• 検索結果がありません。

「麻酔」とは?

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "「麻酔」とは?"

Copied!
19
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

麻酔を受けられる皆様に

―第7版―

(2)

「麻酔」と麻酔科医の役割

手術の多くは体にメスを入れるという医療行為を伴うため、痛みと大きなストレスを 伴います。痛みとストレスは手術後の回復にも大きな影響を与えることがあります。 痛みを感じなくさせ、ストレスから体を守ることが麻酔の役割です。 麻酔科医は、手術中の循環管理・呼吸管理・疼痛管理を行います。循環管理とは手術 中に血圧や脈拍、尿量などの心臓や血液の流れを整えることです。呼吸管理とは手術 中に体の中に十分な酸素を送り込むための環境を整えることです。疼痛管理とは手術 中と術後の痛みを和らげることです。 広島大学病院では手術中(あるいは検査中)の麻酔管理を麻酔・疼痛治療科(以下麻 酔科と省略します)の医師が行っています。最近の麻酔管理は、麻酔薬や医療機器の 進歩と麻酔管理技術の向上により、極めて安全なものになっています。皆様には麻酔 を十分に理解した上で、手術を受けて頂きたいと考えています。ここでは麻酔の種類、 副作用と合併症、手順について説明します。 なお、この冊子は予定手術を前提としており、緊急手術では状況が異なる場合があり ますので、ご了承ください。

1

(3)

術前診察

麻酔科では、手術前に患者さんの診察を行い、麻酔について説明します。手術の前々 日に、手術日の麻酔科責任者が麻酔科外来で診察します。手術前日には担当麻酔科医 が病室を訪問し、最終的なチェックを行います。 手術前の診察は下記の通りです。祝日が間に入ると 1 日繰り上がります。

手術予定日 術前診察予定日 月曜日の手術 木曜日の午後 火曜日の手術 金曜日の午後 水曜日の手術 月曜日の午後 木曜日の手術 火曜日の午後 金曜日の手術 水曜日の午後 <禁煙について> 手術を受けられる際には最低 1 週間の禁煙をお願いしていますが、理想的には 1 ヶ月 以上の禁煙が必要です。手術後の合併症や余病の発生を防ぐために、是非ご協力をお 願いします。

2

(4)

手術前の主な問題点と麻酔との関連性

1) アレルギー 薬や輸血製剤にアレルギー反応をおこすことがあります。 卵や大豆の成分が含まれた薬を使用していますので卵や大豆アレルギーの方は お知らせください。キウィやバナナでのどかゆくなったりゴム製品でかぶれた りする方は、ラテックスアレルギーの可能性がありますのでお知らせください。 2) 糖 尿 病 とうにょうびょう 糖尿病では隠れた全身の動脈硬化を生じていることや感染しやすいことが問題 になります。そのため、手術中や術後に予期せぬ心筋梗塞や脳梗塞などを生じ ることがあります。また、チューブや点滴の挿入部位が化膿しやすく注意が必 要です。 手術前に血糖コントロールが悪い場合は手術を延期し、糖尿病の治療を優先す ることがあります。 3) 高血圧 こうけつあつ 、心 しん 疾患 しっかん ・不整脈 ふせいみゃく など 動脈硬化のため、手術中に血圧が高くなったり低くなったりしやすい状態です。 心臓や脳などの重要な臓器の血流が低下して心筋梗塞、不整脈、脳梗塞などを 生じる危険性があります。 ペースメーカの入っている方は診察時にペースメーカ手帳をご持参ください。 心機能が悪い場合は手術を延期して、心臓の検査や治療を優先することがあり ます。 4) 喘息 ぜんそく ・呼吸器 こ き ゅ う き 疾患 しっかん など 刺激やストレスにより、麻酔中や手術後に喘息発作を生じることがあります。 吸入薬を使用中の方はご持参ください。呼吸状態によっては手術後に集中治療 室(ICU)で人工呼吸が必要になることがあります。 5) 腎 じん 疾患 しっかん ・腎 じん 不全 ふ ぜ ん など 術前の腎機能が著しく低下している場合は、手術後に一時的または永久的に透 析治療が必要になることがあります。 6)肝 かん 疾患 しっかん ・肝 かん 不全 ふ ぜ ん など 肝臓の主な働きに代謝と止血があります。肝機能が低下している場合は、麻酔 から覚めるのに時間がかかったり、出血量が多くなり輸血を必要とすることが

