管理職の臨床指導時に生じる怒りの一次感情と性格特性の調査
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(2) 374. 理学療法学 第 45 巻第 6 号. このように指導時に生じる怒りの原因は,指導時の期 待とのズレ 制. 10). 害. 11). 8). ,プライドの損傷. 9). ,相手のための行動規. ,指導者への自尊感情の侵害. 10). ,自己利益の妨. ,などであり,これらの原因により怒りが喚起さ. れている。怒りは第二感情といわれ,怒りの前提となる 16). 上司指導,他部門指導の 6 区分における怒りの一次感 情. 22)23). について,落胆・心配・悲しみ・寂しさ・傷つ. き・不安・つらい・苦しい・痛い・困った・嫌だ・疲れ た,の全 12 の選択語から,6 区分それぞれにおいて, もっともよく感じる怒りの一次感情を抽出した。. 。怒りの一次感情を理解するこ. 説明と同意については,国際医療福祉大学倫理審査委. とは,指導時の怒りを制御し,円滑な指導をするうえで. 員会の承認(承認番号 16-Ig-88)を得て行った。これに. 重要であると考えられる。. 基づき同意の得られた理学療法士(対象施設 10 施設の. そこで本研究では,臨床指導時に生じる怒り感情に焦. うち,管理職の男性理学療法士 22 名,年齢は 30 ∼ 54. 点をあて,臨床で指導や監督することが多い管理職の性. 歳(平均 40.4 歳 SD = 5.19) ,卒後年数は 8 ∼ 32 年(平. 格特性と怒りの一次感情を調査した。怒り感情を理解す. 均 16.7 年 SD = 5.07) , 指 導 歴 は 6 ∼ 25 年( 平 均 14.0. ることは,日々の臨床指導を有益にし,臨床指導の有効. 年 SD = 4.26)を対象とした。なお管理職基準は,部長・. な対策になると考える。本研究の目的は,怒り感情の前. 課長・係長・リーダー・班長・役職なしの区分から係長. 提とされる怒りの一次感情を明らかにすることと,性格. 以上を選択したもの(部長 6 名・課長 10 名・係長 6 名). 特性と怒り喚起の関係を明らかにすることである。. を管理職と定義した。管理職の指導対象区分,指導区分. なお本研究では,指導とは「目的に向かって教えみち. における怒りの一次感情の出現具合,怒りの生じる指導. 一次感情が存在する. 17). とする意味から,業務の目的に応じて理. 場面については度数を算出した。統計処理は IBM SPSS. 学療法士が指導的立場に及ぶ行為・他部門への指導(看. ver.23 を使用した。管理職の性格特性と怒りの一次感情. 護部へのトランスファー指導や退院調整への示唆,各種. および各調査項目間の相関には Spearman の順位相関分. 委員会で薬剤部や放射線部など他部門への指導,医療情. 析を用いた。有意確率は5%とした。. びくこと」. 報管理課などへの診療報酬に関するレセプト調整指導, これらを踏まえた管理職が管理職に行う指導,部下が得. 結 果. 意とする分野の上司に対して行う伝達講習指導やパソコ. 対象者の基本属性を表 1 に示す。A 施設・部長 1 名以. ン業務の指導など)すべてを「臨床指導」と定義する。. 下スタッフ 24 名・全 25 名中有効回答 11 名であった。B. また,指導区分の 6 区分に関しては,学生は養成校在学. 施設・課長 1 名以下スタッフ 10 名・全 11 名中有効回答. の者,新人は入職 1 ∼ 2 年目の者,後輩は自身の経験年. 7 名であった。その他 D ∼ J 施設の全 10 施設を表 1 に. 数以下の者,同僚は自身と同期入職または同じ経験年数. まとめる(C と G 施設は女性管理者のため除外) 。なお. の者,上司は自身より職位が上位または経験年数が上の. 質問紙の各調査項目に 1 つでも欠損が見られた場合,有. 者,他部門は施設内外を問わず自職場以外の関連する部. 効回答から除外した。管理職の内訳は,部長 6 名・課長. 門の者,と定義した。. 10 名・係長 6 名であった。また,年齢の平均は 40.4 歳(標 準偏差 5.19) ・卒後年数の平均は 16.7 年(標準偏差 5.07) ・. 対象および方法. 指導歴の平均は 14 年(標準偏差 4.26)であった。. 研究デザインは配標調査法による自記式アンケートの. 管理職の指導対象となる指導区分と怒りを生じる指導. 横断的調査研究とした。調査項目は基本項目として,年. 対象の内訳を表 2 に示す。指導区分は学生指導・同僚指. 齢,性別,卒後年数,指導歴,指導区分,管理職区分と. 導・上司指導は 0 件,新人指導は 1 件,後輩指導が 14. した。性格特性をみる指標として,日本語版 Ten Item. 件で最多,他部門指導は 3 件,すべての指導は 4 件であっ. 18). を用い,その人個人. た。