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英語学習(書くこと)に困難を示し発達障害のある中学生2事例における学習支援―特別支援教室「すばる」における実践研究―-香川大学学術情報リポジトリ

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香川大学教育実践総合研究(Bull. Educ. Res. Teach. Develop. Kagawa Univ.),31:95-105,2015

英語学習(書くこと)に困難を示し

発達障害のある中学生2事例における学習支援

―特別支援教室「すばる」における実践研究―

井上 恵美 ・ 西田 智子

・中島 栄美子

・ 惠羅 修吉

* (大学院教育学研究科) (特別支援教育) (特別支援教育) (特別支援教育) 760-8522 高松市幸町1-1 香川大学院教育学研究科 760-8522 高松市幸町1-1 香川大学教育学部   

A Case Study of Intervention Method for English Spelling

and Writing Difficulties in Two Japanese Junior High School

Students with Developmental Disorders

Megumi Inoue, Tomoko Nishida

, Emiko Nakajima

and Shukichi Era

Graduate School of Education, Kagawa University, 1-1 Saiwai-cho, Takamatsu 760-8522

Faculty of Education, Kagawa University, 1-1 Saiwai-cho, Takamatsu 760-8522

要 旨 英語学習に困難を示し,異なる発達障害のある中学生2名に対して,アセスメン トを基に個別指導を実施した。2名とも知能は平均水準であるが,英語学習ではアルファ ベットの読みの段階で困難を抱えていた。2名の学習障害特性に依拠して,フォニックス, Multisensory Structured Languageアプローチを取り入れた英語学習支援を受けた結果,2 名とも学習の定着に改善が見られ,主体的に学習に取り組む姿勢がみられた。

キーワード 発達障害 フォニックス Multisensory Structured Languageアプローチ        英語学習支援

Ⅰ.はじめに

 小学校では「聞く」「話す」を中心に楽しく 英語を学んできた生徒も,中学校からは「読む」 「書く」が加わることで英語学習に抵抗感が強 まることはまれではない。更に,日本語の読み 書きに困難を抱える生徒は,中学校から始まる 英語において単語の読みとスペリングの学習に 顕著な困難を示す(奥村・室橋,2013)。また, 日本語や英語の読み書きにつまずく子どもは, 発達性dyslexiaや言語学習障害だけでなく,自 閉症スペクトラム障害や注意欠陥/多動性障害 を伴う場合もあり,それぞれの障害の特性理解 に基づいた支援が必要であるといわれている。  現在,日本の中学校や高校における英語教育 では,読み書きは綴りを見て発音したり書いた りすることを反復して覚えていくwhole word アプローチと呼ばれる方法で行われるのが通常 である。英語学習困難児の中にはこのような指 導法に適合せず,入門期における「読み」の段 階からつまずきを示す者がおり,小さなつまず きの重なりが読みだけでなく書きにも影響を及

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 このように,読みに対してはフォニックスが 有用であることが知られているが,書くことに つなげるためにはMSLアプローチを取り入れ ることが有用であると考えられた。そこで,本 研究では英語学習に困難を示している発達障害 のある生徒2名を対象として,特に英語の「書 くこと」(spelling,writing)について,フォニッ クス,MSLアプローチを取り入れた本人の強 みを生かした英語学習支援を行い,その効果に ついて検討することを目的とした。

