昭 和41年12月(X966年) 一17-一 一
パ ン小 麦 獄 質 の 保 水 力 と品質
との 関 係 に つ い て
足 立 晃 太 郎*
On the Relation of Hydration
Capacity of Gluten
and its Quality.
Kotaro Adachi 1.緒
言
獄 質(グ ル テ ン)は グ リア ジ ン(gliadin)及 び グル テ ニ ン(glutenin)よ り成 り,小 麦 の 主 要 蛋 白 質 で 特 に 製 パ ンに お い て 重 要 な 役 割 を 有 す る も の で あ る。 既 往 の 諸 知 見 に よれ ば,小 麦 粉 の 品質 は 主 と して 麩 質 の 質 的 特 性 に 最 も大 き い 関 係 が あ り,そ の 含 有 量 は 付 随 的 な 関 係 に あ る も の と され て い る。 薮 質 は コ ロ イ ド的 諸 性 質 を 有 し水 分 を 吸 収 して 膨 化 し,大 き い粘 弾 性 を 保 持 す る特 駐が あ る。 而 して薮 質 の 水 分 の存 在 に お け る膨 潤 度 は,小 麦 粉 の 品 質 に特 に 重 要 な 関 係 が あ る と され て い る。 近 年 の蛋 白 質 物 理 化学 の 知 見 に よれ ば, 獄 質 の膨 潤,即 ち ハ イ ドロゲ ル 形 式 は 蛋 白 質 分 子 内 の 多 数 の 一CO-NH一 な るペ プチ ド結 合 及 びH20が 水 素 結 合 を生 ず る典 型 的 な 物 質 で あ る こ と に基 因 す る もの と考 え られ る。 な お この 際,蛋 白質 分 子 の 電 離 に よ る 側 鎖 の イ オ ン とH20の 双 極 子 との 相 互 作 用 に よ る 水 1) 92) 和 も ゲ ル 形 成 に 関 与 す る もの で あ ろ う。 本 研 究 に お い て 著 者 は 水 分 を 吸 収 して 膨 潤 した蕨 質,即 ち 湿 麩(Wet dough)の 保 水 の 限 度(保 水 力)を 定 量 的 に 決 定 す る こ とを 目的 と し,こ の た め に獄 質 の質 及 び 量 を 異 に す る諸 種 の 小 麦 粉 標 品,即 ち グル タ ミン酸 ナ トリ ウ ム用 原 料 粉,強 力 粉,普 通 粉,薄 力 粉 の4種 を 試 料 と し, 種 々 の濃 度 の硫 酸 ナ ト リウ ム溶 液 及 び グ リセ リン溶 液 を 脱 水 剤 と して 作 用 させ 湿 鉄 に 対 す る脱 水 過 程 を 追 跡 して,湿 獄 の重 量 変 化 を 測 定 し,こ こ に 得 られ た 脱 水 (註1),2)参照) 極 限 値,並 び に こ の 際 の 脱 水 剤 の限 界 濃 度 を 求 め た 。 鉄 質 の この 特 質 は 小 麦 粉 の"Flour strength"と し て 一 般 に 小 麦 粉 の 品 質 の最 も重 要 な因 子 と され て い る 。 これ 等 の 値 は 上 述 の 想 定 に基 づ き小 麦 蕨 質 の 品質 を 判 定 す る上 の有 力 な 基 準 を 与 え る もの と考 え る。 皿.実験
皿.1 試 料 小 麦 粉 は 日清 製 粉 会 社 神戸 工 場 よ り入 手 した グル タ ミン酸 ナ トリ ウム 用 原 料 粉,強 力 粉,普 通 粉,薄 力 粉 の4種 類 を 使 用 した 。 試 料 と し て 使 用 した 小 麦 粉4種 類 の 気 乾 物 含 水 量 は 次 の 如 くで あ る。 表1 小麦粉気 乾物含 水 量試
料 鍛
角講 副 強力粉蘭 騰 力粉
含 糧(°o 14.4214.43114.29,14.28
