向井一 事件
【文献番号】22002861 不当利得返還請求事件 大阪地裁平成元年(ワ)第二六六六号 平成元年六月二十八日判決 判 決 大阪府交野市梅ケ枝四三ー七 原告 向井一 東京都千代田区霞が関一丁目一番一号 被告 国 右代表者法務大臣 谷川和穂 右指定代理人 下野恭裕 同 辻浩司 同 龍神仁資 同 高袖冨士夫 大阪市中央区淡路町二丁目二番九号 被告 株式会社ニチイ 右代表者代表取締役 小林敏峯 右訴訟代理人弁護士 小嶌信勝 主 文 一 原告の請求をいずれも棄却する。 二 訴訟費用は、原告の負担とする。 事 実 第一 当事者の求めた裁判 一 請求の趣旨1 被告らは,原告に対し、連帯して六一二円を支払え。 2 訴訟費用は、被告らの負担とする。 二 請求の趣旨に対する答弁 主文同旨 第二 当事者の主張 一 請求原因 1 原告は、平成元年四月二日、被告株式会社ニチイの交野店において、紳士靴下外一六 点合計二万〇四二五円相当の品物を購入したが、その際、同店従業員に消費税相当分とし て六一二円を徴収された。 2 本来一般消費者は、消費税を負担すべき拘束は受けないから、右金員は同被告におい て不当に利得したものといえる。 3 被告国は、行政指導の名のもとに、被告株式会社ニチイに対し、前記消費税相当分の 徴収を教唆した。 4 よつて、原告は、被告らに対し、連帯して六一二円を支払うことを求める。 二 請求原因に対する認否 (被告 国) 請求原因1の事実は知らず、同2は争い、同3の事実は否認する。 同被告は、税制改革法及び消費税法の運用の一環として事業者に消費税の徴収等に関し て必要な指導等を行つているにすぎず、何等の違法は存しない。 (被告 株式会社ニチイ) 1 請求原因1の事実のうち、原告主張の日時、場所において、同被告の従業員が、氏名 不詳の顧客に対し、原告主張の商品を代金二万〇四二五円で販売し、同人から消費税相当 額六一二円を加算した合計二万一〇三七円を受領したことは認め、その余は知らない。 2 同2は争う。同被告が顧客から受領した消費税相当額は、平成元年四月一日から施行 された消費税法に基づいて受領しているものであり、不当に利得したものではない。 第三 証拠 本件記録中の書証目録のとおりである。 理 由 一 原告と被告株式会社ニチイ間においては、原告主張の日時、場所において、氏名不詳 の顧客が紳士靴下外一六点合計二万〇四二五円相当の品物を購入し、その際、同被告の従 業員が消費税相当分として六一二円を徴収したことは、当事者間に争いがなく、右事実に 加え、同被告との間で成立に争いのない甲第一号証によれば、原告と同被告間において原
告が右品物を購入し、あわせて消費税相当分として六一二円を同被告に支払つたことが認 められる。また、原告と被告国の間においても、弁論の全趣旨及び右により真正に成立し たものと認められる甲第一号証によれば、請求原因1の事実が認められる。 ところで、平成元年四月一日に税制改革法及び消費税法が実施されたことは、当裁判所 に顕著であり、被告株式会社ニチイが原告から右六一二円を徴収したのは、右法令に基づ くものであると推認することができるから、同被告の右六一二円の徴収は法律上の原因に 基づくものであることは明らかであつて、同被告が右金員を不当に利得したものとはいえ ない。したがつて、同被告に対する不当利得をいう点は失当であり、また、右が不当利得 であることを前提とする被告国の違法の主張も失当というべきである。 二 以上の事実によれば、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟 費用の負担について民訴法八九条に従い主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第七民事部 裁判長裁判官 田畑豊 裁判官 園部秀穂 裁判官 田中健治
不当利得返還請求控訴事件 大阪高等裁判所平成元年(ネ)第一四三七号 平成二年六月二八日言渡 判 決 大阪府交野市梅が枝四二番二一〇号 控訴人 向井一 東京都千代田区霞が関一丁目一番一号 被控訴人 国 右代表者法務大臣 長谷川信 右指定代理人 下野恭裕 辻浩司 龍神仁資 芳賀貴之 大阪市中央区淡路町二丁目二番九号 被控訴人 株式会社ニチイ 右代表者代表取締役 小林敏峯 右訴訟代理人弁護士 小蔦信勝 主 文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事 実 第一 当事者の申立 一 控訴人 原判決を取り消す。 被控訴人らは連帯して控訴人に対し六一二円を支払え。 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。 仮執行宣言 二 被控訴人ら 主文同旨 第二 当事者の主張 当事者双方の主張は、次に付加するほか、原判決事実欄に摘示のとおりであるから、ここ にこれを引用する。
