182 シンポジウム 論 考 投稿原稿 会務報告 大会報告 韓 国 経 済 教 育 学 会(KEEA) の 機 関 誌『 経 済 教 育 ジャーナル』に掲載された 268 本の論文の計量分析を 行おうというものであった。それによると,初等・中 等教育分野の教員養成を任務とする大学などの教員が 筆者となる論文の掲載量が着実に増加し,逆に教育系 以外の大学や研究機関に属する教員などが執筆する論 文の掲載量が減る傾向にある。個人論文が減り,共著 論文が増える傾向,初等・中等教育分野の教育を対象 とする論文が増える傾向,計量的な分析手法を用いる 論文が増える傾向が検出されると結論された。パワー ポイントを効果的に使われ,わかりやすい報告であった。 2 番目は,KyungdongHahn(韓暻東)(韓国外国語 大学経済学部,韓国経済教育学会編集理事)さんと KyunghoJang(張景皓)(仁荷大学師範学部,韓国経 済教育学会学術理事)さんの共同報告であり,テーマ は,「AnAnalysisonNationalOfficialQualification TestsforEconomics(韓国の経済学国家公認資格試験 分析)」であった。OECD の高等教育の学習成果の到 達度評価を進めようとする OECD(経済協力開発機 構)の方針を具体化するために,韓国では,学生(学 習者)の経済学の理解度を評価する国家認定資格試験 がすでに行われていることが紹介された。そのうえで 2 種類の代表的な資格試験のレベル・内容・目的が分 析された。日本の経済教育の実践家にとって,身につ まされるような思いで聴いた報告であった。 第 3 報告は,山岡道男(早稲田大学)淺野忠克(山 村学園短期大学)阿部信太郎(城西国際大学)さんの 3 名であり,「高校生の経済リテラシーの現状─TEL4 の結果を中心に─」というテーマで報告された。米国 で開発された「経済リテラシー」テストの第 4 版を翻 訳・翻案したものを 2014 年に,日本の高校生を対象 にして,実施し,その到達度を米国のそれと比較しよ うとするものであった。それによると「機会費用」を はじめ,「金融」分野,「公共財」の分野の理解が日本 では弱いことが判明したとされた。 予稿集では英文で執筆された論文が多かったが,口 頭報告はハングルと日本語で行われ,両言語間で逐語 通訳が行われた。それぞれに興味深いテーマが取り上 げられており,日本の経済教育の将来像を占ううえで も,参考になる分科会であった。 (文責:藤岡 惇) 第 8 分科会 「現代の経済政策と経済教育」 第 1 報告は,箕輪京四郎(元横浜商業高校)会員の 「山家悠紀夫何のための『負担増』か?─アベノミ クスの 1 年とこれからを読む」である。報告者は現役 時代,教師は教える内容を熟知し,教える相手を見定 め,教える方法を工夫することが必要との考えから, 教科書に疑問を見出してはメモし,見学・取材し,新 聞,縮刷版,統計を調べて生徒に配り,生徒が書いた コメントは無記名でプリントして全員でシェアするな どの工夫を行ってきた。現役を離れてから 20 年以上 は,地域の生涯学習での勉強会や,明治学院大学の大 学祭でのパワーポイントでの「経済教室」開催などに 取り組んできた。今回は,岩波『世界』2014 年 3 月号 に載った山家悠紀夫の表題の論文を,授業で使えるよ うに紹介する。報告者が追検索した統計をグラフ化し たり,論文の後の展開を加えたり,現場の先生方が新 聞の縮刷版を検索する便などに新聞記事の日付・抜 粋・見出しを添えたりした。 第 2 報告は,阪本将英(専修大学)会員と在間敬子 (京都産業大学)会員の「震災復興ならびに地域活性 化に向けた情報発信の有効性と課題─宮城県石巻市 のキッズ・メディア・ステーションを事例に」である。 阪本会員が報告した。一般社団法人キッズ・メディ ア・ステーションは,2011 年 12 月に代表の太田倫子 氏が,子どもたちが笑顔を取り戻す手伝いをしたいと 設立した。そこで発行されている「石巻日日こども新 聞」は,「こども記者」が取材,作成している新聞で, 子ども目線で,被災地の情報を発信し,震災体験や復 興を記録している。スポンサーや,印刷協力をする石 巻日日新聞,こども記者の保護者,地域社会などをス テークホルダーに巻き込んで,子ども目線で発見され た石巻の魅力が再認識されるとともに,中長期的な復 興と地域活性化の担い手が育成されている。報告は参 加者の興味を引き,活発な質問がなされた。 第 3 報告は,猪瀬武則(日本体育大学)会員の「グ ローバリゼーション下の経済と倫理を考える─小学校 社会科における「援助と開発」の扱い─である。小学 校の「国際理解」の単元では,予め予定された徳目が 教授される場合が多い。「貧しく苦難する発展途上国 に対して,国連や募金を通して援助すべき」といった 展開がなされている。報告者は課題を深化させるべき という。日本・世界が国際協力を行っているが,なぜ 発展途上国の貧困は解消されないのか,なぜ変革が困 難であるのか等である。米国のグローバルゼーション 教育を巡る問題を紹介したうえで,グローバリゼー ション下の経済と倫理の内容構成について,「開発と 援助」を巡って,経済と倫理を問うカリキュラムを提 The Japan Society for Economic Education
