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特集進化する自動車材料の開発と分析 評価技術 Topics 2 樹脂材料の総合的な分析 評価技術と組成分布解析法の目覚ましい進化 Yamanoue Takumi 三井化学分析センター山之上巧 構造解析研究部分析ユニット主席研究員 千葉県袖ケ浦市長浦

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Academic year: 2021

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は じ め に 近年、自動車材料は、コスト、軽量化、成形性、 デザイン性の観点から、金属材料から樹脂材料へ の置き換えが急速に進んでいる。特に、ポリエチ レン(PE)やポリプロピレン(PP)をはじめとする ポリオレフィン材料は、燃料タンク、バンパー、 ドアトリム、内装材など様々な用途で用いられる。 用途に応じ要求される物性は異なることから、そ れぞれの用途に特化した樹脂銘柄の開発が各社で 行われている。 樹脂材料の開発において、分析・評価技術は欠 かすことができない要素のひとつである。われわ れは、樹脂材料を総合的に分析・評価できる研究 環境を整備し、社内外の樹脂材料の研究開発に大 きく貢献してきた。具体的には、樹脂の組成解析 として、赤外分光法(IR)や核磁気共鳴法(NMR) に代表される分光学的手法を用い、樹脂の種類、 コモノマー種、立体規則性などを評価している。 また、結晶構造解析として、広角X線回折(WAXD) や小角X線散乱(SAXS)を用い、結晶化度、配向 度、長周期などの情報を得ている。樹脂中の添加 剤分析には、各種クロマトグラフィーおよび質量 分析を用い、450種を超える標準試料による迅速 かつ正確な分析を行っている。形態観察には、光 学顕微鏡(OM)、電子顕微鏡(SEM, TEMなど)、走 査型プローブ顕微鏡(SPM)、顕微IRおよびnano IR などを駆使し、モルフォロジーの解析や異物分析 を行っている。物性評価としては、耐久性、機械 物性、電気物性、熱物性、粘弾性、表面物性など 各種試験機・装置を取り揃え、あらゆる試験項目 を網羅している。 しかし、近年は樹脂材料の高機能化が飛躍的に 進み、それに伴い樹脂組成が複雑化してキャラク タリゼーションが困難となっている現状がある。 その背景として、既存の汎用ポリオレフィン樹脂 だけではこのような高機能化は困難であり、これ を低コストで実現するために、異種ポリマーとの 共重合化やコンパウンドの技術が発展してきたこ とにある。このような複雑な組成を有する樹脂材 料は、従来のIRやNMRだけでは組成解析が困難 なケースが多々ある。なぜなら、これらの分析結 果から得られるのは樹脂全体の平均組成の情報の みであり、組成分布の情報までは得られないから である。これには頭を抱えている研究者も多いの ではないだろうか。 そこでわれわれは、ポリオレフィンのクロマト 分析技術を提案する。樹脂材料のクロマトグラフ ィーといえば、分子量分布の評価法としてよく知 られるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を思 い浮かべる人が多いかもしれないが、組成分布の 評価法としても古くから用いられ、近年目覚まし い進化を遂げている。ここでは、クロマト分析技 術を利用したポリオレフィンの組成分布解析を取

