自律機能ならびに情動とかかわる脳神経伝達物質放出に及ぼす体性感覚刺激の影響
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(2) 662. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 分間)した結果,肝グルコース放出は増加した。同刺激により,. れている。これらの効果には,脳内のドーパミンやセロトニン. 血糖値も肝グルコース放出変化とほぼ平行した変化を示した。. を介するものであることが,尿中のドーパミンやセロトニン濃. 肝グルコース放出増加は前脛骨筋を支配する体性神経切断後,. 度の変化から推測されていたが,実際に脳内でそれらが触刺激. 消失した。また,副交感神経系をムスカリン受容体遮断薬(ア. によって変化しているとする直接証明はなかった。. トロピン)を用いて遮断した後,前脛骨筋を刺激すると,肝グ. 快感の発生には,中脳辺縁系ドーパミン神経系がかかわるこ. ルコース放出反応は増大した。一方,交感神経系を α 受容体遮. とがよく知られており,なかでも側坐核でのドーパミンが中心. 断薬(フェントラミン)と β 受容体遮断薬(プロプラノロール). 的な役割を果たす 5)。そこで筆者らは,ラットの側坐核にマイ. を用いて遮断した後,前脛骨筋を刺激すると,肝グルコース放. クロダイアリシスプローブを挿入し,その透析液中のドーパミ. 出の増加反応は消失した。. ン濃度の変化を指標にして,触刺激の影響を検討した。皮膚に. これらの結果より,骨格筋への刺激は体性感覚神経を求心. 触刺激を加えると,麻酔下と意識下のラットどちらにおいて. 路,交感神経を遠心路として肝臓からのグルコース放出を促す. も,側坐核ドーパミン放出は増加した。この増加に刺激皮膚部. ことが明らかとなった。また,骨格筋刺激は同時に副交感神経. 位差はなく,背部,前肢,後肢への刺激,いずれの場合も側坐. 系も賦活し,交感神経系を介した過剰な肝グルコース放出増加. 核ドーパミン放出は増加した。. を抑制すると考えられた。運動時には骨格筋の収縮が体性感覚. さらに放出の増加した側坐核のドーパミンが快情動の発生に. 神経を刺激し,反射性に動脈圧を高めることにより,活動筋の. かかわっているかについても検討した 6)。ラットでは,快情動. 血流維持に役立つことが知られているが,本研究結果は,運動. 時に 50 kHz の超音波を発声することが知られており,触刺激. 時のグルコース供給にも骨格筋収縮による反射機構がかかわる. によって 50 kHz 超音波発声が起こることをまず確認した。次. ことを証明したものと考えられる。. いでその超音波発声に側坐核のドーパミンがかかわるかどうか. 一方,ストレプトゾトシン誘発性の糖尿病ラット(Ⅰ型糖尿. を,側坐核にドーパミン受容体遮断薬(ドーパミン 1 受容体遮. 病モデル)に対して,同じ骨格筋(前脛骨筋)電気刺激を加え. 断薬とドーパミン 2 受容体遮断薬の混合液)を持続投与して検. たところ,血糖値は変化しなかった. 3). 。このラットにノルアド. 討した。その結果,触刺激時の超音波発声はドーパミン受容体. レナリンを静脈内投与しても血糖値は変化せず,交感神経の刺. 遮断薬を側坐核内に投与することによって有意に減少すること. 激効果が認められなかった。. が明らかになった。. 糖尿病患者に対しては,低強度の有酸素運動によりインス. 以上の結果より,触刺激によって側坐核のドーパミン放出は. リン感受性を高める治療が行われる。インスリン感受性の亢. 増加し,増加したドーパミンは快情動の発生にかかわることが. 進は,運動に伴い全身の骨格筋が収縮することにより,骨格. 明らかとなった。側坐核ドーパミン神経の起始核である中脳腹. 筋細胞内のシグナル伝達機構(AMPK 依存性機序)が変化す. 側被蓋野の刺激により動脈圧,腎血流,骨格筋血流などの自律. るために起こると考えられている。一方,局所の骨格筋刺激に. 機能が変化することも知られている。今後,中脳腹側被蓋野が. より,同様なインスリン感受性亢進が起こるかどうかは不明で. 刺激された結果おこる側坐核のドーパミン放出が各種自律機能. ある。そこで,ストレプトゾトシン誘発性の糖尿病ラットにお. に及ぼす影響を検討する必要がある。. いて,一側の前脛骨筋を局所刺激し,インスリン感受性に及ぼ. 以上,理学療法で用いる刺激を体性感覚刺激の一部と捉え,. す影響を検討した。その結果,前脛骨筋にあらかじめ電気刺激. 体性感覚刺激が自律機能に及ぼす反射性の影響と情動にかか. (10 mA,20 Hz,10 分間)を加えておいた群では,電気刺激. わる神経伝達に及ぼす影響について,筆者らの研究を紹介し. を加えていない群に比べて,同量のインスリンに対して,有意. た。各種理学療法は運動機能にとどまらず自律機能や情動に影. に大きな血糖低下を示した。この電気刺激効果は,前脛骨筋支. 響をもたらしうることを考慮する端緒に本講演がなれば幸いで . 配の体性神経切断により消失した。体性神経の切断後も,電気. ある。. 刺激によって筋収縮自体は起こるので,本実験で示したインス リン感受性の亢進は,体性感覚神経を介した神経性機構による ものであると考えられた。すなわち,インスリン感受性亢進に 及ぼす運動の影響には,骨格筋収縮自体による機序の他,神経 3) 性機序も存在することが本研究より明らかとなった 。. 体性感覚刺激が情動とかかわる脳内神経伝達機能に及 ぼす影響 上述したように,自律機能は情動の影響を受ける。ここでは, 触刺激が脳神経伝達機能に及ぼす影響について,筆者らの研究 結果を紹介する 4)。 触刺激によってリラックス感や快感が発生することは経験的 にもよく知られており,臨床的にも,分娩時の不安の改善,が ん患者における倦怠感や不安感の改善に効果のあることが示さ. 文 献 1) Shimoju-Kobayashi R, Maruyama H, et al.: Responses of hepatic glucose output to electro-acupuncture stimulation of the hindlimb in anaesthetized rats. Auton Neurosci. 2004; 115: 7–14. 2) 下重里江,黒澤美枝子:自律神経と血糖調節.Diabetes Frontier. 2006; 17: 171–181. 3) Higashimura Y, Shimoju R, et al.: Electro-acupuncture improves responsiveness to insulin via excitation of somatic afferent fibers in diabetic rats. Auton Neurosci. 2009; 150: 100–103. 4) Maruyama K, Shimoju R, et al.: Tactile skin stimulation increases dopamine release in the nucleus accumbens in rats. J Physiol Sci. 2012; 62: 259–266. 5) 黒澤美枝子,下重里江,他:脳内報酬系中枢としての中脳腹側被 蓋野.神経内科.2013; 2: 174–179. 6) Hori M, Shimoju R, et al.: Tickling increases dopamine release in the nucleus accumbens and 50 kHz ultrasonic vocalizations in adolescent rats. Neuroreport. 2013; 24: 241–245..
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