Ⅱ.方法

1.対象  通常の学級に在籍する中学2年生女子(以下, A児)と中学3年生男子(以下,B児)の2事 例を対象とした。A児は,医療機関で自閉症ス ペクトラム障害,学習障害と診断されていた。 B児は,医療機関で注意欠陥/多動性障害と診 断され,投薬を受けていた。 2.指導場所及び期間  香川大学大学院教育学研究科特別支援教室 「すばる」において,A児はX年5月~7月の 期間で10セッション(週1回60分間,うち国語 20分間,英語20分間),B児はX年9月~X+1 年1月の期間で15セッション(週1回60分間, うち英語45分間)の個別指導を行った。 3.アセスメント 3-1.A児のアセスメント 1)指導開始前の面接  A児及び保護者からの主訴は,苦手としてい る教科は英語で,単語を読んだり,何度も書い たりすることに困難があること,感覚過敏とこ だわりがあることであった。また,学校の先生 からの情報提供より,英語学習でアルファベッ トのbとd,pとqなど形態的に似た文字を読み 間違えたり書き間違えたりすること,定着させ るための繰り返し書字練習に対して強い拒否感 があるということであった。実際に学校で行わ れた学力テストや成績表を確認した。 ぼしているのではないかと考えられる。英語圏 では,読み書き障害の背景要因として音韻処理 能力の弱さが挙げられている(Lyon,1995)。 音韻処理能力は一つの能力を指すのではなく, 音韻意識,語想起,呼称速度,聴覚的短期記 憶・ワーキングメモリなどの複数の能力であり, これらすべてが読み書きの習得の基礎になると 捉えられている(McCardle, Scarborough, & Catts, 2001)。日本語を母国語とする日本人の 英語学習困難では,以上に加えて,日本語と英 語の音韻構造の違い,英語における音と綴りの 対応の不規則性が関与しており,「読み」の困 難,さらに「書き」の困難をも伴わせると考え られる。  ところで,英語の「書くこと」には “spelling” と “writing” という2側面があり,spellingは 綴りを想起する過程や口頭で述べる過程,およ び文字選択による綴り字の表記過程から成り, writingは書字運動を介した書字,内容を伝え るために書くことから成る。「書き」の困難が 認められる場合,それがどの段階での問題かを 確認することが必要である。  現在英語圏では,幼少期に英語学習指導の 中でフォニックス指導が広く用いられている。 フォニックス指導とは,アルファベットと音素 の対応規則に基づいて単語の読み書きを指導す る方法である。日本では,フォニックス指導を 中学校英語学習に取り入れているところは少な い。また,読み書きに困難がある子どものため に米国で広く使われている治療教育プログラム としてMultisensory Structured Language(以 下MSL)アプローチがある。マルチセンソリー とは,言語の三角形(language triangle)を 構成する視覚,聴覚,運動感覚/触覚の3つ の感覚様式を使うことを意味する概念であり, MSLはこの概念を基にした指導法である。牧 野・宮本(2002)はこの方法を用いた指導を行 い,その有効性について報告している。MSL アプローチは,視覚,聴覚,運動感覚/触覚を 使うことにより,文字と音を関連づけるための 手がかりを多くするため,読みの側面だけでは なく書字の側面にも有効であるとしている。

