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2分吸入キセノンCTによる,認知症患者の脳血流量評価:キセノン吸入時間短縮による患者への負担軽減の試み

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(1)

はじめに

 キセノン CT は,脳血流量(cerebral blood flow: CBF [ml/100 ml 組織 /min])を定量的に得る非侵襲的なモダ

リティとして発展してきた1, 2).キセノン CT は,アル

ツハイマー型認知症(Alzheimer s disease: AD)と健常者 の識別にも有効であることが報告されている3~5)  筆者らはこれまで,4 分吸入/4 分洗い出し(撮影は 1分刻み)により,キセノン CT を施行してきた.日 本において,主に使用されている吸入/洗い出しプロ トコルには,ほかに,3 分吸入/4 分洗い出し,3 分 吸入/3 分洗い出しがある6).何れのプロトコルで も,撮影は 1 分刻みとしている場合が多い.筆者らの 知るかぎり,3 分を切ったキセノン吸入時間による臨 床報告は,国内外を見ても未だない.キセノン CT で は,頭の同じ部位を間欠的に撮影し,脳組織の各画素 において,CT 値の経時変化を得る.そのため,検査 中頭が固定されていることが重要である.しかし,キ セノンガスには薬理作用があり,認知症の患者では頭 を動かさずにいることが難しい場合が多い.キセノン 吸入時間を極力短縮し,患者への負担を軽減すること が,キセノン CT 検査の成功率を高めることにつな がる.  健常者を対象にして,2 分吸入/5 分洗い出しと,4 分吸入/5 分洗い出しで(撮影は,何れも 1 分刻み), 得られる CBF 画像の同等性が高いことが報告されて いる7).本研究ではこの知見に基づき,キセノン吸入 を 2 分間に設定した.また,洗い出しは 3 分間に設定 し,5 分間のキセノン CT 検査とした.なお,CBF 画 像の従来の画質を維持するため,撮影間隔は 1 分では なく,吸入過程では 40 秒,洗い出し過程では 45 秒と した.  皮質 CBF を評価するために,オペレータへの依存 を極力排除し客観性を高める方法として,基底核と側 脳室レベルの断面周辺(皮質領域)に一定数の円形関心 受付日:2017 年 9 月 7 日,受理日:2017 年 10 月 20 日 1安西メディカル株式会社 2社会医療法人北斗会さわ病院精神神経科〒 141-0033 東京都品川区西品川 3-9-15TEL: 03-3779-2571 FAX: 03-3779-2573E-mail: sase@anzai-med.co.jpdoi: 10.16977/cbfm.30.1_1

2

分吸入キセノン CT による,認知症患者の脳血流量評価:

キセノン吸入時間短縮による患者への負担軽減の試み

佐瀬  茂

1*

,山本 誉麿

2

,伊東 英奈

2

,中西 幸治

2

,澤   温

2 要  旨  本研究の目的は,2 分吸入キセノン CT により,従来施行されてきた 4 分吸入に匹敵する脳血流量(cerebral blood flow: CBF)画像が得られることを示すことである.75 歳以上で連続 8 人の受診患者を対象に,2 分吸入 キセノン CT を実施した.撮影は,基底核および側脳室断面とした.30%キセノンの吸入は 2 分間,洗い出し は 3 分間とした.断面周辺に一定数の円形関心領域(ROI)を隣接配置し CBF を求めた.4 分吸入/4 分洗い出 し(従来法)で得た,アルツハイマー型認知症(Alzheimer s disease: AD)患者の CBF 範囲(AD 範囲)と,健常者 の CBF 範囲(正常範囲)を利用し,ROI 分布値(AD 範囲内 ROI 数−正常範囲内 ROI 数)を求めた.従来法で得 た ROI 分布値の最適カットオフ値を利用すると,正常と診断された患者(1 人)は“正常”と同定され,AD と診 断された患者 5 人のうち 4 人が“AD”と同定された.従来の最適カットオフ値が有効であったことから,2 分 吸入による CBF 画像は,従来の 4 分吸入によるものに近い局所(平均)定量値を有すると考えられた.

