BJH ガイドライン
多発性骨髄腫の診断と治療に関するガイドライン
(
2005 年)
Guidelines on the diagnosis and management of multiple myeloma 2005
Alastair Smith,
1Finn Wisloff
2and Diana Samson
3on behalf of the UK Myeloma Forum, Nordic Myeloma Study
Group and British Committee for Standards in Haematology
1
Department of Haematology, Southampton University Hospital NHS Trust, Southampton General Hospital,
Tremona Road, Southampton, UK,
2Department of Haematology, Ulleval University Hospital, University of
Oslo, Norway, and
3Department of Haematology, Imperial College School of Medicine, Hammersmith Hospital,
London, UK
Keywords: myeloma, myeloma therapy, imaging, stem cell transplantation, chemotherapy.
英国骨髄腫フォーラム(UKMF)・北欧骨髄腫研究会(NMSG)・英国血液学標準化委員会(BCSH)
原典:http://www.bcshguidelines.com/pdf/UKNordic_070705.pdf
2001 年に「英国血液学標準化委員会(BCSH)から委託を
受けた英国骨髄腫フォーラム
(UKMF)のガイドライン作
業部会により骨髄腫の診断と治療に関するガイドライン」
が発行されました(
UK Myeloma Forum; British Committee
for Standards in Haematology, 2001
)。その同じ年に、北欧
骨髄腫研究会((NMSG)により、1995 年に初版が発行され
たガイドライン(スカンジナビア語)の第2版が発行され
ています。これらのガイドラインは共にエビデンスに基づ
いたものを目指しており、その推奨が類似していたことが
明らかになりました。その後、両グループのメンバー間で
非公式な情報交換が行われて、この共通した最新のガイド
ラインを発行するという決定がなされました。
この改定された最新のガイドラインには、画像検査と骨
病変の管理に関する新しいセクションが含まれています。
更に、疾病分類と病期分類における新しい進展や、サリド
マイドとボルテゾミブ、及び強度縮小同種移植法などの新
しい治療アプローチの適用についても記載されています。
目
次
1. ガイドライン作成手順と骨髄腫の特徴
2. 診断・検査・治療適用
3. 骨髄腫における画像診断技術の適用
4. 疼痛管理(ペイン・コントロール)
5. 高カルシウム血症と骨病変
6. 腎機能障害
7. 貧血の管理
8. 骨髄腫の感染症
9. その他の合併症
10. 骨髄腫専門治療の概要
11. 初期化学療法
11.1. 大量化学療法前の初期化学療法
11.2. 大量化学療法の予定がない場合の初期化
学療法(従来型治療法)
11.3. 腎不全患者における化学療法
11.4. 初期治療で難治性の患者
12. 大量化学療法と移植療法
13. 同種幹細胞移植
14. 維持療法
15. 再発/進行性病変の管理
16. 病後期の管理
17. 患者への情報提供と支援
1. ガイドライン作成手順と骨髄腫の特徴
1.1 ガイドライン作成手順
このガイドラインの作成は次のステップで行われまし
た。
多くの議題に関して、両組織の代表者による作業部会
の設置。
発行済みの英国と北欧の
2001 年版ガイドラインの再
調査。
コーコランス・データベースや
Medline、及びインタ
ーネット検索など、2004 年 11 月 30 日までの主要な
医学文献の調査。この日以降に発表された主な論文も
関連する最終起草に加えられました。
主要な会議報告書の調査。
文献調査と専門家の意見一致に基づいた推奨案作成。
他の専門分野の代表者との協議会開催。
英国国際骨髄腫財団(IMF)を通じた患者擁護団体の参
画。
UKMF 実行委員、BCSH 委員会、及び NMSG 地域
コーディネータによる審査。
英国血液学会
