話題
観音崎産コツブムシ亜目・ヘラムシ亜目等脚目甲殻類
5種の
飼育事例
Case study: Rearing of five species of sphaeromatidean and valviferan crustaceans, collected
from Kannonzaki Bay, Kanagawa, Japan
川崎祐介
1Yuusuke Kawasaki
はじめに 「此処はなかなか良いムシが出る…」.小容器ひと つを携えた気軽な散策で惹かれて以来,筆者は観音 崎たたら浜~鴨居港(神奈川県横須賀市)潮間帯を 頻繁に訪れ,出現する多様な生物を観察している. 本稿では,同地に生息する水棲等脚目甲殻類の飼育 記録をもとに2011年から2016年までに得られた情 報のうち,コツブムシ類3種とヘラムシ類2種を中 心に知見と見解ならびに進捗を短報する.知る限り の情報を提出し,横須賀の自然研究ならびに日本の 甲殻類学の発展を及ばずながら願う. 材料と方法 たたら浜~鴨居港潮間帯では,チビウミセミHo-lotelson tuberculatus Richardson, 1909,シリケンウミ セミDynoides dentisinus Shen, 1929,ヒラタウミセミ Leptosphaeroma gottschei Hilgendorf, 1885,ニホンコ ツブムシCymodoce japonica Richardson, 1906,ナナ ツ バ コ ツ ブ ム シSphaeroma sieboldii Dollfus, 1889, イソコツブムシ属の1種Gnorimosphaeroma. sp.,イ ソヘラムシCleantiella isopus (Miers, 1881),オヒラ
キ ヘ ラ ム シCleantiella strasseni (Thielemann, 1910), ホソヘラムシ属の1種Cleantioides. sp.,モノノフヘ ラムシParidotea robusta Nunomura, 1985,ミスジヘ ラムシ属の1種Pentias sp.(相模湾三浦市黒崎から の み 知 ら れ る ホ ソ ミ ヘ ラ ム シPentias namikawai Nunomura, 2006か,ワラジヘラムシSynidotea laevi-dorsalis (Miers, 1881), ニ ッ ポ ン ワ ラ ジ ヘ ラ ム シ Synidotea nipponensis Nunomura, 1985,シカツノウミ クワガタElaphognathia cornigera (Nunomura, 1992), ヒ メ ス ナ ホ リ ム シExcirolana chiltoni (Richardson, 1905),ニセスナホリムシCirolana harfordi japonica Thielemann, 1910,ヤマトスナホリムシらしき1種 Natatolana aff. japonensis,ヒラタウミミズムシJo-eropsis lobata Richardson, 1899と,(以下未同定)ウ
ミミズムシ科の1種,ミジンミズムシ科の1種,ウ ミナナフシ科の1種,エビヤドリムシ科の1種,ウ オノエ科の1種の幼体などの等脚目甲殻類各種が採 集された.探索を続ければより多くの種を確認でき ると予測している.採集物は必要数を海水ごと大切 に持ち帰り,出来る限り延命させて行動を観察,併 せ て 動 画 撮 影 を 行 っ た. 死 ん だ も の は70%エタ ノールに液浸し筆者蔵. スドー社「サテライト」 研究には飼育用品自体の工夫も含めているが,な かでも(株)スドー社製の小水槽,商品名「サテライ ト」は小型甲殻類の研究者各位に勧めたい逸品であ る.片縁に入排水溝を設けた透明樹脂製の容器で, 1 造形オフィス狸化室 〒145–0064 東京都大田区上池台5–6–1–206 Design office LIKE-SHIT, 5–6–1–206 Kamiikedai, Ota,
