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第 1 章課題設定 第 1 節問題意識と先行研究農林水産省 食肉関係資料 に示されているように わが国の食肉需要量は高い水準で推移している ところが 家計における肉類の消費支出金額は停滞しているうえ 外食産業も市場規模の縮小に歯止めがかかっていない この背景には 値下げが大きく関係しており それに対

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食肉卸売業の競争構造と中小規模卸売業者の企業行

動に関する研究

東京農業大学 国際食料情報学部 食料環境経済学科 野口 敬夫 菊地 昌弥

【目次】

第1 章 課題設定 第1 節 問題意識と先行研究 第2 節 分析視角と論文構成 第2 章 食肉の需給・価格の動向 第1 節 家畜の飼養、食肉の貿易、食肉消費の動向 第2 節 食肉の卸売・小売価格の推移 第3 章 食肉卸売業の競争構造と企業の経営状況 第1 節 食肉卸売業における競争構造と企業規模 第2 節 食肉卸売業者における売上高及び利益率の変化 第3 節 食肉卸売業における新たな取組み―熟成肉の取組み― 第4 章 大消費地における中小規模卸売業者の企業行動と特徴 第1 節 年間売上高 100~200 億円未満の食肉卸売業者の企業行動 第2 節 年間売上高 10~100 億円未満の食肉卸売業者の企業行動 第3 節 年間売上高 10 億円未満の食肉卸売業者の企業行動 第5 章 総括

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1 章 課題設定

1 節 問題意識と先行研究 農林水産省『食肉関係資料』に示されているように、わが国の食肉需要量は高い水準で推 移している。ところが、家計における肉類の消費支出金額は停滞しているうえ、外食産業も 市場規模の縮小に歯止めがかかっていない。この背景には、値下げが大きく関係しており、 それに対応できない主体は厳しい経営状況に直面している。例えば、統計資料から平成23 年度の中央卸売市場の卸売業者の営業収支をみると、食肉は唯一営業利益がマイナスとな っている。わが国の食肉卸売業者は中小規模が大半を占めるが、近年、中小規模の食肉卸売 業者は激減している。一方、高齢化や健康志向を背景に牛肉については脂肪交雑以外の品質 が注目されており、消費者の嗜好が多様化する動きがみられる1)。こうした動向を受けて、 農林水産省は新たな商品価値の創出による需要拡大や、多様な食肉生産へ転換を図る方針 を打ち出し、事業も実施している2)。上記の現状を踏まえると、食肉卸売業者にとっても厳 しい状況から脱する好機にあると考えられる。 今後さらなる貿易自由化が進めば国産食肉の市場環境が厳しくなるとともに、輸入食肉 においては総合商社や大手食肉加工会社といった大規模業者による価格決定力の拡大等、 食肉流通に対する影響力が高まることが予想される。しかし、技術や経営に独自性を有する ことで多様な可能性をもち、都市・地方都市を含め地域の経済・社会・雇用を支える中小規 模の食肉卸売業者が今後存続していくことは重要である。その存続のための方策を考える 上で、企業経営を取り巻く産業構造や企業の事業戦略を解明し、問題と今後の展望を検討し ていくことは、この分野における基礎的な成果として一定の役割を果たすと考えられる。 関連する食肉流通の先行研究をみると、国産ブランド食肉(特に牛肉)については、雑誌 記事や報告書等が散見され、産地におけるブランド形成や特徴、関係主体の取組みについて 纏められている。また、学術研究でも堀田(2004)、佐々木(2011)、菊地ら(2015)など では、産地ブランドについてマネジリアル・マーケティング論で援用される4P の枠組みか らの分析が進められているが、消費地における食肉卸売業者の企業行動に焦点をあてた関 連する研究は未だ存在しない。 そこで本研究では、食肉卸売業の競争構造と中小規模卸売業者のの企業行動を明らかに する。 第2 節 分析視角と論文構成 この課題解明にあたり、本研究では産業内部の競争構造と企業行動の関係を分析する産 業組織論を分析視角とする。日本フードシステム学会の2012 年度シンポジウムの座長解題 である浅見・佐藤(2012)では、食品産業分析の方法には産業組織論の分析枠組みが依然と

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3 して有効であり、特段「構造⇔行動」の枠組みからの検討が必要であることが提示されてい る。本研究はこれまで研究が蓄積されていない中小規模の食肉卸売業者について、食肉産業 の競争構造(「構造」の部分)を整理し、それを踏まえた企業行動(「行動」の部分)の観点 から、複数の事例を通して考察することで、体系的かつ総合的に課題を明らかにしたい。 まず、第 2 章では食肉卸売業の競争構造や企業行動を検討する上で把握しておく必要が ある食肉の需給や価格の動向について整理したい。具体的には2000 年代以降の食肉消費の 動きや家畜の飼養、食肉の輸入の概況に加えて、食肉流通や卸売・小売価格の推移について 統計資料を中心に纏める。 次に第 3 章では食肉卸売業の競争構造について売上規模別の企業群の特徴や売上高・利 益率等の経営状況について食肉関連の文献資料や統計資料によって変化と現状を把握する。 また、食肉卸売業者のなかには加工分野へ事業を拡大する動きがみられるが、なかでも消費 者嗜好の多様化に対応して注目を浴びている熟成肉の取組みについてもふれたい。 そして、第 4 章では大消費地における中小規模の食肉卸売業者が競争構造を踏まえて、 どのような企業行動をとっているのかについて検討する。詳しくは第 3 章に示したが、本 研究では年間売上高を指標として規模的に 200 億円未満を中小規模卸売業者と位置付け、 第4 章では北海道、東京都、大阪府、福岡県といった大消費地に立地している 200 億円未 満の食肉卸売業者を事例としている。具体的には、年間売上高100~200 億円未満の食肉卸 売業者である2 社、年間売上高 10~100 億円未満の食肉卸売業者である 3 社、年間売上高 10 億円未満の食肉卸売業者である 3 社と、合計 8 社に対してヒアリング調査を実施した。 また、食肉流通における「卸売機能」については、主に商的流通機能として仕入、販売、商 品提案等、物的流通機能として輸送、流通加工(部分肉加工、精肉加工)、食肉加工品製造 等が挙げられる3)が、本稿ではこれらのポイントを中心に事例とする卸売業者の企業行動 を検討していきたい。また、同主体が外食や加工分野へ事業を拡大する動きがみられるが、 本研究ではこうした動向にも焦点を当てる。

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2 章 食肉の需給・価格の動向

1 節 食肉消費の動向、家畜の飼養概況、食肉輸入の推移 1)食肉消費の動向 図2-1 の全国 1 人当たり食肉消費額の推移をみると、2000 年以降、約 1 万 7,000 円前後 で推移しているが、2013 年以降微増傾向にあり 2015 年には約 2 万 2,000 円となっている。 牛肉、豚肉、鶏肉ともに増加しているが、2010 年から 2015 年の増加率をみると、牛肉が 約17%、豚肉が約 27%、鶏肉が約 29%となっており、特に豚肉と鶏肉の増加率が高い状況 にある。 次に表2-1 の食肉消費の構成割合をみると、牛肉と鶏肉については家計消費と業務用、外 食などその他への仕向けが多いが、これらと比較すると豚肉については加工仕向けが比較 的多い。2000~2015 年の間に牛肉の家計消費が 6%減少し、業務用、外食等のその他が 10% 増加する一方、豚肉と鶏肉については家計消費が8%増加している。後述するように牛肉価 格が上昇するなかで、家計消費における牛肉の消費が減少し、その代替して豚肉と鶏肉の消 費が増加している。 7,794 6,672 6,119 6,014 6,033 6,440 7,045 7,136 6,541 7,321 7,823 7,996 7,778 8,393 9,319 9,951 3,204 3,392 3,971 4,268 4,121 4,465 4,867 5,142 0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 2000 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015 図2-1 全国1人当たり食肉消費額の推移 牛肉 豚肉 鶏肉 出所:総務省『家計調査』より作成 注:金額は消費税を含む。 (円) (年)