(当審における控訴人の主張) 別紙記載のとおり。 (当審における被控訴人らの主張) すべて争う。 第三 証拠関係 原審の記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。 理 由 一 当裁判所も控訴人の被控訴人らに対する本訴請求はいずれも理由がなく、棄却を免れ ないと判断するところ、その理由は、次に付加するほか、原判決理由説示のとおりである からこれをここに引用する(ただし、原判決三枚目表一〇行目及び同裏七行目の各「を徴 収した」をそれぞれ「の支払を受けた」と、同裏九行目の「徴収」を「価格転嫁」と訂正 する。)。 (当審における控訴人の主張に対する判断) 憲法違反の主張を除くその余の主張は、被控訴人株式会社ニチイが消費税相当分六一二 円の価格転嫁により控訴人から支払を受けたことを論難するに尽きるところ、この点につ いての判断は原判決理由説示(原判決三枚目裏五行目から四枚目表一行目まで)のとおり、 被控訴人株式会社ニチイの右の行為は税制改革法(同日法律第一〇八号)に基づいてなさ れた適法の行為であるので、法律上の原因のない利得行為とはいえず、右金員の取得は不 当利得とはなりえない。それゆえ、右の価格転嫁等の消費税の実施、運用について指導し た被控訴人国の不当利得の責任はない。 次に、憲法違反の主張について検討する。 控訴人の主張は、要するに、第一に、消費税が、低所得者になるほど税の負担が重くな つており、これを定めた前掲税制改革法及び消費税法は憲法の保障する税の公平、公正性 に反するということ、第二に、価格転嫁により消費者が支払つた消費税相当額の金員が必 ずしもすべて国庫に納付されないのであり、消費者は買物の度に取られ損という不愉快な まま買物をするのが現実であり、このことを結果する前掲税制改革法及び消費税法は憲法 二五条に違反するということであると解される。 右税制改革法は、昭和六三年六月一五日に行われた税制調査会の答申の趣旨にのつとつ て行われる税制の抜本的な改革の趣旨、基本理念及び方針を明らかにし、かつ、簡潔にそ の全体像を示すことにより、右の税制改革についての国民の理解を深めるとともに、右の 税制改革が整合性をもつて、包括的かつ一体的に行われることに資するほか、右の税制改 革が我が国の経済社会に及ぼす影響にかんがみ、国等の配慮すべき事項について定めるこ とを目的として制定された法律であり(同法一条)、消費税は、現行の個別間接税制度が直
面している諸問題を根本的に解決し、税体系全体を通ずる税負担の公平を計るとともに、 国民福祉の充実等に必要な歳入構造の安定化に資するため、消費に広く薄く負担を求める 消費税を創設するとして採用された税制であり(同法一〇条一項)、右消費税法は、これに 関する課税標準及び税率、税額控除等、申告、納付、還付等につき定めたものである。 憲法は租税法律主義を定め(憲法八四条)、その法律の内容については国家財政、社会経 済、国民所得、国民生活等の実態について正確な資料に基づく立法府の政策的、技術的な 判断に委ねているものと解すべきである。 控訴人主張について、立証としてはレシート一通(甲第一号証)を提出するのみで、証 明不十分というよりほかなく、仮にその主張事実が認められるとしても、前記税制の抜本 的改革の一環としての消費税制度創設の目的からみると、そのことは右立法府の政策的、 技術的な判断において容認される裁量を逸脱したものとはいえない。 二 してみれば、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄 却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり 判決する。 