解説:特集
分散協調型エネルギー管理システム構築エネルギーマネジメントシステムに貢献する
地球科学と需要科学
中
島
孝
*
・中 島 映 至
***
・入 江 仁 士
****
下 田 吉 之
*****
・岩 船 由 美 子
******
・日 高 一 義
*******
山 本 義 郎
**
・竹 中 栄 晶
***
・渡 邊 武 志
**
Pradeep K
HATRI
****
・打 田 純 也
********
・井 上 豊 志 郎
********
日 暮 明 子
*********
・錦 織 聡 一
*******
・
本 将 晴
*******
荒 牧 敬 次
*******
*,**東海大学情報技術センター 東京都渋谷区富ヶ谷 2-28-4 ***宇宙航空研究開発機構地球観測研究センター 茨城県つくば市千 現 2-1-1 ****千葉大学環境リモートセンシング研究センター 千葉県千葉市稲 毛区弥生町 1-33 *****大阪大学大学院工学研究科 大阪府吹田市山田丘 2-1 ******東京大学生産技術研究所 東京都目黒区駒場 4-6-1 *******東京工業大学イノベーションマネジメント研究科 東京都港区芝 浦 3-3-6*,**TRIC, Tokai University, 2-28-4 Tomigaya, Shibuya-ku, Tokyo, Japan ***EORC, JAXA, 2-1-1, Sengen, Tsukuba, Ibaraki, Japan
****CEReS, Chiba University, 1-33 Yayoi, Inage, Chiba, Japan *****Graduate School of Engineering, Osaka University, 2-1,
Ya-madaoka, Suita, Osaka, Japan
******IIS, The University of Tokyo, 4-6-1, Komaba, Meguro-ku, Tokyo, Japan
*******Graduate School of Innovation Management, Tokyo Institute of Tech-nology, 3-3-6, Shibaura, Minato, Tokyo, Japan
********東京大学大気海洋研究所 千葉県柏市柏の葉 5-1-5
*********国立環境研究所環境計測研究センター 茨城県つくば市小野川 16-2
********AORI, The University of Tokyo 5-1-5, Kashiwano-ha, Kashiwa, Chiba, Japan
*********NIES, 16-2, Onogawa, Tsukuba, Ibaraki, Japan * E-mail: [email protected]
キーワード:衛星観測 (satellite observation), 地球モデル (earth model), 再 生可能エネルギー (renewable energy), 消費者行動 (consumer behavior), 需要モデル (demand model). JL 0007/16/5507–05852016 SICEC
1
.
地球科学と需要科学の融合研究
JST, CREST/EMS
研究領域のひとつ中島最強チー ムは,地球科学分野とエネルギー需要分野の融合チーム である.元来,地球科学は地球物理学をベースとする理 学分野であり,一方のエネルギー需要は工学分野である. チーム運営においては,以下に示すような5
つの課題を 設定した.Q1.
地球科学データの推定精度はどの程度か.Q2.
エネルギー需要を規定する要因は何であるか.Q3. EMS
における需要家の調整能力にはどのようなも のがあるか.Q4.
地球科学データによってエネルギー需要はいかに影 響を受けるか.Q5.
これらはEMS
にどのような影響をもたらすのか. 地球,エネルギー需要ともに,EMS
における利活用を 前提とする現況把握と予測方法の確立が非常に重要な要 素となっている.つまり,地球とエネルギー需要を「科 学」として捉えてEMS
に貢献することをチームの目標 に据えた. 地球科学では主に高頻度の面的な日射量把握,日射量 の短時間予測,日射変動の解析,さらに精度保証等を実 施する.一方のエネルギー需要科学では,需要家の行動 変容や需要のモデル化,そしてHEMS (House Energy
Management System)
などの個々のマネジメントシステ ムの研究を実施する.従来,地球科学とエネルギー需要 科学が共同研究を行うことは,あったとしても希であっ たと思われる.しかし,近年の再生可能エネルギー活用 の高まり,あるいは分散協調型EMS
の必要性の高まりを 受けて,昨今は両分野が協働する時代になっている.研 究の実施において地球科学,エネルギー需要科学からさ まざまなデータが出てくる.そのデータを共有する機能 としてデータ・インタフェースを設置した. 本解説では,地球科学とエネルギー需要科学の主要な 接点について適宜言及しつつ,EMS
分野における地球 科学,エネルギー需要科学,データ・インタフェース研 究の進捗と計画についての紹介を行う.2
.
