債務引受の現代的展開
石田聡太郎 大和田華子
小阪 和輝 引間 千晶
(片山研究会 3 年) Ⅰ はじめに Ⅱ 債務引受の意義 1 債務引受とは 2 債務引受の現状と改正法案 Ⅲ 一括決済システムと債務引受 1 一括決済システムとは 2 一括決済システム各論 Ⅳ 併存的債務引受形式における法的課題 1 支払企業の倒産リスク 2 ファイナンス会社の倒産リスク 3 債権譲渡と債務引受が競合した場合の法律関係 Ⅴ 立法の提言 1 併存的債務引受について 2 対抗要件について 3 保証契約に関する規定の準用について Ⅵ おわりにⅠ はじめに
本稿は昨今取引社会において手形に代わる決済システムとしてますます注目さ れている一括決済システムの特に併存的債務引受方式について基本的な解説をし たのち、その法的課題を検討しその解決に資する建設的な提言をすることを目的としている。債務引受は現行民法に規定されておらず、学説・判例においても必 ずしも十分な議論の積み重ねが行われてこなかった分野である。特に本稿で重点 的に扱う「債権譲渡と債務引受の競合」がおこる場面では複雑な法律関係が発生 し、十分に法学的な検討をする必要がある。本稿の検討は迅速で安全な取引社会 の実現に有意義なものになると考えている。 以下第Ⅱ章では債務引受について基本的な事項を確認し、第Ⅲ章で 4 種類の一 括決済システムの解説を行い、第Ⅳ章で併存的債務引受方式の法的課題について 検討し、第Ⅴ章では建設的な立法の提言ができればと考えている。
Ⅱ 債務引受の意義
1 債務引受とは 本稿で研究課題とする債務引受とは、債権者に対する原債務者の債務について、 債務の同一性を保ちつつ、契約によって引受人に移転させることである1)。債権 とは異なり、わが国での実務取引においては消極財産である債務が独立して処分 されることは多くない。債務引受は、債権譲渡や相殺、第三者弁済等の代替手段 として多数者間の債権・債務の決済をするために利用されている。実際の取引社 会では、無数の者の間に無数の債権・債務の網がはりめぐらされており、その無 数の債務を現金で決済するのは手数と費用の無駄である。これを一気に決済する ために債務引受が利用されるのである。具体的には、企業財産と一体的に債務を 処分する事業譲渡の場合や、債務者と引受人との間の債務関係の決済を行う場合 等に利用されている。 現民法には債務引受に関する規定は置かれていない。しかし判例や学説は、原 債務者が債務者としてとどまる「併存的債務引受(重畳的債務引受)」と、原債務 者が債務を免れる「免責的債務引受」の 2 種類の債務引受を認めている。併存的 債務引受は引受人が連帯債務者として債権債務関係に加わる方式であり2)、債権 者と引受人の間だけでなく債務者と引受人との間で契約を締結することもできる。 この場合債権者は債権回収をしやすくなるという利益を得るのであり、この契約 の性質は第三者のためにする契約にあたると判例3)、通説は解している。他方免 責的債務引受は契約の更改により債務者を引受人に変更するものである。2 債務引受の現状と改正法案 なぜ従来債務引受に関する明文の規定が設けられなかったのであろうか。主な 理由は 2 点挙げられる。 1 点目は従来の法文化である。ローマ法下では、債権は 債権者と債務者の「法鎖」(juris vinculum)と考えられており、債権を譲渡したり 処分したりすることはできないのが原則であった。そこでは、債権は高度に属人 的なものであり、債権者・債務者間の具体的な法律関係から簡単には解き放てな いとされていた4)。このような時代には、債務引受はおろか債権譲渡も認められ ておらず、債務者が交替するには契約の更改を待たなければならなかった。フラ ンス民法やその流れをくむ起草時の日本民法典に債務引受についての規定が置か れなかったのは当然といえる。しかし、その後「法鎖」の見解が克服されるよう になり、主体を離れて債権の同一性を識別する方法が認められるようになった。 そこで債権譲渡だけでなく債務引受も認められるようになり、ドイツ民法など債 務引受に関する規定が置かれる民法典も散見されるようになった。 2点目は債務引受の制約である。債権譲渡は原則として自由に譲渡が可能であ るのに対し、債務引受には制約がある。この制約は、日本における債務引受の議 論が、債務の移転という理解のもとに免責的債務引受を原型としてなされてきた ことに由来する5)。具体的には、給付の代替性や当事者間の人的信頼関係の保護、 そして債務者の資力の面からの制約等が挙げられる。つまりは金銭債務に焦点を 当てると、債務の移転性は満たされているものの、実際に支払えるかどうかは債 務者の資力により異なってくる。債権者の立場からすると、資力のある債務者か ら資力のない債務者へと交替されると貸付金銭を回収しにくくなるという不都合 が生じる。それに加え、債務者が自由に交代できるとするとそもそも金銭債権を 発生させることにつき慎重にならざるをえず、社会経済全体を委縮させるという 結果に繫がりかねない6)。このような事情から従来債務引受が民法典の中に規定 されなかったのではないかと考えられる。 しかしながら、債権法改正案について債務引受に関する明文の規定が提言され ている。これまでの議論を明文化すべく規定を新設することは、一定の意義を有 するものと評価することができる。前述のように従来、債務引受の原則形態は免 責的債務引受と考えられていたが、改正提案は、債務引受の合意で引受人が債務 者と同一内容の債務を債権者に負うものとし、【3.1.4.10】本改正提案が定める債 務免除の要件(免除の合意)を満たすことで、免責的債務引受となる考え方を採
用している。併存的債務引受を前提としつつ、免除の合意で免責的債務引受とな るという新しい構成がとられている点が注目される7)。
Ⅲ 一括決済システムと債務引受