Tokyo 145–0064, Japan
既存水槽の外縁に掛け,エアポンプで飼育水を汲み 上げて常時注ぐことで,小水槽内に大量の飼育水を 掛け流し循環させる構造を容易に為す.水質が安定 し飼育物の生存率も向上,生き生きとした所作をい つでも最前面から目視・撮影できるようになった. 小型甲殻類を小水槽のみで飼っては全滅させ,大水 槽で飼っては紛失してきた筆者にとって,本品は絶 大な助けとなった.高倍率ルーペを常備しておくと 咄嗟の行動観察によい.ただし本品は底面への水流 が乏しく懸濁物が滞留し観察しづらくなる傾向もあ るので,筆者は別途にエアー吐出パイプを取り付け て弱く送気し,排水・撹拌・曝気を促した.かくし て筆者の研究室では「サテライト」がメイン扱いと なり,予備タンクと化した本来の鑑賞用60 cm水槽 には現在イソガニ・スジエビ・ヤドカリ類など採集 の副産物と,熊野灘産セミエビ1頭を収容してい る. メッシュ付き隔離容器に飼育物を収容し水槽に沈 める従来の方法もあろう.例えば太田(2014)はツ
ノオウミセミParacerceis sculpta (Holmes, 1904)の食 性検証において,海藻の量的変化を計測する必要か らこの方法を選択している.しかしこの類の器具は 得てして扱いが不便で,距離的・光学的ギャップが 生じて飼育物の子細な観察をしづらくなるうえ,賢 く活発な種では隔離の身を感づいてか行動を鈍らせ る面もあるため,目視観察の装置としては改良が必 要と思われる.「サテライト」を用いた飼育では飼 育物が積極的に食物を齧り口器に収め嚥下する動き に目前で立ち会えたうえ,ニホンコツブムシの肉 食,チビウミセミの褐藻食ときに死肉食,ワラジヘ ラムシの生き餌の捕食,イソコツブムシの雑食(与 えると納豆をも),ヒメスナホリムシの古死肉より 鮮肉を好む傾向(瀕死のコオロギにも食らいつく) など各種の嗜好性と,これら各種に海藻類クビレヅ タCaulerpa lentillifera J. Agardh(市販品),ミルCo-dium fragile (Suringar) Hariot,アラメEisenia bicyclis (Kjellman) Setchell,ヒラガラガラDichotomaria fal-cata (Kjellman) Kurihara et Masuda等を与えても積極 的に摂食せず止まり木としての利用に留まるらしい ことを確かめた.目的に応じた飼育器具が選択され てよいだろう.なかでも有用であった海藻飼料を以 下に記す. 干しひじき 内陸に立地する研究室にとって,海洋動物の餌の 継続的な用意は悩みの種である.海原へ出向くより 量販店に寄る方が易しい.長く飼育したい生物を延 命する食材が,安定的かつ安価に手に入り,かつ日 持ちするなら,これに越したことはない.この観点 で試験給餌を重ねた結果,チビウミセミ,ワラジヘ ラムシ,オヒラキヘラムシ,イソヘラムシについて はヒジキSargassum fusiforme (Harvey) Setchellの乾燥 加工食品すなわち市販の干しひじきが便利な餌とし て役立つことがわかった.投下するとふやけた黒い 表皮を食べ,虫体も生育する.この結果は彼らが磯 の分解者として貢献していることも示唆する.