3

(5)

あります。止血作用が著しく低下している場合は硬膜外麻酔や脊椎麻酔は行え ないなどの制約を生じることがあります。 7)抗 こう 凝固 ぎょうこ 療 法 りょうほう (血がかたまりにくい) 心臓手術や不整脈、脳梗塞などにより血が固まりにくくするお薬を飲まれてい る方はお知らせください。手術に際して中止する場合とそのまま内服を続ける 場合があります。中止できない場合は硬膜外麻酔や脊椎麻酔は行うことができ ないなど麻酔方法に制約を生じることがあります。 8) 高齢 ご高齢の方は、たとえ普段は元気であっても、手術や麻酔のストレスが加わっ た時に反応する力が低下しています。そのため血圧が低下しやすく、心不全や 脳梗塞などを生じやすい状態にあります。 硬膜外麻酔や脊椎麻酔では脊椎が変形しているため、時間がかかったり、困難 なために中止して全身麻酔に変更することがあります。 9) 肥満 高度肥満の方は、肺炎などの呼吸器合併症を生じやすい状態にあります。手術 後はしっかり腹式呼吸をして、痰は飲み込まずに吐き出してください。 硬膜外麻酔や脊椎麻酔では硬膜外腔までの距離が長いため、時間がかかったり、 困難なために中止して全身麻酔に変更することがあります。 10) 精神疾患 抗精神薬多剤を内服されていると、血圧が低下したり不整脈を生じたりするこ とがあります。 11) 悪性高熱症の既往、家族歴 ご本人またはご家族に全身麻酔を受けた時に、高熱やショックとなった方がお られましたたら、お知らせください。あらかじめ麻酔方法の検討が必要となり ます。

4

(6)

麻酔方法の種類

全身

ぜんしん

麻酔

ま す い 全身麻酔薬を用いて意識をなくし、 痛みを感じなくする方法です。麻酔 には吸入麻酔薬(呼吸で吸う薬)と 静脈麻酔薬(静脈内への点滴)があ ります。体のあらゆる部分の手術に 用いることができます。酸素を吸い ながら、点滴から全身麻酔薬が入る と次第に意識がなくなります。その ときには自分では十分な呼吸ができ なくなるため、人工呼吸が必要とな ります。そのため、口から気管の中にチューブを入れます。麻酔中は、血圧・心拍数 などを測定して薬や輸液を調節します。術後に十分な呼吸ができるようになったら、 口に入っていたチューブを抜きます。 偶発症と合併症 1) 吐き気と嘔吐 腸の動きが鈍くなるため、術後に吐き気を生じたり吐いてしまう方がいます。 特に小児、女性、乗り物酔いを起こしやすい方に多いようです。手術後に稀で すが、全身状態の悪化した人では重篤な肺炎(誤嚥性肺炎)を生じ、集中治療 が必要になることがあります。 2) 歯の損傷、口唇の腫れ 人工呼吸のために口からチューブを入れる処置で、歯を損傷(歯が欠けたり、 折れたり、ぐらぐらしたり)することがあります(約 2%)。入れ歯や歯槽膿 漏の歯は損傷しやすくなっています。抜けた歯が気管に入ると危険なため、抜 けそうな歯は麻酔中に抜くことがあります。また、唇が切れたり、口の周りの 皮膚がテープでかぶれることがあります。 3) のどの痛み、かすれ声 麻酔終了後、気管からチューブを抜去しますが、のどは敏感なため、痛みを生 じたり、かすれ声になることがあります(30~40%)。通常、翌日には治りま すが、一部の人は長引くことがあります。 4) 寒気・発熱

