特定非営利活動法人日本放射線腫瘍学研究機構
Japanese Radiation Oncology Study Group
JROSG 10-1
「中枢側(縦隔・肺門側)に存在するIA 期非小細胞肺癌に対する体幹部定位放射
線照射 第 I 相試験」 第 2 版(Ver.2.1)
Phase I study of stereotactic body radiation therapy (SBRT) for stage IA, centrally
located non-small cell lung cancer
試験タイプ:線量増加第 I 相試験
研究グループ代表者 永田 靖
連絡先 広島大学病院放射線治療科
電話:082-257-1545
Fax :082-257-1546
電子メール:[email protected]
研究代表者・研究事務局 木村智樹
連絡先 広島大学病院放射線治療科
電話:082-257-1545
Fax :082-257-1546
電子メール:[email protected]
平成 22 年 4 月 12 日 プロトコールコンセプト承認
平成 22 年 6 月 8 日 フルプロトコール第 1 版(Ver 1.0)提出
平成 22 年 7 月 12 日 フルプロトコール第 2 版(Ver 2.0)提出
平成 22 年 7 月 24 日 フルプロトコール第 2 版(Ver 2.0)承認
平成 22 年 7 月 26 日 フルプロトコール第 2 版(Ver 2.1)提出
0.
試験の概要
0. 1. シェーマ
組織型の確定した非小細胞肺癌 IA 期(T1N0M0)患者で切除不能または切除拒否
種 々 の 理 由
により中止
以下、同様に各レベルへ移行
各レベルにて一次
効果が CR, PR, SD
体幹部定位照射
レベル 3:60Gy/8 回にて 10 例登録し、DLT を評価
無治療で経過観察
再増大なし
再増大あり
後治療自由
Endpoints の評価
登録
各レベルにて
一次効果が PD
・近位気管支(気管分岐部、左右主気管支、左右上下葉枝、中間幹、
右中葉枝、舌区枝)から全ての方向で 2cm 以内の領域に存在するか
接する腫瘍
・縦隔及び心外膜の PRV に直接接する腫瘍
DLT が 0-3 例なら
レベル 4 へ移行
4 例以上なら
レベル 2 へ移行
放射線治療計画
(登録可能確認)
0. 2. 目的
切除不能もしくは切除拒否した中枢側(縦隔・肺門)に存在するT1N0M0 非小細胞肺癌に対する体幹部定 位放射線治療による線量増加試験を行い、最大耐容線量(maximum tolerated dose; MTD)及び推奨線量を決 定する。
0. 3. エンドポイント
Endpoints は以下の項目とする。 1) Primary endpoint: 治療開始後 12 ヶ月以内に発生した有害反応(非血液毒性)の割合 2) Secondary endpoints: 治療完遂割合、遅発性有害反応の頻度(治療開始後 12 ヶ月以降)、 3 年局所制御率、3 年照射野外再発率、3 年全生存率0. 4. 対象
1) 組織診又は細胞診(喀痰細胞診は除く)で非小細胞肺癌の確診が得られた症例 2) 35 日以内の画像検査(胸部 X 線写真、胸腹部 CT、頭部 CT/MRI)及び 56 日以内の FDG-PET で診断さ れた T1a, T1bN0M0(IA 期)症例(ただし、頭部 CT/MRI は必須項目ではないが、原則行うほうが望まい。)
3) 「切除不能」と判断されるか、もしくは手術を拒否した症例
4) 腫瘍が近位気管支(気管分岐部、左右主気管支、左右上下葉枝、中間幹、右中葉枝、舌区枝)から全て の方向で 2cm 以内の領域に存在するか接する、又は縦隔及び心外膜の計画リスク臓器体積 (planning organ at risk volume: PRV)に直接接する症例
5) 治療計画において「7.1. プロトコール治療」に示す線量分布や線量制限を満たしていることが確認される 症例 6)35 日以内の検査値で以下の条件を全て満たす適切な肺機能を有する症例 ・ PaO2≧60torr/mmHg ・ FEV1.0≧700ml 7) 肺癌の前治療のない症例 8) 20 歳以上 85 歳以下
9) Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) performance status 0-2 10) 文書による informed consent が得られている
0. 5. 治療: 放射線治療単独
1 日 1 回6.5-8.5Gy、総線量52-68Gy(線量計算評価点をアイソセンタとし、superposition 相当の不均質補正を 行うアルゴリズムで計算)、週 3-5 回、計 8 回の直線加速器を用いた体幹部定位放射線照射を、総治療期間が 10-14 日となるように行う。許容総治療期間 21 日とする。0. 6. 予定登録数と研究期間
予定登録数:10-50 例(各レベル 10 例ずつ) 予定登録期間:3 年、観察・追跡期間:登録終了後 3 年、総研究期間:6 年0. 7. 問合せ先
適格基準、治療変更基準など、臨床的判断を要するもの:研究事務局(表紙参照) 登録手順、記録用紙(CRF)記入など:研究事務局(表紙参照)
有害事象報告:JROSG 効果安全性委員会、研究事務局(表紙参照)
目次
0. 試験の概要 --- 2
0.1. シェーマ --- 2
0.2. 目的 --- 3
0.3. エンドポイント --- 3
0.4. 対象 --- 3
0.5. 治療 --- 3
0.6. 予定登録数と研究期間 --- 4
0.7. 問合せ先 ---4
1. 目的 ---10
2. エンドポイント ---10
3. 背景と試験計画の根拠 --- 11
3.1. 疾患の背景--- 11
3.2. 試験の対象と意義--- 11
3.3. 体幹部放射線治療 --- 12
3.3.1. 定位放射線治療 --- 12 3.3.2. 体幹部定位放射線治療 ---12 3.3.3. 肺癌に対する体幹部定位放射線治療 --- 12 3.3.4. 肺癌に対する体幹部定位放射線治療の有効性と安全性 ---133.4. 本試験の治療計画 --- 14
3.4.1. 本試験の治療計画設定の根拠 --- 14 3.4.2. 後治療 --- 143.5. 試験デザイン --- 14
3.5.1. 計画されている第 I 相試験のデザイン --- 14 3.5.2. エンドポイントの設定根拠 --- 15 3.5.3. 患者集積見込み ---153.6. 試験参加に伴って予想される利益と危険(不利益)の要約 --- 15
3.6.1. 予想される利益 --- 15 3.6.2. 予想される危険と不利益 --- 153.7. 本試験の意義 --- 15
4. 本試験で用いる基準・定義 --- 16
4.1. 病期分類基準 --- 16
4.2. 標準手術 --- 17
4.3. 標準手術不能の定義 ---17
5. 患者選択基準 --- 19
5.1. 適格基準 --- 19
5.2. 除外基準 --- 19
6. 登録の方法 --- 21
6.1. 登録の手順 --- 21
6.2. 研究事務局での適格性の確認 --- 22
7. 治療計画と治療変更基準 --- 23
7.1. プロトコール治療 --- 23
7.1.1. 線量増加の方法 --- 23 7.1.2. 体幹部定位放射線治療に関する規定 --- 237.2. プロトコール治療中止・完了基準 --- 26
7.2.1. プロトコール治療完了の定義 --- 26 7.2.2. プロトコール治療中止の基準 --- 267.3. 治療変更基準 --- 27
7.4. 治療に関する相談 --- 27
7.5. 併用療法・支持療法 --- 27
7.5.1. 推奨される/推奨されない併用療法・支持療法 --- 27 7.5.2. 許容される併用療法・支持療法 --- 27 7.5.3. 許容されない併用療法・支持療法 --- 28 7.5.4. 後治療 --- 288. 予期される有害事象 --- 29