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5 (2)家畜の飼養概況 まず肉用牛の飼養概況をみると、飼養戸数は2000~2016 年の間に約 11 万 6,500 戸から 約5 万 2,000 戸まで半分以上減少している。同じ期間の飼養頭数については、肉用種が約 282 万頭から約 237 万頭、乳用種が約 112 万頭から 83 万頭まで減少した(表 2-2)。 全国の肉用牛飼養頭数合計に占める各県のシェア(平成28 年 2 月現在)をみると、北海 道が約20%、鹿児島県が約 12.9%、宮崎県が約 9.8%、熊本県が約 5.1%、と上位 4 道県で 約48%を占めており、肉用牛は北海道と南九州地域に集中し産地特化が進んでいる4) 単位:% 2000 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015 家計消費 37 36 34 33 32 33 32 31 加工仕向 9 10 5 5 6 6 5 5 その他(業務用、外食等) 54 54 61 62 62 61 63 64 家計消費 41 41 46 47 46 49 48 49 加工仕向 28 29 25 25 25 25 24 24 その他(業務用、外食等) 31 30 29 28 29 26 28 27 家計消費 31 34 38 38 39 41 41 40 加工仕向 9 8 7 6 7 7 6 7 その他(業務用、外食等) 60 58 55 56 54 52 53 53 出所:農林水産省『食肉の消費構成割合』より作成

牛肉

豚肉

鶏肉

表2-1 食肉消費の構成割合の推移 単位:戸、頭、千羽 交雑種 2000 116,500 2,823,000 1,124,000 663,300 11,700 9,806,000 3,082 108,410 2005 89,600 2,747,000 1,049,000 578,500 ― ― 2,652 102,277 2010 74,400 2,892,000 968,300 547,300 ― ― ― ― 2011 69,600 2,763,000 894,800 483,000 6,010 9,768,000 ― ― 2012 65,200 2,723,000 891,700 499,100 5,840 9,735,000 ― ― 2013 61,300 2,642,000 873,400 497,900 5,570 9,685,000 2,420 131,624 2014 57,500 2,567,000 851,400 483,900 5,270 9,537,000 2,380 135,747 2015 54,400 2,489,000 827,700 482,400 ― ― ― ― 2016 51,900 2,479,000 837,100 505,300 4,830 9,313,000 2,360 134,395 出所:農林水産省『畜産統計』より作成 注:2009年までは畜産物流通統計、2013年以降は畜産統計の調査のため、それ以前の数値とは接続しない。 表2-2 家畜飼養頭数及び飼養戸数の推移 肉用牛 肉豚 ブロイラー 飼養戸数 飼養頭数 飼養戸数 飼養頭数 飼養戸数 飼養羽数 肉用種 乳用種

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6 また、肉用牛産地を含め全国的に繁殖基盤の縮小が進んだことで子牛価格が上昇してい る。2007 年から 2016 年の 10 年の間に、繁殖牛の飼養戸数が約 7 万 1,000 戸から約 4 万 4,000 戸、飼養頭数が約 63 万頭から約 58 万頭まで減少し、子牛の分娩頭数が減少した。こ れによって2012 年度以降は肉用子牛価格が上昇し、黒毛和種の子牛(雌・雄)平均価格は 2012 年の約 42 万円から 2015 年は約 69 万円に急増し、過去 20 年で最高水準に達してい る(図2-2)。 次に肉豚の飼養概況をみると、2000~2016 年の間に飼養戸数は約 1 万 1,700 戸から 4,830 戸と大きく減少する一方、同期間の飼養頭数についても約980 万頭から約 930 万頭に減少 傾向にある(表2-2)。全国の肉豚飼養頭数合計に占める各県のシェア(平成 28 年 2 月現 在)をみると、鹿児島県が約13.6%、宮崎県が約 9%、千葉県が約 7.2%、群馬県が約 6.8%、 茨城県が約6%と、南九州及び関東地域の上位 5 県で約 42%を占める5) 全国的に高齢化や担い手不足、経営の悪化などにより飼養戸数が減少しているが、養豚経 営ではさらなるコスト低減を図るために規模拡大が進められ、主産地では大型養豚企業が 台頭している6)。1 戸当たり飼養頭数は 2000 年の 838 頭から 2016 年の 1,928 頭まで拡大 している。年間肥育豚飼養規模別にみると、2,000 頭規模層は 2011 年に飼養戸数全体の約 18.4%であったが、2016 年には飼養頭数全体の約 21.8%を占めるに至っている7) ブロイラーの飼養概況については、2009 年以前と 2013 年以降の統計調査が異なってい るため長期的な動きを把握することができない。2013~2016 年の間に飼養羽数は約 13 万 羽前後で大きな変動無く概ね横ばいで推移しているが、飼養戸数は 2,420 戸から 2,360 戸 と微減傾向にある(表2-2)。 ブロイラー養鶏では養豚以上に経営規模の拡大が進み、大型養鶏企業が増加しているが、 ブロイラーの規模別飼養戸数をみると 50 万羽以上の戸数シェアは 2013 年の 9.2%から 509 491 386 361 390 399 420 503 571 688 622 636 667 682 684 668 642 618 595 580 589 0 100 200 300 400 500 600 700 800 520 540 560 580 600 620 640 660 680 700 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

図2‐2 繁殖雌牛頭数及び子牛価格の推移

子牛価格 繁殖雌牛頭数 出所:農林水産省『畜産統計』、農畜産業振興機構『肉用子牛取引状況』により作成。 注:子牛価格は黒毛和種(雌・雄)の年度平均価格。 (千円/頭) (千頭)

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7 2016 年には 11.3%に拡大している8)。この生産の大規模化とともに土地的に制約のある関 東や近畿などの旧産地では生産量がさらに減少し、2016 年では九州の鹿児島県が約 20%、 宮崎県が約20%、東北の岩手県が約 16%、青森県が約 5%と飼養羽数の上位 4 県で全体の 約61%を占め、産地特化が進展している9)。こうした産地において、ブロイラー養鶏では 経営権を所有する独立した生産者はわずかとなっており、総合商社、系統農協、独立系産地 処理会社の 3 者による契約・委託生産や直営生産が大部分を占め、著しい集中化が進んで いる10)3)食肉輸入の推移 食肉輸入の推移をみると、2010 年から 2015 年間に牛肉は約 50 万t、豚肉は約 75~80 万t、鶏肉は約45 万と、若干の上下変動はあるものの概ね横ばいで推移している。輸入相 手国にも大きな変化がみられないが、2015 年現在、牛肉では豪州が約 60%、米国が約 33%、 豚肉では米国が約32%、カナダが約 20%を占めている。なお、鶏肉については 2000 年代 半ばの鳥インフルエンザ発生による中国・タイの輸入禁止を受け、輸入はブラジル一国に集 中している(表2-3)。 第2 節 食肉の流通と卸売・小売価格の推移 1)食肉流通と価格決定 肉牛と肉豚の屠畜処理では食肉卸売市場経由が減少して、公共団体系、系統農協系、食肉 加工メーカー系などの産地食肉センター経由が増加している。2016 年現在、肉牛の全国屠 畜頭数は7 万 8,646 頭であるが、主要卸売市場(10 中央卸売市場+18 指定市場)における 省令規格の取引成立頭数は3,103 頭、肉豚の全国屠畜頭数は 136 万 1,380 頭で、主要卸売 市場における省令規格の取引成立頭数は7 万 6,189 頭となっている11)。このように現在、 市場経由率は低く、市場外流通の割合が高い状況にあるが、市場外流通における業者間の取 単位:t 鶏肉 豪州 米国 米国 カナダ 2000 736,551 337,979 356,831 69 650,806 201,238 128,150 193 555,300 2005 457,758 406,099 662 49 879,168 291,771 188,582 44 433,451 2010 511,049 352,194 98,118 495 768,138 309,178 175,803 154 431,195 2011 515,764 334,632 123,725 581 803,008 329,533 174,348 155 475,334 2012 505,232 308,998 131,166 945 759,778 300,012 165,475 184 422,898 2013 535,134 277,714 200,811 915 744,271 275,114 142,120 283 405,645 2014 516,200 276,820 186,266 1,363 816,218 268,091 150,610 413 498,654 2015 487,098 289,232 163,650 1,583 825,617 265,755 169,575 450 550,892 出所:財務省『貿易統計』より作成 牛肉 豚肉 表2-3 日本の食肉輸入の推移 輸入量 輸出量 輸入量 輸出量 輸入量

