C A N C ER 5 (1996), p. 11 -14 11
タラバガニはホンヤドカリと本当に近縁か?
イガグリガニ,工ゾイバラガニ,コフキ工ゾイバラガニ
にみられた左右逆転奇形
渡 部 十l
拘l甲殻類、に お ける 外 而 形態 の 大 進化 , 特 にカ ニ型体制 の 獲 得 を 考 察す るうえで, しばし ば体制 の左右対 称 性 は きわめて重要な 形 質として理解さ れ て い る (M artin & A bele. 1986). こ の う ち で も水産対 象 種 群 と し て 重 要 な タ ラ バ ガ ニ 科 に 関 し ては ,古くより (1) 右 鉛脚 が大きいこと , (2) 雌 の 場 合,腹 肢 が 腹側 からみて右側 に存在する , と いう特徴からヤ ドカ リのうちでもホンヤドカ リ科 との強い進化 的頒 縁関係が提 唱 さ れ て き た . 近 年 のyJJ生 形 態 の比 較 , ま た 分 子 進化 学 的手 法 に 基 づ く遺伝子解析の結果 を 見て もこの主張と同様な 解 釈が発表されており ,タ ラバガニ 科 はホン ヤド カ リ科 と 共 通 し た 祖 先 と は1300-2600万 年前 に分岐 et al.. 1992) . 実 際 に こ れ ま で 記 載 さ れ た タ ラ バ ガ ニ 類 の う ち 鉛 脚 の 左 右性 が逆転して 固定され,左銑I
脚 が 大 き い ことが種固有の形質と 判 断 され るものは存在しな い. 加 えて ,奇 形 と し て 左 右性 が逆転すること も 報 特例 がな いこ とから「鉛脚,腹部 の 左右対称性」 という形質はタラバガニ 科 を含むホンヤドカ リ上 科 で は 進化 過程 で一貫 し て 右側 に保持されてきた ものだと考えてよい よ うにとれる . ところで,本当にこの形 質をタラバガニ 科 とホ ンヤドカリ科との進化 的 類 縁↑生を裏付 ける第一 の 証拠としてとらえて よいものだろうか? もしそ う で あ ると解釈できたと ころで,本 当 に 彼 等 の 左 右 性 は 強 固 に出l
定さ れ て い る と 考 え て よ い だ ろ う か? また , なぜ右利 き で な け れ ばならな いか, そ の意義とは何 である か疑問 が生じる .H ajim e W A T A s E : King crab s-A re they reall y con. generic to pagurid hermi t crab ? Left- hand ed Paralom is hystrix (D e H aan. 1884) . P. m
ω
ttspm a(B enedi ct. 1895). and P. japonica B alss. 1911
7c この疑問 に答える 一助 としては,実 │祭に左 右 の 逆転し た個 体 を示すこ とが挙 げ られ る. 私 は深海 性タ ラバガニ類の系統関係,種 分化様 式 を 生 態 的 特 質 を ふ ま え た 上 で解 釈するため ,東 京 海j長谷, 相撲 灘,水 深150-1 600 m を調査海域 として 1983年 以来 漁 船 に よ る 重 度 の 反 復 調 査 を 実施 してきた 約700地 点 の 調 査 の 結 果,左 右 の 逆 転 し た 例 体 を Paralmnis hystrix (D e H aan. 1844) イ ガグリガニ , P. multispina (B eneclict. 1895) エ ゾイノすラガニな らびに P. japonica s alss, 1911 コ フキエゾイノfラ ガニにおいて1個 体ずつ採集するこ とができた . これ ら の 性別, 計
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!IJ値 など は次のとおりである . い ず れ の 種 の 場 合 で も 紺脚 , 腹部 の 左 右 逆 転 を 正 常個 体の場合とともに示した . 前も ってお断りし て お く が, ここで示した写真は決して 写真 焼 き 付 け上 の トリ ックを経ていない. イガグ リガニ : 相模 灘水 深240-27 0 m 岩礁 1995年 7 月27日 1雌 年l長 : 31. 3mm これまで 日本周 辺 からのみ報告 さ れ て い る エ ゾ イ パ ラ ガ ニ 属 の一種であり ,旧来 よ りその特異 な 形 態 か ら 注 目 を 集 め て き た 調 査 海 域 で は 最 も 浅海 よ り 採 集 さ れ る が,近 年 保 集 で き る 個体 数 が 過酷 な漁獲圧を 加 えたためか激減している . 卵巣 の 発 達 が軽 微で あ るた め, 性 的 に は 未 成熟な 個体と 判 断 した . エゾイバラガニ : 東京 海 底 谷水 深730 m泥j氏 1994年4 月 14日 1雄 甲長 :70.7mm12
タラバガニはホンヤドカリと本当に近松か?1 A-1 D. Paralomis hystrix (D e H a a n , 1844 )イガクリガ二 未成熟雌個体 を示す. 1 A
,
1 B : 左右逆転個体. 1 C,
1 0 :正常個体.2 A - 2 0 . Paralomis multispina (Benedict, 1895 )エ ソイ/ ,.ラガニ
Briarosaccus callosus B o s c h m a, 1930ダイオウナガフクロム シに寄生 された雄個体を示す. 2 A, 2 B 左右逆転個体. 2 C, 2 0 : 正常個体.