(BSH)メンバー100 名による公聴会審議。
このガイドラインは、骨髄腫の有効な臨床管理戦略にキ
ーとなる領域を定めています。証拠レベルと推奨グレード
は、
表1と表2にまとめてあります。化学療法のプロトコ
ルや投与量の詳細は含んでいません。それは本稿の範疇を
越えています。安全機関に必要な一部のプロトコルと詳細
情報の提供、化学療法薬剤の投与と管理、及び関連する医
療介護については、個々の癌センター/ネットワークの責
任です(或いは、他の国々と同じ)。本文内で、薬剤用量
について記載されている箇所は、主に特殊な臨床試験か、
腎臓障害に対する用量調節の局面で使用される投与量に
関するものです。本ガイドラインの著者らは、治療法、薬
剤、及び投与レジメンが正確であることを保証するために
大変な努力を行いました。しかし、現在進行中の研究や臨
床経験からもたらされる情報の変化や、著者間に存在する
許容範囲内の意見の相違、及び製本段階における人為的ミ
スの可能性があるため、医師が臨床上の決定を下す際には、
個々の患者毎に判断することが必要です。医師は薬剤の処
方や投与を行う前に、製品情報や投与量をチェックしなけ
ればなりません。
共同執筆者は、
補足資料
1
に記載しています。このガイ
ドラインの最新版は、BSH, BCSH, UKMF、及び NMSG
のウェブサイトで入手可能です。2008 年 9 月には全面改
訂を予定しています。
表
1. 証拠(エビデンス)レベル
Ⅰ
a
無作為化対照比較試験のメタ解析により得られたエビデンス
Ⅰ
b
少なくとも
1 件以上の無作為化対照比較試験により得られたエビデンス
Ⅱa
第Ⅱ相臨床試験や対照症例比較試験を含んだ、少なくとも
1 件以上の十分計画された非無作
為化試験により得られたエビデンス
Ⅱb
少なくとも
1 件以上の他の種類の十分計画された準実験研究(即ち観察研究などの計画的な
医療介入を行わない研究)により得られたエビデンス
Ⅲ
十分計画された非実験記述的研究により得られたエビデンス。抄録の形でのみ発表されてい
る、メタ解析、無作為化対照比較試験、又は第Ⅱ相試験により得られたエビデンス
Ⅳ
専門医委員会の報告書、又は一流の研究者の意見や臨床経験により得られたエビデンス
表
2. 推奨グレード
グレード
A
証拠レベルⅠ
a、Ⅰb
少なくとも1件以上の、一貫して特定の推奨課題に取り組んだ品質の良い無作為化対照比較
試験に基づく推奨
グレード
B
証拠レベルⅡ
a、Ⅱb、Ⅲ
無作為化対照比較試験では無いが、推奨課題について十分検討された研究に基づく推奨
グレード
C
証拠レベルⅣ
専門医委員会の報告書や一流の研究者の臨床経験により得られたエビデンス
1.2 骨髄腫の特徴
1.2.1. 疫学と発生率
骨髄腫は形質細胞の腫瘍であり、英国とスカンディナビ
ア諸国における年間発症数は、100 万人当たり約 50 人で
あり、診断時の年齢中央値は約
70 歳です(Turesson et al,
1984, Hjorth et al, 1992, Office of National Statistics,
2001 年, Phekoo et al, 2004)。骨髄腫はコーカサス地方に
比べ、アフリカ・カリブ民族群の発症率が高く、特にその
疫学については、殆ど分かっていません。ほとんどが新規
(デノボ; de novo)の症例であり、意義不明の単クロー
ン性ガンマグロブリン血症(MGUS)からの進行例は少数
です。
60 歳未満の患者の割合は約 15%であり、更に 60 歳から
65 歳の患者が 15%となっています。診断時に 40 歳以下の
患者は
2%未満です。この年齢分布は、大量化学療法(HDT)
と幹細胞移植などの特定の治療法に適応できる患者群に
関係しています。強い治療法に対する年齢制限は引き上げ
られてはいますが、まだ、ほとんどの骨髄腫患者が経口化
学療法薬剤による治療を受けています。
1.2.2. 臨床症状
臨床症状には様々なものがあり、特徴的な症状には次の
ものがあります。
骨病変症状(典型的には、持続性がある原因不明の背
中の痛み)
腎機能障害
貧血(典型的には、正色素性や正球性であり、白血球
減少や血小板減少の頻度は稀)
高カルシウム血症
再発性又は継続性の細菌感染
過粘稠度症候群
脊髄/神経根圧迫が疑われる症状
ネフローゼ症候群や心不全などのアミロイドーシス
が疑われる症状
持続性の高赤血球沈降速度
(ESR)、又は偶然発見され
る血漿粘性
骨髄腫が疑われる症状がある患者は、直ちに専門医へ受
診することが求められます。脊髄圧迫、高カルシウム血症、
