国語分科会(H26.11.21) 資 料 2
漢字小委員会の審議状況について(経過報告)
(「手書き文字の字形」と「印刷文字の字形」に関する指針の作成について )
今期の漢字小委員会では,常用漢字表に関する手当てとして,「手書き文字の字形」と「印刷文字の 字形」に関する指針の作成について検討している。 これは,第12期の国語分科会が取りまとめた「国語分科会で今後取り組むべき課題について(報 告)」で挙げられた「2 常用漢字表の手当てについて」のうち,前期に取り上げた「(1)「異字同 訓」の漢字の用法の見直しについて」に続いて取り組むものである。以下,上記報告から引用する。 (3)「手書き文字の字形」と「印刷文字の字形」に関する指針の作成について 社会生活の中では,「手書き文字の字形」と「印刷文字の字形」の,字形上の違い(例えば 「鈴」のつくりの「令」の字形が「令」となるか,「令」となるか)が時に問題となる。 改定後の常用漢字表の「(付)字体についての解説」にある「明朝体と筆写の楷書との関係みん について」では,既に,特に字形上の注意が必要であると判断される一定の常用漢字を例と して,その考え方を示している。しかし,より分かりやすい解説や,取り上げる漢字の範囲 の拡大について工夫の余地がある。 このため,「手書き文字の字形」と「印刷文字の字形」に関する指針の作成について,今後 具体的に検討していく必要がある。その際,学校教育への影響,特に学校教育における漢字 指導との関係について十分配慮する必要がある。 上記を踏まえ,漢字小委員会では,常用漢字表の「(付)字体についての解説」,特にそのうちの「明 朝体と筆写の楷書との関係について」の内容を,より分かりやすく解説する指針の作成を目指し,検 討を進めている。これまでに,委員及び有識者から,学校教育における漢字指導についてのヒアリン グ,戸籍業務などの窓口業務で生じている字体・字形に関する問題についてのヒアリングを行い,そ の上で,どのような指針を作成すべきかについて議論してきた。さらに,11月に漢字打合せ会を設 置し,具体的な内容に関しての検討を開始したところである。なお,漢字小委員会では,今期と共に 来期においても引き続きこの課題に取り組むことを予定しており,平成28年2月の取りまとめを目 指している。 以下は,これまでの主な検討内容をまとめたものである。 以下,○は第9回(6月20日),◇は第10回(7月25日・教育における漢字指導に関するヒアリング),●は第11回(9月 12日・窓口業務における字体・字形の問題に関するヒアリング),◎は第12回(10月10日)で出された意見(ヒアリング(質 疑を含む。)の内容を除く。) 1.指針の全体に関わること ○ 手書き文字というのは,読めればいいし,誤っていなければいいものである。こういうことをわ さわざ議論する必要があるのか疑問である。○ 手書き文字のことを検討するというと,幅広く認めるということにしかならないのではないか。 ○ 現行の「(付)字体についての解説」の「第1 明朝体のデザインについて」に示されていること は,「第2 明朝体と筆写の楷書との関係について」に比べて小さな問題である。第1と第2の順序 を入れ替えるべきではないか。 ○ 明朝体と手書き文字とは,それぞれ別個のものとして発展してきたという歴史をまず前書きか何 かに示し,その上で今後どのようにあるべきかということを議論していく必要がある。 ○ 明朝体は見るための文字として,手書き文字とは違う発展をしてきている。そのことが世の中に 理解されていないという現実がある。こと細かなデザインの違いを気にするような現象は戦後にな って生じた。文字というのは,もう少しリラックスして使えるもののはずである。 ○ 漢字の細かなデザイン差などを気にしなくていいということに気付いてもらうには,指針の示し 方とともに公表の仕方に工夫が必要である。 ○ 人間は,書かれたもの,印刷されたものを有り難がる気持ちがある。印刷されたものを基にまね して書こうとするのは,字形に関わること以前の問題。抽象的な字体がどのように統一されている のかというところから突っ込んでいかないと,らちが明かないのではないか。 ◇ 「これはどちらでもいい」という大らかな指針であってほしい。指針が余り厳格になると,かえ って漢字教育や漢字を基にした日本語の豊かさを発展させていくことを阻害するものになってしま う心配がある。こだわる人はこだわってもかまわないが,一般的にはどちらでもいい,どちらでも 許されるということが基本となってほしいと強く感じる。 ◇ 字の形については,丁寧か/丁寧でないか,美しいか/美しくないか,正しいか/間違っている かといった様々な観点がある。文字に対する価値付けの観点ということについて,今後整理してい く必要があるのではないか。 1.1 前書きについて ◎ 漢字の字形については,国語施策が知られていないことによる混乱とでも言うべき状況がある。 既にもう国語施策として示されているにもかかわらず,それが社会の中で十分に知られていないと いうところに問題の基がある。もっと緩やかに捉えていいのだという基本的な考え方を前書きの中 できちんと示すことが必要である。 ◎ 前書きでは,今回,常用漢字表の手当ての順序として,なぜ字体・字形のことを取り上げたのか ということを明確に言っておく必要がある。改定常用漢字表が答申された段階では,「手書きは文化 である」という一般的な表現にとどまっていたが,情報機器の使用において,文字と画像,映像な どの境界が曖昧になっている状況を見ると,ただ「文化」として放っておけないように感じる。国 語分科会では,文字とは何か,字体,書体とは何かといったことを整理して発信していくべき。 ◎ 前書きでは,まず冒頭で,手書き文字と活字の関係についての問題点を提起し,次に,現在の「(付) 字体についての解説」では埋没してしまっている「字体,書体,字形」といった概念について,も
う一度きちんと示し,全体をもっとはっきりと目立つようなものにすべき。前書きにどのような考 え方を示していくのかと,前書きの後にどのように具体例を示していくのかとは,連動させて考え る必要がある。見えるような形で指針を普及していくことが,我々の使命の一つではないかと思う。 1.2 具体的な例示の方法について ◎ 基本的な考え方を示した上で,例示をどう作るのか,許容といったときの許容の範囲をどこで線 引きするのかというところが問題である。実際に作業を始めたときに,どういう観点から線引きが できるのか。それができるならば,一般の方に使えるものができるのではないか。逆にそこまで行 かないと,今回やる作業の意味合いが余り見えてこないという感じを持っている。 ◎ 例えば,明朝体と教科書体とを並べて示すというようなことをすると,教科書体を示すのは教育 の現場の話に踏み込み過ぎであるというようなことが言われるかもしれない。しかし,実際に使う 側からしたら,教科書体も並べておかないと不親切であろう。学校教育にまでは踏み込まないとい う話が出ているが,本当に使う側からすると,逆にそこが求められているところである。求められ ていることにどう答えていくのかという問題もあると思われる。 ◎ 前書きの後に示すべき具体的な内容としては,「国語に関する世論調査」で取り上げた漢字をデー タに基づきながら例示したり,教育と窓口業務に関するヒアリングで話題になった問題などについ ても典型例として示したりするといった形で進める。例示する字を選んだ理由については,前書き に書き込んでおき,前書きと具体的内容の部分とが連動するようにすべき。 ◎ 例えば,常用漢字 2,136 文字全部に対して考えられる字形を一つ一つ示して,常用漢字表の考え 方では,ここまでが一つの字体として解釈できるということを現実にある例を埋め込んで示してい くという方法がある。その必要のない字があるかもしれないし,いろいろな要素が複合した漢字に なると組合せが爆発的に多くなるなど,様々なケースが想定される。与えられた時間の中でどこま でが可能かということを考えていく必要がある。作業をしてみないと分からないところでもあろう。 ◎ 手書き文字の字形が二つ,違う形で並んでいると,活字体に近い形の方が正しいといった考え方 をする人がいるかもしれない。どちらを使ってもいいということ,どちらが望ましいという判断を 示すものではないということを,どこかではっきり言っておいた方がいい。 ◎ 「(付)字体についての解説」には,手書き字形の「女」や「令」のバリエーションが並べて示さ れているが,上位下位を示すものではなく,「同値」であることを示したもの。国語施策や学校の現 場で「許容」という言葉が使われることがあるが,常用漢字表の考え方は,どちらかが標準でどち らかが許容の字形であるということではない。(常用漢字表には「許容字体」といった用語があるが, 別の意味である。)常用漢字表は手書き字形の標準のようなものを示してはいない。 ◎ 「(付)字体についての解説」の「明朝体と筆写の楷書の関係について」にある「表現の差」とい う言い方は分かりづらい。「表現」というのは,普通,価値を伴うものであり,良い表現と悪い表現 とがあるというように考える人もいるのではないか。価値付けをしているものではないということ を理解してもらえるように,同じだとはっきり書くような手立てが必要である。 ◎ 「表現」というのではなく,単に見え方と言うか,可視化したときの問題として扱うべきである。 「表現」では,いろいろな受け取り方をされるかもしれない。
