• 検索結果がありません。

スキー競技における膝前十字靭帯再建術後からの復帰

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "スキー競技における膝前十字靭帯再建術後からの復帰"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

理学療法学 第 40 巻第 8 号 624 スキー競技における膝前十字靭帯損傷の発生状況  スキーは,用具を装着して行う屋外スポーツであるため,気温 や風,斜面,雪質等,環境や用具の影響を受けやすい。用具の発 展とともに,スキー競技では傷害発生数自体は減少傾向にある 一方,膝前十字靭帯(以下,ACL)損傷の急激な増加が問題視 されている1)。特にスキーとブーツを固定するビンディング(締 具)が適切に解放せず,足部が固定されることで膝への回旋ス トレスが加わりやすいことも ACL 損傷が好発する原因といわれ ている2)。また,スキー競技では対側を含む ACL 再建術後の再 発損傷が 39%と非常に高い3)。そのような背景から,国際スキー 連盟が大規模な傷害発生調査に取り組みはじめた4)5)。その結果, スキー競技による ACL 損傷は,体幹後傾位,膝関節外反,内旋・ 外旋が受傷好発肢位として報告された4‒6)。したがって再発予防 のためには,これらの肢位への回避策を指導していくことが大切 と考えられる。実際,北米の 20 スキー場に勤務する上級スキー ヤー(インストラクー,パトロール員)に対し,スキー滑走中受 傷した ACL 損傷時のビデオとともに前述の好発肢位と,それら に対する予防のポイント,①両腕を前に(体幹前傾保持),②両 スキーを揃えて滑る(両脚への均等荷重),③両手をスキーのう えに(膝関節の回旋予防)について紹介した研究結果によると, 2 年後 ACL 損傷発生率が 62%まで減少していた6)。そこでスポー ツ復帰後の再発予防には,このような受傷肢位への対策をリハビ リテーションへ取り入れていくことが重要だと考えられる。 競技特性を取り入れたリハビリテーションの実際  ACL 再建術から競技復帰までは,合併症や再腱術の術式, リハビリテーション,復帰する競技種目やレベル等によっても 異なるが,術後約 9 ヵ月∼1年を要する。したがってこの長期 にわたるリハビリテーションにおいては,保護期,強化期,復 帰期と分け,それぞれの到達目標に向け取り組むことが薦めら れる。そして早期より競技特性等をプログラムに取り入れ,強 化目的とともに競技への復帰に対する動機づけを促すことも必 要である。また,再発予防のためには,受傷機転の理解や,予 防のポイントとして体幹前傾,膝関節の外反,回旋肢位の回避 を意識させるとともに,体幹から股関節を中心とした筋力強化 が重要となる。   術 直 後 の 保 護 期 で は, 患 部 の 保 護 と 関 節 可 動 域( 以 下, ROM)改善,筋力強化,患部外の強化が中心となる。この時 期から,再発予防に向けたスクワットやスキーの高速滑走時の 姿勢(クローチング)で,膝や足の方向等動作の修正や両脚へ の均等荷重を意識させる(図 1)。特にスキー競技では,大腿 四頭筋を中心とした下肢筋筋力やパワーが必要なため7)8),コ ンディショニングの低下予防を目的とした患部外筋力や心肺機 能の強化は重要である。  強化期には,筋力や体力要素の強化,神経筋トレーニングな どを積極的に実施する。パワーの強化も大切で8),ジャンプや ステップ運動を行わせ,着地時の体幹前傾姿勢や,膝の内外反, 回旋に対する動作の修正を行う。  復帰期には雪上での練習に向け,持久力や敏捷性等体力要素 の獲得も大切である。特にこれまで行ってきた陸上での練習 を,雪上でのパフォーマンスに生かせるような運動処方を考え ていく必要があり,競技で実際行われているトレーニングを取 り入れていくことも有効と考える。また ACL 再建術後は,反 応時間や瞬発力の低下が報告されており9),スキー選手に対す るリハビリテーションでは,滑走姿勢を保持しながらできるだ け速い脚のステッピングや,ラダーを使用したステップドリル (図 2)等がよく取り入れられている。したがって,競技復帰 に向けての体力面も考慮した評価についても重要となってくる ことがわかる。 競技復帰を考える  競技復帰に対する理学療法では,ROM や周径,筋力,バラ ンス,運動パフォーマンス等,構造的あるいは機能的支持性の 理学療法学 第 40 巻第 8 号 624 ∼ 625 頁(2013 年)

スキー競技における膝前十字靭帯再建術後からの復帰

寒 川 美 奈

**

専門領域研究部会 運動器理学療法 特別セッション「シンポジウム」

Return-to-Sport Rehabilitation Following Anterior Cruciate Ligament Reconstruction: Alpine skiing

**

北海道大学大学院保健科学研究院

(〒 060‒0812 札幌市北区北 12 条西 5 丁目)

Mina Samukawa, PT, PhD: Faculty of Health Sciences, Hokkaido University

キーワード:前十字靭帯,スキー,再建術

図 1 クローチング姿勢

Japanese Physical Therapy Association

(2)