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2)WISC-Ⅲの結果(12歳4ヶ月時,医療機 関にて実施)  全検査IQ105で,知能水準は平均レベルに あった。言語性IQ(以下VIQ)は111で,動作 性IQ(以下PIQ)は97であった。VIQとPIQと の差は14であったが,有意な差は見られなかっ た。群指数の言語理解は114,知覚統合は102, 注意記憶は88,処理速度は89であった。言語理 解と注意記憶の群指数間に有意な差が認められ た(言語理解>注意記憶,p<.05)。言語理解 と処理速度の間に有意な差が認められた(言語 理解>処理速度,p<.05)。 3)心理検査から分析したA児の認知特性  A児の強い認知特性としては,言語で表現・ 説明する力や視覚的長期記憶,空間情報を操 作・構成する力が推察された。一方,弱い特性 として,聴覚的短期記憶,言葉を機械的に記憶 する力,視覚的な情報を早く処理する力が推察 された。特に視写が必要となると,書字速度が 遅く,非常に困難を感じることが考えられた。 4)A児のプレテスト  指導前にA児に対して,中学校入門期程度の 英語プレテストを実施した。アルファベットの 小文字(26文字中正答5文字)や絵を見て綴り を書く課題(3問中正答なし),「soccer」のよ うな身近な英単語であっても,綴りから日本語 を推測することは難しいようであった。また英 語を書くことになると自信がなく,書き直した り,手が止まったりする様子も見られた。型通 りに覚えたアルファベットもあるが,英単語を 書くための文字と音が一致していないため,書 くことに抵抗があると推察された。 3-2.B児のアセスメント 1)指導開始前の面接  B児及び保護者からの主訴では,苦手として いる教科が英語と国語,日本語・英語を聞いて 理解したり,表現したりすることが困難であっ た。特に作文や英作文につまずきがあった。い くつか手順をふんで思考力を問う課題は苦手で あった。作文課題では,出題の意図がわから ず,内容の読み取りができていないため,趣旨 から離れたことを書くことが多いと保護者や担 任教員から指摘があった。家庭では母親により フォニックスによる読みの指導が行われてお り,英単語が少し読めるようになったが,単語 の語彙や英文法については不十分なため,1・ 2年生の内容を復習したいという希望があっ た。 2)WISC-Ⅲの結果(13歳0ヶ月時,医療機 関にて実施)  全検査IQは92で知能水準は平均レベルに あった。VIQは86で,PIQは100であった。VIQ とPIQの差は14であり有意であった(p<.05)。 群指数の言語理解は86,知覚統合は100,注意 記憶は85,処理速度は103であった。言語理解 と知覚統合,言語理解と処理速度,知覚統合と 注意記憶,注意記憶と処理速度の群指数間に有 意差が認められた(言語理解<知覚統合,言語 理解<処理速度,知覚統合>処理速度,注意記 憶<処理速度,いずれもp<.05)。 3)心理検査から分析したB児の認知特性  B児の強みとして,視覚優位で,事務的で単 純な作業を正確に素早くこなす力があり,弱み として,言葉を理解して表現・説明する力,聴 覚的短期記憶や注意力,視覚的長期記憶,全体 を部分に分解する力,空間情報を理解したり, 操作・構成したりする力が推察された。特に単 語を覚えて書字することに困難を感じることが 考えられた。 4)B児のプレテスト  セッション1(以下,セッションをSとして S1)でB児に対して中学生1~2年生程度の 英語プレテストを実施した。英単語の書字に おいては,基本的な英単語(dog, cake, book, soccer)は正確に書くことができていた。しか しながら,中学1年生の内容で既習単語の季 節,曜日,月名の単語書字につまずきが確認さ れたため,S5で季節,曜日,月名の書字プレ テストを行った。その結果は,季節0/4問,曜 日2/7問,月3/12問(正答数/問題数)であった。 また,英作文課題では,使用している英文法が 中1・2学期程度のものであること,また論理 構成力が弱く,全体のつながりが不十分であっ た。

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 これらの結果を踏まえ,英語の全般的な基礎 学力はあるものの,言語内容を理解する力や, 正確に単語を覚えて書く力,文法や題意を理解 して文を書く力に弱さがあり,英語や英文を書 くための支援が必要であると考えた。 4.指導目標,方針及び指導内容 4-1.A児について 1)A児の指導目標 (1)アルファベットや身の回りの英単語の絵 や綴りを見て正しく発音することができ る。 (2)アルファベットや身の回りの英単語の綴 り,読み,意味を理解し,書くことができ る。 (3)成功体験を重ねてやる気を起こし,自分 から課題に取り組むことができる。 2)A児の指導方針 (1)文字と音の対応規則であるフォニックス を分かりやすく伝える。 (2)多感覚刺激(聴覚,視覚,触覚)を用い た学習課題を設定する。 (3)視覚的に意味を捉えられるように,言葉 とイラストを使ったカードやパソコンを 使った説明により,聴覚的短期記憶の弱さ を補う。 (4)学習した英単語をパソコン入力すること で書く活動のスモールステップとする。ま たモールを使って単語を覚える練習を行 い,書字練習の代替として活用する。 3)A児の指導内容  S2~S9の英語学習において主に下記の4つ の活動を行った。 (1)アルファベットの読み書き練習(フォ ニックス)【課題A】 (2)絵単語と綴りのマッチング課題【課題B】 (3)アルファベットモールを使って英単語を 作る課題【課題C】 (4)パソコンを使った英単語の発音と書字練 習【課題D】  S1で英語基礎力に関するプレテストを行い, S10でアルファベットと英単語のポストテスト を行った。 4-2.B児について 1)B児の指導目標 (1)英単語を正確に読み書きすることができ る。 (2)英語学習1・2年生の単語や文法を理解 し,英文を書くことができる。 (3)学習した事項を使って,自分の考えや意 見を整理して伝えることができる。 (4)成功体験を重ねてやる気を起こし,自分 から課題に取り組むことができる。 2)B児の指導方針 (1)言語理解を補うために,視覚的にも分か りやすい学習課題にする。 (2)多感覚刺激を用いた書字練習を取り入れ, 音声と書字を合わせた習得練習をする。 (3)自分の考えや意見を出したり整理したり するために,マインドマップや単語マップ を使って聴覚的短期記憶の弱さを補う。 (4)興味のある話題やスモールステップ課題 を設定することで,集中しやすくなるよう に工夫する。 3)B児の指導内容  S2~S13のセッションの英語学習において, 下記の3つの活動を行った。 (1)英単語の学習 【課題E,F,G,H,I,J】 (2)英文法の学習 【課題K】 (3)英文の学習  【課題L,M】