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8 引においては、依然として食肉卸売市場においてセリで決定された価格が取引価格の目安 となっている。鶏肉では産地で生産から卸売に至るまでインテグレーションが構築されて いるが、取引の指標価格は『日本経済新聞』に掲載される荷受会社の取引価格の加重平均が 指標とされている。国産食肉(牛肉、豚肉、鶏肉)の卸売段階では、全国的な販売網を保有 する大手食肉加工会社や卸売会社の取扱量が多い一方、小売段階では量販店のシェアが圧 倒的に大きく、価格競争が激化する中で量販店のバイイング・パワーが高まっている。最終 小売単価の決定権は量販店側に移りつつあり、卸売会社に対する価格や品質に対する要求 が強まっている12)2)食肉の卸売・小売価格の動向 価格の動きについては牛肉を中心にみていくが、前述のように肉牛生産では子牛価格が 高騰しており、それに伴って枝肉価格が上昇している。牛枝肉卸売価格(東京市場)の推移 をみると、和牛では2015 年現在、A-5 から A-2 のすべての格付で枝肉価格が 2,000 円/kg を超えているが、2011~2015 年の価格上昇率をみると A-5 は 42.3%、A-4 は 61.2%、A-3 は81.9%、A-2 は 112.6%、となっており低い格付ほど価格が上昇している。交雑牛及び乳 用牛でも価格は上がっているが、特に頭数が減少している乳用牛の上昇率をみると B—3 は 131.5%、B-2 は 129.7%と、和牛以上に価格が急騰している(表 2-4)。 牛肉小売価格の推移は表2-5 に示したが、和牛、交雑牛、乳用牛を含むその他の価格を比 較してみると、かた、ばら、サーロイン、もものすべての部位において、和牛は交雑種の約 1.4 倍、その他の約 2 倍の価格となっている。これら国産品だけでなく輸入品の豪州産・米 国産についても価格が上昇傾向にあるが、2015 年におけるかた肉の価格を比較してみると、 単位:円/kg

A-5 A-4 A-3 A-2 B-3 B-2 B-3 B-2

2000 2,401 1,860 1,496 1,161 926 791 1,233 1,005 2005 2,440 2,159 1,979 1,722 949 845 1,504 1,327 2010 2,087 1,716 1,507 1,326 768 655 1,198 1,072 2011 1,852 1,517 1,270 1,007 498 473 1,003 825 2012 1,970 1,703 1,525 1,353 700 639 1,107 987 2013 2,138 1,888 1,725 1,566 877 784 1,249 1,130 2014 2,282 2,037 1,874 1,720 948 875 1,351 1,232 2015 2,634 2,446 2,310 2,140 1,153 1,085 1,668 1,518 資料:農林水産省「食肉流通統計」、東京食肉市場(株) 注 :消費税を含む。

2-4 食肉市場の牛枝肉卸売価格(東京市場)

和牛去勢 乳用牛去勢 交雑牛去勢

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9 国産和牛は約750 円であるが、豪州産牛は約 250 円、米国産牛は約 300 円となっており、 国産和牛の価格は豪州産牛の約3 倍、米国産牛の約 2.5 倍の開きがある。 また、品質的に競合するとされる国産品・交雑牛と輸入品・米国産牛、国産品・乳用牛を 含むその他と輸入品豪州産牛の価格差を比較すると、交雑牛は米国産牛の約 2 倍、その他 は豪州産牛の約1.5 倍の差がある。豚肉・鶏肉の小売価格は 2014~2015 年に上昇している が、牛肉と比較すれば安価であり、牛肉価格が高騰するなかで前述のように豚肉・鶏肉の消 費が拡大している。 単位:円/100g かた ばら サーロイン もも かた ばら サーロイン もも かた ばら サーロインもも ロースかた ばら サーロイン ももロースかた ばらかたロース ロースもも 2000 530 4781,129 551 - - - - 328 307 630 367 211 159 350 173 231 272 125 224 171 116 2005 634 6241,200 616 - - - - 393 424 757 405 246 269 395 208 ― ― 135 242 168 123 2010 641 6661,184 634 455 516 896 451 346 372 606 349 223 248 345 197 ― ― 132 246 157 130 2011 653 6691,182 627 454 517 891 456 348 384 601 342 216 220 332 194 ― ― 134 250 160 130 2012 617 6161,157 602 441 464 844 439 299 313 599 332 206 203 329 163 207 204 127 244 146 124 2013 633 6221,148 629 451 493 852 431 291 360 610 336 209 208 331 178 209 206 132 245 147 127 2014 682 6861,212 661 490 509 890 484 318 434 624 358 231 233 370 203 255 288 141 258 157 135 2015 753 7441,314 726 543 595 922 531 336 417 629 379 250 254 396 234 298 287 148 270 158 136 表2-5 全国の食肉(国産品・輸入品)小売価格の推移  2:その他の平成19年度以前の数値は、交雑種を含む価格。  3:平成24年4月に調査対象店舗を一部変更したことからデータの連続性に留意されたい。 国産豚肉 輸入 豚肉 国産 鶏肉  4:米国産は取扱量の減少に伴い、平成16年5月から平成24年3月まで公表を中止。 国産品 輸入品 和牛 交雑牛 その他 豪州産牛 米国産牛 資料:(独)農畜産業振興機構調べ 注1:消費税を含む。

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3 章 食肉卸売業の競争構造と企業の経営状況

1 節 食肉卸売業における競争構造と企業規模 食肉卸売業における競争構造について、日本食肉年鑑(2015)の食肉卸売業者の売上高 上位をみると第1 位~第 4 位までが約 1,000 億円台、第 5 位~第 7 位までが約 800~900 億円台、第8 位~第 10 位までが約 400 億円台となっている。これらの上位 10 社の本社所 在地をみると、東京都・大阪府が合計5 社で、次いで福岡県や兵庫県など大消費地、宮崎 県や鹿児島県など産地の企業がみられる。これらの上位企業は都市部に本社を置く大手食 肉加工会社のグループ企業や産地と結びつきが強い系統農協系の企業などであるが、全国 に支社や営業所を設置しており全国に仕入・販売網を構築している。 上位11 位~15 位までの売上高は 300 億円台、16 位~20 位の売上高までは 200 億円台 と続くが、11 位~20 位までは東京・大阪といった大消費地にある企業と産地にある企業 が半々となっているが、全国的な仕入・販売網を有するほどの規模ではなく地元や周辺地 域を中心に仕入・販売を進めている。21 位以下については売上高 200 億円未満となって いるが、本研究ではこの層を中小規模卸売業者として位置付ける13) わが国の食肉卸売業者は中小規模が大半を占め、経済産業省『商業統計』より食肉卸売 業者の従業員規模別に事業所数をみると、2014 年には 3,999 事業所数のうち、従業員数が 100 人未満の事業所は 3,971 カ所となっており、実に全体の 99.3%を占める。こうした中 小規模の食肉卸売業者は激減しており、2002 年と 2014 年で事業所数を比較すると、総数 は5,173 カ所から 3,999 カ所へと減少している。 従業員規模別減少率(2002 年比)が最も高い層は 10~19 人規模で減少率は-36%、次 2002年 2014年 2002年比 2002年 2014年 2002年比 2人以下 439 560 27.6 96,072 244,303 154.3 3~4人 922 770 -16.5 213,534 254,904 19.4 5~9人 1,707 1,245 -27.1 725,599 685,975 -5.5 10~19人 1,283 821 -36.0 1,177,815 957,595 -18.7 20~29人 436 298 -31.7 699,321 683,632 -2.2 30~49人 262 192 -26.7 749,834 620,853 -17.2 50~99人 117 85 -27.4 718,591 838,640 16.7 100人~ 27 28 3.7 1,205,657 1,237,195 2.6 合計 5,173 3,999 -22.7 5,586,423 5,523,097 -1.1 表3-1 食肉卸売業者・従業者規模別年間販売額 出所:経済産業省『商業統計』より作成 年間販売額 事業所数 従業員人数 単位:カ所、百万円