与えた海藻は糞や残滓となって飼育水中を舞い汚 損する.特に生のアカモクSargassum horneri (Turn-er) C. Agardhは傷みが早く強粘性が生じ槽内環境が 壊滅するおそれがある.干しひじきは,飼育水を茶 色く染めるため予め別容器で水戻ししておくこと, 塵が隔離メッシュや濾過装置の目に詰まるので頃合 いに清掃すること等の点に留意すれば,総じて扱い 易い.取り除いた滓にはしばしばウミセミやヘラム シの幼体,ウミナナフシ,ウミミズムシ等がまぎれ ているので,ただちには廃棄せずいちど白色容器に 浅く広げ容れて静観し,動く者を拾い出すとよい. 各種における知見短報と考察 チビウミセミの色変わり チビと冠するがウミセミと称する国産種としては 大型(老齢個体が腹尾節末端まで13 mmほど.通 称ウミセミ=ニホンコツブムシと比較しての命名 か).褐藻の茎上,伸長したアカモクの茂みを特に 好み,これを食べて暮らす.たたら浜では春の干潮 時,汀線より沖へ約30 m前後先の潮下帯アカモク 群落まで徒歩で赴くことができ,2011年より同地 点で例年この多産状況を確認している.2~3月か ら幼体,3~5月に大型個体が現れ,4月下旬の最盛 期にはアカモク1株の洗い出しで大小30個体超が得 られることから,域全体としては莫大な頭数が出現 しているらしい.しかし潮間帯の岩場,転石下では 寡数みられる程度で,発生頭数のわりに目立たない ため磯遊びで見かける機会には乏しいと思われ,採
集成果は観察会グループや散策客に驚かれる. 体色はしばしば縦に白色の正中1ないし両側端に 各1帯が入る一様な赤褐色だが,筆者の飼育下では 脱皮ごとにたいてい変色しており,寄主植物に近似 の色相を呈して隠蔽を図っている疑いがある.例え ばアカモク上で黒~赤褐色,生ヒジキ上で黄褐色の 採集個体を新鮮な同藻片とともに飼育した場合はほ ぼ採集時の体色が保たれたが,干しひじきや冷凍む 図1. 冷凍むきエビに群がるチビウミセミ. 図2. 緑色化しつつある脱皮中のチビウミセミ. 茹でたアカモクを与えたところ出現した. 図3. (a)メスの上に覆い被さり,(b)のけぞって 胸脚で叩き,(c)振り乱し,(d)丸め込むイ ソコツブムシのオス. 図4. 誤ってチビウミセミ(左),シリケンウミセ ミ(右)を抱えたイソコツブムシ. 図5. 水流(矢印)に向かって脚を広げ,餌を待つ ワラジヘラムシ.多頭飼育下では一斉にこ の行動をとる. 図6. 泳ぎ寄ったヨコエビを素早く捕らえ,生き たまま齧るワラジヘラムシ.
きエビを与えた飼育では鈍い桃~淡紅色(図1), 傷んで緑褐色化したアカモクや加熱処理し鮮緑へ変 色させた同藻を与えた試験では,鮮明な結果を得ら れなかったものの,仄かに暗~青緑色を帯びた若齢 個体が複数現れた(図2).死ぬと鮮紅色,アルコー ル液浸下では徐々に乳白色.甲殻類の体色変化はつ とに知られるが本種においても条件を考察する余地 がある. 入手しやすい餌で初夏頃まで延命でき,手頃な大 きさで目視が容易,可愛らしい印象のある本種は, 愉しい飼育観察に向く.様々な実験が試みられてよ いだろう.揚陸の習性がやや強く,高密度など環境 が悪いとしばしば容器垂直面を登り脱出を試みる が,そのまま乾いて死ぬので平筆を常備しておき発 見しだい水中に払い落とすとよい. イソコツブムシの奇婚 堤防に囲われ和田川が注ぐ鴨居港の汀線付近は塩 分濃度が大きく変動する汽水環境となる.これを好 んでか同地の砂礫中からは例年イソコツブムシの1
種Gnorimosphaeroma sp.(外 形 か らG. rayi Hoest-landt, 1969と思われるが本属の分類は地域分化的な 発見と整理が進められており再検討の余地がある) 図7. ホソヘラムシの1種.棲管は海藻の茎部の 外皮,内径約4.5 mm. 図8. シリコンチューブに住み替えたホソヘラム シ.管の内径約5 mm.腹部に幼体を抱える. 図9. 母体を離れて3日目のホソへラムシ幼体. 管の内径約2 mm. 図10. 同一個体(右)が成長に伴い転居した棲 管.左から環形動物の棲管片,内径2 mm 管,3 mm管.