Ⅲ.指導経過

1.A児の指導経過 1)A児に対する英語の「アルファベットを読 むこと」「書くこと(spelling)」の指導 【課題A】アルファベットや英単語を読むため の練習  A児用に1文字が1音に対応するフォニック ス支援シート(図1)を作成し,ルール化する ことにより音素を意識して,発音するように助 言した。この学習課題で扱う英単語(アルファ ベットに対応する音素とその音素を用いた単 語)の一覧表を資料として示す(資料参照)。

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【課題B】英単語と綴りのマッチング課題  S2~S9の各セッションで学習した英単語の 定着を図るために,毎時間,絵と綴りのマッチ ング課題(①絵を見て発音練習と音声から絵 カードを選択する,②綴りを見て発音練習,③ 絵と綴りを合わせる)を行った(図2)。 【課題C】書字練習の代替として,アルファ ベットモールを使った課題  モールを使って形づくることにより似た形の アルファベットのbとd,pとqの特徴に気付か せた。モールを使うことで,手の触覚を使って 意識させたり,パソコンを使って,大文字と小 文字の似ているところに気付かせたり,連想し やすい絵を同時に提示したりして,正しく書字 することができるように指導した(図3)。 【課題D】パソコンを使った英単語の発音と書 字練習  A児は英単語を書字練習する際に,感覚過敏 のため筆記用具で文字を書くことや,何度も繰 り返して書字練習することは苦手であった。そ こで,パソコン入力による書字練習課題を設定 した(図4)。 2.B児の指導経過 1)B児に対する英語学習「書くこと(writing)」 の指導  B児は,中学3年であり,受験を控えている ことから,限られた期間内に効果的に実践でき る内容を選んだ(表1)。B児の場合は,音韻 処理能力を支援するフォニックスシートで,1 文字と1音素の対応規則はマスターできていた ので,英単語の学習【課題E】では,1文字と 複数の音素が対応することを指導した(図5)。 カラーモールやカラーペンを使って色分けする ことにより英単語の音素を意識して,音の分解 や合成をする練習や書字練習に,多感覚刺激を 取り入れたタイピグボード(図6),書字ボー ド,ホワイトボードを活用した。  英文法・英文を書く学習【課題K,L】では, 英語の語順を理解するためのワークシートを 使った。英文が日本語文の語順と大きく異なる ことが英作文を困難にする原因の一つである。  金谷(2003)は英文と日本語文の語順につい て著書の中で,「英語の基本文はクリスマスツ リー型で,主語が不可欠の要素である。なぜな 図1 A児用のフォニックス支援シート

a

ェア 口を横にあけて

n

ン(ヌ) 口は開いたままで

b

o

オ 口をたてに大きくあけて

c

ク 息だけで

p

ブ 息だけで

Phonics alphabet

図2 A児の【課題B】で使用した絵単語と綴 りのマッチング 図3 A児が【課題C】で作成した英単語(文 字の形を意識させるためのモール課題) 図4 A児の【課題D】におけるパソコン入力 による書字練習課題 単語カード 1 2 3 日本語 4 書く練習 2