(脳循環代謝 30:1∼10,2018) キーワード : キセノン CT,脳血流量,アルツハイマー型認知症

(2)

領域(ROI)を隣接配置し,各 ROI の CBF を求める方 法が提唱されている3, 8).この方法を利用すると,そ

れぞれの ROI に対し,AD 患者の CBF 範囲(AD 範囲) (平均値±標準偏差)と健常者の CBF 範囲(正常範囲) (平均値±標準偏差)を定めることができる.

 AD 範囲内にある ROI 数と,正常範囲内にある ROI 数の差を“ROI 分布値”として,AD を同定するうえで の,ROI 分布値の最適カットオフ値を,ROC 解析に より求める方法も提唱されている3).そして実際に, 75歳以上の AD 患者群と健常者群を対象にして,4 分 吸入/4 分洗い出しにおける,AD 範囲,正常範囲, ならびに,ROI 分布値の最適カットオフ値が報告され ている3).本研究で用いた 2 分吸入/3 分洗い出しに おいて,この報告されている AD 範囲,正常範囲,な らびに,ROI 分布値の最適カットオフ値が有効に利用 できれば,2 分吸入/3 分洗い出しによる AD・正常 範囲が,4 分吸入/4 分洗い出しによる AD・正常範 囲に近似していることを示す.すなわち,2 分吸入/ 3分洗い出しによって得られる CBF 値が,4 分吸入/ 4分洗い出しによって得られる CBF 値に近いと見な すことができると考えた.  本研究の目的は 2 分吸入キセノン CT により,従来 施行されてきた 4 分吸入に匹敵した CBF 画像が得ら れることを示すことである.  なお,日本においてキセノン CT 検査は,脳血流量 測定法として,1992 年に厚生労働省から承認を得, 薬価収載されている.

対象と方法

 2017 年 5 月 15 日∼2017 年 6 月 19 日の間に,当院 において,75 歳以上の,8 人の患者の精神神経科への 受診があった.この 8 人の患者を被検者として,2 分 吸入キセノン CT 検査を実施した.検査を行うにあ たっては,被検者および家族に検査内容について説明 し,口頭での同意を得たうえで実施された.なお,本 研究は当院倫理委員会にて承認を受けている.各被検 者に対し,Mini-Mental State Examination(MMSE)9)

価がなされた.AD の診断は,DMS-IV 診断基準10) 基づいた.Table 1 に被検者の属性を示す. キセノン CT 検査  使用した CT は Aquilion ONE(東芝メディカルシス テムズ,栃木)であり,512×512 マトリクス,スライ ス厚は 10 mm とした.撮影条件は 120 kV (ピーク), 180 mA,1 秒/回転とした.撮影断面は基底核と側脳 室レベルとした.キセノン吸入装置は AZ-725(安西メ ディカル,東京)を使用し,30%キセノンを被検者に 吸入投与した.キセノンの吸入,洗い出しは,それぞ れ,2 分間,3 分間とし,CT 撮影間隔は,吸入,洗 い出しで,それぞれ,40 秒,45 秒とした(断面毎に, ベースラインを含め計 8 回の撮影)(Fig. 1).得られた CT画像と被検者の呼吸データを,画像処理用ワーク ステーション(AZ-7000Pro,安西メディカル)に転送 し CBF 画像を生成した11) CBF 計算  1 式は,キセノン CT による CBF 測定の基本式で ある.     dC(t) CBF C(t)    ――― = ―― ・ Ca(t)− ―― (1 式)     dt 100 λ 本式は Fick の原理12)から導かれ,C は組織中のキセ

ノン濃度(Hounsfield unit: HU),Ca は動脈血中のキセ ノン濃度(HU),λ は組織と血液の間のキセノン分配 係数である13).キセノン CT 検査において,被検者 は,キセノン吸入過程では一定濃度のキセノンを吸入 し,キセノン洗い出し過程では空気(0%キセノン)を 吸入する.したがって,被検者の動脈血キセノン濃度 (Ca)の経時変化は,吸入過程では指数関数的な上昇 として,洗い出し過程では指数関数的な減少として捉 Table 1.被検者の属性と診断ならびに同定結果

No. 年齢(歳) 性別 MMSE(点) 診断 ROI分布値 ROI分布値による同定*

1 75 男性 19 AD 11 AD 2 87 女性 27 MCI 3 AD 3 91 男性 27 MCI 6 AD 4 84 女性 27 正常 −10 正常 5 87 女性 20 AD 0 AD 6 84 男性 3 AD 15 AD 7 75 女性 20 AD −5 正常 8 85 男性 12 AD 3 AD

MMSE: Mini-Mental State Examination,AD: アルツハイマー型認知症,MCI: 軽度認知障害

ROI分布値の最適カットオフ値は −1 であり,ROI 分布値が −1 以上で AD,−2 以下で正常と

(3)

えられる14).すなわち,動脈血キセノン濃度の経時変

化速度は,指数関数中の速度定数(Ka [min‒1])として

与えられる(2 式).

