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大学教育開発センターから大学教育基盤センターへ-香川大学学術情報リポジトリ

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大学教育開発センターから大学教育基盤センターへ

葛 城 浩 一

(大学教育基盤センター准教授)

1.はじめに

 大学教育開発センター(以下、センターと表記)は、2002(平成 14)年4月に旧香川大学に学内措 置として発足した大学教育開発センター(以下、旧センターと表記)を基礎として、旧香川大学と香 川医科大学が統合し(新)香川大学となった 2003(平成 15)年 10 月に省令施設として発足した。そ れからちょうど 12 年目の、暦でいえば一回りしたタイミングにあたる 2015(平成 27)年4月に、セ ンターは「大学教育基盤センター」として生まれ変わることになった。この機会に、大学教育基盤セ ンター誕生に至るまでのセンターのあゆみを振り返ろうというのが、本稿の意図するところである。  センターのあゆみについては、センター発足 10 周年を記念し、センターの紀要である『香川大学 教育研究』(2013)に「大学教育開発センターの 10 年を振り返る」という特集が組まれている。そこ には、センターの 10 年のあゆみが、初代共通教育部長であり、教育担当理事・副学長以外での唯一 のセンター長でもあった武重雅文によってまとめられている。また、センターを構成する共通教育部、 調査研究部、外国語教育部のあゆみが、センター専任教員である佐藤慶太、葛城浩一、最上英明・長 井克己によってそれぞれまとめられている。大学教育基盤センター誕生に至るまでのセンターのあゆ みを振り返ろうという本稿の意図からすれば、その後の3年間のあゆみを振り返ればそれで事足りる ように思われるかもしれない。しかし、その後の3年間のあゆみがそれ以前の 10 年間のあゆみの上 に積み上げられたものであることを考えれば、それだけというわけにもいかないだろう。  そこで本稿では、センター発足から大学教育基盤センター誕生に至るまでのセンターのあゆみを、 「初期改革期」、「中期改革期」、「後期改革期」の3期に分けて振り返ることとしたい。このうち、初 期改革期と中期改革期は、武重(2013)がいうところの、センター制度の定着を目指した初期の改革 期と、それに続くセンター制度自体の革新を目標にした改革期に対応した時期であり、後期改革期は その後の3年間のあゆみに対応した時期である。なお下記の表は、それらの時期区分とともに、各時 期のセンター役職者を示したものである。 表 時期区分と各時期のセンター役職者 センター長 共通教育部長 調査研究部長 外国語教育部長 初期 改革期 2003(H15)年度 10 月 竹内博明 武重雅文 早川 茂 - 2004(H16)年度 ↓ ↓ ↓ - 2005(H17)年度 4 月 ↓ ↓ ↓ 山田 勇 10 月 加野芳正 ↓ ↓ ↓ 2006(H18)年度 4 月 ↓ 中谷博幸 中西俊介 田村道美 10 月 阿部文雄 ↓ ↓ ↓ 2007(H19)年度 1 月 武重雅文 ↓ ↓ ↓

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中期 改革期 2008(H20)年度 4 月 ↓ ↓ 柳澤良明 高木文夫 2009(H21)年度 4 月 ↓ 田中健二 ↓ ↓ 2010(H22)年度 4 月 ↓ ↓ 櫻井佳樹 ↓ 2011(H23)年度 10 月 有馬道久 ↓ ↓ ↓ 後期 改革期 2012(H24)年度 4 月 ↓ ↓ 平 篤志 水野康一 2013(H25)年度 10 月 藤井宏史 ↓ ↓ ↓ 2014(H26)年度 4 月 ↓ 高橋尚志 石井知彦 ↓

2.初期改革期(2007(平成 19)年度まで)

 先述のように、初期改革期は、武重(2013)がいうところの、センター制度の定着を目指した初期 の改革期に対応した時期である。この時期の大きな仕事は、旧センターにおけるセンター制度の基礎 の構築と、旧香川大学と香川医科大学の統合に伴うセンター制度の基礎の再構築であった。その詳細 は武重(2013)に譲ることにして、ここではそのポイントについてのみ押さえておくことにしたい。 2-1.旧センターにおけるセンター制度の基礎の構築  そもそも旧香川大学では、なぜ旧センターを発足させる必要があったのだろうか。二代目共通教育 部長であった中谷博幸は、旧香川大学の全学共通教育の運営・実施体制には3つの問題があったと指 摘している(中谷、2007)。すなわち、①カリキュラム編成やその実施に責任を持つ有効な組織の欠如、 ②継続的に大学教育について調査研究する上での不十分さ、③全学の教員一人一人が全学共通教育を 担うという意識の不十分さ、といった問題である。  こうした問題を解決し、全学共通教育を責任を持って運営・実施する組織として構想されたのが旧 センターである。旧センターには、①の解決のために、全学共通教育に関わるカリキュラム編成権と 授業担当教員の選任権を有し、カリキュラムを適切に実施する責任を担う「共通教育部」が設置された。 また、②の解決のために、中長期的な展望に立って、大学教育に関する調査・研究やカリキュラム改 革、FD を担当する「調査研究部」が設置された。調査研究部は全学共通教育だけでなく大学教育全 体を調査・研究することにより、全学共通教育と学部専門教育の有機的連携を担う重要な部となった。 さらに③の解決のために、23 の科目領域を設け、全学の教員はいずれかの科目領域に属することが定 められた。このようにして、旧センター発足間もない時期には、現在まで続くセンター制度の基礎が 構築された。 2-2.センター制度の基礎の再構築  先述のように、2003(平成 15)年 10 月に旧香川大学と香川医科大学が統合し(新)香川大学となっ たのを契機として、省令施設としてのセンターが発足する。旧センター制度を基礎としたこの「新」 センターには、共通教育部、調査研究部に加え、語学教育の充実という香川医科大学側の期待に応え るために、外国語教育システムの開発・研究を主な責務とする「外国語教育部」が新たに設置された。  教育担当理事・副学長が兼務するセンター長の下、各部には以下に示す人員が配置された。すなわち、 共通教育部については、学長に選任された共通教育部長(兼任)、専任教員2名(調査研究部と兼任)、

