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小学校教員を志望する大学生の基礎学力を考える―47都道府県の名称を知っているか―-香川大学学術情報リポジトリ

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小学校教員を志望する大学生の基礎学力を考える

―47都道府県の名称を知っているか―

岡 内 弘 子

Ⅰ はじめに  『学力があぶない』(岩波新書 大野晋・上野健爾著)という本が手元にある。初版は2001年(平 成13年)であり、それからすでに15年が過ぎた。近頃は、大学生の学力に関する話題は、あまり耳 にしなくなったように感じる。少なくとも、一般に関心を持たれることは少なくなったと思われ る。果たして、大学生の基礎的な学力等はどうなっているのか。  筆者は、香川大学教育学部に於いて、主に日本古典文学を担当する教員である。最近の講義の中 でも、いくつか気になる点がある。それを手始めとして、大学生の基礎的な学力の定着について不 安に感じることをいささか考えてみたい。最近では、気になる点として以下のようなことがあっ た。 ①「院政期」という時代区分があるが、いつ頃のことであるかわからない学生が多い。まず、「院」 という存在についての説明が必要でもある。 ②「因幡の白うさぎ」の話を聞いたことのない学生が、受講生30名程度であれば、半数に達する。 そこで子供用の絵本のコピーを持参して、授業中に読ませる。5年ほど同様な手段を使ってい る。確かに、香川県で一番大きな書店にも、幼児用の絵本1種類しか販売されていなかったの で、知らなくても当然なのであろうか。前の世代(簡単に言えば親の世代)からの伝承が、行わ れなくなっている。今の大学生の親の世代が、すでにこの話を知らない世代である可能性が高 い。 ③講義の中で、口語文法に触れる機会があった。学生は、形容詞・形容動詞・連体詞等の品詞の名 称・分類・もちろん活用がわからない。連体詞については、受講生10名誰も知らなかった。あわ てて、来週までにコピーを作ってきて説明しますと学生に伝える。中学校3年生の国語教科書に はまとめられている口語文法であるにもかかわらず、文語文法よりもなじみがない様子である。 ④「いみじく静かに、おほやけに御文たてまつりたまふ(竹取物語)」「しばしにても後れきこえた まはむことを(源氏物語)」等の、いわゆる「二方面に対する敬語表現」と呼ばれる敬語法。10名の 受講者中3名は、聞いたこともない敬語法だという。こうした学生は、今年度初めて現れた。高 校の教科書には必ず出ているのだが(たとえば第一学習社『対訳 古典文法』)。大学進学者を出 す普通高校でも、省略してしまい、教えていない学校があるのだろうか。  ①から④に述べたような機会は多く、講義が中断することは多々あるが、それを越えて気になる 事柄・調査しやすい事柄が、47都道府県の名称と位置を知っているのかということである。本来で あれば、筆者の関わる分野ではないはずの社会科「日本地理」に属する問題である。  しかし、源氏物語等古典文学作品には、「伊勢の斎宮」という身分の女性が登場することが少な

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くない。「伊勢」は、現在の三重県にあると説明し、都(京都府)からどちらの方角へ下るのかと質 問する。学生の中には、「都から西に行く」と答える者がいる。京都府と三重県の位置関係は理解 されていないのである。  「センター試験で、私は日本史を選択しなかったから。地理を選択していない・・・知らなくて 当然です」というのが学生の答えである。  講義の中で古典文学に関わる以前に、まず取り組まなければならない、いささか困ったこの事柄 を通して、基礎学力(常識の範囲だと思うが)について少し考え、小学校教員を目指す学生と日々 接している自らの反省としたい。 Ⅱ 当大学の状況  香川大学教育学部は、一応、センター試験を経て入学してくるレベルの大学である。センター試 験を課す一般入試と、センター試験の必要ない推薦入試(定員 42名)を行っている。学校教育教 員養成課程の学生(定員 160名)は、現在では、希望すれば、ほぼすべての学生が教員に採用され ている。学校教育教員養成課程の学生の出身は、90%以上が岡山県・香川県で占められている。 Ⅲ 調査方法・調査対象  ① 北海道を①とし、沖縄県を㊼とした白地図を配り、15分間を与えて解答欄に都道府県名を記 入させる。なるべく漢字で記すよう指示し、わからない場合は平仮名でもよいと伝える。  ② 平成27年度・28年度の前期の「初等国語」履修者を対象とする。調査日は、平成27年4月28日、 平成28年4月26日である。この講義は、小学校教員免許を取得するための必修の授業であ る。履修した学生の内訳は以下の通り。二年度に亘って重複して受講した学生はいない。ま た、外国人留学生は除く。   27年度     68名       1年生(平成27年入学)    32名       2年生(平成26年入学)    26名       3年生(平成25年入学)以上  10名  2名の大学院生を含む。   28年度     59名       1年生(平成28年入学)    27名       2年生(平成27年入学)    25名       3年生(平成26年入学)以上  7名  ③ 正誤の判断に当たり、厳しいかもしれないが、茨木県・折木県・取鳥県の類は誤答とする。 Ⅳ 誤答数を示す 27年度誤答数 学年 誤答数 1年(27年入学)人 2年(26年入学) 3年生(25年入学)以上(院生2名を含む) 0 4 3 0 1 1 1 1 2 2 2 0