◎ 並んで示されていると,どうしても最初に掲げられた方を優先して考える人が多い。例えば,「令」 を見ると,最初に活字体が出ていて,その後に活字体に近い筆記体,次に「マ」の形が並んでいる ので,先に出てくる活字体に近い筆記体の方がいいと思ってしまうのが自然なのではないか。 ◎ 当用漢字表の時代に,教育漢字 881 字についての「筆順指導の手びき」というものが文部省から 出され,学校現場で用いられた。例えばこのようなものを,指導者だけではなく一般の人々に届け られるように,字体・字形に関して取りまとめていくという視点が必要なのではないか。 2.字体・書体・字形の整理について ○ 「字体」「書体」「字形」という概念が混乱している。この話題に取り組むのであれば,こうした ことの整理にまで目を配るべきであろう。 ◇ 「字体」「書体」「字形」ついて,もう一度整理し直す必要を感じる。 ◇ 「字体」と「字形」と「書体」というのはなかなか難しい概念である。甲骨文字から発生した文 字は,手書きが最初で,後に活字が出てきたもの。楷書の時代にもいろいろな楷書の字形があった のだが,それが一つだけであるという考え方が広がっていることが問題点であろう。ただ,字体に ついて可視的に説明するときに,たくさん並べてどれでもいいですよと言うのは,かえって難しい とも思われる。 ◇ 「女」という字は,3画目の上に2画目が突き出ても突き出なくても,常用漢字表の考え方では, 字体は同じであり字形が異なるだけという「デザインの違い」として捉えられる。しかし,「工」と 「土」では,上が突き出るか否かで別の字になり,骨組みが違う,字体が違う,ということになる。 字ごとに字体というものを考える必要がある。 ◎ 例えば,「吉」という字は「士」+「口」と書くが,名字などでは「土」+「口」という書き方も ある。この両者の関係については,常用漢字表に例示されていない。こういうものを含めて考える のか,それとも含めないのか,どこまで言及するかが,難しいところである。 ◎ 「吉」については,常用漢字表をよく読むとデザイン差として解釈できるという見方もあれば, 例示されていないのだから「土」と「士」の関係と同様に考えるべきだという解釈もある。世の中 では,実際に混乱しており,国語分科会で考え方を示すことが求められているところもある。 ◎ 「吉」に関して言えば,常用漢字表で,仮に上の横棒が短いものを手書きの字形で示したとして も,飽くまで下が短い方が活字としての標準ということになる。しかし,手書きの場合にはどちら でもいいという示し方になる。戸籍の現場ではどちらも受け入れるが,学校教育の指導となると難 しく,示し方に問題が出てくると思われる。 ◎ 基本的に活字体というのは毛筆体を基にしており,活字体相互の違いというのは毛筆の使い方を そのまま反映している。活字体は毛筆の形をそのまま再現できるが,手書きは鉛筆,ボールペン等 を使うことが多く,毛筆だったら出せる特徴を表現しにくい。払う,はねるというのは,ボールペ ンでは非常に難しい操作であり,毛筆に要求していることを筆写体の方にも要求しているのだとし
たら,もう一回考え直してみる必要があるという気がする。 ◎ 「(付)字体についての解説」において「その他」に分類されているものには,歴史的な経緯など がいろいろある。筆の時代の運筆の自然さから生まれたもの,字の成り立ちを考慮したもの,他の 文字との混淆によるものなど,個別にいろいろな因子がある。この類いはほかにもあると思われ, こう 2桁になるかもしれない。個別に説明するかどうかなども含めて検討すべき。 ◎ 「その他」に取り上げられているものは,一つ一つの文字の歴史が背景にあるため,判断が難し いというのと,運筆上の問題も含めて,なかなか分類しづらいために,ここに収められているので あろう。「外」という字には幾つかの要素が複合して入っていると理解できる。 ◎ 「天」という字では,下を短く書くことが多いが,別に下が長くてもよい。同様に,歴代の書写 体,筆写体と呼ばれるもののバリエーションはたくさんあり,常用漢字表が通用字体の範囲として きたものは,少し狭いように読み取れるのが現状である。