香川のわ らべ歌
−その詞章の地理的分布について−
柴 田 昭 二 西 岡 ゆか り 0.はじめに 子供と遊びは切っても切れない関係にある。子供が気の合った老同士で集団 を作り,路上や家の中で遊ぶのは,昔も今も変わりほしない。しかし,例えば 大戦直後と現在の遊びを比べると,比較にならないはどの差があり,子供の遊 びがその時代の生活環境にかなり影響されていることは言うまでもない。逆に 言えば子供の遊びはその時代の反映であると言うことができる。 遊びの内容は時代によって違い,常に変化している。というのは,普通,遊 びは極め七単純な内容から始まるが,やがてほそれに満足できなくなった子供 達の手によってより高度なものへと作り変えられていくからである。そして子 供の興味に合うものは後の世代に受け継がれていくが,その一方で子供の興味 に合わないものはその世代までで消えてしまうのである。 遊びが時代とともに変化するならば,その遊びの中でうたわれるわらべ歌も また時代とともに変化するはずである。遊びが直接に次の世代に伝えられてい くように,わらべ歌も今日にいたるまで口伝えによってうたい継がれてきた。 したがって,同一の歌であっても,うたい継がれていく過程で各地の生活環境 や言語生活の影響を受けて,その土地に即した独自の詞章に変化していること が多い。このことはすでに多くの人によって指摘されている。例えば香川県の わらべ歌に関しては山崎正七氏が『讃岐のわらべ歌』で,また山崎盾之氏が 『愛媛香川のわらべ歌』で詳しく言及されている。 そこで本稿でほ,実際に香川県下においてわらべ歌を採集し,同一の詞章についてどのような地域的バリューショ/があるかを調バ,言語地理学的な視点 から考察してみようとするものである。 1二 調査方法および調査地点 1.1 調査方法 調査を行ったのほ昭和58年10月から同年12月まで。まず11地点において,10 歳前後(以下,少年層′とする),20歳前後(大学生),60歳以上(老年層)の 3世代それぞれの男女1名ずつに質問法による臨地調査を行った。さらに17地 点で20歳前後の男女についてアンケート調査を行った。 調査にあたっては,質問を統一するために次の質問文を用意し,誘導による 回答ほ引き出さないよう留意した。 ・手まり,羽つき,経とび,お手玉をする時に歌をうたいながらすることは ありませんでしたか。あればその歌をおしえてください。 ●この他の遊びで歌をうたいながらするものはありますか。あればその遊び の名前と,その歌をおしえてください。
1.2 調査地点(老年層および少年層1∼11大学生1∼28)
13 三豊郡山本町 14 三豊郡財田町 15 三豊郡三野町 16 仲多度郡多度津町高見 17 善通寺市 18 綾歌郡宇多津町 19 綾歌郡綾南町 20 坂出市 21 香川郡直島町 22 香川郡塩江町 23 木田郡牟礼町 24 小豆郡土庄町 1 三豊郡豊浜町 2 観音寺市 3 三豊郡詫間町 4 仲多度郡多度津町 5 丸亀市 6 仲多度郡満濃町 7 綾歌郡綾歌町 8 高松市 9 大川郡大川町 10 大川郡白鳥町 11大川郡引田町 12 三豊郡大野原町27 大川郡津田町 28 大川郡大内町 25 大川郡志度町 26 大川郡長尾町 3.わらべ歌の詞章の分布 3.1 わらべ歌の伝承数 今回の調査で収集した歌を,世代別および男女別に分類したものが,次表で ある。 調査で採集した歌をみると,同じ歌でありながら地域によって詞章に変化が みられるという指摘どおりの結果が得られた。これは前にも述べたように,地 域の言語活動の影響を受けてうたい継がれていく過程で歌詞が部分的におちた り,反対に付け加えられたり,あるいは語の置き換えが生じた結果であると考 えられる。そこで分布図を作成するにあたって,地域によって詞章に変化があ り,しかも3世代に共通するものであることを条件に対象となる歌を選んだ0 その際,老年層の歌の中には必要に応じて『愛媛香川のわらべ歌』から抜粋し たものを加え,地図上では*を付して示した。