1 一括決済システムとは 近年、大企業を中心に手形を廃止しそれに代わる決済システムとしていわゆる 一括決済システムを採用する企業が増加してきている。周知のようにもともとわ が国では各種取引債権の決済を円滑に行うための手形の制度が諸外国に類を見な いほどに発達していたが、大企業では納入企業に対して毎月数千枚に及ぶ手形を 発行するケースもあり、近年ではこの手形発行・受け渡しに係る事務が大きな負 担となっていた8)。このため下請代金遅延防止法などに抵触しない形で、手形レ スで決済を行うことができる一括決済システムが大企業を中心に注目を集めてい るのである。 一括決済システムには 4 種の方式がある。具体的には、債権譲渡担保方式(一 括支払いシステム)、ファクタリング(真正債権譲渡)方式、信託方式、併存的債 務引受方式である。一括決済システムでは第三者の目に見える形で権利を表象し た手形という固定物が用いられないため、上記の決済方式のうち債権債務関係が 明確に把握でき、最終的に確実に債権債務関係を消滅させることができる方式が 当事者にとって優れた方式であることになる。以下ではそれぞれの方式について その特徴を示しつつ、当事者企業倒産リスク及び二重支払リスクについて検討し ていく。また以下の考察には、売掛債権の債権者である納入企業、債務者である 支払企業、金融機関の 3 つの主体が登場する。 2 一括決済システム各論 ( 1 ) 債権譲渡担保方式 債権譲渡担保方式は、まず納入企業が支払企業に対する代金債権を金融機関に 譲渡担保に供し、金融機関は納入企業に当座貸越貸付の形でその代金を支払う。 そして、支払企業が納入企業の代金債権に相当する額を金融機関に振り込み、金 融機関はそれをもって納入企業への当座貸越貸付金の清算を行うというものであ る(図 1 )。これは 4 種の一括決済システムの中で時系列的に最初に考案され、 昭和61年に公正取引委員会によって認められたものである。納入企業は単に支払企業宛売掛債権を提携金融機関に譲渡担保として差入れているだけであり、支払 企業が倒産するなどして債権の価値がなくなったときは、納入企業は自らの資金 で借入金を返済する必要があり、支払企業の倒産リスクは納入企業が負担するこ とになる。また、本来譲渡担保に提供することになっているにもかかわらず、納 入企業が債権譲渡登記を利用して売掛債権を第三者に譲渡してしまう可能性もあ る。加えて、国税徴収法24条では、譲渡担保設定者(納入企業)が本来納めるべ き国税を法定納期限までに納めていなかった場合には、当該法定納期限よりも遅 れてなされた譲渡担保では、譲渡担保者(提携金融機関)が第二納税義務を負う (国税が譲渡担保に優先)ことになっている。したがって提携金融機関は間接的に 納税義務を負い、支払企業に求償をしても無資力のために取りはぐれてしまう危 険性が出てくる9)。 債権譲渡担保方式は上記のように問題も多く、既に大手金融機関の多くは新規 取り扱いを見合わせ最近では他の 3 種類が多く利用されている10)。 ( 2 ) ファクタリング(真正債権譲渡) 方式 ファクタリングとは他人が有する売掛債権を買い取ってその債権の回収を行う 金融サービスのことである。一括決済システムにおけるファクタリング方式は納 入企業が支払企業に対して有する売掛債権をファクタリング会社に債権譲渡する 方式で、債権譲渡の結果、納入企業は売掛債権をファクタリング会社に譲渡する 対価(譲渡代金債権)としての支払いを受ける(図 2 )。実務上支払企業は複数の 取引相手が自己に対して有している売掛債権をファクタリング会社に譲渡してい るため、それらの支払いを期日に一括して行っている。なお、一括決済システム 図 1 債権譲渡担保方式 金融機関 ③振込み ②当座貸越貸付 ①譲渡担保 納入企業 支払企業
においてファクタリング方式を用いる場合、公正取引委員会事務局長通達および 取引部長通知により金融機関が納入企業に代金を支払った後は代金の返還を求め ないようにすることが遵守事項とされている。 ファクタリング方式では、一連の流れの中でファクタリング会社は納入企業か ら支払企業宛売掛債権を買い取っており、また公正取引委員会の通達により、 ファクタリング会社は償還請求権の放棄を要請されているため、債権譲渡契約が 有効である限りは、支払企業の倒産リスクはファクタリング会社が形式上負担し ている。しかし実際にはファクタリング会社との基本契約の中で支払企業の倒産 リスクは誰が負担するかにつきあらかじめ修正が加えられていることが多い。ま た、売掛債権の譲受人であるファクタリング会社が倒産した場合、納入企業は譲 渡代金債権の未受領分について受け取れないというリスクがある。加えて、本来 ファクタリング会社に対して譲渡することになっていたにもかかわらず、債務者 である支払企業の知らないところで納入企業が債権譲渡登記を利用して売掛債権 を第三者に対して譲渡してしまう可能性もある11)。 ( 3 ) 信託方式 信託方式はいわば上記②ファクタリング方式が一段階複雑になるもので、納入 企業が譲渡人として支払企業に対する売掛債権を信託銀行に譲渡することにより、 納入企業が信託受益権を取得するものである(図 3 )。信託の結果、納入企業は 売掛債権が信託財産となっている信託受益権の償還を受けることになる。また ファクタリング方式と同様に、支払企業は複数の債務の弁済を信託銀行に対して 一括して行うことができる。 図 2 ファクタリング方式 納入企業 ファクタリング会社等 ①債権譲渡 ②取立て 支払企業
一括信託は基本的な考え方はファクタリング方式と同様であり、公正取引委員 会による通達等についても、ファクタリング方式の規定に準ずることになる。た だし、一括信託では信託された信託財産は信託法の規定により信託銀行自身の固 有財産とは分別して管理され、信託銀行自身の債権者が信託財産に対して強制執 行等を行うことは禁止されており、信託財産の独立性が確保されていることから 信託銀行の倒産により信託受益権の償還が受けられないリスクは原則ないと言え る。その他の点についてはファクタリング方式と同様である12)。 ( 4 ) 併存的債務引受方式 本稿の主題である債務引受を用いるこの併存的債務引受方式は②ファクタリン グ方式と③信託方式とは逆の発想で、支払企業が納入企業に対して負担する債務 にファイナンス会社等の金融機関が債務者として新たに加わり、支払企業に代 わってファイナンス会社が各納入企業に弁済する。そしてファイナンス会社が求 償として支払企業に金銭を請求する、という方式である(図 4 )。 ファイナンス会社による併存的債務引受の結果、納入企業は売掛債権について、 債務引受人であるファイナンス会社から支払いを受けることになる。ただし、債 務引受を行っただけで、もともと支払企業が納入企業に対して負担している買掛 債務は引き続き併存している。そして、ファイナンス会社は支払企業が負担する のと全く同じ債務を連帯債務として負担することになり、支払企業とファイナン ス会社のどちらか一方が納入企業に弁済を行えば、もう片方の債務は自動的に消 滅することになる。基本的にはいずれの債務の支払期日も同様であるが、基本契 図 3 信託方式 ③②の代金を支払う ①’信託受益権 ②売買 納入企業 信託銀行 投資家 ①信託譲渡 ②’信託受益権移転 ⑤④の代金を支払う 支払企業 ④振込み
