平成22年8月24日 挾間副会長より 「腰背痛を起こす疾患」その2
症例1
30歳男性で6日前から腰痛あり。1週間前までは健康。引越しを手伝った翌朝に、腰から臀部 にかけての広範な痛みで目が覚めた。 痛み止めは有効。臥床安静時には体調よいが、ジムで重量挙げをすると痛みが増強する。 既往歴はない。外傷、体重減少、発熱、悪寒、最近の感染症もない。喫煙・飲酒・注射薬物の 使用もない。 背部痛は下腿まで放散しない。腰背部に沿って軽度の圧痛を認める。 下肢筋力、感覚、反射は正常。SLRテスト陰性。 SLRテスト(ラセーグテスト) 仰臥位で膝を伸展させたまま、股関節を屈曲する。(仰向けで脚を伸ばした状態で上に上げる)腰 部・下肢後面に激しい痛みがあると陽性。右のヘルニアは右下肢のテストに出やすいが、症状がひど い場合、逆の下肢に出ることがある。L4以下のヘルニアで。 一般的な腰痛と考えられる 通常1ヶ月以内に症状は治まるが、構造的な弱点があると考えられ、同じ場所に再度痛みが再 発しやすい。症例2
47歳女性。2日前までは元気だったが、数時間草むしりをしてから腰痛が出現した。うずく ような鈍い腰痛が持続し、臀部や股関節に放散する。翌日に数時間座っていた後、痛みが右膝 の後に放散するようになった。痛み止めはそれほど効果ない。既往歴は特になく、薬剤使用歴、 全身症状もない。 診察では、背部の圧痛はなく、両股関節の可動域は十分である。右下腿をおよそ60度まで挙上 した際には、腰部に痛みが見られる。筋力や感覚は正常だが、右のアキレス腱反射が消失して いる。 腰椎椎間板ヘルニア 通常、坐骨神経痛が無いとヘルニアとは診断されない。 診断のポイントは(筋力、腱反射、知覚障害も)左右差があること L4/L5間のヘルニアで傷害されるのはL5神経根 L5/S1間のヘルニアで傷害されるのはS1神経根、であることに注意。 ほとのどの腰椎椎間板ヘルニアはL5やS1神経根が障害される。 薬物やブロックなどの保存的治療で、数ヶ月経過を見るのが普通だが、 ヘルニアが大きくて馬尾が圧迫されると、尿漏れや肛門括約筋の緩みなどが起こるため、緊急 手術も必要になる。症例3
75歳女性。元気であったが、2日前から腰部正中に痛みが出現する。痛みは持続的で次第に 強くなってくる。痛みは時々腰部に沿って帯状に広がり、腹部周囲にまで広がる。発熱や体重 減少はない。 既往歴として18年前に転倒して橈骨骨折、15年前に乳がんに罹患し手術後、放射線、タモキシ フェン投与を受けている。乳癌に関しては毎年乳房撮影を受けているが再発はない。 診察では、腰部に沿って広範な圧痛点があり、脊柱の圧痛点はない。皮疹はなく腹部診察でも 異常なし。腱反射、筋力感覚はいずれも正常で、SLRテストは陰性。 腰椎Xpを実施した。L1の椎体圧迫骨折が見られた。 骨粗鬆症による腰椎の圧迫骨折と考えられる。 神経根帯状に広がる痛みが時々出るというのは、神経痛が出ているということです。骨折部が 近接するを刺激しているのだと考えます。 骨粗鬆症による腰痛であれば、1ヶ月以上安静にすると痛みは軽減する。 癌によるものであれば、痛みが続き、特に夜間寝ていてもしつこい痛みが続く。 どちらによるものかは最終的にMRIで判断する。症例4