   Ca(t)= Aa・(e−Ka・(t−τ)−e−Ka・t (2 式)

    τ = t when 0≤t≤W      = W when t>W ここで,Aa は動脈血キセノン濃度の飽和値(HU),t はキセノン吸入開始からの時間(min),W はキセノン 吸入時間(min)である.Aa は終末呼気キセノン濃度の 飽和値(Ae [%])と被検者のヘマトクリット値(Ht [%])から 3 式によって求められる13).なお,Fig. 1 に 示すように,終末呼気キセノン濃度は吸入 1 分後を過 ぎるとほぼ飽和する.そこで,キセノン吸入過程最後 の 1 分間における終末呼気キセノン濃度の平均値を Aeとした.   Ae    Aa = 5.15×―― ×(0.0011*Ht+0.1)×45.5 (3 式)   100 ここで,5.15 は 37°Cにおけるキセノンの密度(mg/ ml)である.45.5 は,密度からハウンスフィールドユ ニットへの変換係数(HU/mg/ml)であり,使用した CT スキャナー固有の値である. CBF 解析  基底核断面の周囲には 20 個の同じ直径の円形 ROI を,側脳室断面の周囲には 18 個の同じ直径の円形 ROIを,隣接するように自動配置した(Fig. 2A)3).基

底核レベルにおいては,脳の右側に ROI 1-10,脳の 左側に ROI 11-20 を配置し,また,側脳室レベルにお いては,脳の右側に ROI 1-9,脳の左側に ROI 10-18 を配置し,各 ROI の CBF を求めた.各 ROI と皮質領 域との関係は,概略ではあるが次のように表される.  1) 基底核レベル   ROI 1-3 と ROI 11-13:前頭葉の皮質領域   ROI 4 と ROI 14:頭頂葉と側頭葉の皮質領域   ROI 5-7 と ROI 15-17:側頭葉の皮質領域   ROI 8-10 と ROI 18-20:後頭葉の皮質領域  2) 側脳室レベル   ROI 1-3 と ROI 10-12:前頭葉の皮質領域   ROI 4-6 と ROI 13-15:頭頂葉の皮質領域   ROI 7-9 と ROI 16-18:後頭葉の皮質領域  基底核・側脳室断面の各 ROI については,75 歳以 上の AD 患者群,健常者群を対象にして,4 分吸入/ 4分洗い出しによる,AD 患者の CBF 範囲(平均値±標 準偏差)(AD 範囲)と,健常者の CBF 範囲(平均値±標 準偏差)(正常範囲)が報告されている3).さらに,AD 範囲にある ROI 数から正常範囲にある ROI 数を引い た値を“ROI 分布値”として,AD を同定するうえでの ROI分布値の最適カットオフ値が,ROC 解析に基 づき報告されている(最適カットオフ値 −1,感度 90.3%,特異度 75.0%)3).なお,この先行研究と本研 究で,使用した CBF 計算方法は同一のものである. 本研究では各被検者について,この先行研究における AD範囲,正常範囲,ならびに,ROI 分布値の最適 カットオフ値を利用し,AD・正常の同定を行った.  Table 1 の被検者 7 については 1 年前に 4 分吸入に よるキセノン CT 検査を行っているので,4 分吸入と 2分吸入による CBF 画像の比較を行った.

CT Scan

40sec

40sec

40sec

45sec

45sec

45sec

45sec

1

吸入

洗い出し

Fig. 1.被検者 3(91 歳男性)のキセノン CT 検査中の呼吸データ(口元の,キセノンと二酸化炭素濃度)

(4)

統計解析

 同一患者に対する,4 分吸入/4 分洗い出し法と 2 分吸入/3 分洗い出し法による CBF 値の比較に,対 応のある t 検定を利用した.統計ソフトウェアは Stat-View(SAS Institute, NC, USA)を用い,有意水準は 5% 未満とした.