約により、納入企業より期日前資金化の依頼があった場合には、債務引受人であ るファイナンス会社が支払企業に代わって納入企業に対して支払を行うことも可 能となっている。 支払企業から見ると、ファイナンス会社が納入企業に対して立替払いを行った ことによる求償債務が支払期日に受けて積みあがっていくとともに、納入企業に 対する買掛債務は徐々に減少していくことになる。支払企業は直接納入企業に買 掛債務を負担しているため、支払期日において納入企業に直接支払うことも可能 であるが、三者間の基本契約により、原則支払期日の支払い分についてもファイ ナンス会社経由で納入企業に支払うこととしている。なお、一括決済システムに おいて併存的債務引受を使用する場合は、ファクタリング方式と同様、公正取引 委員会事務局長通達および取引部長通知により、金融機関が納入企業に代金を支 払った後は、代金の返還を求めないようにすることが遵守事項として明確にされ ている13)。次章では債務引受方式において発生する法的な課題を検討していく。
Ⅳ 併存的債務引受方式における法的課題
併存的債務引受方式において発生する法的な課題は主に 3 つある。支払企業が 倒産した場合誰が損害を被るべきであるのか、ファイナンス会社が倒産した場合 の損害は誰が被るべきであるのか、債務引受と債権譲渡が競合した場合の債権債 務関係はどうなるのか、の 3 点である。 図 4 併存的債務引受方式 納入企業 ②弁済 ①債務引受(併存) 金融機関 支払企業 ③一括支払い1 支払企業の倒産リスク 併存的債務引受方式の場合、債務引受人となるファイナンス会社は、支払企業 が納入企業に対して負担する代金債務を併存的に引き受けているため、債務引受 契約が有効である限り納入企業はファイナンス会社にいつでも期日前資金化を依 頼することができる。そうだとすると原則として支払企業の倒産リスクはファイ ナンス会社が形式上負担しているといえる14)。 もっともこのように考えると、支払企業が倒産した場合には常にファイナンス 会社がそのリスクを負担しなければならなくなる。そこで近年の事例では、ファ イナンス会社の基本契約において、支払企業に倒産等の一定事由が発生した場合 には、期日前資金化等により支払企業が負担する代金債務の支払を行っていな かった場合に限り、ファイナンス会社は納入企業に対して過去に成立したものを 含む債務引受契約の解除権を有するとしていることが多い。そしてこのような合 意が債務引受契約の当事者間でなされていた場合には、納入企業は期日前資金化 を利用するなどして代金債務に対応する債権の支払を受け取るまでは、支払企業 の倒産リスクを事実上負担しているものといえる15)。 2 ファイナンス会社の倒産リスク ファイナンス会社が倒産した場合であっても、併存的債務引受においては一方 の連帯債務者に対する債権が履行不能になったにすぎず、納入企業の支払企業に 対する買掛代金債権は依然として存続する。この場合債務引受前の法律関係に 戻っただけであるので当事者に不測の損害が生じることはない16)。 3 債権譲渡と債務引受が競合した場合の法律関係 ( 1 ) 考察の意義 上記 3 点の法的論点の中で特に注目すべきはこの債権譲渡と債務引受の競合と いう論点である。具体的には支払企業と引受機関との間で併存的債務引受方式に よる決算の採用が合意されている債権について、納入企業が他者へ当該債権を譲 渡した場合債務引受人は誰に対して弁済をなすべきか、また仮に誤った相手方に 弁済をした場合どうなるかという問題である。この問題は債務引受を決済方法と して利用するうえで解決しなければならない問題であるとともに、債務引受の対 第三者対抗要件の要否などわが国の民法に規定のない債務引受についての立法論
につながるきわめて重要な論点である17)。本稿では債権譲渡と債務引受が競合す る場合をそれぞれが行われる時点に着目し分別したうえで、各ケースで債務引受 人は誰に弁済をすべきかを検討していく。 ( 2 ) 債権譲渡特例法について 場合分けに入る前に、法人間における債権譲渡の対抗要件につき確認しておき たい。リース会社やクレジット会社が手中の債権を売り渡し資金を調達しようと する場合、非常に多数の債権を一度に譲渡することとなるため、個々の債務者ご とに民法上の対抗要件を具備することは実質上困難になる。そこで大量の債権に ついて包括的に対抗要件を備えることを可能にする新たな立法が求められるよう になった。そこで現在「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に 関する法律(動産・債権譲渡特例法)」が債権譲渡における対抗要件に関する特別 法として機能している。特例法はあくまで資金調達の目的で債権譲渡を利用する という需要に応じるためのものであるため、その適用の対象は法人に限定されて いる。 特例法はまず対第三者対抗要件と対債務者対抗要件を分離した。①債務者を情 報センターにするという方法以外での新たな公示方法を採用しつつ、②債務者の 二重弁済を防止するという 2 つの趣旨を実現するためである。そして対第三者対 抗要件については登記を採用し、債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたと きに民法上要求される確定日付のある通知があったものとみなす、とした(特例 法 4 条 1 項)。他方、対債務者対抗要件については譲渡人もしくは譲受人から債務 者に登記事項証明書を交付するか債務者が承諾したときに対債務者対抗要件を備 えるとしている(特例法 4 条 2 項)18)。つまり債権譲渡登記だけでは対債務者対抗 要件とはならず、債務者に対して権利行使するにはさらに通知という手続きを加 えなければならないのである19)。したがって本稿における場合分けをするにあた り、譲渡、登記、通知という 3 つの行為が行われた時点を基準とした。 ( 3 ) 場合分け そこで、上記 3 つの基準にもとづき 4 つの場面に区切ることとする。即ち、 ( 1 )債権譲渡の前、( 2 )債権譲渡後、登記がなされるまでの間、( 3 )債権譲 渡後、登記がなされてから通知がなされるまでの間、( 4 )債権譲渡後、通知が なされた後の 4 場面である(図 5 )。