皿.H 実 験 方 法 1.湿 麩 の調 製 粉 質 に よ り湿 麩 の 調 製 に要 す る水 量 を 適 当 に 調 整 す (註3) る必 要 が あ る。 A.グ ル タ ミン酸 ナ ト リ ウム 用 原 料 粉 試 料159に8m1の 水 を 加 え て 湿 獄 とな し,30分 間 室 温 に て 水 浸 す る。30分 後,鉄 質 と他 の諸 成 分 を 分 離 す るた め に麩 質 を 晒 木 綿 に 包 み,水 道 水 を 徐 々に 注 ぎな が ら10分 間 手 指 で 揉 む と澱 粉 等 は 布 目を と お って 水 中 に放 出 され,布 の 中 に 鉄 質 が 粘 質 性 の塊 と な って 残 る。 更 に5分 間 湿Fを 直 接 水 道 水 の 下 で 手 指 で揉 み, 更 に2∼3個 に 分 割 し,湿 った 布 で軽 く水 分 を ふ き と り秤 量 す る。 (註1)湿 鉄 が 脱 水 剤 に よ って 脱 水 され,そ の重 量 が 平 衡 に達 す る点 を脱 水 極 限 値 とす る。 (註2)湿 麩 が 脱 水 剤 に よ って 脱 水 平 衡 に 達 す る点 の 脱 水 剤 の濃 度 を 限 界 濃 度 とす る。 (註3) 試 料 の 重 量 は い つ れ も得 られ た 湿 鉄 の 重 量 が,ほ ぼ 同 量 とな る よ うに採 取 し た 。 *本 学 教 授一18一 B.強 力 粉 試 料209に11mlの 水 を 添 加 し,以 下 同 様 の 操 作 に よ り湿 麩 を 得 た 。 C.普 通 粉 試 料259に14mlの 水 を 添 加 し,以 下 同様 の 操 作 に よ り湿 鉄 を 得 た 。 D.薄 力 粉 試 料25gに11mlの 水 を 添 加 し,以 下 同 様 の 操 作 に よ り湿 麩 を 得 た 。 2.湿 鉄 の 含 水 量 の 測 定 実 験 方 法1.で 得 た 湿 獄 の 一 部2gを 採 取 し,重 量 既 知 の沸 紙 上 に 広 げ て 常 法 に よ り含 水 量 を 求 め た 。 3.脱 水 限 界 値 の 測 定 脱 水 剤 と して そ れ ぞ れ1M-Na2SO4水 溶 液 及 び6M一 グ リセ リ ン溶 液200mlを300 mlの 共 栓 フ ラス コに 採 取 し,実 験 方 法1で 得 た 湿 蕨 を 入 れ 密 栓 して マ グ ネ チ ッ ク ス ター ラ ーで1時 間 毎 に10分 間 擬 梓 後 湿 麩 を 共 栓 フ ラス コ よ り採 取 し,湿 った 布 で 湿 麩 に 付 着 した 液 を 軽 くぬ ぐ った 後,秤 量 測 定 した 。 4.限 界 濃 度 の 測 定 こ の値 は 湿 麩 の 脱 水 限 界 値 に お け る脱 水 剤 の濃 度 に よ って 自動 的 に 規 定 され るが,詳 細 は 本 文 に ゆ ず る。 5.脱 水 極 限 値 の 算 出方 法 実 験 方 法1.のA.に 示 した 方 法 で 秤 量 し た 重 量 100g当 りに 換 算 し以 下 毎 時 の測 定 値 を 次 に 示 した 式 に よ って 求 め た 。 VVI X100(8) W・:実 験 方 法1のAに 示 した 方 法 で 秤 量 した 重 量 。 W2:実 験 方 法3で 示 した 方 法 で 秤 量 した 重 量 。 上 記 の方 法 で求 め た 各 測 定 値 を グ ラ フで 表 わ し,ほ ぽ 脱 水 平 衡 を 示 す点 を 脱 水 極 限 値 とす る。 皿.実 験 結 果 及 び 考 察 グ ル タ ミ ン酸 ナ ト リウ ム 用 原 料 粉,強 力 粉,普 通 粉, 薄 力 粉 の 各 々 の湿 蕨 に つ い て,水 分 含 有 量,脱 水 極 限 値,限 界 濃 度 の測 定 を行 な い,そ の結 果 を 図1∼4に 示 す 。 