及び腎不全は内科的救急疾患であり、直ちに入院が必要で
す。通常の検査で異常タンパクが認められても、臨床的な
症状が無く、貧血や高カルシウム血症、あるいは腎臓障害
が無い患者は、すぐに受診する必要はありませんが、専門
医に助言を求めることを検討すべきです。
1.2.3. 骨髄腫患者の管理に必要な施設と専門分野
骨髄腫患者に対する医療行為は、血液専門医あるいは腫
瘍専門医が主導すべきですが、直面するであろう広範囲の
問題に詳しい、他の専門医の参加も必要となります。英国
では、承認を受けた癌ネットワーク内の集学的チームの一
部としてこれが提供されます(補足資料
1
を参照)
。デン
マーク、ノルウエー、スエーデンでは、しかるべき国内の
血液学会が関係して同様の推奨が行われるでしょう。
骨髄腫に効果があり質の高い医療行為には、他の専門医
の専門知識とサービスが利用できることが必要です(表
3
参照)。地方又は近隣の病院でもそれは利用可能かもしれ
ません。これらのサービスを受けるには、明確なポリシー
とプロトコルが必要となります。
治療内容に自家又は同種の幹細胞移植が含まれる場合、
血液悪性疾患に対してレベル
3の医療行為が提供可能な設
備を擁する
EBMT(ヨーロッパ血液骨髄移植グループ)の
認可施設で実施しなければなりません(British
Committee for Standards in Haematology Clinical
Haematology Task Force, 1995)。
適切な支持療法は、病気の全過程を通じて、治療全般の
基本的な部分です。支持療法の重要性について、患者に適
切に情報を与えて教育を行うべきです。その重要性が高い
にも拘わらず、公表されている研究は殆どありません。従
って、このガイドラインの支持療法に関する推奨の大半は、
証拠レベルⅣに基づいた推奨グレードCになっています。
患者が病気を患っている全過程を通じて、血液専門医チ
ーム、医療にかかわる他の医療チーム、及び患者を診療す
る一般開業医の間で、良好なコミュニケーションを維持す
る事が不可欠となります。
表
3. 骨髄腫患者の治療に必要な専門分野とサービス
診断サービス
診断用の血液学検査と血液病理学検査
臨床の生化学検査と免疫学検査
診断用の放射線学的検査
専門医療サービス
腎臓医療サービス(血液透析が迅速に受けられることを含む)
臨床腫瘍科/放射線療法科
整形外科
神経外科
認可された骨髄/幹細胞移植センター
介護サービス
血液学/腫瘍学の専門看護師
緩和医療の医師/看護師
細胞毒性薬を調合できる専門知識と施設がある薬局
理学療法/リハビリテーション
症例登録、監査、臨床試験に対する管理サポート
利用可能な社会福祉や資金援助に関する情報を含む、患者への情報提供
患者支援グループ
2.診断・検査・治療適用
2.1. 検査と診断
2.1.1. 検査
骨髄腫が疑われる患者には、最初の検査で、
表4に示す
鑑別検査を含めて実施すべきです。その後で、診断を確定
するために追加の検査を行います。まず、血清及び濃縮尿
の電気泳動検査を実施し、その後、単クローン性タンパク
(Mタンパク、又はパラプロテイン)の存在の確証と型分
類を行うために、免疫固定法検査を行うべきです。骨髄腫
が強く疑われるが、通常の電気泳動法検査では陰性となる
患者にも、免疫固定法検査が適用されます。
血清Mタンパクの定量は、電気泳動軌跡に見られる単ク
ローン性ピークの密度計測で行うべきです。全ての免疫グ
ロブリン(Ig)アイソタイプ量の免疫化学定量検査も使用可
能です。これは、
IgA 型と IgD 型のMタンパクには特に有
用です。尿中軽鎖排泄量の定量は、24 時間蓄尿で直接実
施できます。また、無作為に採取した尿サンプルにより、
尿クレアチニンとの相関性をもとに計算することもでき
ます。血清の遊離型免疫グロブリン軽鎖の定量(FLC 分
析)とκ/λ比率は、尿中軽鎖量定量の代替法として使用
することができます。この血清フリーライトチェーン検査
は、遊離軽鎖型骨髄腫(Bradwell et al, 2003)や、血清や尿
の免疫固定法検査でも陰性(非分泌型骨髄腫) (Drayson
et al, 2001) の患者の診断やモニターに特に有用です。
診断を確定するには、骨髄穿刺だけでも十分ですが(形
質細胞が
10%以上を示す)、トレフィン生検、つまり凝血
塊標本によって、形質細胞の浸潤度について、より信頼性
の高い評価が可能です
(Rajkumar et al, 2001)。治療後の
骨髄穿刺で十分なサンプルが得られない場合や、治療効果
を判定するためにトレフィン生検を使用しなければなら