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各学部から選出されたセンター運営委員会委員6名(6学部×1名)の計9名が配置された。調査研 究部についても、学長に選任された調査研究部長(兼任)、専任教員2名(共通教育部と兼任)、各学 部から選出されたセンター運営委員会委員6名(6学部×1名)の計9名が配置された。残る外国語 教育部については、学長に選任された外国語教育部長(兼任)のほか、専任教員4名及び外国人語学 教員2名が配置されたのだが、各学部から選出された教員は配置されなかった。なお、外国人語学教 員は 2006(平成 18)年度に3名となり、2009(平成 21)年度には専任教員となっている。  さて、統合への対応としてセンターが求められていたのは、全学共通教育カリキュラムの見直しと それをふまえた新カリキュラムの構築であった。なぜなら、統合間もない時期には時間的な制約から、 旧香川大学の全学共通教育カリキュラムを基礎として、それに外付けするような形でのマイナーチェ ンジで急場をしのぐしかなかったからである。具体的には、それまで3つであった主題科目の主題(「人 間とテクネー」、「歴史と現代」、「地域と環境」)に第4の主題「生命と医療」を加える、共通科目に「生 命科学」「心身科学」を加える、といった対応しかなしえていなかった。  全学共通教育カリキュラムの見直しとそれをふまえた新カリキュラムの構築に向けて動き始めたの は 2004(平成 16)年度末のことであり、センター運営委員会の下に「全学共通教育のカリキュラム 改革ワーキング・グループ」が設けられた。この時に見直しの対象となったのは、主題科目、共通科目、 教養ゼミナールであった。これらが見直しの対象となったのは以下のような課題を抱えていたからで ある。主題科目については、「さまざまな学問領域における知識の、一定の主題のもとでの新たな「総 合」」という目的に照らした場合、ある主題を担当する教員、及びそれを受講する学生が特定の学部 に偏っていることは望ましくないのだが、例えば統合時に新たに加わった「生命と医療」という主題 ではそうした傾向が顕著であった。また、共通科目については、主題科目との差異が明確でないこと などその特徴が不明瞭であったし、教養ゼミナールについては、ともすれば教員の裁量で実施されて いるという傾向にあった。  検討の結果、2006(平成 18)年度からの新カリキュラムでは、主題科目については、それまで4つ であった主題が6つの主題に改編された(「人間と生命」、「人間と文化」、「テクネーと社会」、「歴史 と現代」、「国際・地域」、「環境・生活」)。これに加えて、特別主題として、「瀬戸内」、「人生とキャ リア」、「健康」が設定された。また、共通科目については、ディシプリン入門的な内容と専門基礎的 な内容を扱うというその役割に即した構成がとられ、特に前者に関しては、トピックに特化する主題 科目との差異を明確にし、共通科目の特徴を際立たせるという方針が定められた。残る教養ゼミナー ルについては、大学生にとって必要な能力を育成する導入科目としての性格が明確化された。

3.中期改革期(2008(平成 20)- 2011(平成 23)年度)

 先述のように、中期改革期は、武重(2013)がいうところの、センター制度自体の革新を目標にし た改革期に対応した時期である。それまでセンター長は教育担当理事・副学長が兼務することになっ ていたのだが、教育担当理事・副学長が所掌する業務量が日増しに多くなり、センターの将来を見据 えた対応にまで到底手が回らない状況であった。こうした状況に鑑み、センター長であった阿部文雄