が多数出現する.飼いやすく,飼育環境がよいと無 為に累代繁殖する.「イソコツブムシのオスはメス を胸の下に抱いていることが多」く(布村,1995), 筆者もかねてより雌雄の出逢いの瞬間を追跡してい たが,同地採集100個体超を飼育し至近より注視し た結果,ガード成立の過程に定型の手順を踏むこと がわかった.しかし一部の所作は意図がよくわから ない. 平常は雌雄とも穏やかであるが3月下旬頃ひとき わ活発に探しまわるオスが出現.メスを発見するや 至近距離から背面へ飛び付き,しばらく覆い被さっ たのち(図3a),突如メスを抱え上げ第1~3胸脚を 叩きつけながらのけぞり(図3b),同時に体幹を左 右に激しく振り乱し(図3c),停止するや腹部に ギュー,ギュー,と2回以上丸め込むことで(図 3d),カップル成立となるらしい.手荒い馴れ初め である. 不可解であるのは図3b, cの担ぎ上げの意図で, 分析には拡大映像の低速再生を要する.力の誇示, 儀式的所作,メスの体向調整とも考えられたが,映 像から察するに,メスを驚かせ大人しく丸くさせ, とにかく懐に抱き込もうとしているように思える. 既にメスを抱え歩いているオスが突如この行動を起 こすこともあった.「おどかすと体を球状にまるめ る」(西村,1971)習性を本種自身が逆利用してい るとすれば特記に値する.また誤ってチビウミセミ やシリケンウミセミを抱くオス(図4),稀には砂 利粒を抱こうと奮闘するオスもみられたが,これは 性選択の条件に視覚やサイズ感が係っていることを 示す.相違を厳格に審査せず突進するオスの性質は 交配の複雑化に繋がる因子ともなり得る. ワラジヘラムシの餌待ち術 本種は沿岸で普通にみられるが,特に例年2~4 月頃,アラメ仮根など汀線を転がる藻屑中に大小多 数がひそんでおり,これを拾って洗い出すことで容 易に確保できる.俊敏でしなやかに走行でき,藻屑 の茂みやピンセット先端を巧みに掻き分けて逃避す る.同地に産する近似種ニッポンワラジヘラムシは 比較的静穏で鈍足な面があり,この点からも両種を 比較できた. また水槽内に緩い水流を作ると,水流に対面する 向きで積極的に体を起こして第1~3歩脚を広げて 待ち,浮遊物を捕らえて食べるという,端脚目ワレ カラ類にも似た待機型の摂餌の姿をみせることがあ る(図5).人工飼料片や同飼料を溶かし匂いをつ けた飼育水を水流に載せると顕著に示す.稀には同 方法で遊泳中のヨコエビを素早く捕らえて食べる事 例が複数あった(図6).筆者は海藻ほか有機物を 食す様子から本種を専ら分解者と捉えてきたが,こ れらの結果から雑食性ときに機敏さを生かした捕食 性を報告する.自然化でも必要と状況に合わせて行 動を選択しているものと考えられ,のそのそと徘徊 する地味な不明種と捉える向きに再考の必要を示 す.本種と遠縁のオニナナフシ科Arcturidae Bate & Westwood, 1868には胸部を起こした姿勢の種や胸節 が著しく伸長した種があり(布村・下村,2011), これら特長と本種の行動は捕食の有利性の点で何ら かの関連があるかもしれない.総じて,本種は他属 他種と比べ,状況判断と運動の能力に長けた賢さを 備えているように感じられた. ホソヘラムシの筒借り 本属の生態に迫った情報は少ない.既知との私信 も頂戴したが充分に議論された状況には遠いと思わ れるし,筆者が実践した飼育法は知る限り報告例が 無い.広い知見共有を願い以下に掲する. ホソヘラムシ属には,海藻の仮根の枯れた表皮, 筒型貝類の空き殻の破片,環形動物の棲管のかけ ら,カニ類の死骸の歩脚断片といった,他者由来の 筒状構造物を磯の藻屑より選んでその内径に身を隠 し,短筒であればそのままヨチヨチ歩行する,ヤド カリの如き習性をもつ種がある(図7).