この 4 つの場面に債務引受契約、弁済という 2 つの行為を当てはめることによ りすべての場合を網羅できる。まず債務引受が( 1 )の場面に行われた場合、債 務引受人が弁済をなし得る場面は( 1 )から( 4 )までの 4 通りが考えられる。 また( 2 )に債務引受が行われた場合、債務引受がなされた後でなければ引受人 は弁済できないのであるから、弁済を行い得るのは( 2 )から( 4 )の 3 通りの 場面である。同様に、債務引受が( 3 )でなされた場合弁済をなし得るのは( 3 ) 又は( 4 )の 2 通り、債務引受が( 4 )の場面になされた場合には弁済をなし得 るのは( 4 )の 1 通りのみとなる。したがって債権譲渡と債務引受が競合する ケースは合わせて10通りあることとなる20)。そこで以下では例えば債務引受が ( 1 )の場面で行われ、弁済が( 2 )の場面でなされた場合を<ケース 1 - 2 >と 記載することとし、<ケース 1 - 1 >から<ケース 4 - 4 >までを順に債務引受人 は誰に弁済すべきかを検討していく。 ( 4 ) 各ケースの検討 <ケース 1 - 1 >から<ケース 1 - 4 >までは、債務引受がなされたのちに債権 譲渡が行われている。この場合において、原債権者と債権譲受人との間の原債権 譲渡契約により原債権が譲受人と原債務者との間に帰属することは当然のことで あるが、原債権者と債務引受人との間の債権(以下「新債権」)は誰に帰属するか が問題となる。この点、原債権の債権譲渡と同時に新債権を譲渡する契約を結べ ば譲受人が原債務者と引受人の連帯債務にかかる債権を取得することとなるが、 原債権のみが譲渡される場合はどのように帰属するのであろうか。債務引受契約 により発生した債務は連帯債務であることに着目すると、各債務者は独立して全 額の給付義務を負っているのであるから原則として原債権のみが譲渡され、新債 権は原債権者と債務引受人に帰属することとなる21)。しかし原債権者は債権譲渡 の対価として何らかの利益をすでに享受しているものと考えることができ、引受 人から有効に弁済を受けることができる立場に居続けることは結論として妥当性 図 5 場合分け 譲渡 登記 通知 (1) (2) (3) (4) 時間
を欠くように思われる。そこで債務引受により発生した連帯債務は、本来負担割 合のない引受人が債務を負い履行の確保をしやすくしている点において連帯保証 債務に類似する関係となっていると言うことができる。これに着目し、保証債務 に関する法理を類推することによって原債権が譲渡された場合に新債権に随伴性 を認めるべきであると考える。したがって原債権の譲渡契約により新債権は譲受 人と債務引受人の間に帰属する。 <ケース 1 - 1 >(図 6 ) ① ABC 間で、C を債務引受人とする併存的債務引受契約を締結する。 ② C は、A に対して、期日前弁済を行う。 ③ ①②にもかかわらず、A は原債権を D に譲渡する。 ④ D は、債権譲渡特例法に基づく債権譲渡登記を行う。 ⑤ D は、B に対して登記事項証明書を交付して債権譲渡の通知を行う。 BCの間での債務引受契約により、BC は A に対し連帯債務を負うこととなる。 したがって C が A に弁済をなせば AB 間および AC 間の債権は適法に消滅する。 もっとも債権が消滅したのち架空の債権譲渡がなされ、B が民法468条にいう 意義をとどめない承諾をした場合 DB 間の債権が再び発生することはあり得る。 この場合、B の異議なき承諾により DB 間の債権とともに DC 間の債権が復活す るかどうかが問題となるが、連帯債務における各債務はあくまで別個独立の債務 であり、また異議なき承諾は連帯債務における絶対的効力事由とされていないこ とから復活しないと考える。以下正しい弁済の相手方は A であるという結論に 至る事例すべてにおいて同様の問題が発生するが、繰り返しの記述となるため割 愛する。 <ケース 1 - 2 >(図 7 ) ① ABC 間で、C を債務引受人とする併存的債務引受契約を締結する。 ② ①にもかかわらず、A は原債権を D に譲渡する。 ③ C は、A に対して、期日前弁済を行う。 ④ D は、債権譲渡特例法に基づく債権譲渡登記を行う。 ⑤ D は、B に対して登記事項証明書を交付して債権譲渡の通知を行う。
債権譲渡がなされたのちに弁済がなされているが、D は弁済の時点で対第三者 および対債務者対抗要件を備えておらず、この時点では債権譲渡は AD 間でのみ 効力を生じているにすぎない。したがって ABC の関係では債権譲渡はいまだな されていないこととなり、C が A に弁済をなせば AB 間および AC 間の債権は適 法に消滅する。 <ケース 1 - 3 >(図 8 ) ① ABC 間で、C を債務引受人とする併存的債務引受契約を締結する。 ② ①にもかかわらず、A は原債権を D に譲渡する。 ③ D は、債権譲渡特例法に基づく債権譲渡登記を行う。 ④ C は、A に対して、期日前弁済を行う。 図 6 ケース 1 - 1 原債権者(A) 原債務者(B) 引受人(C) 債権譲受人(D) ①債務引受 ②弁済 ③債権譲渡 ④登記 ⑤通知 図 7 ケース 1 - 2 原債権者(A) 原債務者(B) 引受人(C) 債権譲受人(D) ①債務引受 ③弁済 ②債権譲渡 ④登記 ⑤通知 (出典)金融法委員会「債権法改正に関する論点整理(上)―債務引受と両立しない第三者 との関係、将来債務引受等について(一括支払システム、集中決済システム、パラレル・デッ ト等を念頭に置きながら)」NBL964号(2011年)41頁。