渡 部 元 13
3A-3D. Paralomis japonica Balss, 1911,コフキエ ソイハ ラガニ 抱卵個体 を示す.3A, 3B :左右逆転個体. 3C, 3D :正常個体. ここで示 した友右逆転エゾイパラガニは 1 個体の
大型フクロムシの 一種,Briarosaccus callosHs sos 布 ・
1
上をうけており,雄でありながら腹肢が不完??で であるが11'1現している (Watabe,1995 ). これも 正常な雌とは反対に IJ別lJlから凡て左似IJであり,当 然服部の雌特有な発達も左側が顕著ーである . さら にダイオウナガフクロムシに閲しては,生前1'(イしが ホストの )J反側からみて右側に閉口することが常で あるが (sower & Sloan, 1984),今回の場合もホ ストの左右の逆転とは関係なくd : :M
イしはJJ¥{11!
りから 凡て右側開口である. コフキエゾ : 東京海底谷水深280-300m砂泥, イバラガニ 岩礁 1994年 2月17日11
包呼11d甘i
甲長 :57.0mm コフキエゾイバラガニは希な Paralomis として 中部日本i
斬深海性タラバガニ類を代表するものと 考えられている (H ayashi & Yanagisawa. 1981 : 池田 ,私信 : 渡部,未発表) . 完全に左右が逆転 していることが正常抱卵個体との対比により明ら かである. 以上に示した3 称性も逆転しうることを端的に示している. また, 過剰再生のような比較的発生しやすい明確な治形 とは異なり ,JP
常に希な現象であると 言 えること から「称めて希な計形」として解釈した方が良さ そうである. つまり,左右逆転訂形が,エゾイバ ラガニの場合これまで20t 程度検査して初めて得 られたこと,イガグリガニ , コフキエゾイハラカ ニの場合でもこれまで、当海域より採集された例休 が今回報特した{ 肉体以外し、ずれも正常であるこ と,が挙げられるからである( 池田,私fu-
・波音¥1, i 未発表) . 以上の論議からしてもタラバガニ利は やはりホンヤドカ リ科と進化的類縁度が尚いと理 解しておくことがさし当たり妥当であると思われ j k.:jfr
性 はホンヤドカ リ上科におい て一貫して右平IJきに保持されてきたとすることが 現在の形態形質に基づく進化 を考肢に入れた分類 体系を支配しているものの , こうした標本が得ら れたことは,我々に「この解釈には以前とは異な14 タラバガニはホンヤドカリと本当に近縁か? り慎重な解釈が必要である .J との要求を求める のかもしれない . 残念なことに,彼等の「右利き の意義」については未だに不明である . 単にホン ヤドカ リと共通した祖先の形質が残存した結果と 解釈すべきなのだろうか, 今後いかなる説明付ーけ が与えられるか,極めて興味あるトピックである . さらに,タラバガニ科の特質を挙げると ,その 出現が高々数千万年前と見積もられるにも関わら ず異尾類 中では
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軒家海において最も広範な種分化 放散を遂げた 群の一つであり, しかも唯一 巨大 化 を達成した分類群であると判明していることが 特筆に値する. 同じカニ型体制 を獲得したカニダ マシ,クダヒゲガニといった異尾類が小型で、あり, しかも専ら浅海に 出現することと対比すると,タ ラバガニ類の特異性がより明らかになる. これは , 油i
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深海也大型底生生物 の起源,あ るいは彼等の種 分化様式に解釈を与える上でタラバガニ科が絶好 の研究対象であることをよく示していると行え る. 彼らの生態的特質ならびに生物地理学,形態 形質および分子情報 に基づく系統解析の統合解釈 によりこのような興味ある研究課題の解釈に飛躍 的進展があ るものと考え ,これま での野外調査, 系統解析の成果を取りまとめている次第である . 巻員では巻き方が逆になった な形倒体は蒐集家 には非常に珍草され, ときには所有名ー自身の代名 詞となることもあるという . 叶l殻類ではこのよう な寄形がきわめてまれなせいか,あるいは蒐集家 自体が少ないせいかこうした話をあまり聞かな い. たしかに ,左右の逆転はタラバガニ科ではき わめてまれな現象であるといってよい. しかし, ホンヤドカリ科ではどうだろうか Iド殻類学会の 諸兄が近い将来,左巻のクボガイに入った左利き のヤマ トホンヤドカリ , といった極めつけの逸品 を採集されることを楽しみにしている . 本報告の作成にあたり ,長年にわたって筆者の 調査を快諾して下さった漁業者各位,未発表! 宵報, 貴重なご助言ならびに進話の提供を下さった葉山 しおさい博物館の 池田 等学芸員に末筆ながらお 干し巾し上げる次第である. 文 献Bower. S. M. & Sloan. A.. 1985. Morphology of thc cx・ terna of Bl'iarosacclls callosHs Bosc h ma (Rhi zocephala)
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