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3 1 0 0 4 2 4 0 5 3 1 0 6 0 1 1 7 5 2 2 8 2 0 0 9 1 1 0 10 1 1 0 11 2 1 1 12 1 2 1 13 2 1 0 14 0 0 0 15 0 1 1 16 0 1 0 17 0 0 0 18 0 1 0 19 0 1 0 20 0 0 0 21 1 1 0 22 1 1 3 23 1 0 1 24 1 0 0 25 1 0 0 26 0 0 0 27 0 0 0 28 0 0 0 29 0 0 0 30 0 0 0 28年度誤答数   学年 誤答数 1年(28年入学)人 2年(27年入学) 3年(26年入学)以上(院生なし) 0 5 5 0 1 1 2 1 2 4 2 1 3 1 1 0 4 1 0 0 5 3 1 1 6 1 1 1 7 0 1 0

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8 1 1 0 9 3 3 0 10 1 0 0 11 0 1 0 12 0 0 0 13 1 1 0 14 0 0 0 15 2 1 0 16 0 0 1 17 1 1 1 18 1 0 0 19 0 1 0 20 0 0 0 21 0 2 0 22 1 0 0 23 0 1 0 24 0 1 0 25 0 0 0 26 0 0 0 27 0 0 0 28 0 0 0 29 0 0 0 30 0 0 0  27年度 全問正答者  1年   4名  12.5%       2年   3名  11.5%       3年以上 0名   0%  28年度 全問正答者  1年   5名   18.5%       2年   5名   20.0%       3年以上 0名    0%  27年度誤答率 (47都道府県の名称のうち誤答の割合)       全体   20.1%       1年   18.4%       2年   18.3%       3年以上 30.0%  28年度誤答率     全体   15.5%       1年   14.3%       2年   17.2%

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      3年以上 14.3% ・どこかに頂点があるわけではないが、全問正答者が少なく、1~25誤答をした者まで、誤答者が ばらばらと散らばっている。 ・3年生以上になると、全問正答者が、0になってしまうことは、問題ではないかと思われる。  文部科学省が公開している、「特定の課題に関する調査(社会)」(平成19年国立教育政策研究所 実施 http://www.nier.go.jp/kaihatsu/tokutei shakai/index.htm)に、都道府県の名称と位置の正答率が公 表されている。調査対象学年は、小学6年生。調査実施日は、平成19年2月22日実施、学級を無 作為抽出し、225校6665人とある。「結果のポイント」として、47都道府県の名称と位置の正答率は 約55%と示されている。平成19年の小学6年生は、ちょうど今の大学3年生あたりである。正答率 55%とすると、47都道府県のうち約26名称の正答ということになる。逆に言えば、21名称の誤答で ある。先の表に示したとおり、20~25誤答した者(27年度 11名、28年度 5名)が存在するので、 これらの学生は小学校6年生とあまり変わらないレベルである。  また、同調査は、「住んでいる都道府県の位置の正答率は約90%、近隣の県の正答率も約70%と 高い傾向。隣接する県との誤答や名称が似ている県の誤答などが見られた」とする。大学の所在地 である香川県を間違えた学生が、27年度に4名(1年 3名 3年以上 1名 5.9%程)であった。 28年度は0名である。誤答が10%程になる小学生と比べると割合は少ない。また、大学生は大学の 位置する県に住んでいない場合もあるので、この正答率は高いと言うべきか。 Ⅴ 京都府・奈良県・三重県に関する誤答  古典文学に関わりの深い上記3府県の誤答の状況を調査した結果である。誤答者数を示す。 平成27年度   1年      人 2年 3年以上 京都府 3 7 0 奈良県 3 8 1 三重県 7 9 5 平成28年度 1年      人 2年 3年以上 京都府 4 7 0 奈良県 6 7 0 三重県 7 6 1 ・27年度28年度共に、1年と2年を比べると、学年が進んだ方が誤答者が多い。27年度の1年と28 年度の2年は、入学年度が同じ、同級生である。ただし、両解答者は重複していない。ここでも 大学生としての1年間を経過して、京都府・奈良県の誤答者が増えているのは、いささか驚きで ある。 ・大きく見れば、三重県の認知度が低い。