ない場合の基準値とするため、診断時の検査で一見して十
分な骨髄穿刺液が得られた場合でも、可能な採取箇所があ
ればトレフィン生検を実施すべきです。
従来の細胞遺伝学的検査法と
FISH 分析法を研究して
いる現在進行中の臨床試験のデータから、重要な予後につ
いての情報が得られており、これらの検査技術が通常の臨
床現場へ適用可能かどうか明らかになるかもしれません。
骨髄穿刺液のフローサイトメトリー法検査によって、形質
細胞の表現型の判定が可能になり、クローン性かどうかが
確定できます。また、形質細胞ラベリングインデックス検
査で、細胞分裂中の細胞の割合を判定することが可能にな
ります。特に骨髄形質細胞が
10%未満の場合は、異常な表
現型とクローン性を判定することが重要です。異常で特殊
な形質細胞表現型の特定は、後の治療効果判定で有益かも
しれません。クローン性については、トレフィン生検標本
の免疫組織化学検査でも判定可能です。
標準的な全身骨レントゲン検査は、全ての患者で実施す
べきです。
CT(コンピュータ断層撮影)検査と MRI(磁気共
鳴映像法)検査は、特定の症状がある場合は有用かもしれ
ません(第3節参照)
。
表4
骨髄腫患者の最初の検査
鑑別検査
診 断確定のため の検
査
腫 瘍量測 定及び 予後
予知のための検査
骨 髄腫関 連器官 障害
(ROTI)の評価検査
一 部の患 者に 適用さ
れる特殊な検査
FBC,ESR,又 は 血漿
粘度測定
骨 髄穿刺±トレ フィ
ン生検
骨 髄の細 胞遺伝 学的
検査又は
FISH 検査
FBC (貧血)
骨 髄の 免疫組 織学検
査 又は フロー サイト
メトリー法
ビタミン
B12 と葉酸
測定
*
血 清 又 は 血 漿 電 解
質、尿素、クレアチ
ニン、カルシウム、
アルブミン、尿酸
血清及び濃縮尿の電
気泳動検査
非イソタイプ免疫グ
ロブリン定量
血 清及び尿の免 疫固
定法検査
血 清及び 尿中の 単ク
ロ ーン性 タンパ ク定
量
カルシウム、アルブミ
ン、β
2 ミクログロブ
リン
血 清又は血漿 の 尿素
とクレアチニン
クレアチニン・クリア
ランス(測定と計算)
カルシウム、アルブミ
ン 、乳酸 脱水素 酵素
(LDH),C 反応性タン
パ ク
(CRP), 非イ ソ タ
イ プ免疫 グロブ リン
定量
症候部位のレントゲ
ン検査
骨格検査
**
骨格検査
骨格検査
MRI 検査,CT 検査
(注) FBC(Full blood count);全血球数測定、ESR(Erythrocyte sedimentation rate);赤血球沈降速度、FISH(Fluorescent in situ hybridization);蛍光インシトゥハイブリデーション法 *マクロ細胞増多症のある箇所(骨髄腫では稀ではない) **骨格検査の推奨は第 3.1 節で行います。
2.1.2. 診断基準と鑑別診断
一般的に骨髄腫の診断は、血清又は尿中に単クローン性
タンパク(M タンパク又はパラプロテイン)が認められる
こと、及び
/又は、骨髄中の形質細胞数が増加しており、
レントゲン画像で溶骨性病変が認められることによって
確定されます
(Greipp, 1992)。他にMタンパクが認められ
る可能性がある疾患には、次のものがあります。
MGUS(意義不明の単クローン性免疫グロブリン血
症)
AL アミロイドーシス
孤立性形質細胞腫(骨又は髄外性)
B 細胞非ホジキンリンパ腫(ワルデンストローム・マ
クログロブリン血症を含む)
慢性リンパ性白血病
MGUS の発生率が高いこと(50 歳を超えると 2%以下、
70歳を超えると
3%以下)や、血清タンパク質電気泳動検
査が頻繁に使用されることを考えると、血清にMタンパク
が認められるほとんどの患者は、骨髄腫より、むしろ
MGUS だと思われます。従って、これらの病態を鑑別す
る基準が重要となります。
最近、国際骨髄腫ワーキンググループは、血清Mタンパ
ク量/濃度、骨髄形質細胞比率、及び骨髄腫関連臓器障害
(ROTI)の有無に基づいて、MGUS と骨髄腫の新しい分類
法 を 推 奨 し ま し た
(International Myeloma Working
Group, 2003)。この分類法では、MGUS、無症候性骨髄腫、
及び症候性骨髄腫についての基準が定められています(表
5参照)。無症候性と症候性の骨髄腫の鑑別は、骨髄腫関
連臓器障害(
ROTI)の有無によって行われます(
表6参照
)。
この分類法における無症候性骨髄腫は、意義不明型や不
活型、あるいはくすぶり型の骨髄腫などと過去に呼ばれて