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は、旧センターの発足に携わり、初代共通教育部長でもあった武重にセンター長就任を依頼する。そ れがセンター制度自体の革新を目標にした改革期が幕を開けた瞬間であった。 3-1.「21 世紀型市民」育成プロジェクト  センター制度の定着を目指した初期の改革が一段落していたこの時期に武重は、センターはさらに 進化しなければならないと考えていた(武重、2013)。すなわち、本学独自の四(六)年一貫の大学教育、 学士課程教育を実施するための教養教育、全学共通教育はどうあるべきか、そのための教育理念とカ リキュラムはいかなるものか、といった抜本的な課題に応えるための作業に着手しなければならない と考えていたのである。その折も折、中央教育審議会では「学士力」についての議論が進められてお り、これに刺激を受けた武重は、新しい全学共通教育カリキュラムと新しいセンター組織を目指した プロジェクトを立ち上げる。それが「「21 世紀型市民」育成のための全学共通教育カリキュラムの構 築に向けて」というプロジェクト、通称「「21 世紀型市民」育成プロジェクト」である。佐藤(2013) が指摘するように、このプロジェクトは、センター制度の定着を目指した初期の改革期から、センター 制度自体の革新を目標にした改革期への移行を特徴づけるものである。すなわち、このプロジェクト は、「現状にうまく対応する全学共通教育とはどのようなものか」ではなく、「本学独自の全学共通教 育はどうあるべきか」に焦点を絞っているという点において、これまでの取り組みとは一線を画して いるのである。  このプロジェクトは、本学の特定施策推進経費の支援を受け、2008(平成 20)年度から 2010(平 成 22)年度までの3年計画で行われた。2008(平成 20)年度には、国立大学を中心とする全国 100 大学への教養教育改革に関するアンケート調査とともに、先行大学への訪問調査も行い、改革動向の 収集・分析を行った。また、その成果をもとに、2009(平成 21)年度には、「学士力」項目に「地域 理解力」を加えた指標によって、全学共通教育カリキュラムの点検作業を行った。そしてそれらをふ まえた上で、2010(平成 22)年度には新カリキュラムの策定作業を行った。プロジェクトのメンバー は、センター長、センター3部長、共通教育部・調査研究部専任教員であり、新カリキュラムの策定 作業の際には、これらのメンバーを核とした「タスクフォースチーム」が立ち上げられた。このプロジェ クトの取り組みの詳細については、『「21 世紀型市民」育成のための全学共通科目カリキュラム構築に 向けて報告書』(2009)と『「21 世紀型市民」育成のためのカリキュラム構築に向けて報告書』(2010) に譲ることにして、以下では新カリキュラムの策定作業がどのように行われたのかという点にポイン トを絞って話を進めることにしよう。 3-2.共通教育スタンダードの策定  2009(平成 21)年度に行った全学共通教育カリキュラムの点検作業からは、新カリキュラムの策定 作業を行う上でふまえておくべきことが明らかになった。それは、21 世紀社会の課題に立ち向かう香 川大学版の市民育成という観点からみると、「統合的な学習経験と創造的思考力」、「市民としての社 会的責任」と「倫理観」、「地域に関する知識の理解」、「コミュニケーション・スキル」を中心とする 汎用的スキルの育成に関しては、新科目の設立や授業整備によって補う必要があるということであっ た(武重ほか、2011)。このような点をふまえながら、2010(平成 22)年1月に設置された全学の「教 育プロジェクト・チーム」の学士課程教育全般における見直しと歩を合わせ、本学における学士課程

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教育の基礎となる共通部分の教育を担う新カリキュラムの策定作業に着手した。  まず、教育目標を「(21 世紀社会の課題に立ち向かう)豊かな学問的知識と地域理解を合わせもち、 汎用的なスキルとともに主体的な市民としての態度を形成した人間の育成」とし、それを具体化した 以下の5つの要素を、本学の学生として身につけるべきスタンダード(共通教育スタンダード)とした。 すなわち、① 21 世紀社会の諸課題に対する探究能力、②問題解決のための汎用的スキル(幅広いコミュ ニケーション能力)、③広範な人文・社会・自然に関する知識、④地域に関する関心と理解力、⑤市 民としての責任感と倫理観、である。④地域に関する関心と理解力のみ、学士力に挙げられた項目と 対応していないことに鑑みれば、ここにこそ本学の全学共通教育のオリジナリティが表れているとい えるだろう。  なお、先述の教育プロジェクト・チームでは、①言語運用能力、②知識・理解(21 世紀型市民及び 学士(○○)として)、③問題解決・課題探究能力、④倫理観・社会的責任、の4つの要素をディプロマ・ ポリシーとしている。これらは文言こそ違えど共通教育スタンダードと対応しているのだが、共通教 育スタンダードの④地域に関する関心と理解力のみ、対応するものがない。本学が「地域に根ざした 学生中心の大学」を標榜している以上、こうした要素は共通教育スタンダードだけでなく、ディプロマ・ ポリシーにも盛り込まれるべきであっただろう。こうした要素が「地域理解」という文言でディプロマ・ ポリシーに盛り込まれることになったのは、2015(平成 27)年度のことである。それは、国立大学法 人運営費交付金の中に新設された3つの重点支援の枠組みのうち、本学が「地域に貢献する取組とと もに、強み・特色のある分野で世界ないし全国的な教育研究を推進する取組」を選択したことに伴い、 地域活性化に貢献できる人材養成等について、これまで以上の機能強化が必要となったからである。 3-3.新カリキュラムの策定  さて、新カリキュラムの策定作業は、共通教育スタンダードとの対応を意識して進められた。その 結果、① 21 世紀社会の諸課題に対する探究能力に対応するものとして、主題B「現代社会の諸課題」 (主題科目の性格を継承)と大学入門ゼミ(教養ゼミナールの性格を継承)が、②問題解決のための 汎用的スキル(幅広いコミュニケーション能力)に対応するものとして、大学入門ゼミ、情報リテラシー (新設)、外国語(外国語科目から改称)、健康・スポーツ実技(健康・スポーツ科目から改称)から 構成されるコミュニケーション科目が、③広範な人文・社会・自然に関する知識に対応するものとして、 学問基礎科目(共通科目から改称)が、④地域に関する関心と理解力に対応するものとして、主題B「現 代社会の諸課題」を構成するB-7「地域と生活」が、⑤市民としての責任感と倫理観に対応するも のとして、主題A「人生とキャリア」(特別主題「人生とキャリア」の性格を継承)が構想された。  こうして策定された新カリキュラムには、いくつか重要なポイントがある。第一に、主題A「人生 とキャリア」である。その基礎となった特別主題「人生とキャリア」は、そもそもキャリア教育の必 要性に鑑み 2006(平成 18)年度に設けられたものであったが、そうした性格に「市民としての責任 感と倫理観」を育成するという性格が加えられて必修科目となった。主題A「人生とキャリア」が自 由選択科目としてではなく必修科目として位置づけられたのには、新カリキュラムの策定作業の中心 人物であった武重の市民教育に対する思い入れが大きく関係している。しかし、本学で学生の不祥事 が相次いで起こっていたことも無関係ではないことには留意しておきたい。  第二に、主題B「現代社会の諸課題」である。これについては、内容面よりも履修方法が大きく変