5

(7)

麻酔の影響で体温の調節能力が一時的に鈍くなるため、術後に寒気やふるえ (40~60%)が出ることがあります。 5) 悪性高熱症 極めて稀に(およそ 10 万人に 1 人)麻酔薬により筋肉が硬直したり、高熱を 生じたりと危険な状態(死亡率約 15%)になる遺伝的な体質の方がいます。通 常の術前の検査ではこの体質を判定することはできません。遺伝性があると言 われていますので、御親族に麻酔で高熱を生じたりショックになった方がある 場合は必ずお申し出ください。万一、麻酔中に発症した場合は、手術を中止し 迅速に救命処置を行います。

世界初の全身麻酔

文化元年(1804 年)10 月 13 日は、華岡青州が紀州(和歌山県)で、わが国で初め て全身麻酔を行なって乳癌の手術をした日とされており、日本麻酔科学会ではこの 日を記念して「麻酔の日」とし、毎年各地で記念行事「市民公開講座」を開催して います。 華岡青州が用いた麻酔薬「通仙散」という、口から飲ませる漢方薬でした。この麻 酔薬の開発のかげで、青州の妻が麻酔薬開発の生体実験のために失明したことは小 説やドラマにもよく取り上げられるのでご存知でしょう。青州は多くの外科手術、 とりわけ乳癌手術をたくさん手がけましたが、すべての患者さんがうまく手術でき たわけではなさそうで、「通仙散」はずいぶん使い方の難しい麻酔薬だったようで す。そのため青州自身がこの麻酔法が広まることには消極的で、結局、明治時代の 初期までに事実上廃れました。青州の偉業は麻酔の草分けの仕事として特筆すべき ことですが、残念ながら現代の麻酔とは直接的つながりはありません。 現代のわが国の麻酔は、第二次世界大戦中に交流が途絶えていたために大きく後れ をとりましたが、ヨーロッパやアメリカの麻酔管理技術を習得した麻酔科専門医た ちの努力で、いわば一から再出発したのです。さらに現代の麻酔管理技術は、工業 技術の発達と緻密な生体観察技術、薬品や化学の進歩などの多方面の分野の進歩に 負うところが大きく、今や安全な手術の遂行に必要不可欠な医療技術となっている のです。

6

(8)

硬膜外

こうまくがい

麻酔

ま す い 脊髄を包む膜(硬膜)の外側(硬膜外腔)に背中から局所麻酔薬を注射する麻酔方法 です。胸部、腹部、下肢の手術に用います。特に硬膜外腔にポリエチレンの細いチュ ーブを留置すると、手術後にも継続して痛みを鎮める(術後鎮痛)でことができます。 この麻酔では手術台の上で、横向きになって、背中を消毒してからビニールのシート をかけます。細い針で痛み止めをしてから、背中に針を刺します。針を通して硬膜外 腔にポリエチレンの細いチューブを留置して、テープで固定します。チューブはやわ らかいので、留置後の姿勢には制限がありません。 なお血を固まりにくくする薬の内服・点滴をしている方、病気で血が止まりにくい方 や、針を刺す部位に感染がある方では実施できません。また、腰椎の手術をされた方 や肥満の方は難しい場合があります。 手術直後は下肢が重くて動きにくいことがあります。手術後は局所麻酔薬を少量・低 濃度のものに変更しますので、徐々に動くようになります。 偶発症と合併症 1) 硬膜外腔 こうまくがいくう の感染 かんせん 、膿瘍 のうよう 、血腫 けっしゅ 極めて稀ですが(15~22 万人に 1 人・海外データ)、硬膜外腔に出血したり、 チューブから細菌が入って感染し、それが神経を圧迫して神経麻痺を生じるこ とがあります。この場合、早急に出血や感染を除去する手術が必要になります。 手術をしても下肢の麻痺などの後遺症を残すことがあります。こうした事態を 避けるため、背中にチューブが入っているうちは入浴などしないでください。 2) 硬膜 こうまく 穿孔 せんこう 硬膜に癒着などがあると針を刺しているときに硬膜を傷つけて穴があくことが あります。穴があいた場合は約半数の方に頭痛を生じることがあります。 3) 神経損傷 稀にある期間、しびれや運動障害を残 すことがあります。 4) 硬膜外カテーテルの切断 稀にカテーテルが切れて体内に残るこ とがあります。こうした場合は局所麻 酔などをして切れたカテーテルを取り 出すことを試みます。

