音楽配信サービス、iTunes Music Store28である。

これはMacintoshコンピュータに同梱されているiTunes音楽再生・CD読み込み/焼き付けソ フトウェア、及びApple製携帯用ハードディスク(HDD)内蔵MP3プレイヤーであるiPodで 再生可能なAACというDRMを組み込んだ圧縮形式(MP3よりも圧縮率が高い)のファイル を1曲あたり99セントで販売し、ユーザにiTunes上でそのファイルをCD-Rへの焼き付けを認 め、Randebouz無線ネットワーク共有技術を使って、ローカルエリア内でのファイル共有(メ インマシンとノートブックというように一回の購入に付き3度までのコピーを認めている) を可能にすると言うものだ。さらに、iPodにも購入したAACファイルはコピー可能である。 (iPod->Macというコピーは禁止されている)iTunes Music StoreのライブラリにはBMG、EMI、

28

(13)

Sony Music Entertainment、Universal、Warnerの5大音楽レーベルから、20万曲を超えるアー ティストの楽曲が提供されており、アーティスト名や曲名の一部から容易に検索が可能だ。 また、IPアドレスとパスワードで友人のプレイリストを参照し、試聴することも可能で、流 行を作りだし、ネット経由で簡単に購入させるという、マーケティング的にも興味深い機 能が加わっている。懸案のP2Pネットワーク上での大規模な違法コピーの流通対策は、AAC の履歴管理機能を用いてファイルの流出元を割り出すことで対応する。その一方で、CDへ のコピーやRandebouzを用いた共有のように個人が楽しむ範囲内での利用は、ほぼ完全にサ ポートされている。 このサービスは驚きを持って迎えられた。まずAppleが、あれほどNapster等のネット共有 を毛嫌いしてきた各レコード会社との交渉をまとめ上げ、しかも1曲99セントという価格は ダウンロード、CDコピー可能なサービスとしては破格の値段を設定してきたからだ。サー ビス発表当初は懐疑的な意見も散見されたが、蓋を開けてみれば、サービス開始後16日間 で200万曲が販売されるなど大ヒットを記録し、まさに停滞気味だった音楽配信市場に風穴 を開ける一撃となったのである。29 米国ではその衝撃を受けて、特にまだiTunesがサービスインしていないWindowsプラット フォーム上の音楽配信サービスが次々と立ち上がってきており、音楽配信市場は活況を呈 してきている。中でも、Listen.comの"Rhapsody"はかなりの人気を集めている。30 これは、インディーズレーベルからスタートした音楽ストリーミング/ネットラジオの 老舗であるListen.comが2001年に始めたサービスで、月額9.95ドルを払えば、ストリーミン グでの試聴が聞き放題で楽しめる。(ライブラリ収録曲数はiTunes Music Storeと肩を並べる 規模(33万曲以上)に達している)また、一曲99セントでCD焼付サービスも行っている。 不法コピー等の問題を生じせしめるダウンロードではなく、ストリーミングのみ、定額 で聴き放題という点に着目したのがRhapsodyが成功している理由である。 これに目を付けたのがMusicnet AOLというネット音楽配信を行っていたRealnetworksで、 2003年4月にListen.comを買収して、RhapsodyをRealoneサービスに統合したRealone Rhapsody サービスとしてこの秋からサービスを開始すると発表した。(現在、β版が配布されてい る)さらに、CD焼付サービスを一曲79セントに値下げすると発表した。これはダウンロー ド及び共有は不可能だが、iTunes Music Storeの99セントを下回る価格であり、Appleが Windows版のiTunes Music Storeを展開するまでにユーザを囲い込んでしまおうという戦略 と見られ、一種の「賭け」に出たと言える。 2003年6月のRhapsody会員によるオンデマンドのストリーミング配信は45%増加して、1 日当たり35万曲以上、月間で1,100万曲以上となったという。Rhapsodyの会員数は正確には 公表されていないが、Realoneと併せると100万人を軽く突破しており、いずれにせよ、 Windowsの音楽配信プラットフォームとしては一大勢力となることが確実視されている。31 29