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化した。すなわち、主題科目では6つの主題のうちいずれかの主題に設けられた授業科目の中から履 修しなければならなかったのだが、主題B「現代社会の諸課題」では、7つの主題のいずれの主題に 設けられた授業科目でも履修してよいことになったのである。自分の履修したい授業が自由に選択で きないという学生の不満と、主題ごとに一定数の授業科目を確保し続けるのは大変であるというセン ターの事情を考慮した上での変化であった。こうした変化によって、「さまざまな学問領域における 知識の、一定の主題のもとでの新たな「総合」」という主題科目が掲げてきた目的は消え去ってしま うこととなった。  第三に、大学入門ゼミである。その基礎となった教養ゼミナールは、①大学生・社会人として必要 な知的技法の基盤の育成、②学部混在型の学生と教員による少人数での知的交流、③大学での参加型・ 能動型学習への転換ないしは導入、をその目的としていた。しかし、大学入門ゼミの目的として①を 重視した結果、②を除くという判断をした(代わりに、責任感・協調性のある態度の涵養が加えられ ている)。すなわち、学部によって必要な知的技法の基盤は少なからず異なるだろうという判断に基 づき、大学入門ゼミを学部単位で行うことにしたからである。ただし、どの学部の大学入門ゼミにお いても教えるべき内容(全学共通コンテンツ)を定めることで、全学共通科目としての質を担保する ようにした。 3-4.共通教育コーディネーター制の導入  2011(平成 23)年度からの新カリキュラムの実施にあたり、その理念や目標を実効ならしめるには、 それを保証する組織的支援が必要だと武重は考えていた(武重、2013)。なぜなら、新カリキュラム では主題B「現代社会の諸課題」の選出母体が学問基礎科目同様、科目領域となったため、科目領域 の機能を高めていく必要があったし、また、大学入門ゼミや情報リテラシーは学部単位で行うことに したため、学部との中継役が必要となったからである。加えて、調査研究部では、FD の企画・運営 に関する業務が肥大化しており、「調査研究部として」カリキュラム開発にあたることが非常に困難 な状態になっていたからである。だからこそ、それまでのカリキュラム改革は、センター運営委員会 の下に設けられたワーキング・グループや、センター長、センター3部長、共通教育部・調査研究部 専任教員を核としたタスクフォースチームなのであった。新カリキュラムの理念や目標を実効ならし めるとともに、不断に改善していくためには、センターにこれまで以上のマンパワーが必要だったの である。  センター専任教員を増やすこともその方策のひとつであるが、人件費が切り詰められている状況下 で全学的にその理解を得ることはまず容易ではないし、全学出動体制を維持しなければならない本学 の特性を考えれば、それとは別の道を探らねばならない。そこで、全学共通教育の企画・運営に積極 的に参加する教員を学長任命の「共通教育コーディネーター」とする制度(以下、共通教育コーディネー ター制と表記)が構想された。その検討は 2010(平成 22)年度に行われ、翌 2011(平成 23)年度か ら導入されることになった。  共通教育コーディネーターの構成は、各学部から選出されたコーディネーター(以下、学部選出コー ディネーターと表記)6名、科目領域から選出されたコーディネーター(以下、科目領域選出コーディ ネーターと表記)11 名(所属科目領域:哲学・倫理学系、社会学系、地理学系、言語学系、歴史学系、 心理学系、情報科学系、英語系、初修外国語系、健康・スポーツ実技系、日本語系)、センターから

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選出されたコーディネーター(以下、センター選出コーディネーターと表記)2名、その他センター 長が必要とするコーディネーター2名(理学関係及び新学部関係)の計 21 名であった。これらの共 通教育コーディネーターは調査研究部のメンバーとして、学部選出コーディネーターは FD 企画・運 営部門に、科目領域選出コーディネーター及びその他センター長が必要とするコーディネーターはカ リキュラム開発・評価部門に位置づけられた。先述のように、それまでの調査研究部では、「調査研 究部として」カリキュラム開発にあたることは非常に困難であったのだが、共通教育コーディネーター 制の導入によってその可能性は増したのである。 3-5.センター組織の改編についての検討  新カリキュラムの策定や共通教育コーディネーター制の導入とともに検討が進められていたのがセ ンター組織の改編である。センターが発足して以来、センター組織を大きく見直す機会はなかったた め、この機会はセンターが抱えている組織的な問題を解決するための絶好の機会であった。  その検討は、先述の教育プロジェクト・チームの下に設置された「教育・学生支援機構再編検討ワー キングチーム」でなされた。ここでは、教育担当理事・副学長であった細川滋をリーダーとして、2011(平 成 23)年6月までの約1年間、2週間に1回のハイペースで検討が進められた(教育・学生支援機構 再編検討ワーキングチーム、2011)。残念ながらここで示された案は、教育研究評議会で議論される までには至らなかった。しかし、それが叩き台となってその後のセンター組織の改編等に影響を与え ている部分もあるため、ここではそうした部分について押さえておくことにしよう。  ここで示された案では、センターの機能を分化させ、各機能を高度化させる体制が構想されている。 すなわち、共通教育部の機能を高度化させた「共通教育センター」、外国語教育部の機能を高度化さ せた「外国語センター」、そして調査研究部の機能を高度化させた「教育企画室」を配置する体制が 構想されている。このように構想されたのはなぜかというと、調査研究部と外国語教育部については、 本来担うべきその役割は全学共通教育の改革に限られてはいないにもかかわらず、その影響が必ずし も全学の教育改革に及ぶものではなく、全学共通教育の枠内にとどまっていたからである。  具体的には、共通教育センターは、全学共通教育のカリキュラム立案と管理・運営を担う組織として、 外国語センターは、全学共通教育の外国語教育、教材開発、外国語及び外国語教育・異文化理解に関 する研究と調査、各学部の外国語教育の支援と連携を担う組織として構想されている。残る教育企画 室は、全学の教育改革の調査・企画・立案、全学の評価結果の分析及び評価体制の改革、全学の FD 体制の統括を担う組織として構想されている。そのため教育企画室は、組織図では共通教育センター や外国語センターよりも上位に位置づけられている。また、組織図で共通教育センターや外国語セン ターと同列に位置づけられているのが、「情報教育室」である。これは、新カリキュラムにおいて必 修科目となった情報リテラシー等の情報教育、2008(平成 20)年度に採択された「「四国の知」の集 積を基盤とした四国の地域づくりを担う人材育成」(eK4)事業に伴う「四国学」関連科目や英語教育 で用いる e-Learning の管理運営部門として構想されたものであり、共通教育センターと総合情報セン ターとが連携することをその前提としている。  なお、ここで示された案には、共通教育コーディネーター制の改革案も構想されている。すなわち、 共通教育コーディネーターに加え、学部教育の実施責任者であり、大学と学部の教育改革の接合の担 い手となる「統括教育コーディネーター」、学部教育の教育内容・教育方法の改善に係る企画・立案・