地球科学分野の進捗と計画
2.1
静止気象衛星を用いた日射量推定 静止気象衛星「ひまわり8
号」は2015
年7
月の運用 開始に伴いテレビの天気予報等で紹介されているように,超高頻度・高精細観測である.特に観測波長帯が
3
倍以上 になったことにより,雲やエアロゾルを初めとする多く の情報を得ることが可能となった.衛星データを用いて 地上に到達する日射量の推定をする際に,雲,大気中微 粒子(
エアロゾル)
,そして水蒸気の量や特性を明らかに する必要がある.当研究チームでは,衛星観測からの雲 特性推定にCAPCOM
アルゴリズム1), 2),エアロゾル推 定にREAP
アルゴリズム3)を使用している.地球の大気 上端に到達した太陽放射はエアロゾルや雲などの微粒子 や水蒸気などの吸収ガスによって散乱・吸収され地上に到 達する.このとき太陽光の波長に対して微粒子や吸収ガ スの影響は異なるため,各大気要素の波長特性を考慮し て日射量を計算することが重要となる.日射量と大気場 の経験式や雲の反射を単純化した近似式を用いて計算す る方法では太陽エネルギーを正確に見積もることはでき ない.したがって,太陽放射の高精度な計算はRSTAR
に代表される放射伝達コードが有効である4), 5).RSTAR
を用いることで微粒子と吸収ガスの混在する 大気を通過する太陽放射を高精度に計算することが可能で ある.一般的に高精度な計算には物理過程に多くの計算時 間が必要となるが,本研究では放射伝達計算にニューラル ネットを用いて関数近似することで高速化する手法が適用 されている.作成したソルバーは高速な放射計算ソルバー として作動する6).現在はひまわり8
号観測データから 日射量を計算する準リアルタイム解析システム(EXAM
SYSTEM)
が稼働しており,東アジア・西オセアニア領 域をカバーする広域の日射量プロダクト(4x4km)
と東 アジア域の2.5
分時間解像度日射量プロダクト(1x1km)
を作成している.このとき全体の計算に掛かる時間は約140
秒である.図1
は,このようにして得られた日本付 近の地上到達日射量(W/m
2)
である.本来,地上到達日 射量の観測は地上に設置された有限個の日射計によって 図1 ひまわり8号のデータ解析から得られた日本付近にお ける地上到達日射量の分布図(2015年5月19日の事例).水 平分解能は1 km.(カラー図版は口絵1参照) 行われてきたが,静止気象衛星を用いることにより,わ ずか数キロメートルの分解能で全球規模の日射量を得る ことが可能になった.2.2
地球モデルを用いた日射量推定 (1
)NICAM-SPRINTARS
モデル 再生可能エネルギーが大量導入された社会においては, 日射量の短時間予測の要望が大きくなることが予見され ている.これは,近未来の日射量分布や強度を電力の供給 計画に反映させるためであり,たとえばある地域の翌日 の日射量の変化をあらかじめ知っておけば,火力などに よる発電計画がより具体的に立てられるようになる.し かしながら,日射量の予測は簡単ではない.地上に到達 する日射量を最も大きくコントロールする大気パラメー タは雲である.雲の成長発達は非常に複雑な大気の状態 の結果であり,これらをモデルで表現して雲ひとつひと つの近未来の姿を描き出すことは現在のところ非常に困 難である.それでもいくつかの手法が提案されている.本 研究課題では,NICAM
非静力雲解像モデル(
雲成長過 程が表現できる地球モデル)
7)とSPRINTARS
エアロゾ ル輸送モデル8)を融合したNICAM+SPRINTARS
モデ ルを利用し,エアロゾルと雲の相互作用も考慮した日射 量算定を試行した. (2
) 雲同化実験 実際の地球の状態をもっとも如実に反映しているのは, 衛星観測データである.そこで,NICAM+SPRINTARS