結  果

 Fig. 1 に被検者 3 のキセノン CT 検査中の呼吸デー タ(口元の,キセノンと二酸化炭素濃度)を示す.本被 検者は 91 歳男性で,8 人の被検者の中で最高齢者で ある.二酸化炭素濃度は洗い出しでやや不規則な変動 はあるが,呼気・吸気に伴いほぼ安定して振幅してい る.すなわち,被検者の呼吸は検査中概ね安定してい ることがわかる.キセノンの薬理作用で生じると報告 されている,10 秒を超える呼吸遅延は15, 16),本研究で は認められなかった.また,頭の固定も良好であっ た.頭に動きがあった場合でもその程度は小さく,手 動の位置補正機能を使い,回転または平行移動によっ て,エンハンス CT 画像をベースライン CT 画像に位 置合わせをすることが容易にできた.  Fig. 2A に 被 検 者 7 の 1 年 前(2016 年 7 月 4 日 施 行,4 分吸入/4 分洗い出し)と今回(2017 年 6 月 19 日施行,2 分吸入/3 分洗い出し)の CBF 画像を示 す.なお,1 年前の MMSE は 23 点,診断は軽度認知 障害(mild cognitive impairment: MCI)であり,今回の MMSEは 20 点,診断は AD であった.1 年前と今回 2016年7月4日 (4分吸入/4分洗出し) 2017年6月19日 (2分吸入/3分洗出し) 基底核 レベル 側脳室 レベル Fig. 2.被検者 7 の,2016 年 7 月 4 日施行のキセノン CT 検査(4 分吸入/4 分洗い出 し)と,2017 年 6 月 19 日施行のキセノン CT 検査(2 分吸入/3 分洗い出し)で得られた CBF画像(基底核と側脳室レベル)(A)と,ROI 番号と CBF の関係(B)(CT 画像は 2016 年 7 月 4 日のもの) MMSEおよび診断は,2016 年 7 月 4 日の時点では 23 点で MCI,2017 年 6 月 19 日の 時点では 20 点で AD であった. A B

(5)

の CBF 画像は基底核・側脳室レベル共に,視覚的に よく近似している.Fig. 2B は両 CBF 画像の高い近似 性を客観的に示すために,ROI 番号と CBF の関係を 折れ線グラフで表したものである.38 個の ROI(基底 核断面:20 個,側脳室断面:18 個)の,対応ある t 検 定の結果,P 値は 0.3673 であった.なお,この ROI 数は対応のある t 検定に必要な 15 組以上という条件 を満たしている17)  Fig. 3A に被検者 4(84 歳女性,MMSE 27 点)の基底 核と側脳室レベルの CT 画像と CBF 画像を示す.Fig. 3Bは同被検者の各 ROI の CBF をプロットしたもの である.Fig. 3B には 75 歳以上の AD 患者群,健常者 群を対象にして,4 分吸入/4 分洗い出しで得られた 正常範囲と AD 範囲がそれぞれ,青/黒色ゾーンと赤 /黒色ゾーンで示されている3).黒色ゾーンは正常範 囲と AD 範囲が重複した領域である.プロット点の 89%は青/黒/赤色ゾーン上にあり,その分布は青色 側に偏っているのがわかる.赤色ゾーンにある ROI 数は 3,青色ゾーンにある ROI 数は 13 である.した がって ROI 分布値は 3 マイナス 13 で −10 となり,最 適カットオフ値 −1 を下回っているので被検者 4 は “正常”と同定される.診断結果も正常であった.  Fig. 4A に被検者 3(91 歳男性,MMSE 27 点)の基底 核と側脳室レベルの CT 画像と CBF 画像を示す.Fig. 4Bは 同 被 検 者 の 各 ROI の CBF を, 青/ 黒/ 赤 色 ゾーンを描いた上にプロットしたものである.プロッ 基底核 レベル 側脳室 レベル Fig. 3.被検者 4(84 歳女性,MMSE 27 点)の,2 分吸入キセノン CT による CBF 画像と CT 画像(基底核と側脳室レベル)(A)と,各 ROI の CBF を,青/黒/赤 色ゾーンを描いた上にプロットした図(B) 赤色ゾーンにある ROI 数は 3,青色ゾーンにある ROI 数は 13 である.したがっ て,ROI 分布値は,3 マイナス 13 で −10 となる.なお,青/黒/赤色ゾーン は,佐瀬らの論文3)から,著者と出版者の許可の下,描き直されたものである. A B