7

(9)

脊髄

せきずい

くも膜

まく

下麻酔

か ま す い

(脊椎

せきつい

麻酔

ま す い

一般には下半身麻酔として知られている麻酔方法です。腰から脳脊髄液中に局所麻酔 薬を注射し、一時的に下半身を麻痺させる方法で、下腹部や下肢の手術に用います。 横向きになって、消毒してからビニールのシートをかけます。細い針で痛み止めをし てから、腰に針を刺します。局所麻酔薬を注入すると直後からしびれやぬくもりを感 じ、やがて下肢が動かなくなります。そのあとで氷を体に当てて、麻酔の広がりを調 べますので、冷たいかどうか返事してください。およそ 15 分後には手術可能な状態に なります。 全身麻酔(静脈麻酔)を併用することによって、手術中に眠って頂くことも可能です。 ただし手術内容によっては眠ることができない場合があります。 この麻酔の持続時間は数時間ですが、完全に回復するまでおよそ半日かかります。こ の麻酔が効いている間は一時的に尿を出すことができませんので、尿道にチューブを 留置して尿を出します。下肢が動くようになったら、尿を出すことができるようにな りますので、尿道に入れたチューブを抜きます。 なお血を固まりにくくする薬の内服・点滴をしている方、病気で血が止まりにくい方 や、針を刺す部位に感染がある場合は実施できません。また、腰椎の手術をされた方 や肥満の方は難しい場合があります。 偶発症と合併症 1) 脊 せ 麻後 ま ご 頭痛 ず つ う 脊髄くも膜下麻酔では硬膜に針を刺しますが、手術後に脳脊髄液がこの針穴か ら漏れ、脳圧が低下して頭痛が起こることがあります。当日は座ったりせず、 安静にしておいてください。1 週間程度で治ります。若年者や女性では頭痛が おきやすいとされています。 2) 神経障害 稀にある期間しびれや運動障害が残ることがあ ります。 3) 脊髄 せきずい くも膜下血腫 まくかけっしゅ 、脊髄 せきずい くも膜 まく 下膿瘍 か の う よ う 出血や感染で感覚や運動障害を生じることがあ ります。

8

(10)

伝達

でんたつ

麻酔

ま す い

(閉鎖

へ い さ

神経

しんけい

ブロック、斜角筋間

しゃかくきんかん

ブロックなど)

主に手や足の神経の根元(神経 しんけい 叢 そう )の近くに局所麻酔薬を注射する方法です。限られ た範囲にだけ、数時間程度効いて痛みを感じなくします。 神経の近くに血管が走っているため、刺したところが出血して腫れたり、気分が悪く なったりすることがあります。またごく稀に神経障害を残すことがあります。

局 所

きょくしょ

浸 潤

しんじゅん

麻酔

ま す い

と麻酔科

ま す い か

管理

か ん り

局所浸潤麻酔は主に手術を担当する医師が、麻酔が必要な部位に直接注射して麻酔す る方法です。 一般的には麻酔科医がこの種の麻酔を行うことはありませんが、重篤な疾患を併せも っている場合や全身状態が不安定な場合、麻酔科医が管理する場合があります。この 際には循環補助薬を使用したり、必要に応じて少し全身麻酔の薬を使うことがありま す。

9

(11)

麻酔中に必要な処置(モニター・検査)