モデルによって計算される雲水密度を衛星観測からの雲 水密度の推定値(Qc)
にナッジング法(
観測が得られてい るグリッドにおいてシミュレーションの値を観測値に近 づける処理)
により同化する手法を開発した.すなわち 地上到達日射に最も大きな影響をあたえる雲を同化する というアイデアである.図2
は,気象庁メソスケール客 観解析気象データ(MSM)
の気象場(
風,気温,相対湿 図2 衛星推定日射量(GMS)と,NICAM + SPRINT-ARSモデルの出力.(MSM)は気象庁メソスケール客観解 析気象データを同化した場合,(MSM+Qc)は気象庁メソ スケール客観解析気象データと衛星推定雲水密度の両方を同 化した場合.NICAMモデルにダイアモンド格子系(全球モ デルの注目領域に多くの計算点を配置する手法)9)を適用した ため,有効描画範囲が本州付近を含む菱形の領域に限定され ている.また(GMS)の図もそれに伴った有効描画範囲とし ている.(カラー図版は口絵1参照)度
)
,および衛星観測からの推定雲水密度(Qc)
の同化に よって得られた2012
年5
月2
日から7
日にかけての日 本標準時12
時の日射量の分布を示す(MSM+Qc)
.比較 のため,Qc
の同化は行わずにMSM
の気象場のみを同 化した結果(MSM)
も示す.これらを衛星から推定され た日射量(GMS)
と比較してみると,MSM
のみでモデ ルを拘束するよりも,衛星からのQc
も同時に拘束する 方が,衛星から推定した日射量に近づくことがわかる.2.3
日射量変動の解析 日射量はさまざまな時間スケールの変動を示すため,そ の利活用を図るためには変動の定量化が必要である.当 チームでは慶應義塾大学のグループと共同研究で,地上 観測日射量データを用いてサンプルエントロピーと呼ば れる変動指標を算出した.サンプルエントロピーは日射 量などの時系列の不規則性を定量化する測度であるため, たとえば気象の急激な変化の予兆検出に活用できる可能 性がある.日本国内49
ヶ所の気象庁観測所で観測された1
分間積算全天日射量データを使用した計算では,台風の 影響による雲に覆われた領域ではサンプルエントロピー が増大し,雲量が少ない領域ではサンプルエントロピー が小さいことがわかるなど,成果が得られている10).2.4
検証 衛星観測や地球モデルで得られた日射量は推定値であ ることに留意したい.推定値を活用するためには,その 誤差を定量化する必要がある.地表における日射量の真 値は,地上観測地点に設置された日射計によって得るこ とができる.本研究チームでは,各種衛星プロジェクト と共同でSKYNET
と呼ばれる国際地上検証システムを 構築してきた.SKYNET
はエアロゾル・雲・放射を主 な観測対象とし,東アジアを中心に数多くの地点で連続 データを取得している.そのうち,日射計を有し本研究 課題で利用しているサイトは,国内外合わせて約10
地点 にのぼる.図3
は,SKYNET
千葉大学サイトに設置さ 図3 SKYNET千葉大学サイトに設置された日射計観測に よる日射量(横軸)と衛星観測から得られた日射量(縦軸)の 比較. れた日射計(
横軸)
の観測値と,衛星推定日射量(
縦軸)
の 相関図である.図に示されるように,地上日射と衛星推 定日射の相関は強く,RMS
誤差は60W/m
2∼90W/m
2 程度と小さいことがわかる.主な誤差要因として衛星観 測の解像度(
水平1km)
の影響が挙げられる.たとえば, 衛星観測の解像度以下のサイズの雲が存在する場合,地 上日射と衛星推定日射に大きなずれが生じてしまう.つ ぎの要因としては,エアロゾルの効果である.晴天時に おいても大気中にはエアロゾルが存在しており,このエ アロゾルの存在により衛星推定日射が過大評価されてし まう可能性がある.3
.