線引きをするときの基準をどのように立 てていくかというのは,実際,作業しながら見極めていく必要がある。また,そういったことにつ いての専門家の意見も伺いたいと思う。 3.指針が対象とすべき範囲について ◇ 小中学校で学ぶ漢字と,よりグローバルに対外的に認識される漢字というのは少し違う。ここで 検討する漢字というものをもう少し絞り込んで考えていく必要があるのではないか。 ◇ 大学生,一般の社会人は,手書きで漢字を書く必要はほとんどないのではないか。そう考えると, 手書きの問題は,学校教育の問題として捉えられる。一般の社会人が漢字を手書きしなければいけ ない場合をはっきりさせて,その範囲内で必要なことをまとめておくのが妥当であろう。 ◇ 習得段階のこと,つまり,学校教育での漢字指導について,文化審議会国語分科会で検討するの はちょっと変である。これは,文部科学省の問題であろう。義務教育が終わって一定程度の時間が たった人たちの問題を対象として考えていくべきではないか。 ◇ この問題は人名用漢字にまで広がっていく可能性を持っている。検討しているのは「常用漢字表 の手当て」ということであるから,常用漢字表内で収められるような検討の仕方をすべきである。 ● 常用漢字表の「(付)字体についての解説」は人名の表記のために作られたものではないが,窓口 業務等で起きている問題を解決する際の根拠としては役立っているという面がある。 ● 常用漢字表は,固有名詞は対象としていない。この議論の最初に「鈴」の字をどうするかという ことがあったが,これは固有名詞に関して取り上げられたものであり,常用漢字表の手当てとして 取り組むに当たっては,何か理屈を付けておく必要があると感じた。 ◎ 常用漢字表は「目安」である。今回の報告についても,前書き等で常用漢字表における字体・字 形に関する目安として示した上で,それを汎用的に考えてもらうようにすべき。人名用漢字や表外 字については,その目安から推測してもらうようにし,そのような推測ができるように目安をきち んと作ることで対応するのが現実的である。
◎ 積極的に表外漢字や人名用漢字を対象にするというのではなく,常用漢字表内の指針としながら も,その理屈が表外漢字や人名用漢字にもある程度応用できるような余地を示しておくべき。固有 名詞は常用漢字表の対象外ではないか,といった批判を受けないよう,その辺りの理屈付けをしっ かりと慎重に検討する必要がある。 ◎ 「常用漢字表の手当て」として取り組んでいる以上,取りまとめるものについては,常用漢字表 内を対象とすると厳格にしておいた方がよい。また,時間的な制約を考えても,対象は表内にとど めるべき。 ◎ 常用漢字表の範囲内である程度の目安ができたときに,その目安を表外漢字や人名用漢字に応用 し準用できるようにするのかどうかが問題。この議論の発端は「鈴木」の「鈴」であったが,飽く まで常用漢字表内に限った手当てまでということにすると,固有名詞の字体に関しての指針になら ず,鈴木という固有名詞の「鈴」をどう書くかというところまで言及できないことになってしまう。 ◎ 「令」は「鈴」の一部であり,これら二つは常用漢字であるが,人名には「令」を使う「玲子」 のような用例がたくさんある。そういったものにも波及させた方がいいのではないか。 ◎ 改定常用漢字表(答申)の「Ⅰ 基本的な考え方」では,固有名詞の問題も扱われている。「1 情 報化社会の進展と漢字政策の在り方」の「(5)名付けに用いる漢字」には,国語分科会の姿勢が明 記されているが,字体については一切触れられておらず,手当てに値するところであると考える。 4.平成22年の常用漢字表改定との関係について ○ 「韓」「茨」など,平成22年の改定で新たに常用漢字表に入った字が,字体・字形に関して何か 新しい問題を生じていないかどうかに注意しつつ,「第2 明朝体と筆写の楷書との関係について」 の方にまとめていくと分かりやすいのではないか。 ◇ 平成22年の常用漢字表の改定によって,表外字から常用漢字になった漢字の字体・字形につい ての手当てには,特に配慮すべき。 ◇ 学生に「飢饉」という字を書かせると,「饉」だけでなく,「飢」のしょくへんにも康熙字典体のき ,「飢餓」という字を書かせると,両方とも常用漢字表の通用字体の形のしょく へん(飠)で書くのが普通なのに,康熙字典体の形を使うといった混淆が生じている。 5.「漢字を手書きすることの重要性」(改定常用漢字表「基本的な考え方」)との関係について ○ 2,136字全ての常用漢字を手書きするという前提で指針を作成するというのには疑問を覚える。 ◇ 日本人である以上,漢字を使っていく上で,手書きすること抜きでは考えられない。 ◇ 字形の問題について意識を高めることは,今後,漢字仮名交じりの日本語表記を続けていく上で 絶対に必要なことである。「改定常用漢字表」の「基本的な考え方」には「情報機器が普及すればす