いた分類と大体同じです。しかし、臨床的な症状が見られ
ない患者でも、臓器障害のために“症候性”のグループに
分類される場合があり、すぐに治療が必要になるかもしれ
ません。無症候性骨髄腫の患者は、すぐには治療を必要と
はしませんが、注意深い経過観察が必要です。
Mタンパクが少ししか認められない健康な患者では過
剰な検査は避けるべきです。形質細胞増加が
10%以下で、
レントゲン検査で骨が正常なことが、MGUS の診断基準
に採用されていますが、Mタンパクの量が少なく、ROTI
の臨床的証拠がない高齢の無症候性患者に、骨髄検査や過
剰なレントゲン検査を行うことは合理的ではありません
し現実的でもありません。追加の検査結果によって、治療
法を変えることは殆どありません。無症候性の患者の診断
手続きをどこまでやるかについては、患者の年齢、他の疾
患の有無、及びMタンパクの量を考慮すべきです。
さらに、軽度のベンスジョーンズ型タンパク血症や多ク
ローン性免疫グロブリン量の低下が、MGUS 患者の一部
で認められる場合があることや、それ自体が悪性を示すも
のではないということにも、注意を払うべきです(Kyle et
al,2002)。
AL アミロイドーシスと孤立性形質細胞腫の検査と診断
については、最近公表された
UKMF/BCSH ガイドライン
に総括されています
(Soutar et al, 2004; UK Myeloma
Forum; British Commitee for Standards in
Haematology, British Society for Haematology, 2004)
表5
MGUS,無症候性骨髄腫、症候性骨髄腫の診断基準(
国際骨髄腫ワーキンググループ, 2003 年
)
MGUS
無症候性骨髄腫
症候性骨髄腫
***
・ 血清中のMタンパクが
30g/L 未満で
あること
・ 骨 髄 中 の ク ロ ー ン 性 形 質 細 胞 が
10%未満で、トレフィン生検による
形質細胞浸潤度が小さいこと(実施
した場合のみ)
・ 骨髄腫関連臓器障害(骨病変を含む)
がないか、無症状であること
・
他の
B 細胞増殖疾患、軽鎖関連アミ
ロイドーシス、あるいは他の軽鎖、
重鎖、又は免疫グロブリンが関与す
る組織障害の証拠がないこと
*
・ 血清中のMタンパクが
30g/L を
超えていること、
かつ
/又は
・ 骨髄クローン性形質細胞が
10%
を超えていること
・ 骨髄腫関連臓器障害(骨病変を含
む)がないか、無症状であること
・ 血清及び/又は尿中にMタンパク
があり
**
・ 骨髄に(クローン性)形質細胞が
認められるか、形質細胞腫が生検
で証明されること
・ 骨髄腫関連臓器障害(骨病変を含
む)があること
* AL アミロイドーシスと IgM 型パラプロテイン関連神経障害症候群は、特定の症候群に関係した単クローン性ガンマグロブリン血症の 例です。 ** 診断に際しては、量を特定する必要ありません。割合は少ないですが、患者の中には、血清あるいは尿中にMタンパクが検出されな いが、骨髄腫関連臓器障害(ROTI)と骨髄形質細胞の増加が認められる例があります(非分泌型)。 *** 症状はないが骨髄腫関連臓器障害が認められる患者は、治療が必要なことから、症候性骨髄腫のグループに分類されます。2.1.3. 推奨
以下の推奨は、証拠レベルⅢに基づく推奨グレード
C で
す。
国際骨髄腫ワーキンググループが認定している診断
基準を使用する。
検査には、表
4
に示す検査を含める。治療が必要な
無症候性患者を識別するために、骨髄腫関連臓器障
害について精密な検査を実施する。
細胞遺伝学的異常は、予後に関して重要であるが、
治療法選択の重要性を明らかにするために計画され
た臨床試験の枠内で、最初に検査する。
Mタンパクが認められる無症候性患者の診断手順を
どこまでやるかについては、患者の年齢、併発疾患
の有無、及びMタンパク量を考慮に入れる。
骨画像検査と骨髄検査は、関連する臨床症状、貧血、
高カルシウム血症、あるいは腎臓障害がない
MGUS
の診断を下すためには強制しないが、若い患者に対
しては推奨される。Mタンパク量が
20g/L 以上の高
齢患者にも考慮しても良い。
MGUS の確定診断を下すためには、臨床評価とパラ
プロテイン定量を
3 ヶ月目と 6 ヶ月目に実施するこ
とを推奨する。
表6
骨髄腫関連臓器障害(ROTI)
*
(
国際骨髄腫ワーキンググループ, 2003 年
)
骨髄腫による臨床症状
高カルシウム
修正血清カルシウム値が
2.75mmol/l を超えるか、正常値上限を 0.25mmol/l 上回る場