経済教育34号 183 示した。質疑では,アメリカのグローバル教育の現状 についての質問,貧困について日本の身の回りの問題 を取り上げるべきとの意見があった。 第 4 報告は,塩田尚樹(獨協大学)会員の「CRS 企 業の利潤最大化問題教授法についての考察」である。 2 生産要素 1 生産物モデルにおいて,規模に関して収 穫一定(CRS)生産技術を持つ完全競争企業の利潤最 大化問題を扱う場合の,教育上の工夫を論じた。CRS 技術の下での利潤最大化行動では。産出ゼロが最適解, 最適解が無数,あるいは最適解が存在しないとの場合 が生じ,学生を混乱させている。報告者は,費用最小 化問題から費用関数を導出し,次に,その費用関数の もとでの利潤最大化による産出量の選択という「多段 階アプローチ」を提案した。さらに,これを利用して, グラフにより要素価格フロンティアを導出する方法を 示した。1 次同次の生産関数の場合,費用最小化条件 を説明するだけで十分ではないかとの質問があった。 利潤最大化条件により供給曲線を示すことで,需要条 件によっては産出ゼロが市場均衡になることを示すこ とに意義があると回答された。 (文責:松尾匡) 第 9 分科会 第一報告は,糸井重男(松商短大)の「経済・金融 教育における ICT を活用した“反転授業”の有効性 と課題」であった。糸井報告は,知識の習得に重きを おいた従来の教育目標のみでなく,汎用的で実際に 「できること」を重視する教育目標を実現するために, ICT を活用した反転授業の意義についての興味深い報 告となった。 まえもって学生に授業の課題についての理解を自習 させておき,本番の講義では,ディスカッションや学 生によるプレゼン,オリジナルのテストなどを行って 理解を確かなものとし,実際に活用できる能力として 定着させるという試験的な授業内容の報告がなされた。 これから,さらに有効性のある授業展開をおこなっ ていくうえでのさまざまな問題が整理され,検討された。 現場の授業実践に裏付けられた貴重な報告となった。 第二報告は,斎藤清「金融庁次世代 EDINET 対応 の経済・会計教育システム」であり,2013 年度より 稼働することとなった次世代 EDINET において,東 証 33 業種と同じ分類に変更されたことや,従業員数 や経営指標の項目などが追加されたことを受けて,イ ンターネット上でアクセスできる財務データを縦横無 尽に分析できる XCAMPUS の新段階についての刺激 的な報告となった。 この EXCAMPUS の進化によって,財務データを 直接買うことができない大学などにおいても,これか らのデータの蓄積によって,学生に直接,EXAM-PUS をとおして日経指標に準拠した財務データに触 れさせることができるようになったことは特筆にあた いすると思われる。EXCEL 出力によるデータ活用も さることながら,拡大扇型散布図や三色三角バブルグ ラフや三次元図などといった,視覚的な教育資料を提 供できる XCAMPUS の利用範囲が広がったことの意 味は大きいと思われる。 第三報告は新井明「経済教育と金融教育の間─セ ンのケイパビリティ論を手がかりに─」であり,金 融教育の課題を経済教育のしっかりとしたベースの上 で展開する必要性と方向性を示した意欲的な報告で あった。金融リテラシー教育が,「貯蓄から投資」へ といったような生々しいスローガンを無批判に押し付 けている現状に対して警鐘をならす有意義な議論が展 開された。 金融教育と経済教育の間に,「知識とスキルとアク セスに基づいて金融資源を効果的に管理する能力」で とされるケイパビリティ概念を媒介させることによっ て,金融教育においても消費者主権を徹底する方向で, 金融スキルの蓄積が必要であるとされた。アマルティ ア・センのケイパビリティ論から示唆を得て,とりわ け金融アクセスから遮断されている貧困層の金融スキ ル向上が,豊かな暮らしを実現する前提となるという 認識には大いに学ばされた。 金融スキルという意味での能力開発のみでなく,金 を稼ぐという労働の視点からもケイパビリティ論は有 効に働くのではないか。むしろ労働の潜在能力を前提 にしてはじめて金融スキルのケイパビリティ論が本当 に生きてくるのではないかと意見も出された。 第四報告の中里弘穂(福井県立大学)「若年者の早 期離職の要因と職場ならびに教育現場での効果的な離 職防止策を考える」では,福井県立大学と高校生への 独自なアンケート調査にもとづいた若者離職の原因分 析がなされた。若者離職の先行研究を踏まえながら, 大学生活の在り方と若者離職行動の関係性について分 析が進められた。その上で,離職防止にキャリア教育 が果たす役割について,労働にもとづく職場観の育成 や,職場の上司や同僚になんでも相談できるといった コミュニケーション能力の向上が効果的であることが 説得的に示された。 (文責:岩田年浩・増田和夫) The Japan Society for Economic Education