エネルギー需要科学分野の進捗と計画
3.1
人間の行動と需要 エネルギーの需要は産業・業務需要,一般家庭需要,交 通需要などに分類されるが,どの需要にせよ人間の日々 の行動がその数値を決定していることは変わりのない事 実である.すなわち,これらの需要の変化は,人間の行動 の変化に依存している.それでは,このエネルギーの需 要に関わる人間の行動の変化は,どのような要因により 影響を受けるのであろうか.本研究課題はこの基本的な 問いにまず電力需要を対象として答える試みである.環 境政策の手法は,直接規制的手法,枠組規制的手法,経 済的手法,自主的取組手法,情報的手法,手続き的手法に 区分できる11).従来の研究は経済的要因に着目したもの が多く,その効果も報告されているが,またその効果や 反応は時間経過と共に減少することも報告されている12). われわれの研究では情報的要因による電力需要家の行動 の変容を主に注目しており,現在までに消費電力の実績 値のリアルタイム可視化における実証実験と,行動の意 義の提示による実証実験を行った.消費電力の実績値の リアルタイム可視化における実証実験は一般家庭を対象 にして行った.消費電力を配電盤よりモニタリングし,タ ブレット端末にその消費実績・平均値等を表示する実験 システムを開発し,表示情報の内容や表示するタイミン グと電力消費の関係を分析した.その結果,平均からあ る程度のずれがある需要家のクラスターが,情報の提示 による影響を受けやすい傾向にあることが観察された13). 行動の意義の提示による実証実験では,需要家に対して 望ましい行動を促すアドバイス(
行動アドバイス)
をラン ダム表示した上で,つぎの6
つの行動意義メッセージを 表示することで行動変容効果について検討した.1)
社会 規範(
記述的規範) 2)
社会規範(
記述的規範+
命令的規範)
3)
自己利益4)
自己損失5)
環境保護6)
社会的責任.こ れらは海外の先行研究で用いられたものに加え,プロス ペクト理論における利益と損失の行動変容差異を測定す る目的で設計した. 社会規範は個人の行動に対する拘束性を伴うが,拘束 の強さや影響の及ぶ範囲は個々に異なり,国別でも異なる.持続可能な電力消費の削減を実現するには需要家の 主体的な行動が不可欠であり,社会規範による行動変容 の研究は重要と考える.実験の結果,多くの行動意義メッ セージは行動アドバイスのみよりも電力消費削減効果が 見られた.特に
2)
社会規範(
記述的規範+
命令的規範)
の 効果が高いことがわかった.また,日本独自の結果とし て,5)
環境保護の効果が高いことが判明した.なお,3)
自己利益と4)
自己損失については,大きな差が見られ なかった.本結果から日本においても社会規範は電力消 費削減の行動変容に一定の影響があると言える14).今後 は,新たな実証実験地である長崎県対馬市において,社 会的な意義の認識と個人の意図・意識(
社会規範)
のエネ ルギー消費への効果などの情報的手法の効果の検証,イ ンセンティブを個人にではなく集団に還元するグループ インセンティブによる集団的価値の効果の検証,などを 計画中である.3.2
需要データの収集分析,可制御性の検討 本研究課題では需要,特に家庭用需要に着目し,分散エ ネルギーマネジメントシステムの評価に有用な需要デー タの収集および精査を行い,その物理的特性や消費者の 受容性を考慮した可制御性の検討を行う.3.3.
