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中学校数学科における二元一次方程式の関数的見方に関する理論的分析

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教材学研究第 26 巻(2015) 1.問題意識及び研究目的 二元一次方程式は,その式の特徴から計算 の過程を表す式や相等関係を表す式,一次関 数を表す式というように多様に解釈をするこ とが可能である1).このような方程式の解釈 の可能性から,中学校第 2 学年ではグラフを 用いた二元一次方程式の解法(以下,関数的 アプローチとする)を学習するために,二元 一次方程式を一次関数を表す式とみる学習が 計画されている2) 関数的アプローチとは,「方程式に対応す る関数関係を見出して,関数の表現であるグ ラフ・表にその数量関係を表すことを通して 方程式の解を求める方法」(榎本,2013,p. 28)である.このアプローチを用いて方程式 の解を求めるためには,方程式が表す数量関 係を相等関係から関数関係へと見直す必要性 がある3).つまり,関数的アプローチは方程 式を関数を表す式とみることによって支えら れるのである. 上記した関数的アプローチに関する驚くべ き生徒の実態が全国学力・学習状況調査の結 果より明らかになっている.平成 21 年度全 国学力・学習状況調査において,「二元一次 方程式を一次関数を表す式とみること」を評 価する問題が出題された.この問題の結果か ら,二元一次方程式を一次関数を表す式とみ ることに関する生徒の実態として,「二元一 次方程式のグラフを直線ではなく座標平面上 の格子点のみの離散的なグラフ」と捉える生 徒の傾向が明らかになった4).このような傾 向を示す生徒への学習指導として,国立教育 政策研究所(2009)は「二元一次方程式の解 が無数にあること」の理解を深め,「二元一 次方程式のグラフをかくときには格子点だけ でなく,小数や分数を座標とする点も取り, 直線になること」に気づかせる必要があると した. この提案は調査結果に基づいたものである ため,「二元一次方程式のグラフを直線では なく座標平面上の格子点のみの離散的なグラ フ」と捉える生徒に対しては一定の効果が期 待できる.しかしながら,提案された具体的 な内容は二元一次方程式のグラフが直線にな るという事実を生徒に見せているにすぎず, 二元一次方程式を一次関数とみることに関す る学習指導の提案とはなっていない.そのた め,生徒が二元一次方程式と一次関数に関す る数学的概念を関連づけるにはどのような配 慮から学習指導を計画する必要があるのか, あるいはこのような生徒の実態を生起させな いためにはどのような配慮が必要なのか,に ついては明らかになっていない. 上記の問いに応えるためには,二元一次方 程式を解く方法である関数的アプローチや, それを支える二元一次方程式の関数的な見方 に関する学習において,その学習対象となる 数学的概念に特有な困難性の特定が行われな ければならない.このようなことから,生徒 が数学科授業で使用する教科書において,「二 元一次方程式を関数を表す式とみる」ことが どのように取り扱われているのかを分析する