8.1. 予期される有害反応 --- 29
8.2. 有害事象/有害反応の評価 --- 30
9. 評価項目・臨床検査・評価スケジュール --- 31
9.1. 登録前に行う評価項目 --- 31
9.2. 治療開始後の有効性評価項目 --- 31
9.3. 治療開始後 8 週未満の安全性評価(急性期有害事象) --- 31
9.4. 治療開始後 8 週以降の安全性評価(晩性期有害事象) --- 31
9.5. 呼吸困難が見られた場合、実施する検査項目 --- 32
9.6. 再発時実施する検査項目 --- 32
9.7. 評価項目・臨床検査・評価スケジュール --- --- 33
10. データ収集 --- 34
10.1. 記録用紙 --- 34
10.1.1. 記録用紙の種類と提出期限 --- 3410.1.2. 記録用紙の送付方法 --- 34
10.2. 放射線治療品質保証関連資料 --- 34
10.2.1. 送付用紙・資料の種類と提出期限 --- 34 10.2.2. 送付用紙・資料の送付方法 ---3511. 有害事象の報告 --- 36
11.1. 報告義務のある有害事象 --- --- 36
11.1.1. 急送報告義務のある有害事象 --- 36 11.1.1. 通常報告義務のある有害事象 --- 3611.2. 施設責任者の報告義務と報告手順 --- 36
11.2.1. 急送報告 --- 36 11.2.2. 通常報告 --- 3711.3. 研究代表者・研究事務局の責務 --- 37
11.3.1. 登録停止と施設への緊急通知の必要性の有無の判断 --- 37 11.3.2. 効果・安全性委員会への報告 --- 37 11.3.3. 定期モニタリングにおける有害事象の検討 --- 3711.4. 効果・安全性委員会での検討 --- 37
12. 効果判定とエンドポイントの定義 --- 38
12.1. 効果判定 ---38
12.1.1. 腫瘤様陰影 --- 38 12.1.2. 腫瘤様陰影の増悪 --- 38 12.1.3. 局所増悪 --- 38 12.1.4. 局所制御 --- 38 12.1.5. 転移 --- 38 12.1.6. 増悪 --- 38 12.1.7. 増悪形式 --- 3812.2. 解析対象集団の定義 --- 39
12.2.1. 全登録症例 --- 39 12.2.2. 全適格症例 --- 39 12.2.3. 全治療症例 --- 39 12.2.4. 安全性評価可能症例 --- 3912.3. エンドポイントの定義 --- 39
12.3.1. Primary endpoint --- 39 12.3.2. Secondary endpoints --- 39 12.3.3. 治療開始後 12 ヶ月以内に発生した有害反応(非血液毒性)の割合 --- 39 12.3.4. 治療完遂割合 --- 39 12.3.5. 3 年局所制御率 --- 39 12.3.6. 3 年照射野外再発率 --- 39 12.3.7. 3 年全生存率 --- 3912.3.8. Grade 2 以上の放射線肺臓炎の発生割合 --- 39 12.3.9. 有害事象発生割合 --- 40 12.3.10. 重篤な有害事象発生割合 --- 40
13. 統計的事項 --- 41
13.1. 主たる解析と判断基準 --- 41
13.2. 予定登録症例数・登録期間・追跡期間 --- 41
13.3. 中間解析と試験の早期中止 --- 41
13.4. Secondary endpoint の解析 --- 41
13.4.1. 安全性の Secondary endpoints の解析 --- 41 13.4.2. 有効性の Secondary endpoints の解析 --- 4113.5. 最終解析 --- 41
14. 倫理的事項 --- 42
14.1. 患者の保護 --- --- 42
14.2. インフォームドコンセント --- 42
14.2.1. 患者への説明 --- 42 14.2.2. 同意 --- 4314.3. プライバシーの保護と患者識別 --- 43
14.4. プロトコールの遵守 --- 43
14.5. 施設の倫理委員会 IRB の承認 --- 43
14.5.1. 試験参加開始時の承認 --- 43 14.5.2. IRB 承認の年次更新 --- 4314.6. プロトコール内容の変更について --- 43
14.6.1. プロトコールの内容変更区分 --- 43 14.6.2. プロトコール改正/改訂時の施設 IRB 承認 --- 44 14.6.3. 記録用紙の修正 --- 4415. モニタリングと監査 --- 45
15.1. 定期モニタリング --- 45
15.1.1. モニタリングの項目 --- 45 15.1.2. モニタリングにおける安全性の判断基準 --- 45 15.1.3. プロトコール逸脱・違反 --- 4515.2. 施設訪問監査 --- 46
15.3. 放射線治療の品質管理・品質保証活動 --- 46
16. 特記事項 --- 47
16.1. 効果の中央判定 --- 47
17. 研究組織 --- 48
17.1. JROSG(Japanese Radiation Oncology Study Group:日本放射線腫瘍学研究機構) --- 48
17.2. JROSG 代表者 --- 48
17.3. 研究グループとグループ代表者 --- 48
17.4. 研究代表者 --- 48
17.5. 研究事務局 --- 48
17.6. 参加施設 --- 49
17.7. JROSG プロトコール審査委員会 --- 49
17.8. JROSG 効果・安全性委員会 --- 49
17.9. データセンター --- 49
17.10. プロトコール作成責任者 --- 49
18. 研究結果の発表 --- 51
19. 参考文献 --- 52
20. 付表 Appendix --- 53
・ 説明文・同意書 (付1) ・ ヘルシンキ宣言(日本医師会和訳) (付2)・ Performance status scale (ECOG)の日本語訳 (付3) ・ Flecher-Hugh-Jones の呼吸困難の分類(日本語訳)(付4) ・ JROSG AE/AR/ADR 急送一次報告書(付5) ・ JROSG AE/AR/ADR 急送報告書(付6) ・ 記録用紙(CRF)(付7) ・ 登録・適格性確認票 ・ 治療開始報告書①、② ・ 治療終了報告書 ・ 追跡調査用紙
1. 目的
切除不能もしくは切除拒否した中枢側(縦隔・肺門)に存在するT1N0M0 非小細胞肺癌に対する体幹部定位 放射線治療による線量増加試験を行い、最大耐容線量(maximum tolerated dose; MTD)及び推奨線量を決定 する。
2. エンドポイント
エンドポイントは以下の項目とする。 1) Primary endpoint: 治療開始後 12 ヶ月以内に発生した有害反応(非血液毒性)の割合 2) Secondary endpoints: 治療完遂割合、遅発性有害反応の頻度(治療開始後 12 ヶ月以降)、 3 年局所制御率、3 年照射野外再発率、3 年全生存率3. 背景と試験計画の根拠
3.1. 疾患の背景