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11 に20~29 人規模で減少率は-31%となっているが、30~49 人規模や 50~99 人規模の企 業についても減少率は-25%以上を超えている。年間販売額をみると、2002 年から 2014 年にかけて合計額は概ね横ばいであるが、従業員規模別にみると、10 人以上 49 人以下の 層の販売額が減少する一方、50 人以上の層は拡大傾向にある(表 3-1)。 続いて従業者規模別の平均利益率について、2004 年から 2014 年の変化をみると(表 3-2)、特に 30~49 人規模の減少が顕著であるが、この 10 年間ですべての従業員規模で平均 利益率が下がっている。 第2 節 食肉卸売業者における売上高及び利益率の変化 従業員人数 2004年 2014年 10~19人 0.82 0.72 20~29人 1.31 1.11 30~49人 1.28 0.74 50~99人 1.17 0.83 表3-2 従業者規模別平均利益率の推移 出所:食肉通信社「日本食肉年鑑」より作成 0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 0 10,000 20,000 30,000 (百万円) (百万円) 図3-1 中小食肉卸売業者の2004年及び2014年度の売上高 出所:食肉通信社「日本食肉年鑑」各年版より作成 2004年度売上高 2014 年 度 売 上 高

売上高増加

売上高減少

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12 子牛代を含む資材価格の高騰によって生産コストの上昇が進む一方で、小売価格がそれ ほど上昇していないこともあり、その間に介在する卸売業者は厳しい経営状況にあると推 察されるが、卸売業者の売上高と純利益率を指標にその変化を捉えたい。 食肉通信社「日本食肉年鑑」を用いて、2014 年度の年鑑に掲載されている卸売業者 532 社の中から、2004 年度の年鑑にも掲載されている経営体を抽出し、さらにその中でも売上 が両年(2004 年及び 2014 年)とも記載されている経営体を取り上げた。ピックアップし た卸売業者である69 社のうち、34 社が 2004 年から 2014 年の間に売上高を減少させてい る。2004 年に売上高が約 100 億円以上であった企業は、2014 年に売上高を増加させてい る企業が多い一方で、2004 年に売上高が 100 億円以下の企業が 2014 年には売上高を減少 させている傾向にある(図3-1)。 また同様に、2014 年度と 2004 年度のどちらの年鑑にも利益率が記載されている経営体 を取り上げると、ピックアップできた49 社のうち 31 社が利益率を減少させている。10 年 間で利益率を2%以上増加させた企業は数えるほどであるが、特に 2004 年に利益率が 1.5% 以下の企業群が2014 年に利益率を 0.5%以下まで下げている傾向がみられる(図 3-2)。 第3 節 食肉卸売業における新たな取組み―熟成肉の取組み― 食肉卸売業者のなかには、加工(OEM を含む)分野へ事業を拡大する動きがみられるが、 なかでも消費者嗜好の多様化に対応して熟成肉の取組みが注目を浴びている。熟成の技術 は、輸入品と競合する赤身の牛肉の美味しさを向上させるためのものなので、この特徴を有 する牛肉に広く活用できる可能性があり、産地や加工企業をはじめ多くの関係者が取組み 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 (%) (%) 図3-2 中小食肉卸売業者の2004年及び2014年度の利益率 出所:食肉通信社「日本食肉年鑑」各年版より作成 2004年 利益 2014 年 利 益 率

利益率増加

利益率減少

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13 を進めている。 熟成肉の生産工程に関して、定義や規定化されているものは存在しない。そのため、畜種 および部位、熟成期間、熟成環境、熟成方法におけるカビの付着の有無等各企業独自のノウ ハウに基づいて生産されている。この概要について示したのが表 3—3 である。株式会社さ の萬と協議会メンバーであるミート社、小川畜産グループ、スターゼン株式会社は業界のな かでも熟成肉に積極的に取り組んでいる企業である。これらの企業は熟成させる湿度にこ そ共通点はあるものの、それ以外の部分は大きく異なっている。 なかでもミート社では熟成させる工程上でカビを付着させないことにこだわっている点 に顕著な特徴がある。詳細については、菊地ら(2017)に取り纏められているが、同社は原 料にも熟成の方法にもこだわりを持ち、商品を生産している。これは熟成肉を日本より早く 手がけ、小売も行なわれる等先駆的に取り組んできた欧米をはじめとする海外の優れた熟 成肉を取り扱う外食・小売店への調査訪問,海外の展示会への参加等を通して得た知見を踏 まえ、商品の品質水準を上げる努力している結果である。その一例をあげると、2013 年に はアメリカニューヨーク市の専門店で製造・保管状況の視察、2015 年では 8 月に香港の高 級小売店で販売している商品の視察と試食、10 月にはイギリスのレストランショーへの出 店ならびに小売・外食の有名店で販売している商品の購入および試食といった行動をとっ ている。 以上、本章でみてきたように、中小規模の食肉卸売業者は売上高・利益率の動向からみて 経営状況が厳しい状況にあるが、その一方で加工業へ事業範囲を拡大する動きや熟成肉な どの新たな取組みがみられる。次章では、北海道、東京都、大阪府、福岡県といった大消費 地に立地している 200 億円未満の食肉卸売業者を事例として、その企業行動の特徴や課題 について詳しく検討していく。 ㈱ミートコンパニオン ㈱さの萬 小川畜産グループ スターゼン㈱ 交雑種 乳用種 乳用種 短角和牛 黒毛和牛(3等級) 部 位骨付きロースが中心(1本30kg) ロース、もも 骨付きロースが中心 骨付き肉に限定 1週間(吊るし水分抜き) 2~8週間(整置ドライエイジング) 合計3~9週間 温 度0℃ 1~2℃ 3℃以下 湿 度70~80% 70~80% 70~80% そ の 他 強い風を1週間あてて水分を抜き、 その後風を弱めて熟成 常に強い風をあてて熟成 適度な風を循環あせて熟成 カビを付着させないで熟成 カビを付着させて熟成 ・カビを付着させて熟成 ・製品化の際にはカビを除去 熟成の特徴 不明 出所:食肉通信社(2014)『月刊ミート・ジャーナル』2014年9月号別冊付録「熟成肉のすすめ」より作成 熟成期間 約40~50日間 約40日間 28日間以上 熟成環境 不明 表3—3 熟成肉の主要企業における熟成の生産工程の概要 品種および部位 品 種 不明 国産牛

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4 章 大消費地における中小規模卸売業者の企業行動と特徴

1 節 年間売上高 100~200 億円未満の食肉卸売業者の企業行動 1)A 社の事例14) A 社は 1948 年に設立され、大阪府に本社及び工場(2 ヵ所)、東京都と福岡県に営業所を 設置している。従業員数は 40 名で、資本金は 8,800 万円となっているが、年間売上高は 2014 年の約 111 億 8,800 万円から、2016 年には約 144 億 7,700 万円に拡大している。 会社設立当初、加工業が中心であったが、同社は2010 年から食肉事業部を設置し食肉卸 売業を本格化させている。2016 年現在では、食肉(国産品・輸入品)卸売業の年間売上高 が約110 億円、食肉製品・惣菜等の加工業が約 30 億円となっている。 同社が取り扱う食肉のうち約 85%が牛肉となっているが、牛肉の約 70%は輸入品、約 30%が国産品である。国産牛肉の枝肉価格が上昇するなか、牛肉の利益率をみると輸入品は 約7~9%、国産品は約 3~5%と、国産品の利益率が低いことから輸入品の取扱い拡大して いる。輸入牛肉については、大手総合商社から購入しており、そのうち豪州産が約 60%、 米国産が約30%、その他が約 10%となっているが、近年では米国産が拡大傾向にある。 国産牛肉については中国・四国地方の生協グループからの要望で、安価な国産牛肉である ホルスタイン種の取扱いが多く国産牛肉の約85%を占め、その売上高は約 24 億にのぼる。 国産牛肉仕入の約 80%は北海道となっており、その取引先は屠畜処理・販売を行う食肉市 場会社や生産者団体連合会、大手食肉販売業者からの仕入れが多い。特に、国産牛肉仕入の 約 75%は食肉市場会社となっており大部分を占めるが、この食肉市場会社からはフルセッ トで仕入れ、不足分を生産者団体連合会などからパーツ仕入れで補っている。 ホルスタインの格付は全国的にみてB-2 が中心であり、A 社が取り扱う約 90%も B-2 で あるが、高値販売つながるB-3 の取扱いを増やすために産地との連携を強化している。A 社 はこの食肉市場会社に出荷している北海道の 4 ヵ所の牧場からホルスタインを仕入れてい るが、このなかでも品質が高い肥育1,500 頭規模、肥育 3,500 頭規模の 2 ヵ所と密な連携 をとっている。A 社はこの生産者や食肉市場会社などと毎日電話連絡を取るだけでなく、月 1 回は産地に出向いている。 ホルスタイン種は東京及び大阪市場の 2 ヵ所だけで上場されているが、上場頭数が少な すぎるため枝肉価格の変動が激しく価格指標として利用しづらい。そのため同社は翌月の 取引価格を決定するにあたって、前月市場価格の平均を参考にしつつ、食肉市場会社や生産 者と協議し生産コストを踏まえて価格を決定している。 ホルスタイン種以外では、交雑種や黒毛和種の取扱いもあり、神戸ビーフ、松阪牛など全 国の銘柄牛を大手食肉卸売会社から仕入れている。特に、焼肉ブームのなかで利益率が高い (約10%以上の利益率)内臓肉の仕入れにも力点を置き、外食業者への販路をもつ問屋へ の販売を進めている。