(6)

ト点の 84%は青/黒/赤色ゾーン上にあり,その分 布は赤色側に偏っているのがわかる.赤色ゾーンにあ る ROI 数は 14,青色ゾーンにある ROI 数は 8 であ る.したがって ROI 分布値は 14 マイナス 8 で 6 とな り,最適カットオフ値 −1 を上回っているので被検者 3は“AD”と同定される.診断結果は MCI であった. 本被検者の特徴は基底核レベルの脳右側の側頭葉,な らびに,側脳室レベルの脳左側の CBF が低いことで ある.  Fig. 5A に被検者 1(75 歳男性,MMSE 19 点)の,基 底核と側脳室レベルの CT 画像と CBF 画像を示す. Fig. 5Bは同被検者の各 ROI の CBF を,青/黒/赤色 ゾーンを描いた上にプロットしたものである.プロッ ト点の 66%は青/黒/赤色ゾーン上にあり,その分 布は大きく赤色側に偏っているのがわかる.赤色ゾー ンにある ROI 数は 12,青色ゾーンにある ROI 数は 1 である.したがって ROI 分布値は 12 マイナス 1 で 11 となり,最適カットオフ値 −1 を上回っているので被 検者 1 は“AD”と同定される.診断結果も AD であっ た.本被検者の特徴は基底核・側脳室レベル共に後頭 葉の CBF が低いことである.  Table 1 に各被検者の診断結果,ROI 分布値による 同定結果を示す.ROI 分布値の最適カットオフ値を利 用した場合,正常と診断された被検者(1 人)は“正常” と同定され,AD と診断された被検者 5 人のうち 4 人 が“AD”と同定された.なお,被検者 7 については, 赤色ゾーンの ROI 数は 6,青色ゾーンの ROI 数は 11 で,ROI 分布値は −5 となり“正常”と同定された.一 Fig. 4.被検者 3(91 歳男性,MMSE 27 点)の,2 分吸入キセノン CT による CBF 画像と CT 画像(基底核と側脳室レベル)(A)と,各 ROI の CBF を,青/黒/赤色 ゾーンを描いた上にプロットした図(B) 赤色ゾーンにある ROI 数は 14,青色ゾーンにある ROI 数は 8 である.したがっ て,ROI 分布値は,14 マイナス 8 で 6 となる. 基底核 レベル 側脳室 レベル A B

(7)

方,診断結果は AD であり,同定結果と診断結果が一 致しなかった.

考  察

 同一被検者を対象に,4 分吸入/4 分洗い出しと 2 分吸入/3 分洗い出しで,視覚的にも統計学的にも近 似した CBF 画像が得られた(P=0.3673).ただし,2 つの異なった吸入/洗い出しプロトコルで得られた CBF画像がたとえ同等であったとしても,CBF の真 値が同等であるという保証はない.ここで重要な点 は,4 分吸入と 2 分吸入で,合同性の高い CBF 画像 が得られたことである.このことは,2 分吸入により 得られる CBF 画像の画質が,4 分吸入で得られるも のと同程度であることを示唆するものである.また, 2分吸入による CBF の,青/黒/赤色ゾーン上への プロットは妥当になされ,4 分吸入で得られた ROI 分 布値の最適カットオフ値が,2 分吸入においても有効 で あ っ た〔正 し く 同 定 さ れ た 健 常 者 の 割 合 100% (1/1), 正 し く 同 定 さ れ た AD 患 者 の 割 合 80% (4/5)〕.したがって,CBF 値についても,2 分吸入に よるものと 4 分吸入によるものは近いと見なすことが できよう.すなわち,2 分吸入キセノン CT により, 従来施行されてきた 4 分吸入キセノン CT(従来法)と 同程度の画質の CBF 画像を得られることが示唆さ れ,従来法に近い局所(平均)定量値を得られることが 示された.  4 分吸入による CBF と 2 分吸入による CBF は近い Fig. 5.被検者 1(75 歳男性,MMSE 19 点)の,2 分吸入キセノン CT による CBF 画像と CT 画像(基底核と側脳室レベル)(A)と,各 ROI の CBF を,青/黒/赤 色ゾーンを描いた上にプロットした図(B) 赤色ゾーンにある ROI 数は 12,青色ゾーンにある ROI 数は 1 である.したがっ て,ROI 分布値は,12 マイナス 1 で 11 となる. 基底核 レベル 側脳室 レベル A B