わが国における肺癌死亡数は男女とも増加の一途をたどっており、2004 年の時点では男女合わせた肺 癌死亡数が癌死亡数の第一位である1)。このうち臨床的特徴が他の組織型とは異なる小細胞癌以外は非小 細胞肺癌と総称され、全肺癌の 80-85%を占める。非小細胞肺癌の治療方針は TNM 分類に基づく臨床病期 (c-stage)によって異なり、c-stage I、II、IIIA(一部)では外科的切除、c-stage IIIA(bulky N2)及び IIIB では化学 放射線治療、悪性胸水を伴う c-stage III や IV では化学療法がそれぞれ標準的治療法である。高齢化社会が 進む中で、肺癌死亡数の年次推移を年齢階級別に見ると、男女とも 75 歳以上の高齢者に増加が著しく1)、こ のような標準治療が受けられない患者も多い。この中で、TNM 分類に基づく臨床病期(clinical stage; c-stage) I 期非小細胞肺癌は、検診の普及によって発見されることが多くなり、全非小細胞肺癌患者の約 20%を占め るに至っている2)。平成 22 年よりTNM分類第 7 版が適応されるに当たり、従来のc-stage Iはc-stage IAとIB に大別されることは変化ないが、c-stage IA は T1a(最大径 2cm 以下で葉気管枝より中枢側に浸潤がない) N0M0 と T1b(最大径が 2cm を超え 3cm 以下で葉気管枝より中枢側に浸潤がない)N0M0 に細分化されるこ とになった3)。いずれにしても隣接臓器への浸潤も所属リンパ節転移もないことから、外科的治療が標準治 療とされる病期であるが、特に c-stage IA は肺葉切除と縦隔リンパ節郭清を行う標準治療に替わるべく、拡大 区域切除や体幹部定位放射線治療といった低侵襲治療が開発される傾向にある。また、高齢化の著しい社 会情勢を反映して、諸臓器の機能低下や合併症の増加の恐れから標準治療である外科的治療が困難であ る場合や、可能であってもこれを拒否する場合が増加している。
3.2. 試験の対象と意義
肺癌診療ガイドラインによると、外科的切除ができないc-stage IA非小細胞肺癌の治療法として、放射線治療 を行うことが推奨されている4)。このような現状において、「体幹部定位放射線治療」が選択される場合が増加 している。本法は患者固定法や照射技術の改良などにより、通常呼吸性移動などを伴う体幹部腫瘍に対して も、高い位置精度で高線量の放射線を局所に集中させることによって、腫瘍の局所制御の改善を図るとともに、 合併症の軽減を図る治療法である。Ohnishiらはc-stage Iの非小細胞肺癌 257 例の多施設共同の後向き研究に おいて、異なる線量分割スケジュールの生物学的効果を比較するために用いるα/β比を 10 とした場合の Biological effective dose (BED)が 100Gy以上かつ手術可能例の場合、5 年生存率が 72.0%と報告している5)。同 様にNagataらは 32 例のc-stage IAにおいて 48Gy/4 回という線量分割で治療を行い、3 年全生存率 83%と報告 している5)。また、安全性についてもGrade 2 以上の肺臓炎は 5.4%で、重篤な合併症の頻度は極めて低い4)。現 在、前向き研究としてc-stage IAに対するJCOG0403 においては、既に症例集積が終了し、解析が待たれるとこ ろであり、c-stage IBに対するJCOG0702 も進行中である。 上記の報告において対象となったのは、部分的にでも大線量が照射されると危険である正常組織(直列臓 器)とは近接しない末梢に存在する症例(以下、末梢性肺癌)であり、このような症例においては体幹部定位放 射線治療の有効性と安全性は確立されつつあると言える。しかし、縦隔・肺門に近い中枢側に存在する早期非 小細胞肺癌(以下、中枢性肺癌)に対する体幹部定位放射線治療の場合、食道、脊髄、肺動静脈などの直列臓 器への危険性が懸念される。Fakirisらは手術不能I期非小細胞肺癌 70 例(T1: 35 例、T2: 35 例)に対して、T1 症例で 60Gy/3 回、T2:症例で 66Gy/3 回(アイソセンタ処方、不均質補正なし)の定位照射を施行し、そのうち中 枢性肺癌 22 例を解析した。全生存率は末梢側と中枢側において有意差を認めなかったものの(MST 33.2M vs 24.4M, p=0.697)、Grade3 以上の有害事象は、有意差はないものの末梢側で 10.4%に対し、中枢側で 27.3%と 高頻度であった7)。また、Onimaruらは 48Gy/8 回でGrade 5 の食道炎を報告しており、線量分布解析にて食道の一部に高線量域が含まれたことが原因としている8)。一方で、Changらは中枢性肺癌 27 例に対して 50Gy/4 回 (アイソセンタ処方、不均質補正あり)の定位照射を行い、局所制御率は 50Gy群では 100%、Grade3 以上の肺 有害事象は認めなかったと報告しており、IGRTを用いたSBRTは中枢性肺癌にも安全に施行可能であると結 論付けている9) 。このように様々な報告が散見されるが、食道、脊髄、肺動静脈などの直列臓器への有害事 象軽減のためには、分割回数を増やし、1回線量を減らす試みが一般的である。Lagerwaardらも中枢性肺癌 27 例に対して部位に応じて線量分割を変え、60Gy/8 回 (アイソセンタ処方、不均質補正あり、PTVの 80%をカ バー)では、Grade 3 以上の有害事象は認めなかったとしている10)。 上記の報告はいずれも症例数に限りのあるレトロスペクティブなものであり、現在、中枢性肺癌に対する定 位照射に関する前向き試験は RTOG0813(5 分割での第 I 相試験)のみが進行中である。以上より、我々は切 除不能もしくは切除拒否した中枢側(縦隔・肺門)に存在する T1N0M0 非小細胞肺癌に対する体幹部定位放 射線治療による線量増加第 I 相試験を計画した。このような中枢性肺癌に対する定位放射線治療の前向き研 究は現在、国内では実施又は公表されていないため、その最大耐用線量とその治療効果を明らかにする本研 究の価値は十分にあるものと考えられる。
3.3. 体幹部放射線治療
3.3.1. 定位放射線治療
「定位放射線照射」とは、高い位置精度で高線量の放射線を局所に集中させることによって、腫瘍の局所 制御率の改善を図るとともに、合併症の軽減を図る治療法である。放射線治療は、腫瘍細胞と正常細胞の 放射線に対する感受性の違いを利用した治療であり、正常組織の耐容線量を超えないように、病巣の治癒 が得られる線量が探索され、照射法が工夫されてきた。病巣のみに放射線が照射され、正常組織は照射を 受けないことが理想であるが、現実には正常組織に放射線が照射されることは避けられない。定位放射線 照射は、三次元照射計画を用いて多方向から少量の放射線を照射することで、腫瘍周囲の正常組織への 照射線量を少なくおさえ、腫瘍に対して選択的に充分な線量を集中させる方法である。最初に臨床応用され たのは 1960 年代であり、脳腫瘍が対象であった。 脳腫瘍は体動などによる頭蓋内での移動がなく、頭部は金属ピンやプラスティック固定具によって容易に 固定が可能であり、また、頭部の形状が球体に近いことから多くの線源を埋め込んだ球状の装置を使用し やすいことが理由であった。最初に、ガンマ線を放出するコバルト線源をヘルメット型の照射装置に埋め込 んで行う照射法(ガンマナイフ)が実用化し、1980 年代には直線加速器による X 線照射を利用した照射装 置も登場した。前者はγ 線、後者は X 線を利用したものであるが効果に大きな違いはない。 定位放射線照射には照射を 1 回のみで行う「定位手術的照射(stereotactic radiosurgery: SRS)」と、数回の 分割照射で行う「定位放射線治療(stereotactic radiotherapy: SRT)」がある。いずれも 1997 年より保険適用と なり、国内でも広く臨床応用されるようになってきている。3.3.2. 体幹部放射線治療
患者固定法の改良等により、定位放射線治療は 1990 年代後半から、体幹部腫瘍に対しても積極 的に応用されるようになってきた。対象となった疾患は、部分的にでも大線量が照射されると危険で ある正常組織(リスク臓器)とは近接しない部位にある腫瘍であり、早期の非小細胞肺癌や肝臓癌で あった。国内での体幹部定位放射線治療の普及状況に関しては、2001 年には 47 施設が脳以外の定 位放射線照射を行っているという日本放射線腫瘍学会構造調査があり、2010 年の現在、さらに増加し ているものと思われる。3.3.3. 肺癌に対する体幹部放射線治療