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実践を行う「教育コーディネーター」から構成される新たなコーディネーター制が構想されていたの である。しかし先述のように、教育研究評議会で議論されるまでには至らず、これが実現することは なかった。

4.後期改革期(2012(平成 24)年度以降-)

4-1.停滞する改革  後期改革期は、センター組織の改編というセンター史上もっとも大きな改革の時期である。ただそ こに至るまでに、改革の勢いは一時停滞することになる。それは、中期改革期の改革の目玉である新 カリキュラムの策定や共通教育コーディネーター制の導入を牽引してきた武重がセンター長を退任し たことと大きく関係している。武重のセンター長退任は、センター長は教育担当理事・副学長が兼務 するという新学長の意向によるものであった。そもそもセンター長は教育担当理事・副学長が兼務す ることになっていたのでその意味では元の状態に戻ったともいえるが、それではセンターの将来を見 据えた対応にまで到底手が回らないからこそ、教育担当理事・副学長以外のセンター長が必要とされ たはずである。この点に鑑みれば、改革の勢いが停滞することは火をみるよりも明らかであった。特 に当時は新カリキュラムのみならず、共通教育コーディネーター制も軌道に乗っていない時期である。 武重は、新カリキュラムの策定や共通教育コーディネーター制の導入を第一工程と考え、それを第二、 第三ステップへと進化させねばならないと考えていたのだが(武重、2011)、立場上それを行うこと もできなくなってしまった。その結果、それらの改革には様々な混乱が生じることになる。  特に大きな混乱が生じたのが共通教育コーディネーター制である。中谷ら(2013)が指摘するように、 共通教育コーディネーター制は導入当初から、その役割が曖昧であったことに加え、その選出方法が 不明確であったり、あるいはそれに任命されてもその(学部内での)権限が保証されていなかったり といった、制度面での後ろ盾の弱さの問題を抱えていた(中谷ほか、2013)。当時の調査研究部会議では、 この件が度々議論の俎上にのぼり、共通教育コーディネーター制を安定的に運営していくための制度 的基盤の確立の必要性が共通教育コーディネーター自身によって指摘されていた。しかし、それはセ ンター組織の改編とセットで検討されることであり、センター組織の改編の見通しが立たない状況で はそれについての検討を進めることができない、という不毛なやりとりが何度も繰り返された。  一方のセンター組織の改編については、武重の後を受けて 2011(平成 23)年 10 月から教育担当理事・ 副学長(センター長)となった有馬道久を中心に、先述の教育・学生支援機構再編検討ワーキングチー ムが示した案を叩き台として、約2年間にわたる検討が行われた。残念ながらここで示された案もま た、教育研究評議会で議論されるまでには至らなかったのだが、先ほどと同様、それが叩き台となっ てその後のセンター組織の改編等に影響を与えている部分もあるため、ここではそうした部分につい て押さえておくことにしよう。  ここで示された案では、本学全体の教育の実施内容など実務を担当する「教育基盤センター」を設 置し、その下に「全学共通教育部」、「外国語教育部」、「特別教育プログラム部」、「連携教育部」の 4部を配置することで、教育の実務を総括的に検討できる体制が構想されている。また、学長直下 に、教育に関する基本方針の策定や提言を行う「教育戦略室」の設置が構想されている(有馬ほか、 2013)。このうち、全学共通教育部、外国語教育部、教育戦略室については、教育・学生支援機構再