筑波大学大学院人間総合科学研究科 榎本 哲士

ENOMOTO Satoshi, Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba

中学校数学科における二元一次方程式の

関数的見方に関する理論的分析

-数学的概念の二面性を視点として-

An Analysis of Functional View into the Liner Equation with Two Unknowns in a

Middle School Textbook: Focused on the Dual Nature of Mathematical Conception

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ことが必要である. 以上より,本稿の目的は,教科書に掲載さ れている二元一次方程式のグラフに関する内 容に焦点を当て,二元一次方程式に対する関 数的見方の特徴を明らかにすることである. この目的を達成するために,本稿では教科書 に記載されている二元一次方程式を一次関数 を表す式とみる活動を数学的概念の二面性か ら理論的に分析する. 2.式の見方と関数的アプローチの関係 本 章 で は, 代 数 的 な 式 の 見 方 に 関 す る Sfard と Linchevski(1994)の提案と,その 基礎的研究である Sfard(1991)を概観し, 式の見方と関数的アプローチとの関係から教 科書分析の視点を導出する. (1)数学的概念の二面性 Sfard(1991)は,様々な数学的定義や数 学的表現の分析から,ある数学的概念に対し て,プロセスとして操作的に,また対象とし て構造的に捉えることができるとし,数学的 概念形成の過程を操作的コンセプションから 構造的コンセプションへの移行として主張し た.その分析の中で,Sfard は歴史的に多く の数学的概念が構造的な定義や表現として定 式化されるよりも前に,操作的に捉えられて きたということを明らかにし,それを認識論 的な拠り所とした.そのため,操作から構造 という順序性が保たれ,数学学習における概 念形成においてもあてはまることを論じたの である. また,一方で Sfard(1991)は心理学的な 立場から個人の学習過程へアプローチし,操 作的コンセプションから構造的コンセプショ ンへの移行が interiorization,condensation, reification という 3 つの段階を経ていくと主 張し,この 3 つの段階を経ることで実態を 持たない数学的概念がモノ化(reify)され ると述べたのである.加えて,Sfard(1991) はこれら 3 つの段階のうち,interiorization と condensation が漸次的・量的な変化であ るのに対して,reification は瞬時的・質的な 飛躍であると特徴づけ,reification を「馴染 みのある対象を全体的に新たな観点から見直 すという突発的な能力を要する存在論的シフ ト」5)(Sfard,1991,p.19)であると説明した. このように Sfard は数学的概念の二面性の特 徴を指摘したのである. (2)数学的概念の二面性による式の見方 整式や方程式,関数の式のような文字式 における二面性はどのように特徴付けられ るのであろうか.この点について Sfard と Linchevski(1994)によれば,文字式それ自 体は意味を内包するものではなく,学習者に よってはじめてその意味づけがなされるので ある.そして,その意味づけにおいて数学的 概念の二面性が関与するとし,文字式におけ る二面性を特徴づけた.それは,文字式を計 算過程として捉えれば操作的であり,数や関 数として捉えれば構造的であるというもので ある.例えば,文字式 3 (x+5) +1 に対して,x に 5 を足して 3 倍し,1 を足す」という計算 過程と見れば操作的であり,1 つの数として みるか,あるいはx に依存する一次関数とし てみれば構造的なのである6) このように文字式は,それ自身をいかにみ るのかによって,その式に付与する意味が 異なるのである.このように指摘した上で Sfard ら(1994)は,数学的概念の二面性に 基づいた概念形成理論である reification 理論 を用いて,代数史の分析を行った.その分析 の結果から,「一般化された算術としての代 数」が概念化され,操作的コンセプションと 構造的コンセプションの分析対象となった. Sfard らによる代数史の分析結果は,表 1 の ように整理された.表 1 は Sfard らが示して いるものの一部抜粋である. 表 1 のように代数史が整理されたことに よって,代数における焦点の移行が 2 つ存在 することが明らかになった.一つ目の移行は

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「1.1.1. 数値の計算」から「1.2.1. 計算のプロ ダクト」への移行であり,二つ目の移行はそ こから「1.2.2. 関数」への移行である.第一 の移行では,未知数としての文字の導入によ り,文字式が計算の過程だけではなく,その 結果(プロダクト)も同時に表すことになる. 一方,第二の移行では,未知数による定数値 代数から変数による関数的代数へと文字式に 対する見方の焦点が変更される.表 1 におけ る定数値代数と関数的代数の質的な違いは, 式が数値を表す表現から関数を表す表現へと 変化していることである.さらに,その質的 な違いに伴って,式の中で扱われる文字の意 味が未知数から変数へと変化するのである7) 表1:代数の発展の段階8) (3) 式の見方と関数的アプローチとの関係にみ る教科書分析の視点 上記のように Sfard ら(1994)は数学的概 念の二面性から式の見方と,その歴史的変遷 について整理をしている.このような式の見 方から,等式ax+by=c (a,b,c は定数)を みてみると二通りの見方が存在する. 第一の見方は,等式の中の文字x,y を未 知数としてみる立場である.この見方に基づ いて等式ax+by=c (a,b,c は定数)をみると, 未知数x,y に関する相等関係を表す二元一 次方程式とみることが可能になる.一方,第 二の見方は,等式の中の文字x,y を変数と してみる立場である.この見方に基づいて等 式ax+by=c (a,b,c は定数)をみて,等式y について解くことで一次関数としてみる ことが可能となる9) 上述のような等式に対する二通りの見方か ら,二元一次方程式の解を求める方法も二通 り存在する.第一の見方による二元一次方程 式の解法とは,二元一次方程式ax+by=c (a, b,c は定数)を満たす x,y の値の組を求め ることである.対して,第二の見方による二 元一次方程式の解法とは,二元一次方程式 ax+by=c (a,b,c は定数)を一次関数を表 す式として見直し,その関数関係をグラフに 表現することで二元一次方程式の解を求める 方法である.この方法は,等式の性質に基づ いて形式的に式を変形して解を求める方法に 対して,関数関係をグラフに表すことによっ て図的に解を求めていることになり,方程式 と関数とを統一的な立場で考えるための基礎 となるのである.上記のような方程式の解法 について,榎本(2013)は前者を「代数的ア プローチ」,後者を「関数的アプローチ」と 規定し,その関係を図 1 のように示した. 図 1:方程式解決における 2 つのアプローチ10) 関数的アプローチによって,二元一次方程 式ax+by=c (a,b,c は定数)の解を求める ためには,二元一次方程式を一次関数を表す 式とみる必要があり,二元一次方程式の表す 数量関係を相等関係から関数関係へと見直す 段階 焦点 表現 一般化された算術としての代数 1.1. 操作的 数値の計算1.1.1. 言語的表現 言語的表現 と 記号的表現 1.2. 構造的 1.2.1. 計算の プロダクト (定数値代数) 記号的表現 (未知数として の文字) 1.2.2. 関数 (関数的代数) 記号的表現 (変数としての 文字)