n t

書く練習 1

a

n t

t

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ら主語を選ばないかぎり動詞の形が決まらない からだ。日本語の基本文は盆栽型で主語はい らない。述語だけでも文である。」(p.94)と述 べている。これは英文と日本語文の語順の違い を端的に表現しており,「クリスマスツリー型」 を視覚的に示すことにより英文の語順の学習を 容易にすることができると考え,語順マスター シートを作成した。さらに主語,動詞は色分 けをしてより視覚的に分かりやすいものとした (図7)。さらに,伝えたい内容を整理するため にマインドマップや図を使って作文練習を行っ た。B児は自分の考えをまとめるのが苦手なこ とから,視覚的に考えを整理しやすくするため にマインドマップを使用した。 2)B児のポストテスト (1)Writing課題テスト1  S5~S14の各セッションで英単語の季節(4 語),曜日(7語),月(12語)の書字テストを 行った。 (2)Writing課題テスト2  S11~S14で,課題英作文を書くポストテス トを行った。採点については,県内公立中学校 に勤務する英語教師4名に評価を依頼した。評 価基準は,学力診断テストに対応した診断基準 で採点をした。 (3)B児の英語学習に関する自己評価  S1,S15 では,すばるでの指導効果の一つの 指標として英語学習に関する事前事後アンケー トを実施した。アンケートは,英語学習におけ る次の4項目(①英語学習について ②英単語 を書くこと ③英文法 ④英文を書くこと)に 対する苦手意識の程度を,5段階評価(5:よ く分かる,4:少し分かる,3:どちらでもな い,2:少し難しい,1:とても難しい)で自 己評価させた。 表1 B児の英語学習指導経過 指導経過 英単語 英文法 英作文 S1 プレテスト S2 アルファベットの復習 be動詞 be動詞を用いた英文 S3 身近な英単語(70語) 動詞(36語) 一般動詞 一般動詞を用いた英文 S4 一般動詞 3人称単数現在 S5 助動詞 助動詞を用いた英文 S6 英単語の書字練習 月名12単語 曜日7語 季節4語 過去形 S7 冠詞(a, an ,the) 私の好きなスポーツについて S8 比較級,最上級 S9 動名詞,不定詞 「おもしろい」を使った英文 S10 接続詞 接続詞を使った英文 S11 現在完了 意見文 S12 復習 S13 復習 S14 ポストテスト S15 英単語学習のまとめ 英文法学習のまとめ 英作文学習のまとめ 図5 B児用のフォニックス支援シート

a

ェアエイ オー アー apple cake ball father

n

net

b

bag

o

ア オウ オ soccer nose dog

c

ク ス cup ice

p

プ pen Phonics alphabet

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Ⅳ.結果

1.A児について 1)アルファベット大文字・小文字のspelling の問題  S1のプレテストでは,アルファベット大文 字についてはすぐに書字を開始したが,小文字 についてはなかなか書こうとしなかった。その ため指導終了時(S10)のポストテストでは, 実際に書字することに抵抗感が強いことを考慮 し,アルファベットモールを使用してspelling を確認することにした。その結果,大文字・小 文字ともspellingをスムーズに選択でき,自信 をもって解答する様子が見られた。ポストテス トでは小文字26文字すべてを正答した。指導開 始時(S1)に比べて,正答率の顕著な上昇が 見られた(図8)。 2)正確なアルファベットモールを一部選択す る英単語問題  発音を手掛かりに正しくモールを選択するこ 図6 B児がアルファベット文字を抽出,タイピングボードによる書字練習 図7 B児が使用した自分の考えや意見を出して整理するためのワークシート

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とができた(8問中正答6問)。特に,セッショ ンの中で誤答傾向のあったbとd,pとq,rとlに ついてはセッション回数が増すごとに正確に選 択できるようになった。指導において,A児の 苦手な聴覚的短期記憶や視覚的な情報の処理, 注意力を補うために,パソコン画面で,文字, 絵,図,動きを併せて,よく似た文字を見分け るためのヒントを示し,A児の言葉でその文字 の特徴を表現させたことにより,誤答は著しく 減少した。 2.B児について 1)Writing課題1  季節,曜日,月名の単語の書字指導について は,セッションの回数を重ねるごとに正答率が 上昇した(図9)。正確な書字の定着までに時 間がかかったが,S12以降では,季節と曜日を 正しく綴ることができるようになった。 2)Writing課題2  英作文課題4題を実施し,文の数(3文以 上),語数(25語以上)は,どの課題において も条件に合わせて書くことができた。しかし英 文法の使い方に誤りがあったり,綴りのミスが あったりしたため,減点対象になり得点には結 びつけることはできなかったが,プレテスト課 題に比べて,自分の伝えたい内容に近づけるた めに,学習した文法事項を扱って書こうとして いること,全体のつながりや趣旨にあった内容 が書けるようになった点においては改善が見ら れた。英文法指導の中で特に強調した語順に関 しては,日本語との違いを指導したことで,英 文を書く時に語順を意識して書くことができて いた。 3)B児の英語学習に関する自己評価  英語学習に関する自己評価について,指導開 始時(S1)と指導終了時(S15)を比較したも のを図10に示す。指導前と比べて英語に対する 苦手意識の軽減がみられた。また,自由記述で は,「英語や英文を書く時に以前と比べて,一 つ一つの単語が書けるようになった」と書かれ ており,B児自身もその変容に気づいているこ とが見てとれた。 図8 A児におけるアルファベット大文字と小 文字の書字正答率の変化