⑤ D は、B に対して登記事項証明書を交付して債権譲渡の通知を行う。 Dが対第三者対抗要件を備えたのちに弁済が行われているが、債務引受契約の 時点で C は連帯債務者になっているから、C に AD 間の債権譲渡を認めさせるた めには対債務者対抗要件を備えている必要がある。したがって ABC の関係では 債権譲渡はいまだなされていないこととなり、C が A に弁済をなせば AB 間およ び AC 間の債権は適法に消滅する。 <ケース 1 - 4 >(図 9 ) ① ABC 間で、C を債務引受人とする併存的債務引受契約を締結する。 ② ①にもかかわらず、A は原債権を D に譲渡する。 ③ D は、債権譲渡特例法に基づく債権譲渡登記を行う。 ④ D は、B に対して登記事項証明書を交付して債権譲渡の通知を行う。 ⑤ C は、D に対して、期日前弁済を行う。 Dは対債務者対抗要件を備えている。この場合まず債務者双方に通知をする必 要があるかどうかが問題となる。この点、債権譲渡の通知は連帯債務における絶 対的効力事由に含まれておらず、相対的効力のみを持つと考えられる。したがっ て連帯債務にかかる債権が譲渡された場合、原則として債務者全員に譲渡通知を する必要がある。しかしながら、債権譲渡の際 A が譲り渡す債権が連帯債務に かかるものであることを D に伝える必要はなく、D は C も債務者であることに 関し善意である可能性がある。それにもかかわらず C に対しても通知をしなけ 図 8 ケース 1 - 3 原債権者(A) 原債務者(B) 引受人(C) 債権譲受人(D) ①債務引受 ④弁済 ②債権譲渡 ③登記 ⑤通知
れば C が A に弁済をすることにより債権が適法に消滅してしまうというのはい ささか D に酷であるように思われる。そこで債務引受により生じた債務は連帯 保証債務に類似する関係になっていることに着目し、保証債務における主債務者 に類似する立場にある B に生じた事由は原則として絶対的効力を持つと考える こととし、D は B に通知をなせば C に対しても対抗要件を具備すると解すべき である。このような考え方に対し C が不当に二重弁済のリスクを負うのではな いかという批判が可能であるが、C が A に弁済をする際には民法443条に規定さ れた事前通知を B に対しなすはずである。その際適法に債務が消滅することに より利益を得る立場にある B は C に対し D が真の権利者であることを知らせる はずであり、C に二重弁済のリスクを不当に負わせることにはならないと考えら れる。したがって C は D に対し弁済を行わなければならない。 <ケース 2 - 2 >以降は債権譲渡後に債務引受が行われている。この場合まず 債務引受契約を有効に締結できるかどうかが問題となる。というのも併存的債務 引受契約は契約当事者でない債権者に利益をもたらす契約であるから、形式とし ては第三者のためにする契約であり、民法537条 2 項所定の受益の意思表示がな い限り有効に成立しないからである。この点につき債権譲渡の登記や通知がなさ れる時点との関係で誰に受益の意思表示をする権限があるのか、原債権者が受益 の意思表示をする権限を有する場合であっても、債権譲渡をしたのちに受益の意 思表示をなすことが信義に反しないか、という問題が発生するのである。以下事 例ごとに検討していく。 図 9 ケース 1 - 4 原債権者(A) 原債務者(B) 引受人(C) 債権譲受人(D) ①債務引受 ⑤弁済 ②債権譲渡 ③登記 ④通知
<ケース 2 - 2 >(図10) ① A は原債権を D に譲渡する。 ② ①にもかかわらず、ABC 間で、C を債務引受人とする併存的債務引受契約 を締結する。 ③ C は、A に対して、期日前弁済を行う。 ④ D は、債権譲渡特例法に基づく債権譲渡登記を行う。 ⑤ D は、B に対して登記事項証明書を交付して債権譲渡の通知を行う。 Dが対第三者・対債務者対抗要件を具備する前に債務引受契約を締結しようと しているため、債権譲渡はその時点では AD 間で効力を持っているにすぎない。 したがって ABC の関係では債権譲渡はいまだ行われていないこととなり、受益 の意思表示をする権限はその時点で A にあると考えられる。したがって A が受 益の意思表示をすれば有効に債務引受契約が成立するようにも思われる。しかし ながら A 自身が債権譲渡をし、実質的な債権者でないことを自ら認識したうえ で受益の意思表示という債権者であるかのような行動をとることは禁反言の法理 に抵触するのではないかという疑問が生じる。A の受益の意思表示により D に 利益を押し付けることは結論としても妥当でなく、A の意思表示は信義に反し無 効な意思表示であるとすべきである。したがって本件において債務引受契約は有 効に成立しない。 AC間に債権がない以上 C が A になす弁済は原則無効であるが、第三者弁済と 図10 ケース 2 - 2 (出典)金融法委員会「債権法改正に関する論点整理(上)―債務引受と両立しない第三者 との関係、将来債務引受等について(一括支払システム、集中決済システム、パラレル・デッ ト等を念頭に置きながら)」NBL964号(2011年)33頁。 原債権者(A) 原債務者(B) 引受人(C) 債権譲受人(D) ②債務引受 ③弁済 ④登記 ⑤通知 ①債権譲渡
して有効な弁済となる可能性がある22)。ここで有効な第三者弁済とするためには (ⅰ)C からみて原債権が AB 間に帰属していること、(ⅱ)C が原債権を消滅さ せるために弁済をなすこと、(ⅲ)弁済が B の意思に反しないことが必要となる。 (ⅰ)について、D から見て C は債務者でなく第三者に当たるため D が登記を備 えれば C に対しても原債権を主張することができることとなるが、本件におい ては登記がなされていないため C との関係では原債権はいまだ AB 間に帰属して いる。(ⅱ)について、C は自らの債務と誤信している可能性はあるが AB 間の 債務を消滅させる意思を持っていることに相違はない。(ⅲ)について、B は債 務引受契約を締結しようとした当事者なのであるから C の弁済はその意思に反 しないものと考えられる。したがって C は A に対し有効に第三者弁済をするこ とができる。 <ケース 2 - 3 >(図11) ① A は原債権を D に譲渡する。 ② ①にもかかわらず、ABC 間で、C を債務引受人とする併存的債務引受契約 を締結する。 ③ D は、債権譲渡特例法に基づく債権譲渡登記を行う。 ④ C は、A に対して、期日前弁済を行う。 ⑤ D は、B に対して登記事項証明書を交付して債権譲渡の通知を行う。 <ケース 2 - 2 >と同様債務引受契約は無効である。したがって本件において も C がなす弁済は第三者弁済の問題となる。本件においては D が C の弁済前に 登記を備えており、C は D に弁済をしなければ有効な第三者弁済を行うことは できない。しかしながら A が債権者でないことを C は通常知ることはできず(以 下詳しく検討する)、C が誤って A に弁済することは十分に想定できる。そこでそ のような場合民法478条所定の債権の準占有者に対する弁済が成立しないかどう かを検討する必要がある。 民法478条は弁済をする者が債権者らしい外観を呈する者を債権者であると過 失なく信じて弁済をした場合には、その弁済を有効なものとみなすという規定で ある。本条の適用があるかを検討するにあたり以下の 3 点が重要である。まず A の受益の意思表示が無効であることを A 以外は知ることができず、B や C から 見ると債務引受契約は有効に成立したようにみえること。また D が債務引受契