管理職区分では,部長職は後輩指導に 3 名,他部門. の外向性・協調性・勤勉性・神経症傾向・開放性の 5 因. 指導に 1 名,すべての指導に 2 名であった。課長職では. 子の性格特性を調査した。自尊心をみる指標として,. 後輩指導に 8 名,すべての指導に 2 名であった。係長職. Personality Inventory(TIPI-J). 19). を用い,自分と他者. では新人指導に 1 名,後輩指導に 3 名,他部門指導に 2. を比べることなく,自分自身に対して尊敬でき価値観を. 名であった。また,怒りを生じる指導対象は複数選択を. 見出せるか否かを調査した。怒り・攻撃性をみる指標と. 可とし,後輩指導が 21 件で最多,学生指導 20 件,新人. ローゼンバーグの自尊感情尺度. して,日本語版 Buss-Perry 攻撃性質問紙. 20). を用い,. 指導 19 件,同僚指導 8 件,他部門指導 8 件,上司指導. 短気・敵意・身体的攻撃・言語的攻撃の 4 因子と,これ. 6 件であった。. をまとめた全攻撃性の 5 つを調査した。さらに,怒りの. 指導場面と怒りの一次感情の出現具合を表 3 に示す。. 21). を用い,怒り感情の喚起しやすさと. 怒りの一次感情を示す「困った」の言葉はすべての指導. 持続しやすさを調査した。臨床指導の怒り感情を把握す. 場面に観察された。また「心配」は 6 区分中 5 区分で, 「落. るために,学生指導,新人指導,後輩指導,同僚指導,. 胆」と「不安」は 6 区分中 4 区分で観察され,被験者. 喚起・持続尺度.
(3) 管理職の指導時に生じる怒りの一次感情と性格特性. 375. 表 1 対象者の基本属性(n = 22) 管理職区分. 施設. 全職員数. 同意者数. 有効回答数. 対象人数. 年齢. 性別. 卒後年数. 指導歴. 1. A. 25. 23. 11. 1. 41. 男. 16. 16. 2. B. 11. 8. 7. 1. 54. 男. 32. 16. 1. D. 21. 20. 20. 3. D−1. 1. 35. 男. 12. 10. 1. 4. D−2. 1. 30. 男. 8. 8. 5. E−1. 1. 42. 男. 19. 18. 6. E−2. 1. 38. 男. 18. 10. E. 71. F. 26. 40. 25. F−1. 1. 42. 男. 20. 19. F−2. 1. 34. 男. 12. 12. 9. H−1. 1. 40. 男. 16. 13. 10. H−2. 11. I. 51. 42. 35. 1. 1. 1 1. J. 70. 53. 46. 12. 17. 1 1. 12 1. 1. 37. 男. 9. 9. 1. 49. 男. 25. 25. J−1. 1. 38. 男. 16. 15. 1. 13. J−2. 1. 40. 男. 16. 15. 1. 14. J−3. 1. 49. 男. 21. 13. 1. 15. J−4. 1. 44. 男. 15. 10. 1. 16. J−5. 1. 38. 男. 18. 17. 1. 17. J−6. 1. 38. 男. 17. 17. 1. 18. J−7. 1. 41. 男. 16. 15. 1. 19. J−8. 1. 37. 男. 14. 12. 1. 20. J−9. 1. 37. 男. 14. 13. 1. 21. J − 10. 1. 42. 男. 20. 19. 1. 42. 男. 13. 6. 22. 係長. 21. 8. 22. 課長. 34. 7. H. 部長. J − 11 計. 297. 228. 186. 22. 平均. 37.1. 28.5. 23.3. 40.4. 16.7. 14.0. 標準偏差. 21.97. 14.06. 12.88. 5.19. 5.07. 4.26. 1 1. 1 1. 男 22. 6. 10. 6. 対象施設 10 施設のうち,同意の得られた管理職の男性理学療法士を対象とした.対象者の基本属性は n = 22 ,管理職区分は,部 長 6 名・課長 10 名・係長 6 名であった.. 表 2 管理職の指導対象となる指導区分と怒りを生じる指導対象の内訳(n= 22) 指導区分. 管理職区分 部長. 課長. 係長. 学生指導 新人指導 後輩指導. 3. 8. 0. 20. 1. 19. 3. 14. 21. 0. 8. 上司指導 1. すべての指導. 2. 2. 計. 6. 10. 怒りを生じる 指導対象. 1. 同僚指導. 他部門指導. 計. 0. 6. 2. 3. 8. 4. ─. 6. 22. ─. 指導区分は,それぞれの管理職がおもにかかわっている指導をひとつ示し,表記数値は人数を示す. 怒りを生じる指導対象は,被験者 22 名中何人存在したかを示し,重複回答を許可した.表記数値は 人数を示す..