似た隠遁 術を備えた種は他の甲殻類や昆虫類等にも存在し, 収斂の好例といえよう.筆者はこれら種毎の分類や 生態の相違は慎重に比較される必要があると考えて おり,本属の行動についてはホソヘラムシの「筒借 り(筆者造語)」と仮称し,筒作り=造巣性とは区 別して捉えている.観音崎潮間帯で確認できた個体 数は過去5年で計6頭と少ないが,それぞれ採集し 飼育実験を行った. まず筒はシリコンチューブや飲料用ストローなど 人工素材でも代用可能である.移し替えは強制退去 も可能だが,頃合いの筒を傍らに添え置くと試着検
討し,気に入ると引っ越す.このとき虫体自身の太 さと内径の関係すなわちフィット感を重視している ものとみられ,広すぎるぶかぶかの筒は好まず,し かし内径が程よいと長大な物件でも力ずくで曳き歩 く.第1~3胸脚は歩行と把握,第4~7脚は筒内壁 での体幹固定に用いられ,引き抜きや引き剥がしに 対して強い抵抗力を発揮する.餌は動物質各種小片 のほか熱帯魚用のフレーク飼料を与えた.ピンセッ トで差し出すと飛びつき第1~3脚で抱えて食べる. 本種はこうして有機物が手近に降りかかるのを待 ち,ときに移動しながら暮らしているものとみられ る.筒から顔だけを出し,手渡しした餌を掴んで食 べる姿には愛着すらわく. 抱卵したメス1個体で行った飼育では透明筒に 入ったまま放仔した(図8).幼体は育児囊を離れ て約2日ほど遊泳,以後は水底に留まり徘徊したの で,長さ3 mm前後に刻んだ極細チューブやイヤホ ンコードの被覆ビニールを投入したところ,さっそ く内見のち入居した(図9).これらの結果は本種 の筒借りが生涯を通じることを推測させる.成長や 必要に応じて良物件を探し入退居しているのであろ う(図10). 採集個体は布村・下村(2011)に収録された日本 産既知3種中ではホソメホソヘラムシCleantioides poorei Kwon & Kim, 1992,また同誌同頁「アメリカ 大 陸 のCleantioides planicauda」 改 写 と そ の 原 図 (Benedict, 1899)にも類似するが,眼つきや腹尾節 末端の小湾入など一致しない形状もあった.筒借り や筒作りは上記1種に限らず海外産の複数の種が行 うようで,インターネット上の記事やデータベース に記録が在るが子細でないため,同定に至る情報を 現在まで閲覧できていない.採集地の地形が頻繁な 海運のある東京湾内湾の出入口を為すことを加味す ると,遠方より移入している疑いも拭いきれない. 慎重な観察と知見の整理が求められよう. まとめと進捗 以上のとおり曖昧な点が多いが,これら偶発的小 知見の枚挙がいつしか集積となり,体系的議論への 微力となることを願う.本会の「開かれた」運営方 針は,矮小なる海虫の些細な動作を愛おしく眺め 放っておけない筆者のような在野者にとって誠に頼 もしい窓口であり,厚く御礼申し上げたい. 追記:こつぶ法廷弁護人 他に確認された事例は判断材料が不足しており研 究を継続している.例えば夏期にみられるナナツバ コツブムシでは,これが多数穿孔する泥岩小礫ごと を水中に沈めた状態で静穏に飼育し礫の状態に注視 したが,掘り進んだ様子が若干みられたのみで岩の 外形自体は殆ど保たれ,たちまちのうちに崩壊する ほど性急な掘削の様相は確認できなかったという結 果を得た.外的要因の動静が本種の作業動向に影響 する可能性を孕んだ結果である. 