iTunes Music Store については、Yublog「iTunes Music Store に関して」が参考になる:

http://netry.no-ip.com/yuichi/archives/001174.html ただし、これは米国国内、しかも Macintosh からのみ可能 なサービスで、Windows 版は年末にもサービス開始の予定である。先頃、欧州でも秋からサービス開始さ れるという話が伝わってきたところだが、日本ではレコード会社との交渉が難航しており、サービス開始 の目処は立っていない。 30 http://www.listen.com/ 31 我が国に於いても、So-net が”Wonderjuke”(http://www.wonderjuke.jp)として、Rhapsody 類似の定額聴き放 題サービスを 2003 年末より開始する予定である。

(14)

5.2 DRM を巡る論争:DRM はある種の「必要悪」か このようにDRM技術を背景に盛り上がりを見せる音楽配信であるが、DRMについては、 インターネットに不可欠な「オープンな」コード層に関してソフトウェア的な「囲い込む」 コントロールをもたらすもので好ましくない、という異論がある。例えば、先頃来日した オープンソース運動の中心人物のひとりであるBruce Perensは「ソフトウェアによる囲い込 みである」と懸念を示し、この春来日したフリーソフトウェア運動の伝説的指導者である Richard Stallmanに至っては「俺が絶対に潰してやる」と激怒していた。 また、スタンフォード大学ロースクール教授で、インターネット界の著名な論客である Lawrence Lessigも、DRMについてはコードの支配を強め、インターネットの自由を損なう 物だとして懸念を表明している。(その代わり、彼が主導するCreative Commonsライセンス32 の方がより優れているとしている。)33 確かにLessigの議論は非常に正しい。インターネットの「囲い込み」がブラウザ戦争を引 き起こしたように、今度はコンテンツとその課金・履歴管理のプラットフォームでの「囲 い込み」がDRM技術を用いて行われる可能性が非常に高いだろう。 ただし、DRMもインターネット上でのコンテンツ流通を考える上では重要な技術革新で あることも確かだ。インターネットが一般の人々にも広く浸透し、新たな価値創造やビジ ネスチャンスの可能性が広がっている中で、必ずしもDRMを否定するだけでは、ネットを 介した音楽の発展に繋がらないのではないか。つまり、現実に自由なやり方(MP3ファイル による交換とP2Pファイル交換ネットワーク)がコンテンツホルダー側に拒絶されている中 では、5.1節で触れたiTunes Music StoreやRhapsodyのようなDRMを利用した、低廉な価 格でのネット音楽配信という仕組みがとりあえず出来た方が、まだましとは言えまいか。 ここで、5.節の最初の命題に戻って、なぜ音楽配信がDRMによって活性化されるのか について、もう少し突っこんで考察してみたい。考えてみれば、現在行われているネット 音楽配信には先ほど述べたように、ある種の悪循環があるのではないだろうか。順番に列 記してみると、 (1)MP3エンコード→P2Pでの共有を防ぐため、コンテンツホルダー側は専用のファイル形 式を要求するシステムを使う。 (2)(1)の結果、ユーティリティ性が低くなる。 (3)(2)の結果、専用規格の機器が必要となるため、ユーザはよけいなコストを強いられる。 (4)消費者にとって音楽配信のコスト(価格・機会費用双方)が高すぎるので、無料の MP3+P2Pに流れる。 (以下、(1)→(2)→(3)→(4)の繰り返し…) そして、ネット音楽配信に関しては、もう一つ、さらなる悪循環が存在する。 (a)価格が高い音楽配信サイトに顧客が寄りつかない (b)(a)のため、レコード会社も本気でネット音楽配信に取り組まない (c)(b)のため利便性が低く、CDショップに行った方が便利なので、顧客が寄りつかない(以 下繰り返し) 32 Creative Commons については、本ニューズレターでも山形浩生氏が取り上げている。 http://www.creativecommons.jp/、あるいは拙稿「Creative Commons-ユーザが積極的に「共有」するためのラ イセンス」http://www.rieti.go.jp/it/column/column030521.html)を参照のこと。 33 DRM 技術については、東京大学の木村誠氏による一連の研究が非常に参考になる:「デジタル著作権管 理システム(DRMS)における技術方式・市場方式・制度方式の研究」 http://www.bekkoame.ne.jp/~kmakoto/neo_ec/neoec.html