52歳女性。2ヶ月前に、重い荷物を持ってから痛みが始まった。しつこく続く痛みで、ベッ ドで安静にしているにも関わらず増悪し、市販の痛み止めを服用しても改善を認めない。8年前 に乳癌を患ったが、最近体重が約4.5kg減少したことを除けば、乳癌切除以来、健康であった。 神経学的検査、SLRテスト陰性。 1ヶ月以上続くしつこい痛みで、安静時にも改善せず、体重減少も伴うことから、癌によるもの を考えさせます。乳癌の既往があるため、まずは乳癌の転移を疑います。 癌が脊椎に転移すれば、体重を支える構造ではないため、容易に圧迫骨折を起こします。小さ な癌の転移が脊椎にあったとしても、圧迫骨折を起こさなければ、痛みはないと考えます。こ ヘルニア L5 神経 S1 神経 馬尾神経 S1 L5の例は痛みがあるので圧迫骨折を起こしているはずです。
症例
5
65歳男性。数ヶ月前から腰痛が持続する。痛みは臀部、股関節、下腿へは放散しないが、歩 行時に時々下腿のしびれを感じる。痛みは歩行によって増悪するが、スーパーでカートを押し ているときには痛みが消失することに気付いている。就寝中に痛みはなく、座位よりも立位で 強い痛みがある。市販の痛み止めはある程度有効だが、活動性がとても制限されたと感じてい る。 既往歴には、高血圧、糖尿病、膝OAあり。癌の病歴なし。背部の圧痛なく、SLRは両側とも院 生、腱反射に左右差なく、筋力正常、足で振動覚低下しているぐらい。 腰椎Xpでは変性椎間板、脊椎すべり症、椎間関節面変形などを示し、これらは中等度~重度 の変形性関節症と矛盾しない。また、転移性癌でみられるような、圧迫骨折、骨融解性・骨硬 化性病変もみられなかった。 腰部脊柱管狭窄症:下線部がこの病気に特徴的な所見。 「カートを押しているとき」:前屈で痛みが軽減する 足の振動覚低下:糖尿病を長期間患っている方に多い。高血糖が持続することによる神経障害。 長い末梢神経から症状が出るため、まず足に症状がでる。足の感覚が鈍る感じがする。素足な のに厚い靴下を履いた感じ。歩行による症状悪化や、腰痛などはない。症例6
線写真で59歳女性。4日前から皮を剥がれたような鈍重な背部痛が持続するため受診。高血 圧で降圧剤を服用していたが効果不十分で、来院時血圧は172/100。胸部Xは、胸部下行大動脈 の軽度の拡大。 大動脈解離(かいり)の症例。造影CT、MRIで診断された。 大動脈の壁は、内側から内膜、中膜、外膜の三層構造となっており、真性瘤は、大動脈の壁が 三層構造のまま“こぶ状”になる。 大動脈解離は傷ついた内膜が裂け、そこから入り込んだ血液が中膜を引き裂いた状態。この大 動脈解離は、突然、胸・背部の激痛を伴って発症する。解離が伸展すれば痛みも移行する。解 離腔が小さければ厳格な血圧コントロールで解離の進行を抑制できるが、緊急手術を必要とす ることも多い。無治療だと2日以内に半数の患者さんは亡くなるとされる。症例7
71歳男性、時々腰痛がある。血圧150/80。上腹部に直径5cmの拍動性の腫隆を触知する。 腹部大動脈瘤の症例。腹部エコー、造影CTが診断に有用。大動脈瘤(真性瘤)は破裂するまで無 症状であるが、腰痛や腹痛を呈することもある。この方は運がよかったとも言える。 大動脈解離は激痛のため受診する。急いで治療しないと、死亡する危険がある。 大動脈瘤(真性瘤)は自覚症状が出ることは少なく、偶然発見される。 どちらも動脈が破裂する危険がある。
症例8
34歳男性。右側腹部痛のため来院。発熱はないが、痛みはひどい様子で、のたうちまわるよ うにベッドに横たわっている(もっと楽な体位になろうと動き回る)。右側腹部痛はソケイ部に まで放散する。右CVA(肋骨脊柱角部)に叩打痛あり。発熱、頻尿、無尿などはない。肉眼的 血尿を認め、尿検査で潜血が証明された。 尿管結石 一見尿管結石のような症状でも、不整脈、高血圧のある場合、大動脈解離も疑うことが重要。 見逃すと生命にかかわる。症例9