体幹部定位放射線治療とは、体幹部病変に多方向から照射する技術と、照射する放射線を病変に正確に照準する技術の両者を兼ね備えた治療法であり、照射は数回に分けて行う。具体的に以下の①と②をとも に満たすものと定義される。 ① 5~10 門の固定多門照射や多軌道回転運動照射などにより、直線加速器(リニアック)を用いて多方向 から 3 次元的に、小さな照射領域に対して X 線照射をする。 ② 固定フレームを用いて患者の動きを固定する、または生理的呼吸運動や臓器の体内移動に同期または 追尾して照射を行い、照射回毎の照射中心位置のずれ(固定精度)を 5 mm 以内に収める。 定位放射線治療は、照射対象が一定の大きさを超えると照射線量の均一性が保てなくなる特性があり、 一般的に腫瘍径が 5 cm 以下のものが適応とされている。また、高線量が投与される領域が心臓・大血管、 気管・気管支、食道、胃、脊髄などの重要な臓器に近接する場合には耐容線量を超えてしまうため、照射 は不可能となる。これらより非小細胞肺癌では c-stage IA と c-stage IB の一部が対象となり得る。
3.3.4. 肺癌に対する体幹部放射線治療の有効性と安全性
末梢性の早期非小細胞肺癌に対する体幹部定位放射線治療の前向き研究としてc-stage IAに対する JCOG0403 の登録集積が終了し、その結果が待たれるところであるが、その他の前向き研究や調査研究は 少ない。国外では、RTOG0236 において、腫瘍径 5cm未満の切除不能T1-2N0M0 非小細胞肺癌に対する 54Gy/3 回の定位照射の成績がTimmerman らによって報告されている11)。55 例の解析(T1;44 例、T2;11 例) を行い、観察期間中央値 34.4 カ月にて 3 年局所制御率、無病生存率、全生存率はそれぞれ 97.6%、48.3%、 55.8%であり、有害事象は治療関連のGrade3 が 7 例(12.7%)、Grade4 が 2 例(3.6%)と報告している。国内の 症例を対象とした報告には、3.2 で述べたOhnishiらの報告があり5)、この成績は今までの標準治療である外 科治療との成績と比較して遜色のないものとなっている。一方、中枢性肺癌に対する体幹部定位放射線治 療の前向き研究は国内外にも存在せず、現在RTOG0813 にて 5 分割での第I相試験が進行中であるのみで あり、その有効性に関する報告も限られている。しかし、末梢性肺癌での治療成績を考慮すると、同程度の 線量投与が可能であれば一定の有効性が期待できる。 安全性に関しては、末梢性肺癌に対する体幹部定位放射線治療の場合、Onishi らの調査では Grade2 (CTCAE ver.3.0)以上の合併症は 5.4%であったが、Timmerman らの報告ではGrade 3 以上の合併症は 55 例中 9 例とやや頻度が高い11)。これは線量分割の差に起因する可能性があるが、少なくとも国内で一般的 に行われている 48Gy/4 回の線量分割では、安全性の点でも、重篤な有害事象を伴うことなく施行可能な治 療として期待されている5)。放射線肺臓炎は、腫瘍の増悪/再発や感染症との鑑別が問題になることが多く、 JCOG放射線治療グループでは、過去の症例に対して経験に基づき放射線肺臓炎の臨床像や経過などの 発現形式を検討した。検討結果は以下のように要約される。 臨床症状と経過: 定位放射線照射後、通常 2~6 ヵ月にCT画像上で、すりガラス状の陰影の出現とほぼ時 期を一にして、咳や発熱等の症状が出現しており、これは、定位放射線照射の治療時に腫瘍周囲の正常肺 も一部照射された結果による放射線肺臓炎の症状と思われた。多くは、投薬なく経過観察で 2-3 週間の内に 自然軽快していた。 画像所見と経過: 臨床症状はなくても、照射直後から 6 ヵ月、長いものでは 1~2 年の間、画像上肺炎像を 呈する例は多く、腫瘤形成様の像を呈することも少なくなかった。照射後早期の画像検査から腫瘍の再発と 感染症との鑑別をすることは困難であることが多く、6 ヵ月以上の画像変化を加味して鑑別するのが適切と 考えられた。 中枢性肺癌ではレトロスペクティブな報告ではあるが、60-66Gy/3 回で行った場合より、50Gy/5 回もしくは 60Gy/8 回と分割回数を増加させた報告において、重篤な有害事象が減少する可能性を認めている7, 9, 10)。本 試験ではこの点を考慮し、本邦にて末梢性肺癌で通常使用される 48Gy/4 回よりも分割回数を増加させた 8回での線量増加試験とした。また、有害事象の発生時期について、青木ら、木村らの検討では、臨床的に問 題となる放射線肺臓炎の発生はほとんどが治療開始後 6 ヵ月以内であったが11, 12)、中枢性早期非小細胞肺 癌では主気管支、肺動静脈、食道、脊髄などの直列臓器が近傍に存在するため、より長期での経過観察が 必要と思われる。現在進行中である中枢性I期非小細胞肺癌に対する5分割での体幹部定位放射線治療第I 相試験であるRTOG0813 では 1 年間の経過観察期間を設けており、本試験においても線量増加においては 1 年間の経過観察期間を設けた。
3.4.
本試験の治療計画
3.4.1. 本試験の治療計画設定の根拠
Nagataらによると、日本国内での末梢性I期非小細胞肺癌の定位放射線治療の線量分割は 48Gy/4 回が 最多で一般的であったと報告しており13)、この線量分割での末梢側I期肺癌における効果と安全性は確立 されつつある。α/β比を 10 とした場合のBED(BED10)はこの場合 105.6Gyとなる。しかし、本試験では 3.2 に示した中枢性肺癌における定位照射の国外データ7-9)から、安全性を考慮し分割回数を増加させること が必要と考え、8 分割での線量増加を設定した。その場合、48Gy/4 回とBED10がほぼ等価となる線量は60Gy/8 回(BED10=105Gy)である。この線量分割を中心に考え、レベル 1 から 5 までを 4Gyずつの線量分
割を設定した。 最近の技術的進歩として、放射線治療計画装置の変化があり、従来のClarkson法よりも肺組織における 実際の線量との誤差が少ないSuperposition法による線量計算法に変わってきたことがある。現在、国内の 多くの施設で用いられている 48Gy/4 回は、Clarkson法を用いたJCOG0403 を基に広まった経緯がある。今 後の臨床応用を考慮するとSuperposition法の使用が必須であり、本試験においてもSuperposition法による 線量指示法を導入する。しかし、その際にClarkson法との整合性を考慮する必要がある。広島大学での定 位照射を施行した 10 例のデータでは、同一モニターユニット(MU)値で照射した場合、Clarkson法におい てアイソセンタにおける線量はSuperposition法よりやや高くなる傾向を認めた。ただ、その差は 1.8-18.8% と様々で、腫瘍の存在部位やそれに伴うビームの入射方向などにより容易に異なる。従って、Clarkson法 における 48Gy/4 回とBED10がほぼ等価となる線量分割である 60Gy/8 回をSuperposition法で計算した場合
は、従来のClarkson法での線量よりやや高くなるものと考えられる。また、京都大学の松尾らは定位照射 を施行した症例でpencil beam法とAnalytical anisotropic algorithm (AAA)法による不均質補正の検討を行い、 同一MUでの照射ではアイソセンタ線量はAAA法でやや高くなるものの、D95 処方ではpencil beam法で高 くなったと報告している14)。いずれにしても、線量計算アルゴリズムの相違や、腫瘍の存在部位やそれに 伴うビームの入射方向などにより線量が容易に異なることを考慮すると、単純なClarkson法とSuperposition 法の比較は困難であり、本試験では新たにSuperposition法でのエビデンスを作るべく、60Gy/8 回を中心と した線量分割のレベル設定を行った。