(15)

つまり「共有」に対して極度に神経質になっていることが、本来大きなビジネスチャン スを産む音楽配信が上手くいかない最大の障壁になっていると考えられる。多様な音楽を 簡単に聴くことが出来ることから、音楽文化にも寄与すると考えられるのに、これでは逆 に音楽文化を衰退させる原因になりかねない状況だ。 一方、(大多数の)顧客のニーズは単純明快で、以下の5項目ほどに集約できるだろう。 ・安価に音楽を聴きたい ・アーティスト検索など、簡単に利用できるような形がよい。 ・「合法的に」(後ろめたくない形で)音楽配信サービスを受けたい ・自分のPC(複数)に保存したい。(複数のPCや場所で同じサービスを受けたい) ・CD-Rに音楽を焼きたい(カーオーディオ、ホームオーディオ等での利用) もしかしたら、それでもなお一部のコアなユーザは、楽曲をMP3で共有したいという欲求 を持つだろうが、大多数のユーザは、「もし、*十分に低廉な価格で」提供されるならば、 むしろ合法的に多様なライブラリから簡単に検索でき、聴き放題、あるいは安価なダウン ロード(と個人的範囲での共有)が可能というサービスを十分受け入れるだろう。 映画などの海賊版を取り締まるには、海賊版にはない特徴を備えた正規版を、海賊版よ りも2割から3割増し程度の値段で大規模に売ることが一番の特効薬だという。低廉な聴き 放題サービスが人気を集める理由もこれに似ていて、合法的なお墨付きを得られ、(定額制 等)安価で容易に利用できるサービスがあるならば、それが「タダ」でなくても、そのサ ービスは十分採算が取れることを示している。現状は、音楽配信サービスの価格設定があ まりにユーザの感覚から離れた常軌を逸したものなので、消費者が寄りついていないだけ なのだ。 上記のような顧客のニーズを満たし、さらにコンテンツホルダー側にも安心して音楽配 信に取り組む環境を提供する。それがDRM技術であり、5.1節で紹介したような、DRM を用いた履歴管理を前提とした安価なダウンロード販売と一定程度の共有の許可(iTunes Music Store)や、定額制聴き放題サービスの提供(Rhapsody)を実現させているのだ。 しかし、そのためにはある程度のDRM技術が少なくとも「標準で」コンピュータに実装 される必要が出てくる。つまり、先ほど示した一つ目の悪循環の場合で、(1)はDRMの性格 上、致し方のないこととしても、(3)と(4)の障壁は最低限乗り越える必要があると言うこと だ。しかし、MicrosoftのWindows Media技術へのDRM実装や、Realone Playerの無償配布と普 及、あるいはMacintoshへのiTunes標準搭載で、それらの障壁は乗り越えられつつある。 また、Linuxカーネルの開発者であり、開発コミュニティの中心人物であるLinus Torvalds 氏もメーリングリスト上で「DRM技術は気に入らないが、そういうニーズがあるのであれ ば搭載することを差し止めるのは良くない」という発言を行っている。34 もちろん、前述したように、すべてのコンテンツについてDRMが適用されるような事態 は好ましくない。要するにコンテンツホルダーの事情に併せて、MP3やP2Pネットワークに よる自由な「共有」という流通形態も良し、DRMの利用による履歴管理と低廉な課金体系 による流通でも良し、とネットへのコンテンツの流し方を選択できるようになっていれば よいのだ。そのどちらが良いかは場合に応じて、市場が判断することになる。つまり、DRM はユーザとコンテンツホルダー両者のニーズを調整して、音楽配信市場を普及させるため の必要悪のような存在では無かろうか。35 34 http://www.zdnet.co.jp/news/0304/26/nebt_08.html 35 ただし、CCCD のような技術を縛る方向性に発展していく場合は、断じて反対していく必要があろう。

