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はじめに 我が国の肝がん死亡者数は,2005 年頃を最多とし, その後はゆっくりと減少しつつあります しかし, いまだに年間死亡者数は 3 万人を超えており, 依然として対策が極めて重要な病気です 原因としては,C 型肝炎,B 型肝炎, 非アルコール性脂肪肝炎 (NASH: ナッシュ ) やアルコー

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肝臓病の理解のために

1 慢性肝炎,肝硬変

─肝がんにならないためになにをすべきか─

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は じ め に

 我が国の肝がん死亡者数は,2005 年頃を最多とし,その後はゆっくりと減少しつ つあります。しかし,いまだに年間死亡者数は 3 万人を超えており,依然として対策 が極めて重要な病気です。原因としては,C 型肝炎,B 型肝炎,非アルコール性脂肪 肝炎(NASH:ナッシュ)やアルコール性を含む非 B 非 C 型が主なものです。肝炎 対策基本法が施行され,肝炎患者を診療する体制は有機的に整備されてきました。全 国民が一度は肝炎ウイルス検査を受けること,陽性であった場合は医療機関を受診す ること,さらに専門医との連携で適切な治療に結びつけることが,わが国における肝 炎診療体制の骨格です。しかし,現状ではこの体制の運用は必ずしも順調でなく,啓 発活動を継続することが必要です。  肝炎ウイルスの治療は飛躍的に進歩しました。C 型肝炎に関しては,直接作動型抗 ウイルス薬の登場でウイルス排除が容易になりました。B 型肝炎では,ウイルス排除 はできないものの,核酸アナログ製剤によって肝発がんを減少させることが実現して います。また,増加傾向にある非 B 非 C 型肝がんの対策としては,脂肪肝(NAFLD) や NASH についての理解を広げる必要があります。肥満,糖尿病が肝臓に与える影 響を知ってもらわなくてはなりません。  日本肝臓学会は,これまでに主に医療者向けに,「肝がん白書」,「慢性肝炎・肝硬 変診療ガイド」,「NAFLD・NASH 診療ガイド」などを発刊してきており,また,一 般向けには,平成 19 年に「慢性肝炎理解のための手引き」と「肝がん撲滅のために」 を刊行致しました。しかし,冒頭に述べました通り,最近では肝がんの原因の多様化 が見られてもいます。そこで,これらの一般向けの教育的資材を改訂するに当り,慢 性肝炎,肝硬変のみでなく,脂肪肝炎やウイルス性以外の肝疾患も対象とすることに 致しました。  今回,企画広報委員会の持田智委員長にお願いし,肝がんの患者さん用を含めた5 種類のパンフレットを作成致しました。是非,これらのパンフレットを一読いただき, 肝がんを含む慢性肝臓病の最新の診断・治療・予防について,ご理解いただければ幸 いに存じます。 平成 27 年 9 月 一般社団法人日本肝臓学会 理事長  小池 和彦

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 肝臓は,腹部の右上,肋骨の下に収まっている臓器です。身体に必要な様々な物質 を作り,不要になったり,有害であったりする物質を解毒,排泄するなど,多彩な働 きをするいわゆる「化学工場」です。1kg 以上の大きな臓器ですので,病気でその 働きが損なわれても,症状が現れにくく「沈黙の臓器」などと呼ばれています。また, 一部を摘出しても,元の大きさに戻る「再生能力」が強いことも特徴です。  慢性肝炎は,肝臓に血液中の細胞である「リンパ球」が集まる「炎症」が起こり, これが原因で肝臓の主たる働きをしている「肝細胞」が長期間にわたって壊れ続ける 病気です。慢性肝炎には特有の症状はなく,多くの場合,血液検査の異常で発見され ます。しかし,慢性肝炎が持続すると,肝細胞が壊れた跡に線維が沈着し,肝臓が硬 くなります。これを「肝線維化」と呼び,これが進むと肝硬変になります。肝硬変が 進行すると,浮腫,腹水,黄疸などの症状がみられるようになります。食道胃静脈瘤 などの消化管の病変を併発すると,吐血などを生じる場合もあります。また,肝線維 化が進むにつれて,肝がんを発生しやすくなります。

肝臓はどのような臓器でしょうか?

慢性肝炎,肝硬変とは

どのような病気でしょうか?

図 1.肝臓病の進みかた イ

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慢性肝炎,肝硬変は

どのようにして起こるのですか?