(8)

が,同等とは言えないであろう.何故なら,キセノン を吸入するとキセノンの薬理作用によって,CBF が 変化するという報告がある18~20).Giller らはキセノン を吸入すると,その 2 分後から 85%の被験者では CBFは増加し,15%の被験者では CBF は減少したと 報告している20).すなわち,4 分吸入キセノン CT で 得た CBF はこの CBF 増加・減少の影響を受けている と考えられる.一方,2 分吸入キセノン CT で得た CBFはキセノンの薬理作用の影響は非常に少ないで あろう.2 分吸入のメリットはこの点にもある.ただ し,CBF の低い領域については 2 分間の吸入ではエ ンハンス量が小さく,算出される CBF はノイズや頭 の動きの影響を受けやすい.そのため,4 分吸入に比 べ誤差が大きくなる可能性が高いことを考慮に入れる べきである.脳梗塞急性期における虚血コアやペナン ブラのような,CBF が低下した領域の検出力を見極 めるには,今後の研究を待つ必要がある.Latchaw ら は 1830 人の患者に対するキセノン CT 検査(32%キセ ノンの 4 分 20 秒吸入)において,3.6%の患者で 10 秒 以上の呼吸遅延が認められたと報じている15).そし て,その中には呼吸遅延のために検査を中断した例も あったが,検査中断のタイミングはほとんどの場合, 吸入過程の終わり近くであったと報じている.すなわ ち,2 分吸入であれば中断することなく,検査を正常 に終了できたと考えられる.キセノン吸入時間短縮に よる患者への負担軽減が検査の成功率向上に寄与する ことを示している.  本研究では 38 個の ROI を AD・正常の同定に用い たが,正常から AD への移行に対する鋭敏度は ROI によって異なると考えられる.この鋭敏度を ROI 個 数の重み付けに利用すれば,ROI 分布値による同定 は,診断結果をより正確に反映するようになるであろ う.すなわち,ある ROI の鋭敏度を s としたとき, その ROI の個数は s×1 として数えることとする.な お,本研究ではすべての ROI の鋭敏度 s を 1 として いる.  被検者 7 の 1 年前の診断は MCI(ROI 分布値は −9 で,同定結果は“正常”),今回の診断は AD(ROI 分布 値は −5 で,同定結果は“正常”)であった.ROI 分布 値は 1 年間で 4 増加しており,診断の変化(MCI から AD)を反映している.本被検者における今回の CBF の特徴は基底核レベルの ROI 5 と側脳室レベルの ROI 5が,何れも赤色ゾーンにあることである(基底核 ROI 5と側脳室 ROI 5 の赤色ゾーンは,それぞれ 18.5 ∼32.5 と 18.1∼31.4 ml/100 ml/min で あ り, 基 底 核 ROI 5と 側 脳 室 ROI 5 の CBF は, そ れ ぞ れ 27.7 と 28.4 ml/100 ml/minであった).この 2 つの ROI(右側 頭葉皮質と右頭頂葉皮質)は AD と正常の識別力が高 く,AD への移行に鋭敏であることが報告されてい る3).そこで,この 2 つの ROI の鋭敏度 s を仮に 1 か ら 3 に変更すると,被検者 7 の今回の ROI 分布値は −5から −1 になる.最適カットオフ値 −1 を適用すれ ば被検者 7 は“AD”と同定され,診断結果と一致する ようになる.このように各 ROI に対し,鋭敏度を適 切に設定することで,AD・正常の同定力を向上させ ることができるであろう.MCI についても,AD と同 様に,青/黒/赤色ゾーンを決定し,各 ROI の鋭敏 度を設定し,そして,ROI 分布値の最適カットオフ値 を求めることで,MCI・正常の同定,すなわち,認知 症の早期発見への有用性を示すことができると思わ れる.  本研究では,同じ大きさの円形 ROI を断面周辺に 隣接して配置した.その際,オペレータの操作は各断 面において脳の左右対称軸を決定し,ROI の総数を指 定することのみとした.皮質 CBF 評価のための,オ ペレータへの依存を極力排除した方法として有用性が 高いと思われる.  2 式で示されるように,動脈血キセノン濃度の経時 変化速度は指数関数中の速度定数(Ka)として与えら れる.この速度定数が正確に得られないと,算出され る CBF の定量性は損なわれる.かつて,キセノン CT では終末呼気キセノン濃度の速度定数を,動脈血キセ ノン濃度の速度定数の代わりに使用していた.しか し,両者の速度定数には大きな隔たりがあることが指 摘された11, 21~23).現在では,終末呼気を利用せず,脳 組織キセノン濃度の経時変化から,動脈血キセノン濃 度の速度定数(Ka)を算出するアルゴリズムが確立さ れている11).4 式は,脳組織キセノン濃度の経時変化 (C(t))を記述するものであり,Ka をパラメータとし て含む.   CBF    C(t)= ――・Aa・