1) 静脈路確保 手術中に必要な輸液や薬剤の投与のために点滴をします。 2) 挿管 そうかん ・ 吸 引 きゅういん 全身麻酔の場合は人工呼吸のために気管内にチューブを挿入します。チューブ を抜く前には気管と口の中の唾液を吸引するため、細いチューブを入れます。 3)観血的 かんけつてき 動 脈 圧 どうみゃくあつ 測定 そくてい 血圧が不安定な場合、呼吸器疾患、長時間手術などでは、手首または足の動脈 に点滴をして、持続的に血圧が測定できるようにします。 この点滴を抜いたあとは 1 時間くらいテープで少しきつく圧迫します。 4) 中 心 ちゅうしん 静 脈 路 じょうみゃくろ 確保 手術中は薬の投与のために、手術後は高カロリーの輸液のために、主に頚部 (首)、または前胸部(鎖骨付近)、大腿部(足の付け根)に点滴をします。 通常の点滴より若干太めですが、全身麻酔後または痛み止めをしてから針をさ しますから、痛くはありません。 稀に、針を刺した所が出血して腫れたり、前胸部では気胸(肺に穴があくこ と)を生じることがあります。迅速に治療を行います。 5)経 けい 食 道 心 しょくどうしん エコー え こ ー 検査 け ん さ 心臓大血管手術、術前から重症な心疾患がある方では、全身麻酔の後に、口か ら食道にエコーの管を入れて、心臓の動きを観察します。この検査での心臓の 動きを参考にして、薬の種類や量を適切に調節します。 6)気管支ファイバー検査 肺や食道の手術において、気管に入れたチューブが適切な位置にあるかを確認 します。呼吸器疾患のある場合は、気管支を観察したり痰を吸引したりします。

10

(12)

手術当日の手順(緊急手術を除く)

1) 絶飲 ぜついん 絶 食 ぜっしょく 麻酔の最中に吐くと非常に危険なので、胃を空っぽにしておくことが大切で す。原則として午前中の手術では午前 0 時以降、食べたり飲んだりできませ ん(絶飲絶食)。午後からの手術では水かお茶を早朝までなら飲むことがで きる場合もあります。手術によってはもっと早いうちから絶飲絶食になるこ とがあります。普段服用されている薬については個別に薬の飲み方をお話し ます。 2) 手術室へ 主治医と看護師が手術室までご案内します。入り口で、手首に巻いたリスト バンドで名前と手術部位を確認します。 午後からの手術では午前中の手術の進行具合で、入室時間が早まったり遅く なったりしますが、ご了承ください。 3) モニター装着 手術室の中に入られると、手術台の上に寝て頂きます。心電図、血圧計やパ ルスオキシメータなどを装着します。また手に点滴をさせて頂きます。

11

(13)

4) 麻酔の開始 原則として、頭・顔の手術では全身麻酔のみで、胸部・腹部の手術などでは 全身麻酔と硬膜外麻酔併用で、下肢の手術では硬膜外麻酔と脊椎麻酔で行い ます。 ① 全身麻酔のみの場合 マスクから酸素が出てきます。麻酔の薬は点滴から入り、少しずつ意識がな くなります。完全に意識がなくなってから、口からチューブを入れ、人工呼 吸を行います。必要に応じて、腕や首から点滴を追加します。 ② 全身麻酔と硬膜外麻酔併用の場合 硬膜外麻酔を併用する場合は、全身麻酔の前に行います。7ページをご参照 ください。 ③ 脊椎麻酔の場合 8ページをご参照ください。手術開始前に点滴から眠る薬が入ります。手 術内容によっては眠ることができません。 ④ 硬膜外麻酔と脊椎麻酔併用の場合 初めに硬膜外麻酔を行い、次に脊椎麻酔を行います。手術開始前に点滴か ら眠る薬が入ります。 4) 麻酔中 手術中は麻酔担当医がずっと側にいて、あなたの血圧や心拍数を見ながら、 薬を調節します。 出血量が多くて血圧が低下するようなら輸血を行う場合があります。輸血に 関する同意書はあらかじめ診療科で書いていただいています。 5) 麻酔の終了 全身麻酔薬を止めると、少しずつ目が覚めてきます。十分目覚めたら口から 入れたチューブを抜きます。少し咳込みます。