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編検討ワーキングチームが示した案の、共通教育センター、外国語センター、教育企画室の流れを汲 むものである。  特別教育プログラム部と連携教育部が新規に構想されたのはなぜかというと、前者については、 2013(平成 25)年度よりネクストプログラムやアドバンストセミナーといった新しいタイプの教育プ ログラムが実施されており、こうした新しいタイプの教育プログラムの企画・運営を円滑に行ってい く組織が必要だと判断されたからである。また後者(連携教育部)については、大学間連携事業が増 えていく中で、これに対応するための組織が必要だと判断されたからである。その際特に意識されて いたのが、先述の eK4 事業と、2012(平成 24)年度に採択された「四国における e-Knowledge を基 盤とした大学間連携による大学教育の共同実施」(知プラ e)事業であることは、連携教育部の下に e-Learning に関する部門が構想されていることからもうかがえる。その意味では連携教育部は、教育・ 学生支援機構再編検討ワーキングチームが示した案の情報教育室に対応したものであるといえよう。 4-2.センター組織の改編と全学共通教育カリキュラムの見直し  有馬の後を受けて 2013(平成 25)年 10 月から教育担当理事・副学長(センター長)となった藤井 宏史は、センター組織の改編の案件を引き継ぐことになる。まず藤井が取り組んだのは、有馬らが示 した案にあった教育戦略室の設置であった。それは、この教育戦略室でセンター組織の改編等につい ての検討を行おうと考えていたからである。教育戦略室の設置にあたっては、教務委員会をはじめと した他の教育組織との関係性についての懸念が指摘されたのだが、教育戦略室も他の教育組織もその 長は教育担当理事・副学長であることから、教育担当理事・副学長が案件に応じて適切な対応をする ということで理解が得られた。   こうして 2014(平成 26)年4月に、本学における教育水準の向上及び特色ある教育を推進するこ とを目的とし、学士課程及び大学院における教育改革の基本的方針案を策定するとともに、その他の 教育改革に係る提議を行う教育戦略室が、学長直下に設置されたのである。また、この教育戦略室で 定められた基本的方針案に基づく具体案を策定するため、「教育戦略推進会議」が設置されることに なった。実際に設置に至ったのは 2015(平成 27)年 11 月であり、この時点ではまだ設置されてはい なかったのだが、そのメンバーとなる各学部の教育担当副学部長クラスの人物には、先述の教育・学 生支援機構再編検討ワーキングチームが示した案の、統括教育コーディネーターのような役割を担う ことが期待されていた。  なお、センターに関していえば、センター長は教育担当理事・副学長が兼務するという状況に変わ りはなかったが、センターの将来を見据えた対応の少なからぬ部分は、この教育戦略室によって可能 となった。  さて、この教育戦略室において最初に検討が行われたのが、センター組織の改編と全学共通教育カ リキュラムの見直しである。以下、それぞれについてみていこう。 (1)センター組織の改編  センター組織の改編については、有馬らが示した案を叩き台として検討が進められた。2015(平成 27)年1月時点の中間段階の案では、「大学教育基盤センター」の下に「全学共通教育部」、「教育開発部」、 「国際教育部」、「地域教育部」、「情報化教育部」、「特別教育部」の6部を配置する体制が構想されて

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いる。このうち、大学教育基盤センター、全学共通教育部、国際教育部、情報化教育部、特別教育部 については、有馬らが示した案の、教育基盤センター、全学共通教育部、外国語教育部、特別教育プ ログラム部、連携教育部の流れを汲むものである。ただし、(新)全学共通教育部は、共通教育部が担っ てきた業務だけでなく、調査研究部が担ってきた業務のうち、全学共通教育に関する調査・研究やカ リキュラム改革等の業務も担う組織として構想されている。また、国際教育部は、外国語教育部が担っ てきた業務だけでなく、グローバル人材育成に関する業務も担う組織として構想されている。  教育開発部と地域教育部が新規に構想されたのはなぜかというと、前者については、調査研究部が 担ってきた業務のうち、全学共通教育に関する調査・研究やカリキュラム改革等の業務を全学共通教 育部に移行した結果、調査研究部がなくなってしまうと、調査研究部の中で肥大化していた FD の企画・ 運営に関する業務の受け皿がなくなってしまうからである。加えて、本学で行われる FD プログラム 全体を包括的な視点で捉え、全学的なプログラムと各学部のプログラムとの連携を促すような組織が 必要だと判断されたからである。そうした組織の必要性については、2008(平成 20)年度に「四国地 区大学教職員能力開発ネットワーク」(SPOD)に加盟して以降、指摘され続けてきたのだが(葛城ほか、 2010)、この時点でようやく理解が得られたといえよう。また後者(地域教育部)については、本学が「地 域に根ざした学生中心の大学」を標榜していることに加え、2013(平成 25)年度に「自治体連携によ る瀬戸内地域の活性化と地(知)の拠点整備」(COC)事業に採択されたことによって、地域教育の 充実に対応するための組織が必要だと判断されたからである。  こうした案についての説明を行うとともに意見を求めるべく、2015(平成 27)年1月に全学説明 会を開催した。参加者の意見の多くは、現在の3部体制から6部体制にして本当に機能するのかとい う実現可能性に関するものや、マンパワーをどのように担保するのかという人的配置に関するもので あった。これらとは違う意見を述べたのが、旧センターの発足にも携わっている武重であった。それは、 (現状はともかくとして)中長期的な展望に立った、大学教育に関する調査・研究やカリキュラム改 革等への寄与が期待されていた調査研究部がなくなることへの懸念であった。実は全学説明会の前に は、調査研究部がなくなることへの懸念が調査研究部自身によっても示されていた。ただし、こちら の懸念は、全学共通教育部が共通教育部が担ってきた業務だけでなく、調査研究部が担ってきた業務 のうち、全学共通教育に関する調査・研究やカリキュラム改革等の業務も担うことは、現実問題とし て難しいという判断によるものだった。  これらの意見をふまえた最終案では、「共通教育部」(以下、新共通教育部と表記)、「調査研究部」 (以下、新調査研究部と表記)、「国際教育部」、「地域教育部」、「能力開発部」、「ICT 教育部」の6部体 制とすることとした。このうち、新共通教育部、能力開発部、ICT 教育部は、中間段階の案の、全学 共通教育部、教育開発部、情報化教育部に対応したものである。ただし、新共通教育部は、調査研究 部が担ってきた業務のうち、全学共通教育に関する調査・研究やカリキュラム改革等の業務は担わず、 共通教育部が担ってきた業務のみを担うこととした。また、新調査研究部は、全学共通教育だけでな く、学部の枠を超えた全学的な教育プログラムに関する調査・研究やカリキュラム改革等の業務を担 うこととした。そのため、中間段階の案の特別教育部の業務も、新調査研究部の業務のひとつとなった。 この最終案は 2015(平成 27)年2月の教育研究評議会で了承され、2015(平成 27)年4月に、上記 6部から構成され、これまでよりも「ウイングを広げた」大学教育基盤センターが誕生した。  なお、センター業務の拡大に伴い、ただでさえ十分ではないマンパワーを充足することが必要になっ

