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近年,子宮内膜症を母地として発生する腫瘍 の形態的スペクトラム,臨床病理学的特徴,分 子学的発生機序に関する多くの知見が集積され ている.内膜症関連腫瘍を理解することはその 早期診断に寄与するのみならず,治療戦略を確 立する上できわめて重要である.本稿では病理 学的視点から,最近の知見をまじえて内膜症関 連腫瘍について概説する. 子宮内膜症関連腫瘍 卵巣子宮内膜症を母地として腫瘍が発生する 事実は, 年に Sampson により初めて記載 された〔 〕.その組織型は類内膜癌であったが, その後,明細胞癌も内膜症から発生することが 知られるようになった.そのため,文献的には 内 膜 症 関 連 卵 巣 癌 endometriosis-associated ovarian cancer(EAOC)などの用語がしばし ば用いられる.しかし,内頸部様粘液性境界悪 性腫瘍,扁平上皮癌,癌肉腫,腺肉腫,類内膜 間質肉腫など,非上皮性腫瘍を含むさまざまな 腫瘍が発生することから〔 ,〕,Shih らによっ て内膜症関連腫瘍 endometriosis-related ovarian tumor(ERON)という用語が提唱された〔 〕. 内膜症関連腫瘍の臨床病理像 子宮内膜症に関連する腫瘍の特徴として,① 若年発生,②早期症例の頻度が比較的高い,③ 低悪性度,④予後が良好である,などが挙げら れる.近年卵巣表層上皮性悪性腫瘍(卵巣癌) は前駆病変の有無による発生過程の違いから, Ⅰ型,Ⅱ型に分類されるようになった〔 〕.Ⅱ 型は de novo 発生によるもので,高悪性度漿 液癌,高悪性度類内膜癌,未分化癌,癌肉腫な 段階的に発生し,低悪性度漿液癌,低悪性度類 内膜癌,粘液癌,明細胞癌を含む.前 者はそ れぞれ漿液性境界悪性腫瘍,粘液性境界悪性腫 瘍を背景に発生し,後 者は内膜症を母地とし て発生すると考えられている.すなわち,内膜 症関連腫瘍はⅠ型腫瘍であり,内膜症性囊胞の 経過観察によって早期発見が可能であるといえ る.子宮内膜症の腫瘍化の頻度は .∼ .%と 報告されているが,大規模な前向き研究の結果, 小林らは . %という数字を報告している〔 〕. 卵巣腫瘍の発生母地としての子宮内膜症 腺癌の前駆病変と し て 異 型 内 膜 症 atypical endometriosis が知られているが,その定義は 文献によって異なる.すなわち,( )内膜症 性囊胞の内腔を被覆する上皮細胞に異型がみら れる病変(図 ),( )子宮体部の内膜増殖症 (子宮内膜上皮内腫瘍 endometrial intraepithe-lial neoplasia ; EIN)と同様の形態を示す増殖 性病変(図 )を含む.前者には炎症などに伴 う修復性変化や化生性変化が含まれている可能 性がある.福永らは異型内膜症が卵巣内膜症 ( 例)の .%の頻度で認められたのに対し て,内膜症関連卵巣癌( 例)の %で認めら れたことを報告した〔 〕.Prefumo らは( ) の定義に基づく異型内膜症が内膜症関連類内膜 腺癌 例中全例で認められたのに対して,( ) の定義に基づく異型内膜症が %で認められた ことを明らかにした〔 〕.この検討ではそれぞ れの病変が内膜症性囊胞 例中 例( %), 例( %)で認められるにすぎなかった.この 結果は,いずれの定義に基づいても異型内膜症

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が腫瘍化のリスク要因であることを示唆して いる. 子宮内膜症関連腫瘍の発生要因と機序 子宮内膜症の腫瘍化に関わる因子として,① 炎症,②ヘム鉄,自由鉄による酸化ストレス, ③高エストロゲン血症,が知られている〔 〕. 内膜症性囊胞の内部では,出血に伴って常に 炎症が惹起されている.すなわち,サイトカイ ンカスケードにより血管新生と細胞増殖が誘導 され,活性酸素の産生が促進される.さらに, アポトーシスが抑制され,腫瘍が浸潤・転移し やすい微小環境が生じる.これらのすべてが子 宮内膜症の進展とこれを母地とした腫瘍の発生 に寄与する. 多くの研究の結果は内膜症性囊胞内で自由鉄 濃度,ラクトースデヒドロゲナーゼ,脂質ペル オキシダーゼ, ―ヒドロキシ― ―デオキシグア ノシンなどのストレス関連因子の濃度が上昇し ていることを示しており,内膜症性囊胞の内容 液が活性酸素を誘導して DNA を傷害し,癌化 に寄与することも報告されている. 高エストロゲン血症が内膜症性囊胞の進展と 発癌に関与する証拠も示されている.内膜症性 囊胞ではアロマターゼ活性の更新とエストラジ オールの不活化抑制により,エストラジオール 濃度が上昇している.エストラジオールは COX ― を誘導し,プロスタグランジン E 濃度が上 昇するため,腫瘍の進展が促進されることが報 告されている.また,内膜症を構成する上皮細 胞や間質細胞が発現している膜貫通型受容体で A B 図 囊胞を被覆している上皮が細胞異型を示す異型内膜症 A B 図 子宮内膜異型増殖症と同様の形態を示す増殖性変化を示す異型内膜症