約後登記をし、対第三者対抗要件を備えたとはいえ、C が債務引受契約は有効に 成立したと思っている以上その後登記ファイルを確認するとは考えられないため 債権譲渡を認識する機会がないこと。さらに C は弁済をする前に B に事前通知 をするはずであるが、弁済前の時点において B に通知は来ておらず B 経由で債 権譲渡を認識することも困難であること。以上 3 点を踏まえると、債務引受は有 効に成立したような外観を持ち、かつ ABC 間の連帯債務が DBC 間に移転した ことを C は知ることができないのであるから、C から見ると A は債権者である かのような外観を呈しており、またそのことを信頼した C に過失はないという べきである。したがって民法478条が適用され、A に対し弁済をしてもその弁済 を有効と扱うべきであると考える。 <ケース 2 - 4 >(図12) ① A は原債権を D に譲渡する。 ② ①にもかかわらず、ABC 間で、C を債務引受人とする併存的債務引受契約 を締結する。 ③ D は、債権譲渡特例法に基づく債権譲渡登記を行う。 ④ D は、B に対して登記事項証明書を交付して債権譲渡の通知を行う。 ⑤ C は、D に対して、期日前弁済を行う。 この場合も<ケース 2 - 2 >と同様に債務引受契約は無効である。そこで本件 においても C がなす弁済は第三者弁済の問題となる23)。そして D が C の弁済前 に登記をしているため、C は D に弁済しなければ有効な第三者弁済をすること 図11 ケース 2 - 3 原債権者(A) 原債務者(B) 引受人(C) 債権譲受人(D) ②債務引受 ④弁済 ③登記 ⑤通知 ①債権譲渡
はできないといえる。本件では<ケース 2 - 3 >と異なり、C が弁済をする以前 に B に対して通知がなされている。そのため C は、弁済をするために民法443条 に規定された事前通知を B に対してした際に、B から真の権利者が D であるこ とを知らされているはずである。そうだとすると本件のような場合には C は弁 済前に D が真の権利者であると知ることができると考えられる。したがって C は D に対して、民法474条 2 項所定の第三者弁済をすることになる。 また C が、本件債務引受が有効に成立したと誤信して A に弁済した場合、上 記の事情から A が真の権利者でないことにつき C の善意無過失が認められない こととなるため、C の A に対する弁済が準占有者に対する弁済として有効にな る余地はない。 <ケース 3 - 3 >(図13、図14) ① A は原債権を D に譲渡する。 ② D は、債権譲渡特例法に基づく債権譲渡登記を行う。 ③ ①②にもかかわらず、DCB 間又は ABC 間で、C を債務引受人とする併存的 債務引受契約を締結する。 ④ C は、D に対して、期日前弁済を行う。 ⑤ D は、B に対して登記事項証明書を交付して債権譲渡の通知を行う。 <ケース 3 - 3 >では D が対第三者対抗要件を具備した後に債務引受が行われ ているため、債務引受がなされた時点では「債務者以外の第三者」の立場にある 図12 ケース 2 - 4 原債権者(A) 原債務者(B) 引受人(C) 債権譲受人(D) ②債務引受 ⑤弁済 ③登記 ④通知 ①債権譲渡
Cは債権譲渡を対抗される24)。 ここで誰を当事者として債務引受を行うかが問題になる。債務引受は第三者の ためにする契約の規定に従ってなされるのであるから、受益の意思表示は債務者 に対してなされる必要がある。そして併存的債務引受により生じる債務は連帯債 務であるから25)B及び C が債務者にあたる。そのため債務引受の際には、債権 者は B 及び C の双方に受益の意思表示をしなければならないと考えられる。そ こで本件における債務引受は、登記により D が真の権利者であると知り得る C が D に受益の意思表示を求めて DCB 間で債務引受がなされた場合と、未だ通知 がなく A が権利者であると信じている B が A に受益の意思表示を求めて ABC 間 で債務引受がなされた場合の 2 通りが想定される。 (DCB 間で債務引受がなされた場合) 図13 ケース 3 - 3 < DCB 間型> 原債権者(A) 原債務者(B) 引受人(C) 債権譲受人(D) ③債務引受 ④弁済 ②登記 ⑤通知 ①債権譲渡 図14 ケース 3 - 3 < ABC 間型> 原債権者(A) 原債務者(B) 引受人(C) 債権譲受人(D) ③債務引受 ④弁済 ②登記 ⑤通知 ①債権譲渡
Dから C への受益の意思表示により債務引受が有効に成立し、C の D に対す る債務が生じる。したがって C は D に対して弁済しなければならない。 (ABC 間で債務引受がなされた場合) 債権譲渡後に自らが実質的な債権者でないことを認識したうえで債務引受の受 益の意思表示をすることは禁反言の法理に抵触するとして、民法 1 条 2 項に反す る。そのため A の受益の意思表示は無効となり、この場合には債務引受契約は 有効に成立しない。したがって、「利害関係を有しない第三者」に当たる C は対 第三者対抗要件を具備した D に対して、民法474条 2 項所定の第三者弁済をする ことになる。 なお、C が誤って A に弁済した場合、C は債務引受をする際に登記により真の 権利者を確認することができるのであるから弁済時の善意無過失は認められず、 Aに対する弁済が準占有者に対する弁済として有効になる余地はないと思われる。 <ケース 3 - 4 >(図15、図16) ① A は原債権を D に譲渡する。 ② D は、債権譲渡特例法に基づく債権譲渡登記を行う。 ③ ①②にもかかわらず、DCB 間又は ABC 間で、C を債務引受人とする併存的 債務引受契約を締結する。 ④ D は、B に対して登記事項証明書を交付して債権譲渡の通知を行う。 ⑤ C は、D に対して、期日前弁済を行う。 <ケース 3 - 3 >と同様に、本件における債務引受は、C が D に受益の意思表 示を求め DCB 間で債務引受がなされた場合と B が A に受益の意思表示を求め ABC間で債務引受がなされた場合の 2 通りが想定される。 (C が D に対して受益の意思表示を求めた場合) <ケース 3 - 3 >と同様に D から C への受益の意思表示により債務引受が有効 に成立し、C の D に対する債務が生じる。したがって C は D に対して弁済しな ければならない。 (B が A に対して受益の意思表示を求めた場合)