0

20

40

60

80

100

S1

S10

セッション

大文字

小文字

図9 B児のwriting課題1における正答率の変化 0 20 40 60 80 100 S5 S6 S7 S8 S9 S10 S11 S12 S13 S14 正 答 率 % セッション 季節 曜日 月 図10 B児の英語学習に関する自己評価 1 2 3 4 5 英文を書く 英文法の理解 英単語を書く 英語学習 苦手意識 S1 S15

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Ⅴ.考察

 A児は,S1~S10の過程を経て,アルファ ベットや英単語のspellingの定着が認められた。 一方,B児は,S1~S15の過程を経て,英単語 のspellingの定着と英作文のwritingにおける 改善が見られた。またA児,B児ともに,セッ ション終了時には,英語学習への苦手意識の軽 減が認められた。  以下に,英語学習における「書くこと」の向 上に特に効果があったと思われる手立てについ て考察する。 1.A児とB児に対する英語学習支援の効果に ついて 1)音韻処理能力の問題に対するフォニックス による指導の効果について  フォニックスによる指導の結果,A児,B児 ともアルファベットと音素の対応関係に基づい て単語を正確に読んだり,書いたりできるよう になった。これらの結果は,フォニックスが読 みとspellingの前提となる音韻分解や音素認識 といったスキルの向上に有効であることを示し ており,先行研究(奥村・室橋,2013)とも一 致する結果であった。今回の指導では,A児, B児ともにフォニックスシートを使用したが, それぞれの学習レベルや特性に応じたものを作 成した。A児には口の動きを示し,音素を確認 できるシートを作成した。B児には1文字と複 数の音素が対応することを示したシートを作成 した。 2)MSLアプローチを取り入れた支援の効果 について  A児はフォニックスを手がかりに,聴覚から 入ったアルファベットの音を触覚や運動感覚を 働かせ,モールで正しく作成または選択した り,口の動きを示したシートを活用することで 音素を確認することができるようになった。  B児は,発音(フォニックスの読み),モー ルの色を手がかりに音素や音節を合成,分解, 操作し,アルファベットのモールや文字カード を使って触覚や運動感覚も働かせながら音素選 択することで,正確な単語に変換することが できるようになり,書字の正答率が向上した。 MSLアプローチで,文字と音を関連付けるた めの手がかりを多くしたことが,読みだけでな く書字にも有効に働いたと考えられる。  今回の指導では,A児,B児ともにカラー モールを用いたが,そのねらいはそれぞれ異な るものであった。A児は,アルファベットを形 作る操作をすることにより書字の練習として活 用した。一方,B児は,形作られたモールの色 を音素や音節によって変えることにより,音韻 分解を意識させるために用いた。このようにカ ラーモールは個に応じた活用が可能であり,小 学校低学年の児童にも効果的な教材となりうる と考えられる。 2.発達障害の認知特性に適した指導について  発達障害児は,それぞれの学び方に特徴があ る。学習ペースがゆっくりであったり,特定の 部分に苦手なことがあったり,学び方,社会性 に偏りがあったりする。そのため,発達障害に 起因する特性と行動面や学習面での特徴を踏 まえ,A児,B児の特性に合わせた支援方法や ツールを活用した指導を行った。例えば,A児 では筆記用具の感触にこだわりがあり,書字を 嫌がっていたため,モールを使ったりパソコ ンを活用したりした。B児は集中が途切れやす く,書き間違いを嫌がるため,興味のある話題 を題材としたり,すぐ直すことができる書字 ボード,ホワイトボードを活用したりした。 3.個別指導を終えたA児,B児の変容について 1)A児の変容  英語学習に対する拒否感が少なくなり,個別 指導終了後には家で洋楽の英語の歌詞を読んだ り,好きなペンを使ってこれまでやろうとしな かった書字課題の提出ができたり,パソコン入 力による書字練習を始めるなど,主体的に学習 に取り組むことができるようになった。 2)B児の変容  行動面では,初期は自ら発信する言葉数が大 変少なかったが,セッションの回数を重ねると