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15 A 社は全国エリアで販売を進めているが、割合としては大阪府、京都府、兵庫県などの関 西圏が多い。年間の取引先数は約300 件であるが、販売先をみると約 30%は大手量販店グ ループといった小売業者、約30~40%は地元に卸している問屋、約 15%は生協、約 10% はメーカー、約5~15%はレストラン、ホテル、焼肉などの外食業者、となっている。販売 価格については、仕入価格を踏まえて月ごとに価格を決定されるが、大手の販売先について は年間3~4 回で固定されることもある。 牛肉については13 部位に分割して販売している。季節的な需要変動をみると夏にはスラ イス、冬にはばら・ももなどが余剰する傾向にあるが、これらは冷凍により在庫調整が行わ れ、生協や外食業者へ販売されるか、自社工場に回して加工品が製造される。加工品につい ては約70%が委託製造(原料提供を含める)、約 30%は自社工場での製造となっている。 大阪の自社工場については冷凍庫・冷蔵庫・作業場の室温と加熱加工室のボイル槽の温度の システム管理や、入荷から出荷までの工程を監視・記録など、品質衛生管理を徹底している。 外国人観光客の増加や少子高齢化の進展などマーケットに変化がみられるなか、同社は 販売先を拡大させる必要があり、外食業者への販売やアジアなどへ輸出を進めていくこと も検討している。ただし、社内の営業部門等においては人手不足の状況にあり、今後、販路 を拡大するためにも人員体制の強化が課題となっている。 (2)B 社の事例15) B 社は 1950 年に設立され、本社所在地は北海道札幌市で 2015 年現在の社員数は 72 名 (パート込)で正社員は36 名である。資本金は 3,800 万円、年間売上高は約 100 億円(2015 年)で、その内訳をみると卸売業が約45%、小売業が約 50%、加工業が約 5%となってお り、卸売・小売業が事業の中心となっている。組織概要をみると、卸売部門では営業1 部が 外食販売、営業2 部がスーパー販売、営業 3 部が市場開発(商品開発、ギフトなど)に分 け、小売部門では百貨店などのテナント出店、中央卸売市場・仲卸店など8 ヵ所に出店して いる。なお、関連会社として加工品製造会社と小売店舗の有限会社を設置している。 取扱商品については、金額ベースでみると、牛肉が約 20%、豚肉が約 20%、鶏肉が約 10%、羊肉が約 50%と、売上の大部分を羊肉が占める。牛肉については国産が約 80%、輸 入が約20%と国産主体の取扱いであるが、国産では和牛が約 50%、ホルスタインが約 30%、 残りは交雑種や経産牛(再肥育)となっている。和牛では道内産が約60%を占め、知床牛 を契約農場の生産者と直接取引を行っている。ホルスタインでも契約農場の生産者と直接 取引がみられ、通常17 カ月のところ 20 カ月肥育する長期肥育の「十勝和牛」などを取り 扱っている。ただし、近年国産牛肉については価格が上昇しており、和牛だけでなく交雑種 も和牛並みの価格に上昇しているため、輸入品へのシフトが進んでいる。輸入牛肉について は総合商社から購入しており、豪州産牛肉が多いが今後は米国産牛肉の取扱いを増やす見 込みである。 豚肉については国産品と輸入品がそれぞれ約50%となっているが、国産品約 50%のうち

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16 銘柄豚が 15%を占め。これらは道内産が中心である。ただし、販売先からの要請があれば 九州産などの仕入れも行う。輸入についてはデンマーク、カナダが中心となっており、デン マーク産豚肉はチャーシューなどの加工品向け原料肉や精肉、カナダ産豚肉はとんかつな どの加工品向け原料肉などへ仕向けられる。豚肉も高値で推移していることから輸入へシ フトする傾向にあり、価格が安価なメキシコ産やオランダ産の取扱いも行っている。鶏肉に ついては国産が約60%、輸入が約 40%となっているが、国産については岩手県のブロイラ ーや全国の有名地鶏(阿波尾鶏、比内地鶏など)を取り扱っている。 輸入品の仕入れについては大手商社、国産品の仕入については大手食肉卸売会社や生産 者団体連合会と取引を行っている。購入する国産牛については、生産農場に直接見学に行き 価格や数量など取引を行うが、取引はこれらの企業を通して購入している。 販売については、スーパーや自社店舗などの小売業からホテルやレストランなどの外食 業まで取引を行っている。スーパーについては地元企業が多い。自社店舗では切り落としの 販売が多く、売上の大部分を占める。ホテル・レストランには牛肉・豚肉の販売が多く、特 にホテルについては30~40 社ほどと取引を行っている。観光客数は年間通じて安定してお り季節需要の影響はほとんどみられない。料理に力入れているホテルについては国産品の 販売が多い。なお、卸売業者との取引もみられるが、これについては羊肉の販売が多い。 仕入・販売形態をみると、牛肉では仕入はフルセット、販売はパーツで販売となっている。 スーパーでは切り落とし、ホテルではヒレ、サーロイン、リブロース、らんいちなどの部位 の需要が高い。かたロースなどは比較的に需要が低いが、切り落としに混ぜて販売すること で、それほど余剰は発生していない。豚肉についてもフルセットで購入、パーツで販売して おり、スーパーでは切り落とし、ホテルではうで、かたロース、ばらなどの需要が多い。鶏 肉については、もも肉の需要が高いが、その他の部位についても業務用ニーズがあることか ら、極端な低需要部位は無い。 ホテルなどのニーズから部位を目的に合わせて、すぐに調理できる大きさ・形に分割し、 部位別に包装したポーションカットまで行っている。こうした加工費用として300 円/kg が 販売価格に上乗せされる。なお、一口カット、小間切れカット、指定グラムカットなどの加 工までは施すが、味付けまでは行っていない。こうしたカット作業は約30~40 名で行われ るが、そのうち約15 名が正社員であり、正社員はカット作業だけでなく営業も行っている。 産地直接販売などが拡大するなかで、卸売業者は仕入れた商品をただ販売するだけでなく、 顧客ニーズに応じたカット技術が重要となっている。 ただし、カット技術だけで競争力を高めることは難しいため、加工品の開発に重点を置い ている。加工品のプライベートブランド商品については、グループ会社の加工品製造会社が 対応しているが今後の課題としてオリジナル商品の開発が挙げられる。なお、2010 年から 熟成肉の取組みを開始しており、北海道行政が補助金を出し北海道大学がその技術開発を 進め、B 社が実際に加工して販売を進めている。牛については乳用種牛肉、豚については国 産豚のロース・かたロース・ばらなどを対象にドライエージング加工を施している。これら