70歳女性。左腹部の痛みが突然出現。疼痛は帯状で背中から左腹部にかけて帯状に見られる。 心臓と肺に所見はないが、痛む部位に軽く触れるだけでも激痛が走るという。皮疹は見られず、 心電図も異常なし。 帯状疱疹 体内に潜伏していた水痘ウィルスが(免疫の低下により)活性化すると症状が現れる。 デルマトームに沿って片方だけに痛みが出るのが特徴。 軽く触れるだけで激痛:神経痛の特徴。症例10
24歳女性。5ヶ月前からの腰痛を主訴に受診。腰痛は起床時に最も強くこわばっているが、 日中にゆるんでくる。運動を制限し、痛み止めを使用しても状態は改善しない。痛みは足まで 大 動 脈 内膜 中膜 外膜響くことはなく、筋力低下もない。Schoberテスト陽性。血沈は37. 強直性脊柱炎(AS) 血沈10が正常とすると、37は炎症があるということ。 ※ヒト組織適合型抗原のHLA-B27をもつ場合が多い。日本人ではこの抗原を持つヒトは0.4%と 非常に少なく、日本人には少ない病気である。 ※Schoberテスト 腰背部中央(脊椎械突起)に10cmの間隔で2つの点を決め、前にいっぱいに曲げさせた時(屈 曲・前屈)、その間隔が 5cm以上延長(伸展)しない場合には異常、すなわち脊椎の可動域制 限があると判断する。
膵臓癌について
膵臓は十二指腸につながって膵液を分泌する器官。十二指腸につながる辺りが膵頭部、膵体 部は胃の後方を走り、膵尾部は背中に向かう。膵頭部に癌ができた場合は、膵管や胆管を塞ぐ ことで黄疸が出て早期に発見される可能性がある。ただし、それより末梢側で発生した場合は 症状が出にくいため、発見時には手遅れになる。膵臓の厚みはせいぜい2cmであり、1cmの小 さな膵臓癌でも膵臓の外に及んでいる可能性がある。また、膵臓の前方には胃の空気があるた め、超音波観察に適さないことも多い。診断には造影CTが必要になる。 膵臓癌を疑い、精密検査を進めた方がよい症状には以下のものがある。 ○最近、上腹部痛、背部痛(胃の左後ろあたり)、吐き気があり、食欲不振で、胃内視鏡検査を 受けたが特別な原因が無く、胃薬の投与を受けているが、腹痛が改善しない。しかも体重減少 もみられる。 ○最近、耐糖能障害を指摘されたり、糖尿病のコントロールがよくなくなったりした場合。し かも、原因のはっきりしない高度の体重減少や上腹部痛、背部痛がある。 ○最近、血液中のアミラーゼやリパーゼが高値で、慢性膵炎の疑いがあるといわれているが、 その後、精密な検査をうけていない。→エラスターゼ1は小膵臓癌の検出に有用。 ○最近、腹部超音波検査で、膵管あるいは胆管、胆嚢の拡張を指摘されたが、その後、専門の 検査を受けていない。補足
①脊髄はL1の高さで終わっており、このレベルより下には馬尾と呼ばれる下位運動ニューロン しかない。 このレベルより下の障害では、以下の症状を示す。 典型的な症状 1.デルマトームに沿った疼痛、感覚障害、異常感覚 2.筋力低下 3.腱反射の低下あるいは消失頚椎~L1の脊柱管には脊髄があるので、上位運動ニューロン障害となり、腱反射は亢進する。(詳 しくは次回以降に?) ②硬膜外ブロック・神経根ブロック これらの手技で疼痛を起こしている神経領域を麻酔する。毎週繰り返すことで、神経痛症状が 解消することもある。 硬膜外ブロック:仙骨孔から薬液を注入するのが一般的。 症状とMRIの結果の異なる人は、疑わしい神経根にブロック注射を施して、場所を確定するこ ともある。 硬膜 脊髄 麻酔 ブロック注射