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てくる。当初、教育戦略室では、学内教員をセンターに再配置することで複数名のマンパワーを充足 しようと考えていた。しかし、結果的に学内調整がうまくいかなかったため、この時点ではそうした 形で複数名のマンパワーを充足することは叶わなかった。ただ、新調査研究部等の業務にあたる専任 教員を1名増員することは辛うじて認められた。センター発足以来、共通教育部と調査研究部の専任 教員は2名体制であり、業務の拡大を理由に増員を要望し続けてきたわけであるが、業務の拡大が誰 の目にも明らかになったこの段階でようやくそれが認められたのである。 (2)全学共通教育カリキュラムの見直し  一方、全学共通教育カリキュラムの見直しについては、センター関係者らの意見を聴取し、それを ふまえた上で教育戦略室で検討が進められ、2014(平成 26)年8月にセンターに対して7つの点に対 する諮問が行われた。すなわち、①主題科目に関する諮問、②学問基礎科目に関する諮問、③外国語 科目に関する諮問、④高度教養教育科目(仮称)に関する諮問、⑤倫理教育に関する諮問、⑥想定し ていない科目の受け皿となる科目群に関する諮問、⑦コーディネーター制に関する諮問である。その 詳細は石井ら(2015)に譲ることにして、ここでは特に①主題科目に関する諮問、②学問基礎科目に 関する諮問、⑦コーディネーター制に関する諮問について、そのポイントのみ押さえておくことにし たい。  まず、①主題科目に関する諮問のもっとも重要なポイントは、大学の特色という観点を考慮した主 題について検討してほしいというものであった。共通教育スタンダードとの兼ね合いで考えれば、主 題A「人生とキャリア」と主題B-7「地域と生活」は、本学として学生に学ばせたい主題として設 けておくべきであると考えられるが、その他にどのような主題が立てられうるのかという課題が課せ られたのである。②学問基礎科目に関する諮問のもっとも重要なポイントは、文系、理系に偏らない 幅広い履修を担保するにはどうしたらよいか検討してほしいというものであった。すなわち、文系の 学生が文系科目を、理系の学生が理系科目を履修している現状をどのように打破するのかという課題 が課せられたのである。⑦コーディネーター制に関する諮問のもっとも重要なポイントは、共通教育 スタンダードの徹底という観点から機能的な共通教育コーディネーター制の具体的な案(何を、どこ までやるか)について検討してほしいというものであった。先述のように、共通教育コーディネーター 制は導入当初から、これを安定的に運営していくための制度的基盤の確立の必要性が指摘され続けて きたのだが、ようやくそれに取り組む機会が与えられたのである。  この諮問を受けて、新調査研究部には石井知彦部長のもと、そのメンバーである共通教育コーディ ネーターを中心に、上記7つの点に対する諮問に対応した7つのワーキング・グループ(以下、WG と表記)が立ち上げられた。いずれの WG においても精力的な検討が行われ、2014(平成 26)年 10 月には教育戦略室への中間答申が、2015(平成 27)年3月には最終答申がまとめられている。なお、 ⑦コーディネーター制に関する検討 WG では、当時の共通教育コーディネーターの任期が 2014(平 成 26)年度で終わることもあり、2015(平成 27)年4月から新しい共通教育コーディネーター制に 基づく共通教育コーディネーターを迎えることができるよう、2月に最終答申がまとめられている。 各 WG の最終答申の詳細は石井ら(2015)に譲ることにして、ここでは特に①主題科目に関する検討 WG の最終答申、②学問基礎科目に関する検討 WG の最終答申、⑦コーディネーター制に関する検討 WG の最終答申について、そのポイントのみ押さえておくことにしたい。