<ケース 3 - 3 >と同様に債務引受契約は無効となる。したがって C は対第三 者対抗要件を具備した D に対して、民法474条 2 項所定の第三者弁済をすること になる。 また<ケース 3 - 3 >同様、C の A に対する弁済が準占有者に対する弁済とし て有効になる余地はないと思われる。 <ケース 4 - 4 >(図17) ① A は原債権を D に譲渡する。 ② D は、債権譲渡特例法に基づく債権譲渡登記を行う。 ③ D は、B に対して登記事項証明書を交付して債権譲渡の通知を行う。 ④ ①②③にもかかわらず、DCB 間で、C を債務引受人とする併存的債務引受 契約を締結する。 図15 ケース 3 - 4 < DCB 間型> 原債権者(A) 原債務者(B) 引受人(C) 債権譲受人(D) ③債務引受 ⑤弁済 ②登記 ④通知 ①債権譲渡 図16 ケース 3 - 4 < ABC 間型> 原債権者(A) 原債務者(B) 引受人(C) 債権譲受人(D) ③債務引受 ⑤弁済 ②登記 ④通知 ①債権譲渡
⑤ C は、D に対して、期日前弁済を行う。 Dが対債務者対抗要件を具備した後に債務引受が行われているため、債務引受 契約締結の時点で、D は債権譲渡を BC に対抗できる。そのため債務引受契約は DCB間で行われない限り有効とならない。そして DCB 間で債務引受契約が有効 に成立すれば、C の下に D に対する債務が生じる。したがって C は D に対して 弁済しなければならない。
Ⅴ 立法の提言
1 併存的債務引受について 現行法制のもとでは以上のような解決が考え得る。しかしながら債務引受に関 し明文上の規定がないため必ずしも上記のような結論に至るとは限らず、予見可 能性が立たないため取引社会で利用が敬遠されているということも考えられる。 以下では取引社会でより債務引受が利用されるために必要な措置を考え、立法の 提言をすることで本稿のまとめとしたい。 第一に債務引受の原則形態は併存的債務引受であることを明文で規定すべきで あると考えられる。第Ⅱ章で述べたように、従来債務引受の原則形態は免責的債 務引受であると考えられてきた。しかし第Ⅲ章で見たように、一括決済システム の 1 種として用いられてきた債務引受は、免責的債務引受ではなく併存的債務引 受であった。これは、一括決済システムにおいて債務引受の債務を移転させる性 質よりも保証的性質を重視した結果であるといえる。そうだとすると実社会にお 図17 ケース 4 - 4 原債権者(A) 原債務者(B) 引受人(C) 債権譲受人(D) ④債務引受 ⑤弁済 ②登記 ③通知 ①債権譲渡ける原則形態と学問上の原則形態が異なることになる。 現在検討されている債権法改正案では、債務引受の合意により併存的債務引受 がなされ、さらに債務免除の要件を満たすことで免責的債務引受となると規定さ れることが予定されている26)。このような明文規定をおくことで原則形態を併存 的債務引受に統一し法制度のゆがみを解消し得るため、立法に至ることが期待さ れる。 2 対抗要件について 第二に債務引受においても登記などの第三者対抗要件を法定するということが 考え得る。本稿においては試験的に契約と同時に絶対的な拘束力を認めるという 前提で検討を進めてきた。というのも現行法上債務引受対抗要件に関する規定が なく債務引受を公示する手段がない以上、契約を締結すると同時に絶対的な効力 を持たせるか、どのような場合にも相対的な効力しか認めないという扱いをする しかないからである。債務引受においては権利移転を第三者に対抗することが必 要な場面は想定しづらいが、本稿で検討したような債権譲渡と競合する場合には、 債権譲受人から見て債務引受人が債務者であるのか第三者であるのかによって求 められる債権譲渡対抗要件が変わってくるのであり、債務引受人が権利移転を主 張する必要が出てくる。ここで仮に債務引受がいかなる場合においても相対的効 力しか持たないと考えると、債務引受人が債務者たる地位を債権譲受人に主張す るためには譲受人との間で新たに債務引受契約を締結しなければならないことと なり、これは双方にとって煩雑である。 他方契約と同時に債務引受に絶対的効力をもたせた場合、当事者、特に債権譲 受人に不測の損害は発生するだろうか。例えば<ケース 1 - 3 >では債務引受と 同時に C が D から見て第三者ではなく債務者となるという扱いをしている。そ の結果 D は C に債権譲渡を認めさせるには B に対する通知までが求められるこ ととなり、債権譲渡登記をした後であっても C が A になした弁済を有効なもの と扱われてしまうこととなる。 この扱いは D にとって不測の損害なのであろうか。思うにこの場合 D が被る 損害は「登記をした後通知をなす前に B または C が A に弁済をすれば債権を消 滅させられてしまう」ことにより生ずる損害と言い換えることができる。ここで 債務引受が行われず単純に AB 間の債権が D に譲渡された場合を想定してみると、 Dは B に通知をするまでは B に有効な弁済をされてしまうのであり、この場合