本種は広島県東広島市ホボロ島の基質浸食事例で 知られ(沖村ら,2007.http://www.geosociety.jp/faq/ content0012.html),島を食べるとの見出しで度々メ ディア紹介される.地質学的には同意するが上記結 果に照らして本件全容を考えるに,外的要因との複 合的関係性を度外視しやすい感情バイアスの内在に よる認識の偏向を疑う.すなわち,波浪が岩を破砕 →コツブムシは住居を逸してやむなく新改築→岩の 耐久性さらに悪化→波浪が岩を…この反復が島の崩 壊を加速させる真相ならばコツブムシの仕業だけに 限らないのであって,慎重な“審理”を待たずして 我々は彼らを恐るべき“主犯格”へ仕立ててよいの か,荒波にたゆまず踏ん張る姿ではないかという疑 念が生じるのである.浸食を環境破壊に例えて人類 への警鐘に重ねる表現もしばしば紹介に添えられる が,本種はほぼ水棲で遊泳能力があり基質が海中に 没せども生活に差し支えないから,それとこれとは そもそも話が異なる.もし今後,にじり寄る破壊者 への嫌悪と消えゆく郷土への惜しみから,害虫駆除 やコンクリート補強などの景観保護策が急がれるこ とがあれば,それは自然現象へのヒステリーともな り得よう. 我が『島』は,散るが定めの『岩』なのか?この 逆説は本件の議論をより有意義な局面へいざなうと 筆者は考える.ただしこうした“弁護”には中長期 的な“実況見分”が必須であるし,観音崎産個体群 の飼育例がホボロ島の事例にただちに照合できると は限らないので,ここでは断言的な主張を見送る.
ホボロ島に似せた箱庭を設け,一方を静穏に,他方 に人為的な波浪をぶつけてコツブムシを困らせ,両 者の穿孔状況(穴数,速度,深度)を計測する比較 実験を試みれば,興味深い結果が得られるのではな いかと予測する.コツブムシの“犯行”は,“認識 ある過失”か,“未必の故意”か. 謝 辞 観音崎自然博物館学芸員の皆様,鴨居港に集う近 隣の皆様方と,観音崎大橋の袂のお地蔵様のお目こ ぼし無くして,上記報告は実現致しませんでした. 得られました情報を本稿にて還元申し上げます.ま た(株)生物研究社様刊「海洋と生物」御誌に心強い 連載をご執筆の布村昇博士,下村通誉博士,機会を お与えくださいました本会と,本誌査読者,編集者 様に深謝申し上げます. 文 献 太 田 悠 造,2014.外来種ツノオウミセミParacerceis sculpta(甲殻亜門;ワラジムシ目;コツブムシ科) の報告とクビレヅタへの影響.日本ベントス学会 誌,69: 85–89. 布村 昇・下村通誉,2011.日本産等脚目甲殻類の分 類(11)ヘラムシ亜目オニナナフシ科(1)オニ ナナフシ属・ヒロムネヒメナナフシ属.海洋と生 物,33: 468–475. 布村 昇・下村通誉,2011.日本産等脚目甲殻類の分 類(12)ヘラムシ亜目オニナナフシ科(2)ヒメ ナナフシ属・ツメナシヒメナナフシ属およびカン カイオニナナフシ科.海洋と生物,33: 563–573. 布村 昇・1995.等脚目.原色検索日本海岸動物図鑑 II(西村三郎編著).保育社,大阪,pp. 224. 西村三郎・1971.等脚目.標準原色図鑑全集16(鈴木 克美共著,内海冨士夫監修).保育社,大阪,pp. 76. 布村 昇・下村通誉,2011.日本産等脚目甲殻類の分 類(10)ヘラムシ亜目ホソヘラムシ科.海洋と生 物,33: 377–381.
Richardson, H.R., 1905. Monograph on the isopods of North America. Bulletin of the United States National Muse-um, 54: 1–727.