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17 の商品は、すべて受注加工で製造されており、ステーキハウスや創作レストランなどへ牛・ 豚合計で月間約1t販売されている。 第2 節 年間売上高 10~100 億円未満の食肉卸売業者の企業行動 1)C 社の事例16) C 社は 1969 年に創業され、本社所在地は福岡県で、2015 年現在、社員数は 68 名(うち 正社員59 名)、資本金は 3,000 万円、で売上高(2015 年 8 月から 2016 年 9 月)は約 53 億 円に上る。同社の事業内容については、売上高のほぼ100%が食肉卸売業であり、小売店舗 はアンテナショップとして、加工業は精肉販売の補助的な位置づけとなっている。 同社は国産牛肉が売上高の約 85%を占めており輸入品の取扱は 1%に過ぎない。同社は 交雑種やホルスタイン種の取扱いは基本的に無く、ほぼ100%和牛であり鹿児島和牛、松尾 勝馬牧場伊万里牛、佐賀牛の3 種を中心に、九州産のブランド和牛を枝肉で仕入れている。 同社は、年間平均で350~400 頭/月を取り扱っており、鹿児島県が約 60%、佐賀県が約 20%を占める。仕入においては、産地の生産者団体や生産者と密なコミュニケーションをと っており、特に佐賀県産の伊万里牛については、生産者から直接仕入れている。これについ ては2000 年代半ばから継続取引を行っており、取引している牧場で生産された和牛の 70% をC 社で取り扱っている。残りは福岡食肉卸売市場などから仕入れているが、枝肉高騰の なかで福岡食肉卸売市場の価格が高い場合もあり、長崎県の佐世保市場から仕入れるケー スもある。なお、取扱和牛の格付ではA-4 が中心で A-5、A-3 が続く。牛肉以外をみると、 売上高の約15%が豚肉・鶏肉であり、これらについては国産品が約 60%、輸入品が約 40% となっている。国産品については、牛肉と同様に鹿児島県の銘柄を取り扱っているが、輸入 品については業務用としての販売が多い。 販売先をみると、精肉の約30%は大手食肉加工会社 10 社に販売している。鹿児島県など の産地に処理場などの拠点を有するメーカーとの取引もあるが、拠点をもたないメーカー との取引が多い。それ以外の販売先をみると、販路に高級外食用をもつような 2 次卸売業 者20~30 社(県内が 10 社、県外が 10~20 社)が約 30%、精肉店が約 10%、外食店(し ゃぶしゃぶ屋や焼肉など)が約10%、その他が約 20%となっている。食肉の利益率は大き な変動なく、約10~11%(粗利率)で維持されている。なお、同社は冷蔵車 15 台を所有し 九州地方の熊本県より北のエリアについては自社で配送するが、それ以外は外部へ委託し て配送している。 牛肉仕入については枝肉やフルセットでの形態が多く、価格交渉は毎月実施されるが、枝 肉価格の動きをふまえ交渉は状況に応じて柔軟に行う。一部パーツでも仕入れており、その 割合はばらが50%、サーロインが 20%、ヒレ・かたロース・ももが 10%である。近年、焼 肉については夏だけの季節需要ではなく通年需要が高まり、ばらの取扱いが多い。また、牛 肉の価格高騰下において、サーロインやロースなどの高級部位の需要が低下しているが、同 社では高級部位の取扱が一定量存在していることから、これらの部位をパーツで仕入れる

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18 際にもメリットが生じている。例えば、サーロインでは同業者が購入している価格に比較し て、4%以上~6%未満安く購入することができている。また、ヒレに関しても同様に 4%以 上~6%未満安く購入することが可能となっている。なお、季節需要の高さに合わせて冷凍 形態での販売契約を締結するケースあるが、在庫保管のための冷凍は行わず、利益が低くて も販売することが多い。 C 社では、枝肉から加工品の製造まで一貫して自社で作業を担っている。パーツから加工 品を製造する食肉企業は多数存在するが、枝肉から加工品の製造ができる業者は全国的に も珍しい。同社はレストラン・精肉店・焼肉屋・焼鳥屋・スーパーなど様々な業種に応じた 商品開発・カットに柔軟に対応している。これを15 名の正社員によって、主に手作業で実 施している。この工程にあたり、業界では効率の良さを優先し、大規模な機械を利用するこ とが少なくないが、手作業による脱骨、整形作業は機械で行なうより歩留率が高くなるだけ でなく、筋繊維が入らない等のメリットが存在している。 実際、同社ではこれによって歩留率が 2~3%ほど業界平均よりも高い。このことについ て、53 億円の売上をもとにそのメリットを検討すると、2%高いことによって 1.06 億円の 仕入削減に相当することになり、それによって利益率も高くなる。食肉卸売業界は人の出入 りが激しいが、同社ではこの工程において 5 年以上の熟練工を配置しており、しかも定期 的に教育を行なう試みを実施している。ちなみに、加工(精肉)工程において熟練工と1 年 目の工員とでは歩留率が 1~1.5%程度異なるとのことであり、これらの点が高い歩留率の 背景となっている。 C 社では、その取扱量は決して多くは無いものの、鹿児島和牛のバラ肉を利用した煮込 み、カレー、コロッケ、メンチカツなどの加工品を製造している。これらについては原料を 自前で提供して加工をメーカーに外注する製品もあるが、自社工場での製造も行っている。 自社工場では社員20 人(うち正社員 10 名、パート 10 名)が作業を行い、プライベートブ ランド商品が50 種ほど製造されている。加工品は売上全体の 1%ほどで、利幅は大きく無 いが企業PR の一助となる。また、加工段階で発生する部位の切れ端を加工品の原料として 活用することによるメリットを確認したところ、1%~1.5%の原価の低減に寄与していると のことである。そして、これによって、利益率は0.4~0.6%向上させることが可能になって いるとのことである。福岡県の中小卸売業者の純利益率が1%に満たないことを踏まえると、 この意義は決して低くない。 同社では、これまで交雑種やホルスタイン種を減少させ和牛を拡大してきたが、赤身志向 や枝肉価格上昇のなかで、今後、交雑種の拡大を視野に入れ原料の安定確保が課題となって いる。 (2)D 社の事例17) D 社は 1966 年に設立され、本社所在地は大阪府であり、2016 年現在の社員数は約 170 名で、資本金が4,500 万円、年間売上高は約 49 億円となっている。会社設立当初、食肉小

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19 売業だけを行っていたが、その後卸売業に事業範囲を拡大した。1974 年には販売先である 近畿、中国、四国、九州地方の生協との取引を契機として、岡山県に肉用牛の生産農場と加 工工場を設置した。2016 年現在、ホテル・レストラン向けなど業務用食肉卸や小売店舗販 売の事業を中心としており、販売高の約85%が卸売販売、約 15%は小売販売となっている。 なお、同社は小売店舗を6 店舗(大阪府 5 店舗、奈良県 1 店舗)設置しており、大阪本店 では対面販売を行っている。 また、前述のように同社では肉用牛生産及び加工事業も行っており一貫した事業体制を 構築している。同社の自社牧場は約100ha の敷地内に 9 棟の牛舎を設置して、正社員 4 名・ アルバイト3 名に加えて、状況よってヘルパーを利用し肉用牛を飼養している。「安価な国 産牛」という生協のニーズへの対応として、ホルスタイン(雄)の肥育からスタートしたが 和牛の取扱いも始めており、2016 年現在、ホルスタイン(育成牛・肥育牛)が約 500 頭、 和牛(繁殖牛・肥育牛)が約100 頭で、肉用牛合計約 600 頭が飼養されている。ホルスタ インについては、岡山県酪農業協同組合からヌレ子を仕入れているが、不足しているときに は北海道から購入することもある。和牛については、当初繁殖牛だけを取り扱っていたが、 2010 年頃から一貫生産によるコスト削減を目的として肥育牛の飼養を進めるようになった。 生協向け肉用牛については、①抗生物質や成長ホルモンを利用しない、②収穫後に農薬を使 用していない非遺伝子組み換えトウモロコシを原料とした飼料を利用する、など消費者の 安全・安心を重視した肉用牛生産が行われている。 岡山県の自社加工工場は精肉センターパック工場であり、従業員数は約90 名で生協向け を中心に1 日当たり約 2 万パックの精肉パックや畜産加工品の製造・出荷を行っている。 同工場の取扱いについては、豚肉が約50%、牛肉が約 50%となっている。自社牧場だけで なく外部の肉用牛も取り扱っているが、同工場では消費者向けの最終精肉加工・パッキング まで行っている。加工品についてはパン粉付け商品やタレ漬け商品などの製造を進めてい るが、自社製品以上に他社からの委託製造が多い。 このように同社は岡山県において生産・加工事業を行っているが、卸売事業では自社肥育 のホルスタイン種だけでなく、外部から仕入れた商品が多く、国産牛については北海道産の ホルスタイン種・交雑種、全国各地・各種銘柄の和牛、国産豚では黒豚(鹿児島県、宮崎県 産)、平牧三元豚、伊予高原豚などに加えて、輸入食肉の取扱いも多い。牛肉の仕入先をみ ると、岡山県の自社生産農場は取扱い全体の約 5%にすぎず、約 95%は大阪市中央卸売市 場南港市場におけるセリに加えて、大手食肉卸売会社から地元の中小規模業者まで幅広く 購入している。 販売先については、年間約500 件と取引しているが、上位 50 社が取引全体の約 8 割を占 める。販売の約60%は生協(地域の生活協同組合連合会や生活協同組合)、約 20%はレス トランや給食・病院介護など、約20%は小売業者となっている。生協や小売業者について は大部分が国産品であるが、レストランなどへの販売については輸入品が中心となってい る。