Dは「登記をした後通知をなす前に B が A に弁済すれば債権を消滅させられて しまう」というリスクを負っていることがわかる。債務者が何人いても D が早 急に通知をしなければ債務者に A に対する有効な弁済をされてしまうという点 では変わらないのである。したがって<ケース 1 - 3 >において登記後通知前に Cが A に有効な弁済をすることができるとしても D が置かれる立場は変わらな いのであり、これを不測の損害であるということはできない。他の登記後通知前 に C が弁済を行うケースである<ケース 2 - 3 ><ケース 3 - 3 >でも同じこと をいうことができる。 債務引受契約と同時に契約に絶対的効力を持たせても第三者に不測の損害が発 生しない以上、絶対的効力を持たせるために登記という手間を加えさせる実質的 な意味はなく、むしろ煩雑な手間が増えることで債務引受の利用自体が敬遠され る危険性すらある。したがって第三者対抗要件を法定する必要性は乏しいと考え られる。もっとも、契約は本来相対的なものであり当事者のみを拘束するもので あるはずであるから、「併存的債務引受契約において新たに債務を引き受けた者 は契約と同時に債務者たる地位を第三者に主張することができる」という趣旨の 条文を作ることは有意義であると思われる。 3 保証契約に関する規定の準用について 第三に保証と併存的債務引受の性質の類似性に着目して、保証の規定を一部準 用するとの規定を設けるべきではなかったかを検討する。 債権法改正にあたって基本方針では「債務引受の合意によって引受人の負う債 務が債務者の負う債務を保証する目的のものであるときは、保証の規定が準用さ れる」27)との規定を置くことが検討されていたが、改正法案の中に盛り込まれる ことはなかった。本稿は、保証の規定を一部準用するとの規定を設けるべきで あったのではないかと提言したい。もっとも、上述のような一律な規定の仕方を すると、併存的債務引受は保証と同様の機能を有していることから併存的債務引 受がなされるほとんどの場合で「保証する目的」が認められ、原則として保証の 規定が準用されることになってしまう28)。これでは保証とは別に併存的債務引受 という類型を設けた意味が失われるといえる。 そこでどのような規定を置くべきであったか検討してみる。 第Ⅳ章のケースの検討を行った際、<ケース 1 - 4 >では併存的債務引受が連 帯保証に似ていることに着目して、併存的債務引受によって発生した債務も付従
性を有するものと解するとした。また、債務引受がなされてから債権譲渡がされ た場合(具体的には<ケース 1 - 2 ><ケース 1 - 3 ><ケース 1 - 4 >の場合)には、 併存的債務引受によって発生した債務も随伴性を有するものと解して、原債権の 債権譲渡によって譲受人に移転するものと考えた。そして付従性・随伴性ともに 明文規定はないものの、担保の性質上当然に認められるものである29)から、保 証について定めた民法446条 1 項を準用すれば、併存的債務引受もかかる性質を 有すると認めるに足りるものと解する。また<ケース 1 - 4 >も債務引受がなさ れてから債権譲渡がされた場合に包含される。そこで、「債務引受がなされてか ら債権譲渡がされた場合には、446条 1 項を準用する」との条文を設ける必要が あると考える。 このように考えたとしても、保証と併存的債務引受の区別が曖昧になることは なく、併存的債務引受という類型を設けた意味は失われないといえる。なぜなら、 併存的債務引受の意義は連帯債務関係を作り出すことにあり30)、一定の場合に保 証の規定を一部準用しても、連帯債務の性質自体を失うものではないと考えられ るからである。
Ⅵ おわりに
一括決済システムにおける債務引受方式は支払企業や金融機関の倒産の際の処 理が他の制度に比べてわかりやすく、債権譲渡との競合の際法律関係が複雑化す ることを除けば優れた制度であるということができる。法律関係が複雑化しても 誰にどう弁済すればよいかが明確に分かれば企業が委縮することもなくこの制度 を利用することができるのであり、迅速で安全な取引社会の実現のためにそう いった視点からの法整備が必要となる。本稿はそういった立法に多少なりとも建 設的な提言をできたのではないかと考えている。 1) 潮見佳男『プラクティス民法 債権総論[第四版]』(信山社出版・2012年)527 頁。 2) 最判昭和41年12月20日民集20巻10号2139頁。 3) 大判大正 6 年11月 1 日大審院民事判決録23輯1715頁。 4) 潮見・前掲注 1 455-456頁、527頁。 5) 民法(債権法)改正検討委員会編『詳解・債権法改正の基本方針Ⅲ』(商事法務・ 2009年)314頁、316頁など。6) 中田裕康『債権総論 新版』(岩波書店・2011年)560頁。 7) 佐藤正俊、良永和隆、角田伸一『民法(債権法)改正の要点』(ぎょうせい・ 2010年)232頁。 8) 池田真朗「債務引受と債権譲渡・差押の競合―一括決済方式における債権譲渡 方式と併存的債務引受方式の比較を契機に」法研77巻 9 号(2004年) 3 頁。 9) 平田重敏『実務家のための電子記録債権とサプライヤーファイナンス』(金融財 政事情研究会・2011年)233頁。 10) 池田・前掲注 8 4 頁。 11) 平田・前掲注 9 237頁。 12) 平田・前掲注 9 240頁。 13) 平田・前掲注 9 247-250頁。 14) 平田・前掲注 9 249頁。 15) 同上。 16) 平田・前掲注 9 250頁。 17) 池田・前掲注 8 8 - 9 頁。 18) 内田貴『民法Ⅲ 債権総論・担保物件[第三版]』(東京大学出版会・2005年) 221-222頁。 19) 池田・前掲注 8 28-29頁。 20) 池田・前掲注 8 9 頁参照。 21) 大判昭和11年 4 月15日民集15巻10号781頁。我妻栄『民法講義 第 4 債権総論 [新訂版]』(岩波書店・1964年)426-429頁。 22) 金融法委員会「債権法改正に関する論点整理(上)―債務引受と両立しない 第三者との関係、将来債務引受等について(一括支払システム、集中決済システ ム、 パ ラ レ ル・ デ ッ ト 等 を 念 頭 に 置 き な が ら )」NBL964号(2011年 )36頁、 39-40頁。 23) 同上。 24) 池田・前掲注 8 27-28頁。金融法委員会・前掲注22 35頁。 25) 前掲注 2 。 26) 佐藤ほか・前掲注 7 。 27) 民法(債権法)改正検討委員会の基本方針【3.1.4.11】参照。 28) 民法(債権法)改正検討委員会編・前掲注 5 319-320頁。商事法務編『民法(債 権関係)の改正に関する中間試案の補足説明』(商事法務・2013年)265頁、267 頁など。 29) 野村豊弘、栗田哲男、池田真朗、永田眞三郎『民法Ⅲ―債権総論[第 2 版補訂 2版]』(有斐閣・2004年)148-149頁など。 30) 稲葉譲「債権譲渡と債務引受の交錯」NBL943号(2010年)56頁。