(4) 376. 理学療法学 第 45 巻第 6 号. 表 3 指導場面と怒りの一次感情の出現具合 落胆. 心配. 悲しみ. 学生指導. 10. 1. 2. 新人指導. 4. 4. 後輩指導. 4. 2. 同僚指導. 2. 上司指導 他部門指導. 傷つき. 1 1. 1 1. 寂しさ. 2 1. 不安. 1. 1. 苦しい. 痛い. 困った. 嫌だ. 疲れた. 5. 1. 1. 1. 2. 4 1. 1. つらい. 5 1. 7. 2. 1. 3. 1 4. 1. 3. * 数字は選択人数 縦軸は指導区分,横軸は怒りの一次感情を表す選択語を示す.表示されている数字は選択人数を示している.対象者には, 指導経験のある指導区分において怒りを感じたとき,もっとも「そうだと感じられる選択語」をひとつ選択するよう指 示した.指導経験がない,もしくは指導経験があっても怒り感情を抱かない場合,怒りの一次感情の選択語と合致しな い場合は無回答(表上の空欄)になっている.. 22 名中,多くの人が選択した。. にも観察され,「心配」「落胆」 「不安」の一次感情も多. 怒りの生じる指導内容を表 4 に示す。学生指導では. くの指導場面で観察された。広辞苑第七版. 17). によれば,. 「言い訳」や「課題未実施」,新人指導では「接遇面の不. 困った(困る)とは「どうしてよいかわからず苦しむ。. 良」,後輩指導では「繰返しの指導」や「日常対応の不. また,物事の対処や始末に悩む。困惑する。迷惑する」,. 良」,等に関するものが多かった。同僚指導では回答に. 心配とは, 「心にかけて思いわずらうこと。また,不安. ばらつきが多く,上司指導では「感情的な回答の傾向」,. に思うこと。気がかり。うれえ」 ,落胆とは「失望して. 他部門指導では「当事者意識の減少」などを意味する回. がっかりすること。力を落とすこと」,不安とは「安心. 答が多かった。. できないこと。気がかりなさま。心配。不安心」と定義. 管理職の性格特性と怒り感情尺度との相関を表 5 に示. されている。怒りの動機は, 「困った」 「心配」 「落胆」 「不. す。外向性と敵意(r = ‒ 0.46),協調性と怒り喚起(r. 安」の言葉の定義に由来するものと考えられた。つまり. = 0.52) ,勤勉性と怒り喚起(r = ‒ 0.43),開放性と言語. 8) 怒りの原因である,期待と現実のズレ(不一致) ,相. 的攻撃(r = ‒ 0.45),自尊感情と怒り喚起(r = ‒ 0.49) ,. 手のための行動規制. 10) 12) 13). ,自己利益の妨害 11)などは,. 自尊感情と怒り持続(r = ‒ 0.69),自尊感情と言語的攻. 「困った」 「心配」 「落胆」 「不安」の言葉の定義のように,. 撃(r = 0.48) ,自尊感情と敵意(r = ‒ 0.72)に有意な. 困惑したり,不安に思ったり,失望したり,安心できな. 相関関係が認められた。. いときの感情が背景にあると考えられた。. 考 察. 一方,怒りの生じる指導内容については,質問紙には, 『臨床上の指導において,怒りを抱く場面と,その感情. 対象者の基本属性については,今回同意の得られた. についてうかがいます。「どのような場面で」の欄には. 10 施設の対象者,男性管理職 22 名,平均年齢は 40.4 歳. できるだけ簡潔に記述してください』と提示し,自由記. であった。職位は部長職 6 名・課長職 10 名・係長職 6. 述しやすいように,怒り喚起する場面や内容両者を含. 名であった。. み,幅広く捉えることとした。その結果,表 4 から,学. また管理職の指導対象区分については,管理職は新人. 生指導では指導内容忘れ,新人指導ではできないことへ. を除く後輩指導に多くあたる傾向があり,これに随伴し. の言い訳,後輩指導では発言と行動の不一致,同僚指導. て怒りの感情を呈していると思われた。後輩は自身の経. では人によって変える態度,上司指導では感情的な発. 