肛.1 脱 水 極 限 値 の測 定 A・1M-Na2SO4溶 液 に よ って 脱 水 され た 湿 蕨 重 量 の 時 間 的 変 化 を 図1に 示 す 。 各 試 料 の粉 質 に よ って 脱 水 極 限 値 及 び 極 限 値 に 達 す る まで の 重 量 変 化 率 が 異 り,グ ル タ ミン酸 ナ ト リウ ム 用 原 料 粉 は8時 間 後 に脱 水 極 限 値74.29gを 示 して い る。 強 力 粉 は14時 間 後 に極 限 値71.62gを 示 して い る。 普 通 粉 は21時 間 後 に 極 限 値6a72gを 示 して い る 。 薄 食 物 学 会 誌 ・第19号 (1)一 一 グ ル タ ミン酸 ソ ー ダ用 原 料 粉 (2)一 強 力 粉 (3)一 一 一一 普 通 粉 ④ 薄 力 粉 図1.脱 水 率 の 時 間 的 変 化(1M--NH2SOa溶 液 〉 (1)一 一 一一一 グ ル タ ミン酸 ソ ー ダ用 原 料 用 粉 (2) 強 力 粉 ③ 薄 力 粉 図2.脱 水 率 の 時 間 的 変 化(6Mグ リセ リ ン溶 液 〉
昭 和41年12月(1966年) 力 粉 は14時 間 後 に極 限 値69.879を 示 して い る 。 上 の実 験 結 果 よ り脱 水 極 限 値 は 薮 質 の 質 的 良 否,即 ち "strength"の 度 の 大 き い 程 大 な る脱 水 極 限 値 を 示 す 事 実 が 認 め られ る。 即 ち グル タ ミン酸 ナ ト リウ ム用 原 料 粉,強 力 粉,薄 力 粉,普 通 粉 の順 に 脱 水 極 限 値 は 大 で あ る。 B.6M一 グ リセ リン溶 液 を脱 水 剤 と して 用 い た 場 合 6M一 グ リセ リ ン溶 液 に よ って 脱 水 され た 湿 麩 の 重 量 変 化 を 図2に 示 した 。 A.の 結 果 と同 様 に試 料 の種 類 に よ って 極 限 値 及 び 極 限 値 にこ達 す る まで の 湿 薮 重 量 の 時 間 的 変 化 度 が 異 り, グル タ ミ ン酸 ナ トリ ウ ム用 原 料 粉 は5時 間 後 に 極 限 値 87.659を 示 して い る。 強 力 粉 は6時 間 後 に 極 限 値 86.63gを 示 して い る。 薄 力 粉 は6時 間 後 に 極 限 値 85.80gを 示 して い る。 な お,普 通 粉 は 同 溶 液 に 投 じ た 直 後 に 極 限 値100gを 示 して い る。 即 ち 調 製 湿 獄 は 脱 水 限 界 値 以 上 の含 水 量 を 有 して い る事 を 示 して い る 。 以 上 の 結 果 よ り脱 水 極 限 値 は 獄 質 の"strength"(力 価)の 大 な る小 麦 粉 程 大 き い とい う事 実 が 認 め られ る。 即 ち グ ル タ ミン酸 ナ トリ ウ ム用 原 料 粉,強 力 粉,薄 力 粉 の順 に 脱 水 極 限 値 は 大 で あ る。 置.H 限 界 濃 度 A.Na2SO4溶 液 を 脱 水 剤 と して 用 い た 場 合, 4種 の 試 料 に つ ぎ 種 々 のM濃 度 の 同溶 液 に 浸 漬 後5 時 間,毎 時 湿 麩 を 秤 量 し,ほ ほ1009を 保 つ 濃 度 を 求 め た 結 果 を 図3に 示 した 。 グル タ ミ ン酸 ナ トリ ウ ム用 原 料 粉 は1/60Mで 限 界 一19一 濃 度 を 示 した 。 同 様 に 強 力 粉 は ユ/80M,薄 力 粉 は 1/90M,普 通 粉 は1/1000Mで 限 界 濃 度 を 示 した 。 以 上 の結 果 よ り麩 質 の"strength"の 大 な る も の 程 限 界 濃 度 も大 で あ る とい う事 実 が 認 め られ る。 