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でモノクロナリティーを確認して以来報告が相 次いでおり〔 〕,現在では内膜症性囊胞の ∼ %がモノクローナルな増殖であると考え られている.内膜症は遺伝子不安定,PTEN, TP ,ARID A などの腫瘍抑制遺伝子の異常 も伴っている〔 〕.Dinulescu らは 年に Cre ―loxP 部位特異的組み換え反応を用いてマウス の卵巣表層上皮の K―ras 遺伝子を活性化させ ることにより骨盤内膜症が発生し,PTEN 遺伝 子の不活化を加えることによって類内膜腺癌が 発生することを報告した〔 〕.一方,Wu ら は同様の手法を用いて PTEN,APC 遺伝子の 不活化によって卵巣類内膜腺癌が発生すること を明らかにした〔 〕.この結果は PI K/PTEN, WNT/β-catenin 経路が類内膜腺癌の発生に関与 していることを示している. 内膜症関連腫瘍の病理学的特徴と発生機序 内膜症性囊胞からはさまざまな腫瘍が発生す る.Heaps らの報告では類内膜腺癌が %,明 細胞腺癌が %,肉腫が %を占める.一方, 本邦では明細胞腺癌が多く,小林らの報告では その割合は %に達する.自験例(京都大学病 院)では %が明細胞腺癌, %が類内膜腺癌 で占められ,内頸部様粘液性境界悪性腫瘍の頻 度が %であった.

.明細胞癌 Clear cell carcinoma

子宮体部内膜腺の妊娠性変 化(Arias-Stella 反応)を模倣する腫瘍細胞で構成される腺癌で, 豊富で淡明な細胞質を有する腫瘍細胞とホブネ イル様外観が特徴である.内膜症の合併頻度は ∼ %(平均 %)である.肉眼的には弛緩 現抑制が細胞株のアポトーシスを誘導すること を報告した〔 〕.HNF― β 発現の意義として, ①アポトーシスと細胞周期の制御,②グリコー ゲン産生,③化学療法抵抗性,④解糖系代謝経 路の促進による酸化ストレス回避,が指摘され ている.山口らは明細胞癌に特有の遺伝子発現 プロファイルを見い出し,clear cell signature として報告した〔 〕.明細胞癌で異常がみら れる遺伝子群は活性酸素代謝,酸化ストレスへ の応答,サイトカイン産生,グリコーゲン産生, 血液凝固などに関与しており,明細胞癌に特有 の細胞形態,血栓症(Trousseau 症候群)など の臨床病理学的特徴をよく説明している〔 〕. その他山下らは,Met/PI K/AKT 経路の活性 化が明細胞癌の発生において重要な役割を演じ ることを明らかにした〔 〕.ARID A(AT-rich interactive domain A)はクロマチン変換因子 である SWI―SNF 複合体の付属サブユニットで ある BAF a をコードし,その不活化は細胞 回転を促進することが知られている. 類内膜癌の前駆病変が異型内膜症であると認 識されているのに対して,明細胞癌の前駆病変 は必ずしも明らかにされていない.明細胞化生 などが前駆病変として想定されているが,実際 には腺癌の側方進展との判別が容易ではない. .類内膜癌 Endometrioid carcinoma 子宮体部の内膜腺上皮を模倣する腺癌であ る.患者の平均年齢は 歳だが,内膜症に関連 する場合には発生年齢がこれよりも ∼ 歳程 度若い. ∼ %の例では子宮体部において類 内膜癌を合併している.肉眼的には内膜症性囊