3.4.2. 後治療
本プロトコール治療により再発あるいは増悪を認めるまでは他の治療は行わない。再発あるいは増悪 を認めた場合及びプロトコール中止となった症例の後治療は自由とする。3.5. 試験デザイン
3.5.1. 計画されている第 I 相試験のデザイン
本試験では切除不能もしくは切除拒否した中枢側(縦隔・肺門)に存在するT1N0M0 非小細胞肺癌に対 する体幹部定位放射線治療による線量増加試験を行い、最大耐容線量(maximum tolerated dose; MTD)及 び推奨線量を決定し、有効性と安全性を評価する。線量は60Gy/8回を中心に4Gyずつの5レベルを設定し、 各レベル10例登録する線量増加第I相試験とした。本試験のprimary endpointは治療開始後12ヶ月以内に発生した有害反応(非血液毒性)の割合とし、今後 のc-stageIAの中枢性非小細胞肺癌に対する体幹部定位放射線治療に関する臨床試験の基礎となるデー タを得ることが目的である。
3.5.2. エンドポイントの設定根拠
本試験は、c-stageIA の中枢性非小細胞肺癌に対する体幹部定位放射線治療の最大耐容線量及び推奨 線量を決定するための第 I 相試験である。 Primary endpoint には、臨床的に最も問題となる治療開始後 12 ヶ月以内に発生した有害反応(非血液毒 性)の割合とし、secondary endpoints には、有効性の評価である 3 年局所制御率、3 年全生存率、3 年照射 野外再発率、安全性の評価である遅発性有害反応の頻度(治療開始後 12 ヶ月以降)、治療完遂割合を採 用した。3.5.3. 患者集積見込み
対象とするc-stageIAの中枢性非小細胞肺癌に対する体幹部定位放射線治療は、高齢者の増加とともに 広く行われる可能性があり、3 年で最大 50 例の登録は十分可能であると考えられる。3.6. 試験参加に伴って予想される利益と危険(不利益)の要約
3.6.1. 予想される利益
本試験参加施設では、本試験に参加しない場合でも、患者は同様の放射線治療を保険診療として受け ることが可能であり、本試験参加による経済上の特別な利益はない。ただし、本試験に参加された場合は 第三者的な品質管理の対象となるため、試験に参加しない場合に比してより高精度な放射線治療が期待 できる可能性がある。3.6.2. 予想される危険と不利益
治療に伴うリスクについては、3.3.2 で述べたように、中枢性肺癌の場合、末梢性肺癌に対する体幹部定 位放射線治療と比較して安全性が確立しておらず、主気管支、肺動静脈、食道、脊髄などの直列臓器に高 線量を照射した後の晩期有害事象についても不明な点が多いことからも、肺臓炎はもとより、これらの臓 器で重篤な晩期有害事象が少なからず発生する可能性は否定できない。 こうしたリスクや不利益を最小化するために、「5.患者選択基準」、「治療計画と治療変更基準」、「説明 文書」等がグループ内で慎重に検討され、JROSG 臨床試験審査委員会で綿密な審査がなされた。また、 試験開始後は定期モニタリングを行うことで、有害事象が予期された範囲内かどうかをデータセンターと効 果・安全性委員会がモニターするとともに、重篤な有害事象や予期されなかった有害事象が生じた場合に は JROSG の諸規定に従って慎重に検討・審査され、必要な対策が講じられる体制がとられている。 試験参加の有無によらず本試験の放射線治療は保険診療下で行われるため、本試験に参加することで 生じる経済上の不利益はない。3.7. 本試験の意義
本邦において、中枢側に存在する c-stageIA 非小細胞肺癌に対する体幹部定位放射線治療に関する研究 は日常診療の調査研究もしくは単施設の研究でも行われておらず、現在のところプロスペクティブな多施設 共同研究も公表されていない。本試験により中枢側に存在する IA 期非小細胞肺癌に対する同治療法の有 効性と安全性が確認された場合、高齢者及び合併症を有する患者で標準治療が十分に行えない症例に対し ては、従来の放射線治療よりも優れた治療法をエビデンスに基づいて提供することが可能となる。 逆に、本試験により、これまでの研究では示されていなかった治療のリスクが存在することが明らかにな った場合や、期待された有効性が示されなかった場合には、既に日常診療として普及しつつある治療に対し、 治療開発の軌道修正を行うことが可能であることから、本試験はその結果如何によらず、本邦の肺癌診療に4. 本試験で用いる基準・定義
4.1. 病期分類基準
病期分類には(Staging)には TNM 分類(2009、UICC 第 7 版)を用いる。 T-原発腫瘍 Tx: 原発腫瘍の存在が判定できない、あるいは画像上または気管支鏡的には観察できないが、 喀痰または気管支洗浄液中に悪性細胞が存在する T0: 原発腫瘍を認めない Tis: 上皮内癌 T1: 腫瘍の最大径が 3cm以下で、肺組織または臓側胸膜に囲まれており、気管支鏡的に癌浸潤が 葉気管支より中枢に及ばないもの(すなわち主気管支に及んでない)注1) T1a:腫瘍の最大径が 2cm 以下 T1b:腫瘍の最大径が 2cm を超え 3cm 以下 T2: 腫瘍の最大径が 3cm を超え 7cm 以下;または進展度が以下のいずれかであるもの: ・ 主気管支に浸潤が及ぶが、腫瘍の中枢側が気管分岐部より 2cm 以上離れているもの ・ 臓側胸膜に浸潤があるもの ・ 肺門に及ぶ無気肺あるいは閉塞性肺炎があるが一側肺全体に及ばないもの T2a:腫瘍の最大径が 3cm を超え 5cm 以下 T2b:腫瘍の最大径が 5cm を超え 7cm 以下
T3: 腫瘍の最大径が 7cmを超えるか、隣接臓器、すなわち胸壁(superior sulcus tumorを含む)、横隔膜、 縦隔胸膜、壁側心膜のいずれかに直接浸潤する腫瘍; または腫瘍が気管分岐部から 2cm未満に 及ぶ注2)が、気管分岐部に浸潤のないもの; または無気肺あるいは閉塞性肺炎が一側肺全体に及 ぶものまたは同一肺葉内に存在する腫瘍結節 T4: 大きさと無関係に縦隔、心臓、大血管、気管、反回神経、食道、椎体、気管分岐部に浸潤の及ぶ 腫瘍; 同側他肺葉内に存在する腫瘍結節 N-所属リンパ節 Nx: 所属リンパ節が判定できない N0: 所属リンパ節転移なし N1: 同側気管支周囲および/または同側肺門リンパ節および肺内リンパ節転移で、原発腫瘍の直接 浸潤を含む N2: 同側縦隔リンパ節転移および/または気管分岐部リンパ節転移 N3: 対側縦隔、対側肺門、同側または対側斜角筋前、または鎖骨上窩リンパ節転移 M-遠隔転移 Mx: 遠隔転移が判定できない M0: 遠隔転移なし M1: 遠隔転移がある M1a:対側他肺葉内に存在する腫瘍、胸膜結節、悪性胸水または悪性心嚢水を伴う腫瘍注3) M1b:遠隔転移がある 注1)大きさと無関係に浸潤が気管支壁内に限局している表層浸潤型の腫瘍がときにあり、その場合進 展が主気管支に及ぶものでも T1 とする。
注2)このような形態を有する T2 において、大きさが 5cm 以下または計測できないものは T2a、大きさ が 5cm を超え 7cm 以下であれば T2b と分類する。 注3)肺癌と関係のある胸水の多くは腫瘍によるものである。しかし、まれには複数回の細胞病理学的 検査が陰性で、かつ胸水が非血性で非滲出性の場合がある。このような条件が満たされ、臨床的 に胸水が腫瘍と関係ないと判断される場合は、胸水を病期判定の要素から除外し、患者を M0 と分 類する。 【病期分類】 潜伏癌 TX N0 M0 0 期 Tis N0 M0 IA 期 T1a,b N0 M0 IB 期 T2a N0 M0 IIA 期 T2b N0 M0 T1a,b N1 M0 T2a N1 M0 IIB 期 T2b N1 M0 T3 N0 M0
IIIA 期 T1a,b, T2a,b N2 M0 T3 N1, N2 M0 T4 N0, N1 M0 IIIB 期 T4 N2 M0 T は関係なし N3 M0 IV 期 T は関係なし N は関係なし M1a,b 本試験では登録前の病期分類で IA 期すなわち T1a,bN0M0 である非小細胞肺癌を対象とする。