験年数以下の者,と定義したので,今回対象となった E. 言,他部門指導では無責任な発言などが挙げられた。学. や J の施設では 60 名前後のスタッフを指導している可. 生指導,新人指導,後輩指導で怒りの生じやすい共通す. 能性があり,指導過負荷の影響も示唆された。また怒り. る場面として,繰り返しの指導,できないことへの言い. を生じる指導対象では,学生・新人・後輩指導に対し. 訳,コミュニケーションエラーに関する事項が多かっ. て,同僚・上司・他部門指導の件数は約半分となった結. た。また,同僚指導,上司への指導,他部門指導は,場. 果から,経験年数や指導部署による影響も示唆され,興. 面によって,自分よりも年齢や立場が上の者に指導する. 味深い傾向を示した。. 機会がある。自分では自身の立場をわきまえ,謙虚な姿. そこで指導場面と怒りの一次感情の出現具合について. 勢で指導したつもりでも,相手の理解が得られないとき. 考察する。怒りの一次感情は表 3 に示すように 12 の単. や,依頼事項を拒否されたときに,怒りの感情が喚起さ. 語から選択された。「困った」の選択語はどの指導場面. れたと考えられる。.
(5) 管理職の指導時に生じる怒りの一次感情と性格特性. 377. 表 4 怒りの生じる指導内容 学生指導 ケース 1. 指導内容忘れ. 新人指導. 後輩指導. 同僚指導. 上司指導. 他部門指導. 言い訳. 発言と行動の不 一致. 人によって変え る態度. 感情のムラ. 無責任発言. 無責任で主任の 自覚なし. 仕事の姿勢. 興味あるものし かやる気ない. 危機感をもたない. 知るべき情報を 覚えていない. 他部署には無頓着. 間違いの指摘. 感情的に話す. 連携拒否. ケース 2 ケース 3. 課題未提出の言 い訳. 同じミスの繰り 返し. ケース 4. 指導が結果につ ながらない. 指導したことが 行えているか. ケース 5. 指導時の反応が 不適切. 指導内容の理解 が不明. 指導したことが うまくいかない. ケース 6. 課題未実施. 自分で考えない. 報連相がない. ケース 7. 言葉使い不良. 言葉使い不良. ケース 8. 課題未実施. 報連相がない. 報連相がない. ケース 9. フィードバック 中. 日常業務. 学会抄録作成. ケース 10. 指導内容の改善 なし. ケース 11. 見学時. 自部署の指摘. 価値観の違い リハ実施中. 教育時. 打ち合わせ時. 相談時. 指導内容の改善 なし. 理不尽な指導を 受けた. 会議. ケース 12. 誤りを認めない. 機転が利かない. 繰返しの質問. ケース 13. 時間厳守困難. 患者説明不良. 後輩の後輩指導. ケース 14. 挨拶会話不良. アイコンタクト 不良. 繰返し指導改善 なし. ケース 15. 実地指導. 接遇面. 報連相ができない. ケース 16. 体調不良の長期化. ケース 17. 目の前で寝た. 自己都合での 相談依頼. 話題転換. ケース 18. 言い訳. わかったふり. 患者信頼放棄. 業務理解困難. ケース 19. 提出物未提出. 不安そうな対応. 言い訳. 経営方針にした がわない. ケース 20. 質の低下. 向上心の不足. やる気の低下. ケース 21. 課題未実施. 指導改善なし. 指導改善なし. ケース 22. 繰返しのミス. 繰返しのミス. 繰返しのミス. 自己中心的で他 者配慮なし. 繰返しの遅刻. 考えの不一致. 意見が通らない. 目標の不一致. 縦軸は全対象者,横軸は指導区分を示す.表内の文章表記は指導場面を示している.対象者はそれぞれの指導区分で, 「どのような 場面で怒り感情が出現するか」を自由記載するよう指示した.指導経験がない,もしくは指導経験があっても怒り感情を抱かない 場合,は無回答(表上の空欄)になっている.. 表 5 管理職の性格特性と怒り感情尺度との相関(n= 22) 性格特性 外向性. 怒り感情尺度 怒り喚起. 怒り持続. 言語的攻撃. 身体的攻撃. 