即 ち グル タ ミン酸 ナ トリ ウ ム用 原 料 粉,強 力 粉,薄 力 粉,普 通 粉 の 順 に 限 界 濃 度 は 高 い 。 B.グ リセ リ ン溶 液 を 脱 水 剤 と して 用 い た 場 合 Aと 同 様 に実 施 した 実 験 結 果 を 図4に 示 す 。 (1) (2} (3) 図4. 一一一 … グル タ ミ ン酸 ソ ー ダ用 原 料 粉 (グ リセ リ ン1/4M) 強 力 粉(グ リセ リ ン1/6M) 薄 力 粉(グ リセ リ ン1/8M) 限 界 濃 度 に お け る湿 麩 重 量 グル タ ミン酸 ナ ト リウ ム 用 原 料 粉 は1/4Mで 限 界濃 度 を 示 し強 力 粉 は1/6M,薄 力 粉 は1/8Mで 限 界 濃 度 を示 す 。 上 の 結 果 よ り獄 質 の"strength"の 大 な る小 麦 粉 ほ ど限 界 濃 度 も大 きい と い う事 実 が 認 め られ る。 即 ち グル タ ミン酸 ナ ト リウ ム用 原 料 粉,強 力 粉,薄 力 粉 の 順 に限 界 濃 度 は 大 で あ る。 皿.皿 湿 麩 の含 水 量 湿 麩 の含 水 量 測 定 結 果 を 表2に 示 す 。 表2 湿 薮の 含水 量
試 料 魔
角講 副 強力粉髄 鱒 力粉
(1) グ ル タ ミ ン酸 ソ ー ダ 用 原 料 粉 (Na2SO41/60M) (2) … 一 強 力 粉(Na2SO41/80M) (3)一 一 普 通 粉(Na2SO41/100M) (4)一 一一一 薄 力 粉(Na2SO41/80M) 図3.限 界 濃 度 に お け る 湿 麩 重 量 含 糧(°o 65.73 66.6・i66.68161.・7 この 測 定 結 果 に よれ ば,試 料4種 の 中 特 に薄 力 粉 の 湿 薮 の 含 水 量 が 小 で あ る が,単 に 湿 薮 の 含 水 量 に よ っ ては 小 麦 粉 の 品質 の 判 定 は 困 難 で あ る こ と を 示 してい る。e20一 食 物 学 会誌 ・第19号 w.総
括
著 者 は パ ン小 麦 麩 質 の 保 水 の 限 度 の 定 量 的 決 定 を 目 的 と し,そ の 一 方 法 と して 鉄 質 の 質 的 特 性 の 異 る小 麦 粉4種 を 試 料 と し,種 々 の濃 度 の 硫 酸 ナ ト リ ウ ム溶 液 及 び グ リセ リン溶 液 を 脱 水 剤 と して 作 用 さ せ,こ れ に よ る湿 鉄 の 重 量 変 化 を 測 定 し脱 水 極 限 値 及 び 限 界 濃 度 を測 定 した 結 果 を 検 討 した 。 1.脱 水 極 限 値 は数 質 の 力 価("Strength")の 大 な る 小 麦 粉 程 大 き い 脱 水 極 限 値 を 示 す 事 実 が 認 め られ た 。 換 言 す れ ば 鉄 質 の 保 水 力 の大 小 も これ に平 行 す る も の とい え る。 この 際,薮 質 の 力 価 の 大 な る小 麦 粉 は 一 般 に 獄 質 含 有 量 も大 で あ る こ とが 知 られ て い るが, これ は 付 随 的 性 質 で あ り,力 価 の大 小 と本質 的 関 連 性 は 存 在 しな い と考 え られ る。 2.限 界 濃 度 に つ い て も1.と 同 様 の 事 実 が認 め られ た 。 3.湿 薮 の 脱 水 極 限 値 及 び 限 界 濃 度 は 小 麦 粉 の 品 質 検 定 に お い て 有 意 義 な 判 定 基 準 を 与 え る もの と考 え る 。参 考 文 献
1) C.H. Bailey:The Chemistry of Wheat Flour. (1925)
2) C.H. Bailey:Physical testの 『 ガo%7 quality・ Wheat Studies, XVI,243{1940]