(16)

6.まとめ 以上、本稿ではネット音楽配信を巡る様々な諸問題を概観しつつ、ネットと音楽の共存 を目指す試みとして、具体的に「共有」によるコミュニティ・モデル(muzieや加速+1)、 またDRM技術を用いた定額制・安価な音楽配信サービスの開始というコンピュータ産業側 からの解答を紹介してきた。 コミュニティ・モデルが示すように、共有というものにはリスクもつきまとうが、それ を上回る音楽文化の活性化や市場の拡大効果がある。一方、安価な定額制音楽配信サービ スの実現により、過度の不法コピー、及びP2Pネットワークへの依存は減り、合法的なネッ ト音楽配信がしっかりとした市場を形成することが期待されている。 いずれにせよ、上記二者は相互補完する種類のものであり、互いにどちらが優れている という問題ではない。そもそも現状では、この種の議論はネットにおける完全な自由なコ ンテンツ利用、あるいは音楽産業側の100%の利益確保という両極端を主張するものばかり で、デッドロック状況に陥ってしまっている。また、ネットを舞台とした音楽産業とユー ザの対立、例えばRIAAが進める個人P2Pユーザへの訴訟という強硬措置や脅迫の数々は、 デッドロック状況どころか、ユーザの音楽離れを引き起こし、長期的には音楽産業の発展 を阻害する要因になりかねない。自由放任でやらせろというのも、権利でがちがちに固め る、というのも良い解決策ではない。その中間に解決の着地点があるのではないだろうか。 また、本稿で指摘してきたように、音楽産業は決して「共有」を敵視する必要はなく、 むしろ戦略的に上手く活かして使う方が得策であると考えられる。むしろ音楽文化の発展 を考えると、自由にネット上で多様な音楽に触れる機会を作ることが重要なのであって、 そのために「共有」は不可欠なのである。 私見だが、音楽産業はネットの「共有」の威力を活かして、次に述べるような構造に転 換を図ることが出来れば、音楽文化全体にも寄与する、いわゆるwin-winの関係がネットと 音楽産業の間に築けるのではないだろうか。 基本的な考え方として、すべてのアーティストが同じようなニーズを持っているわけで はなく、それぞれの売れ方、売り方、立場によって戦略的にネットを活用できるような環 境を作ることが重要という考え方を取るのである。つまり、一つの売り方で統一するので はなく、柔軟かつ重層的な構造を持った市場を形成するというアイデアである。 例えば、アーティストがデビューした辺りの、「揺籃期」、つまりアーティストが発掘さ れ、メジャーになっていく段階ではコミュニティ重視で、ある程度共有を認めてしまうこ とでファン層を拡大する手法が適していると言えるだろう。一方で、メジャーになった段 階、つまり「成熟期」には、揺籃期に形成したコミュニティを基盤にした忠誠度の高いフ ァン層に対しての高付加価値商品の販売36、ストリーミングによる低廉な価格での音楽配信、 DVDオーディオ/ビデオの販売といった多様なソースでの音楽コンテンツの提供といった 収益構造を取るやり方が考えられるだろう。 インターネットは流通関係を中抜きするために、コストが削減でき、関係先との調整も 権利関係を除けば比較的やりやすい。また、DRM技術により、例えば古い曲はディスカウ ントして提供する等の、柔軟な価格設定が可能になるため、上記のような重層的な構造を 持ったユーザ、アーティスト双方の多様な選択を可能にするネット音楽市場というのは、 決して不可能な話ではないはずだ。 「共有」を含めて幅広い流通形態の自由を認めることで、音楽産業の基盤はより強化さ れ、収益力も長期的には安定し、音楽文化もより発展すると期待される。 36 例えば、モーニング娘。のハワイツアー等の事例はこのような高付加価値商品の可能性を示唆している。

(17)