短気. ‒ 0.12. ‒ 0.31. 0.03. ‒ 0.35. ‒ 0.03. 0.32. ‒ 0.35. 0.18. 0.26. 敵意 ‒ 0.465*. 全攻撃性 ‒ 0.31. 協調性. 0.520*. 勤勉性. ‒ 0.432*. ‒ 0.38. 0.28. ‒ 0.18. ‒ 0.09. ‒ 0.19. ‒ 0.15. 神経症傾向. ‒ 0.27. ‒ 0.17. ‒ 0.17. ‒ 0.21. ‒ 0.27. ‒ 0.10. ‒ 0.29. ‒ 0.452*. 0.00. ‒ 0.22. 0.12. ‒ 0.15. 0.483*. ‒ 0.33. ‒ 0.15. 開放性. ‒ 0.08. 自尊感情. ‒ 0.494*. 0.10 ‒ 0.696**. 0.17. ‒ 0.728**. 0.15. ‒ 0.37. Spearman の順位相関係数 * p< 0.05 ** p< 0.01 性格特性の内訳は,外向性・協調性・勤勉性・神経症傾向・開放性の 5 つから分類されている.また性格特性の 中に自尊感情尺度を配置した.怒り感情尺度の内訳は表のとおりである..
(6) 378. 理学療法学 第 45 巻第 6 号. これまでの知見を踏まえ本稿の本論となる,管理職の. における怒りの一次感情について調査した。その結果,. 性格特性と怒り感情尺度との相関について考察する。結. 怒りの一次感情は,「困った」「心配」「落胆」「不安」が. 果より外向性がある人ほど敵意が弱い,自尊感情がある. 多く,怒りの生じる指導場面は,期待と現実とのズレを. 人ほど敵意が弱いという有意な負の相関が認められた。. 感じたときに生じるという傾向を示した。また管理者の. 自尊感情と敵意における負の相関は,先行研究の結果と. 性格特性との関連から,怒り喚起は,協調性があり外向. 24). 。また,協調性がある人ほど怒り喚起し. 同様であった. やすく,自尊感情がある人ほど言語的攻撃をしやすいと いう有意な正の相関が認められた。西松ら. 25). も,管理. 的でない指導者に生じやすいことが示唆された。 利益相反. 職専門職の男女群は他の就労形態の群に比較して有意に. 当研究における利益は,国際医療福祉大学に対しては. 自尊感情が高いことを報告している。今回の調査結果か. 大学院生としての研究活動実績の記録,個人に対しては. ら,管理職が行う指導において,協調性を欠く学習者に. 研究実績と修士課程の卒業要件,その他に関する利益相. 対して口頭注意を与えるような場面では,怒り喚起や言. 反に関しては現在も今後も想定されていない。. 語的攻撃性が過敏となることが示唆された。これは,感 情の易刺激性が引き起こされたため,あるいは,感情の 自己抑制の不活性化が生じたためであると考えられた。 本稿の結びに,本研究の妥当性を概観し,研究成果の 臨床活用について提案する。研究妥当性は前述した感情 易刺激性や自己抑制の不活性化などを示唆する指導時の 問題事例. 26). や,療法士養成課程改定の報告 27) から,. 療法士指導者の指導力や資質面の強化を国としても重要 視していることが推察できる。以上のことからも指導に 関する研究は急務であり,研究妥当性も良好であると考 えられた。また本研究成果の臨床活用については,理学 療法の管理学として以下の 2 点を提案する。まず 1 点目 は現職の管理者自身の「指導について考える機会」にな ると想定する。指導の際の怒り感情は,指導者と学習者 双方において好ましい状態であるとはいえない。怒りに は原因があり,先行してなにかしらの感情的変化が起こ り,怒りにつながるということが理解できれば,突発的 な怒り感情を抑え,冷静かつ有意義な指導活動に変化さ せることが可能と考える。2 点目としては,次世代の管 理者,中堅職員,新入職員,学生さん達へ「学び方につ いて考える機会」になると想定する。怒り喚起させない 学び方,怒りの一次感情を抱かせない学び方,について 考え対処行動が取れれば,指導者の怒り感情を抑制で き,有意義な学びの場を確保できると考える。