12

(14)

回復室で酸素を吸入しながら様子をみて、全身状態が落ち着いたら、病室へ 帰ります。麻酔後に、寒気やふるえがくることがあります。 6) 病棟 すぐに食べたり、飲んだりはできません。吐き気や嘔吐をきたさないように 許可があるまで待ってください。 脊椎麻酔や硬膜外麻酔を行った場合、下肢がしばらく動きませんが、薬が切 れたら動くようになります。 手術内容の変更により、麻酔方法の変更を余儀なくされることも ありますので、ご了承ください。

13

(15)

小児の場合

1)絶飲絶食 食事やお菓子以外にも、母乳やミルク、牛乳、果汁の入ったジュースなどは絶 食指示のでる時間でやめてください。絶飲指示までは水、お茶、スポーツドリ ンクなどは飲んで頂いて結構です。 2)前投薬 鎮静剤を内服して頂く場合もあります。この場合、苦味がある薬なので、少量 のりんごジュースに混ぜて飲ませてください。 3)手術室へ ご家族も一緒に手術室の入り口までおいでください。 4)麻酔開始 マスクを口に当て、吸入麻酔薬を吸ってもらいます。だんだん眠くなっていき ます。眠ったのを確認した後、手または足から点滴をします。小学生以上では、 先に点滴をすることもあります。 5)麻酔終了 手術室の入り口までお迎えに来てください。 小児では、寝たり興奮したりを繰り返して覚めていきます。通常 1~2時間で 落ち着きます。腸の動きが鈍くなっていますので、手術後に吐くことがありま す。また、発熱することもありますが、多くは一時的なものです。

集中治療室(ICU)への入室

心臓血管手術、食道手術、肝臓移植術などの大きな手術、術前から心臓や腎臓など に重い疾患がある方は、手術後にICUに入室します。また、手術中の状況によっ て、予定外でもICUへの入室が必要になることもあります。その場合はできるだ け速やかにご家族に説明しますが、治療優先のため説明が事後となることがありま すのでご了承ください。 ICUでは人工呼吸を行う場合があります。人工呼吸のため、鎮静剤を持続投与し ている場合には、面会時にご家族と話すことができません。全身状態の回復具合に より、鎮静剤の中止や人工呼吸の要否を決定します。

14

(16)

術後鎮痛

手術後の痛みは手術の術式によって異なりますし、個人差もありますが、我慢する必 要はありません。しかし手術後は全く痛みがない状態にすることは困難であり、我慢 できる程度まで痛みをやわらげることを目的としています。 痛み止めの薬がかゆみを生じたり、吐き気を生じたりすることがあります。吐き気は この薬以外が原因の場合もあります。かゆみや吐き気を和らげる薬を使用することが できますので、我慢できない場合はお知らせください。その他、気になることや異常 があれば、遠慮なくお知らせください。 1)頭部の手術など 手術後には点滴や筋肉注射、座薬、内服などの痛み止めが準備されていますの で、遠慮なく主治医や看護師にお伝えください。 2)下腹部、四肢の手術 ① 簡易注入器(硬膜外 こうまくがい 麻酔 ま す い ) 硬膜外腔に留置したチューブから、持続的に局所麻酔薬が入り、手術後の痛 みを和らげます。 3)胸部または腹部の手術 ① 患者さん自身による痛み止め(硬膜外 こうまくがい 麻酔 ま す い ) 硬膜外腔に留置したチューブから、専用機器を用い、手術後の痛みの治療を 行っています。持続的に鎮痛薬が入っていますが、痛いときは自分自身でボ タンを押して追加分の薬を入れることができます。看護師を呼ばなくてもよ いので、遠慮なく痛み止めを使うことができます。 ② 患者さん自身による痛み止め(点滴) 手術や内服薬の関係で、硬膜外麻酔が実施できなかった場合は、点滴から痛 み止めを入れることがあります。この場合も持続的に鎮痛薬が入っています が、痛いときはボタンを押して追加分の薬を入れることができます。 ③ 小児の場合(点滴) 乳幼児では自分でボタンを押せませんので、代わりにご家族が押してくださ い。