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必要がある.このように方程式の見方を変更 するためには,関数概念との関連が重要とな る.それは,Sfard ら(1994)が述べるよう に文字式それ自体は意味を内包するものでは なく,文字式をみる者によってはじめてその 意味づけがなされるからである.つまり,二 元一次方程式を関数とみることは,方程式を みる人の目的や意思によって決まり,みる人 の保持する関数概念に影響されると考えられ る. Sfard(1991)が提案した数学的概念の二 面性に依拠し,関数概念が持つ操作的側面 と構造的側面を特定した研究として,Sfard (1992) と Moschkovich ら(1993) が あ る. Sfard(1992)は,式やアルゴリズムをもと に変数の値ごとに計算をするという関数の 捉え方を操作的とし,一方で関数自体をモ ノのように捉えることを構造的な捉え方と した.そして,関数を順序対の集合とする 捉え方はその典型的な例であると述べた11) Moschkovich ら(1993)も Sfard(1992)の 分類と類似した関数の見方を指摘している. 彼女らは,関数の操作的見方を「x の値と y の値の対応という見方」とし,関数の構造的 な見方を「関数を対象として捉える見方」と した.前者は,関数の式を用いてx の値かy の値を求める計算が志向される見方であ り,後者は関数を実体として捉え,その性質 を志向する見方である.例えば,一次関数を 座標平面に表すことで,ある範囲の順序対を 全て表すことができ,そのグラフは直線とな る.このように,傾き(変化の割合)が一定 であるという一次関数の性質を志向した見方 が,関数の構造的な見方である12) 数学的概念形成における,上記のような関 数概念の捉え方から,生徒の理解が操作的な 理解に留まり,構造的な理解に至っていな いとの指摘がなされてきた(例えば,Sfard, 1992).このような指摘から,二元一次方程 式を関数を表す式とみる際には,関数を操作 的に捉えて方程式をみる場合と関数を構造的 に捉えて方程式をみる場合とが考えられる. このような 2 つの場合が実際に教科書上,存 在するのか,存在するのであればどのように 存在するのかを明らかにする必要があるだろ う. 3. 教科書における「二元一次方程式を関数 を表す式とみる」ことの理論的分析 (1)教科書分析の方法 本章では,まず「二元一次方程式を関数を 表す式とみる」ことが教科書においてどのよ うに扱われているのか,その取扱いについて 特定をする.次に,特定された具体的な活動 を 2(3)で述べた分析の視点(関数の操作的 な捉え方と構造的な捉え方)に基づいて理論 的な分析をし,二元一次方程式を関数を表す 式とみる際の見方とその特徴を明らかにする. (2) 教科書における二元一次方程式を関数的 にみる学習内容の取扱い 中学校学習指導要領によると中学校数学 科における二元一次方程式に関する内容は, 「A.数と式」と「C.関数」といった二つ の領域にまたがって取り扱われている.「A. 数と式」領域では二元一次方程式に関する主 な内容として,「二元一次方程式とその解の 意味を理解すること」,「連立二元一次方程式 の必要性と意味及びその解の意味を理解する こと」,「簡単な連立二元一次方程式を解くこ と及びそれを具体的な場面で活用すること」 の 3 点があげられている. 一方,「C.関数」領域では二元一次方程 式に関する内容として「二元一次方程式を関 数を表す式とみること」があげられている. これは,「C.関数」領域の目標にある「一 次関数について理解するとともに,関数関係 を見いだし表現し考察する能力」を身に付け させるために,生徒が習得すべき内容として 位置づいていると考えられる. では,「二元一次方程式を関数を表す式と