また、音楽文化の発展を考えると、コンピュータソフトウェアにおいてリチャード・ス トールマンが主張するように、改変の自由を認めるのがベストなのだが、現実にはそうも いかないので、改変の要求に対しては、適正な対価をもって利用可能にすべきである。コ ンテンツホルダーに差し止め権を与えるというのは、法律設計上無制限な権利の濫用をも たらす可能性がある。現実に、Eldred訴訟(いわゆるミッキーマウス訴訟)に見られるよう に、ミッキーマウスの著作権の有効期限が切れるたびに毎回20年延長され続けるというあ る種異常な状況が米国では生起している。37著作権法上の報酬請求権を明確に定義し、そち らの方で競争的にやらせれば良いのだ。(ただし、私的独占を防ぐために、独占禁止法の適 用も視野に入れつつ、注意深く運用する必要があるだろう)。いずれ報酬請求権による対価 は競争により、適正なレベルに下がるのだから。(この点で、著作権やEldred訴訟は大変に 興味深い事例なのだが、ここでの主題から外れるので、紹介のみにとどめておく)。 少なくとも音楽に関してはiTunes Music Storeにしろ、Rhapsodyにしても、さすがに米国は マーケット主導でネット音楽配信がまともな方向に動きはじめ、ネットと音楽との「幸せ な関係」に一歩近づいたように見える。しかし、日本はそれらの低廉な価格でのネット音 楽配信がいっこうに進む気配を見せないばかりか、著作権は内閣官房の知的財産推進本部 の推進計画38 を見れば分かるように、むしろコンテンツホルダー寄りに強化される方向であ る。これでは、ますます我が国に於ける音楽離れが進行してしまうのではないか。 いずれにせよ、最終的にはこれらの問題は、音楽産業の構造改革の成否に依存するので あろう。既に完全匿名のP2Pファイル交換ネットワークであるWinnyが爆発的な人気を得て おり、一方でDRMが実現するような履歴管理システムも普及し、技術的にはかなりの選択 肢が取れるようになってきている。 つまり、結論を言ってしまえば、現在障害となっているのは、4.3節の最後に述べた ような、旧来の甘いビジネスモデルにいつまでもぶら下がり、新しい市場の拡大の可能性 を自ら殺してまで利益にしがみつく音楽産業の構造そのものであるのだ。ネットはより大 きな可能性を実現してくれるものであり、それほど強欲にならなければ、共有文化とも立 派に共存できるのだ。 最後に一つのたとえ話を紹介して本稿を締めくくることにしたい。現状のネット音楽の 現状と、それに対する音楽産業の態度は、以下のようなものではないだろうか。 「ある人が、ひょうたんに手を突っ込んで、中の宝石をわしづかみにしていて、手が抜け ねーよ、とわめいている。でも、つかんだ宝石をちょっと減らせば、すんなりと抜けるし、 むしろその後で、ひょうたんを逆さにすれば、宝石は自然とこぼれ落ちてくる。」 37 参考「ミッキーマウス 独占インタビュー」http://ittousai.org/mt/ 38 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/030708f.html

参照

関連したドキュメント

このように、このWの姿を捉えることを通して、「子どもが生き、自ら願いを形成し実現しよう

このような情念の側面を取り扱わないことには それなりの理由がある。しかし、リードもまた

えて リア 会を設 したのです そして、 リア で 会を開 して、そこに 者を 込 ような仕 けをしました そして 会を必 開 して、オブザーバーにも必 の けをし ます

このように雪形の名称には特徴がありますが、その形や大きさは同じ名前で

はありますが、これまでの 40 人から 35

手動のレバーを押して津波がどのようにして起きるかを観察 することができます。シミュレーターの前には、 「地図で見る日本

自然言語というのは、生得 な文法 があるということです。 生まれつき に、人 に わっている 力を って乳幼児が獲得できる言語だという え です。 語の それ自 も、 から

真竹は約 120 年ごとに一斉に花を咲かせ、枯れてしまう そうです。昭和 40 年代にこの開花があり、必要な量の竹