15

(17)

麻酔や手術に関係する 偶 発 症

ぐうはつしょう

や合併症

各麻酔法のページに記載した合併症の他、麻酔法にかかわらず下記の偶発症や 合併症を生じることがあります。 1) アレルギー反応 薬剤に対してアレルギーを起こすことがあります。皮膚が赤くなったり、蕁麻 疹がでたり、重症では血圧低下や喘息などを生じます(アナフィラキシーショ ック)。そのような場合は原因と考えられる薬の投与を中止し、迅速に治療を 行いますが、そのときは手術が中止になることもあります。過去にアレルギー を経験した方はあらかじめお知らせください。 2) 肺血栓 はいけっせん 塞 栓 症 そくせんしょう 発生率は約 1 人/1000 人(当院データ)ですが、死亡率は約 10~30%を超える 危険性の高い病態です。長時間の飛行機搭乗で起こるエコノミークラス症候群 と同じ病態です。手術中や手術後に体を動かさないでじっとしていると、下肢 の血のめぐりが悪くなって、静脈の中に血のかたまり(血栓)ができることが あります。手術後動いた時に下肢の血栓がはずれて肺の血管につまると胸痛、 呼吸困難、血圧低下などを生じることで発症します。重症の場合には、心臓も 止まることがあります。もともと下肢に血栓(深部静脈血栓症)がある人は危 険性が高くなります。誰にでも起こる可能性はありますが、特に悪性腫瘍、高 齢、肥満、妊娠、下肢や骨盤の骨折、長期寝たきり、喫煙、下肢静脈瘤、経口 避妊薬の内服、先天的または薬剤で血液が固まりやすくなっているなどの因子 があれば危険性は高くなります。また手術部位が下腹部、骨盤、下肢、手術術 式が腹腔鏡を使用する場合、砕石位、腹臥位、側臥位、長時間手術でも危険性 が増すといわれています。 当院では、弾性ストッキングや下肢マッサージ用空気ポンプをつけることや、 血栓の発生を防止する薬剤などによってこうした病気の発生の予防に努めてい ます。 3) 術後 じゅつご のせん妄 もう 手術の後で異常な興奮や不可解な言動がみられることがあります。入院や手術 という環境の変化による精神的ストレスが原因で、一時的なものです。65 歳以 上では 5 人に 1 人の割合で生じるとされていますが、手術後しばらくすると回 復します。稀に偶発的に脳出血や脳梗塞が原因でこのような症状がみられるこ とがあります。

16

(18)

4) 病気の悪化や高齢者の場合 一般的に高血圧、狭心症・心筋梗塞、ある種の不整脈、脳卒中、糖尿病などの基 礎疾患がある方や高齢の方は、基礎疾患のない方に比べて合併症の危険性が高く なります。特に下記の合併症には注意が必要です。 脳 出 血 のうしゅっけつ ・くも膜 まく 下出血 かしゅっけつ 脳出血、くも膜下出血の既往のある方、高血圧のある方は危険性が高くな ります。 脳梗塞 のうこうそく 発生率は約 1 人/1 万人と報告されています。不整脈や脳梗塞の既往、ある いは動脈硬化、心臓・大血管手術、開頭手術では危険性が高くなります。 心筋 しんきん 梗塞 こうそく および心筋 しんきん 虚血 きょけつ 発生率は約 1 万人に 1 人と報告されています。手術中に心筋梗塞を起こす と死に至る率は約 20%とされています。急性心筋梗塞発症後 3 ヶ月以内の 手術では再梗塞の発生率は 17~35%です。 5) 心停止と死亡 麻酔中に何らかの原因で心停止を起こすことがあります。たとえ、心停止とな っても、後遺症を残さず回復する方もあります。 手術前の全身状態が悪ければ、手術中の偶発症発生率や手術中・手術後の死亡 率は増加し、緊急手術では、さらに危険性が高まるとされています。 日本麻酔科学会が国内の麻酔科専門医のいる病院を対象にした集計では、手術 中の予期しない死亡症例は 1 万人に 4.91 人で、そのうち麻酔が原因と考えられ ているものは 0.07 人(10 万人に 1 人未満)です。この数字は 1 年間に交通事 故で死亡する人の 1/1000 程度です。このように麻酔は極めて安全と言えますが、 当院ではさらに安全性が高まるように工夫と努力をしています。 文章中の数値は主に日本麻酔科学会偶発症報告 2004 年度、2005 年から抜粋しました。