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胞と併存する充実部性成分として存在すること が多い.充実部は灰白色調ないし黄白色調で, 組織学的には高円柱状の異型細胞で構成される 不整形の腫瘍腺管で構成されるが,篩状構造, 乳頭状構造,充実性増殖がみられることがある. ときに類内膜境界悪性腫瘍が併存していること がある.その場合は硬い充実性成分として認め られ,組織学的には腺線維腫のパターンを示す. 類内膜癌は,体部内膜の類内膜腺癌と同様に 充実性成分の量に基づいて悪性度が評価され る. 多くが Grade― ないし Grade― に相当し, 卵巣に限局するため,一般的には卵巣類内膜癌 の予後は比較的良好である.しかし,ときに Grade― に相当し,診断時に腹腔内に播種をき たしている例がある.こうした腫瘍は生物学的 には高悪性度漿液癌に近く,TP 遺伝子変異 がみられ,de novo 発生とみられるものが多い. すなわち,類内膜癌にはⅠ型に相当する低悪性 度,Ⅱ型に相当する高悪性度の腫瘍があると考 えられている〔 〕. 類内膜癌で認められる異常としては PTEN 遺伝子変異(約 %),CTTNB (βカテニン)遺 伝子変異( から %),KRAS 遺伝子変異( ∼ %),PIK CA 遺伝子変異( #%),ARID A 遺伝子変異( %)が知られている〔 〕. .内頸部様粘液性境界悪性腫瘍Endocervical-like adenocarcinoma 粘液性境界悪性腫瘍約 ∼ %程度を占め, より頻度の高い腸型粘液性境界悪性腫瘍とは異 なる臨床病理像を示す.単房性の囊胞内で漿液 性境界悪性腫瘍に類似した顆粒状の隆起を形成 し,組織学的には線維性の芯を子宮頸部の頸管 腺上皮を模倣する粘液上皮が被覆するが,線毛 を有する細胞が種々の程度で混在する(図 ). 腹膜病変は漿液性腫瘍と同様のインプラントの 形を示す.Ⅲ期であっても予後はきわめて良好 である.遺伝子的には漿液性境界悪性腫瘍より もむしろ類内膜腫瘍に近似している〔 , 〕. 稀に内頸部様粘液性腺癌に進展する例がある.

.扁平上皮癌 Squamous cell carcinoma 卵巣原発の扁平上皮癌の多くは奇形腫の悪性 転化の結果生じるが,稀に内膜症性囊胞を背景 に発生することがある.鑑別診断として,悪性 ブレンナー腫瘍,扁平上皮への分化を示す類内 膜腺癌,子宮頸癌の転移が挙げられる. .癌肉腫 Carcinosarcoma(悪性ミューラー管 混合腫瘍 malignant mullerian mixed tu-mor ; MMMT) 癌腫種と肉腫成分で構成される腫瘍で,肉腫 成分は骨・軟骨や横紋筋への分化を示す異所 性,特定の分化方向を示さない同所性に分けら A B 図 内頸部様粘液性境界悪性腫瘍 (A)線維性の芯を有する乳頭状発育を示しているために構築は漿液性境界悪性腫瘍に類似する.(B)主として 頸管腺上皮を模倣する粘液産生円柱上皮で被覆されているが(左),好酸性細胞質を有する線毛細胞がさまざま な割合で混在する(右).

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れる.現行の WHO 分類( 年)では内膜腫 瘍のカテゴリーに含められているが,実際には 漿液癌に関連するものが少なくないことから, 多くは de novo 発生のⅡ型腫瘍であると考え られている. .腺肉腫 Adenosarcoma 良性上皮性成分と悪性間葉系成分で構成され る 相性腫瘍で,肉眼的には葉状の発育が特徴 的である.上皮性成分は内膜腺上皮に類似する ことが多い.卵巣原発の腺肉腫は約半数の例で は診断時に卵巣外に進展している例が多いた め,子宮体部の腺肉腫と比較して予後は不良で ある.被膜破綻や悪性度が高い場合,肉腫成分 の過剰発育(stromal overgrowth)がみられる 場合は再発のリスクが高い.

.類 内 膜 間 質 肉 腫 Endometrioid stromal sar-coma 増殖期の体部内膜間質に類似する組織で構成 される間葉系悪性腫瘍で,内膜症に関連するも のと de novo 発生のものがある.組織学的に はらせん動脈を模倣する小血管を伴う楕円形の 核を有する短紡錘形細胞の増殖で構成される (図 ). 文 献

〔 〕Sampson JA et al. Endometrial carcinoma of the ovary, arising in endometrial tissue in that organ. Arch Surg ; : −

〔 〕Heaps JM et al. Malignant neoplasms arising in

A B C 図 低悪性度内膜間質肉腫 (A)内膜症性囊胞の一部で壁在結節のかたちで併存する肉腫成分.(B)増殖期の体部内膜間質肉腫を模倣する 肉腫成分.楕円形ないし類円形核を有する短紡錘形細胞で構成されており,細胞像は比較的均一で,著しい多 形性は認められない.らせん動脈を模倣する小血管が随所で認められる.(C)腹腔内の播種結節.

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Endocervical-like(Mullerian)muci-nous borderline tumours of the ovary are fre-quently associated with the KRAS mutation. Histopathology ; : −

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参照

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