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Ⅵ 上記3府県をどのように間違えるのか。どこと間違えるのか。  それぞれの誤答者数を示す。  ①京都府の場合 平成27年度   空欄 人 大阪府 奈良県 三重県 1年 1 0 1 1 2年 3 1 3 0 3年以上 0 0 0 0 平成28年度   空欄 人 大阪府 奈良県 三重県 1年 1 1 2 0 2年 3 1 2 1 3年以上 0 0 0 0  ②奈良県の場合 平成27年度   空欄 人 京都府   1年 1 2   2年 4 4   3年以上 1 0   平成28年度   空欄 人 京都府 大阪府 1年 3 2 1 2年 1 5 1 3年以上 1 0 0  ③三重県の場合 平成27年度   空欄 人 和歌山県 愛知県 岐阜県 奈良県 1年 5 1 0 0 1 2年 8 1 0 0 0 3年以上 4 1 0 0 0 平成28年度   空欄 人 和歌山県 愛知県 岐阜県 奈良県 1年 5 2 0 0 0 2年 3 1 1 1 1 3年以上 0 0 0 0 0

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・3府県共に空欄のままに何も書いていない学生がいることに驚かされる。 ・小学生を対象とした、上述の調査結果と同じく、隣接する府県との誤答が多い。 ・香川県からは比較的近く、近畿圏の中心とも言える府県であるにも拘わらず、大阪府・京都府・ 奈良県の混同やその位置がわかっていない者がいる。 Ⅶ 調査当時、マスコミによく取り上げられていた2県(沖縄県・熊本県)の認知度  誤答者数を示す。  平成27年度 沖縄県 基地移転問題で連日報道されていた。  平成28年度 熊本地震(4月14日~)の直後とも言える、4月26日の調査。 平成27年度 沖縄県 人 熊本県 1年 10 24 2年 4 21 3年以上 0 2 合計 14 47 誤答率 20.6% 69.1% 平成28年度   沖縄県 人 熊本県 1年 0 3 2年 0 10 3年以上 0 2 合計 0 15 誤答率 0% 25.4%  参考のため、上記2県以外の九州地方の県の誤答者数と、比較のために、香川県から遠い東北地 方・関東地方の都県に関して、誤答者数を示しておく。  上記以外の九州各県の誤答者数 平成27年度 県名 誤答者  人 誤答率 福岡県 20 29.4% 佐賀県 31 45.6% 長崎県 21 30.9% 大分県 44 64.7% 宮崎県 45 66.2% 鹿児島県 26 38.2% 平成28年度 県名 誤答者  人 誤答率 福岡県 6 10.2% 佐賀県 17 28.8% 長崎県 21 35.6% 大分県 17 28.8% 宮崎県 15 25.4% 鹿児島県 3 5.1%