で後述す る需要モデル構築の検証に貢献し,ほかの研究チームと のデータ共有の可能性について検討する.さらにすでに 構築したHEMS
モデルの実際のサイトへの適用を試み, ロジックの簡素化,実運用への道筋を明らかにする. (1
)HEMS
データ分析2014
年度までに収集した約1000
世帯のHEMS
デー タおよび属性情報に加え,2015
年度はさらに1000
世帯 ほど拡充し,より多様な世帯の分析を行うことができる 体制を構築した.メーカーごとに仕様の異なるHEMS
データを統一的にハンドリングできるデータベースを構 築し,下記の研究を行った. ①電力消費量の構造分析 解像度の高いHEMS
データを用いることで,用途別, 時間別の消費構造分析が可能となり,各説明変数の影響 を多面的に評価することができた(
図4)
15).今回用いた パラメータで,全体としては,5
割程度の説明が可能で あった.また,冷蔵庫,エアコン,エコキュート,IH
クッ 図4 家庭電力消費量に説明力の高い因子の抽出例(左:冬季, 右:夏季)15) (カラー図版は口絵2参照) キングヒータ,食器洗い乾燥機,浴室乾燥機,洗濯乾燥 機等,回路別計測で把握できる情報を整理し,運転時の 平均消費電力や平均負荷率など,実環境でのエネルギー 消費データを取得し,各家電の消費実態について重要な 示唆を得た. ②HEMS
データに基づくエネルギー診断HEMS
データを用いて自動的にエネルギー診断を行う ツールを作成し,診断結果をユーザーに示すことで実際 のエネルギー消費削減につながるかどうか,さらに,削 減行動の促進要因・阻害要因などについての検証を実施 した.その結果,エネルギー診断の効果は,オール電化 の戸建住宅にて,冬季3
∼4%
,夏季2%
弱程度が得られ たが,集合住宅では効果が表われなかった. (2
)HEMS
モデル構築 ①エコキュートデマンドレスポンスによるPV
抑制回避 の効果についての検証 給湯器メーカーと共同研究実施し,より実運用に近い エコキュート運用モデルを作成し,ダイナミックプライ シングを想定した際のエコキュートの経済運用がどのよ うなものか,それがPV
出力抑制回避にどのような効果 をもたらすかについて検討を行っている.現在モデルを 作成中である. ②関西エリアにおけるHEMS
のアグリゲーション効果 についてのシミュレーション16)HEMS
アグリゲーションモデルを関西エリアに適用 し,料金体系の異なる世帯グループを作成することによ り,負荷集中低減,出力抑制を回避する効果向上を確認 した(
図5)
.3.3
需要モデルの開発と検証 本研究課題では,各種EMS
の検討に必要となる,住 宅・建物の電力ロードカーブを,居住者の行動をベース に,電力消費機器の稼働や気象条件に基づく建築内の伝 熱現象・熱負荷の発生など,実際に電力消費が発生して いるメカニズムをできるだけ原単位化などの近似を入れ 図5 エコキュートによる太陽光発電抑制回避の効果検証(エ コキュート導入割合 上:戸建40%,集合20%,下:戸建 80%,集合40%) (カラー図版は口絵2参照)図6 住宅用エネルギーシミュレーションモデルと入力デー タベース(カラー図版は口絵2参照) ずに忠実にシミュレーションするモデルを開発し,計算 結果を
EMS
領域全体に提供することを目的としている. ロードカーブデータ生成にシミュレーション手法を用い る理由は,現在開発されているEMS
が実用化されるのは10
年,20
年先のことであり,その際には省エネルギー技 術の進展等により住宅ロードカーブは現在とは大きく異 なったものとなっているであろう17)ことなどによる.ま た,実際のロードカーブを正しく再現できるシミュレー ションモデルの構築は,エネルギー需要の発生メカニズ ムを明らかにすることとも同じ意味をもつ.以下,住宅 モデルと建築モデルそれぞれについてこれまでの成果を 記す. 住宅モデルに関しては,各種の実測・統計データ等を 利用することによってモデルに使用するパラメータの決 定をおこなった.特に,居住者の行動スケジュールデー タ18),行動と機器稼働の関係,機器の所有状況等につい てはその分散を考慮したデータベースを作成している(
図6)
.これらの成果を利用し,電力系統内約1200
軒のス マートメータで計測された電力ロードカーブの平均値と 同系統内の世帯分布を反映したシミュレーション結果を 比較したところ,夏期ピーク期と中間期の両者において 良い一致を示した19).これは,暖房以外の用途について シミュレーションモデルの精度が検証されたことを意味 する. 建物モデルに関しては,米国で開発されたシミュレー ションプログラムEnergyPlus
をエンジンとして,多様 な用途の建築に適応可能なモデルを開発している.これ まで,オフィスや小売店,病院などの建物用途別,建物 規模別に,建物の仕様,使われ方,熱源機器の種類別シェ アなどの情報をデータベースとして作成している. 今後,住宅モデルについては,パリ協定で提示された 日本の約束草案(
家庭部門,業務部門ともに現在に対し て2030
年にはおよそ40%
のCO
2 削減を目指している)
に盛り込まれた各種の省エネルギーメニューを取り込み,2030
年に想定される住宅のロードカーブを再現するこ と,地球科学サブグループが作成する高精度な気象デー タをシミュレーションのインプットとすることで,気象 の短時間間隔での変動が電力ロードカーブに与える影響 を評価すること,3.2.