4.2. 標準手術
本研究における「標準手術」とは、皮膚切開、筋肉切離の範囲によらず、肺実質の切除術式が次のいずれ かであり、所属肺門・縦隔リンパ節を全て郭清することをいう。切除術式: ・肺葉切除:一次気管支(葉気管支)に支配される右肺上葉、中葉、下葉、左肺上葉、下葉のいずれかひと つ、もしくは右肺の場合隣接する二葉の切除 ・肺全摘除:0 次気管支(主気管支)に支配される右肺全体もしくは左肺全体のいずれかの切除
4.3. 標準手術不能の定義
標準手術不能の決定は、以下の①~②に示す呼吸機能の基準のいずれかに該当する場合に、PS、年齢、 合併症の有無等を考慮して胸部外科医もしくは主治医が行う。 ① 術後予測1秒量(FEV1.0) ※<800ml ② PaO2<65torr/mmHg(room air) ③ 薬物治療を要する心不全がある ④ 6 か月以内の心筋梗塞の既往または 6 カ月以内の不安定狭心症発作の既往がある ⑤ コントロール困難な不整脈がある⑥ インスリンでコントロール困難な糖尿病がある ⑦ その他、手術不能とされる合併基礎疾患がある ※術後予測1秒量の算出に必要な「予定切除区域数」は、登録前に胸部外科医にコンサルテーションを行っ て決定し、下記の算出式に従って算出する。 【術後予測1秒量の算出式】 術後予測1秒量=術前 1 秒量×(全区域数-予定切除区域数)/全区域数 ・全区域数は、登録時にある全肺の区域数とする。肺の手術の既往があり、区域数が少ない場合など は、全区域数は少なくなる。 ・切除区域数は、標準手術により切除する区域数と定義する。一葉切除の場合の切除区域数は、切除 対象となる肺葉の区域数が正常の場合、次の通りになる。 右上葉:3 区域、右中葉:2 区域、右下葉:5 区域 左上葉:3 区域、舌区:2 区域、左下葉:4 区域
5. 患者選択基準
5. 1 適格基準
5. 1. 1 組織診又は細胞診(喀痰細胞診は除く)で非小細胞肺癌の確診が得られた症例 5. 1.2 35 日以内の画像検査(胸部 X 線写真、胸腹部 CT、頭部 CT/MRI)及び 56 日以内の
FDG-PET で診断された T1a, T1bN0M0(IA 期)症例(ただし、頭部 CT/MRI は必須項目では ないが、原則行うほうが望ましい。)
5. 1. 3 「切除不能」と判断されるか、もしくは手術を拒否した症例
5. 1.4 腫瘍が近位気管支(気管分岐部、左右主気管支、左右上下葉枝、中間幹、右中葉枝、舌区枝)から
全ての方向で 2cm 以内の領域に存在するか接する、又は縦隔及び心外膜の計画リスク臓器体積 (planning organ at risk volume: PRV)に直接接する症例
5. 1. 5 治療計画において「7.1. プロトコール治療」に示す線量分布や線量制限を満たしていることが 確認される症例 5. 1. 6 35 日以内の検査値で以下の条件を全て満たす適切な肺機能を有する症例 ・ PaO2≧60torr/mmHg ・ FEV1.0≧700ml 5. 1. 7 肺癌の前治療のない症例 ・ 胸部への放射線治療の既往がない。 ・ 肺癌に対する抗癌剤による化学療法の既往がない。 5. 1. 8 20 歳以上 85 歳以下
5. 1. 9 Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) performance status 0-2
0: 全く問題なく活動できる。発病前と同じ日常生活が制限なく行える。 1: 肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽労働や座っての作業は行うことができる。 例:軽い家事、事務作業 2: 歩行可能で自分の身の回りのことはすべて可能だが作業はできない。日中の 50%以上はベッド外で 過ごす。 5. 1. 10 文書による informed consent が得られている
5. 2 除外基準 (以下のいずれかに該当する症例は除外する)
5. 2. 1 活動性の重複癌を合併している症例(同時性重複癌及び無病期間が 5 年以内の異時性重複癌。
ただし、局所治療により治癒と判断される Carcinoma in situ; 上皮内癌または粘膜内癌相当の病変、 WHO 分類で T1N0M0 喉頭;声門原発、前立腺癌 low risk 群;T1-2a かつ Gleason score 2-6 かつ PSA < 10 ng/ml、I 期乳癌、及びそれらと同程度の予後が期待される癌の既往は活動性の重複癌に含めな い)。 5. 2. 2 胸部への放射線治療の既往がある症例(特に、非活動性重複癌と認識される I 期乳癌で術後 照射の既往がある症例) 5. 2. 3 胸部 X 線写真で明らかな間質性肺炎又は肺線維症を認める症例 5. 2. 4 外用薬以外の治療を必要とする、活動性の感染症を合併している症例 5. 2. 5 妊婦、授乳婦および妊娠している可能性のある症例 5. 2. 6 精神病または精神症状を合併しており、試験への参加が困難と判断される症例 5. 2. 7 その他、主治医が不適切と判断した症例 5. 2. 8 リスク臓器の線量制限「7.1 プロトコール治療」を超える症例
6. 登録の方法
6.1. 登録の手順
登録は以下に示す手順に従って行う。 各施設の放射線治療担当医は、放射線治療計画を立て、「7.1. プロトコール治療」に示す線量分布や線量 制約を確認した後、対象患者が適格基準をすべて満たし、除外基準のいずれにも該当しないことを確認し、 以下のステップを経て研究事務局の許可を得た上で登録手続きを行う。その際、登録出来ない場合がある ことに留意し、当該患者への説明や同意取得については各参加施設の事情に応じた適切な手順にて行うこ と※。また、各参加施設は日頃より原則として毎稼働日に配信されるメーリングリストの情報に注意を払い、 登録可能かどうかについての情報を共有し、タイミング良く自施設からの適格患者が登録できるように努め る。 ※登録日以前に患者からの試験参加の同意が得られている必要があるが、試験についての説明は同意の 前日以前になされている必要があることに留意すること(14.2.2.)。 以下、各施設の放射線治療担当医、研究事務局に分けて、各段階ごとに役割を示す。 0. 登録前 各施設の放射線治療担当医: 原則として毎稼働日午前 9 時にメーリングリストに配信される「JROSG10-1 登録情報」に注意を払い、登録可能かどうかについての情報を共有し、タイミング良く自施設からの適格 患者が登録できるように準備しておく。 研究事務局: 原則として毎稼働日午前 9 時に、前日までの情報を基に登録状況について更新し、 「JROSG10-1 登録情報」で最新情報をメーリングリストに配信する。 1. 登録日:登録許可取得 施設で適格患者が発生した場合、登録を行いたい日に各施設の放射線治療担当医は、研究事務局に その旨を電話で打診し、登録許可を得る。登録許可を得ずに登録することは許容されない。 各施設放射線治療担当医: 登録を行いたい旨を研究事務局に電話で問い合わせて許可を得る。登録許 可は当日 17 時まで有効である。許可を得られない場合もあり、その場合には登録をしない。登録許可が 得られなかった場合は、翌日以降に再び登録を試みることは妨げないが、翌日登録許可が得られる可能 性については毎稼働日のメールや研究事務局との電話での情報と、当該患者の待機可能時間から総合 的に判断すること。 研究事務局: 施設からの電話での問い合わせに対して、その時点での登録可能枠に応じて登録可能か 否かを判断し、可能なら登録許可を与える。登録許可については研究事務局が複数施設の状況を考慮に 入れて、過剰登録にならない範囲で調整を行ってもよい(例えば、登録可能枠が 1 例の場合、その日最初 の登録許可を求めたA施設に登録許可を与え、次に登録許可を求めてきたB施設には、登録許可待ちの 状態にしておいて、もしA施設が登録できなかった場合に、B施設に登録許可を与え登録できるように調 整する、など)。 2. 登録適格性確認票郵送 電話登録後、各施設の放射線治療担当医は 2 稼働日以内に登録適格性確認票及び治療開始前報告書 ①②を研究事務局に郵送する。 【登録先】 研究事務局: 木村智樹 広島大学病院放射線治療科 〒734-8551 広島市南区霞 1-2-3 電話:082-257-1545Fax :082-257-1546 電子メール:[email protected] 登録適格性確認票及び治療開始報告書①②の記載が不十分な時はすべて満たされるまで登録は受け 付けない。