合。
腎機能障害
骨髄腫が原因のもの(第
6.2 章参照)
貧血
ヘモグロビンが
10g/dl 未満になるか、正常値下限を2g/dl 下回る場合。
骨病変
溶骨性病変、あるいは圧迫骨折を伴う骨粗そう症(
MRI 検査あるいは CT 検査で明ら
かになる場合がある)
その他
症候性過粘凋度症候群、アミロイドーシス、再発性細菌感染
(12 ヶ月以内に2回以上)
*器官や組織の障害が骨髄腫によるものか、はっきりしない場合は、骨髄形質細胞の比率を30%超過とすべきです。2.2. 経過観察と治療開始の適用
化学療法は、症候性骨髄腫及び骨髄腫関連臓器障害があ
る無症候性骨髄腫の治療に適用されます。
2 件の無作為化
対照比較試験によると(
Hjorth et al, 1993, Riccardi et al,
2000
)、他の無症候性骨髄腫に対する早期の医療介入の有
益性は認められてません。
MGUS から活動性病態(骨髄腫あるいは他の B 細胞悪
性疾患)へ進行する危険性は、平均すると年当たり約
1%
で、唯一証明されている骨髄腫進行の予測因子は、血清M
タンパク量です(
Kyle et al, 2002, Kyle & Rajkumar,
2003
)。10 年後の進行する危険性の割合は、g/L 単位の M
タンパク量にほぼ相当しています(例えば、
20g/L は 20%
の進行リスクに相当します)。正常な対照患者に比べて、
MGUS の患者は、関連する多クローン性免疫グロブリン
の量が少ないにもかかわらず、菌血症の危険性は、僅か
2
倍の増加しかありません(
Gregerson et al, 1998
)。
無症候性骨髄腫から症候性骨髄腫になるまでの無増悪
期間(TTP)の中央値は、12 ヶ月~32 ヶ月です(
Wilsloff et
al, 1991, Hjorth et al, 1993, Dimopoulos et al, 1993,
Weber et al, 1997
)。無症候性骨髄腫患者 71 名のうち、9
名が病気の進行が無いまま、感染症で亡くなっています
(
Wilsloff et al, 1991
)。臨床的には無症状でも、レントゲ
ン検査で骨病変 (最低 1 ヶ所の溶解性病変) が認められた
患者についての無増悪期間(TTP)の中央値は 8 ヶ月となっ
ており、進行の危険性が高くなっています(
Wisloff et al,
1991, Dimopoulos et al, 1993
)。新しい国際診断基準(
The
International Myeloma Working Group, 2003
)では、骨病
変がある患者は“症候性”として分類されており、臨床的
な症状が無くても治療が必要であるという事に注意しな
ければなりません。
更に、骨病変は確認されなくても、MRI 検査で骨髄状
態が異常と認められた患者も、病気が進行する危険性が高
いことが
2 件の研究で報告されています(
Weber et al,
1997, Mariette et al, 1999
)。MRI 検査での異常が予後に
与える影響については、レントゲン写真で検出される溶解
性骨病変ほどには重要視されていません。しかし、マリエ
ット(
Mariette et al, 1999)
らは、MRI 検査で異常があ
る患者も、無増悪期間(TTP)の中央値が 25 ヶ月まで達し
ないと報告しています。また、
ウェーバー
(
Weber et al,
1997)
らは、
MRI 検査だけで、他の予後不良因子(パラ
プロテイン高値、又は尿ベンスジョーンズタンパク高値、
あるいは
IgA 型イソタイプ)がある患者を識別できること
を報告しています。
2.2.1. 推奨
MGUS や無症候性骨髄腫の患者の経過観察は、無期
限に行うべきです。その頻度は、進行する危険性によ
って変えても良いでしょう。Mタンパクの量が多い
MGUS や無症候性骨髄腫は、最も危険性が高いと考
えられます((推奨グレード B;証拠レベルⅢ)。
無症候性骨髄腫の経過観察では、定期的
(通常 3
ヶ月ごと
) に臨床検査を行うことや、血清と尿の
両方でMタンパク量を測定することを含めるべ
きです。骨髄検査と全身骨検査は、それほど頻繁
に繰り返し検査する必要はありませんが、新しい
症状や兆候が出てきた時に必要となるでしょう
(推奨グレード C;証拠レベルⅣ)。
同様に
MGUS の経過観察でも、定期的な臨床検
査と血清Mタンパク測定のフォローを行うべき
です。進行する危険性が低い患者では、通常、半
年毎、あるいは年
1 回の検査で十分でしょう(推奨