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20 仕入形態をみるとフルセットが約30%、パーツが約 70%となっており、パーツ仕入れが 基本である。また、販売ではレストランなどの外食業では人手が減っていることもあり、最 終カット及びパッキングまで行うケースが多い。同社は消費者が利用しやすいカットやパ ッキングを重視しており、冷凍庫に収納しやすく調理性に優れるとともに、廃棄時のゴミ量 が少ない冷凍食肉小パック製品及びその製造方法の提供に努めている。特に、食肉を薄くス ライスして肉1枚を合成樹脂フィルムで被包し、それを巻き回してロール状にして10 枚セ ットにした冷凍食肉小パックの手法を開発し、同社は2005 年に特許を取得している。こう した取り組みは品揃えしづらい高級食材のロスを減らすことにもつながる。 岡山県の自社牧場で生産されたホルスタインについては、約 80%が冷凍で販売され冷蔵 で販売される割合は約20%と少ない。生協では週 1 回ペースで共同購入が行われるが、組 合員は必ずしもすぐ消費するわけでなく冷凍保存するケースも多いため、冷凍形態の販売 が一般的となっている。なお、冷凍については岡山県の自社冷凍庫や外部の冷凍倉庫業者に 委託することもある。同社は、大阪市内全域、大阪府、兵庫県の一部の地域については配送 し、それ以外の地域については宅急便で対応している。 2010 年以降、ホルスタイン種のヌレ子価格が上昇傾向にあるとともに、今後、貿易自由 化に伴う輸入品と競合や産み分け技術の発展などにより、ホルスタイン種が減少する可能 性が考えられる。そこで同社は自社農場でホルスタイン種以上に和牛の生産を拡大する計 画を進めており、2016 年現在、自社農場の和牛は大阪に月 2 頭出荷しているが、将来的に は10 頭を目標としている。 (3)E 社の事例18) E 社は 1948 年に設立され、本社所在地は東京で、2016 年現在では従業員数が約 40 名、 資本金が4,000 万円、売上高は約 20 億円となっている。事業内容は業務用食肉の卸売で、 約20 年前には小売事業(店舗経営)やレストラン事業も行っていたが、経営悪化により現 在は行っていない。 取扱商品については、約70%が牛肉、約 20%が豚肉、約 10%がその他・鶏肉、羊肉など となっている。牛肉や豚肉の輸入品の割合は60%、国産品は約 40%となっている。過去に は輸入品と国産品の割合は同等であったが、2014 年頃から国産価格の上昇により輸入品の 割合が拡大傾向にある。輸入品については大手食肉加工会社から購入している。輸入牛肉に ついては、豪州産が約70%、米国産・メキシコ産が約 30%となっている。 国産の仕入については、東京都中央卸売市場、さいたま市食肉中央卸売市場などの仲卸業 者や全国規模の大手食肉卸売会社など、約15~20 社から行っている。こうした取引先は年 間で変動がみられ、取引価格だけでなく他社が取り扱っていないブランドをもつ業者との 取引にシフトすることがある。神戸ビーフ、松阪牛など、高級銘柄牛も顧客ニーズに応じて 一部取り扱っているが、基本的には一般的な国産牛の取扱いが中心である。仕入価格につい ては、卸売市場の枝肉価格を基準としている。取扱牛肉の格付については、価格の高さから、

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A-5 の取扱量が減少するとともに A-3 の取扱量が増えている。ただし、A-3 のなかでも A-2 に近いA-3 と A-4 に近い A-3 があるが、同社は極力後者の取扱いを増やすように努めてお り、こうした品質の確保が取引上の信頼性の向上に繋がるという。なお、豚肉については、 販売先からの産地銘柄指定がみられ、その依頼に応じて産地銘柄を探すケースがあり、仕入 業者も変化する。 販売先については、ホテル、レストラン(洋食)、会社の従業員食堂など約250 社と取引 を行っている。豚肉については、価格変動が大きいため週1 回価格を調整、牛肉は変動が少 ないものの価格状況に応じてその都度価格を調整している。販売における利益率は約 10~ 20%となっているが、国産品は利益率が高く、輸入品について競争が厳しいことから利益率 を下げざるを得ない状況にある。主な販売先としてはホテルが中心で東京及び近辺の高級 ホテルとの取引も多いが、大手の高級ホテルについては月 1 回月末に入札が行われること もあり、このケースでは取引先の長さなどほぼ考慮されること無く、入札のなかで最も安い 業者に決定される。 仕入形態をみると、過去(15~20 年前)には枝肉仕入れだったが、今はパーツ仕入れが 中心となっている。枝肉仕入の方が価格は安いが、部分肉や精肉加工に手間がかかるととも に、加工技術をもつ職人が減少したためにパーツ仕入れにシフトした。 ホテルの販売先が多いため、サーロイン、リブロース、ヒレ、ももなどの取扱いが多いが、 パーツでもいくつかのパーツをセットで仕入なければならないことが取引条件となること が多く、このセットには低需要部位も含まれる。とりわけ出荷頭数は少ないブランド牛はこ のケースが多い。ただし、こうした仕入条件については販売先も理解しているため、必要部 位だけでなくセットに含まれる低需要部位も含めて販売先が購入しており、同社が低需要 部位を抱えるケースは少ない。販売形態については、①仕入れたパーツをそのまま販売する ケース、②筋の除去や脂肪の整形を行い真空パックで販売するケース、③グラム単位でカッ トして販売するケースに分かれる。このなかでは、②のケースが一番多く、こうしたカット を行うことが同社の強みのひとつとなっている。ただし、2 年前くらいから赤身ブームの高 まりのなかでホテル・バイキングなどにおいてローストビーフの需要が増加しており、これ については輸入品のサーロイン、かたロースなどを調理手前のところまで加工を行ってい る。 加工品については、ベーコン、ハンバーグ、ハム、ソーセージ、チャーシュー、カツなど 主要な製品は外部業者から仕入れて販売しているが、ホテルからの要請で約15 年前から自 社施設で同社独自の製法によるベーコンやハンバーグの自社ブランドを製造し、販売を行 っている。 同社は14~15 台のトラックを所有しており、配送はほぼ自社で行っている。特に本社が 都心に立地しているため、急な取引依頼にも対応可能であることが同社の強みとなってい る。エリアは東京及び近郊の神奈川(横浜)、埼玉(大宮)、千葉(舞浜・幕張・柏)まで配 送しており、その他の地域についても宅急便などで対応している。