「指導者 と学習者双方における学びの基礎」として,本研究が有 効に活用できると考える。 本研究の限界を付記する。サンプル数が少ない点につ いて,調査拡大における時間的・費用的限界が挙げられ る。また,横断的調査研究なので,同一被験者に対する 継続調査は明確にできない点が挙げられる。さらに,ア ンケート調査における質問紙バイアス(信頼性・妥当 性)の考慮や,後光効果によるアンケート回収率問題な どが挙げられた。 結 論 本研究では,理学療法士の管理職を対象に,指導場面. 文 献 1)公益財団法人日本理学療法士協会ホームページ 情報公開 職業倫理ガイドライン.http://www.japanpt.or.jp/upload/ japanpt/obj/files/about/02-gyomu-03rinrigude2.pdf(2016 年 12 月 4 日引用) 2)松崎秀隆,原口健三:臨床・臨地実習で医療系学生が感じ る不当待遇.理学療法科学.2015; 30(1): 57‒61. 3)中村美香,近藤浩子:看護職がインシデント・アクシデン トを繰り返す要因に関する研究.北関東医学.2016; 66(4): 279‒288. 4)池内裕美,藤原武弘:感情労働としての苦情対応が精神的 健康に及ぼす影響─主観的ストレスと職務満足感に焦点を 当てて─.関西学院大学社会学部紀要.2015; 120: 89‒102. 5)鈴木 学,細木一成:臨床実習時のストレス反応とスト レスコーピングとの関連性について.理学療法学.2016; 31(6): 795‒798. 6)古城美香,吉本 稔:性格特性とストレス自覚症状の関連 ─ストレスドック受診者を対象に─.人間ドック.2012; 27: 617‒623. 7)中井あづみ:怒りと怒り近似概念の操作的定義の異同およ び怒りの操作的定義に影響を与えた要因.心理学紀要(明 治学院大学).2012; 22(13): 13‒30. 8)畠山朋子,佐々木久長:看護師の患者対応場面での怒り発 生とその後の行動.秋田大学保健学専攻紀要.2016; 24(1): 41‒51. 9)大渕憲一,小倉左知男:怒りの経験(1)Averill の質問紙 による成人と大学生の調査状況.犯罪心理学研究.1984; 22: 15‒35. 10)大 渕 憲 一: 攻 撃 の 動 機 と 対 人 機 能. 心 理 学 研 究.1987; 58(2): 113‒124. 11)Batson CD, Kennedy CL, et al.: Anger at unfairnesss: Is it moral outrage? Eur J Soc Psychol. 2007; 37: 1272‒1285. 12)Frijda NH: The laws of emotion. Am Psychol. 1988; 43: 349‒358. 13)Fischer AH, Roseman IJ: Beat them or ban them: The characteristics and social functions of anger and contempt. J Pers Soc Psychol. 2007; 93: 103‒115. 14)柴原美幸:新人看護師研修をサポートする教育担当者が感 じる困難.神奈川県立保健福祉大学実践教育センター 看 護教育研究集録.2015; 40(3): 114‒120. 15)徳本弘子,後藤桂子:実習指導困難事例から見た新人教員 の実習指導の特徴.埼玉県大紀要.2015; 17: 23‒30. 16)小林浩志:パワハラ防止のためのアンガーマネジメント入 門.東洋経済新報社,2014,pp. 92‒95. 17)新村 出(編):広辞苑 第七版.岩波新書,東京,2018. 18)小 塩 真 司, 阿 部 晋 吾: 日 本 語 版 Ten Item Personality Inventory(TIPI-J)作成の試み.パーソナリティ研究..