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徐々に題意や趣旨を捉えた内容を言葉で伝える ことができるようになった。また学校での学習 の中で,ある問題の答えを選択した理由を相手 に分かりやすく伝えることができるようになっ たという変容も保護者より報告された。学習面 では,書字練習の際,単語の音素を意識し発音 しながら書くようになったこと,今までなかな か覚えられなかった英単語を覚えて書けるよ うになったことが,B児にとって大きな自信と なったようである。そして,そのことが英語学 習への苦手意識の軽減につながったと考えられ る。英作文においては,成果が十分であるとは いえないが,趣旨にそった内容を書こうとする ようになってきた。学力テストの国語の作文テ ストでは,以前と比べてまとまりの良い文章を 書くことができていたと保護者から報告を受け た。  以上のことから,個々の子どもの特性に応じ た指導方略に基づいた英語の「書くこと」の指 導が効果的であったと考えられた。また,その 指導・支援の工夫をすることにより,苦手なこ とでも主体的に取り組もうとする意欲や態度の 育成につながったと考えられる。

Ⅵ.おわりに

 発達障害のある子どもたちは,それぞれの学 び方に特徴があることが多い。どこにつまずき があるのかを多角的なアセスメントを通して知 り,個に応じた指導・支援の工夫を行うことに より,その効果は「分かる・できる」につなが り,さらには苦手意識の軽減や主体的な学習へ の取り組みにつながるのではないかと考えられ る。本実践では,短期間であったがフォニック ス及びMSLアプローチを取り入れた指導を行 い,その有効性は特に子どもたちの意欲として 表れた。読み書きに困難があっても,こうした 指導によって最初のステップを適切に攻略でき れば英語学習を本人なりに進めていける可能性 が高くなると考えられることから,学習の初期 段階において読みと綴りの関係性のフォニック スやMSLアプローチを扱った指導・支援が幅 広く実践されることが望まれる。  また,麻植・小枝(2014)の報告にあるよう に,現在中学校ではフォニックス指導を全ての 英語教員が行っているわけではない。今後の課 題として,個別指導が有効であると思われる生 徒への指導体制を整えていくこと,一斉指導の 中でフォニックスをどのように体系的に指導し ていくか,またその指導を中学校からではなく 小学校から実施することの有用性などの検討が 必要であると考える。小学校から始まる英語学 習において,中学校の英語学習指導と連携を図 りながら,これらの指導法を用いてより分かり やすく効果的な指導実践を行い,検討していく ことも重要である。 謝辞  本研究を進めるにあたり,協力していただい た2名の児童及び保護者に改めて感謝いたしま す。 参考文献

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f frog food fox h hat hand hot j jam Japan

oo book moon good k king koala kangaroo

l left lion lamp m map milk moon n net noon next p pen pink pig q queen quiz question r ring rain run s six swim sun t ten taxi tennsi v vet very video w wink window winter x box fox taxi z zoo zebra zero

c card cup cap camera a bag cat apple

a+e tape lake snake face cake

i ink pig pink king milk ring i+e ice time wine pine

ee tree green

u bus study cute u+e flute blue computer

o dog top fox box mop o+e home bone rope smoke

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論文集,378-379. 田中裕美子・兵頭明和・大石敬子・Barbara Wise・ Lynn Snyder(2006)読み書きの習得や障害と 音韻処理能力との関係についての検討.LD研 究,15,319-329. 上野一彦(2006)LD(学習障害)とディスレクシア (読み書き障害):子どもたちの「学び」と「個性」. 講談社. 上野一彦(2007)LD(学習障害)のすべてがわかる本. 講談社.

参照

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