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みること」は,具体的にどのような活動を通 して学習されるのであろうか.本稿では現行 の学習指導要領に準拠し作成された東京書籍 の教科書をもとに分析を進めていく.それは 採択冊数が多く,教科書採択率の 30% を占 めているからである. 東京書籍の中学校第 2 学年用教科書におい て二元一次方程式に関する学習は表 2 のよう に計画されている13) 表2:二元一次方程式の学習に関連する単元構成14) 表 2 は平成 24 年に発行された東京書籍の 中学校第 2 学年用教科書における二元一次方 程式に関連する単元構成である.「二元一次 方程式を関数を表す式とみること」に関する 学習内容は,表 2 に示された単元構成でみる と「3 章 2 節 一次関数と方程式」のうちの「① 二元一次方程式のグラフ」に位置づいている. この「二元一次方程式のグラフ」に関する 学習に至るまでには,教科書の単元構成上,「2 章 連立方程式」において「連立方程式とそ の解の意味」や「連立方程式の解き方」,「い ろいろな連立方程式」に関する学習が計画さ れている.また,「3 章 一次関数」におい ても,「一次関数の定義」「一次関数の値の変 化」「一次関数のグラフ」「一次関数を求める こと」「一次関数とみなすこと」に関する学 習が計画されている. このように計画された単元「連立方程式」 において,「二元一次方程式とその解の意味」 「連立方程式とその解の意味」といった方程 式の意味に関わる学習と,「連立方程式の解 き方(加減法,代入法)」に関わる学習とが 進められる.そして,単元「一次関数」にお いて,具体的な事象における二つの数量の変 化や対応を調べることを通して,一次関数に ついて考察し理解を深めたり,一次関数の変 化や対応の特徴を捉えるために表,式,グラ フを用いたりする学習が進められる. このような学習の後に「二元一次方程式の グラフ」に関する内容が位置づいている(表 2).このように単元構成がなされていること から,「二元一次方程式のグラフ」に関する 学習は,「連立方程式」「一次関数」それぞれ の単元で学習した概念を関連づけさせるため の内容であることが分かる. 教科書上,「二元一次方程式のグラフ」に 関する学習活動は具体的にどのような活動に よって展開されるのであろうか.また,その 活動と「二元一次方程式を関数を表す式とみ る」ことがいかに関連づけられているのだろ うか. 平成 24 年に発行された東京書籍の教科書 では,「二元一次方程式のグラフ」において, まず二元一次方程式x+2y-2=0 が与えられる. そして,与えられた二元一次方程式x+2y-2=0 の中の文字x に対して,-5 から 5 までの整 数を代入し, x に対応する y の値を表に整理 する活動が設定されている.この活動におい てx に対応する y の値を表中に整理し,その 表の値を座標とする点を座標平面上に表現す る.そして,離散的な点によって構成された グラフと直線のグラフの 2 つのグラフが並べ て示される15) 次に,二元一次方程式をy について解き, 2章 連立方程式 1節 連立方程式とその解き方 ① 連立方程式とその解の意味 ② 連立方程式の解き方 ③ いろいろな連立方程式 3章 一次関数 1節 一次関数 ① 一次関数 ② 一次関数の値の変化 ③ 一次関数のグラフ ④ 一次関数を求めること ⑤ 一次関数とみなすこと 2節 一次関数と方程式 ① 二元一次方程式のグラフ ② 一次関数のグラフの利用 ③ 連立方程式とグラフ

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その式が一次関数の式の形y=ax+b(a,b は 定数)になるということや,「x の値を決め たら,y の値がただ一つ決まる」という関数 の定義に基づいて二元一次方程式を一次関数 として見直すのである(図 2). 図 2:二元一次方程式を関数とみる活動16) 図 2 のように二元一次方程式①を一次関数 の式②へと見直した後で,二元一次方程式の グラフが直線になるということを確認する活 動が設定されている.この活動では,図 2 の ような活動によって一次関数と見直された式 y=-