6.2. 研究事務局での適格性の確認
研究事務局で適格性が確認された後に、症例登録番号が発行される。各施設の放射線治療担当医 は事務局より FAX で送られた症例登録通知、登録番号を確認し、カルテに保存する。7. 治療計画と治療変更基準
患者の安全が脅かされない限りにおいて、治療および治療変更は本章の記述に従って行う。プロトコ ールに従えば医学的に危険と判断される場合は担当医の医学的判断に従って治療変更を行う。その場 合、「プロトコール逸脱」となるが、医学的に妥当な場合は「臨床的に妥当な逸脱」と判断される(「プロトコ ール逸脱・違反」参照)。
7.1. プロトコール治療
1 日 1 回、計 8 回の 4-6MV X 線による直線加速器を用いた体幹部定位放射線治療を総治療期間が 14 日以 内となるように行う。許容総治療期間は 21 日間とする。プロトコール治療を行うに当たっては、入院・外来のど ちらも可とする。 登録後10 日以内にプロトコール治療を開始する。なんらかの理由で開始が 10 日以降になった場合はその 理由を治療経過記録用紙に記載すること。また、治療を開始できないと判断した場合は「プロトコール治療中 止」として「治療終了報告」に詳細を記載する。登録後、治療開始までに臨床検査値などが悪化して適格規準 を満たさなくなった場合にプロトコール治療を開始するか中止するかは担当医の判断による。7.1.1. 線量増加の方法
7.1.1.1. 概要
本試験で用いる線量レベルの定義は下記の通りとする。 1 日 1 回、計 8 回、総治療期間 14 日以内、許容総治療期間 21 日間とし、以下の 5 レベルで線量 増加を行う(レベル 3 より試験開始)。なお、線量計算評価点をアイソセンタとし、superposition 相当の 不均質補正を行うアルゴリズム(AAA を含む)で計算する。 レベル 1:52Gy/8 回、1 回 6.5Gy レベル 2:56Gy/8 回、1 回 7Gy レベル 3:60Gy/8 回、1 回 7.5Gy (試験開始レベル) レベル 4:64Gy/8 回、1 回 8Gy レベル 5:68Gy/8 回、1 回 8.5Gy 総治療期間内で終了するように照射日を設定すればよく、連日照射、隔日照射を問わない。7.1.1.2. 線量増加の方法
レベル 3 より試験開始し、10 例が終了した時点で、10 例目の治療開始から 12 ヶ月の経過観察を 行う。DLT(dose-limiting toxicity、7.3.4参照)の発現頻度に応じて以下に記した通り、次のレベルへ進 む。登録症例が 10 例に満たない場合であっても、DLT 基準にあてはまる有害事象の発現が 4 例と なった場合、その時点で下位のレベルへ進む。 【レベル 3 より試験開始】 10 例中 DLT 発現例 1~3 例の場合 → レベル 4 へ移行 4 例以上の場合 → レベル 2 へ移行 以下、同様にレベルを変更し、最終的な推奨線量を決定する。7.1.2. 体幹部定位放射線治療に関する規定
7.1.2.1. 放射線治療装置
4- 6MV の X 線発生装置で、かつ SSD または SAD100cm 以上の装置を用いる。7.1.2.2. 標的体積(Target Volume)
標的体積 (target volume)は以下のように定義する。肉眼的腫瘍体積 (gross tumor volume: GTV)
GTV は、画像診断等により明らかに腫瘍が存在すると判断される領域の体積である。肺野条件 CT (レベル-700、ウィンドウ幅 2000)を基準として、必要に応じて、他の表示条件で検討した上、腫瘍が存在 すると判断される範囲を決定する。Spiculation 部分など腫瘍浸潤の疑われる部分は GTV に含める。自由 呼吸下にて Long scan time CT を用いる場合は GTV を規定できない。
臨床標的体積 (clinical target volume: CTV) CTV は、上記の GTV と同一とする。 内的標的体積 (internal target volume: ITV)
ITV は、CTV に臓器移動に対する margin を加えた標的体積であり、治療計画用 CT の撮影方法により、 CTV と区別できる場合とできない場合がある。ITV は自由呼吸下にて Long scan time CT または 4D-CT を用いて決定する。呼吸静止、呼吸同期、追従照射を行う場合は、同期・追従精度に応じた Internal margin を CTV に加えることで ITV を決定する。
計画標的体積 (planning target volume: PTV)
PTV は、ITV に対して患者およびビームの位置合わせに関する不正確性を表す setup margin (SM)を考 慮した領域であり、SM を ITV に三次元的に加えることで決定される。SM は 5mm 程度を各施設の状況に おいて設定する。
7.1.2.3. リスク臓器体積 (planning organ at risk volume: PRV)の線量制限
PRV は、照射により障害を受ける可能性のある臓器(リスク臓器)であり、移動などを考慮した照射範囲 内にある正常組織の体積と定義される。各臓器の算出法は以下の通りである。 ・ 肺実質:肺実質全体からPTVを差し引いた部分を用いる。 ・ 脊髄:各ビームに含まれる可能性のある範囲で、脊髄の代わりに脊柱管をCT上で同定し、これに位置 誤差に対する安全域として各方向に3次元的に3mmを加える。 ・ 食道:食道入口部から食道胃接合部までをCT 上で外輪郭抽出を限局して行う。これに位置誤差に対 する安全域として各方向に3次元的に3mmを加える。 ・ 気管・気管支(近位):ともにCT 上で外輪郭抽出を限局して行う。これに位置誤差に対する安全域として 各方向に3次元的に3mmを加える。近位気管は少なくともPTV上縁から10cm頭側もしくは気管分岐部か ら5cm頭側とする。近位気管支は左右主気管支、左右上下葉枝、中間幹、右中葉枝、舌区枝とする。 ・ 大血管:肺動静脈は本幹から左右一次分枝まで含める。 大動脈及びSVCはPTV上縁から少なくとも10cm頭側を含める(腫瘍が右ならSVCを、左なら大動脈を囲 む)。これに位置誤差に対する安全域として各方向に3次元的に3mmを加える。 ・ 心臓:心外膜に沿って囲み、上縁はA-P window、下縁は心尖部とする。これに位置誤差に対する安全 域として各方向に3次元的に3mmを加える。 ・ 皮膚:体表面から内側に5mmの範囲とする。
・ 腕神経叢:C5からTh2レベルで「Int. J. Radiation Oncology Biol. Phys: 72, 1362–1367, 2008」を参照し囲む。 これに位置誤差に対する安全域として各方向に3次元的に3mmを加える。
・ その他の臓器:腫瘍近傍にこれらが存在する場合には、CT上で輪郭抽出を限局して行う。これに位置 誤差に対する安全域として各方向に3次元的に3mmを加える。ただし、肋骨、胸壁、肝臓、脾臓は、線 量制限値の算出において、「その他の臓器」に含まないこととする。