17

(19)

18

お知らせとお願い

<緊急時の医療行為について> 麻酔管理中に生命に危険な偶発症が起こった場合には、患者さんの生命維持を第一目 標として最善の医療処置を行います。緊急を要するときには、ご家族のご了承を得る 時間的な余裕がありませんので、あらかじめ説明をせずに下記のような医療処置を麻 酔科医の判断で行うことがあります。当然、執刀医とも十分に相談しながら迅速に医 療行為を行い、できるだけ早くご家族の方に説明致しますので、ご了承頂きますよう にお願い致します。 気管 き か ん 切 開 術 せっかいじゅつ およびそれに準ずる処置、閉胸式あるいは開胸式心臓マッサージ、 除細動 じょさいどう 装置 そ う ち の使用、交差 こ う さ 適合 てきごう 試験 し け ん を行わない輸血、その他の救命に必要な処置などが この場合必要になります。 <教育・研究について> 広島大学病院では、医学生、研修医、看護学生への教育、あるいは医師の研究活動を 積極的に行っています。次世代の医療を担う人材育成や医学の進歩のために大変重要 な役割なので、皆様のご理解とご協力をお願いしております。一般的な手順の中で行 われる麻酔などの医療行為について、見学や資料の閲覧、診療記録の利用などをする ことがあります。もし患者さんに負担がかかると予想される場合は、事前に説明して 了承を得ています。個人情報は細心の注意をもって取り扱い、個人が特定されるよう な情報は公表致しません。広島大学病院では適切な研究が遂行されるよう倫理委員会 によって監視されています。ご理解とご協力をお願いします。 < 救 急 きゅうきゅう 救命士 きゅうめいし の実習について> 厚生労働省の指導のもと、当院では救急救命士の実習をおこなっています。地域社会 への貢献も重要な役割のひとつと認識しております。実習内容は気管挿管実習と薬剤 投与のための点滴実習です。個別に説明とお願いを致しますので、ご理解とご協力を お願いします。 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 広島大学病院 麻酔・疼痛治療科 ☎ (082) 257-5471 麻酔を受けられる人のために 第 7 版 2008 年 10 月 発行 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

参照

関連したドキュメント

A そうですね.深⽳加⼯⽤超硬ド リルも最近⼒を⼊れています.当社は

このうち糸球体上皮細胞は高度に分化した終末 分化細胞であり,糸球体基底膜を外側から覆い かぶさるように存在する.

それ以外に花崗岩、これは火山系の岩石ですの で硬い石です。アラバスタは、石屋さんで通称

単変量解析の結果,組織型が境界域ではあった

関ルイ子 (金沢大学医学部 6 年生) この皮疹 と持続する発熱ということから,私の頭には感

自己防禦の立場に追いこまれている。死はもう自己の内的問題ではなく外から

Electron micrograph of the middle cerebral artery, show ing dissolution of perinuclear myofilaments M in the degenerating smooth-muscle cell... Electron micrograph of the

J CerebBloodFlow Metab 2: 321-335, 1982 Lewis HP, McLaurin RL: Regional cerebral blood flow in in creased intracranial pressure produced by increased cerebrospinal fluid