グレード
C;証拠レベルⅣ)。
患者と主治医は、病気進行の危険性や臨床的特徴、特
に
表
6
に記載されているものについて、情報を共有す
べきです(推奨グレード
C;証拠レベルⅣ)。
病気の進行、あるいは臓器障害の証明がなされるま
で、治療は見合わせるべきです(推奨グレード
A:証
拠レベルⅠb)。
臨床的な症状が無くても、レントゲン検査で骨病変が
認められた患者は、治療を直ちに始めるべきです
(推
奨グレード
B;証拠レベルⅡb)。現在では、このよう
な患者は、症候性骨髄腫に分類されています。
2.3. 予後因子と症候性骨髄腫の病期分類
通常、骨髄腫の経過は様々で、生存期間は2~3週間の
短い例から、20 年を超える例もあります。臨床試験の中
で、また、臨床試験の間で、試験結果を比較するためには、
予後因子の分析が欠かせません。最適な病期分類システム
によって、個々の患者についての生存の見通しが約
70%
の検査感度と特異度で予測できます。病期分類システムが
治療法の選択に良い影響を与えるかどうかは、証明されて
いません。
β
2 ミクログロブリンや C 反応性タンパク(CRP)の血
清レベルが高値で、アルブミンの血清レベルが低値の患者
は 、生 存期 間が 良くあ りませ ん
(
Bataille et al, 1992,
Jacobson et al, 2003
)。また、形質細胞が異型のものや増
殖活性が高いものも、予後不良を示唆しています
(
Greipp
et al, 1993
)。細胞遺伝学的異常は、強い予後不良因子です。
第
13 番染色体の欠失/モノソミー、非高二倍体、及び一
部の平衡転座
t(4;14),t(14;16)は、予後に強い悪影響を与え
ます
(
Fonseca et al, 2004
)。マイクロアレイ技術による遺
伝子プロファイリングによって、この分野に関する私たち
の知識が広がることが期待できます。
デューリー・サーモン病期分類システム
(Durie and
Salmon, 1975)が開発されて以来、予後モデルを構築しよ
うという多くの試みが行われてきました。特に、デューリ
ー・サーモン病期分類システムにはアルブミンと血清β2
ミクログロブリンのいずれも含まれていないため、このシ
ステムを改善する試みが行われてきました。最近、国際骨
髄腫ワーキンググループから国際予後指標が提案されま
した
(
Greipp et al 2003
)。これは、β2 ミクログロブリン
とアルブミンの血清レベルに基づくもので、治療法の種類
と無関係に、患者を3つの予後グループに分類しています
(
表
7
参照)
。このモデルに細胞遺伝学的検査のデータが
組み込めれば、病期分類は更に改善されるかもしれません。
2.3.1. 推奨
以下の推奨は、証拠レベルⅣに基づくグレード
C です。
血清アルブミンとβ2 ミクログロブリンに基づく国際
予後指標を、デューリー・サーモン病期分類システム
に代えて推奨する。
治療を始める前に、予後判定を行うべきであり、最低
限、β
2 ミクログロブリンとアルブミンの血清レベル
が必要です。もし利用可能であれば、細胞遺伝学的検
査、及び/又は FISH 検査が有用でしょう。しかし、
これらは個々の患者について注意して解釈すべきで
す。
現時点では、個々の患者の治療法選択に、予後因子を
適用することを支持している証拠はありません。
表7
新しい国際病期分類システム[ISS] (
Greipp et al, 2003
)
ステージ
定 義
生存期間の中央値
Ⅰ
血清β2 ミクログロブリンが 3.5mg/L 未満、かつ
血清アルブミンが 3.5g/dl 超過
62 ヶ月
Ⅱ
ⅠやⅢに該当しない
*
45 ヶ月
Ⅲ
血清β
2 ミクログロブリンが 5.5mg/L 超過
29 ヶ月
* 次の 2 つの下位分類があります。 血清β2 ミクログロブリンは 3.5mg/L 未満だが、血清アルブミンが 3.5g/dl 未満、あるいは、 血清アルブミンの量は問わないが、血清β2 ミクログロブリンが 3.5~5.5mg/l。2.4. 治療効果の判定
腫瘍に対する治療効果の判定は、血清Mタンパク量、及
び/又は尿中軽鎖排泄量の変化に基づいて行われます。更
に、臨床的な治療効果には、新しい骨髄腫関連臓器障害が
発生していないことも必要です。
表
8
の基準は、国際骨
髄腫ワーキンググループの基準から要約したものです(詳
細ついては、(
Blade et al, 1998
)参照)。完全寛解の確証に
は、免疫固定法(IF)検査によってMタンパクが検出されな
いことが必要です。通常の電気泳動法検査ではMタンパク