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東北6県 誤答者数 平成27年度 県名 誤答者  人 誤答率 青森県 0 0% 岩手県 5 7.4% 宮城県 15 22.1% 秋田県 7 10.3% 山形県 32 47.1% 福島県 8 11.8% 平成28年度 県名 誤答者  人 誤答率 青森県 0 0% 岩手県 3 5.1% 宮城県 17 28.8% 秋田県 7 11.9% 山形県 23 39.0% 福島県 4 6.8% 関東7都県 誤答者数 平成27年度 都県名 誤答者  人 誤答率 茨城県 36 52.9% 栃木県 37 54.4% 群馬県 21 30.9% 埼玉県 32 47.1% 千葉県 5 7.4% 東京都 1 1.5% 神奈川県 11 16.2% 平成28年度 都県名 誤答者  人 誤答率 茨城県 31 52.5% 栃木県 31 52.5% 群馬県 21 35.6% 埼玉県 19 32.2% 千葉県 10 16.9% 東京都 2 3.4% 神奈川県 11 18.6% ・熊本県は、27年度には、大分県・宮崎県と並び、60%以上の者が誤答するという県であった。こ の3県は、28年度にも誤答者の多い県であることに変わりはないが、30%未満まで誤答者が減少 している。東北で誤答の多い宮城県・山形県、関東で誤答の多い茨城県・栃木県・群馬県・埼玉 県にはこのような変化は見られない。熊本地震がマスコミに度々取りあげられた影響であろうと 推測される。こうした大きな衝撃があった折りに、いささかの間関心が向かうのであろう。 ・沖縄県は日常的にマスコミに取りあげられ、地理的にもわかりやすい県である。27年度に14名が

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誤答であった事が不思議である。地図の見方がよくわからなかったのかもしれない。 Ⅷ おわりに  文部科学省は、ホームページ上で「現行学習指導要領・生きる力」において、社会科の移行期間 中における指導について留意すべきこととして、「新学習指導要領に定める一部の内容(第3学年 及び第4学年の県の様子に関する学習において47都道府県の名称と位置を指導すること、第5学年 の・・・・)を指導することになっています」と述べている。新学習指導要領(平成23年度全面実施) において、第3学年又は第4学年の指導要領として47都道府県の名称と位置について調べる活動を 規定した趣旨として以下のように説明している。   基礎的・基本的な知識を定着させることとともに、広い視野から地域社会や我が国の国土に対 する理解を深めることは重要です。・・・・・また、指導に当たっては、小学校修了までに確 実に身に付け、活用出来るようにするため、各学年において工夫して指導する配慮が必要で す。  今回調査の対象とした大学生は、この指導要領が実施される以前の小学生である。ただ、大学生 となった今日までの間に、47都道府県の位置を把握し、名称を正しく漢字で書き表すことが身につ いていないことが見て取れる。47都道府県をすべて正答した学生は、10~20%である。「小学校修 了までに確実に身に付け」ることができずに、この状況のままで教員として採用されてしまう場合、 覚えていなくともその都度調べる手段はいくらもあるとはいえ、不安に思わずにはいられない。   『源氏物語』早蕨の巻には、宇治を出て匂宮邸に移ることになった中君が、   道のほど遙けくはげしき山道のありさまを見たまふにぞ、つらきにのみ思ひなされし人の御仲 の通ひを、ことわりの絶え間なりけりとすこし思し知られける。 と、不実であるとばかり恨んでいた匂宮のまれまれの御訪れを、無理からぬ途絶えであったのだと 思いやる場面がある。宇治から都への道の険しさを知って初めて理解できたのである。47都道府県 の名称や位置なんか知らなくても日常生活に支障はない、児童生徒に教える折に支障はない、とい うことにはならぬと教えてくれる箇所ではないだろうか。  今回の報告は、常識ではないかと思われる一つの事柄を通しての学生の状況調査にすぎない。し かし、調査の結果は、決して褒められたものではない。全国の公立学校の教員採用試験の倍率は、 低下していることがよく知られている(平成27年11月26日 読売新聞の記事 等)。この記事には、 「AO入試など多様な大学入試が増え、教員採用試験でも大学推薦などで筆記が免除されるケース もある」と記されている。香川県に於いては、まだそうした採用試験ではないが、教員の資質が低 下すればその影響は瞬く間に児童生徒に影響を及ぼす。小学校時代に学んでおくべき基礎的な様々 な事柄の大切さをつくづくと思う。と同時に、大学に職を得た者として、こうした大学生の状況を 何とか補い改善したいと反省される。

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