½

x+1 から一次関数のグラフの特徴であ る傾きや切片を読み取ることが行われる.そ して,一次関数のグラフが直線であるという ことを前提にして,二元一次方程式のグラフ が座標平面上で直線として表されることが確 認される.また,そのグラフが二元一次方程 式の解を表し,解を座標とする点の集合であ ることも確認される(図 3). 図 3:二元一次方程式のグラフの意味17) 上記から,「二元一次方程式のグラフ」に 関する学習は,二元一次方程式のグラフが直 線であることと,二元一次方程式のグラフが 二元一次方程式の解を座標とする点の集合で あることを理解するための内容として位置づ けられている.このような「二元一次方程式 のグラフ」に関わる学習では,「二元一次方 程式を関数を表す式とみる」ことが学習を進 めるための主たる活動であった. 「二元一次方程式のグラフ」では,「二元一 次方程式を関数を表す式とみる」ために,二 元一次方程式の中の文字x に数値を代入し,y の値を計算して表にまとめる活動と,二元一 次方程式をy について解き,y=ax+b から一次 関数のグラフの特徴(傾き,切片)を読み取 る活動の大きく二つの活動が設定されていた. 以上から,「二元一次方程式を関数を表す 式とみる」ことは,教科書上,「二元一次方 程式のグラフ」に関する内容として取り扱わ れていることが明らかになった.そして,「二 元一次方程式を関数を表す式とみる」に関わ る活動として 2 つの活動が位置づいているこ とが明らかになった.それは,二元一次方程 式の中の文字x に数値を代入し,y の値を計 算して表にまとめる活動と,二元一次方程式 をy について解き,y=ax+b から一次関数の グラフの特徴(傾き,切片)を読み取る活動 である. (3) 関数の捉え方を視点とした二元一次方程式 の見方の分析 「二元一次方程式を関数を表す式とみるこ と」に関する学習には上記した 2 つの活動が 設定されていた.それは,二元一次方程式の x の値に対応する y の値を求め,その数値を 表に整理する活動と,二元一次方程式をy に ついて解き,その式が一次関数の式y=ax+b になることを確認する活動の 2 つである.前 者の活動では,二元一次方程式の中の文字x に数値を代入し,y の値を計算することを通 して,x の値に対応する y の値を求めている. 一方,後者の活動では,二元一次方程式をy について解くことで,与式を一次関数を表す 式とみて,その式y=ax+b から一次関数のグ ラフの特徴(傾きと切片)を求める活動が行 われる. こ れ ら 2 つ の 活 動 は,Sfard(1992) と

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Moschkovich ら(1993) の 述 べ る 関 数 の 操作的見方と構造的見方にそれぞれ合致す る.Sfard(1992)の指摘した関数の見方と は,次のようなものであった.それは,式 やアルゴリズムをもとに変数の値ごとに計 算をするという関数の捉え方を操作的とし, 一方で関数自体をモノのように捉えること は構造的な捉え方であるというものである. Moschkovich ら(1993)も同様に,関数の 操作的な見方を「x の値と y の値の対応とい う見方」とし,関数の構造的な見方を「関数 を対象として捉える見方」としていた. Sfard(1992) と Moschkovich ら(1993) は双方とも,関数の式に数値を代入し計算す ることを関数の操作的な捉え方とし,関数を 一つの実体としてみて,その性質や特徴を捉 えようとすることを関数の構造的な捉え方と している点で共通していた. この 2 つの捉え方から,「二元一次方程式 を関数を表す式とみる」ことに関わる 2 つの 活動を見てみると,二元一次方程式の中の文 字x に数値を代入し,y の値を計算して表に まとめる活動は関数の操作的な捉え方に,二 元一次方程式をy について解き,y=ax+b か ら一次関数のグラフの特徴(傾き,切片)を 読み取る活動は関数の構造的な捉え方に,そ れぞれ合致している. それは,二元一次方程式の中の文字x に数 値を代入し,y の値を計算して表にまとめる 活動では,関数を実体とは捉えておらず,式 やアルゴリズムをもとにした変数の値ごとの 計算が行われているからである.対して,二 元一次方程式をy について解き,y=ax+b か ら一次関数のグラフの特徴(傾き,切片)を 読み取る活動では,一次関数を対応関係とい う実体として捉え,そのグラフの特徴を読み 取ることが行われ,数値計算は行われないか らである. 以上より,「二元一次方程式を関数を表す 式とみる」見方には二通りの見方が存在する ことが数学的概念の二面性を視点とすること で明らかになった.それは,関数の操作的な 捉え方から二元一次方程式をみる見方と関数 の構造的な捉え方から二元一次方程式をみる 見方である.関数の操作的捉え方から二元一 次方程式をみる際には,二元一次方程式の中 の文字x に数値を代入し y の値を求める活動 が行われる.対して,関数の構造的捉え方か ら二元一次方程式をみる際は,二元一次方程 式をy について解き,y=ax+b から一次関数 のグラフの特徴(傾き,切片)を読み取る活 動が行われる. 4.考察:実態調査に向けた仮説の生成 3(3)で述べたように,「二元一次方程式 を関数を表す式とみる」見方には二通りの見 方が存在する.それは,関数概念を保持する 者がどのように関数を捉えているのか(関数 の操作的捉え方か構造的捉え方)に依存する ものであった. これは,数学的概念の二面性という立場か ら,関数概念に関する生徒の理解が操作的な 理解に留まり,構造的な理解に至っていない という Sfard(1992)の指摘にも関連する. つまり,「二元一次方程式を関数を表す式と みる」こととは,二元一次方程式という式表 現の中に関数概念を映し出すことであるた め,映し出す関数概念が理想的に構造的コン セプションまで形成されていなければ映し出 すことは不可能となるのである. 以上のようなことから,次のような仮説が 生じた.それは,生徒が関数を操作的に捉え ているのか,あるいは構造的に捉えているの かによって,生徒の選択する二元一次方程式 のグラフに差異が生じるのではないだろう か,というものである. 5.まとめと今後の課題 本稿の成果及び主張は,次のようにまとめ られる.まず,二元一次方程式を関数を表す