るほど,手書きの価値を改めて認識していくことが大切である。」と書き込んである。字形・字体に ついて何らかの指針を示す上で,この「改定常用漢字表」の考え方を生かす観点が必要である。 ◇ 手書きの部分というのは昔よりもはるかに少なくなっているが,まだ現実に手書きが必要な場面 は世の中に幾らでもある。 ◇ 美しく文字を手書きするということに熟年層が興味を持っている。手書きで書くということにつ いても,興味の持ち方が様々になってきているという気がする。 6.活字同士の関係について ○ 「改定常用漢字表」の「基本的な考え方」には「書体の違いを字形の相違と言うことも可能であ るし,同一字体・同一書体であっても生じ得るような微細な違いを字形の相違と言うことも可能で ある。」といった,かなり入り組んだ説明がある。「(付)字体についての解説」では,「第1 明朝 体のデザインについて」と,「第2 明朝体と筆写の楷書との関係について」と分けて説明してある。 一番きれいに整理できる分け方ではあるが,実際にこの解説を使う立場にいる人たち,「令」はどっ ちで書くのだろうと悩む人たちにとっては,この第1と第2が分かれていることが,混乱の源にな っているのではないか。 ○ 議論されていることは,本当に活字と手書きの間の問題なのかという疑問を感じる。最初に小学 校で刷り込まれる「教科書体」を正しいと思っているために,それと乖離している明朝体の字形に かい 対して「気になる」と反応するのではないか。 ◇ 教科書体のように,活字と手書きの間をつなぐような手書き風の活字書体というのも現実に現れ てきて,明朝体さえも中学校の教科書には独自の字形が見られるようになっている。こうしたこと を考えると,活字と手書き文字とにきれいに分けて考えるだけではなく,その中間もと言うか,総 合的に考える必要があるのではないか。 ● 手書きと明朝体の問題だけではなく,明朝体同士の相違の問題もあるのではないか。 ● 世の中の文書は,書籍・雑誌・新聞も含め,四つから五つくらいの印刷書体でほぼカバーできる のではないか。書体によって見栄えの違う字がある。それらを常用漢字表の通用字体と共に並べて, これは同じ字であるということを示すだけでも,一つの指針になるのではないか。 7.学校教育における漢字指導との関係について ○ 「(付)字体についての解説」の手直しは必要だが,学校教育のこと,書道のことは取り扱わなく てよいのではないか。最小限の手直しでいい。 ○ 学校教育において,当初は教科書体を標準として学習していても,だんだん大人になっていくと, 世の中にはいろいろな印刷字体があることに気付き,区別していくようになるのではないか。 ○ せっかく常用漢字表の中に「(付)字体についての解説」があり,ネット上から閲覧できるように
なっているのに,その存在に気付かないまま学校教育が進んでいるというのが問題である。 ◇ 「学校教育への影響,特に学校教育における漢字指導との関係について十分配慮する必要がある。」 という「国語分科会で今後取り組むべき課題について(報告)」の記述を重視すべき。 ◇ 大学生に尋ねると,例えば「女」という字の2画目と3画目については,突き出さなくてはいけ ないと習った人と,突き出してはいけないと習った人と両方いて,指導を受けた教員によって違っ ている場合がある。教科書の中でも,教科書体の字形に揺れがある。指導する教員がたまたま目に した教科書の活字が基準になってしまうというのであれば危険である。 ◇ 速く書こうと思って勢いが付いてはねてしまったり,点の位置がちょっと違ったりといった,許 容の範囲内であるから説明が付くという場合であれば,評価するときに認めていくような柔軟さは 必要かとも思うが,学校教育の中では,ある程度きちんと基準を持っていないと,教員も混乱する のではないか。 ◇ 教員養成系の大学,特に国語科の教員を養成する大学では,きちんと常用漢字表の字体について の考え方を押さえておく必要がある。 ◇ 教科書を改めて見ていくと,手書き文字と活字の字形の問題について,ちゃんと扱われているこ とが分かる。教員が漢字について深く意識していれば,キャッチできる問題であると感じる。 ◇ 小学校,中学校段階での漢字指導,漢字教育によって,日本人の字体意識,字形観というものが 出来上がっていくと考えられる。それが,一般の社会生活における窓口業務などでの,固定的でや や硬直したような字体・字形に関する考え方などに表れているのではないか。多くの字については, 固有名詞の問題と学校教育とがつながっているように感じられる。 ◎ 手書き文字の字形に揺れがあるようなものは,その扱いが,学校教育の中でも揺れているという 現状がある。そういった揺れについて,国語分科会がどちらかを採用するようなことになると,教 育の分野に踏み込み過ぎになるとも考えられ,その辺りをどのように扱うべきか気になっている。 ◎ 常用漢字表は,世の中の人々がふだんの文字生活の中で使う目安となるものの考え方を示してい るもので,それが学校教育で利用されるかどうかは,また別に判断されるべきもの。少なくとも, 現場の先生が常用漢字表で認めている手書き字形のどちらかを不正解にするというような場合には, 常用漢字表とは違う考え方で採点をしたと誰もが言えるような状況になっていくと理解している。 8.入試等との関係について ◇ 現場の先生方は,高校や大学の入試でどのような採点がなされているかを意識して,現状のよう な細かな指導をせざるを得ないところがあるのではないか。入試の問題というのは軽視できない。 ◇ 採点者によって正否の判断が揺れるような状況下で入試が行われ,1点差で合格,不合格という ようなことが現実に起こっているのだとすれば大きな問題である。 ◇ 入試などで,採点する人の標準によって漢字の「とめ」「はね」といった部分で正否が判断され,
そのために受験者の人生が変わってしまうというのは良くない。 ◇ 大学の入試においては,採点者が高校までの手書きを含めた漢字の習得の実態を十分に知らない で採点しているところがある。大学の入試問題に漢字の書き取りを課すことに疑問を覚える。 9.窓口業務との関係について ○ 手書き文字と活字の字形の問題に関わるような事例が多いようであれば,考え直さなければなら ないし,特殊なケースであるのなら,窓口の人たちを教育すれば済む話ではないか。 ○ どの字であるのかがはっきりすれば,どちらでもいいのだ,どれでもいいのだということを,窓 口担当者の方に徹底して教育するだけで済むのではないか。 ○ 窓口に勤務する人は,個々のいろいろな漢字について判断し対応しなければならないが,常用漢 字表の「(付)字体についての解説」の部分は,余り知られていない状況にある。うまく説明するた めにも,もう少しはっきりと書かれた手引のようなものが何かないかといった話をよく聞く。 ● 戸籍における「俗字」というものに入っている字形については,既に使い分けが行われていると いうことであるから,常用漢字表の方で手当てする必要はない。 ● ヒアリングによって,いろいろな傾向性を読み取ることはできたが,各市町村等を対象に字体・ 字形に関して起きている問題についての抽出調査を行えば,より多くの事例を収集することができ るのではないか。 ● 窓口で問題になる全ての字について例示することは無理である。代わりに,二つの方法が考えら れる。現在の「(付)字体についての解説」を拡充するような形で,公式マニュアルのようなものを 作るか,一般に対する啓蒙活動をするか。どちらもやった方がいいかもしれないが,扱う領域が違 うとも考えられる。 ● 戸籍の業務においては,「てへん」の「はね」があるかないかは,デザインの差として処理され, 字体の違いとしては捉えられていないとのことであったが,常用漢字表では,てへんの「はね」の 有無については例示がなく,現状では判断が難しい。同様に,「羽」「天」「幸」など,常用漢字表 の「(付)字体についての解説」の考え方がはっきりと読み取れないものがある。 ● 戸籍業務においては,法務省の所管する「戸籍統一文字」というものが用いられている。これは, 5万を超える漢字集合で,常用漢字表で同一の字体として捉えられているものが,別々に含まれて いるような場合もあり,指針を作成する際には注意が必要なところである。 ● 住民票については,自治体ごとに外字を作成してきており,自治体によっては,非常に細かい字 形差にまで注意して使い分けているような場合がある。それらの外字が「住民基本台帳ネットワー ク統一文字」というものに採用されている。漢字集合としては,戸籍統一文字よりも小さいが,住 民基本台帳ネットワーク統一文字の方が,字体・字形の細かいところに目を付けているところがあ る。