が検出されなくても、免疫固定法検査ではまだMタンパク
が検出される患者の予後は、部分寛解(PR)の患者と同等で
あること、また一方で、免疫固定法検査で陰性であれば、
有意に予後良好であること報告されています
(
Lahuerta
et al, 2000, Davies et al, 2001
)。従って、電気泳動法検査
でMタンパクが検出されない場合は、免疫固定法検査を実
施すべきです。
骨髄検査は、完全寛解(CR)の確証と非分泌型骨髄腫の治
療効果判定には絶対欠かせません。更に、この効果判定基
準には、再発と進行の定義も含まれています。再発とは、
以前に完全寛解
(CR)になった患者に病変が再び現れるこ
とと定義されており、また、進行は、以前に完全寛解(CR)
に至らなかった患者に対して適用されます。
大量化学療法(HDT)の後の完全寛解(CR)達成は、寛解持
続期間と全生存期間(OS)に関しては良い予後因子のよう
です (
Lahuerta et al, 2000; Davies et al, 2001
)。しかし、
治療目標を完全寛解
(CR)の達成におくべきだとは、まだ明
クの減少が
50%未満だった患者の1/4がプラトー状態
に達しており、Mタンパク減少が
25%未満だった患者では
1/10となっています。これらの患者の予後は、Mタン
パクの点ではより良い効果があった患者と同じくらいに
良好なものでした(
Olojohungbe et al, 1996, Durie et al,
2004a
)。
血清
FLC(フリーライトチェーン)検査は、遊離軽鎖
型 骨 髄 腫 と 非 分 泌 型 骨 髄 腫 の 経 過 観 察 に 有 用 で す
(
Drayson et al, 2001, Bradwell et al, 2003
)。更に、完全
な形の免疫グロブリンであるMタンパク型のほとんど患
者で、
FLC 検査が治療効果判定の経過観察に有用である
ことが最近報告されています
(
Mead et al, 2004
)。その理
由は、遊離軽鎖(FLC)の半減期が短いので、完全な形のM
タンパク濃度の変化よりも、遊離軽鎖
(FLC)の変化の方が、
もっとも早く治療効果の兆候を示す可能性があるためで
す。
表8
EBMT/IBMTR/ABMTR
A)の治療効果判定基準
完全寛解(CR)
免疫固定法検査によって、血清又は尿中にMタンパクが最低
6 週間検出されず、かつ、骨
髄内の形質細胞比率が
5%以下であること。
部分寛解(PR)
血清Mタンパクの減少が
50%を超えること、かつ/又は、尿中の遊離軽鎖排泄量の減少が
90%を超えるか、6 週間にわたって 200mg/24H 未満に減少すること
B)。
微少効果(MR)
Mタンパクの減少が
25~45%であり、かつ/又は、尿中の遊離軽鎖排泄量の減少が 50~89%
あるか、6 週間にわたって 200mg/24H 未満に減少すること
C)。
不変
(NC)
微少効果
(MR)や病態進行(PD)の基準に合致しない。
プラトー
骨髄腫関連臓器障害が残っておらず、Mタンパクと軽鎖排泄量の変化が
3 ヶ月間で 25%未
満しかないこと。
病態進行(PD)
治療にも拘わらず骨髄腫関連臓器障害が残ること、あるいはプラトーフェーズから骨髄腫
関連臓器障害が再発する。血清Mタンパクが
25% 超過(5g/L 超過)、かつ/又は、尿Mタン
パクが
25% 超過(200mg/24H 超過)、かつ/又は、骨髄形質細胞が 25% 超過(絶対値で 10%
以上)
B)。
再発
以前に完全寛解(CR)になった患者に病変が再びあらわれることで、免疫固定法検査によっ
てMタンパクが検出されることも含む。
A) EBMT(European Group for Blood and Marrow Transplantation) : ヨ ー ロ ッ パ 血 液 骨 髄 移 植 グ ル ー プ ; IBMTR(International Bone Marrow Transplant Registry):国際骨髄移植登録機構; ABMTR( Autologous Blood and Marrow Transplant Registry):自家血液骨髄移植登録機構
B) 非分泌型骨髄腫患者に限っては、骨髄中の形質細胞が初期基準値の 50%を超える減少(部分寛解)、あるいは初期基準値の 25-49%の減少(微少効果)が必要です。 C) 非分泌型骨髄腫では、骨髄形質細胞の増加が 25%を超えることと、絶対値で最低 10%の増加があることが必要です。MRI 検査は、一部の患者では有用かもしれません。