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式とみる二通りの見方を教科書の分析から理 論的に特定したことである.そして,その二 通りの見方から新たな仮説が生成されたこと である.今後の課題は,二元一次方程式を関 数を表す式とみる見方と生成した仮説を基に した実態調査を設計し,仮説に関して実証的 に検証していくことである. 引用文献

1) Sfard, A. , & Linchevski, L., The Gain and the Pitfalls of Reification : The Case of Algebra, Educational Studies in Mathe -matics , 26, 1994, 191 - 228. 2) 文部科学省,『中学校学習指導要領解説  数学編』,教育出版,2008,98 - 100. 3) 榎本哲士,「学校数学における文字式の理 解を捉える枠組みの構築:関数的アプロー チを視点として」,日本数学教育学会誌数 学教育学論究,第 95 巻,25-32. 4) 国立教育政策研究所,『平成 21 年度全国 学力・学習状況調査【中学校】調査結果概 要』,国立教育政策研究所,2009.   榎本哲士,「中学校数学科における文字 式の理解に関する一考察:方程式とその 解の意味に焦点を当てて」,日本数学教育 学会第 43 回数学教育論文発表会論文集, 567-572.

5) Sfard, A., On the Dual Nature of Mathematical Conception: Reflection on Processes and Objects as Different Sides of the Same Coin, Educational Studies in Mathematics, 22,1991, 19. 6) 前掲書 1) 7) 前掲書 1) 8) 前掲書 1) 203 9) 前掲書 2) 98 - 100   鎗田宏一,「方程式と関数との関係およ びその指導」.戸田清・和田義信 ( 編 ),『中 学校数学指導実例講座 第 4 巻 関数関係の 指導』,金子書房,1961,108-116. 10) 前掲書 3) 30

11) Sfard, A., Operational Origins of Mathematical Objects and The Quandary of Reification: The Case of Function, I n G . H a r e l & E . D u b i n s k y ( E d s . ) , 『The Concept of Function: Aspects of Epistemology and Pedagogy』, Mathematical Association of America, 1992, 68.

12) Moschkovich, J., Schoenfeld, A. H., Arcavi, A., Aspect of Understanding : On Multiple Perspectives and Repre -sentations of Liner Relations and Connections Among Them, In T. Romberg, E. Fennema & T. Carpenter (Eds.), 『Integrating Research on the Graphical Representation of Functions』, LEA, 1993 , 73. 13) 藤井斉亮 ほか,『新しい数学2』,東京書 籍,2012. 14) 前掲書 13) 15) 前掲書 13) 73 16) 前掲書 13) 17) 前掲書 13) Abstract

The aim of this study is to clarify characteristics of a functional view into the liner equation with two unknowns in textbook. For the aim of this study, we theoretically analyzed an activity that students must transform the view of the liner equation in textbook; from "equality" to a "functional relationship".

As a result, this paper identified two way of functional view into the liner equation. And a new hypothesis was caused from the result of analysis in this paper.

参照

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