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 慢性肝炎の大部分は,肝炎ウイルスの感染が原因です。肝炎ウイルスが肝細胞に感 染すると,これを体外に排除する「免疫」という反応によって「炎症」が起こり,肝 臓に集まったリンパ球がウイルスに感染している肝細胞を攻撃します。わが国の慢性 肝炎では,約 70% が C 型肝炎ウイルス,15 〜 20% が B 型肝炎ウイルスの感染 が原因です。また,ウイルス感染はないにも拘らず,誤って自分の肝細胞を攻撃して しまう自己免疫性肝炎が,慢性肝炎の原因になる場合もあります。  肝臓に炎症と線維化が起こるのは,ウイルス感染や自己免疫性肝炎による慢性肝炎 のみではありません。アルコールの飲みすぎや肥満,糖尿病などによって,肝細胞に 脂肪が溜まる場合も,肝臓に炎症が起こります。これを脂肪性肝炎と呼び,慢性肝炎 と同じように肝線維化が進むと肝硬変になり,肝がんを併発する場合もあります。 図 2.慢性肝炎の成因 B型 20% C型 70% 10% その他(自己免疫性など)

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 慢性肝炎は血液検査で診断します。AST(GOT)と ALT(GPT)は肝細胞に含 まれている酵素で,肝細胞が壊れると血液中に出てきます。このため血液中の AST, ALT の値が 6 ヶ月以上に亘って上昇している場合は慢性肝炎と診断します。また, 血液中の AST,ALT の値はアルコールや肥満による脂肪性肝炎でも上昇し,肝臓病 を見つけるためには血液検査が最も重要です。  慢性肝炎,脂肪性肝炎が進行して肝硬変になったかどうかは,肝臓の機能を反映す る血中の物質を測定して調べます。肝細胞が合成しているアルブミン,解毒,排泄し ているビリルビンなどが,肝臓の機能を反映します。血小板の数を測定することで, 肝硬変への進展の程度を診断することも可能です。また,超音波検査で肝炎の程度, 肝臓の硬さを調べることも,肝硬変への進展を評価するためには重要です。最近では フィブロスキャンという肝臓の硬さを測定する検査を行う場合もあります。しかし, 正確な病気の進展度を診断する必要がある場合には,肝臓に針を刺して,その一部を 採取し,顕微鏡で観察する肝生検を行います。

慢性肝炎,肝硬変は

どのように診断するのですか?

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血液検査 ・AST(GOT),ALT(GPT) ・血小板数 ・アルブミン(Alb) ・ビリルビン(Bil) 肝臓の炎症の程度がわかります。正常値は 30 単位以下と考えられ ています。 正常値は 20 万以上ですが,肝臓の線維化が進むにつれて減少しま す。10 万以下の場合は肝硬変の可能性が高いと言えます。 肝臓でつくられるタンパクで肝臓の働きが低下すると減少し,足の むくみや腹水が出現します。 肝臓で処理する物質です。肝臓の機能が低下すると滅中で増加し, 皮膚が黄色くなる「黄疸」という症状が出現します。 慢性肝炎,肝硬変の診断に有用な検査 超音波で肝臓の中を観察する検査です。肝硬変への進展の程度を診 断できます。脂肪の沈着の程度や肝がんのスクリーニング検査にも 有用です。 腹部超音波検査(エコー) フィブロスキャン 体外から肝臓に振動波をあてて,その伝わりかたから肝臓の硬さを 数値で表す検査です。 肝生検 肝臓の一部を針で刺して,組織を採取し,顕微鏡で観察します。慢 性肝炎における炎症の強さや線維化の程度を判定するのに有用で す。

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 肝臓障害の原因を調べるには,肝炎ウイルスの検査が最も重要です。先ず,血液中 の B 型肝炎ウイルスの抗原(HBs 抗原)と C 型肝炎ウイルスの抗体(HCV 抗体) を測定します。HBs 抗原が陽性であれば B 型肝炎,HCV 抗体が陽性であれば C 型 肝炎の可能性がきわめて高いといえます。  自己免疫性肝炎の診断には,リンパ球が作る γ グロブリンやその 1 種である lgG,抗核抗体などの自己抗体を測定します。一方,アルコールや肥満による脂肪性 肝炎の診断には,超音波検査によって肝臓に溜まった脂肪の程度を調べることが必須 です。  B 型,C 型肝炎ウイルスによる慢性肝炎,肝硬変の治療では,肝炎ウイルスに対す る薬物療法が最も重要です。抗ウイルス薬によって肝炎ウイルスを排除したり,増え るのを抑えたりすると,肝臓の炎症は収まります。その結果,肝線維化の進行が止ま り,肝がんが発生するリスクも低下します。また,肝臓に溜まった線維が溶けて,時 間はかかりますが,硬くなった肝臓が元に戻ることもあります。  抗ウイルス薬が効かない場合や使えない場合には,病気の進行を抑えるために,肝 細胞が壊れるのを抑える薬を,内服ないし注射で投与する肝庇護療法を行います。体 内の鉄の量を減らす瀉血療法も,肝細胞が壊れるのを抑えるのに有用です。これらの 治療によって,血中の AST,ALT の値が低下すると,肝硬変へ進むスピードはゆっ くりとなります。また,肝がんの発生も先延ばしすることもできます。  自己免疫性肝炎では,免疫の力を抑えるために副腎皮質ステロイドを投与します。 また,脂肪性肝炎では禁酒や食事療法と運動療法による体重制限が最も重要な治療法 です。これらの治療で改善しない場合は,薬物療法を行う場合もあります。

慢性肝炎,肝硬変の原因は

どのように調べるのですか?

慢性肝炎,肝硬変は

どのように治療するのですか?

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肝硬変になった場合,慢性肝炎と比べて

症状,治療に違いはありますか?