に記載のHEMS
データを利用し たさらなるモデルの精度向上を計画している.4
.
データ・インタフェース
中島チームでは,地球科学と需要科学の間をデータ・ インタフェースで取りもつことにした.データ・インタ フェースでは,まずはWeb
ベースのポータル機能を構築 し,ここには気象庁や総務省統計局などが公開している オープンデータの取り込みやリンクを図ることで研究促 進に資すると共に,API
機能なども用いた気象情報提供 システムを包含する.先に述べてきた高頻度な衛星推定 日射や日射の短時間予測値の提供もデータ・インタフェー スが担当する.一方の需要科学分野の情報もデータ・イン タフェースを媒介したデータ共有を行う予定である.デー タ・インタフェース研究の一環として,2015
年10
月に豪 州で開催されたソーラーカーレース,WSC(World Solar
Challenge) 2015
へのデータサポートを行った.チャレ ンジャークラスと呼ばれるカテゴリーに東海大学のソー ラーカーチームが参戦したことから,当チームに対して, ひまわり衛星画像,衛星推定日射量などの情報提供を行っ た.レースでは,第3
位の成績を収めることができた20).5
.
まとめ
当最強チームのキーワードは,日射量およびその変動 要素,衛星観測,地球モデル,データ検証,再生可能エ ネルギー,CO
2 削減,人間の行動,可制御性,HEMS
モデル,需要モデル,データ・インタフェース等である. 再生可能エネルギーの活用をひとつの焦点とするエネル ギー管理システムの研究課題において,これまではこの ような分野融合の試みはなかったのではないかと思う. 多くの国際連携も視野に入れている.地球科学分野 では気象衛星データの活用では豪州科学産業研究機構(CSIRO)
との連携が始まった.日射量観測や検証シス テムにおいては,世界的な地上放射観測ネットワークで あるSKYNET
やAERONET
をベースとした研究を実 施している.一方のエネルギー需要科学では,消費者選 好を取り入れたデマンドレスポンス最適化モデルの構築 についての共同研究をClemson
大学と実施中である.ま た,EV (Electric Vehicle)
の活用が先進的に行われてい るノルウェーSINTEF Energy Research
チームとEV
を活用したデマンドレスポンスについての共同研究につ いて検討中である.そのほかにも,米Tennessee
大学CURENT
や中国との共同研究も想定している.また,Stanford
大学,Lawrence Berkeley National
Labora-tory, Univ. of California, Univ. of Cambridge, IBM,
Ludwig-Maximilans Univ.
などとの交流も始まった. 謝辞 本研究は,JST
,CREST
の支援を受けたもので ある.参 考 文 献
1) T.Y. Nakajima and T. Nakajima: Wide-area determination of cloud microphysical properties from NOAA AVHRR mea-surements for FIRE and ASTEX regions, Journal of the
At-mospheric Sciences,52, 4043/4059 (1995)
2) K. Kawamoto, T. Nakajima, and T.Y. Nakajima: A global de-termination of cloud microphysics with AVHRR remote sens-ing, Journal of Climate,14, 2054/2068 (2001)
3) A. Higurashi and T. Nakajima: Development of a two-channel aerosol retrieval algorithm on a global scale using NOAA AVHRR, Journal of the Atmospheric Sciences, 56, 924/941 (1999)
4) T. Nakajima and M. Tanaka: Matrix formulations for the transfer of solar radiation in a plane-parallel scattering at-mosphere, J. Quant. Spectrosc. Radiat. Transfer, 35, 13/21 (1986)
5) T. Nakajima and M. Tanaka: Algorithms for radiative inten-sity calculations in moderately thick atmospheres using a trun-cation approximation, J. Quant. Spectrosc. Radiat. Transfer, 40, 51/69 (1988)
6) H. Takenaka, T.Y. Nakajima, A. Higurashi, A. Higuchi, T. Takamura, and R. Pinker: Estimation of Solar Radiation by Neural Network based on Radiative Transfer, J. Geophys.