特 集

進化する自動車材料の開発と分析・評価技術

Topics 2

樹脂材料の総合的な分析・評価技術と

組成分布解析法の目覚ましい進化

㈱三井化学分析センター 

Yamanoue

之上 巧

Takumi 構造解析研究部 分析ユニット 主席研究員 〒299-0265 千葉県袖ケ浦市長浦580-32 ☎0438-64-2403

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り上げ詳しく解説する。

ポリオレフィンの組成分布解析の概要

ポリオレフィンの組成分布の評価法としては、 従 来 か ら 昇 温 溶 出 分 別(TREF:Temperature Rising Elution Fractionation)1)が知られている。 TREFの分離機構を図 1(a)に示す。移動相として o-ジクロロベンゼン(ODCB)や1,2,4-トリクロロ ベンゼン(TCB)が用いられ、まず、加熱溶解させ た試料溶液をステンレスあるいはガラス製のビー ズが充填されたカラムに導入して静置状態で徐冷 し結晶化させる。その後、徐々に加熱しながら順 次溶出させることで、結晶性の低いものから高い ものへと分離する。例えば、PEの場合はコモノ マー量が多いほど、PPの場合はコモノマー量の ほか、立体規則性が低くなるほど結晶性が低くな り、これらの違いをTREF曲線の溶出温度の違い から評価することができる。ただし、結晶化過程 における降温速度を遅くしなければ高い分離能が 期待できないため、1測定あたりの分析時間は10 時間程度、場合によっては数日にも及ぶことがあ る。この弱点を克服すべく登場した結晶化溶出分 別(CEF:Crystallization Elution Fractionation)2) は、結晶化分別と溶出分別を組み合わせた分別法 である。分離機構を図 1(b)に示す。試料溶液を カラムの入口付近に導入して移動相をわずかに流 しながら降温させることで結晶化過程においても 効果的に分離が行われ、1測定あたりわずか数時 間程度で従来TREFに匹敵する溶出曲線が得られ る。このCEFは、TREFに代わる次世代の組成 分布評価技術として注目されている。 だが、これら結晶性の違いを利用した分別法に は大きな欠点があり、結晶性をもたないポリオレ フィンの組成分布を評価することはできない。そ こで、近年登場したのが、グラファイトカーボン カラムとの相互作用の違いを利用した高温LC (HTLC:High Temperature Liquid Chromatog-raphy)3)、4)である。高温LCの分離機構を図 2 に 全ての成分が溶けている 結晶性の高い成分が カラム内のビーズ表面に析出する 中程度の結晶性の成分が析出する 結晶性の低い成分が析出する 結晶性のない成分は溶けたまま TREFカラム 温度を下げる 温度を上げる 分析終了まで 10時間程度 移動相を 流す 結晶性 高 低 結晶性のない成分や 低分子量成分 −20℃ 140℃ CEFカラム 移動相を流したまま温度を下げる 温度を下げる 結晶性の高い成分が析出する 温度を上げる 中程度の結晶性の成分が析出する 結晶性の低い成分が析出する 結晶性のない成分はそのまま溶出 結晶性 高 低 (b)CEFの分離機構 結晶性のない成分や 低分子量成分 分析終了まで 3時間程度 −20℃ 140℃ 図 1 TREFおよびCEFの分離機構

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示す。詳しい分離機構は明らかになっていない点 もあるが、PEのように単純なエチレン鎖のみを 有するポリマーは、グラファイト表面に吸着し保 持されるのに対し、PPなどの非エチレン系ポリ マーは短鎖分岐がグラファイト表面に対する吸着 を阻害して保持されにくくなる。このような違い を利用してポリオレフィンを分離する。TREFや CEFとは異なり、結晶性をもたないポリマーで も分離することができる。この高温LC法には、 カラム温度を一定にして溶媒組成を連続的に変化 させる溶媒グラジエント法(SGIC:Solvent Gra-dient Interaction Chromatography)と 溶 媒 組 成 は変えずカラム温度のみを変化させる温度グラジ エ ン ト 法(TGIC:Thermal Gradient Interaction