3.2 手まり歌「あんたがたどこさ」 これほ手まり歌として,∧昭和20年代に全国的に流行した歌で,その代表的な 詞章は次にあげるものである。 アンタガタ ドコサ ヒゴサ ヒゴ ドコサ クマモトサ クマモト ドコサ セソバサ セソ/ミヤマニハ タヌキガ オッテサ ソレヲ リョーシガ テッボデ ウッテサ ニテサ ヤイテサ 夕べテサ ソレヲ〔コノハデ チヨット カブセ〕 括弧内の詞章のうち,始まりの部分に注目すると,オチャノコサイサイ類, ウマカッタ類とソ,レヲコノハデ類に分類される。図4をみると,香川県の東西 の端むこウマカッタ類が分布し,中央部にはそれと違ったソレヲコノハデ類が分 布していることがわかる。このような分布型式は言語地理学で言う「ABA型」 分布に当たる。図5は更に次の段階を示している0 3.3 縄とび歌「大波小波」 経とび歌の「大波小波」の次のAの部分に注目した。 オーナミ コナミ 〔A〕〔B〕 3.4 遊戯歌「かごめかごめ」 カゴメ カゴメ カゴノ ナカノ トリワ イツ 〔 〕 ヨアケノ バソニ ツルト カメガ スペック ウシロノ ショーメソ ダレ 〔 〕の部分について図7をみると,イツデヤルが観音寺,多度津,高 発,引田に分布しており,その周囲にほイツデアウの分布がみられる。これは, おそらく「デヤル」→「デアル」→「デアウ」という変化を生じながらも,一 部の地域ではまだそれぞれの形が残存しているために生じた分布型式だと思わ れる。 飛火型とは,図8のように中心都市に分布があり,その周囲に違った語形が とりまくように分布している場合を言う。 3.5 遊戯歌「ぽこペん」 ポコペソ ポコベン ダレガ 〔 〕 ポコペソ
〔 〕の部分について図13から,a タカ,dツツィタカナ,の歌詞がみられた。a∼dを分類すると,ツツィタ類 (a b),ツツィタカ類(c d)になる。b,dをそれぞれa,bに含めた理 由ほ,歌詞自体がそれぞれ似ていてしかも地域的に隣接していたためである。 図11をみると,両類の歌詞が香川県を2分して東西に分布していることがわ かる。図13,14のような分布型式は言語地理学で言う「AB型分布」に近いも のである。 4.結果・考察 手まり歌「あんたがたどこさ」から遊戯歌「ぽこべん」の分布型式を表にし たのが次表である。斜線は歌が採集できなかったことを,空自は資料が少なく 分布型式を決めるまでにいたらなかったことを示している。 世代 あんたがたどこさ 一型 おおなみこなみ かごめかごめ 飛火型 まず,世代別に分布型式をみると,次のことが言える。 60代の分布型式としては一型とABA型があり,20代になると,→型に代わっ て新しくAB型がみられる。さらに10代になると,60代20代でみられた一型, ABA型がなくなり,20代でみられたAB塑のみがみられた。 次に歌の種類ごとに分布型式をみると,手まり歌(−型→ABA型→AB型),
縄とび歌(ABA型→AB型),遊戯歌a b(飛火型→AB型)という変化が
みられた。そこで,これら二点から考えると,分布型式には一定の変遷がある と思われる。次のような変遷ではないかと考えた。
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AB型−(一型) 参 考 文 献 山崎正七『讃岐のわらべうた』 昭和51年高松市役所 岩井正浩,山崎盾之『愛媛香川のわらべ歌』 昭和57年 柳原書店 香川大学国語国文学研究室学術調査委員会『香川の遊びのことば』 香川大学国文学会発表要旨 昭和60年12月1日 山田 意『小豆島方言の研究』 昭和61年度 香川大学卒業論文調査地点
図1 老年層,少年層
手まり歌「あんたがたどこさ」 ● オチャノアサイサイ ㊨ アーウマカッタ オチャノ・コサイサイ ★ ウマカッタ ★ ウマサノサッサ ☆ ウマサデサッサ ■ ソレヲコノハデ ◆ ソレヲコノテデ 図3 老年層
絶とび歌「大波小波」 ● カゼガフィタラ ★ デソグリカェッテ ▲ ヒックリカエシテ ▼ ヒックリカェッテ ■ グルリトマワシテ ◆ グルリトマワッテ ロ クルリトマワシテ ◇ クルリトマワッテ ー グルットマワッテ {ゝ グルットマワシテ く} クルットマワッテ 図6 老年層
図7 大学生
遊戯歌「かごめかごめ」 ● イツデヤル ○ イツデアル ■ イツデアウ
▲ イツネヤル
▼ イツネヨル
★ ネテオキル * メガサメル 図9 老年層図10 大学生
遊戯歌「ポコペソ」 ● ツツイタ ● ッツィタカ ツツィタカナ ○ ヒッツイタ 図12 老年層