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22 また、高級ホテルの販売先から品質衛生管理に対する要望が強く、年に数回取引先の衛生 検査が実施されている。こうした販売先からの要請に対して、本社加工施設における手洗い 消毒などの一般的な衛生管理はもとより、社内外の衛生講習会によって求められる衛生管 理のあり方について社員の意識醸成を図っている。商品に関しては賞味期限・消費期限、ト レーサビリティ管理、そして配送時の保冷車の温度管理などを徹底し、品質・衛生管理体制 を構築している。 高齢化や少子化が進み卸売会社は販売先を広げる必要性があるなか、全国規模の食肉卸 売会社がホテル等に対して直接販売を進めるとともに、中小卸売業者を買収してインテグ レーションを強化する傾向がみられるという。こうした状況において、同社は競争力を維持 するため、販売先のニーズに対する細やかなカットに重点を置いている。高級レストランの 取引先については、牛肉のグラム単位でのカットなどを行うこともあるが、今後も細かい仕 様に沿って精肉加工し顧客要望に応えていくことが課題となっている。また、東京を中心と した首都圏では今後も商業施設やホテル開発が進められるため、これらの新たに設立され たホテルやレストランについても積極的に販売を進めていく見通しとなっている。 第3 節 年間売上高 10 億円未満の食肉卸売業者の企業行動 1)F 社の事例19) F 社は 1961 年に創業し、本社は福岡県で 2014 年現在の従業員は 25 人、資本金は 1,000 万円、売上高は約9 億円である。同社は小売業からスタートしたが、店舗の立地が福岡市の 中心部だけにスーパーとの競合が厳しく人件費もかかるため、次第に業務用卸売業へシフ トし、2016 年現在、業務用食肉卸売業及び加工業を行っている。 品目別にみると、取扱額全体のうち牛肉が約50%、豚・鶏肉が約 50%となっている。牛 肉では国産品の取扱が約50%を占めているが、九州地域以外のブランドの取扱いは難しく、 主に佐賀牛、福岡県産和牛、鹿児島和牛などの地元や周辺地域のブランドが取扱いの中心と なっている。特に佐賀牛については、ブランドの販売指定店登録を行っている。残りの約 50%を占める輸入牛肉については大手食肉加工会社や総合商社から購入している。 豚肉では輸入品が取扱額の約 70%、鶏肉では輸入品が取扱額の約 80%を占めているが、 国産品については豚肉・鶏肉ともに、鹿児島県、宮崎県、熊本県など九州地方の銘柄豚や銘 柄鶏・地鶏の取扱いが多い。 主な仕入先としては、福岡市中央卸売市場・食肉市場に加えて、大手食肉加工会社・卸売 会社からの仕入れが多い。仕入価格の交渉は年2 回か年 4 回(3 カ月に 1 回)だが、価格変 動が激しい場合には交渉回数を調整している。 販売先は福岡市内が圧倒的に多いが、大阪府や東京都などの大都市への販売も行ってい る。年間の販売先数は200 社ほどあるが、ホテルやレストラン、学校給食、病院等、外食へ の販売が多い。特にホテルや結婚式場が多いが、近年都市部を中心に市場が拡大している焼 肉店などについては、細かい部位処理に手間がかかることもあり、取引を行っていない。

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23 新規取引は増えていない状況にあるが、取引の話があっても設備・人員的に対応が難しい ため、これまでの取引先の継続が多い。同社の歴史のなかで昔からの付き合いが継続されて いるなか、頻繁に営業に足を運ぶことで取引関係を維持している。 仕入は全てパーツとなっており、枝肉やフルセット、精肉などの仕入れは行っていない。 牛肉では販売先であるホテルなどのニーズから輸入・国産ともに主に高級部位を中心に購 入している。仕入先である大手食肉卸売・加工会社は、安価な部位についてはスーパーなど へ販売できるが、高級部位については販路をもっていない。特に、枝肉価格が上昇し高級部 位の需要が低下しているなか、同社は高級部位を取り扱う顧客を多数有しているため、取引 先である大手食肉卸売・加工会社から有利な条件で仕入を行なうことが可能となっている。 輸入品と国産品の取扱割合は価格次第であり、前述のように国産牛肉価格が上昇傾向に あるため、輸入品にシフトしている。輸入品については仕入・販売ともに冷凍であるが、国 産品では仕入は 100%チルドだが、そのままチルドで販売されるのは約 60%で、残りの約 40%は冷凍で販売され需給調整を行っている。 販売先との取引においては、価格帯に応じて取扱い部位の調整とメニュー提案を行うが、 一定の量が纏まれば低需要部位であったとしても販売できるという。また、販売先のニーズ に応じて、細やかな精肉加工にも対応している。同社の精肉加工担当は常時6 名とパート 3 ~4 名に加えて、配送担当の約 10 名も作業を手伝う。顧客ニーズに対応して手作業ででき ることをやるが、人員が不足しておりカット技術を身に着けるには時間がかかるなか今後 精肉加工をできる従業員の育成と確保が課題となっている。 加工品の取扱いは多くはなく、同社の売上高の 10%以下であるが、販売先からのニーズ や提案などにより、ローストビーフ、シチュー等を製造・販売している。ホテルなどの販売 先のニーズや依頼を踏まえ、同社は食肉加工会社と連携して新たな加工品の開発を行って いる。 福岡県において規模的に競合する卸売業者は5~6 社くらい存在し、販路が重複すること から、今後は可能な限りの低価格設定や業務ニーズに対応した加工形態で差別化を行うこ とで、取引先との信頼関係の構築することが課題となっている。 (2)G 社の事例20) G 社は 1963 年に設立され、本社所在地は北海道函館市で、2016 年現在、従業員数は 11 人、資本金は1,000 万円で売上高(グループ全体)約 8 億円となっている。事業内容として は食肉卸売業だけでなく小売業や加工業も行っているが、売上高に占める割合をみると、卸 売業が約97%(精肉 78%、加工品:約 19%)、小売:約 3%となっており、精肉の卸売が 売上の中心となっている。なお、小売については本社に隣接して自社店舗をもっているが、 自社製品のPR を目的としたアンテナショップとして位置づけられている。 精肉の月間生産量は 2016 年現在、約 60~70tで、精肉販売額に占める商品の割合をみ ると牛肉が約23%、豚肉が約 65%、鶏肉が約 12%である。牛肉の約 23%うち国産品が占

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24 める割合は約5~6%となっており、北海道産和牛、交雑種、ホルスタイン種のすべてを扱 っている。特に交雑種の取扱割合が比較的多く、これまでは青森・岩手県などの東北地方や 九州地方の交雑種を扱っていたが、現在は北海道産の交雑種が多い。国産牛肉が価格上昇す るなかで、輸入牛肉へのシフトが進んでいるが、輸入品については豪州産が多く大手食肉卸 売会社から購入している。 また、国産牛肉の価格上昇のなかで豚肉の取扱いも拡大している。豚肉についても概ね半 分が国産で過去には鹿児島産などを取り扱っていたが、近年の値上がりのなかで北海道産 へシフトしている。なお、輸入豚肉は業務用・挽肉用として、カナダ産及びフランス産の取 扱いを進めているが、メキシコ産やデンマーク産は品質面の理由から取り扱っていない。な お、鶏肉についても国産品は北海道産が中心であるが量的には少なく輸入品(ブラジル産) の割合が多い。 加工品は外部の加工会社へ外注することなく自社製造を行っているが、この10 年間で次 第に増加傾向にあり設備投資も進めている。加工品の月間生産量は 2016 年現在、約 20t でホテルなどからの依頼により角煮やハンバーグなどの加工品が多いが、味付けを含め加 工度合が高い加工品の製造が拡大している。なお、他社加工品(ハム・ソーセージなど)や 惣菜の取扱いなども若干あり、約1%のシェアをもっている。 こうした精肉や加工品の仕入先については、大手食肉卸売会社 4 社が大部分を占める。 これら 4 社の商品の品質や価格について大差は無いが、要求した商品を必要な数量が揃う かどうか次第で取引量が大きく変化する。生産者からの直接仕入れではロットを確保する ことが難しいため、安定的に量を確保可能な大手食肉卸売会社との取引が中心となってい る。取引については、月ごとに取扱量を調整し、価格は市場の枝肉相場をみながら随時交渉 している。これらの大手食肉卸売会社との取引において、牛肉では産地ブランド指定できな い(豚については産地指定可能)が、販売先から産地ブランドのニーズは無いという。 販売先については、ホテルが約95%を占め、温泉旅館やレストランがあるシティホテル、 ホテルの式場等、約100 社と取引を行っている。残りの約 5%は、飲食店・地元スーパーと なっているが、函館市は観光地でありホテルが多くスーパーが比較的少ないため、販売量は 今後も拡大しない見込みである。ホテルでは半年から 1 年間ひとつのメニューが継続して おり、そのメニューに合わせた商品販売、価格設定は随時決定している。 人口が約30 万人レベルの函館市においては、全国規模の食肉卸売会社の支社や事業所は 撤退しており、札幌市や旭川市などを拠点にしているが、札幌市や地元の食肉卸売会社や冷 凍食品会社などとの競合関係はみられる。こうした競合のなか、同社は価格設定や欠品無し などの取引における信用を高められるよう努めている。 保管については基本的に仕入先が行い、販売のタイミングで自社便トラック 8 台を利用 して随時ホテルへ配送している。仕入・販売形態をみると、枝肉やフルセットの仕入は無く、 すべてパーツで仕入れカットして販売を行っている。販売先はホテルが中心のため、豚肉に ついてはロース、ももなど、牛肉についてはロイン、ばらなどが多くステーキカットなどが

参照

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