Chromatography)5)があるが、ここでは主にTGIC を取り上げる。このTGICは2013年には装置が市 販化されており、CEF装置に軽微な変更を加え るだけでTGIC装置としても使用できる。両者の 違いは使用するカラムのみである。細かな測定条 件は異なるものの、降昇温プロセスはほぼ同等で 1測定あたりの分析時間はわずか数時間程度であ る。CEFとTGICは相補的な関係にあり、それぞ れ目的に応じて使い分けることが重要となる。 さらに、これら組成分布の評価法と分子量分布 の評価法を組み合わせたクロス分別クロマトグラ フ(CFC:Cross Fractionation Chromatography) が従来から知られており、主にTREFとGPCの組 み合わせで用いられている。分子量‐組成二次元 分布解析が可能で、鳥瞰図や等高線図など、詳細 な一次構造解析を行いたい場合に威力を発揮す る。ただし、一段目をTREFで分離するため、結 晶 性 を も た な い ポ リ マ ー の 評 価 は で き な い。 TGICとGPCの組み合わせであれば、非結晶性ポ リマーの評価も可能であるが、いまだ一般には普 及していない。 以上がポリオレフィンの組成分布解析の概要で ある。今回取り上げた分析法の一覧を表 1 にま とめた。いずれの分析も数10〜数100mg程度の 試料量があれば測定可能である。次項では、組成 分布解析に特化したCEFおよびTGICに注目し、 いくつかの解析事例を紹介する。 ポリオレフィンの組成分布解析例 1 .事例1:エチレン-プロピレン共重合体 測定例 まず、モデル試料として、組成比の異なるエチ レン-プロピレンランダム共重合体6試料(エチレ グラファイトカーボンカラム n-デカン (PEの低分子モデル) 分散相互作用 (London力) エチレン-プロピレン 共重合体 吸着材への保持時間 短 長 高温LC 相互作用による分離機構モデル 相互作用の大きさ ポリエチレン ポリプロピレン グ ラ フ ァ イ ト 炭 素 図 2 高温LC(SGIC, TGIC)の分離機構 特集 進化する自動車材料の開発と分析・評価技術

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Ethylene/Propylene(wt%) 100/0 Ethylene/Propylene(wt%) 100/0 74/26 74/26 48/52 48/52 43/57 43/57 35/65 35/65 dW/dT CH3/1000TC 15/85 15/85 −50 0 50 100 Temperature(℃) 150 200 −50 0 50 100 Temperature(℃) 150 200 (b)TGIC (a)CEF 40 38 36 34 32 30 28 26 24 22 20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 400 380 360 340 320 300 280 260 240 220 200 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0 dW/dT CH3/1000TC 40 38 36 34 32 30 28 26 24 22 20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 400 380 360 340 320 300 280 260 240 220 200 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0 図 3 エチレン-プロピレンランダム共重合体のCEFおよびTGIC測定例 適用範囲 分析法 分析項目 分析時間 備考 結晶性ポリマー 限定 TREF 組成分布 10h 結晶性の違いを利用した組成分布の解析 CEF 3h 結晶性の違いを利用した組成分布の高速解析 CFC (TREF-GPC) 分子量-組成分布 15-20h 結晶性の違いを利用した分子量-組成二次元分布解析 非晶性ポリマー および 結晶性ポリマー SGIC 組成分布 1-2h 相互作用の違いを利用した溶媒グラジエント組成分布解析 TGIC 3h 相互作用の違いを利用した温度グラジエント組成分布解析 CFC (TGIC-GPC) 分子量-組成分布 15-20h 相互作用の違いを利用した分子量-組成二次元分布解析