Res.,116 (2011)
7) M. Satoh, H. Tomita, M. Tsugawa, F. Xiao: Development of a next generation atmospheric general circulation model at Frontier Research System for Global Change (in Japanese),
Nagare,20, 37/46 (2001)
8) T. Takemura, H. Okamoto, Y. Maruyama, A. Numaguti, A. Higurashi, and T. Nakajima: Global three-dimensional sim-ulation of aerosol optical thickness distribution of various origins, Journal of Geophysical Research, 105, 17853/17873 (2000)
9) J. Uchida, M. Mori, H. Nakamura, M. Satoh, K. Suzuki, and T. Nakajima: Error and energy budget analysis of a non-hydrostatic stretched-grid global atmospheric model, Mon.
Wea. Rev. (2016) 10) 渡邊武志,高松尚宏,志田宇信,大森浩充,中島 孝:サンプルエ ントロピーを用いた日射量の変動の評価,日本気象学会秋季大会, 日本気象学会,福岡市 (2014) 11) 環境省: 規制的手法を含めた環境保全のための政策手法,平成 18 年 4 月 7 日閣議決定 第三次環境基本計画 (2006) 12) 技術研究組合 北九州スマートコミュニティ推進機構:北九州スマー トコミュニティ創造事業事業報告会 (東京) 資料 (2015) 13) K. Hidaka, S. Nishikiori, T. Numada, S. Tan, and M.
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Behavior Energy and Climate Change Conference,
Sacra-mento CA USA (2015)
14) 錦織聡一,日高一義,丹 俊貴, 本将晴:社会規範等メッセージに よる電力消費における行動動変容の効果分析結果,BECC JAPAN 2015,東京 (2015)
15) Y. Iwafune and Y. Yagita: High-Resolution Determinant Analysis of Japanese Residential Electricity Consumption Us-ing Home Energy Management System Data, Energy and
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16) T. Himeno and T. Ikegami: Effects of Home Energy Manage-ment, Systems for Reduction of Renewable Output Curtail-ment, IEEE PES Innovative Smart Grid Technologies 2015
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18) Y. Yamaguchi and Y. Shimoda: Evaluation of Behavior Model
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19) A. Taniguchi, T. Inoue, M. Otsuki, Y. Yamaguchi, Y. Shi-moda, A. Takami, and K. Hanaoka: Estimation of the Contri-bution of the Residential Sector to Summer Peak Demand Re-duction in Japan Using an Energy End-Use Simulation Model,
Energy and Buildings,112–15, 80/92 (2016)