以下に計画リスク臓器体積(PRV)に対する線量制限を示す。V20は、20 Gyが照射される正常肺体積 (両肺体積-PTV)である。 食道、気管・気管支そして心臓などは GTV に接し、PTV に含まれる場合も想定される。このような場合 は、臓器内にホットスポットを作らないように計画を行い、表の線量制約を順守する。 【PRV 線量制約】 PRV 許容体積 制限線量 エンドポイント 脊髄 Max 33.5Gy/8 回 脊髄炎 同側腕神経叢 Max 40Gy/8 回 神経症 皮膚 Max 40Gy/8 回 潰瘍形成 食道 <5cc 40Gy/8 回 狭窄/瘻孔 心臓/心外膜 <15cc 40Gy/8 回 心外膜炎 大血管(大動脈) <10cc 58Gy/8 回 動脈瘤 大血管(肺動脈) <1cc 54.5Gy /8 回 動脈瘤 <10cc 47.5Gy/8 回 大血管 <1cc 48Gy/8 回 狭窄/瘻孔 (SVC、肺静脈) 気管/気管支 <10cc 54.5Gy/8 回 狭窄/瘻孔 肺 V20<20% - 肺臓炎 その他の臓器 <1cc 65.5Gy/8 回 <10cc 54.5Gy/8 回
7.1.2.4. 線量分布計算
① 線量指示 標的基準点はアイソセンターとする。固定多門照射法においては中心軸上の各ビームの交点、多軌道 回転運動照射においては回転中心である。 ②線量分布図、線量計算 治療に先立ち、連続撮影された CT 画像を使用して 3 次元治療計画を行なう。計画に当たっては PTV 内の線量分布を可能な限り均一化し、かつ周囲リスク臓器の許容線量を超えない治療計画を行う。周囲 重要臓器の許容範囲については「4)計画リスク臓器体積」を参照。 ・フレームを用いる場合は、その線量吸収補正を行う。 ・不均質補正を行い、各施設で使用出来るアルゴリズムのうち、Superposition法相当のもの(散乱線計算 に対する密度補正も考慮した計算法)およびマトリックスサイズ 2.5mm以下を用いる。使用したアルゴリ ズムによる計算で、PTV、PRVのDVHを求め、PTVの最大線量、最小線量、平均線量、D95、 Homogeneity Index(HI)、Conformity Index(CI)を含めて記録する。HI、CIの定義は以下のようである。 ・Homogeneity Index(HI): PTV内最高線量のPTV内最低線量に対する比(PTV内最高線量/PTV内最低線量)。HIが低いほうが、腫瘍内が均一に照射されていることになる。HIは 160%以下とし、これを超える 場合は逸脱とする。
・Conformity Index(CI): PTV 内最低線量にてカバーされる体積を Treated volume(TV)と言い、CI は PTV に対する TV の比率である。CI が低いほうが、無駄に照射されている部分が少ないことになる。 ・腫瘍が空洞を有しアイソセンターが空洞に位置する場合は、腫瘍内の充実性成分のある部位に評価点 を別に設けて線量評価を行う。
7.1.2.5. 治療計画及び位置決め
・ 体位の指定はない ・ 固定方法:放射線照射中の照射中心位置の固定精度が±5mm 以内に収まるようにできる固定方法と する。 ・ X線CT所見に基づき、治療計画用CT(CTシミュレータ)による撮影を行う。また、同時に位置決めの照 射写真を撮影ないし作成しておく。 ・ 治療計画用 CT 撮影は、診断用 CT とは別個に標的体積決定のため、治療体位で行う。すなわち、治療 計画用 CT 装置、または通常の診断用 CT 装置の場合は、平天板、ボディフレームなどで治療体位と同 じにした状態で撮影する。設定は以下の条件を満たすものとする。 ① 患者状態: 治療条件と同じ呼吸状態とし、呼吸同期照射を行う場合はそれを考慮する。 ② 撮影範囲: 腫瘍範囲の頭尾方向に少なくとも 3cm 以上の scan 範囲の余裕をとって、なおかつ全て の肺野を含む範囲とする。 ③ 造影剤: 使用しない ④ スライス厚: 腫瘍近傍 1-3mm 幅、1-3mm 間隔 腫瘍と離れた部位 10mm 幅以下、10mm 間隔以下 ⑤ 呼吸同期照射: 行う場合 呼吸同期照射と同じ条件で CT 撮影を行う 行わない場合 1 スライスあたり、1 呼吸周期以上のスキャン時間をかけた、いわ ゆる Long scan time CT を自由呼吸下で撮影する方法、あるいは呼 気相と吸気相の CT を組み合わせる方法を用いる。 ⑥ 呼吸静止での照射: 行う場合 呼吸静止での照射と同じ条件で CT 撮影を行う 行わない場合 ⑤と同様7.1.2.6. 毎回の照合
照射回毎に CT、正側 2 方向のリニアックグラフィまたは正側 2 方向の EPID(electronic portal imaging device)を撮影し、治療計画時の写真と位置照合を行う。また、その他の画像誘導放射線治療 (Image-guided radiotherapy)の機能を有した装置(cone beam CT、動体追跡、Exac Trac など)による照合も 可とする。いずれの方法による場合でも、治療計画時のアイソセンタ位置(planning isocenter)と毎回の治 療時のアイソセンタ位置の誤差は 5mm 以内でなければならない。7.2. プロトコール治療中止・完了基準
7.2.1. プロトコール治療完了の定義
予定する8回の体幹部定位放射線治療を許容総治療期間に全て終了した場合をプロトコール治療完了 とする。7.2.2. プロトコール治療中止の基準
7.3.1.1. 毒性の評価
「CTCAE ver.4.0 日本語訳 JCOG/JSCO 版」に基づいて判定する。毒性の評価期間は治療開始から 12 ヶ月とする。
7.3.1.2. 放射線治療中止に関する規定
以下の事態が発生した場合には治療を中止する。 ① 治療開始後に明らかな原病の増悪が認められた場合 ② 登録後の治療計画によって線量制限を越える臓器が判明した場合 ③ 対象から除外すべき条件が治療開始後に判明した場合 (プロトコール違反が判明した場合、登録後の病理診断変更などによる不適格が判明した場合など) ④ 患者または患者代理人が治療中止を希望した場合 ⑤ 担当医が治療の継続が困難と判断した場合 ⑥ プロトコール治療中の死亡を認めた場合⑦ 7.3.1.3.に示す DLT(dose limiting toxicity)を認めた場合
7.3.1.3. DLT の基準
治療中に認められた有害事象を CTCAE ver.4.0 にて判定し、そのうち治療と因果関係が否定できないと 判断されたもののうち以下を DLT とする。 ① Grade 3 の肺臓炎:症状があり、日常生活に支障あり;酸素吸入を要する ② その他以下に示す Grade 3 の非血液毒性 ・食道炎:症状があり、摂食/嚥下に重大な影響(例:カロリーや水分の経口摂取が不十分);24 時間以 上の静脈内輸液/経管栄養/TPN を要する ・皮膚炎:間擦部以外の湿性落屑;軽度の外傷や擦過傷により出血 ・肺/上気道出血:輸液/IVR による処置/内視鏡的処置/外科的処置を要する ・心膜炎:生理機能に影響する心膜炎 ・心臓虚血/心筋梗塞:症状があり、検査結果が虚血を示す;不安定狭心症;治療を要する ③ 総治療期間が 21 日を越えた場合7.3. 治療変更基準
治療変更基準は設定しない。7.4. 治療に関する相談
治療に関する疑問点がある場合は、「17.5. 研究事務局」に問い合わせる。 研究事務局:木村智樹 広島大学病院放射線治療科 〒734-8551 広島市南区霞 1-2-3 電話:082-257-1545 Fax :082-257-1546 電子メール:[email protected]7.5. 併用療法・支持療法
7.5.1. 推奨される/推奨されない併用療法・支持療法
1) 放射線肺臓炎 咳嗽や発熱などの症状に対しては、鎮咳薬や消炎鎮痛薬の投与を行う。臨床経過に応じて、抗生剤、 ステロイドの投与を考慮する。胸部 CT あるいは胸部 X-P 上、照射野内に限局する画像所見は認めるが 症状を伴わない場合には、ステロイドの投与は推奨されない。 2) 放射線食道炎 嚥下時疼痛や嚥下困難に対して、粘膜保護剤や制酸剤を投与し、痛みが強い場合には消炎鎮痛剤、モルヒネ等を投与する。 3) 放射線皮膚炎 発赤や紅斑に対して、掻痒感や痛みが強い場合、ステロイド軟膏塗布を行う。 4) 喫煙 禁煙を指導する。