大阪高等裁判所第一一民事部 裁判長裁判官 柳沢千昭 裁判官 東孝行 裁判官 松本哲泓 別紙(当審における控訴人の主張) 一 課税方法について (1) およそ課税と言うものは直接税であろうと間接税であろうと、その課税すべき基 本法に基づき為されるべきは衆知の通りであり、本件については消費税法がその基本法で あることは言うまでもあるまい。 その消費税法第五条には、明らかに之が税の負担者は事業者である旨明記されている。 (2) 仮に之が法に関連する法律が他に存在したとしても、基本法たる消費税法第五条 を改正せぬ限り憲法の租税法律主義に違背していることは明らかである。 二 商品代金と税との異質性について (1) およそ商品代金はその商品の仕入代金及び諸経費並びに事業者の利益等全てを含 めて決定されるべきものである。 (2) 然るに本件「甲第一号証」に明かなように商品代金額の他に消費税「金六一二円」 を明示されており、国の代理人でもない事業者が税を徴収する権限は何もない筈である。 (3) 然かも商品代金が前記の通りに決定されるものである以上、その商品に付随する
如何なる税も全て諸経費の中に吸収されており、その余に如何なる名目にしろ金員を請求 するのは「二重取り」と言うことになる。 三 新たなる事実の主張 本件に於いて代金支払の際、事業者の代理人たる従業員に対し控訴人は本件消費税額名 目の金六一二円也の支払は不当であるので支払えない旨抗議したが、之が従業員は商品の 引渡を拒否したので、やむなく控訴人は支払わざるを得なかつた事実を主張する。 四 改革法第一一条との関連について(予備的主張) (1) 前述の通り基本法たる「消費税法」以外の法の存在は無効である旨の主張にかわ りはないが念の為、予備的主張をしておく。 (2) 改革法第一一条の規定は何が何でも消費税をユーザーに転嫁すべき趣旨ではない。 即ち「円滑に」との規定あり。元に事業者によつては消費税を要求しないものも多数存在 している事は衆知の通りである。 (3) およそ商取引は売主と買主との合意によつて成立するものである。 にも不拘らず前述の事実主張の如く本件に於いては、国の代理人でもない事業者が明ら かに「税」と「レシート」に明示し、あたかも商品代金とは別のものであるかの如く装い 控訴人から徴収したのは違法行為以外の何者でもない。 五 憲法違反について (1) 被告等が本件の正当性の主張の根拠にしている「二法」は,いずれも憲法に保障 されている「税の公平、公正性」に違背している。 (2) 即ち本件課税が全ゆる品目を対象にしている点である。人は「カスミ」を吸つて 生きているものではない。憲法に保障されている最低限度の文化的生活を営む為には、そ れなりの生活必需品の購入を避けて通れない。 然るに消費税は低所得者になる程「税の負担」が重くなつているのは顕著なる事実であ り、これは「税の公平、公正」さを欠いているのは明白であり、憲法に違反している。 (3) 税の徴収方法の矛盾について 元来租税というものは正当なる方法(計算算出方法等)により課税されたるものが全て 公庫に納付されてこそ初めて税負担者たる国民は課税の妥当なるを納得するものである。 然るに現行の本件税制は簡易方式にしろ免税業者制度にしろいずれも最終消費者が販売 業者に徴収されたる三パーセントの金員が国庫に納付されるという確信が得られないのが 現実である。 例えば免税業者から「物品」を購入した場合、その支払つた金員の中三パーセント相当 の金員は全てその業者の懐に入り国庫とは無縁のものと理解し、買物の毎に「取られ損」 と不愉快な儘買物をするのが現実である。然り如何なる理屈も、この現実を論破すること は不可能である。 「最高裁昭和五一年(行ツ)第三〇号同五七年七月七日大法定判決・民集三六巻七号一二
三五号」にある如く憲法第二五条の規定は具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択 決定は立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の 逸脱、濫用と見ざるをえないような場合を除き裁判所が審査判断するのに適しない事柄で あるといわなけるばならない云々とある。(控訴人の利益に援用する。) 然るに前述の矛盾は該「合理性を欠き裁量の逸脱、濫用云々」に当たるのは明白である。 即ち本件税法の著しき欠陥であり、その法に基く本件請求金員は違法なるもので国は連 帯責任があり、直ちに控訴人に返還すべきものである。 以上