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 まず、①主題科目に関する検討 WG の最終答申のもっとも重要なポイントは、共通教育スタンダー ドの① 21 世紀社会の諸課題に対する探究能力を徹底すべく、現行の主題B-1から6を新たな主題 Bとして再構成し、基礎的な部分を多く含む「課題発見型主題群」と、より発展的内容を含む「課題 探究型主題群」に大別するとともに、共通教育スタンダードの④地域に関する関心と理解力を徹底す べく、現行の主題B-7「地域と生活」を基礎として、本学が立地する地域を探る主題群を新たに主 題Cとして必修科目とするといった点である。  ②学問基礎科目に関する検討 WG の最終答申のもっとも重要なポイントは、21 世紀型市民が必要と する自然科学リテラシーの中心を「実験」と捉え、文系学生を対象とした「自然科学基礎実験」を新 たに開講するとともに、書物を通じて人文・社会科学の専門に関わる体系的知の世界に接し、そのよ うな体系的知を自ら育んでいく知的読書の習慣を身につけることを目的として、理系学生のみならず 新入生全員を対象とした「体系的知との出会い(書物が啓く世界)」を新たに開講するといった点である。 また、文系、理系に偏らない幅広い履修を担保するための方策の一環として、自分の専門以外の分野 を一定程度深めることができる仕組みである副専攻制を導入するという点も重要なポイントである。  ⑦コーディネーター制に関する検討 WG の最終答申のもっとも重要なポイントは、学部選出コー ディネーターには新共通教育部のメンバーとして、学部との中継役を担ってもらうこととし、科目領 域選出コーディネーターには新調査研究部のメンバーとして、学部の枠を超えた全学的な教育プログ ラムに関する調査・研究やカリキュラム改革等の役割を担ってもらうこととしたという点である。な お、新調査研究部のメンバーには学部の事情がわかる者がいた方がよいという判断から、科目領域選 出コーディネーターの選出は、学部構成を考慮した上で行うこととした。これにより、共通教育コー ディネーター制が導入当初から抱えていたその役割の曖昧さという問題は、かなりの程度解消される ことになる。  先述のように、これまでの調査研究部では、「調査研究部として」カリキュラム開発にあたること が非常に困難であったため、「調査研究部として」カリキュラム開発にあたったのはこれが初めてで ある。これまで必ずしもうまく機能しているとはいえなかった共通教育コーディネーター制ではある が、これなくしては「調査研究部として」カリキュラム開発にあたることはおろか、うまく機能する ような共通教育コーディネーター制に改めることもできなかった。共通教育コーディネーター制は、 自身が生まれ変わる最後の瞬間に、もっとも重要な役割を果たしたといえるだろう。  さて、これらの最終答申を受けて、教育戦略室ではその内容に対する判断がなされた。まず、⑦コー ディネーター制に関する検討 WG の最終答申についてはその内容がすぐに了承され、2015(平成 27) 年4月から新しい共通教育コーディネーター制に基づく共通教育コーディネーターを迎えることがで きた。なお、その構成は、学部選出コーディネーター6名、科目領域選出コーディネーター8名(所 属科目領域:哲学・倫理学系2名、社会学系1名、法学系1名、言語学系1名、物理学系1名、医学 系1名、化学系1名、所属学部:教育学部2名、法学部1名、経済学部2名、医学部1名、工学部1名、 農学部1名)、センター選出コーディネーター3名の計 17 名である。  また、他の WG の最終答申については、その内容のすべてが了承されたわけではなかったものの、 2016(平成 28)年度の試行的実施、2017(平成 29)年度の本格実施に向けて、さらなる検討を進め ることが求められた。クォーター制の導入も視野に入れた新カリキュラムの検討が現在も続けられて いる。

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5.おわりに

 本稿では、センター発足から大学教育基盤センター誕生に至るまでのセンターのあゆみを駆け足で 振り返ってきた。執筆しながら改めて感じたのは、センターをめぐる諸改革が過去の議論の積み重ね の上に成り立っているということであった。  特にセンター組織の改編については、かなりの時間をかけて案をまとめても、教育研究評議会で議 論されるまでには至らないことが一度ならず二度までもあり、苦難の連続であったといえよう。しか し、過去の議論を叩き台とした積み重ねがなければ、大学教育基盤センターが誕生することはなかっ たかもしれないし、たとえ誕生していたとしても十分に機能しうる組織にはならなかったかもしれな い。そこで汗を流した先人たちにとっては徒労に終わったかのように思えた議論も、決して無駄には ならなかったのである。  だからこそ重要であると思うのは、形になった議論だけでなく、形にならなかった議論もきちんと 記録を残しておくことである。形にならなかった議論の記録は、関係者の手元にしかない場合が多く、 時とともに消え去っていく運命にあるからである。たとえ形にならなかったとしても議論を尽くした 証をきちんと残しておくことは、その議論の出発点やプロセスを認識し、建設的な議論を進める上で 極めて重要であることを改めて感じた次第である。  参考文献 有馬道久ほか(2013)調整会議資料。 石井知彦ほか(2015)「全学共通教育新カリキュラムの検証-教育戦略室からの諮問に対する答申-」 香川大学大学教育基盤センター編『香川大学教育研究』第 12 号、1- 60 頁。 香川大学大学教育開発センター編(2010)『「21 世紀型市民」育成のためのカリキュラム構築に向けて 報告書』。 香川大学大学教育開発センター編(2009)『「21 世紀型市民」育成のための全学共通科目カリキュラム 構築に向けて報告書』。 教育・学生支援機構再編検討ワーキングチーム(2011)「教育・学生支援機構再編と「教育企画室(仮 称)」の設置について」(教育プロジェクト・チーム資料)。 葛城浩一ほか(2010)「香川大学の FD 活動の実施状況」香川大学大学教育開発センター編『香川大学 教育研究』第7号、1- 17 頁。 佐藤慶太(2013)「共通教育部のあゆみ」香川大学大学教育開発センター編『香川大学教育研究』第 10 号、 9- 14 頁。 武重雅文(2013)「大学教育開発センターの 10 年」香川大学大学教育開発センター編『香川大学教育研究』 第 10 号、1-7頁。 武重雅文(2011)「退任のご挨拶(前センター長)」香川大学大学教育開発センター編『香川大学大学 教育開発センターニュース』No.23、2頁。 武重雅文ほか(2013)「特集 大学教育開発センターの 10 年を振り返る」香川大学大学教育開発センター 編『香川大学教育研究』第 10 号、1- 36 頁。

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武重雅文ほか(2011)「全学共通教育新カリキュラムについて」香川大学大学教育開発センター編『香 川大学教育研究』第8号、1- 13 頁。 中谷博幸(2007)「全学共通教育の問題点と方向性」香川大学大学教育開発センター編『香川大学教 育研究』第4号、2- 10 頁。 中谷博幸ほか(2013)「学問基礎科目の充実と共通教育コーディネーターの役割」香川大学大学教育 開発センター編『香川大学教育研究』第 10 号、63 - 76 頁。

参照

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