(7) 管理職の指導時に生じる怒りの一次感情と性格特性 2012; 21(1): 40‒52. 19)堀 洋道(監修) :心理測定尺度集Ⅰ.人間の内面を探る < 自己−個人内過程 >(自尊感情尺度).サイエンス社, 東京,2010,pp. 29‒31. 20)堀 洋道(監修) :心理測定尺度集Ⅱ.人間と社会のつな がりをとらえる < 対人関係・価値観 >(日本語版 BussPerry 攻 撃 性 質 問 紙 ) . サ イ エ ン ス 社, 東 京,2010,pp. 202‒207. 21)堀 洋道(監修) :心理測定尺度集Ⅴ.個人から社会へ < 自己−対人関係・価値観 >(怒り喚起・持続尺度).サ イエンス社,東京,2010,pp. 241‒245. 22)岩井俊憲:マンガでやさしくわかるアドラー心理学.日本 能率協会マネジメントセンター,東京,2014,pp. 112‒113. 23)戸田久実:アンガーマネジメント 怒らない伝え方.かん き出版,東京,2015,pp. 24‒25.. 379. 24)川村 遼,戸田弘二:大学生における自尊感情の変動制 と攻撃性との関連.北海道教育大学紀要(教育科学編). 2014; 65(1): 449‒464. 25)西松能子,黄びん淑:女性の就労状況と自尊心などの諸要 因との関係の検討─第 2 報:男性管理専門職との比較を中 心として─.日本社会精神医学会雑誌.1999; 7(3): 239‒249. 26)毎日新聞のニュース・情報サイト くらしナビ・ライフス タイル 理学・作業療法士学生,指導役と相次ぐトラブル 養 成 課 程・ 実 習 環 境, 見 直 し へ 2017 年 09 月 08 日. https://mainichi.jp/articles/20170908/ddn/013/040/027000c (2018 年 1 月 13 日引用) 27)日経電子版 リハビリ専門職,養成課程 20 年ぶり見直 し へ 厚 労 省 2017 年 11 月 23 日.https://www.nikkei. com/article/DGXMZO23841320T21C17A1CR8000/(2018 年 1 月 13 日引用). 〈Abstract〉. Investigation of Primary Emotions and Personality Traits of Anger Directed Toward the Clinical Guidance of Managers. Yoshio SAITOH, PT, M.EMHW Department of Medical Technology Office, Matsudo Nissey Seirei Clinic Yusuke NISHIDA, PT, MSc, PhD, Kenichi KOUNO, PT, PhD, Shinta TAKEUCHI, PT, PhD Department of Physical Therapy, School of Health Sciences at Narita, International University of Health and Welfare. Purpose: The purpose of this study was to determine the primary emotion of anger that managers experience in clinical guidance situations and thus to clarify how personality traits are related to anger arousal. Method: We conducted a self-report questionnaire with items on basic attributes, personality traits, and angry emotional responses. The participants were 22 male physiotherapists in managerial positions, of ages ranging between 30 and 54 (mean age = 40.4). We extracted the primary emotion of anger based on 12 optional words. To test for correlations, we used Spearman’s rank correlation coefficient. Results: The guidance situation that was cited most often (cited by 21 participants) as an angerinducing setting was “instructing juniors.” The primary emotions of anger that were cited most often were “feeling troubled” and “feeling worried.” Regarding correlations between personality traits and angry emotions, we observed significant correlations between extroversion and hostility (r = ‒ 0.46), cooperativeness and anger arousal (r = 0.52), and self-esteem and anger arousal (r = ‒ 0.49). Conclusion: “Feeling troubled” is a frequent primary emotion of the anger that managers experience in guidance situations. The results also suggest that instructors who are cooperative, not hardworking, and who have low self-esteem get angry more easily. Key Words: Clinical guidance, Anger emotions, Emotional irritability.
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