スキー競技における膝前十字靭帯再建術後からの復帰 625 獲得および評価が大切である。特に股関節や体幹筋の強化は滑 走姿勢安定に大切である。機能面は,再発予防のために競技で 必要とされる姿勢や動作の評価や,ファンクショナルテスト等 を用いた目標の定量化にも取り組んでいく。そして競技復帰に 対しては,一般的な理学療法評価の他に,筋力やパワー,持久 力,敏捷性,柔軟性,バランス等の競技に必要とされる体力要 素10)11)の評価についても重要で,損傷前以上のレベルへ戻す ことが目標とする。  スキー競技への復帰を考慮したファンクショナルテストでは 体力測定やトレーニング等でも行われている。40 cm の台を 60 ∼ 90 秒間できるだけ速く左右へ跳ぶボックスジャンプ12)(図 3)を取り入れ,損傷前の値との比較することができる。Vail Sports Test は,3 分間のスクワットや側方へのステップ,前 後方向へのランニング動作から,運動パターンの評価とともに 持久力や神経筋コントロール,パワーを調べるテストとして近 年紹介され,特にスキー選手における競技復帰時の指標に用い られる13)。復帰のために必要な数値設定例も示されているこ とから,基準づくりに対する参考となるかもしれない。大切な ことは,これらのテストを通して運動パターンを評価し修正す ることであり,このような取り組みが再発予防につながってい くものと考える。  また,スキー競技の場合,復帰時には山間部での雪上練習が 主となり,筋力トレーニングを行う時間や場所の確保が難しく コンディションを崩しやすくなる。そのような状況でも可能な トレーニング指導や,フィールドテストによる客観的なコン ディションの評価を取り入れてみることも薦められる。垂直跳 び高は,パワーの評価としても知られるが,スキー競技成績と の相関も報告され14),現場でよく行われているテストである。 トリプルホップテストも,大腿四頭筋やハムストリングス最大 筋力値と相関関係が示されており14),これらのテストを用い ることは,器具を必要とせず現場でのコンディション把握の一 助となるであろう。また,練習量や負荷の増大とともに,雪面 からの抵抗や滑走スピードのコントロール等から膝への負担の 増加から,腫脹や疼痛等の出現とともにコンディションが低下 しやすくなる。寒冷環境でのスポーツということもあり,コン ディションを上げるための積極的なウォーミングアップ,腫脹 や疼痛,熱感等炎症回避のため,練習後のアイシングやクール ダウン等のセルフコンディショニングに対する把握や指導はコ ンディショニングとして大切である。環境面に対しても,雪質 は圧雪からアイスバーンへ,斜面は整地から不整地へ,ターン は低速から高速へと段階的な復帰を進めていくことで,コン ディションのコントロールや,選手の復帰への自信にもつな がっていくことが考えられる。 文  献

1) Heibert MC, Aronsson DD, et al.: Skiing Injuries in Children, Adolescents, and Adults. J Bone Joint Surg. 1998; 89A: 25‒32. 2) Natri A, Beynnon BD, et al.: Alpine ski bindings and injuries:

Current fi ndings. Sports Med. 1999; 28: 35‒48.

3) Pujol N, Blanchi MPR, et al.: The incidence of anterior cruciate ligament injuries among competitive alpine skiers. Am J Sports Med. 2007; 35: 1070‒1074.

4) Bere T, Flørenes TW, et al.: Events leading to anterior cruciate ligament injury in World Cup Alpine Skiing: a systematic video analysis of 20 cases. Br J Sports Med. 2011; 45: 1294‒1302. 5) Bere T, Mok KM, et al.: Kinematics of anterior cruciate ligament

ruptures in World Cup Alipne Skiing. 2 case reports of the slip-catch mechanism. Am J Sports Med. 2013; 41: 1067‒1073. 6) Ettlinger CF, Johnson RJ, et al.: A method to help reduce the risk

of serious knee sprains incurred in alpine skiing. Am J Sports Med. 1995; 23: 531‒537.

7) Hintermeister RA, O’Connor DD, et al.: Muscle activity in slalom and giant slalom skiing. Med Sci Sports Exerc. 1995; 27: 315‒322. 8) Kroll J, Wakeling JM, et al.: Quadriceps muscle function during

recreational alpine skiing. Med Sci Sports Exer, 2010; 42: 1545‒1556. 9) Ngyuen T, Hau R, et al.: Driving reactiontime before and after

anterior cruciate ligament reconstruction. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2000; 8: 226‒230.

10) Raschner C, Platzer HP, et al.: The relationship between ACL injuries and physical fi tness in young competitive ski racers: A 10-year longitudinal study. Br J Sports Med. 2012; 46: 1065‒1071. 11) 寒 川 美 奈, 山 中 正 紀, 他: ス キ ー 選 手 の 体 力 特 性. 理 学 療 法.

2005; 22: 300‒304.

12) Andersen RE, Montgomery DL, et al.: An on-site test battery to evaluate giant slalom skiing performance. J Sports Med Phys Fitness. 1990; 30: 276‒282.

13) Kokmeyer D, Wahoff M, et al.: Suggestions from the field for return-to-sport rehabilitation following anterior cruciate ligament reconstruction: Alpine skiing. J Orthop Sports Phys Ther. 2013; 42: 313‒325.

14) Hamilton T, Shultz SJ, et al.: Triple-hop distance as a valid predictor of lower limb strength and power. J Athl Train. 2008; 43: 144‒151.

図 2 ステップドリル

図 3 ボックスジャンプ

Japanese Physical Therapy Association

図 3 ボックスジャンプJapanese Physical Therapy Association

参照

関連したドキュメント

また,文献 [7] ではGDPの70%を占めるサービス業に おけるIT化を重点的に支援することについて提言して

⑥'⑦,⑩,⑪の測定方法は,出村らいや岡島

このように資本主義経済における競争の作用を二つに分けたうえで, 『資本

古物営業法第5条第1項第6号に規定する文字・番号・記号 その他の符号(ホームページのURL)

また、第1号技能実習から第2号技能実習への移行には技能検定基礎級又は技

2 学校法人は、前項の書類及び第三十七条第三項第三号の監査報告書(第六十六条第四号において「財

※ただし、第2フィールド陸上競技場およびラグビー場は電⼦錠のため、第4F

前項の規定にかかわらず、第二十九条第一項若しくは第三十条第一項の規