肝がんとはどのような病気なのでしょうか?

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 初期の肝硬変は慢性肝炎と同様にほとんど症状がみられません。この時期を「代償 性肝硬変」と呼びます。しかし,肝線維化が進行して,肝臓の働きが低下した「非代 償性肝硬変」になると,疲れやすくなったり,倦怠感を感じたり,足がむくむ,腹水 によってお腹が張る,こむら返りが起こるなどの症状がでてきます。また,進行した 肝硬変では便秘や脱水などをきっかけにして,意識障害(肝性脳症)がみられること があります。  非代償性肝硬変では,浮腫や腹水に対しては利尿薬,肝性脳症の予防と治療には便 通の改善薬や腸内の細菌の調節薬を投与したり,アミノ酸製剤による栄養療法を行っ たりします。また,栄養状態を改善するために,寝る前に少量の食事を摂取したり, アミノ酸製剤を内服したりする栄養療法を実施する場合もあります。  なお,非代償性肝硬変でも,B 型肝炎ウイルス感染や自己免疫性肝炎が原因の場合 には,慢性肝炎の場合と同様に,抗ウイルス療法,副腎皮質ステロイドによる免疫抑 制療法を行います。しかし,C型肝炎ウイルス感染の場合には,抗ウイルス療法が困 難で,肝庇護療法を行うのが一般的です。また,脂肪性肝炎の場合は,肝硬変の場合 でも禁酒,体重制限などの治療が重要であるのは言うまでもありません。  がんとは私たちの身体の中で,正常なコントロールを受けなくなった「がん細胞」 が自由に増殖を続ける状態です。がん細胞がどんどん増えると,臓器は正常な働きが できなくなります。また,他の臓器にがん細胞が散らばる「転移」が起こると,その 臓器も障害されます。肝がんとは,肝臓の中にできたがんのことです。統計では肺,胃, 大腸,膵臓に続いて 5 番目に多いがんで,年間約 3 万人が肝がんで亡くなっています。  肝がんは慢性肝炎,肝硬変の患者さんに発生するのが大部分です。このため,慢性 肝炎,肝硬変の患者さんでは,超音波などの画像検査と腫瘍マーカーを測定する血液 検査を定期的に行って,肝がんを早期に発見することが重要です。

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 ウイルス性慢性肝炎の患者さんがお酒を飲むと,肝がんができる確率が高くなると いう報告があります。飲酒を避けることは,病気を悪化させないために重要です。喫 煙の肝がん発症への影響は完全には否定できません。喫煙は避けることが望ましいと 思われます。  食事について特別に注意する必要はありませんが,栄養のバランスを考えて規則正 しくとることが大切です。また,肝臓に鉄が多くたまっている人は鉄分の多い食事は ひかえる必要があります。むくみや腹水がある方は,塩分摂取も制限した方が良いで しょう。軽い運動や散歩は構いません。そのために病気が悪化することはありません。

日常生活で注意することはありますか?

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図 3.肝臓病での日常生活の注意

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 日本肝臓学会は肝がんによる死亡者を減らし,国民の健康保持に役立てるべく,一 般の方々にウイルス性肝炎や肝がんの基本的知識を普及させる啓発活動を行ってきま した。平成 19 年には,本書の基となる「慢性肝炎理解のための手引き」と「肝がん 撲滅のために」を刊行しました。わが国の肝がんの多くは C 型,B 型肝炎ウイルス の持続感染による慢性肝炎や肝硬変から発生します。また,肥満,糖尿病など生活習 慣病を有する方からの肝がんの発症も増加しています。自己免疫性肝炎などの稀な病 気の患者さんも高齢になると肝がんを発症するリスクが無視できなくなってきまし た。一方,ウイルス性肝炎の抗ウイルス療法の進歩は目覚ましく,これまで治療効果 が得られなかった患者さんでも治癒できるようになっております。  そこで,今回はウイルス性の慢性肝炎,肝硬変のみならず,脂肪性肝炎,自己免疫 性肝炎なども対象としたパンフレットを作成することにしました。診断法,治療法は 成因によって多彩であるため,全ての患者さんに共通した項目を記した総論のパンフ レットと,成因別に重要な事項を記載した各論のパンフレットを作成しました。また, 肝がんの患者さん用のパンフレットも作成しました。患者さんの病気の状態に応じて, 総論と各論のパンフレットをお渡しいたします。これらをご覧いただき,適切な治療 をお受けいただき,それによって肝がん発生の予防にお役に立てれば幸いです。 平成 27 年 9 月 一般社団法人日本肝臓学会 企画広報委員会 委員長 持田 智

あ と が き

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2015 年 10 月 14 日発行 企画・編集:一般社団法人日本肝臓学会 企画広報委員会 〒 113-0033 東京都文京区本郷 3-28-10 柏屋 2 ビル 5 階 TEL 03-3812-1567 FAX 03-3812-6620 編 集 責 任:企画広報委員会委員長 持田 智 (埼玉医科大学) 〔イラストの制作には今出恵子様にお世話になりました。〕

参照

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