20) 船山貴光,渡邊武志,竹中栄晶,木村英樹,福田紘大,山本義郎, 中島 孝:ソーラーカーレース支援のための気象情報可視化・配信 システムの構築,情報処理学会,東京 (2016) [著 者 紹 介] なか 中 じま島 たかし孝 君 1994年東京大学理学系研究科地球惑星物理専攻修了,2002 年に博士 (理学) 号を取得 (東京大学).宇宙航空研究開発機構の研究開発系職員 (1994∼2005 年) を経て 05 年から東海大学准教授,12 年に教授.現所属 は東海大学情報理工学部および東海大学情報技術センター (TRIC).日 本地球惑星科学連合,日本気象学会,日本リモートセンシング学会,米 国気象学会,米国光学会所属. なか 中 じま 島 てる 映 ゆき 至 君 大気科学,気候科学を専門とする.特にリモートセンシングと数値モ デルによる大気エアロゾル・雲の気候影響研究を行う.現宇宙航空研究 開発機構 (JAXA) 地球観測研究センター (EORC) センター長.日本 気象学会理事,日本地球惑星科学連合大気水圏科学セクションプレジデ ント,国際気象・大気科学協会 (IAMAS) 事務局長などを務める. いり 入 江え ひと仁 士 君し 2002年名古屋大学大学院理学研究科素粒子宇宙物理学専攻博士後期 課程修了,博士 (理学) を取得 (名古屋大学).国立環境研究所,海洋研 究開発機構を経て,12 年より千葉大学環境リモートセンシング研究セン ター.現在は同大学准教授.日本気象学会,米国地球物理連合,日本大 気化学会,日本地球惑星科学連合に所属. しも 下 だ 田 よし 吉 ゆき 之 君 1990年大阪大学工学研究科環境工学専攻博士課程修了,工学博士.大 阪大学工学部助手,大阪大学先端科学技術センター助教授,大阪大学大 学院工学研究科准教授を経て 2007 年から大阪大学大学院工学研究科環 境・エネルギー工学専攻教授.大阪大学環境イノベーションデザインセ ンター,大阪大学環境・エネルギー管理部副部長を兼任.空気調和・衛 生工学会,日本建築学会,エネルギー資源学会,International Building Performance Simulation Association所属.
いわ 岩 ふね 船 ゆ 由 み 美 こ 子 君 1993年 北海道大学大学院工学研究科電気工学専攻修士課程修了,2001 年 東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程修了.(株) 三菱 総合研究所 (1993∼98 年),(株) 住環境計画研究所 (2001∼08 年) 勤務 を経て,2008 年 東京大学生産技術研究所エネルギー工学連携研究セン ター講師,10 年同准教授,15 年 4 月より東京大学生産技術研究所エネ ルギー工学連携研究センター特任教授.電気学会,エネルギー・資源学 会,IEEE 所属.
ひ 日 だか 高 かず 一 よし 義 君 東京工業大学イノベーションマネジメント研究科教授.1984 年東京 工業大学大学院総合理工学研究科修士課程修了.同年日本アイ・ビー・ エム (株) 東京基礎研究所入所.IBM Research ワトソン研究所の戦略部 門での海外勤務を経て,東京基礎研究所ビジネス・サービス・リサーチ 担当部長.2009 年 8 月北陸先端科学技術大学院大学教授.文部科学省 科学技術政策研究所客員研究官.サービス学会理事,IEEE,情報処理学 会,日本オペレーションズ・リサーチ学会,経営情報学会の会員.2010 年 10 月より現職.博士 (理学). やま 山 もと本 よし義 ろう郎 君 1998年に岡山大学大学院自然科学研究科システム科学専攻博士後期 課程修了,博士号を取得 (理学,岡山大学).北海道大学大学院工学研究 科助手 (1998∼2001 年),多摩大学経営情報学部助教授 (2001∼04 年) を経て 2004 年から東海大学准教授,11 年に教授.現所属は東海大学理 学部および東海大学情報技術センター (TRIC).日本統計学会,日本計 算機統計学会,情報処理学会,米国統計学会,世界統計協会所属. たけ 竹 なか 中 ひで 栄 あき 晶 君 (正会員) 2003年千葉大学博士課程入学,09 年博士 (理学) の学位を取得.専門 は放射収支とリモートセンシング.静止気象衛星「ひまわり」のための 可視センサ代替校正技術の開発,放射伝達計算に基づくニューラルネッ トワークによる放射収支推定アルゴリズムの開発などを行っている.12 年より東京大学大気海洋研究所気候システム研究系研究員.15 年より宇 宙航空研究開発機構地球観測研究センター招聘職員.米国地球物理学連 合所属. わた 渡 なべ 邊 たけ 武 し 志 君 2013年北海道大学大学院環境科学院環境起学専攻博士後期課程を修 了,博士 (環境科学) を取得.同年 4 月より東海大学情報技術センター へ研究員として所属.JST/CREST/EMS 研究課題「分散協調型 EMS における地球科学情報の可用性向上とエネルギー需要モデルの開発」へ 従事.