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ン含量:15, 35, 43, 48, 74, 100wt%)をCEFおよび TGICにて測定した。その結果を図 3 に示す。図 の横軸は溶出温度、縦軸はIR検出器の応答強度 および短鎖分岐度(1000炭素原子あたりの末端メ チル数)を表す。なお、−20℃以下の成分は、測 定開始直後に溶出した成分を表しており、温度表 示に意味はない。結晶性の違いを利用するCEF では、結晶性をもたない組成域(エチレン含量: 15, 35, 43, 48wt%)の試料は、測定開始直後に全 て溶出してしまい、これらを分離することはでき なかった。それに対し、グラファイトカラムとの 相互作用の違いを利用するTGICでは、これら結 晶性をもたない組成域を含む全ての領域で異なる 溶出ピークを示し、組成分離できていることがわ かる。TGICでは、エチレン含量の減少に伴い溶 出温度が低下する傾向があり、これは相互作用の 程度がエチレン含量に依存していることを意味す る。また、TGICはCEFと比較して全体的に溶出 温度が高くなっており、これはエチレン系ポリマ ーがカラムに保持されていることを示す。しかし、 プロピレンリッチな組成域で同様の測定を行って も、溶出温度はCEFとほとんど変わらない。こ の組成域ではカラムに保持されないため、CEF と同様、結晶性の違いによる分離が起こると考え られる。 2 .事例2:ブロックPP測定例 続いて、実材料系として、市販のブロックPP をCEFおよびTGICで測定した結果を図 4 に示 す。本図には溶出曲線や短鎖分岐度に加えて累積 重量分率も併記してある。CEFにおいて、120℃ 付近にメインピークが確認されたほか、100〜 110℃付近にサブピークが見られた。そのほか、 (b)TGIC (a)CEF −50 0 50 100 Temperature(℃) dw/dT Methyls/1000TC Cumulative (%) 150 200 −50 0 50 100 Temperature(℃) Derivative Cumulative Methyls/1000TC Derivative Cumulative Methyls/1000TC 150 200 400 300 200 100 0 100 80 60 40 20 0 Methyls/1000TC Cumulative (%) 400 300 200 100 0 100 80 60 40 20 0 20 15 10 5 0 dw/dT 20 15 10 5 0 図 4 ブロックPPのCEFおよびTGIC測定例 特集 進化する自動車材料の開発と分析・評価技術

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れた。メインピークはPP由来であることはいう までもないが、サブピークの帰属は溶出曲線だけ では判断できない。そこで、短鎖分岐度(1000炭 素原子あたりの末端メチル数)に注目すると、 120℃付近ではPPの理論値(333)にほぼ対応した 値になっているが、100〜110℃のサブピーク付近 では極めて低い値を示していることがわかる。こ れは、ブロックPP中のPE成分がメインピークと 重なっているためと考えられる。なお、非晶成分 はエチレン-プロピレン共重合体(EPR)と考えら れ、これは短鎖分岐度の結果にも矛盾しない。一 方、TGICにおいては、PP由来のメインピークが CEFとほぼ変わらない110〜120℃付近で見られ た。それに対し、PE由来のサブピークはCEFと 比較して40〜50℃高い150℃付近に確認された。 短鎖分岐がほとんど検出されなかった結果ともよ く一致している。このように、TGICではグラフ ァイトカラムとの相互作用の違いでPPとPEのピ ークが完全に分離された。しかし、EPR成分は 低温領域で徐々に溶出しているためか明瞭なピー クが確認されなかった。結晶性をもたないゴム成 分の存在を確認するという意味ではCEFの方が 適しているといえる。CEFとTGICはそれぞれ目 的に応じて使い分ける必要がある。 お わ り に ここでは、樹脂組成が複雑化した高機能材料の 組成分布解析法として、主にポリオレフィンを測 定対象とする各種の最新クロマト分析技術を紹介 した。分析装置はすでに市販化されており、測定 操作自体もそう難しいものではない。得られた結 果をどのように解析し解釈するかが、樹脂材料を 研究開発する上では最も重要となる。CEFおよ びTGICから得られる情報量は非常に多く、結果 の解釈には常に困難がつきまとう。しかし、われ われには、長年培った樹脂材料の研究ノウハウと 膨大なバックデータがあり、総合的に分析・評価 できる研究環境もある。このクロマト分析技術も 含めた総合力で、われわれはこれからも樹脂材料 の研究開発に大きく貢献する。 参考文献

1) L. Wild:Adv. Polym. Sci. 1990, 98, pp.1~47.

2) B. Monrabal, J. Sancho-Tello, N. Mayo, L. Romero:Macromol. Symp. 2007, 257, pp.71~79.

3) T. Macko, R. Brull, R. G. Alamo, T. Thomann, V. Grumel:

Polymer, 2009, 50, pp.5443~5544.

4) T. Macko, H. Pasch:Macromolecules, 2009, 42, pp.6063~6067. 5) R. Cong, W. DeGroot, A. Parrott, W. Yau, L. Hazlitt, R.

Brown, M. Miller, and Z. Zhou:Macromol. Symp. 2012, 312, pp.108~114

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