ʃ

t 0e CBF − ――・(t−x)

100λ ・(e−Ka・(x−τ)−e−Ka・x)dx

  100  (4 式) 本式を用い,報告されたアルゴリズムにより Ka を算 出することで11),キセノン CT による CBF の定量性 は大いに向上している.同時に,呼吸状態が変動する ことによる CBF 算出値への影響も大きく低減されて いる.なお,先行研究(4 分吸入/4 分洗い出し)と本 研究(2 分吸入/3 分洗い出し)共に,本アルゴリズム を使用している.

結  語

 2 分吸入キセノン CT により,従来施行されてきた

(9)

4分吸入キセノン CT(従来法)と同程度の画質の CBF 画像を得られることが示唆され,従来法に近い局所 (平均)定量値を得られることが示された.本研究で採 用した,2 分吸入キセノン CT は,5 分間の検査であ り,患者への負担は小さい.今後,定量的 CBF 検査 として広く普及していくことが期待される.軽度 AD と健常者の識別に,キセノン CT が有効であることは すでに報じられており5),認知症に関しても,早期発 見・早期治療に貢献することが期待される.  本論文の発表に関して,開示すべき COI はない. 文  献

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Abstract

Cerebral blood flow evaluation for patients with dementia by 2-min inhalation xenon CT:

reduction of the burden for patients by shortening the period of xenon inhalation

Shigeru Sase

1

, Homaro Yamamoto

2

, Ena Ito

2

, Koji Nakanishi

2

, and Yutaka Sawa

2

1

Anzai Medical Co., Ltd., Tokyo, Japan

2

Department of Neuropsychiatry, Sawa Hospital, Osaka, Japan

Objective: The aim of this study was to show that 2-min inhalation xenon CT (Xe-CT) can create

cerebral blood flow (CBF) images comparable with those by conventional 4-min inhalation Xe-CT.

Methods: 2-min inhalation Xe-CT was conducted on consecutive 8 patients aged 75 or older who visited

the department of neuropsychiatry. Basal ganglia and lateral ventricle levels were selected for Xe-CT.

30% xenon was inhaled for 2 minutes, then air was inhaled for 3 minutes (2-min wash-in/3-min

washout protocol). Contiguous 20 and 18 circular regions of interest (ROIs) were placed around the

cortex at the basal ganglia and lateral ventricle levels respectively, and CBF was calculated for each

ROI. Utilizing AD patients’ CBF range (AD range) and healthy volunteers’ CBF range (normal range)

for each ROI obtained by the 4-min wash-in/4-min washout protocol, the ROI distribution (number of

ROIs in AD ranges minus number of ROIs in normal ranges) was obtained. Results: Using the optimal

cutoff value of the ROI distribution obtained by the 4-min wash-in/4-min washout protocol, one patient

diagnosed as normal was identified as “normal”, and 4 of the 5 patients diagnosed as AD were

identified as “AD”. Since the conventional optimal cutoff value was effective, CBF values by the 2-min

wash-in/3-min washout protocol were close to those by the 4-min wash-in/4-min washout protocol.

Conclusions: We demonstrated that CBF images by 2-min inhalation Xe-CT would be close to those by

conventional 4-min inhalation Xe-CT and could be effectively used for clinical evaluation.

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